忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

何処でも布団

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




行楽の秋がやって来ました。とはいえ、私たちは学校に通う高校生。出席義務のない特別生でも、長期欠席をしての旅行は論外とばかり、お出掛けは近場。でなければ会長さんの家でのんびり、それが休日の定番です。今日も土曜日、会長さんの家で次のお出掛けの相談中。
「紅葉の季節はドッと混むしな、その前だな」
いわゆる名所に行くんだったら…、とキース君。
「でもって、朝の早い内から出掛けて行ってだ、混み始める前に飯を食う、と」
「そうだよねえ…。予約してても落ち着かないしね、行列されると」
何処のお店も行列だしね、とジョミー君も。
「いくら個室で食べていてもさ、外じゃ行列だと思うとさ…」
「うんうん、俺たち、そんなに偉くはねえもんなあ…」
ただの高校生だもんな、とサム君も同意。
「食ってる間はいいんだけどよ…。出て来た時の視線ってヤツが痛いよなあ…」
「何様なんだ、って目で見られますしね」
あれは嫌です、とシロエ君。
「ホントは混じってるんですけどねえ、凄い人だって」
「ブルーとマツカは本物だけどよ…」
伝説の高僧と御曹司、とサム君がフウと溜息を。
「でもよ、それが全く分からねえのがブルーとマツカのいいトコだしよ…」
「二人ともオーラを消せますからねえ、何処から見ても一般人です」
その辺が実に問題です、とシロエ君が頭を振りながら。
「特に会長は超絶美形と来てますからねえ、たまに勘違いをする人も…」
「あー、いるよな! なんかの有名人だと思って騒ぐヤツもよ」
どう転んだって何様なんだか、としか言いようがないのが私たち。混み合う季節の飲食店は避けるべし、というのが鉄則、行きたい時には早めの予約でサッサと出るのがお約束。
「とにかく予約だ、希望の行き先や店があったら挙げてくれ」
その上で検討することにしよう、と仕切り始めたキース君。副住職として頑張る間にスキルが上がって、こういうのも得意分野です。お坊さん同士の集まりなんかで慣れたんでしょうね。
「美味しいトコなら何処でもいいな」
「それより、景色が大切ですよ!」
せっかくお出掛けするんですから、とシロエ君は景色が優先らしく。美味しさ一番がジョミー君の方で、私たちは二手に分かれてワイワイと。食事だ、景色だ、とやっていたら…。



「こんにちはーっ!」
お出掛けだって? とフワリと翻った紫のマント。何かと言えば顔を出したがる人がツカツカ、空いていたソファにストンと座って。
「ぶるぅ、ぼくにもおやつと飲み物!」
「オッケー! ちょっと待っててねーっ!」
サッとキッチンに走った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が栗のミルフィーユと紅茶をソルジャーの前に。ソルジャーは早速、ミルフィーユにフォークを入れながら。
「お出掛けの相談をしてるんだったら、丁度いいやと思ってね! ちょっとお誘い」
「「「お誘い?」」」
「そう、お願いと言うべきか…。特別休暇が取れそうなんだよ!」
なんと豪華に一週間も、とソルジャーはそれは嬉しそうで。
「ぼくの世界のユニバーサル…。成人検査をやってる施設で集中メンテナンスだったかな? とにかく成人検査はお休み、ぼくの出番も無いってね!」
シャングリラの方も暇になるから、とニコニコと。
「つまりハーレイも休みが取れるし、旅行に行こうと思ってさ!」
「…行って来たら?」
どうぞご自由に、と会長さんが返しましたが。
「それじゃつまらないよ、旅は道連れって言うんだろ?」
一緒に旅行、と誘われましても、一週間もの長期欠席は私たちの望むものではなくて。
「一泊くらいなら何とかするが…」
一週間はとても無理だな、とキース君。
「ついでにこの時期、ホテルも旅館も混んでるぞ? 別荘という手もあるが…」
俺たちは行かん、とバッサリと。
「あんたたちだけで行って来い。そうだな、湯治なんかはどうだ?」
「とうじ?」
なんだい、それは、と首を傾げているソルジャー。
「アレかな、一年で一番昼が短い日が冬至だっけか、地球の場合は…。でもねえ…」
特別休暇は来週なんだよ、というぼやきが。
「お勧めの季節が冬至と言われても、そこで休みが取れるかどうか…」
「俺が言うのは、そっちの冬至じゃなくてだな…」
温泉なのだ、とキース君。えーっと、ソルジャーに温泉旅行をお勧めですか?



「温泉ねえ…。ぼくも嫌いじゃないけどさ」
一週間も行くほどの素敵な場所があるのか、と当然のように切り返しが。
「さあなあ、俺が言ってる湯治ってヤツは温泉治療のことだからな」
「治療?」
何を、とソルジャーの目がパチクリと。
「ぼくのハーレイ、特に病気はしてないけどねえ? 毎晩、元気に励んでくれるし!」
「そういうあんたにお勧めなんだ、湯治はな」
たまに非日常を楽しんで来い、とキース君がニヤリ。
「湯治と言っても色々あるがだ、俺の一押しは自炊の宿だな」
「…自炊?」
「宿に食事はついていなくて、自分で料理をしながら暮らす。目的はひたすら温泉治療で、腰に効くとか、それは色々あるんだが…」
「腰に効くだって!?」
それは素晴らしい! とソルジャーの瞳がキラキラと。
「腰は男の命なんだよ、ハーレイの腰がパワーアップするなら、是非、温泉に!」
「そう来たか…。ならば立派に湯治に行く意味があるようだな」
温泉に浸かって腰にパワーだな、とキース君。
「自分のペースで湯に浸かるのが湯治の要だ、ついでに自炊で部屋の掃除も布団を敷くのも自分でやらんといけない宿がいいと思うが…」
「それって面倒そうじゃないか!」
「一週間だぞ? あんたの憧れの新婚生活に似合いの宿ってヤツじゃないのか?」
二人きりだぞ、とキース君が推すと、ソルジャーも。
「言われてみれば…。自分の面倒は自分で見るのが湯治なんだね?」
「もちろん旅館に泊まるのもアリだが、二人暮らしの気分になるならシケた宿だな」
提供されるものは部屋と布団だけだ、と聞かされたソルジャー、「なるほどねえ…」と。
「そういう休暇もいいかもね! 二人きりで邪魔は入らない、と!」
「温泉の方には先客と言うか、相客もいると思うがな」
「そっちは何とでもなるんだよ! ぼくにはサイオンがあるからね!」
何人いようが二人っきりの気分で入浴、と俄然、その気に。
「分かった、特別休暇は湯治に出掛けてみることにするよ! お勧めはどこ?」
「それこそあんたの好み次第だが…」
湯の効能で決めたらどうだ、とキース君が差し出す温泉マップ。さて…?



会長さんの家には色々なものが揃っていますが、温泉マップもその一つ。思い付いたらお出掛けとばかりに買ったようですけど、ソルジャーはそれを子細に眺めて。
「やっぱり腰に効くのがいいよね、ハーレイにはそれが一番だしね!」
ここがいいかな、と選ばれた場所はいわゆる秘湯。一般客向けの旅館もあるだけに温泉マップに載っているものの、メインは湯治用の宿。キース君が言う自炊の宿で。
「えーっと、食材も持ち込み、と…」
買い物便が出ているのか、と宿の説明を見ているソルジャー。
「三日に一回、近くの町まで買い出し用のマイクロバスが出るってさ! こういうのに乗って行くのもいいねえ!」
瞬間移動でパッと行くより新婚気分、と大喜びで。
「ハーレイと二人で食事のために買い物だなんて…。考えたこともなかったよ!」
「それは良かったな。俺も勧めた甲斐があった」
「ありがとう! 一週間、じっくり楽しめそうだよ!」
もう最高の特別休暇、とソルジャーは会長さんの家の電話で宿に予約を入れました。二人一室、一週間の御滞在。…御滞在と言っていいほどのレベルの宿かどうかは知りませんが…。
「えっ、その辺はいいんだよ! ハーレイと二人で暮らせるんなら、何処でも天国!」
ド田舎だろうが秘境だろうが、とソルジャーはやる気満々で。
「おまけに温泉に浸かり放題、ハーレイの腰がググンとパワーアップで素敵な休暇に!」
「はいはい、分かった」
もういいから、と止めに入った会長さん。
「それ以上は語らなくていいから、特別休暇を楽しんできてよ」
「もちろんさ! 温泉パワーでガンガンと!」
そして二人で買い物に料理、と笑顔のソルジャーですけれど。ソルジャー、料理が得意だなんて話は全く聞いてませんが…?
「うん、料理なんかは全然だねえ!」
まるで駄目だね、と恐ろしい台詞。それでどうやって自炊をすると?
「え、ハーレイがいるじゃないか! 任せて安心、きっと毎日、美味しい料理が!」
「…キャプテン、料理をなさるんですか?」
シロエ君が訊くと、ソルジャーは。
「ううん、全然! でもねえ、ハーレイはキャプテンだから!」
妙な所で真面目だから、とソルジャーは強気。レシピさえあれば作れるだろうと決めてかかってますけれど。そんな調子で大丈夫ですか…?



キース君の機転でソルジャー夫妻との長期旅行を無事に回避した私たち。湯治に行ったであろう頃にも平常運転、学校に行ったり、会長さんの家で過ごしたり。すっかり綺麗に忘れ果てたというのが正しく、この週末も会長さんの家に居たのですけど。
「遊びに来たよーっ!」
この間はどうも、とソルジャーが降って湧きました。お肌ツヤツヤのソルジャーが。
「見てよ、この肌! 温泉がとても効いたらしくて!」
「…そりゃ良かったな」
忘れていたが、とキース君が返すと、ソルジャーは。
「そうだったわけ? でもねえ、君のお勧めの湯治はホントに最高だったよ!」
ぼくのハーレイもパワーアップで充実の一週間だった、と御機嫌で。
「ハーレイが料理を作ってくれてさ、買い出しは二人で買い物便で! もう毎日が新婚気分で、素敵な発見だってあったし…」
「言わなくていいから!」
どうせロクでもない発見だ、と会長さんが一刀両断。なのに…。
「ううん、記念すべき大発見だよ、布団があんなに凄いだなんて!」
「「「布団?」」」
なんのこっちゃ、とオウム返しな私たちですが。
「布団だよ! あれは最高のベッドなんだよ、ただの布団だと思っていたけど!」
「「「はあ?」」」
布団がベッドって…。下にマットレスを何枚も重ねてベッドですか?
「そうじゃなくって! 布団自体が!」
いつでも何処でもベッドなのだ、とソルジャーは拳を握りました。
「こっちの世界で旅館に泊まると、布団は敷いてくれてたからねえ…。今まで全く気付かなかったよ、布団の凄さに!」
「…どの辺がどう凄いんだい?」
サッパリ意味が不明だけれど、と会長さんが尋ねると。
「何処でもベッド!」
「「「えっ?」」」
ますます分からん、と首を捻るしかない状態。何処でもベッドって、何なんでしょう?
「そのままの意味だよ、何処でもベッドになるんだよ!」
布団さえあれば、と謎の台詞が。ソルジャーは何を言いたいんですか…?



「…分からないかなあ、何処でもベッド…」
もう簡単なことなんだけど、とソルジャーが床を指差して。
「其処に布団を敷くとするだろ? そしたら、其処はどうなるわけ?」
「…邪魔な布団が置かれるんだけど?」
掃除の邪魔だ、と会長さん。
「こんな所に敷かれちゃったら掃除をするのに困るんだよ! どけなきゃ掃除が出来ないから!」
「そう、そこなんだよ、ぼくが言いたいのは!」
「…掃除って?」
「掃除じゃなくって、布団さえ敷けば何処でもベッドになるってことだよ!」
リビングだろうがダイニングだろうが、何処でも布団を敷きさえすれば…、と言うソルジャー。
「それこそ廊下でもいいんだよ! 布団を敷いたら寝られるだろう?」
「そりゃまあ…。ねえ…?」
廊下なんかで寝る羽目になってもいいのなら、と会長さんは呆れ顔で。
「その話の何処が発見だって?」
「わざわざベッドを用意しなくても、布団さえあれば何処でも一発!」
大人の時間が可能なのだ、と斜め上な言葉が飛び出しました。何処でもベッドって、そういう意味で言ってたんですか…?
「そうだよ、湯治で気付いたんだよ、布団は自分で敷くものだったし!」
ヤリたくなったら布団を敷かねばならないのだ、とソルジャー、力説。
「普通のホテルや旅館だったら、寝るための場所は自分で用意はしないしね? ぼくのシャングリラでもベッドは常に其処に在るものだし…」
係がリネンとかを取り替えるだけで、と言われてみればそういうものかも。
「それでね、ぼくたちは今回、初めて、自分の力で用意したわけ! ヤるための場所を!」
畳の上でも出来るんだけど、とソルジャーは。
「だけど、やっぱり背中が少し…ね。快適にヤるなら布団だってば!」
あれさえあったら、きっと何処でも! と布団に目覚めたらしいソルジャー。
「今までだったらベッドがなくちゃ、と思ってたような所でも楽々、布団を敷いたら即、一発!」
地面だろうが野原だろうが、と、とんでもない方へと暴走中で。
「ぼくのシャングリラでもそうだよ、きっと! 布団さえ敷けばブリッジでだって!」
「何をするかな、君という人は!」
ブリッジはそういうコトをするような場所じゃないだろう! と会長さんが眉を吊り上げてますが、ソルジャーだったらやりかねないかも…?



布団さえ敷けば何処でも一発、大人の時間で何処でもベッド。一週間の湯治で自分で布団を敷いていたソルジャー、エライ所に目を付けたようで。
「あれこそ万能ベッドなんだよ、ヤるために生まれたモノなんだよ!」
ヤリたくなったら敷けばオッケー! と拳を突き上げ、布団を絶賛。
「ぼくもハーレイもそれに気付いて、ホントに嬉しくなっちゃって! もう湯治場の布団じゃ物足りなくって、買っちゃったんだな!」
「「「へ?」」」
何を、とウッカリ訊いてしまった馬鹿は誰だったのか。ソルジャーはここぞとばかりに熱い口調で語り始めました、布団ショッピングへのお出掛けについて。
「買い物便で連れてってくれるのはスーパーとかだし、それじゃ布団は手に入らなくて…」
「それは売ってはいないだろうねえ…」
よほど大きなスーパーでないと、と会長さんが半ばヤケクソで合いの手を。
「ちょっとした服も買えるくらいのスーパーだったら、寝具売り場もあるだろうけど…」
「そうなんだよねえ、田舎のスーパーでは布団は無理でさ…」
それでノルディに相談したのだ、とエロドクターの名前が登場。どうやら瞬間移動で出掛けて尋ねたらしくて、専門店を教えて貰ったとか。
「それでハーレイと二人で行ってさ…。もちろん瞬間移動だよ? ハーレイは身体が大きいからねえ、連れて行かないとサイズがね!」
あれこれ試して素敵な布団を選んだのだ、と満面の笑み。
「見てよ、高級品なんだよ!」
羽毛たっぷり、とリビングの床に布団一式、枕付き。ソルジャーの世界から運んで来たに決まっています。枕だけは二つ乗っかっていて…。
「枕は二つ必要だからね、ぼくのと、それにハーレイのと!」
「こんなのを敷かないでくれるかな!」
部屋が穢れる、と会長さんが叫べば、ソルジャーは。
「平気だってば、ノルディに頼んでアフターケアも万全だから! 使った後にはこっちの世界でカバーとかを一式、替えて貰って!」
ノルディの家には使用人が大勢いるからね、と得意げな顔。
「任せておいたら綺麗に洗って貰えるんだよ、シーツも枕カバーもね! それに布団も!」
フカフカに乾燥して貰えるのだ、と自慢の布団を手でポンポンと。
「昨夜もハーレイとヤリたかったけど、たまにはベッドもいいものだしねえ…」
ベッドでヤッたから布団はお休み、と悪びれもせずに言ってますけど、何処でもベッド…。



ソルジャーはひとしきり布団を自慢し、慣れた手つきでヒョイと畳むと自分の世界へ送り返しました。今夜に備えて仕舞っておくとか、なんとか言って。
「いいだろ、ぼくの何処でもベッド! あれさえ敷けばね、ハーレイだって燃えるんだな!」
普通だったら無理な場所でも一発なのだ、と鼻高々。
「展望室でもヤッてみたしさ、公園だって!」
「「「こ、公園…」」」
それはブリッジから丸見えなんじゃあ、と誰もが思ったのですが。
「ちゃんとシールドしてるってね! 見えないように!」
そしてハーレイは布団さえあればスイッチが入る、と自信満々。
「これからヤるのだ、という気持ちになれるらしいね、布団を敷けばね!」
湯治場でそういう日々だったから、と得々と。
「ヤリたくなったら布団を敷かなきゃいけなかったし、ハーレイにとってはスイッチなんだよ! 敷けばヤるぞという印! 何処でもベッド!」
きっとブリッジでもヤれるであろう、と怖すぎる台詞。ブリッジだけはやめておいた方がいいのでは、と思うんですけど…。
「一応、シャングリラの中心だしねえ…。ホントにヤろうとは思ってないけど!」
だけどチャレンジしてみたい気も…、とソルジャーとも思えぬ酷い発言。いえ、ソルジャーというのはソルジャーじゃなくて、称号の方のソルジャーで…。人間としてのソルジャーだったらブリッジだって気にせず何でもやらかすだろうと分かってますが。
「それでさ、ぼくも色々、考えたんだけど…。何処でもベッドの使い道について!」
「もういいから!」
帰ってくれ、と会長さんがイエローカードを突き付けました。
「レッドカードでもいいほどなんだよ、今までの君の言動からして! サッサと帰る!」
そして布団を敷いてくれ、と吐き捨てるように。
「布団さえあれば天国なんだろ、何処でも好きに敷いて回れば?」
ブリッジだろうが公園だろうが、とシッシッと手で追い払おうとしたのですけど。
「その布団だよ! 有効活用できないかと!」
「「「は?」」」
「さっき言ったろ、布団でスイッチが入るって!」
ぼくのハーレイ、とソルジャー、ニッコリ。
「あのハーレイでも入るスイッチ、きっと使えると思うんだけどね?」
「「「…え?」」」
そんなスイッチ、いったい何に使うんでしょう? 明かりが点くわけないですよね?



何処でもベッドこと、布団を敷いたら入ると聞かされたキャプテンのスイッチ。同じスイッチでも電灯を点けたりエアコンを入れたりといったスイッチとは別物ですが…。
「スイッチとしての使い方はまるで同じなんだよ」
ズバリそのもの、とソルジャーが言えば、シロエ君が。
「でもですね…。スイッチは普通、明かりを点けたりするものですけど?」
そういう類のスイッチと同じとは思えません、と真っ当な意見。けれどソルジャーは「同じだってば」と譲りもせずに。
「同じものなら同じスイッチが使えるだろう? その手の電気器具にしたって」
「…それはまあ…。電球を別のに取り替えたから、とスイッチまで替えはしませんが…」
同じスイッチでパチンとやったら点きますが、とシロエ君が答えて、ソルジャーが。
「ほらね、モノさえ同じだったらスイッチも同じ! だから、こっちのハーレイだって!」
「「「…教頭先生!?」」」
どうしてその名が出て来るのだ、と思う間もなく続けられた言葉。
「何処でもベッドでスイッチが入ると思うんだよ! こっちのハーレイ!」
布団を敷いてあげさえすれば、とニヤニヤと。
「もちろん最初はただの布団だと思うだろうから、そこは丁寧に説明を! そして目出度く!」
何処でもベッドで童貞卒業、と恐ろしすぎる台詞が。童貞卒業って…。
「決まってるじゃないか、布団で一発ヤるんだよ! こっちのハーレイもスイッチを入れて!」
使わずに放置になってるアソコを使わせるべし、とソルジャーは言い放ちました。童貞のままではお先真っ暗、ここは一発、目覚めるべきだと。
「ぼくのハーレイだって、基本はヘタレ! 見られていると意気消沈で!」
ぶるぅの覗きでも萎えるヘタレだ、とお馴染みの言葉が。
「ところが、そういうハーレイだってね、布団を敷いたら公園で一発ヤれるんだな!」
きっと布団には秘めたパワーがあるに違いない、と言われましても。
「…布団はただの布団だけれど?」
会長さんがスッパリと。
「寝る時に敷くというだけのもので、パワーなんかは無い筈だけどね?」
「ぼくだって、そう思っていたよ! あの湯治場で気が付くまでは!」
畳で寝るには布団程度の認識だった、とソルジャーも負けていなくって。
「それが今ではしっかりスイッチ、敷きさえすればハーレイはパワー全開なんだよ!」
試してみる価値は大いにある、と言い出しましたが、試すって…?



布団を敷いたらスイッチオンで、何処でも一発らしいキャプテン。そのスイッチが教頭先生にも使える筈だ、というのがソルジャーの見解ですけれど。
「…試すも何も…。ハーレイは布団に慣れてるよ?」
柔道部の合宿は常に布団だ、と会長さん。キース君たちも頷いています。
「そうだな、合宿所では布団だな」
「ベッドなんかはありませんよね、教頭先生は一人部屋においでですけれど…」
あの部屋もベッドは無かったですね、とシロエ君。
「ご自分で敷いてらっしゃいますしね、布団くらいで気分が変わりはしないかと…」
「だよねえ、布団は珍しくないし…」
ぼくたちの世界じゃ普通にあるし、とジョミー君も。
「家じゃベッドで寝てるって人でも、旅館に行ったら布団だし…。寝られないからって、ベッドを用意させるのは無しだと思うよ」
最初からベッドの部屋にしないと…、という意見は至極もっともなもの。自分で和室をチョイスしておいて、ベッドを出せとは論外です。けれど…。
「やってみなくちゃ分からないじゃないか、こっちの世界のハーレイだって!」
ぼくのハーレイも湯治に行く前は布団でスイッチは入らなかった、と言い募るソルジャー。
「スイッチが入れば儲けものだよ、試すだけの価値があるってば!」
「誰が儲けて何の価値があると?」
会長さんの冷たい声音に、ソルジャーは。
「君が儲かるに決まってる、って言いたいけれども、今の時点じゃ言うだけ無駄だし…。ハーレイのスイッチが入れば分かるよ、儲かった、って!」
君とハーレイとの素敵な時間が…、とニヤニヤニヤ。
「こればっかりは体験しないと分からないからね、御礼は後から言ってくれれば!」
「儲かりもしないし、御礼を言う気も全然無いから!」
ぼくにそっちの趣味などは無い、と会長さん。
「迷惑どころか災難なんだよ、そんなスイッチが入ったら! 黙ってヤられはしないけど!」
その前にハーレイをブチ殺す、と不穏どころかコワイ台詞が。
「ぼくと一発ヤろうだなんてね、思い上がりも甚だしいから、殺されたって文句は言えないね!」
「うーん…。君に悩殺されるんだったら、ハーレイだって本望だろうけど…」
「そういう意味の殺すじゃなくって、息の根を止める方だから!」
次の日の朝日は拝めない方で殺してやるから、と会長さんはギャーギャーと。ソルジャーがいくら試したくっても、何処でもベッドは無理ですってば…。



布団を敷いたら入るスイッチ、教頭先生にあるか無いかの話はさておき、入った所で悲惨な末路にしかならないことは明々白々。会長さんをモノにするどころか、下手をすれば命がありません。まさか本気で殺しはしないと思いますけど…。
「まあねえ…。まだ捕まりたくないからね?」
それに殺生の罪は重くって…、と会長さん。
「銀青ともあろう者が戒を破って殺したとなれば、言い訳に凄く困りそうでねえ…」
「言い訳って…。あんた、言い訳できるのか? 殺生の罪を!?」
アレは坊主には致命傷では…、とキース君が訊けば。
「いざとなったら、なんとでも…ねえ? それが出来なきゃ緋色の衣は着られない、ってね」
ダテに高僧をやってはいない、と平然と。
「ただねえ、言い訳の方は出来ても警察がね? そりゃあ、そっちも誤魔化せるけどさ」
ハーレイの一人や二人くらいは殺したって、と、まるでゴキブリ並みの扱い。ソルジャーが深い溜息をついて、嘆かわしそうに。
「…ホントのホントに報われないねえ、こっちのハーレイ…。殺してもいいとか、殺したくらいじゃバレないだとかさ」
「日頃の行いが悪いからだよ、ぼくに対する態度とかがね!」
「愛情表現をそう取られたんじゃ、もう気の毒としか言いようがないよ」
ぼくなら喜んで一発どころか二発、三発…、と嘆くソルジャー。会長さんは教頭先生の値打ちがサッパリ分かっていないと、あんな素敵な伴侶はそうそういないのに…、と。
「ぼくなんか毎日が熱々なのにさ、君ときたらさ…」
「君の認識が狂ってるんだよ、ぼくは至って正常だからね!」
ちゃんとフィシスという女神もいるし、と会長さんだって負けていません。ソルジャーの方が絶対変だと、あんなのと結婚するなんて…、と。
「どう間違えたら男と結婚したくなるのか、ぼくには理解不能だから!」
「分かってないねえ、気持ちいいからに決まってるだろう!」
結婚したならやることは一つ! とソルジャーは拳を握り締めました。
「晴れて夫婦で何処でも一発、布団を敷いたら公園でだって! これが結婚の醍醐味で!」
まずは気持ち良さを体験しなくちゃ、とソルジャーの目指す所は更に高みへと。
「こっちのハーレイにスイッチを入れて、君は気持ちの良さを体験! そうすれば、きっと!」
結婚しようという気にもなるのだ、と自説を展開するソルジャー。まずは布団を敷いてスイッチ、それから会長さんが教頭先生にヤられてしまって、ソルジャーと同じく男同士の良さにハマるのだ、とか言ってますけど、無理すぎませんか…?



思い込んだら一直線なのがソルジャーなる人、誰が止めても止まるわけがなく。
「要は布団でスイッチなんだよ、入るかどうか試してみようよ!」
ちょうどハーレイも暇そうだし…、とサイオンで教頭先生の家を覗き見た様子。
「ぼくたちの布団を貸してあげるから、とりあえず、此処で!」
「「「此処で!?」」」
このリビングで実験なのか、と誰もがスザッと後ろに下がりましたが、ソルジャーの方は。
「布団は何処でもベッドなんだよ、何処でもスイッチが入るってね!」
論より証拠、とソルジャーの指がパチンと鳴ったら、リビングに教頭先生が。瞬間移動をさせたようです。教頭先生はキョロキョロとして。
「こ、これは…。邪魔したか?」
「大いに邪魔だよ、ぼくは呼んではいないからね!」
会長さんがツンケンと言うと、ソルジャーが。
「ぼくが呼んだんだよ、ちょっと素敵なアイテムを見付けたものだから…。君は布団を知っているかな、いわゆる布団」
敷いて寝るヤツ、と訊かれた教頭先生は。
「それはもちろん…。私の家にも何組か置いてありますし」
私自身はベッドですが、という答えにソルジャーは満足そうに。
「なるほど、それじゃ布団の敷き方、心得てるよね?」
「はい。ですが、布団がどうかしましたか?」
「高級なヤツを買ったんだよねえ、ちょっと敷いてみてくれるかな?」
モノはこれで…、と再び空間を超えて来たソルジャー夫妻の布団は、きちんと畳んでありました。ソルジャーは湯治場で過ごす間に布団の畳み方を覚えたようです。教頭先生は畳んで積み上げられた布団に触ってみて。
「ずいぶん奮発なさいましたね、これをお使いになっておられるのですか?」
「まあね。…何処でもいいから敷いてみてよ」
「はあ…」
やってみましょう、と教頭先生は掛布団をよいしょと脇へどけると、敷布団を引っ張り出しました。ソルジャーとキャプテンが使う布団ですし、とびきり大きな敷布団です。それを広げて、シーツを掛けて。お次は掛布団をバサッと広げて…。
「…こんな感じで如何でしょうか?」
「うん、いいね。それじゃ枕を…」
どっこいしょ、とソルジャーが取り出した枕が二つ並べて置かれましたが。さて、この後は…?



大きな布団に枕が二つ。どう見ても夫婦用ですけれども、教頭先生のスイッチは入りませんでした。いえ、キツネにつままれたような顔とでも言うべきか…。
「どう、ハーレイ? グッと来たかな?」
ソルジャーがワクワクと問い掛けてみても、返った返事は。
「…羨ましいな、と思うだけですが…」
ご夫婦用の布団ですよね、と見ているだけの教頭先生。それはそうでしょう、ソルジャーが買ったと言っているのですし、枕が二つのビッグサイズじゃ、キャプテンと二人で使う布団に決まってますし…。
「…君の感想はそれだけなわけ?」
「…他に何かが?」
とても高級な布団なのでしょうか、とズレまくっている教頭先生。ズレたと言うより、そちらの方が普通の反応、スイッチなんかは入るわけがなくて。
「……おかしいなあ……」
ちゃんと布団を敷いたんだけどな、とソルジャーは首を捻りました。
「この布団があれば、君にもパワーが漲ってくると思ったんだけどね?」
「パワーですか?」
「そう、パワー! これは何処でもベッドと言って!」
布団さえ敷けば何処でも一発! とソルジャーが布団を指差しているのに、教頭先生は「一発?」と怪訝そうな表情で。
「一発と言えば、一発だろう!」
「はあ…?」
教頭先生とソルジャーの会話は平行線でした。まるで噛み合わず、ソルジャーの意図は通じていません。ソルジャーはすっかり自信を失くして、ガックリと肩を落としてしまって。
「…ぼくのハーレイ限定なわけ?」
「そうじゃないかと思うけど?」
こっちのハーレイの方が正しい、と会長さんは勝ち誇った笑み。布団はただの布団なのだと、それ以上でも以下でもないと。
「でも…。ぼくのハーレイだと何処でもベッド…」
「…何処でもベッドとは何のことです?」
今一つ分かりかねるのですが、と教頭先生が口を挟みました。
「確かに布団は敷きさえすればベッド代わりになりますし…。スペースさえあれば寝られますが」
「そこが大事なポイントなんだよ!」
うんとポイントが高いんだけど…、とソルジャーは布団を畳み始めました。諦めて持って帰るんですかね、その方がいいと思いますけど…。



敷いてあった布団を畳み終わると、グルリと周りを見渡したソルジャー。それから視線を宙に向けると、「よし!」と一声、青いサイオンが煌めいて。
「「「!!?」」」
ゆらりと一瞬揺れた空間、キャプテンがパッと現れました。ソルジャーの方は私服ですけど、こちらは制服を着ています。キャプテンは私たちに気付くと姿勢を正して。
「どうも、ご無沙汰しております。いつもブルーがお世話になっておりまして…」
「ハーレイ、挨拶はどうでもいいから」
それよりこっち、とソルジャーが布団の山を示した途端に、バッと勝手に広がった布団。リビングに見事に敷かれてしまって、ソルジャーは。
「ねえ、ハーレイ? 布団なんだけど…」
「布団ですね!」
そうでしたね、とキャプテンはソルジャーをグッと抱き寄せ、熱いキスを。えーっと、私たちのこと、見えてますかね、バカップルモード全開ですかね…?
「…でね、ハーレイ…」
キスから解放されたソルジャーのサイオンが光って、バカップルは見えなくなりました。布団も消えたと思ったのですが、何処からか「あんっ…!」という声が。
「「「え?」」」
今の声はソルジャーの、と見回す間に、また「あっ…!」と。会長さんが床をドンと蹴り付け、怒り狂った形相で。
「出てってくれる!? ここはぼくの家で…!」
「それどころじゃあ…。あんっ! ダメだってば、ハーレイ…!」
話し中で、というソルジャーの声が喘ぎに変わって、何事なのかと驚いていれば、急に静かになりましたけれど。
「…何だったんだ、今のは?」
キース君が一歩踏み出そうとしたら、会長さんが鋭く制止。
「ちょっと待って! …うん、帰ったかな、あっちにね。ぶるぅ、塩!」
「お塩?」
「そう! 思い切り床が穢れたから!」
よくもこんな所で前哨戦を…、と会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が持って来た塩壺の中身をリビングにブチ撒き、教頭先生が立っていらした場所にもパッパッと。あれっ、教頭先生は?
「かみお~ん♪ トイレに走って行ったよ、さっき!」
無邪気な答えが返りましたが、会長さんの方は怒り心頭。まさかトイレって、もしかして…?



教頭先生が駆け込んだトイレは、念入りに清められたようです。塩を撒いた上に、お経まで。出て来た教頭先生は悄然としておられますが…。
「す、すまん…。つい…」
「あの声を聞いて欲情したって!? そりゃね、シールドの向こうだったけどねえ!」
とんでもないことをしてくれちゃって、と会長さんの怒りは収まらない模様。リビングの絨毯は処分するとか、もう明日にでも買い替えだとか。
「…何もそこまでしなくても…」
あの絨毯はいいヤツだろう、と教頭先生が言ったのですけど。
「そういう問題じゃないんだよ! 布団だけならまだマシだけれど、ああなってはね!」
スイッチだなんて…、と怒りまくって、どのくらいの時間が経ったのか。いきなり空間が揺れたかと思うと、さっきまでとは別の服を着たソルジャーが。
「ごめん、ごめん…! ついウッカリとヤリ込んじゃって…!」
ちゃんとシャワーは浴びて来たから、とボディーソープの匂いがふわりと。
「ハーレイもブリッジに走って行ったよ、勤務時間中には違いないしね!」
あんな感じでスイッチが入るというわけで…、とソルジャーは笑顔。
「ね、布団のパワーは凄いだろう? ぼくは間違ってはいなかったってね!」
何処でもベッド! という極上の笑みに、教頭先生の喉がゴクリと鳴って。
「あ、あのう…。あれは特別な布団ですか?」
「特別と言えば特別なのかな? 値段はとっても高かったよ、うん」
「私もあれを買いたいのですが…!」
そして練習したいのですが、という台詞を教頭先生が言い終えることは出来ませんでした。キラリと光った会長さんのサイオン、ご自分の家へ送り返されてしまわれたようで…。
「何をするかな、せっかくハーレイがその気になったというのにさ!」
「布団にパワーは無いんだってば、それに練習されても困る!」
二度と布団を持ち込むな、と会長さんが怒鳴って喚いて、ソルジャーは「やれやれ」とお手上げのポーズ。布団は効くのにと、あれこそ何処でもベッドなのに…、と。



「おい、本当に効くのか、布団は?」
俺にはどうも分からんのだが、とキース君が声を潜めて、シロエ君が。
「知りませんってば、湯治場のパワーと相乗効果じゃないんですか? キース先輩が勧めたんですよ、休暇には湯治に行けばいい、って」
「単に追い払いたかっただけなんだが…」
どうしてこういうことになるんだ、と頭を抱えるキース君にも、ソルジャーと大喧嘩を繰り広げていた会長さんにも、布団の効果はついに分からないままでした。
一方、何処でもベッドを手に入れてしまったソルジャーの方は、相変わらず布団で楽しみまくっているようで…。
「どうかな、これ? 今度、こっちのハーレイに勧めてみようかと!」
「…好きにすれば?」
もうあの家は布団部屋だから、と会長さんは開き直りの境地です。教頭先生、ソルジャーにせっせと勧められるままに布団を買ってはコレクション中、家のあちこちに布団の山があるのだとか。
「…ああいう商法、昔、無かった?」
やたらと布団を買わせるヤツ、とジョミー君がコソコソと囁き、サム君が。
「あったっけなあ…。でもよ、布団は効くんだぜ?」
「バカップル限定ですけどね…」
あっちもまた買ったようですよ、とシロエ君。何処でもベッドも只今、順調に増殖中。布団の効果が切れる時まで増えるんでしょうか、あっちの世界とこっちの世界で高級布団が何組も。ソルジャーがハマッた、何処でもベッド。効果はいつまであるんでしょうねえ…?




           何処でも布団・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 ソルジャーが湯治に出掛けて発見したのが、布団の素晴らしさらしいですけど。
 布団商法に引っ掛かった形の教頭先生、布団を何枚、買わされるやら。お気の毒に…。
 ところで、シャングリラ学園番外編、去る4月2日で連載開始から12年となりました。
 干支が一周して来ましたです、何処まで行けるか、お付き合い頂ければ嬉しいです。
 次回は 「第3月曜」 5月18日の更新となります、よろしくです~! 

※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、4月といえば桜で、お花見の季節。マツカ君の別荘の桜も見頃。
 ←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv











PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]