シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
今年もクリスマスシーズンがやって来た。
アルテメシアの街は華やぎ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の心も弾む。クリスマス・ツリーにイルミネーション、美味しそうな御馳走だって沢山。もちろん、様々なデザートだって。
(あれも、これも美味しそう! 今日は此処で食べて、明日はあっちで!)
一年で一番楽しいんだよ、とシャングリラを飛び出しては、グルメ三昧の日々だけれども。
(…えーっと…?)
ある日、出掛けようとしていた所で、子供たちの声が耳に入った。ヒルマンの授業に急ぐ子たちで、普段なら全く興味は無い。「勉強なんか!」と。
ところが、その日は少し違った。「うんと昔の話だってさ!」と聞こえて来たから。
(……昔って?)
いつのことかな、と耳を傾けると、「人間が地球にいた頃なんだよね!」という言葉。なんでも、その時代の地球についての話らしくて、俄かに興味が湧いて来た。
(ブルーが好きそうな話なのかも…!)
偉大なミュウの長、ソルジャー・ブルー。
彼の知識は膨大なのだし、今日のヒルマンの授業の中身も、きちんと知っているだろう。けれど、子供の自分は知らない。きっと知っておいて損は無いから…。
(お出掛けは後にして、話を聞こうっと!)
それがいいや、と子供たちの後を追い掛けた。教室に入ると、ヒルマンは…。
「おや、珍しいお客様だね。地球の話を聞きたいのかな?」
「うんっ!」
元気よく答えたら、一番前の席を用意してくれた。「此処なら、授業に退屈したって、他の子たちの邪魔をしないで出られるからね」と。
ワクワクする内に授業が始まり、ヒルマンは前のボードに「私有財産」と書いた。
「これは個人の持ち物のことで、今の時代も無いことはない。ただし…」
ミュウと人類では事情が違うね、とヒルマンが浮かべた微笑。
「もっとも、シャングリラにいるミュウに限るのだが…。財産は全く個人の自由だ」
自分で独り占めしておくも良し、誰かに譲り渡すのも良し、という説明。
(…当たり前だよね?)
ぼくだって、そうしてるもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は考えた。いつもブルーがくれるお小遣いは、私有財産と言うのだろう。それを使って食べ歩きをして、ブルーに御土産を買うこともある。そうしたものだと思っていたのに、ヒルマンは「ところが、人類の世界では違うのだよ」と重々しく髭を引っ張った。
「知っての通り、人類の世界はマザー・システムが統治している。ある程度の自由は、もちろん存在しているが…。次の世代には譲れないね」
「「「えっ?」」」
子供たちは、一斉にどよめいた。
このシャングリラでは、財産は受け継がれるのが当たり前。
遥か昔にアルタミラから脱出した者たちの中には、とうに寿命が尽きた者もいる。彼らが遺した多様なものは、今の時代も船のあちこちで生かされてていた。
「ずっと昔に、誰それが造った便利な機械」だの、「この木を植えた人の名前はね…」といった具合に。
だから「次の世代が貰えて当然」と思っているのに、人類の世界は違うらしい。
ヒルマンは一つ咳払いをして、「しっかりと覚えておきたまえ」と言った。
「人類たちは、子供さえも次々に取り替えるのだよ? 次の世代という概念は無いね」
死んだらそれで終わりなのだよ、という結論。財産は全て回収されて、ものによっては再利用。そう出来ないものは処分されてしまって、何一つ、残らないらしい。
そう、暮らしていた家さえも。…お気に入りだった部屋も、丹精込めた庭だって。
(……そうだったんだ……)
なんだか酷いね、と教室を出た「そるじゃぁ・ぶるぅ」は考え込んだ。
残りの授業はどうでもいいから、アルテメシアの街に降りて来たけれど、賑わう街も、結局の所、誰のものでもないらしい。強いて言うなら、機械のもの。
(大きなクリスマス・ツリーを買っても、持ち主の人が死んじゃったら…)
それまでのことで、受け継がれることは無いのだろう。シャングリラならば、欲しい人は大勢いるのだろうに。「私が貰う!」「いや、俺だ!」と喧嘩だって起こるかもしれない。
(…ブルーがいつも、「SD体制は酷いんだよ」って言っているけれど…)
ホントのホントに酷いみたい、と首を振り振り、気分を変えようと店に入った。こういう時には、美味しいものを食べるに限る。
(んーと、んーと…)
どれにしようかな、とメニューを広げて、『地球のクリスマス』と謳ったコースに決めた。クリスマスには少し早いけれども、クリスマスの御馳走をドッサリ揃えた豪華セット。
(ターキーもあるし、他にも色々…)
前菜からしてうんとゴージャス、大満足で食べている内に、ふと閃いた。
(…サンタさんって、地球から来るんだよね? 地球に住んでて…)
それもSD体制が始まるよりも、ずうっと前から…、と赤い衣装のサンタクロースを思い出す。ついて行ったら地球の座標が分かるかも、と今までに何度も挑戦した。
(罠で捕まえたら、ただの酔っぱらいになっちゃったこともあったし…)
トナカイの橇で逃げられたことも、失敗談として記憶に刻まれている。
サンタクロースは、地球の座標を教えてくれない。青い地球に焦れ続けるブルーを、地球まで連れて行ってもくれない。
でも…。
(サンタさんは地球に住んでるんだし、地球の上に家とか土地を持ってるんだよ!)
今の時代でも昔のままで…、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は確信した。代替わりしないから「受け継ぐ人がいない」だけのこと。サンタクロースの私有財産は、昔から、ずっと地球にある。
サンタクロースがその気になったら、もしかしたら、譲って貰えるのかも…!
さて、シャングリラのクリスマスシーズンと言えば、公園に飾られる大きなツリーと、それとは別の『お願いツリー』。
お願いツリーは小さめのツリーで、誰もが欲しいプレゼントを書いたカードを吊るして、クリスマスを待つ。お願いしたのが子供の場合は、クリスマスイブの夜にコッソリ配られるプレゼント。大人の場合は、意中の男女のカードを探して、プレゼントする人も多いイベント。
シャングリラに戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、早速、お願いカードを書いた。
「ぼくにサンタさんの土地を分けて下さい。ちょっぴりでいいです」と。
(…ホントはブルーにあげて欲しいんだけど、大人にプレゼントはくれないって…)
何度もブルーに聞かされたから、「自分が貰う」ことにした。
貰ってしまえば、後はどうとでもなる。人類とミュウとは私有財産とやらの仕組みが違うし、ヒルマンの話では、遠い昔には「贈与」という仕組みもあったらしい。
(生きてる間に、あげたい人に譲れるんだよ!)
だから、サンタクロースに貰った土地も、そうすればいい。右から左にブルーに譲れば、きっと喜んでくれるだろう。
(地球の座標は分からなくっても、地球にブルーの土地があるなら…)
ブルーの夢は少しだけでも叶うだろうし、いつかその土地を見たいと思えば、生きる気力も湧いてくる筈。
「ぼくは地球まで行けそうにないよ」が口癖だけれど、そんな風には言わなくなって。
「ぶるぅに貰った土地を見るまで、絶対に死ぬわけにはいかないね」と、前向きになって。
(これで完璧!)
もう最高のお願いだもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は御満悦だった。
サンタクロースの土地を分けて貰うだけなら、断わられることは無いだろう。地球の座標は教えなくても構わないのだし、「君にあげるよ」と約束をするだけだから。
(お庭の端っこでも、トナカイの小屋の隅っこでも…)
何処でもいいや、と夢は広がる。猫の額ほどの土地にしたって、地球には違いないのだから。
こうしてカードを吊るしたツリー。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はドキドキしながらクリスマスを待っていたのだけれども、ある日、ブルーに呼び出された。いつものように青の間に。
「かみお~ん♪ なあに?」
おやつ、くれるの? と飛び込んで行ったら、勧められた炬燵。向かい合わせでチョコンと座って、お饅頭とお茶は貰えたものの…。
「ぶるぅ、サンタさんへのお願いだけどね…。土地を貰ってどうするんだい?」
ブルーの問いに、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はエヘンと胸を張った。
「サンタさんの土地は、地球にあるでしょ? 貰って、ブルーにプレゼントするの!」
「…プレゼント?」
「そう! 大人はプレゼントを貰えないでしょ、ぼくが貰って、それからブルーに!」
ヒルマンは「贈与」って言っていたよ、と大得意で披露した知識。サンタクロースの土地の一部を分けて貰えれば、ブルーも地球の土地が持てる、と。
「そうなのかい…? だけど、ぶるぅ…。ぶるぅのお小遣いでは足りないと思うよ」
このシャングリラを売っても無理かも…、とブルーは困った顔付きになった。
「えっ、お金? なんでお金が沢山要るの?」
貰うんだからプレゼントでしょ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は驚いたのだけれども…。
「ヒルマンの授業では、そこまで話していなかったんだね。ずっとずっと昔、人間が地球で暮らしていた頃にはね…」
土地は売買するものだったんだよ、とブルーは解説してくれた。誰かにタダで譲るにしても、土地の値打ちに見合った額の税金を納めなければならない。今も地球で暮らすサンタクロースの土地については、そのシステムが健在だろう、と。
「だからね、ぶるぅ。サンタクロースの土地を貰うには、税金が必要になるんだよ。地球は人類の聖地なんだし、ぶるぅの手のひらくらいの土地でも、凄い値打ちで…」
税金はシャングリラより高いかもね、とブルーが零した深い溜息。「とても無理だ」と。
かてて加えて、その税金を払えたとしても、更にブルーに譲るとなれば…。
「譲るためにも、また税金が要るの!?」
「…そっちの方は、ぼくが支払うことになるんだけどね…」
それだけ払う羽目になったら、もう間違いなく破産するよ、とブルーの苦悩は深かった。破産したのでは地球に行けないから、お願いカードは取り下げるべき、と。
(……いい考えだと思ったのに……)
今年も失敗、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はションボリと肩を落として、お願いカードを外しに出掛けた。サンタクロースの土地は貰えず、ブルーに譲ることも出来ない。
(お金が山ほど必要だなんて…)
知らなかったよ、とガッカリだけれど、土地が欲しくても貰えないなら、地球を目指すしかないだろう。ブルーが焦がれてやまない星を。
本当に本物の地球を探して、いつかは座標を手に入れて。
ブルーが力尽きてしまわない内に、頑張って、遠い地球までの道を一緒に突き進んで。
(…ということは、今年のお願い事は…)
もうクリスマスまでは日数も無いし、「頭が良くなりますように」と新しいカードに記入した。悪戯をやめるつもりはゼロでも、優秀な頭脳がありさえすれば…。
(ぼくだって、地球の座標くらいは…!)
きっと割り出してみせるもんね、と野望は大きい。
暇さえあったら悪戯ばかりで、グルメ三昧の「船一番のクソガキ」でも。
下手くそなカラオケを披露しまくり、船中に迷惑をかけまくっては、皆に逃げられていても。
(頑張るんだもん…!)
ブルーのために、と誓う心は本物だった。
誰よりも好きなブルーのためなら、年に一度のクリスマスでさえ、「ブルーのための」願い事を書く子供だから。
「サンタさんの土地を分けて下さい」と、本気で願ったほどなのだから…。
そして訪れたクリスマス・イブ。
今年もハーレイがサンタクロースに扮して、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋にプレゼントを届けに行った。長老たちからのプレゼントの他に、ブルーからも…。
「ハーレイ、今年もよろしく頼むよ」
「はい。…これはカラオケマイクですか?」
サイズからして…、とハーレイが首を傾げた包み。クリスマスらしく綺麗にラッピングされている箱は、それらしい形だったから。
「ご名答。でも、ただのカラオケマイクじゃないよ? 首都惑星ノアの限定品だ」
「それはまた…。えらくゴージャスな代物ですね」
悪戯小僧には勿体ないような、とハーレイは包みを眺め回している。けれどブルーはクスッと笑って、「もっとゴージャスな代物かもね」とウインクをした。
「とても稀少な金属を使った部品があって…。今の所は、パルテノンの者しか買えない」
「なんと…! いったい、どうやって、そのようなモノを!?」
「ぼくはこれでもソルジャーだよ? お取り寄せくらいは、ごく簡単なことなんだ」
代金の方も支払っておいたし、帳尻は合う、と微笑んだブルー。「地球の土地にかかる贈与税に比べれば、マイクくらいは安いものだよ」と。
「贈与税ですか…。ぶるぅは今年もやってくれましたね、凄い願い事を…」
「あれには、ぼくも驚いた。地球の土地なら、トナカイの小屋の隅でも欲しいけれどね」
偽の証文でも貰っておいたら、ぶるぅは喜んだだろうに…、とブルーは睫毛を伏せた。
「ならば、そうなさればよろしかったのに…。ゼルあたりが張り切って捏造しますよ」
「いいや、それでは駄目なんだ。ぼくは、ぶるぅを騙したくない」
あれでいいんだ、と大きく頷き、「罪滅ぼしにカラオケマイクなんだよ」とブルーは笑んだ。せっかく考えてくれたアイデアを無にしたからには、せめて気持ち良く歌える時間を、と。
「はあ…。船の仲間たちには災難でしょうね、このマイクは…」
御自慢の逸品ともなれば、さぞかし何度もリサイタルが…、とキャプテン・ハーレイの悩みは尽きない。そうは言っても、ブルーの望みも断われないし…。
「悪いね、ハーレイ。仲間たちには、心からすまなく思っていると伝えてくれたまえ」
「はい、ソルジャー…」
それでは行って参ります、とサンタクロースは出発した。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が眠る部屋へと、大きな白い袋を担いで。
クリスマスの朝、土鍋で目覚めた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は歓声を上げた。
今年も贈り物がドッサリ、中でも一番はカラオケマイク。ブルーがくれたとは思わないから、サンタクロースだと頭からすっかり信じ込んで…。
「うわぁ…! 限定品って書いてある! これで歌えば、きっと頭が良くなるんだよ!」
パルテノンってエリート集団らしいもんね、と飛び跳ねる。ミュウの敵には違いないけれど、とても頭のいい人類だけしか入れないことくらいは知っていた。
「頑張って歌って、歌いまくって、うんと賢くならなくっちゃ…!」
そして頑張って地球の座標を見付けるんだよ、と張り切っていたら、届いた思念。
『ぶるぅ、お誕生日おめでとう。今年もお祝いしなくちゃね』
公園でみんなが待っているよ、とソルジャー・ブルーからの優しい言葉。
「わぁーい! あのね、カラオケマイクを貰ったの! 歌ってもいい!?」
『…そ、それは…。みんなに訊いてみないと…』
ブルーの思念は戸惑ったけれど、そこへ大勢の思念が一斉に木霊した。
『ハッピーバースデー、そるじゃぁ・ぶるぅ! リクエスト曲は、バースデーソング!!』
みんなで歌えば怖くない、というオマケつきだったけれど、それは最高の誕生日プレゼント。
「そるじゃぁ・ぶるぅ」は貰ったばかりのマイクを手にして駆け出した。公園へと。
瞬間移動をするのも忘れて、懸命に走って、息を切らせて…。
「やあ、ぶるぅ。来たね、バースデーケーキは今年も特大だよ」
ほらね、とブルーが運び込ませた、大勢の仲間たちが御神輿のように担ぐ特大ケーキ。
大勢の仲間たちとケーキの周りを囲んで、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は熱唱した。
誰よりも好きなブルーも一緒に、限定品のカラオケマイクで、バースデーソングを。きっといつかは地球の座標を、ブルーのために手に入れようと。
悪戯をやめる気はないけれども、カラオケに励んで優秀な子供にならなくちゃ、と。
ハッピーバースデー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。今年もお誕生日、おめでとう!
そしていつかは、大好きなブルーと、きっと地球まで…。
サンタと財産・了
※「そるじゃぁ・ぶるぅ」お誕生日記念創作、読んで下さってありがとうございました。
管理人の創作の原点だった「ぶるぅ」、いなくなってから、もう1年以上。
それでも2007年11月末に出会って以来の、大好きで忘れられないキャラです。
いなくなっても、お誕生日だったクリスマスには「お誕生日記念創作」。
「そるじゃぁ・ぶるぅ」、12歳のお誕生日、おめでとう!
2007年のクリスマスがお誕生日で、満1歳でした。だから今年は12歳ですv
※過去のお誕生日創作は、下のバナーからどうぞです。
お誕生日とは無関係ですけど、ブルー生存EDなんかもあるようです(笑)