忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

借りて読む本
(あ…!)
 素敵だよね、とブルーが手に取った本。学校の休み時間に、図書室で。
 生徒の注目を浴びるようにと、表紙を見せて置いてあった一冊。大きめの本で、目に入ったのはカラーで刷られた古代の遺跡。それが表紙になっている。
 遺跡なのだし、遠い昔に地球と一緒に滅びたもの。
 大気汚染による劣化を免れた遺跡も、地球が燃え上がった時の地殻変動で全て壊れてしまった。今は何一つ残ってはいない。「此処にあった」と復元されたものはあっても。
(えーっと…?)
 ページを繰ったら、遺跡の写真と、それに添えられた解説など。遠い昔の「地球」が一杯。
 前の自分が焦がれた地球。青い星だと信じていた頃、地球というだけで憧れた。自然にも、人の営みにも。この写真のような、遥か昔の遺跡などにも。
(人間が住めない星になっても…)
 遺跡は残っていたかもしれない。そう思ったのが前の自分。
 SD体制を敷いたお蔭で、地球が青い星に戻ったのなら、その遺跡たちを訪ねる人も何人も。
(昔みたいに写真を撮ったり、観光したり…)
 そういう平和な光景だってあるのだろう、と夢を見ていた。いつか自分も行けたらいい、と。
(だけど、何もかも無くなっちゃった…)
 今はもう、何処を探しても無い古代の遺跡。遠い昔の人が築いた、都市や神殿などが崩れた跡。かつて其処にも人がいたのだ、と教えてくれる加工された石や、壊れてしまった柱やら。
(この本の写真は、全部本物…)
 遺跡があった頃に撮られた写真で、データを元に印刷されたものばかり。
 気が遠くなるほどの時を越えて来て、この本の中に収まっている。SD体制に入る前の滅びと、SD体制の終わりと共に訪れた地球の炎上を、ちゃんと生き延びて。
 恐らくノアや他の惑星に、データが残してあったのだろう。
 地球が蘇る時に備えて、動植物を保護し続けたように。「かつての地球の姿」も同じに、けして失われてしまわないように。
 復元するつもりは無かったとしても、「人が生きた証」を残そうとして。
 母なる地球でどう「生きた」のか、どんな文化を築いたのかと。



 SD体制の時代は様々な文化が消されたけれども、この遺跡たちの写真は残った。二度の滅びを立派に乗り越え、こうして編まれて本にもなって。
(せっかくだから…)
 此処でパラパラ眺めているより、家に帰ってゆっくり読みたい。自分の部屋で、気の向くままにページを繰って。
 勉強机で読むのもいいし、ベッドに腰掛けて読むのもいい。こんなに素敵な本なのだから。
(借りて帰ろうっと!)
 いそいそと抱えて、早速借りることにした。図書室の貸し出しカウンターに行って、その一冊を差し出して。「お願いします」と、係の人に。
 手続きは直ぐに済んだけれども、借りられる期間は三日だという。三日だけしか借りられない。たったの三日で、今週の内に返却期限が来てしまう。
(…なんで?)
 三日だなんて、と目を丸くした。図書室の本は、普通は一週間借りられるのに。本によっては、もっと借りられるものもあるのに。
(どうしてなの…?)
 係の人に尋ねてみたら、教えて貰えた貸し出し期間が短い理由。
 この本は人気が高いけれども、それと同じに値段の方も高かった。裏表紙に刷られている値段。
(お小遣いで買うには、ずいぶん高くて…)
 よほど惚れ込んだ生徒くらいしか、この値段で本は買わないだろう。これだけあったら、色々なものが買えるから。安い本なら、何冊も。お菓子は山ほど、他にもあれこれ買えそうな額。
 遊びたい盛りの生徒たちだと、こういった本は買いもしないで、お小遣いを使うなら違う目的。本屋に行っても、別の棚へと出掛けて行って。「これと、これ」などと選び出して。
 そうなるだろう本を、少しでも多くの生徒に読んで貰いたい、と短くされた貸し出し期間。
 読み終えた生徒が返しに来たなら、次の生徒の所に行く。
(一日あったら読める生徒でも…)
 貸し出し期間が一週間だと、なかなか返しに来ないもの。「図書室に行くのは面倒だ」などと。
 けれど三日なら、急いで返しにやって来る。ウッカリしていて延滞したなら、次に借りる時に、面倒なことになってしまうから。「遅れた罰」と、暫くの間、何も貸し出しては貰えないとか。



 三日間しか貸して貰えない本。図書室の他の本と違って。
(ぼくが病気で休んじゃったら…)
 もちろん返しに来られないから、自動的に返却期限が延びるけれども、他には延長方法は無い。三日間借りて返せばおしまい、次の生徒に回るだけ。
(続けて貸して下さい、って…)
 頼みたくても、それは出来ない。係の人に返した本は、その場では棚に戻らない。貸した間に、本が傷んだりしていないかとチェックするから。傷んでいたなら、補修もする。
(奥に運んで、ちゃんと調べて…)
 それから棚に戻すのだから、早くても次の休み時間までは出て来ない。そうやって棚に置かれたならば、図書室に来た生徒が手に取り、貸し出し手続きを始めてしまう。
 こうして自分がやっているように、「この本を貸して下さい」と。
 係の人は、貸し出し記録が書いてあるノートを広げてくれた。「この本は、これ」と指差して。
(…本当だ…)
 見せて貰った貸し出し記録は、日付がビッシリ詰まっていた。三日間ずつ借りた生徒が、次々に本を借りて行った結果。
(ぼくが今、これを借りたけど…)
 自分の名前の前の記録は、今日の日付になっている。朝一番に返した生徒がいたのだろう。
 返却された本は奥に運ばれ、傷んでいないかチェックを済ませて、あそこに置かれた。カラーの表紙がよく見えるように、目立つ所に。
 きっと自分は、たまたま運よく出会えただけで…。
(もうちょっと遅く来ていたら…)
 他の誰かが借りてしまって、この本はもう無かったのだろう。誰かの家で三日を過ごして、また戻っては来るけれど…。
(今日まで、一度も見てないんだから…)
 次に戻って来た時だって、存在にさえも気付かないまま。他の誰かが借りて帰って、あの棚には置かれていないから。…其処に無ければ、「ある」とも思いはしないから。
 目の前で誰かが借りて行ったら気付くけれども、今日まで一度も出会ってはいない。もう本当に運の問題、出会えもしないで終わっていたかもしれない本。



 そうだったんだ、と気付かされたら、本との出会いの重みが増す。三日間しか一緒にいられないだけに、とても大切で素敵な出会い。
 大事に家に持って帰って、おやつの後に部屋で広げた。勉強机の前に座って。
 図書室で一目で惹き付けられた、古代遺跡が刷られた表紙をめくったら…。
(ホントに地球だ…)
 どれも地球だよ、と載っている遺跡たちの写真に心が温かくなる。遥かな昔の、汚染される前の地球で撮られた写真たち。何処までも青く澄んだ空やら、遺跡の向こうに広がる海や。
(SD体制の開始を決めた頃には…)
 この空も海も、とうに無かった。大気は汚れて濁ってしまって、海からは魚影が失われて。
 残っていた遺跡も、くすんでしまっていたことだろう。有毒の塵や、砂漠化した場所から飛んでくる砂に包まれて。白かった石の柱なんかも、元の色など分からないほどに。
(そうなる前の、青かった地球…)
 其処で撮られた、何枚もの写真。撮影時期は二十世紀だと書かれたものまでがある。
 二十世紀は、本当に遠い昔のこと。SD体制が始まった時代より、千五百年は優に遡る。そんな頃なら、地球は文字通り青かったろう。蘇った今の地球と同じに、空も海も青い水の星。
(この写真も、二十世紀ので…)
 ホントに綺麗、と見惚れた遺跡。
 他の写真も、どれも本物。古代の遺跡を彩る植物、それは確かに「生えていた」もの。写真家がカメラを構えた時に、其処に息づいていた植物たち。
 白い遺跡に映える赤いケシも、砂漠の中の遺跡の池で花開いている睡蓮も。
 遺跡の上を飛んでゆく姿が写った小鳥も、崩れた遺跡の庭で昼寝をしている猫も、全てが本物。
 遠い昔に其処に「いた」もの、写真の中には幾つもの命。
(遺跡は崩れちゃってても…)
 もっと昔に其処で暮らした人の営み、それは壊れて廃墟になっても、別の命が息づいていた。
 砂漠だろうと、遺跡を覆って飲み込んでゆく熱帯雨林だろうと。
 地球はそうして命を紡いで、また新しい国や文化があちこちに出来ていったのだろう。
 全ての命は地球から生まれて、地球へと還ってゆくべきもの。
 前の自分が夢見た世界が、写真の中に詰まっている。母なる地球の真の姿が。



 ページをめくれば、遺跡と其処に息づく命。一枚の写真を見詰めてゆくと、色々なものが見えてくる。隅っこの方に小さな花が咲いているとか、猫の尻尾だけが写っているとか。
 古代の遺跡は、廃墟とも言える。其処で暮らした人間たちは消えてしまって、建物なども崩れてしまった後なのだから。
 それでも新たな命が見える。人間ではなくて、植物でも。遥か上空を飛ぶ鳥たちでも。
(いいな…)
 本当に本物の地球が一杯、と見れば見るほど惹き付けられる。この本が欲しくなってくる。
 三日しか貸して貰えないなら、自分で買えばいつでも見られる。次に借りられる機会を狙って、図書室通いをしなくても。
(貸し出し記録が、あんなにビッシリ…)
 それなのに今日まで出会えなかったし、借りたいと思って通い続けても、出会えるかどうか。
 ほんの少しの時間の差だけで、他の生徒が借りてしまうとか。「あった!」と見付けて、棚へと歩いて行った途端に、他の生徒が先に掴んでしまうとか。
(…そういうことって、ありそうだよね…)
 運にはあまり自信が無いから、悲しい目に遭ってしまう時だって来そう。「今日も無かった」と別の本の貸し出しを頼んでいたら、他の生徒が「お願いします!」と隣で手続きを始めるだとか。
(一度に何冊も借りる子だっているんだから…)
 この本を借りようと決めた後にも、他の本を探してウロウロしても不思議ではない。山のようにカウンターに差し出した中に、この本が一緒に混じっていても。
(それって、悔しい…)
 せっかく会えても、別の生徒が「借りる権利」を持っているなんて。
 自分よりも先に見付けてしまって、家へと持って帰るだなんて。
(そんなの、嫌だよ…)
 とても素敵で、飽きない遺跡の写真たち。本物の地球が詰まっている本。
 前の自分が此処にいたなら、きっと抱き締めることだろう。「地球だ」と、それは嬉しそうに。
 自分の場合は地球に生まれたから、其処までのことはしないだけ。
 けれど惹かれて、離したくない。
 三日間の貸し出し期間が過ぎたら、返さなくてはいけない本でも。



 返した後にも読みたいのならば、目の前で誰かに掻っ攫われても、この本を手にしたいなら…。
(自分で買うしかないんだよね?)
 それよりも他に方法は無くて、買えばこの本は自分のもの。本棚に仕舞って、いつでも読める。見たいページを好きに広げて、遥かな昔の地球へと飛べる。二十世紀の世界にだって。
(…いつの本かな?)
 そんなに古くはなさそうだけど、と奥付を見ると、初版は何年か前だった。それから何刷も版を重ねて、この本が刷られたのは去年。
 こんなに何度も重版している人気の本なら、街の大きな書店に行ったら買えそうだけれど…。
(…お金……)
 生憎と、本を買うためのお金が足りない。子供が買うには高すぎる本。
 お小遣いの一ヶ月分をはたいてみたって、とても買えない。お小遣いを貯めて買おうにも…。
(んーと…?)
 この本の他にも、欲しいものなら色々とある。お小遣いを使うべき場面。
 学校で食べるランチ代は貰っているのだけれども、それ以外に何か食べる時にはお小遣いから。そう両親と約束したから、友達と休み時間にジュースを買ったら、お金は減る。その分だけ。
 ちょっとした本などが欲しくなっても、同じこと。払った分だけ、減るお小遣い。
(この本、買うには…)
 お金を貯めていかないと無理。お小遣いの中から、少しずつ。
 一ヶ月分を取っておくのは無理だし、毎月、残った分だけを貯める。引き出しの中に別の財布を入れておくとか、「本を買うお金」と書いた封筒を作るとかして。
 一ヶ月分のお小遣いでは買えない値段の本を買うなら、その方法で何ヶ月かかることだろう?
 余った分だけ貯める方法、それでお金を貯めてゆくなら。
 今すぐに買いに行けはしないし、どう頑張っても三ヶ月以上かかりそう。三ヶ月だって、多分、ギリギリ。友達とジュースを飲む回数を減らしてみるとか、工夫が必要。
(貯金を使えば、直ぐに買えるけど…)
 小さい頃から貯めている貯金は、本に使うより、もっと大切な何かの時に使いたい。ハーレイの誕生日のプレゼントにさえ、貯金は使わなかったのだから。
 もっとも、あれは「背伸びして」買っても、喜んで貰えないだろうと思ったせいなのだけど。



 誰よりも好きな、ハーレイに贈りたかった羽根ペン。お小遣いでは買えない値段だった品。
 あれを贈った時にも貯金は使っていないのだから、本を買うのに使うのは自分が納得できない。本が欲しいのは自分の我儘、そんなものに貯金を使うだなんて。
 そうなってくると、この本は…。
(諦めるしかないんだよね…?)
 いくら欲しくても、買うためのお金が無いのだから。お小遣いではとても買えなくて、頑張って貯めてゆくしかない。何ヶ月もかけて、節約のための工夫もして。
(そうやって、お金を貯めたって…)
 本当に先が見えない計画。「今月はこれだけ貯めなくちゃ」と思っていたって、ウッカリ何かを買ってしまったら、それで狂ってしまう計画。ジュースを飲むのを我慢したって、使ってしまった分の穴を埋められないままで。
 三ヶ月くらい、と目標を立てて貯めようとしても、果たして貯まっているのかどうか。三ヶ月の筈が四ヶ月になって、四ヶ月から五ヶ月、更に六ヶ月。…そういったことも、充分、ありそう。
(貯めて買うのは無理そうだから…)
 お小遣いで買うのは、諦めるのが正しいと思う。計画倒れに終わってしまいそうだから。貯めるために封筒を用意したって、専用の財布を引き出しに入れておいたって。
 父に「買って」と強請りたくても、本の中身は遠い昔の遺跡の写真。前の自分が生きた時代とは無縁のもので、シャングリラとも何の関係も無い。
(シャングリラの写真集は買って貰えたけれど…)
 豪華版のそれは、この本よりもずっと高いけれども、父は気前よく買って来てくれた。「お前が欲しがってたヤツだ」と、頼んでから何日も経たない内に。
(前のぼくのこと、パパは知っているから…)
 懐かしい白い鯨の写真を集めて編まれた本を、ポンとプレゼントしてくれたけれど。高価な本をくれたけれども、この本はそうはいかないだろう。
(いくら前のぼくがソルジャー・ブルーでも…)
 地球に惹かれることを父が知っていても、この手の本を端から買ったらキリが無い。青い地球の本は沢山あるから、あれも、これも、と強請られて。
 学校の図書室や新聞の紹介欄で見る度、「これが欲しいな」と言うだろうから。



 いくらでもある地球の本。この本は古代の遺跡だけれども、自然の風景を収めた本も多い筈。
 他にも色々、滅びる前の地球に関する本たちがあって、これからも出版されるだろうし…。
(この本よりも、もっと欲しい本が出ちゃった時に…)
 強請れなかったら、とても困るから、父に「欲しい」とは頼めない。買って貰って喜んだ後に、別の本に出会って欲しくなっても…。
(この前、買ってやっただろう、って…)
 きっと言われて、それでおしまい。「欲しいなら、お小遣いを貯めて買うんだな」などと。
 そうなった時に後悔しても遅いし、諦めるしかなさそうな本。お小遣いを貯めて買うという道で挫折しそうなら、今の間に、潔く。
(…三日間だけ…)
 三日しかない、この本を読んでいられる期間。買うのは無理で、父に買っても貰えないなら。
 返却の日がやって来たなら、其処でお別れ。またいつか借りることが出来るかは、運次第。運が良ければ出会えるだろうし、悪かったならば出会えないまま。
(三日しか持っていられないんだし…)
 学校に行く時も持って出掛けようか?
 返却の日はまだ来ていなくても、休み時間に広げて楽しめるように。
 家ではもちろん、寸暇を惜しんで。…食事やお風呂や寝る時間以外は、この本に充てて。
(…ハーレイが来ちゃったら、駄目だけど…)
 本を読むより、ハーレイと話す方がいい。だからその間は本はお休み、と思った途端に閃いた。
 「ハーレイだよ!」と、それは素晴らしいアイデアが。
(お土産、たまにくれるんだから…)
 いつも食べ物ばかりだけれども、貰えるお土産。「美味そうだから」などと、提げて来て。
 そのハーレイに、「この本が欲しい」と強請ってみよう。
 プレゼントしてはくれないだろうし、代わりに本の代金を借りる。お小遣いのように。
(ママには前借り、頼めないけど…)
 お小遣いの前借りなどは無理。「何に使うの?」と訊かれて、「駄目ね」と返ってくるだろう。
 「充分、渡してある筈よ」と言われた上に、「それで買えないなら、貯めなさい」と。
 「貯めて買えるだけは渡してあるのに、前借りだなんて、無駄遣いでしょ」などと叱られて。



 母に頼めば、「前借りなんか、絶対に駄目」と言われておしまい。母の考えは正しいから。
(ぼくの友達、お小遣いを前借りした時は…)
 誰もが、きちんと約束をする。「来月の分は要らないよ」だとか、「三ヶ月、お小遣いは無しでいい」とか。そう約束して、誓約書だって書く友達もいるけれど…。
(…みんな、絶対、守らないんだよ…)
 お小遣いを貰っている日がやって来たなら、当たり前のように頼む「お小遣い」。その月の分は前に貰って、使ってしまった後なのに。場合によっては、三ヶ月も先のお小遣いまで。
 それでも「ちょうだい」と手を差し出しては、自分のピンチを訴えるもの。お小遣いが無いと、何処にも遊びに行けないだとか、じきに発売の新商品を買いに行けないだとか。
 そういうケースは母も充分、知っている筈。同じ年頃の子供の親から聞いたり、新聞などで目にしたりして。「お小遣いの前借り」を頼んだ子供が、その後で何をしでかすかは。
(ぼくはきちんと守るから、って言ったって…)
 きっと信用して貰えない。今までに一度もやっていないだけで、「初の前借り」をして踏み倒すことは大いに有り得る。母から見たなら、自分も「子供」に違いないから。
(ママは絶対、駄目って言うよね…?)
 どんなに頭を下げてみたって、「無駄遣いでしょ」と切り捨てられるだけ。
 けれど、ハーレイになら借りられそう。
 なんと言っても恋人なのだし、前の生からの信用だって大きい筈。ソルジャー・ブルーはお金を使わなかったけれども、約束は守る人間だった。…メギドに向かって飛んで行った時を除いては。
(あれが例外で、他の時には約束を守っていたんだし…)
 頭ごなしに「踏み倒すだろう」と、決めつけたりはしないと思う。世間の母親たちのようには。
 それに、少しずつ返してゆくことも出来そうな感じ。
 お小遣いを貰う日がやって来た時に、前の月のが残った分だけ。「今月はこれだけ」と、本当に僅かな額にしたって、ハーレイなら、きっと叱らない。
(お小遣いが残っていた分だけ…)
 精一杯の額を返す形でも、「返した」ことは間違いない。踏み倒さずに、ちゃんと。
 そうやってハーレイに返していったら、いつかは全額返せるだろう。
 塵も積もれば山となる。ジュースなどを無理に我慢しなくても、きっといつかは。



 それがいいかも、とポンと打った手。まさに名案。
 母に借りるのは無理だけれども、ハーレイなら貸してくれるかもしれない。恋人同士で、信用もあって、おまけに立派な大人なのだから。
(ハーレイだったら、貸してくれそうだよね?)
 家に来てくれた時に頼もう、と考えていたら、聞こえたチャイム。仕事帰りのハーレイが訪ねて来てくれたから、広げていた本をパタンと閉じた。ハーレイと過ごす時間に読みはしないし、次に開くのは、お風呂上がりになるだろう。
 けれど、その前に大切なことをしなければ。…あの本を手に入れたかったら。
 本は勉強机に残して、ハーレイと向かい合わせで座ったテーブル。其処で早速、切り出した。
「あのね、お願いがあるんだけれど…。ぼくにお金を貸してくれない?」
 これだけほど、と口にした本を買うのに必要な額。お小遣いの一ヶ月分より、ずっと高い値段。
「はあ? 貸してくれって…」
 俺にか、とハーレイは自分の顔を指差した。「お父さんたちは、どうなったんだ?」と。まずはそっちに頼んでみろ、という意見は当然なのだけど…。
「頼んでみたって、パパやママには借りられないから…」
 ぼくみたいな年の子供が借りても、お金、絶対、返さないでしょ?
 友達の話を聞けば分かるよ。前借りしたって、返す友達、いないから…。借りたまんまで、次のお小遣いを貰いに行くのが当たり前。…ぼくが聞くのは、そんな話ばかり。
 ぼくは前借り、したこと無いけど、パパもママも「駄目」って言いそうだよ。返しに来ないの、何処の子供でも同じだから…。ぼくもそうだと思われちゃって。
 だから貸しては貰えないのに、欲しいものがあって…。でも、お小遣いじゃ買えなくて…。
 ハーレイは買ってくれないだろうし、お金だけ貸して。…それでいいから。
「ほほう…。プレゼントを寄越せと言うんじゃないんだな?」
 お前の小遣いでは買えない何かを、俺にプレゼントして欲しいとは…?
「それは駄目だって言いそうだもの。…ハーレイがくれるの、いつも食べ物ばかりだし…」
 プレゼントして、って頼んでも無駄でしょ、ぼくが欲しいのは食べ物じゃないから。
「よく分かってるじゃないか、チビの割には」
 一度だけとか、今度だけとか、そう言わないのが。…プレゼントして、と頼まない辺りはな。



 ガキの場合は、そいつの方も王道なんだが、とハーレイは可笑しそうな顔。確かに、それだって多そうではある。「今度だけだよ」と駄々をこねる子供も。
「ぼくは、そんなの言わないから…。我儘じゃないから、だから、お願い!」
 お金を貸して欲しいんだってば、借りたいのはこれだけ…。それだけあったら買えるから。
 借りたお金は、踏み倒さないで少しずつ返すよ、と頭を下げた。
 ハーレイがお金を貸してくれたら、借用書を書いて、毎月、少しずつ返してゆく。その月の分のお小遣いの中から、残った分だけ、ハーレイに。
 決まった額を返してゆくのは難しいけれど、無理なく返してゆくことは出来る。お小遣いが残り僅かな時には、少しだけ。多めに残っていた時だったら、その分だけ。
 そうして返して、ハーレイに借りたお金と差し引きゼロになったら、それでおしまい。
 何ヶ月かかるかは謎だけれども、その方法なら、必ず全額返せそうだから。
「ふむ…。借金を返す方法としては、現実的なヤツではあるな。お前が返せる分だけってのが」
 その方法なら、お前も無理に我慢しなくても大丈夫だし…。返せない月があったっていいし。
 だが、其処までして何が欲しいんだ?
 食べ物じゃないというのは聞いたが、お前が買いたいヤツというのが気になるなあ…。
 俺には尋ねる権利があるぞ、とハーレイに訊かれた、借りるお金の使い道。ハーレイも、其処は気になるだろう。無駄遣いをするというのだったら、とてもお金は貸せないから。
 だから、素直に「本だよ」と答えた。
「図書室で借りた本なんだけど…。とても素敵で、それが欲しくて…」
 だけど、お小遣いだと買えないんだよ。
 …シャングリラの写真集みたいな豪華版とは違うけれども、子供が買うには高すぎる本。
 貯金を使えば買えるけど…。でも、本を買うのに貯金を使うのは嫌だから…。
 貯金はもっと大切な時に使うものでしょ、と話したら、ハーレイも否定しなかった。
「その考えは間違っていないぞ、うん。貯金ってヤツは、ここ一番って時に使ってこそだ」
 少しずつ使って無くなったんでは、貯金していた意味が無い。もっとデカイことに使わんと。
 それにしても、お前が其処まで欲しがるだなんて、珍しいなあ…。何の本なんだ?
 俺も俄かに興味が出て来た。
 図書室で借りた本だと言ったな、あるんなら見せてくれないか…?



 まだ返却していないんならな、という注文。もちろん見せない理由など無い。お金を借りたいと頼むからには、欲しいものだって見せるべきだろう。
 三日間しか貸して貰えない本だと言っても、見せたって減りはしないのだから。
「…この本だよ」
 椅子から立って、勉強机から本を取って来た。古代の遺跡のカラー写真が表紙の本を。
 その本をテーブルの上に置いたら…。
「ああ、これか。…如何にもお前が好きそうだよな」
 本の中には、昔の地球が一杯だから。すっかり滅びてしまうよりも前の、元気だった頃の地球。
 空も海も今と同じに青くて、それでいて、遠い昔の遺跡がドッサリだ。
 二十世紀に撮られた写真も、山ほど入っているんだから。
 実に見応えのある本だ、とハーレイがスラスラと語った中身。本の表紙をめくりもせずに。
「…知ってるの?」
 ハーレイ、中を見ていないよね?
 サイオンで覗きもしてないだろうし、この本の中身、見たことがあるの…?
「それはまあ…。図書室の目玉の本だしな。お前の学校の教師だったら、知ってるだろう」
 図書室に行けば、誰でも一度くらいは見掛けるから。貸し出し前に、チェックをする所とか。
 仕事柄、貸し出しカウンターの奥の世界も、教師には馴染みの空間だってな。
 どの本がよく借りられているか、そういった話も耳にする。新しく入る本の情報なんかも。
 もっとも俺は、そうでなくても知ってるんだが。…その本の中身。
「え?」
 それって、先生じゃなくても知ってるってこと…?
 何処かで見掛けたことがあるとか、前にいた学校の図書室にも置いてあったとか…?
 それとも誰かに借りて読んだの、ちゃんと解説まで見てなかったら、二十世紀の写真なんかには気が付かないよね…?
 ただの綺麗な写真だもの、と問い掛けた。「どうして中身を知っているの?」と。
「簡単なことだ、俺が持ってる。…その本は俺の家にあるんだ、俺の書斎の本棚にな」
「えーっ!?」
 この本がハーレイの家にあるって、本当に?
 それで中身を知っていたわけ、表紙を見ただけで中身が分かっちゃったんだ…?



 嘘みたい、と目をパチクリと瞬かせたけれど、ハーレイの言葉は嘘ではなかった。
 何年か前に出版されて、今でも版を重ねている本。それをハーレイは、前のハーレイだった頃の記憶が戻る前から、手元に置いているという。
 本屋で見付けて、迷いもしないで手に取って。パラパラめくって、直ぐに買おうと決めて。
「いいな…。ハーレイ、この本、持っているんだ…」
 ぼくは三日間しか貸して貰えないのに、ハーレイは家で好きに見られて、返さなくて良くて…。
 それに、この本、ぼくが買ったら、ハーレイとお揃いになるんだよね。…この本だって。
 お願い、ハーレイ、お金、貸してよ。
 借用書だったら直ぐに書くから。次のお小遣いを貰った時から、ちゃんとお金を返すから…!
 これだけ貸して、と本の値段をもう一度言った。ハーレイにそれを借りようと。
 なのに…。
「いや、断る」
 お前に金は貸してやれない。いい本を買いたいことは分かったが、駄目なものは駄目だ。
 俺は貸さん、と断られてしまった「ハーレイにお金を借りる」こと。ついさっきまでは、貸してくれそうだったのに。
「貸してくれないって…。どうしてなの?」
 ぼくはきちんと返すって約束をしたし、ハーレイだって、返せそうだって言ってたじゃない!
 何に使うのかも訊いていたのに、どうして駄目だっていう方に行くの…?
 この本はいい本だと思うんでしょ、と食い下がった。ハーレイも一目惚れをして買った本だし、スラスラと口にしていた中身。本の良さが分かっているのだったら、断らなくてもいいのに、と。
「いい本には違いないんだが…。俺だって持ってるんだしな? 其処の所が問題だ」
 お揃いを買うって方に行っちまっただろ、お前の頭。…俺が持ってるのと、お揃いの本を。
 俺とお揃いの本が欲しい気持ちで一杯なんだよな、今のお前は…?
「そうだけど…?」
 だって、お揃いになるんだもの。この本を、ぼくが買いさえしたら。
 ハーレイの家には、もうちゃんと買ってあるんだから…。何年も前から、あそこの書斎に。
 後はぼくがハーレイから借りたお金で、この本を買いに行くだけだよ。
 そしたら、お揃い。…シャングリラの写真集と同じで、お揃いの本がもう一冊。



 新しいお揃いは地球の本だよ、と念を押すのも忘れなかった。
 「前のぼくたちが行きたかった、地球」と、「滅びちゃう前の地球の遺跡の写真が一杯」と。
「本当に青かった頃の地球だよ、それに今では無くなっちゃった遺跡が沢山…」
 海も空もホントに凄く青くて、植物もあって、空には鳥が飛んでて…。昼寝をしている猫だっているよ、命が溢れているんだってば。…遺跡は廃墟になっちゃっていても。
 ぼくがどれほど欲しい本なのか、ハーレイに分からないわけがないでしょ…?
 おまけにハーレイとお揃いの本になるんだから、と「お金を貸して」と頼んだけれど…。
「俺が持ってる本と、お揃いなあ…。それが無ければ貸したんだろうが…」
 この本が欲しいと言うだけだったら、俺だって貸してやっただろう。借用書だなんて言わずに、それこそ口約束だけで。…お前が踏み倒して逃げちまっても、「子供だから」と許してやって。
 だが、お揃いの本が欲しいだなんていう、不純な目的。
 そいつのためには貸せやしないな、ビタ一文というヤツだって。
 俺は貸さん、とハーレイは腕を組んでしまった。財布を取り出してくれる代わりに。
「そんな…!」
 ハーレイが持っていることなんて、ぼくはさっきまで少しも知らなかったんだよ…?
 この本が欲しいと思ってただけで、だけど、お金が足りなくて…。パパに強請っても、この本は買ってくれそうにないし…。ママはお小遣いの前借り、絶対、許してくれそうにないし…。
 だからハーレイに頼んでいたのに、そんな理由でお金を貸してくれないだなんて…!
 酷い、と悲鳴を上げたけれども、ハーレイの考えは変わらなかった。駄目なものは駄目で、腕を組んだまま。「貸してやろう」と財布を出してはくれずに。
「お前には気の毒ではあるが…。お揃いってヤツを増やす手伝いはしてやれん」
 何かと言えば、お揃いを欲しがってるのがお前だ。
 俺とお揃いのものが欲しくて、持っていないってわけじゃないのに、まだ欲しがってる。
 そんなお前が大喜びする、俺とお揃いの本とやら。…そいつを俺が買ってどうする?
 俺の金を貸してやるってことはだ、お前は俺の金で買うんだ。お揃いの本を。
 借りた金を全部返さない限り、お前は俺の金で買った本を持ってるわけで…。
 まるでプレゼントしたみたいじゃないか、俺がお前にお揃いの本を買ってやって。
 本屋まで買いに出掛けて行くのは、お前だったとしたってな。



 断固、貸さんぞ、と揺るぎもしないハーレイの答え。何度頼んでも、頭を下げても。
 ハーレイにお金を借りられないなら、じきに本との別れの日が来る。貸し出し期間は三日だけ。それが過ぎたら、図書室に行って係に返すしか無いのだから。
「…それじゃ、この本、たったの三日…」
 三日だけしか読めないって言うの、ぼくが自分で買えないんなら…?
 図書室に返しておしまいになるの、他の誰かが借りてしまって、二度と借りられなくて…?
「そうなるな。休み時間の間だけしか、生徒は図書室にいられないんだし…」
 返した後にまた借りようと、カウンターの前に立って待ってはいられんだろう。もう一度、棚に並ぶ時まで、あそこで待つのは無理ってもんだ。
 授業の合図のチャイムが鳴ったら、生徒は出てゆく決まりだからな。
 係の人に追い出されるぞ、というのは正しい。図書室に残っていることは無理で、生徒が授業を受けている間に、次の貸し出しのためのチェックが済む。必要だったら、補修なども。
 そうして本は棚に並んで、授業が終わった生徒を待つ。「これを借りよう」と思う誰かが、手に取るのを。今日の自分がそうやったように、貸し出しカウンターに運んでゆくのを。
 今日は運よく出会えたけれども、二度目のチャンスは無さそうな本。貸し出し期間は三日だけという短さの本で、貸し出し記録がビッシリ並んでいたのだから。
「やっぱり、次は借りられないんだ…。本の予約は出来ないし…」
 凄く素敵な本なのに…。前のぼくなら、抱き締めそうなくらいの本なんだけどな…。
 だけど、たったの三日でお別れ。…そういう決まりなんだもの…。
 短すぎだよ、と嘆いた本の貸し出し期間。せっかく出会えた本だというのに、三日でお別れ。
 これが特別な本でなければ、一週間は借りていられるのに。
 もっと値段が安かったならば、街の大きな書店に出掛けて、同じ本を買って帰れるのに…。
「どうするんだ、チビ」
 俺は金など貸してやれんが、頑張って金を貯めて買うのか?
 計画的に貯めていったら、お前の小遣いでも、いつかは買えると思うがな…?
 まだまだ絶版にはならない筈だし、本の方では、お前を待っていてくれそうなんだが…?
「どうしよう…?」
 欲しいんだけど…。買いたいんだけど、でも、お金…。ぼくのお小遣い…。



 そう簡単には貯まらないよ、と絶望的な気分。ハーレイが来る前に考えた結果が、お金を借りることだったほど。自分でそれだけ貯めてゆくのは、きっと難しいだろうから。
(…凄く欲しいけど、でも、高くって…)
 ぼくのお小遣いじゃ買えやしない、と項垂れた。計画的に貯めようとしても、ウッカリ何処かで使ってしまう。友達とジュースを飲んでしまったり、他の本を買ってしまったりして。
 お小遣いでは、貯められそうにない金額。どんなにこの本が欲しくても。どんなに素敵で、前の自分が出会っていたなら、胸に抱き締めそうな本でも。
(…お金が無ければ、本屋さんに行っても買えないし…)
 三日だけでお別れなんだよね、とカラーで刷られた表紙を眺めて俯いていたら…。
「そうしょげるな。…心配しなくても、俺が貸してやる」
 この本ならな、とハーレイが腕組みを解いた。気が変わったとでも言うのだろうか?
「貸してくれるって…。さっき、駄目って言わなかった?」
 ぼくが何度もお願いしたのに、絶対に貸してやらない、って…。ぼくがお揃いを欲しがるから。
「それは金だろ、俺が貸さないと言ったのは。…本となったら話は別だ」
 気に入ったんなら、俺が持ってるのを貸してやるから。俺の書斎に置いてある本。
 お前が読みたがっているのに、貸さないと言うほどケチではないぞ。…本を買う金は、お前には貸してやれないがな。
 本の方なら貸してやろう、と思いがけない言葉を貰った。ハーレイの蔵書を貸してくれると。
「ハーレイの本って…。ホントにいいの?」
 ぼくが借りちゃっても本当にいいの、ハーレイ、後で後悔しない…?
 貸しちゃっていたら、その間は、ハーレイ、この本を家で見られないのに…。
「そのくらいは別にかまわんさ。本なら他にもドッサリあるしな、違う本を読むというだけだ」
 お前に貸してあったんだっけな、と別の本を出して読んでいればいい。…俺の方なら。
 だが、無期限で貸すというわけじゃないぞ。金を貸すのとは話が別だ。
 図書室みたいに三日とは言わんが、一週間といった所だな。次の週末に返してくれ、とでも。
 それで良ければ、貸して欲しけりゃ、いつでも言え。…来る時に持って来てやるから。
「ありがとう…!」
 一週間でもいいよ、借りられるんなら。…何度頼んでもいいんでしょ、それ…?
 返して直ぐに読みたくなったら、その次にまた「貸して」って頼んでもいいんだよね…?



 ハーレイは「いいぞ」と微笑んでくれた。「借りっ放しにはしてくれるなよ?」と言いながら。
 「プレゼントするわけじゃないから、俺の家にも、たまには持って帰らんと」と。
 けれど、貸しては貰えるらしい。
 頑張ってお金を貯めて買わなくても、「買えやしない」とガッカリしなくても。
 読みたい気分になった時には、ハーレイに頼めば借りられる。図書室で借りるより、ずっと長い間。三日どころか、一週間も。
(一週間もあれば、ぼくが持ってる本と同じで読み放題だよ)
 良かった、と嬉しくなった本。…遠い昔の地球の写真が詰まった本。
 その夜、ハーレイが夕食を食べて、「またな」と帰って行った後にも、勉強机で広げてみて…。
(ハーレイとお揃いの本もいいけど、ハーレイの本を貸して貰うのも…)
 きっと素敵に違いない。
 自分の本とは違うけれども、ハーレイの指がページを繰っていた本をめくるのも。
 しかも中身は遠い昔の地球の遺跡を捉えた写真で、ハーレイだってお気に入りの本。記憶が戻るよりも前から、一目惚れして書斎に置いていたほどに。
(今日は、いい本、借りちゃった!)
 うんとツイてる、と心が弾む。なんて素敵な本に出会えて、こうして家で読めるのだろうと。
 貸し出し期間は短いけれども、三日間、これを楽しもう。空いている時間は、こうして広げて。
 三日間が過ぎて、図書室にこれを返しに行っても、名残が尽きないままだったなら…。
(ハーレイに頼んで…)
 同じ本をまた借りればいい。「あの本を貸して」と、頼んで家に届けて貰って。
 そんな読み方が出来るだなんて、なんて幸せな出会いだろう、と嬉しくなる。ハーレイの書斎の本棚にある本、それを借りては読めるだなんて。
 とても気に入った本だけれども、お小遣いを頑張って貯めて買うより、借りる方がずっと素敵で幸せ。ハーレイが持っている本を。
 一週間しか借りられなくても、誰よりも好きなハーレイが貸してくれる本。
 「ぼくに貸して」と頼みさえすれば、この本が家にやって来る。ハーレイの家の書斎から。
 そうして本を貸して貰ったら、ハーレイの指が繰っていた本のページを開く。
 ハーレイが何度も読み返した本を、今も大切にしている本を。



 そんな風に本を借りられたならば、何度も貸して貰ったならば…。
(この本を読んだ、感想だって…)
 ハーレイと二人でゆっくり話せる。貸して貰った本を間に、テーブルを挟んで向かい合わせで。
 どのページがお気に入りだとか。
 好きな遺跡の写真はどれで、好きな理由は何なのか、とか。
 猫が昼寝をしている遺跡の写真もいいし、尻尾だけしか写っていない猫がいる写真もいい。赤いケシの花が咲いているのも、空をゆく鳥の群れがいるのも。
 ハーレイはどれが好きなのだろうか、尻尾だけの猫にも気付いたろうか…?
 そういったことを色々話して、二人で本を眺めていたら…。
(まるで一緒に暮らしてるみたい…)
 二人きりの家にいるみたいだよね、と思えてくる。実際にいるのは、この部屋だとしても。
 そういう時間も、うんと素敵、と本のページをめくってゆく。
 自分で買って持つのも素敵だけれども、ハーレイに借りて読むのも素敵。
 いい本に会えたと、三日間だけしか貸し出して貰えない本で良かったよね、と。
 もっと長く借りられる本だったならば、こんな話は出なかったから。
 ハーレイが持っている本を借して貰える約束などは、出来る筈さえなかったのだから…。



           借りて読む本・了


※ブルーが気に入った、遠い昔に撮られた遺跡などの本。けれど、貸出期間は三日間。
 買うには高すぎる値段ですけど、思いがけない方法で読めるのです。ハーレイの本を借りて。

 ハレブル別館、いよいよ来月で終了となります。
 「その後の二人」を書くかどうかは、気分次第としか言えません。

 おバカなシャングリラ学園生徒会室の方は、今年も今まで通りです。
 他の二つのサイトについては、続けられる間は、書き続けると思います。
←拍手して下さる方は、こちらからv
←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv








PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]