シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園、今日も平和に事も無し。残暑も終わって秋の気配で、これからがいい季節です。学校に行くのも、週末に遊ぶのも暑さ寒さを気にしなくて済むのが春と秋。ついでに秋は収穫祭やら学園祭やらと学校行事の方も充実、楽しい季節なわけですが。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
授業、お疲れ様! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が迎えてくれた放課後。甘い匂いはスイートポテトで、お料理大好き「そるじゃぁ・ぶるぅ」だけにタルト仕立ての凝ったもの。紅茶やコーヒーなんかも出て来て、いざティータイムとなったのですけど。
「うーん…」
何故か考え込んでいる会長さん。心配事でもあるのでしょうか?
「おい。今日はこれといった発表なんかは無かったんだが…」
これから出るのか、とキース君。
「先生方が会議中だとか、プリントを印刷中だとか…。如何にもありそうな話ではあるが」
「そうですねえ…。秋だけに気が抜けませんよね」
先生方が何をやらかすやら…、とシロエ君も。
「ウチの学校、やたらとノリがいいですし…。ハロウィンが公式行事になるとか、そういう線も」
「それを言うなら運動会じゃねえのか?」
ウチにはねえぜ、とサム君の指摘。シャングリラ学園には球技大会と水泳大会があるのですけど、ありそうで無いのが運動会。どういうわけだか存在しなくて、私たちも経験していません。
「運動会かあ…。あるかもね」
どうせぼくたちのクラスが勝つんだけれど、とジョミー君。それはそうでしょう、1年A組は会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお蔭で無敵。球技大会も水泳大会も負け知らずだけに、運動会だって頂きだろう、と思いましたが。
「…運動会の話じゃないんだな、これが」
ついでに学校行事でもない、と会長さんが口を開いて。
「現時点ではまるで関係無いんだよ。…これから先は分からないけど」
「「「は?」」」
「なにしろ情報をゲットしたばかりで、ぼくにも整理が出来ていなくて」
きちんと整理がついた段階で何か閃いたら使えるかも、と会長さんの台詞は意味不明。
「何なんだ、それは」
明らかに先生絡みと見たが…、とキース君の読み。私たちが授業に出ている間は暇にしているのが会長さんです。職員室でも覗きましたか、サイオンで?
会長さんがゲットしたての情報とやら。先生方の秘密会議を盗み聞きしたか、はたまた文書を発見したか。そういうクチだと踏んだのですけど…。
「違うよ、先生は全く関係無くて…。ついでに学校とも無関係だね、いや、待てよ…」
全く無関係でもないか、と顎に手を当てる会長さん。
「やたらと気合が入っていたっけ、この学校…。バレンタインデーは」
「「「バレンタインデー!?」」」
それって二月じゃなかったですか? 今は残暑が終わったばかりで、二月なんかは遥かに先です。キース君の家で除夜の鐘を撞かないと来ない新年、その新年に入ってからなのでは…。
「そうだよ、二月のヤツだけど?」
チョコレートの贈答をしない生徒は礼法室で説教だよね、と会長さんはシャングリラ学園のバレンタインデーのおさらいを。お説教どころか反省文の提出まであるバレンタインデー、校内はチョコが飛び交います。雰囲気を盛り上げるために温室の噴水がチョコレートの滝に変わったり…。
「あのバレンタインデーがどうかしたのか、今から話題にするほどに」
水面下で何か動きがあるのか、とキース君が訊けば、答えはノー。
「先生も学校も無関係だと言った筈だよ、ぼくがゲットした情報は外部のヤツで」
「「「外部?」」」
「うん。…暇だったからさ、適当にあれこれ調べていたら引っ掛かったんだ」
バレンタインデーとも思えないものが、と会長さんは紅茶を一口飲んで。
「…イケメンショコラ隊っていうのをどう思う?」
「「「イケメン…?」」」
なんですか、そのイケメンだかショコラだかいうものは?
「そのまんまの意味だよ、イケメンとショコラ。バレンタインデー用のチョコを売り出すために作られたヤツで、一時期、存在したらしい。デパートの特設売り場にね」
「…イケメンがチョコを販売するのか?」
そういう仕組みか、とキース君が質問、会長さんは「まあね」と答えて。
「趣旨としてはそれで合ってるんだけど…。イケメンを揃えてチョコの販売、それは間違いないんだけれど…」
「他にも何かあるんですか?」
ショコラ隊だけに変身するとか、とシロエ君。なるほど、変身まではいかなくっても、ショータイムとかがあったかもです。チョコレート売り場でファッションショーとか、そういうの…。
会長さんが暇つぶしに仕入れた昔の情報、イケメンショコラ隊。バレンタインデーのチョコの販売促進用らしいですし、ショーをするのかと思ったら。
「変身ショーなら理解できるよ、ぼくでもね」
ファッションショーでもまだ納得だ、と会長さんは額を指でトンと叩いて。
「イケメンで釣ってチョコを販売、それ自体はまだ理解の範疇。…同じチョコレートを買いに行くなら、不愛想な店員さんから買うよりイケメンだろうし」
「…まあな」
分からんでもない、とキース君。
「自分の本命が誰であろうが、チョコレートを買いに出掛けるからには気持ち良く買い物したいだろうしな…。まして本命チョコともなったら高価なものだし」
「そうですよね…。貰う男性は少し複雑かもしれませんけど、イケメンから買ったか、不愛想な店員さんから買ったかなんかは絶対、分からないわけですし」
ぼくたちみたいにサイオンが無ければ…、とシロエ君も。
「サイオンがあっても、そんなトコまで突っ込みませんよ。そういう男は嫌われますよ」
「だよなあ、俺だって最低限の礼儀としてそこは言わねえぜ」
俺に彼女はいねえけどよ、とサム君が会長さんの方をチラリと。サム君が惚れている相手は会長さんで、今でも公認カップルです。朝のお勤めがデート代わりの清く正しいお付き合い。
「男ってヤツは細かいことを言っちゃダメだぜ、おまけにチョコレートを貰ったんならよ」
「ぼくも賛成。貰えたんなら、イケメンを狙って買いに行ってても許すよ、ぼくは」
イケメンが販売しているコーナーを目指してまっしぐらでも、とジョミー君も言ったのですけど。
「…そこまでだったら、ぼくだって許容範囲だよ」
理解の範疇内でもある、と会長さん。
「女性はイケメンに弱いものだし、ぼくだって顔が売りだしねえ? でもさ…。そのチョコレートの販売をしてるイケメンとさ…。撮影会っていうのはどう思う?」
「「「撮影会?」」」
まさかイケメン販売員と写真が撮れるってヤツでしたか、それ?
「そうなんだよ! しかもツーショットで、注文に応じて顎クイ、壁ドン」
「「「ええっ!?」」」
顎クイっていうのは顎クイですよね、一時期流行っていた言葉。壁ドンも同じく流行りましたが、それってチョコレートを渡したい人と撮りたいショットじゃないですか…?
顎クイに壁ドン、好きな人がいるなら憧れのシチュエーションだったと思います。バレンタインデーにはチョコを抱えて片想いの相手なんかに突撃、顎クイに壁ドンな仲になれるよう努力するものだと信じてましたが…?
「ぼくだってそうだよ、そっちの方だと思ってたってば!」
自分用の御褒美チョコが如何に流行ろうとも、バレンタインデーの趣旨はブレないものだと信じていた、と会長さんはブツブツと。
「でもねえ、イケメンショコラ隊は確かに存在したんだよ! 存在した間は大人気で!」
整理券が出る有様だったのだ、と聞いてビックリ、呆れるしかない私たち。
「…会長、それって、本命の立場はどうなるんです…?」
「知らないよ、ぼくは! それこそ知らぬが仏ってヤツじゃないかな」
自分が貰ったチョコレートの裏に隠された歴史、と会長さん。
「いいのを貰った、と喜んでいても、その裏側にはイケメン販売員とのツーショット撮影会が隠れているわけで、しかもイケメンショコラ隊は普通の販売員でもないわけで…」
チョコの販売に直接携わるわけではなかったらしい、というのがイケメンショコラ隊。撮影会の他にもショコラコンシェルジュとかいうお役目があって、お勧めのチョコを女性に解説。山ほど売られるチョコの中から選ぶべきチョコの相談に乗っていたというのが驚きです。
「だったら、アレか? 選ぶ段階からイケメン任せのチョコになるのか?」
そして撮影会を経て男性の手に渡るのか、とキース君が唖然とした表情。
「…俺がそいつを貰ったとしたら、非常に複雑な気分なんだが…」
「ぼくも同じです、キース先輩」
そんな裏事情は一生知りたくありません、とシロエ君も。会長さんは「ほらね」と頭を振って。
「いろんな意味で有り得ないんだよ、貰う方の男にとってはさ…。イケメンショコラ隊」
「迷惑以外の何物でもないと俺は思うが」
俺ならば断固排除する、とキース君が言い、ジョミー君が。
「ぼくだって徹底排除だよ! そんなバレンタインデーのチョコ、間違ってるし!」
「ぼくも間違いだと思いたいけど、本当にあったというのがねえ…。うちの学校でこれを導入したなら、絶対、血を見ると思うんだけどね?」
バレンタインデーに賭けている学校だけに…、と会長さん。
「間違いないな。あんたにチョコの相談に出掛ける女子が殺到するだろうしな」
そして撮影会なんだ、とキース君。もしもバレンタインデーに会長さんがイケメンショコラ隊をやっていたなら、オチは絶対、それですってば…。
何かが間違ったバレンタインデーのチョコレート選び、デパートの特設売り場にいたというイケメンショコラ隊。しかも話はそれだけで終わらなくって。
「…デパートの外でも活動していたらしいんだよねえ…」
販売期間中はイケメンの居場所をネットで流していたらしい、と会長さんはお手上げのポーズ。イケメンが出没するスポットの情報を毎日発信、そこへ行けばイケメンと会える仕組みになっていたとか。もちろん話題はチョコレート限定、ショコラコンシェルジュだったそうですけれど…。
「それって一種のデートじゃないの?」
それっぽいけど、とスウェナちゃん。
「狙って出掛けて会えるわけでしょ、話題がチョコレート限定なだけで」
「そうなるねえ…。もう本当に呆れるしかないヤツなんだけれど、世の中、信じられないよ」
いくらぼくでも女性不信になりそうだ、と会長さんは言うのですけど。
「どうなんだか…。あんたの場合は、イケメンショコラ隊の方になれそうだからな」
キース君がさっきの話の続きを持ち出して。
「しかもだ、本命に贈る筈のチョコを何処かで貰っていそうだぞ。デパートの外でも会えたと言うなら、そういう時にな」
「ありそうですよね、会長だったら…」
ちゃっかり本命になっていそうです、とシロエ君が賛成、他の男の子たちも口々に。
「ブルーだったら出来そうだぜ、それ。気付けば自分のお勧めチョコを貰っていたとか」
「分かるよ、せっせと相談に乗っていたチョコが自分に来るんだ」
「…きっとそういう線ですね…」
マツカ君までが頷いてしまい、会長さんは。
「えーっ、そうかなあ? 本来の趣旨から外れちゃうけど、くれるんだったら貰うけどね」
でも、うちの学校だと説教だろう、と溜息が一つ。
「他の男子の立場がない、って呼び出されて説教されるんだよ。礼法室で」
「…チョコレートの贈答をしない生徒が呼ばれる場所だと思ったが?」
礼法室、とキース君が言いましたけれど、会長さんは「駄目だろうね」と。
「チョコの相談に乗るだけだったら、お説教は無さそうだけど…。学校中のチョコを一人占めしそうな勢いだったら、事前に呼び出し」
「「「うーん…」」」
それはそうかもしれません。会長さんが一人勝ちするイベントなんかは、学園祭の人気投票だけで充分間に合っていますもんねえ…。
私たちの学校では使えそうにないイケメンショコラ隊。面白いものがあったらしい、と話の種にしかなりません。会長さんが礼法室でお説教を食らうバレンタインデーでは、どうにもこうにも使えない上、他の男子も迷惑ですし…。
「…あんたが使えるかどうかも謎だと言ってたわけだな、これは」
まるで使えないな、とキース君が話を纏めにかかりました。来年のバレンタインデーを待つまでもなく、イケメンショコラ隊は使えもしないと。
「うんうん、ブルーが説教ではよ…」
嬉しくねえし、とサム君も結論付けたのですけど。
「…ちょっと待った!」
使えるかも、と会長さんが声を上げました。えーっと、説教されたいんですか?
「そうじゃなくって! 今年の学園祭に向かって!」
「「「学園祭?」」」
学園祭でチョコなんか売ってましたっけ、柔道部が「そるじゃぁ・ぶるぅ」秘伝の焼きそばを売り物にしているくらいですから、何処かのクラブが売っているかもしれませんが…。
「違うよ、他所のクラブのためじゃなくって、ぼくたちのための販売促進!」
「「「へ?」」」
私たちが学園祭で売るものと言えば、会長さんお得意のサイオニック・ドリームと相場が決まっています。毎年恒例、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を舞台にドリンクなどとセットで販売中。その名も『ぶるぅの空飛ぶ絨毯』、一番人気の喫茶店だけに販売促進しなくても…。
「売り込まなくても長蛇の列って? それはそうだけどさ…」
プラスアルファが欲しいじゃないか、と会長さん。
「ほら、年によって色々あるだろ、サイオニック・ドリームの中身も変えるし」
ドリンクメニューが変わる年も…、と言われてみればそうですけれども、販売促進は必要無いと思います。開場と同時にズラリ行列、チラシも要らないほどなんですし…。
「だからこそだよ、たまにはイベント! イケメンを揃えて!」
「「「イケメン?」」」
「これだけいるだろ、イケメンな面子」
クールなのから三枚目まで…、と会長さんは男子を順に指差しました。
「サムだってけっこう人気な筈だよ、気のいい頼れる三枚目、ってね。イケメン並みに!」
サムがタイプな女子も多い、との指摘は間違っていませんけれど。バレンタインデーに貰うチョコレートも多いサム君ですけど、男子たちを使って何をすると…?
いつの頃かは分からないものの、バレンタインデーの販売促進にデパートが作ったイケメンショコラ隊なる代物。会長さんは其処から閃いたらしく、学園祭でイベントだなどと言い出して…。
「事前の盛り上げも悪くはないと思うんだよねえ、ぶるぅの空飛ぶ絨毯はね」
イケメンを使ってやってみよう! と会長さん。
「名付けてイケメンドリーム隊!」
「「「…ドリーム隊?」」」
なんじゃそりゃ、と私たちにはサッパリでしたが、会長さんの頭の中には既にビジョンがある様子。イケメンドリーム隊とやらの。
「イケメンショコラ隊がチョコを売るなら、イケメンドリーム隊はドリームなんだよ、サイオニック・ドリーム!」
サイオニック・ドリームの名前は出さないけれど…、とサイオンの存在を伏せる所は例年と同じ。
「あくまでぶるぅの不思議パワーだけど、夢を売るのは本当だしねえ?」
「それはまあ…。そうなんだが…」
バーチャル体験が売りではあるが、とキース君。
「だが、俺たちが何をするんだ? 俺はサイオニック・ドリームを使えはするがだ、坊主頭に見せかけるだけが精一杯なレベルなんだが…」
それでは販売促進どころか逆効果だ、と冷静な意見。キース君も人気が高いですけど、坊主頭になった場合も人気かどうかは微妙です。副住職だと知られてはいても、坊主頭を目撃した生徒はありません。ずうっと昔に学園祭で坊主喫茶をやったとはいえ、あの時の生徒は卒業済みで…。
「だよねえ、キースでも坊主頭が完璧ってだけで、ぼくたちになると…」
坊主頭も怪しいんだよね、とジョミー君が頭に手を。いつかは訪れる坊主ライフに備えて自主トレが必須な立場のくせに、ロクに練習をしないジョミー君。坊主頭なサイオニック・ドリームは持続可能なレベルに達してもいませんでした。
サイオニック・ドリーム必須のジョミー君ですらそういう有様、他の男子はサイオニック・ドリームに挑んだことすら皆無な状態。イケメンドリーム隊は無理そうですよ?
「誰が君たちにサイオニック・ドリームを売れって言った?」
あれはぶるぅの限定商品、と会長さんが切り返しました。
「誰でも楽々売れるんだったら、商売上がったりってね! 君たちは宣伝するだけなんだよ」
「「「宣伝?」」」
いったい何を宣伝するのだ、と顔を見合わせる男子たち。『ぶるぅの空飛ぶ絨毯』は宣伝しなくても口コミで人気、宣伝なんかは必要性が全く無さそうですが…?
サイオニック・ドリームの言葉も、サイオニック・ドリームも抜きで宣伝活動をするらしいイケメンドリーム隊。会長さんの考えは謎だ、と誰もが考え込みましたけれど。
「分からないかな、ヒントはイケメンショコラ隊だよ。ショコラコンシェルジュっていうのも言った筈だよ、チョコレートの相談に乗るってヤツをね」
「それは確かに聞きましたけれど…。ぼくたちと何の関係があると?」
シロエ君の問いに、会長さんは。
「ズバリそのもの! ショコラならぬドリームコンシェルジュ!」
「「「はあ?」」」
ショコラコンシェルジュの流れからして、ドリームコンシェルジュは夢の相談に乗るのでしょうけど、サイオニック・ドリームの相談って…?
「簡単なことだよ、どれを買うべきかを教えてあげればいいってね!」
毎年、大勢が悩んでいるじゃないか、と会長さん。
「なにしろ、ぶるぅの空飛ぶ絨毯は大人気だしね、そうそう何度も入れやしないし…。全部の夢を買えない以上は、ご要望に応えてピッタリの夢をご案内だよ!」
「そうか、それなら需要があるかもしれんな」
悩んでいるヤツは少なくないし、とキース君が相槌を打って、マツカ君も。
「そういう人は多いですよね…。メニューは先に渡しますけど…」
「入る直前まで決まってない人、かなりの確率でいますよね、ええ」
その場の勢いで決めている人、とシロエ君。
「どれにしようか迷った挙句に、入ってから周りの雰囲気ってヤツで選ぶ人は珍しくないですよ」
「そうだろう? そういった人のためにイケメンドリーム隊がお手伝いをね!」
事前に相談に乗ってあげるだけでお役に立てる、という会長さんの案はもっともなもの。バーチャルな旅を体験出来るのがサイオニック・ドリームの売りなんですから、その人が一番行きたい所へ案内出来ればベストです。でも、学園祭の真っ只中ではそうもいかないのが現実で。
「…会長の言う通り、きめ細かなフォローがあったら嬉しいでしょうね…」
事前の案内、とシロエ君が頷き、ジョミー君も。
「学園祭が始まってからだと、ぼくたちは接客で大忙しだし…。スウェナたちも案内係で手一杯だし、問い合わせに応じられる人って無いよね…」
「そこなんだよ。例年、体験者の話を参考に選ぶくらいが精一杯ってトコだから…」
今年は前情報を出してみよう、と会長さん。サイオニック・ドリームのメニューが決まればイケメンドリーム隊を結成、校内にバラ撒くらしいですよ…?
かくして決まったイケメンドリーム隊とやら。例年だったら売り物のサイオニック・ドリームを何にするかとか、喫茶のメニューや値段なんかを決めるだけで後は当日待ちですけれど。
「えーっと、明日から活動開始なんですよね?」
月曜日から、とシロエ君が会長さんに確認しています。イケメンドリーム隊が決定した日から時が流れて、今は学園祭の準備がたけなわ、校内に広がるお祭り気分。そんな中で私たちも『ぶるぅの空飛ぶ絨毯』のメニューなどを決め、イケメンドリーム隊のデビューは明日。
「とりあえず、俺たちは相談係で良かったんだな?」
他には無いな、とキース君がドリームコンシェルジュ向けの資料をめくりながら訊くと。
「せっかくだからね、オプションもつけておいたけど?」
「「「オプション?」」」
なんだ、と男子の視線が会長さんへと一気に集中。それは私も聞いていません、オプションって何のことでしょう?
「覚えてないかい、イケメンドリーム隊の元ネタはイケメンショコラ隊だということを! でもって、本家の方の一番の売りは撮影会で!」
顎クイと壁ドンもオッケーだというツーショット、と会長さんは澄ました顔で言ってのけました。
「君たちの場合は活動場所が学校だしねえ、懐かしの顎クイや壁ドンとまではいかないけどさ…。健全なヤツしか無理だけれどさ、売るならやっぱりツーショットもね!」
先着順で無料撮影会を実施、と勝手に流されていたらしい前情報。まさか、と会長さんの家の端末を起動してみんなで覗き込んでみると…。
「うわあ、マジかよ、俺は先着二十名様かよ、明日のノルマが!」
しかも整理券が全部出てしまってる、とサム君が慌てて、ジョミー君も。
「…ぼくも整理券、完売って言うか、品切れって言うか…」
「ぼくもですよ! 会長、これってどういうことです!?」
何の話も聞いてませんが、とシロエ君が食って掛かっても、会長さんは涼しい顔で。
「サービス、サービス! 平気だってば、整理券を持った子に声を掛けられたら、ツーショット! ご注文に応じてクールな顔から笑顔まで! それがイケメンドリーム隊!」
撮影の後はドリームコンシェルジュに徹するべし、と会長さん。
「整理券を持っていない子でも、相談に来た子はお客様だしね? きちんと対応、相談に乗る!」
それでこそイケメンドリーム隊だ、と会長さんの考えは微塵も揺るがず、整理券は連日、端末を通じて一定数が出る仕組みのようです。サイオニック・ドリームの相談に加えてツーショットまでとは、もう頑張って下さいとしか…。
翌日からキース君たち男子五人は大忙しの日々が始まりました。ツーショットが撮れる整理券は朝のホームルームが始まる前から有効、休み時間ももれなく有効。放課後の部活開始の直前までが期限とあって、廊下を歩けば捕まる日々で。
「くっそお…。夢の相談の方も多いが、ツーショットの方も馬鹿にならんぞ」
しかも注文が細かくて…、とキース君が嘆く放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋。ツーショットの撮影、表情はもちろん、背景が指定出来たのです。ゆえに中庭から校門前まで至る所が撮影スポット、撮影のために少し出るくらいは門衛さんも黙認なだけに…。
「多いんだよねえ、校門前の子…」
在学記念ってことだろうか、とジョミー君も。卒業式でもないというのに「シャングリラ学園」と書かれた門柱の脇が大人気だとか。他にもグラウンドだとか、体育館とか、人それぞれで。
「場所の移動がキツイんですけど、移動中も仕事時間ですしね…」
移動しながら夢の相談、とシロエ君。移動時間で終わらなければ撮影会の後も相談継続、休み時間は壊滅状態に近いのが今の男子たち。
「…せめて昼飯、ゆっくり食いてえ…」
食堂にいても客が来るしよ、とサム君も相当にお疲れ気味です。食べている間は流石に仕事は入りませんけど、如何にも時間待ちといった感じの女子生徒が遠巻きに見ているわけで…。
「落ち着きませんよね、食事中でも」
早く食べて仕事を始めなくてはと思いますし、とマツカ君。この状況で実は一番タフな人材、それがこのマツカ君でした。御曹司なだけに初対面の人との会食だとかが多い人生、仕事となったら食事も仕事の一部だったのが強かったらしく。
「…マツカ、俺はお前を心の底から尊敬するぞ」
ある意味、坊主の俺よりも修行が出来ているな、とキース君も認めるマツカ君の強さ。今日も仕事をサクサクこなして、撮影会のノルマも誰よりも早く達成した上、時間いっぱいまで夢の相談に乗っていたという凄さです。
「かみお~ん♪ マツカだけだもんね、男の子の相談も受け付けてるの!」
余裕たっぷりの証拠だよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。そう、他の男子はイケメンドリーム隊だけあって女子生徒だけの御用達と化していましたが、マツカ君だけは話が別で。撮影会をこなす間にも「ちょっといいかな?」と男子の相談受付中。
「マツカは誰にでも丁寧だしねえ、声を掛けやすいっていうのもあるよね」
他のみんなもマツカを目標に頑張りたまえ、と会長さんが発破をかけてますけど、他の男子には多分、無理。キース君でも無理なんですから、御曹司の能力、恐るべし…。
そんなこんなで幕を開けた今年の学園祭。会長さんが思い付いたイケメンドリーム隊の宣伝効果は非常に大きく、例年以上に長蛇の列が出来ました。その割に大きな混乱も無くて、メニューを決める生徒も余裕の子が多かった印象で…。
「みんな、お疲れ様~っ!」
今夜は打ち上げパーティーだよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び跳ねています。後夜祭も終わって喫茶の設備の回収などは業者さんにお任せ、それに明日は土曜日でお休みですし…。
「それじゃ、予定通りにぼくの家でいいね?」
泊まりってことで、と会長さんが確認、私たちは揃って大歓声。このために今日はお泊まり用の荷物を持参で登校、男子は喫茶の接客を頑張り、スウェナちゃんと私は案内係で…。
「疲れはしたが、今年は充実の学園祭という気分だったな」
前準備なんかは例年無いに等しいからな、とキース君。イケメンドリーム隊として活動しまくったキツかった日々も、いい思い出になりつつあるようです。みんなで「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋の中をチェックし、業者さんへの連絡メモを会長さんが壁にペタリと貼り付けて。
「はい、終了。ぶるぅ、帰るよ」
「かみお~ん♪ しゅっぱぁ~つ!」
パアアッと迸った青いサイオン、ふわりと身体が浮いたかと思うと会長さんの家に着いていました。打ち上げは焼き肉パーティーです。もう早速に始めよう、とゲストルームで制服から私服に着替えを済ませてダイニングに行くと。
「こんばんはーっ!」
「「「!!?」」」
遊びに来たよ、と紫のマントのソルジャーが。学園祭の準備期間にも何度か姿を見てましたけれど、打ち上げパーティーに呼んだ覚えはありません。学園祭とはまるで無関係、そんな人に割り込んで来られても…、と誰もが露骨に嫌な顔をしたと思うのですが。
「イケメンドリーム隊、お疲れ様! 凄い活躍だったよねえ…」
これはぼくからの差し入れで…、とソルジャーが保冷剤入りと思しき大きな箱を。
「「「差し入れ?」」」
「焼き肉パーティーをするんだろう? いい肉を買って来たんだけれど…」
ノルディお勧めの店の最高のヤツ、と出された箱を「そるじゃぁ・ぶるぅ」がパカリと開けて。
「すっごーい! ホントに最高のお肉!」
こんなに沢山! と見せられた肉の量と質とに、私たちはアッサリ陥落しました。食材持参なら乱入も歓迎、差し入れがあるなら先にそう言って下さいよ~!
ソルジャーも私服に着替えての焼き肉パーティーは大いに盛り上がり、話題はやっぱりイケメンドリーム隊の活躍についてだったのですが。
「あれは本当に凄かったよ。君たちの活動にヒントを得てねえ、実はぼくも…」
「「「え?」」」
ソルジャー、何かをやったのでしょうか。自分の世界のシャングリラでイケメンを集めてイベントだとか、そういうのを…?
「イベントには違いないけれど…。ぼくの世界でやったんじゃないよ?」
ぼくのシャングリラでイケメン選びをするのはちょっと…、と言うソルジャー。閉じた世界だけに顔の良し悪しでランク付けはマズイ、と指導者ならではの発想ですけど、それなら何処で何をやったというのでしょう?
「もちろん、こっちの世界でだよ! それも最高のイケメンを使って!」
「「「…最高?」」」
最高ランクのイケメンなんかを集めて何をやらかしたのだ、と首を捻った私たちですけれど。
「集めていないよ、使っただけだよ、この顔を!」
このぼくの顔、と自分の顔に向かって人差し指を。超絶美形な会長さんと瓜二つですし、イケメンには違いないですが…。最高ランクの顔なんでしょうが、その顔で何を…?
「え、この顔が最高のイケメンに見える人間が二人ほどいるだろ、こっちの世界は!」
ノルディとハーレイ、とソルジャーが挙げた名前はエロドクターと教頭先生。まさかその二人を相手にイケメンを売りに何かやらかしましたか…?
「そうだよ、名付けてイケメンデート隊!」
「「「デート隊!?」」」
それはどういうものなのだ、と怖くて訊けない私たち。けれどソルジャーは得々として。
「君たちがドリームコンシェルジュをやっていたのと同じで、ぼくのはデートコンシェルジュ! どんなデートがお好みなのか、と聞きながらプランを立ててあげてね!」
「き、君はまさか…」
ノルディやハーレイの好みのデートに付き合ったのか、と会長さんの声が震えましたが。
「ううん、相談に乗るだけだってば! 後は向こうにお任せなんだよ」
本当にそういうデートコースを組んでくるなら、場合によっては…、という答え。
「ぼくも一応、結婚している身だからねえ? 譲れない部分もあるわけでさ」
そういったことも踏まえて相談に乗っているんだけれど、と笑顔のソルジャー。だったらデートはしてないんですかね、エロドクターはともかく、教頭先生なんかとは…?
思わぬ所へ飛び火していたイケメンドリーム隊の結成。ソルジャーが勝手にイケメンデート隊を作って動いていたとは夢にも思いませんでした。差し入れを持って出て来る筈です、ヒントになったイケメンドリーム隊への御礼に肉まで持って。
「それはもちろん、御礼をするのは基本だし…。色々とアイデアを貰ったからには!」
今の所はまだデートには至っていないのだ、とソルジャーは胸を張りました。
「この手のものは焦らしてなんぼ! 相談に乗るのとデートとは別!」
ノルディのランチやディナーのお誘いは受けるけれど、とソルジャーならではの行動基準が凄すぎます。それもデートの内なんじゃあ…?
「違うね、ノルディの理想のデートはもっと中身が濃いものだからね!」
最低限でもキスは必須で…、とパチンとウインクするソルジャー。
「そうした雰囲気に持って行けそうなデートコースは、と訊いてくるからアドバイス! デートコンシェルジュはそういう仕事!」
ハーレイの方はランチのお誘いも出来ない段階、とニッコリと。
「あれは駄目だね、ぼくを相手にブルーの方とのデートの練習に持って行こうとしてるから…。毎回アドバイスするんだけどねえ、下心が見え見えのお誘いってヤツは失敗するよ、と」
「ああ、下心ね…」
ハーレイだったらそうだろうねえ、と会長さん。
「それじゃ、君の方はハーレイの妄想とも言うべき夢のデートコースを延々と聞かされ続けているっていうわけかい? なんとも不毛な話だけれど」
「そうでもないよ? 相談に乗るのはハーレイの家で、それなりにお菓子も出るからね」
タダ働きはしていないのだ、と流石はソルジャー。エロドクターの相談に乗る時もランチやディナーを御馳走になっているのだとかで。
「…あんた、俺たちとは違うようだな」
俺たちは謝礼は貰っていない、とキース君が苦い顔を。
「俺もマツカも他の連中も、あくまでボランティアのタダ働きだ! 一緒にしないで貰いたい!」
「タダっていうのを強調するなら、ぼくは君たちよりも頑張ってるけど?」
それこそタダで、とソルジャーはフンと鼻を鳴らして。
「イケメンドリーム隊に貰ったヒントはきちんと生かす! イケメンデート隊も写真撮影のサービス付きだよ、ツーショットの!」
「「「ええっ!?」」」
まさかまさかのツーショット。ソルジャー、そんなの付けたんですか…?
ソルジャーが一人で活動中のイケメンデート隊とやら。ツーショット写真のサービス付きで、キース君たちよりも頑張っているということは…。
「決まってるじゃないか、君たちよりもグッと接近! 元祖イケメンショコラ隊みたいに!」
ちゃんと調べた、とソルジャーは「顎クイ」と「壁ドン」をチェック済みでした。今は死語だと思うんですけど、調べれば何処からか出て来るようです。
「ノルディにもハーレイにも売り込んだんだよ、顎クイに壁ドン!」
デートの相談に乗ったついでにツーショット、とニコニコニコ。
「ノルディは毎回、どっちかを撮ろうとするんだけれど…。ハーレイの方は全然ダメだね」
将来に向けての練習にすらもなっていない、とソルジャーはバッサリ切り捨てました。
「でもねえ、ぼくもイケメンデート隊として活動を始めたからには頑張らなくちゃ!」
「……何を?」
おっかなびっくり尋ねた会長さんですが。
「それは当然、デートコンシェルジュの仕事ってヤツ! ノルディの方はさ、ぼくの好みに合ったデートに誘ってくれればいいんだけれど…。目指すはこっちのハーレイだよ!」
君が喜びそうなデートコースを思い付くよう指導するから、とソルジャーは思い切り燃え上がっていました。会長さんと教頭先生のデートに向かって協力あるのみ、と。
「でもって、デートに漕ぎ着けたからには、キスだってして欲しいしねえ…! 肝心の所でヘタレないよう、ぼくと何度もツーショットを撮って練習を!」
顎クイと壁ドンを決められるように、とソルジャーがブチ上げ、会長さんが。
「迷惑だから!!」
その活動を今すぐやめろ、と怒鳴りましたが、ソルジャーは我関せずで。
「別にいいだろ、このぼくがタダで働くと言っているんだからさ!」
「中身がとっても迷惑なんだよ、イケメンドリーム隊なら害は無いけど!」
「それなんだけどさ…。本家本元のイケメンショコラ隊の方だと、ちょっと問題ありそうだって君も悩んでいたじゃないか!」
それの親戚だと思っておいて、とケロリとしているイケメンデート隊なソルジャー。えっと、イケメンショコラ隊だと、バレンタインデーに本命の人がいるのに道を踏み外しそうな感じでしたし、ソルジャーのイケメンデート隊も…?
「そういうこと! 多少の問題は大いにオッケー、楽しんで貰えればいいってね!」
とりあえずイケメンドリーム隊は役に立ったようだし、それにあやかって役立つイケメンデート隊だ、と思い込んでしまっているソルジャー。打ち上げパーティーに出て来たからにはやる気満々なんでしょうから、放っておくしかありません。
「…どうします?」
「俺が知るか!」
俺たちの仕事は今日で終わった、とキース君たちも投げていました。会長さんには気の毒ですけど、イケメンショコラ隊を見付けて来たのも、イケメンドリーム隊を結成したのも会長さん。自業自得ということで放置でいいんですかね、ここのイケメンデート隊…。
「うん、ぼくは放置でかまわないよ? コツコツ一人で努力するしね!」
キースたちを見習って頑張らなくちゃ、と燃えまくっているソルジャーの目標は、お役立ちだったマツカ君だということです。マツカ君がソルジャーの目標になる日が来るなんて…。
「世の中、マジで分かんねえよな…」
「ぼくにも全然分からないよ…」
もう謎だらけでいいんじゃないかな、とサム君とジョミー君が頷き合って、会長さんはまだギャーギャーと騒ぎ続けています。ソルジャーに言うだけ無駄じゃないですかね、馬の耳に念仏みたいなもので。
「…念仏くらいは唱えてやるがな…」
タダだからな、とキース君が唱えるお念仏。イケメンデート隊には全く効かないでしょうが、ここは気持ちで一応、唱えておきましょう。会長さんに被害が及ぶ前にソルジャーが活動に飽きてイケメンデート隊をやめますように。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…。
イケメン様々・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
生徒会長がヒントにしていた、イケメンショコラ隊。実は本当に存在しました、数年前に。
それのお蔭で、多忙だった男子たち。おまけにソルジャーまでが便乗、凄い企画かも…。
2020年の更新は、これが最終ですけど、「ぶるぅ」お誕生日記念創作の方もよろしく。
まさかのコロナで大変だった2020年。来年は良い年になるといいんですけどねえ…。
次回は 「第3月曜」 1月18日の更新となります、よろしくです~!
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、12月はクリスマスが大問題。ソルジャーたちが来るわけで…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv