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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

見えない工夫


 今年もシャングリラにクリスマスの季節がやって来た。ブリッジが見える広い公園には、とても大きなクリスマスツリーが飾られていて、クリスマス気分を盛り上げている。
「今年も、じきにクリスマスだよね!」
 プレゼント、何を貰おうかな、と大きなツリーを見上げているのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」だ。それはとんでもない悪戯小僧で、船の仲間たちも年中、酷い目に遭っているのだけれど…。
「これからは、うんといい子でいないと、大変なことになっちゃうし…」
 悪戯、我慢シーズン開始! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は年に一度のビッグイベントに向けて、自分に誓いを立てていた。悪い子は、サンタクロースからプレゼントが届く代わりに、鞭を貰うのに決まっているから、それを避けたい「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、毎年、クリスマスの前だけは…。
「今年も、いい子になるんだも~ん!」
 頑張らなくちゃ! と気合を入れて、それから少し小さめのツリーに目を遣った。
 「お願いツリー」と呼ばれる、これもクリスマスの風物詩。クリスマスに欲しいプレゼントを、備え付けのカードに書いて吊るしておけば、サンタクロースが届けてくれる。大人の場合は恋人や、友達なんかがカードを見付けて、書かれたプレゼントを贈り合ったりするらしい。
「えーっと、ぼくが欲しいのは…。んーと…?」
 何だったっけ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は頭の中を探すけれども、素晴らしいものが出て来てくれない。「これだ!」と思うプレゼントが、まるで一つも浮かんで来なくて、困ってしまう。
「地球を下さい、って言っても無理だしね…」
 大好きなブルーが行きたがっている、青い星がとても欲しいとはいえ、サンタクロースは地球をくれはしないと分かっている。地球へ行くための方法だって、思い付いても、失敗ばかりだし…。
「頼んでみるだけ無駄ってヤツか、いい方法を思い付くかの、どっちかで…」
 だけど、なんにも思い付かなーい! と、すっかりお手上げ、気分転換に出掛けることにした。
 アルテメシアの街でグルメ三昧、食べまくる内に、アイデアだって浮かぶだろう。悪戯出来ない船にいるより、そっちの方が断然いいに決まっているから、ヒョイと船から出て行った。
 瞬間移動はお手の物だし、「何処がいいかな?」と、とりあえず、街へ。



「クリスマス前だし、何処も綺麗に飾ってるよね…」
 お店も、食事が出来る所も、と見回しながら街を歩く間に、新しい店が目についた。
「あれっ、こんなの、あったっけ?」
 レストランみたいに見えるけれど、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が眺める先に、ちょっとお洒落な一軒の家が建っている。今どきの家とは違った作りで、昔の地球のヨーロッパなんかにありそうだ。
「だけど、看板…」
 建物に合っていないよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、玄関にあたる所の扉の上を、まじまじ見詰めて首を傾げる。そこには木で出来た看板が掲げられていて、そこまではいい。問題はセンスの方だった。
「なんだっけ、ジャポニズムだったっけ…?」
 分かんないけど、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭を悩ませるソレは、昔の日本の古民家に似合いそうな古びた木の看板で、キッチリ四角い形でさえない。自然のままといった形の板切れ、おまけに書かれた文字の方まで…。
「風の砦…?」
 下に読み方が書いてあるほど、しっかりガッツリ、「日本語」だった。どういうセンスの店主がいるのか、まるで全く謎だらけな店。かてて加えて扉の脇には「ジビエ料理の店」と、こちらの方は普通の文字の立て看板。
「ジビエって、確か、野生の動物のお肉のことで…」
 今の時代にあるわけないし、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」だって知っている。SD体制が敷かれた理由は「地球を再生させるため」だし、地球以外の星もテラフォーミングされた星ばかり。野生動物なんかいるわけないから、「名前だけ」ジビエなのが今の時代というものだった。
 とはいえ、珍しい店ではある。グルメを自負する者が目にして、スルーするなど、有り得ない。
「よーし!」
 此処に決めたぁ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、早速、店に入って行った。妙なセンスの木の看板の下の、扉を開けて。



「いらっしゃいませー!」
 どうぞ、お好きな席へ、と笑顔で迎えた店主は、気の良さそうな「おじさん」だった。ついでに店も、外見通りに洒落た内装なのだけれども…。
「なに、これ…?」
 ジビエって、鳥のお肉だっけ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は店内の壁を眺め回した。店中の壁に飾られている写真は、何処から見たって「猛禽類」だ。ワシとかタカとか、そういった鳥が猛禽類。
 けれど、席について広げたメニューは、鹿やイノシシなんかばかりで、鳥のは無い。
 ますます謎だ、と首を捻りつつ、「本日のおすすめ」コースを選んで、ついでに店主に質問してみることにした。
「あのね…。鳥のお肉の料理は無いのに、なんでコレなの?」
 写真、と壁を指差してみたら、店主はたちまち嬉しそうな顔で、カウンターの向こう側で料理をしながら、あれこれ説明してくれた。
 木の看板の日本語からして、とても大事なポイントらしい。地球が立派に青かった頃の日本で、『風の砦』というタイトルの映画が撮られたという。
「野生のイヌワシを、一年かかって撮ったらしいんですけどね…。警戒心が強い鳥なので…」
 撮影に入る前の年から小屋を建てて、と店主が話してくれた中身は凄かった。小屋に出入りするスタッフの数も、きちんと「同じ数だけ」を交代させるなどして、「小屋には誰も残っていない」と見せかけて撮ったという。どれもこれも、鳥に人間の姿を「見られない」ための工夫。
「今と違って、便利な道具も無い時代の話ですからねえ…」
 でも、壮大なロマンですよ、と熱く語る店主が作る料理は絶品だった。イノシシや鹿や、どれも癖がある肉らしいのに、実に美味しく仕上がっている。煮込みも、パイ皮包みなども。
「すっごく美味しい! ホント、最高!」
「いやあ、この看板を出したくて、あちこちで腕を磨きましたからねえ…」
 お礼はイヌワシに言って下さい、と店主は壁を埋め尽くす写真を指してニコッと笑った。もしも『風の砦』に出会わなかったら、店を出す所までは行っていないから、と。



「凄いお店に行っちゃった…」
 でも、本当に美味しかったし、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は船に帰って、自分の部屋で考える。あの店はグルメ三昧のリストに加えて、月に何度も行くべきだろう。
「お礼はイヌワシに言って下さい、って真面目に本気だったよね…」
 映画の話も凄かったもん、と思い出す内に、「あれ?」と頭に閃いた。
「ミュウなら、サイオンで姿を消せるし、その映画、楽に撮れるよね?」
 便利な道具は何も無くても、と考えたけれど、人類はサイオンなどは無いから、やっぱり今でも道具に頼って撮るより他に無いだろう。もっとも、野生のイヌワシがいれば、の話だけれど。
「でもって、人類の船は、姿なんかは消せないんだけど、シャングリラだと…」
 ステルスデバイスで「見えなくなる」んだよね、というのが「そるじゃぁ・ぶるぅ」の「閃き」だった。サンタクロースに頼むのは、コレに限るだろう。
「ステルスデバイス、土鍋に搭載して貰ったら…」
 それに入って人類軍の船に密航、出来ちゃうよ、とワクワクしてくる。人類軍の船にコッソリ、乗り込んでいれば、幾つかの基地や星を経由して、きっと地球にも辿り着けるに違いない。
「この船だったら、地球に行きそう、っていうのを見付け出したら、一発で地球へ…」
 それで着いたら、地球の座標も分かるんだから、と自分のアイデアにウットリとした。密航中もサイオンで姿を消してさえいれば、食事も出来るし、快適に旅をしてゆける。
「これに決めたーっ!」
 ステルスデバイス搭載の土鍋、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は急いで「お願いツリー」の所に瞬間移動で、いそいそカードに書き込んだ。
 「ステルスデバイスを搭載した、土鍋を下さい」と。
 そしてツリーの枝に吊るして、大満足で部屋に帰ったけれど…。



 今年も、またまた「そるじゃぁ・ぶるぅ」のカードは、キャプテン・ハーレイの頭を悩ませた。回収した係が届けに出掛けて、「こんなのです」と見せた途端に。
 ハーレイは青の間のブルーに相談に行く羽目になって、ブルーも「今年もかい?」と苦笑する。
「ステルスデバイス搭載の土鍋ねえ…」
「コストの方も半端ないですが、何をやらかす気なんだか…」
 ろくなことにならない気しかしません、と呻くハーレイは「悪戯」を想定しているのだけれど、ブルーは真意に気付いていたから、嬉しくはある。どうしてそれが欲しいのか、という気持ちの方。
「地球の座標を知るためらしいよ、人類軍の船に密航してね」
「そうなのですか!?」
「うん。そうは言っても、危険すぎるし、止めないと…」
 ぼくに任せておきたまえ、とブルーは、ハーレイを帰らせた後で、青の間の冬の名物、コタツに入ったままで「そるじゃぁ・ぶるぅ」を思念で呼んだ。「ちょっと、おいで」と。
「かみお~ん♪ おやつ、くれるの!?」
 なあに、と瞬間移動でヒョイと出て来た「そるじゃぁ・ぶるぅ」に、ブルーは「あのね…」と、カードの話をし始めた。
「ステルスデバイスを載せた土鍋で、どうするんだい?」
「えっとね、人類軍の船にコッソリ入って、密航して、地球に行くんだよ!」
 そしたら地球の座標が分かるし、ブルーも地球に行けるよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は得意満面、胸を張って説明したのだけれども、ブルーは顔を曇らせた。
「いいアイデアだし、ぶるぅなら、出来るかもしれない。だけど、土鍋が問題で…」
「えっ?」
「ずっと土鍋に入ったまま、とはいかないだろう? ぶるぅが留守にしている間に、人類が…」
 土鍋を見付けたら大変なんだ、とブルーは真剣な表情になった。
 人類軍の船に土鍋など「あるわけがない」し、当然、不審物として調べることになる。そうして詳しく分析したなら、ステルスデバイス搭載がバレて、人類に…。
「ミュウの機密が知れるわけだよ、それこそ最高機密がね」
 ステルスデバイスの仕組みを人類に知られてしまえば、ミュウはおしまい、とブルーは超特大の溜息をついた。シャングリラは丸見えになってしまって、あっという間に沈められる、と。



「…いいアイデアだと思ったのにな…」
 だけど、ブルーの言う通りだし、と肩をすくめた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、今年もまたまた、お願いカードを書き換えるより他は無かった。
 どうしようもなく「普通」になってしまったけれども、「ステージ映えするマイクを下さい」と書いてツリーに吊るしたわけで…。
「来年も、ヤツの歌を死ぬほど聞かされる羽目になるわけですね、我々は…」
「ハーレイ。君もキャプテンなら、ステルスデバイスの仕組みが人類にバレるよりかは…」
「分かっております、行って参ります」
 これも私の役目ですので、とクリスマスイブの夜、ハーレイはサンタクロースの衣装を纏って、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋へと出掛けて行った。肩に背負った袋の中身は、プレゼントだ。
 注文の品のマイクは、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が魂を撃ち抜かれて通い詰めている、例のジビエ料理の店『風の砦』に敬意を表して、ジャポニズム。漆や螺鈿で装飾された最高級品、そう簡単には手に入れられない品だけれども、ブルーのサイオンを舐めてはいけない。
「あのマイクなら、ぶるぅもきっと喜ぶよ」
 わざわざ特注したんだからね、とブルーはコタツでミカンを剥きながら笑みを浮かべる。いくらお安い御用とはいえ、注文のために「アルテメシアの街に降りた」のは、ブルー本人だった。プロの歌手が「お忍び」で来たかのような服を着込んで、サングラスもかけてみたりして。
 そんなブルーがミカンを美味しく食べている頃、ハーレイは真っ暗な「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋でプレゼントを幾つも袋から出しては、ベッドの側に並べていた。
「まったく、みんな、どうしてヤツには甘いんだ…」
 これがエラので、コレがブラウで…、と長老たちからの分はもちろん、機関部にブリッジ、厨房などなど、各セクションからもプレゼントの箱を預かっている。全員、もれなく酷い悪戯の被害者のくせに、「これを、ぶるぅに」と綺麗にラッピングして寄越すのだ。
「これだから、ヤツがつけあがって…」
 リサイタルを開きまくるんだぞ、とブツブツとぼやくハーレイだけれど、彼のプレゼントも袋の中に入っているから、人のことなど、言えた義理ではないだろう。



 こうしてイブの夜が過ぎて行って、クリスマスの朝がやって来た。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」はパチリと目を覚ますなり、プレゼントがあるかベッドの側を確かめ、大歓声で箱を開け始める。
「やったあ! 今年もいい子にしてて良かったよ!」
 凄いマイクに、こっちはお菓子で…、とリボンをほどきまくる間に、大好きなブルーから思念が届いた。
『ぶるぅ、お誕生日おめでとう! 公園にケーキの用意が出来てるよ!』
「あっ、そうだった!」
 お誕生日を忘れてたあ! と瞬間移動で、ブリッジが見える公園へと飛び込んでゆくと…。
「「「ハッピーバースデー、そるじゃぁ・ぶるぅ!!!」」」
 今年も、お誕生日おめでとう! と船の仲間たちが揃って拍手で、それは大きなケーキがドンと飾られている。全員で分けて食べていっても、まだまだ充分、余りそうなくらいの特大が。
「わぁーい、一杯、食べなくちゃ!」
 それに御馳走もあるんだよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大喜びで跳ねているから、歌が飛び出すのも多分、時間の問題だけれど、なんと言っても、誕生日。
 特注品のマイクで歌って、踊って、リサイタルでも、みんな笑顔で許す筈。
 ハッピーバースデー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。今年もお誕生日、おめでとう!



             見えない工夫・了


※「そるじゃぁ・ぶるぅ」お誕生日記念創作、読んで下さってありがとうございます。
 管理人の創作の原点だった「ぶるぅ」、いなくなってから、もう6年になります。
 2007年の11月21日に初めて出会って、そこから始まった創作人生も16年目。
 良い子の「ぶるぅ」ばっかり書く日々ですけど、悪戯小僧の方の「ぶるぅ」も大好きです。
 お誕生日のクリスマスには必ず記念創作、今年もきちんと書きました。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」、17歳のお誕生日、おめでとう!
 2007年のクリスマスに、満1歳を迎えましたから、16年目の今年は17歳です。
 アニテラの教育ステーションだと、来年は、いよいよ最上級生になれる年。
 卒業まで残り1年だなんて、メンバーズがもう目前ですねえ、「いい子」だったら…。

※過去のお誕生日創作は、下のバナーからどうぞです。
 お誕生日とは無関係ですけど、ブルー生存EDなんかもあるようです(笑)








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