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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

カテゴリー「アルト様からの頂き物」の記事一覧
 それはニューイヤーイベントのお祭り騒ぎが終わり、船内がいつもと変わらぬ空気になった頃のことだった。
 イベントの空気を惜しむというより、いつまでもダラダラするための口実にしていたブルーだったが、ついに青の間にも明日掃除部隊が突入することが決定したのだ。
「あと一週間くらい問題ないだろう? 同じ月内だし」
「生活にはメリハリが必要だ」
 きっぱり言い放ったハーレイだったが、あと一日と言われると強く却下出来ない。
「ではこの辺りを片付けるのなら、もう一日だけ延期するよう伝えよう」
「ありがとう、ハーレイ。じゃあそこの片付け宜しく頼む」
 そう言ってベッドに寝転がってしまったブルーに向けて大きな溜息を吐き出してみたが、見えているのに全く反応はない。
 視覚シールドを張っているのかと思うほどだ。
 もう一度溜息をついて床に広がるパーティの痕跡を一つ一つ拾い片付けてゆく。
 思い出してみればクリスマスからお正月とイベントは続き、その間一度も床が綺麗にならなかった。
 子供たちと作った紙吹雪や紙の花、飾りがあちこちに落ちている。
 それらを適当に拾い集めていると、小さな塊に気づいた。
 白い袋なのだが、ラッピングされているようでもなく、リボンがついているわけでもない。
「ブルー?」
 袋を拾い上げてから呼びかける。
「終わったか?」
「……いや。これは? 誰かからのプレゼントか?」
「どれ?」
 言いながらハーレイの手の中の袋を見やる。
「ああ、それね。プレゼントだと思うんだけど、送り主が分からないんだ。クリスマスの朝にあった。ひょっとしてハーレイからかと思ったんだが、違うようだね」
「クリスマスの朝ですか?」
「たぶん……。気がついたのは二日くらい後だったけれど」
「リボンも何もついておりませんが」
「ああ。中にメッセージカードが入っていたんだ」
「読んでも?」
「構わない。どこかに落ちていると思う」
 しれっと答えたブルーにハーレイは肩を落とし、まだ半分も片付いていない床の上に視線を巡らせる。
 と、ブルーが着たサンタクロースの衣装の下から白い紙片を見つけて拾い上げて中を読んだ。
 ――よろしく
(よろしく? 何をだ?)
 袋の中を覗き込む。
「んん?」
 妙な声を出してハーレイが袋から取り出したものは子供用の洋服だった――それもブルーの服を一筆書きしたような簡単な装飾のものだ。
「意味が分からなかったんだ。それ」
「確かに……」
 ハーレイが広げた服は三歳くらいの子供が着るサイズで、マントもあるがこちらもブルーのものに比べたら三分の一くらいの大きさだ。
「あ……」
「どうかしましたか?」
「動いてる」
 ブルーがベッドの中を指さす。
 そこには去年のクリスマス、いつの間にか青の間にあった青い色の石――意思をもった卵があったのだ。
「これと関係あるのでしょうか?」
 ハーレイが言いかけた時、卵は光を放ち、二人が驚いている間にヒビが入り、殻から拳が突き出すと粉々に壊れてしまった。
「――っ?」
「かみお~ん♪ 初めまして、パパ、ママ」
 卵の中に謎の生物がいるのは分かっていたが、出てきたのは小さなブルーに酷似していた。
 容貌がブルーに似ていることにハーレイは心底驚いたが、ブルーが反応したのはそこではなかった。
「どちらがパパでどちらがママなんだい?」
「え……ええ? ええっと……」
 子供はブルーとハーレイを何度も見比べ、
「パパ」
 と言ってハーレイを指さした。が、ブルーに向かって「ママ」という言葉は投げかけられなかった。
「ハーレイがパパということは、僕がママ?」
「……違う…よね」
「じゃあ、僕がパパでハーレイがママ?」
「…違う……。かみおぉぉ~ん。僕のママはどこに行っちゃったの?」
「いないよ」
 くすくすと笑いながらブルーは答える。
「ええっ?」
「この卵は僕とハーレイの二人で暖めたんだからね」
「……じゃあパパが二人?」
「そういうことになるね」
「…………」
 じっと割れた卵を子供は見つめる。
「……ねえ」
「なんだい?」
「パパが二人でも変じゃないよね?」
「変だ」
「うわ~ん」
 ブルーの即答に子供が泣き始めると、ハーレイは抱き上げて背を軽く叩いて宥める。
「ブルー。その言い方は……」
「事実だろう? 僕も君も男なんだから」
「そうだが……。――変でもいいだろう。何だかよく分からなかったが、アレを暖めていたのは私たちだったのだからね。保護者であることに間違いはない」
「……変でもいいの?」
「問題ない」
「わ~い♪」
 ハーレイの腕の中からぴょんと飛び出して空中でくるりと回って床に降り立つ。
「まず服を着た方がいい」
 そう言うと小さなブルーは小さな手足を動かして服を着始める。
 少々着るのに難解らしく着替えを手伝うハーレイにブルーは小さく微笑みながら頷き、
「分かった。アレは僕へのクリスマスプレゼントなんだ。サンタクロースからの」
「プレゼント?」
「服だよ。一昨年が卵で、去年が服。きっとぴったりのはずだ」
 ブルーの指摘に視線を向けると、服は子供の身体を綺麗に覆い隠していた。
 同時に全身から薄く青い光が発せられている。
「サイオン……? それも青い…」
 ハーレイは驚愕の瞳で子供を見つめる。
「ねえねえ。僕、こんなことも出来るみたい」
 嬉しそうに裸足で走り始め、壁も天井も人工重力を無視して縦横無尽に走る。オマケに水の上もだ。
「待ちなさい! こら!」
「やだよ~♪ 楽しいもん♪」
「止まれ!」
 青い光の軌跡を青の間中に描いて走る子供だったが、ハーレイの真上の天井を走っていた時、魔法が切れたように落ちてきてハーレイの腕の中に綺麗に収まった。
「こら!」
 見下ろすともう眠っている。
 狸寝入りかと思えばそうでもなさそうだ。
「エネルギー切れ。サイオン切れかな」
「時間制限有りか。内心ホッとした。あのままでは船内が混乱する」
「そうだな。まあとりあえず、よろしく、ハーレイ」
「はぁ?」
「カードによろしくって書いてあったのはこの事だろう」
「いや……これはブルーへのクリスマスプレゼントだろう?」
「君、パパだろう?」
「それは……完全否定出来ないが。それを言うならあなたもパパだ」
「ハーレイの腕の中が居心地良さそうじゃないか」
「…………」
 ハーレイは複雑な表情をしていたが、腕の中で丸まって寝ている様子は小動物のようで、暖かく可愛いと感じる。
「僕はその場所を誰にも譲る気はないんだけどね」
 告げるブルーの髪にそっと口付けてから、
「寝床はここで?」
 確認するより先にベッドに下ろす。
「寝相が悪くなければね」
 そう言ってブルーも小さな子供の頭を優しく撫でた。






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「ハーレイ」
 勤務を終え二人分の食事を手に青の間にやってきたハーレイに、ブルーが声をかけた。
 近づくのを待たず、青の間に足を踏み入れたと同時だ。
(何かあったのか?)
 急ぎ足でスロープを上れば、ブルーは食事を摂るテーブルにつき、チラリと視線を向けてきた。
「どうかしたか?」
「どうもしない」
「―――?」
「どうもしないけど……」
 言いながらテーブルの上で何かを転がしている。
 何だ?と歩み寄って覗き込むように見れば、掌で包み込めるほどの大きさの青い丸い石のようだった。
「……これは?」
「変化しちゃったんだ」
「何がだ?」
 どうも今ひとつハーレイには状況が飲み込めない。
 もっとよく見ようと食事の乗ったトレイを置き、ブルーと向かい合わせに座って石を見つめる。
「この前のクリスマスに子供たちからプレゼントをもらったろう? その中に指の先ほどの白い石があったのを覚えているか?」
「ああ、もちろんだ。何の意味があるのかとあれを入れた子供を捜したが、入れた者はなく不思議だった。……もしかしてそれが?」
「名乗り出られない理由があるのかもしれないし、その子にとっては大切な物かもしれないから捨てられなくて。でも仕舞ったまま忘れてたんだ。さっきふと思い出して調べてみようと思ったんだ」
「サイオンを使ったのか?」
「そう。何か秘密が隠されているんじゃないかと思ってね。そうしたら―――大きくなって色が変わった」
「……普通の石ではなかった、ということだな」
「そうなんだ。そうなんだけど……石には変わりない」
 青い石を摘み上げてハーレイの掌の上に落とす。
 ブルーが触れていたからか、それほど冷たくないそれは、動かせばコロコロと転がった。
「本格的に送り主を捜すことにしよう」
「頼むよ」
 好奇心そのものの笑みをブルーは浮かべた。
「遅くなったがそろそろ食事を……」
 言いかけたハーレイの唇が塞がれる―――甘く熱いもので。
「僕はお腹より心の方が空腹なんだけど?」
 問うように囁かれて否と言えるはずもない。
 そのままブルーを抱き上げてベッドに向かった。

 

 

 ハーレイの腕の中に綺麗に収まって甘い余韻に身を浸していたブルーの眉が寄せられた。
 身じろぎ視線を僅かに上げてハーレイを見る。
「―――?」
「……石。あの石、お前、こっちに持ってきたか?」
「いや。持ってきてない」
「………そうだよな」
「ブルー?」
「……ここにあるんだけど」
 ブルーの視線を追えば、二人の身体の間にその石はあった。
「ちょっと…」
 ハーレイは身を離してベッドから抜け出しテーブルの上を見れば、そこにあるはずの石はなかった。
「妙だな…」
「心なしか大きくなっているような気がするんだけど」
「まさか」
「ほら」
 先程までブルーが握れば掌で隠せるほどだったが、今はもう隠れない。
 その不可解さにハーレイはツカツカと歩み寄りブルーから石を取り上げようとした。
「……っつ!」
 ビリ、と鋭い痛みがハーレイに走り、掴むことが出来なかった。
「大丈夫か?」
「ブルー。危険かもしれない。すぐに……」
 ―――ダメ~っ
「え?」
 互いに今の声が聞こえたか?と視線で問い、聞こえたと視線で答えた。
「これ? 石が?」
 二人で石をじっと見る。
「今、駄目って言ったか?」
 問いかけてみるが答えはない。
 頷くとハーレイは、
「危険だからすぐに捨てなければ……」
 ―――ダメダメダメダメっ
 思念の主を知って二人が驚く。
「石が…生きてる」
「あ……ああ。そのようだ。いや、しかし…信じられん」
「捨てられるのが嫌なようだな」
「それこそが生きているという証のようだ。だが……本当に?」
 試しにとブルーが石を撫でれば、照れたようにほんのりピンク色になった。
「………奇っ怪な感じが…」
 率直な感想をハーレイが言うと、不快感を表すかのように石は倍の重さになった。
「面白い」
 ブルーは微笑し口付ければ、今度は真っ赤になった。
「……ブルー」
「なんだか、ペットみたいだ。ほら、ハーレイもキスしてみて」
 差し出されてそっと唇で触れれば、一瞬の間を置いてほんのり赤くなった。
「もっと愛情込めるといいんじゃないか?」
「私がそうするのはブルーだけだ」
 きっぱりと言えばブルーは赤くならず、花のような微笑を浮かべた。
「じゃ、そうして」
 石を手にしたままハーレイの背に腕を回せば、幾十もの口付けが落ちてきた。
 甘い吐息が途切れ途切れに漏れ始めれば、石はブルーの手から落ちてしまった。

 

 その石をハーレイのいない日は抱き締めて眠り、甘い話を聞かせていれば日ごとに大きくなり、抱えるほどにまで成長した。
 もはや危険という意識はなく、愛情を注ぐべきものになっていた。
 たまにハーレイが抱けば、仕方なさそうに大人しくしていると、ブルーは評した。

 その石が実は卵で、中から悪戯小僧が生まれてくるのは、次のクリスマスのことになる。





 うちのペットvの「ぶるぅ」の誕生秘話?です。
 悪戯大好きの大食漢。ブルーでさえ手を焼いている模様。


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 起き上がった瞬間、後頭部に何かが当たり前のめりに倒れた。
 少しだけ視線を上げれば大きな荷物を抱えた男が歩き去って行った。
(あの荷物が僕の頭を……)
 自分を倒した憎き荷物を睨み付ける。
 だが次の瞬間、
「これもだ」
 首根っこを掴まれて摘み上げられた。
「やめろっ」
 手足をバタつかせて叫べば、怪訝な顔が見て取れた。その顔は………。
「ブルー?」
 ブルーと呼ばれた男、もとい青年は紅の瞳で自分が摘み上げたものをじっと見つめた。
「誰だ、お前」
「僕、僕、ぶるぅだよ!」
「知らないな―――あぁハーレイ丁度いい所にきた。これ、処分してくれ」
「きゃーーーーーっ!!」
 悲鳴をあげて逃げ出そうとするが、ブルーがそれを許すはずがない。
 こうなれば近づいてきたハーレイに救いを求めるしかない。
「キャプテン、キャプテン、僕、ぶるぅだよ。助けてよ」
「これは?」
「どうもここに沸いて出たようだ」
「ここに、ですか。青の間に侵入するとは危険ですね」
 至近距離で見つめれば藻掻く手がハーレイの頬をひっかいた。
「その上、凶暴だ」
「じゃ、処分を頼む」
 ハーレイに手渡すとブルーは青の間の奥へと姿を消した。
「キャプテン、やめて! 僕のこと忘れちゃったの?」
「忘れたも何も、今日初めて会うと思うが」
「えっ?」
「お前は自分のことをブルーと言ったな」
「違う違う、ぶるぅだよ」
「区別しにくいな。それで何故ここに?」
「お家に帰ろうとして、間違えたみたい」
「家はどこだ?」
「シャングリラ」
「ここだな」
「名前、同じだね」
 にぃ、とぶるぅが笑った。
「……そういうことか」
 合点がいったらしくハーレイはぶるぅを抱き直し、ブルーが消えた奥へと足を進めた。
「ねえ、何がそういうことなの?」
「いくつかの同じ世界があり、ここはその一つ。君がいた世界はここじゃない世界だ」
「……なんだか頭がごちゃごちゃになる」
「私もだ」
「ねえ、そしたらこっちにもぶるぅがいる?」
「いないな」
「ええっ? ブルーもキャプテンも別の世界にはいるんでしょ?」
「……………」
 急に口を閉ざしたハーレイの顔をぶるぅは覗き込む。
「ねえ、どうしたの?」
「ぶるぅがいない理由は二つ。その世界にぶるぅが必要ないか、それとも……」
「それとも?」
「私の口からは言えん。ブルーから聞くといい」
 青の間の奥の部屋のドアが開き足を踏み入れると、その中で寝転がっていたブルーの姿が目に入った。
「どうやら別の世界のぶるぅのようです」
「そうか。ここにはいないからな」
 ブルーが答えると、ぶるぅはハーレイの腕からするりと抜け出し、ブルーの側に走り寄るとちょこんと座った。
「ここには何が理由で僕が……ぶるぅがいないの?」
 ちら、とブルーがハーレイを見やる。
 そして次の瞬間、ぶるぅが知っているブルーでは見たことない真剣な表情を見せ、
「この世界のぶるぅ、いや他の世界のぶるうのことを、君は知っているか?」
「ううん、知らないよ」
「ある世界のぶるぅはとっても元気な良い子で、ある世界では真面目な勉強家で、ある世界では観念世界で生きている」
「そう…なんだ…」
「君は知らないと思うけれど、ぶるぅは卵から生まれるんだよ」
「えっ???」
 ブルーの半分程くらいしか身長のないぶるぅは目をまん丸にして驚く。
「サンタクロースが僕だけにくれるプレゼントなんだ」
「ブルーだけに?」
「そうだよ。そして一年間僕が温めて次のクリスマスに生まれるんだ」
「ブルーも温めたの?」
「そうだよ、僕も温めた。一年間ずっとね。どうしても出来ない時はハーレイが温めてくれたんだ」
 言えばぶるぅの視線は一瞬ハーレイに向く。「ほんと?」と尋ねれば肯定が返ってきた。
「僕は楽しみにしていたんだ。どんなぶるぅが生まれるかと。次のクリスマスの日が待ち遠しかった。そしてその日、卵は割れた」
「う…うん」
「でも、ぶるぅはその中にいなかったんだ」
「どうして? どうして?」
「どうしてなのか、僕にも分からない。サンタクロースに聞いてみたけど、分からなかった」
「それでこの世界にぶるぅはいないのか……」
「そうなんだ」
 言ってブルーは視線を落とした。
「ね、ねぇねぇそしたら僕、ここにいるよ。いてもいい?」
「君はどんなぶるぅ? 悪戯が大好きなぶるぅはちょっと困るな」
「………悪戯しないよ」
「食いしん坊も困るな」
「沢山食べないよ」
「そうか」
 言ってブルーが両手を広げると、ぶるぅはぴょんと飛んでその腕の中に飛び込んだ。
(……あれ…?)
 この感触に覚えがある。
 どうしてだろうと考えようとしたが、ブルーに言葉をかけられ中断してしまった。
「じゃ、ここにいてもらおうかな?」
 優しく向けられた微笑にぶるぅは「うん」と答えて目を閉じた。


《信じたようですね》
《まだ子供だからね。これで悪戯が減れば有り難い》
 腕の中のぶるぅは昼間の船内中を混乱させた今年最後の悪戯に疲れたのか、もう寝息をたてていた。

 


 
■作者メッセージ
 悪戯防止に芝居をしてみた長と船長。
 …二人とも大根役者じゃなかった…かも?




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