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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

情熱の果実(アルト様作)

※こちらはアルト様の『ハレブル無料配布本』に掲載された作品です。
 アルト様のサイトに『情熱の果実』は現在、掲載されておりません。
 ところが、このお話に想を得たシャングリラ学園番外編が1話、生まれてしまい…。
 テキストで頂いた『情熱の果実』が見つかったため、掲載させて頂きました。
 アルト様の御好意に感謝いたします!






「廃棄してもよろしいでしょうか?」
 医療室に呼び出されたハーレイは目の前に置かれた物をじっと見る。
「石と土に見えるが?」
「はい。他に葉や種子もあります」
 見れば確かに土の塊ではなくて丸まった葉の塊で、小石ではなくて種子だ。
「廃棄するのは構わないが、何故私の許可が必要なのか分からない」
 ハーレイの言葉にノルディは伝言を聞いていないのだろうか? と思ったが、それは口にせず、
「失礼致しました。こちらはソルジャーがお持ち帰りになったものです」
「ソルジャーが?」
「はい。正式には救出に外に出向いた際、ソルジャーの衣服、頭髪に付着していたものです」
「そうか。ではこれは検査済みなのだな」
「はい。危険な菌が検出されませんでしたので、このまま廃棄して問題ないと思われます」
 そういう報告だということは、ノルディから伝言だと言ってきたブラウからは聞いていなかった。
 二人の内どちらが省略したのかと考えればブラウである可能性の方が高い。
 ハーレイは後で確認しなくてはと思いながら、
「ではそのように」
告げてブリッジに戻ろうとした。
「いや、ノルディ」
「はい」
「それは何の種子だろうか?」
 種子が付着するような場所に行った話はブルーから聞いていない。と言う事はブルーはそれを秘密にしていたのだ。
 場所に意味があるのか、植物に意味があるのか、ハーレイは気になった。
「さあ。そこまでの検査はしておりませんでした。調べてみましょうか?」
「育てても問題ないだろうか?」
「はい。ではヒルマン教授に……」
「私が」
「はい?」
「私が育ててみようと思う」
「――そうですか。では」
 反対されるかと思えばあっさり容器に入れて種子を渡す。
 それはハーレイの指先よりもとても小さいものだった。
「芽が出るだろうか?」
「どうでしょうか。しかし廃棄するものですから芽が出なくてもお困りになる必要はないかと思います」
「……そうだな」
 容器の中の一粒の種子を見てハーレイは自分を納得させるように小さく頷いた。
「では」
 ハーレイが退出したのを見届けると、ノルディがため息を吐き出した。
「お前が気に病む必要はない」
 奥の部屋から出てきたのはブルーだった。
「……しかし」
「仕向けたのは僕だ」
「育てるのでしたらそれこそヒルマン教授にお願いする方が確実かと思いますが」
「うん。でもねハーレイが育てる事に意味があるんだ」
 ブルーはクスリと笑う。
「あれが何の実なのか、ソルジャーはご存知なのですね」
「知ってる。でもノルディ、君の為を思って言っておく。あの実が何なのか調べてはいけないよ」
 ブルーの微笑に背筋が冷たくなったような気がした。
「はい」
「協力ありがとう」
 ノルディの返事を待たず、ブルーは瞬きする間にその場からかき消えてしまった。


 種子を鉢に植えて数日で元気な芽が出た。
 双葉が出て本葉が出て、世話をするハーレイはその成長を楽しみにしていた。
 ブルーの秘密を育てている気持ちにすらなっていた。
 花は艶やかに、秘密の香りがするのではないかと思う。
 何色だろうか?
 ブルーが気に入った花だろうか? そんなことを考えながら世話するのが楽しかった。
 植物も愛情を込めれば美しい花が咲くとどこかの資料で見た気がする。美しい音楽も有用と知ってからは音楽を流すようにもしていた。
 時折ブルーがハーレイの部屋を尋ねてくるが、ブルーは鉢に気づきもしない。
 尋ねられてもなんだか返答に困ると思っていたハーレイには好都合だった。

 そして一ヶ月。
 部屋の奥に置かれた鉢。
 それは今やハーレイが持ち上げるのも一苦労というほどの大きさになっていた。
 よく見れば小さな蕾がいくつか付いている。
 もし花が咲くようならば、その時ブルーに見せようと思っていたハーレイはひっそりと笑みを浮かべた。
 毎日元気に育てよと声をかけてきた。
 綺麗な花を咲かせるか?
 それとも美味しい実をつけるか?
 そんな事も語りかけてていた。
 小さいながらも青々とした葉をつけた樹は訪れたブルーの目を引き、
「それは?」
 問いかけにハーレイは経緯を話した。
 と、ブルーは、
「これが実をつけたら僕のものだね」
「は?」
「僕が持って帰ってきた種だろう?」
「……いや」
「違うっていうのか?」
「いや待て」
 ハーレイは気がついた。
 ブルーは草花を育てることにあまり興味がない自分が育てていることに驚いていない。
 驚いていない。
 からかいもしない。
(……ということは)
「これはもしかして計略か?」
「人聞きの悪い……」
「計画的だな?」
「僕が育ててと言ってもお前は育てないだろう?」
「それは……」
 植物を育てるということに興味があまりないハーレイは、ブルーが育ててくれと言えば枯らさないことを優先させ、種をそのままヒルマンに渡していたろう。
 多忙や難しいということを理由にして。
「……しかし何の為に」
「僕が持ち帰った種子で、何か分からないという事をエサにしたんだ。お前は食いついた」
「…………」
「そしてお前が育てた」
「それにどんな意味が?」
「実がなれば分かる」
「しかし……部屋で育てるにはそろそろ限界が……」
「大丈夫。これ以上大きくならない」
「何の実か、分かっているのだな」
「もちろん」
 ブルーは静かに笑みを浮かべ、
「お前に育てて欲しかったんだ」
「…………」
 意味が分からないと言った風にハーレイは頭を振り、大きな大きなため息を吐き出す。
「知らずにお前が育てることに意味があったんだ」
「だがもう知ってしまった。終わりだろう?」
「うん。でももう大丈夫。そろそろ知りたいだろうしね」
 ブルーはハーレイの心臓が壊れそうなほどの艶やかな笑みを見せ、
「実をならせて。僕のために」
 ここまで育ててきたのだ、そんなことを言われなくても世話をする。
 だがこの種子の一体何が特別なのかと思わざるを得なかった。
「検索しても出てこないよ」
「…………」
「特別だからね」
「どう特別なんだ?」
「知りたい?」
「当然だろう?」
「研究所が作り出した新種」
「研究所?」
「サイオン研究所。この植物はサイオンを吸収する」
「――――?」
「育てる者のサイオンを吸収するんだ」
「ブルー!」
 怒声に近いかと思えば、ハーレイの表情は羞恥に赤く染まっていた。
「僕を思って育ててくれた植物がどんな実になるか、とても楽しみなんだよ、ハーレイ」

 

 しばらくして、恋人たちの間で「情熱の果実の樹」として密かなブームになったことは言うまでもない。




                 情熱の果実・了




※このお話から生まれたシャングリラ学園番外編は、こちら→『情熱の木の実




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