シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
「ハーレイ」
勤務を終え二人分の食事を手に青の間にやってきたハーレイに、ブルーが声をかけた。
近づくのを待たず、青の間に足を踏み入れたと同時だ。
(何かあったのか?)
急ぎ足でスロープを上れば、ブルーは食事を摂るテーブルにつき、チラリと視線を向けてきた。
「どうかしたか?」
「どうもしない」
「―――?」
「どうもしないけど……」
言いながらテーブルの上で何かを転がしている。
何だ?と歩み寄って覗き込むように見れば、掌で包み込めるほどの大きさの青い丸い石のようだった。
「……これは?」
「変化しちゃったんだ」
「何がだ?」
どうも今ひとつハーレイには状況が飲み込めない。
もっとよく見ようと食事の乗ったトレイを置き、ブルーと向かい合わせに座って石を見つめる。
「この前のクリスマスに子供たちからプレゼントをもらったろう? その中に指の先ほどの白い石があったのを覚えているか?」
「ああ、もちろんだ。何の意味があるのかとあれを入れた子供を捜したが、入れた者はなく不思議だった。……もしかしてそれが?」
「名乗り出られない理由があるのかもしれないし、その子にとっては大切な物かもしれないから捨てられなくて。でも仕舞ったまま忘れてたんだ。さっきふと思い出して調べてみようと思ったんだ」
「サイオンを使ったのか?」
「そう。何か秘密が隠されているんじゃないかと思ってね。そうしたら―――大きくなって色が変わった」
「……普通の石ではなかった、ということだな」
「そうなんだ。そうなんだけど……石には変わりない」
青い石を摘み上げてハーレイの掌の上に落とす。
ブルーが触れていたからか、それほど冷たくないそれは、動かせばコロコロと転がった。
「本格的に送り主を捜すことにしよう」
「頼むよ」
好奇心そのものの笑みをブルーは浮かべた。
「遅くなったがそろそろ食事を……」
言いかけたハーレイの唇が塞がれる―――甘く熱いもので。
「僕はお腹より心の方が空腹なんだけど?」
問うように囁かれて否と言えるはずもない。
そのままブルーを抱き上げてベッドに向かった。
ハーレイの腕の中に綺麗に収まって甘い余韻に身を浸していたブルーの眉が寄せられた。
身じろぎ視線を僅かに上げてハーレイを見る。
「―――?」
「……石。あの石、お前、こっちに持ってきたか?」
「いや。持ってきてない」
「………そうだよな」
「ブルー?」
「……ここにあるんだけど」
ブルーの視線を追えば、二人の身体の間にその石はあった。
「ちょっと…」
ハーレイは身を離してベッドから抜け出しテーブルの上を見れば、そこにあるはずの石はなかった。
「妙だな…」
「心なしか大きくなっているような気がするんだけど」
「まさか」
「ほら」
先程までブルーが握れば掌で隠せるほどだったが、今はもう隠れない。
その不可解さにハーレイはツカツカと歩み寄りブルーから石を取り上げようとした。
「……っつ!」
ビリ、と鋭い痛みがハーレイに走り、掴むことが出来なかった。
「大丈夫か?」
「ブルー。危険かもしれない。すぐに……」
―――ダメ~っ
「え?」
互いに今の声が聞こえたか?と視線で問い、聞こえたと視線で答えた。
「これ? 石が?」
二人で石をじっと見る。
「今、駄目って言ったか?」
問いかけてみるが答えはない。
頷くとハーレイは、
「危険だからすぐに捨てなければ……」
―――ダメダメダメダメっ
思念の主を知って二人が驚く。
「石が…生きてる」
「あ……ああ。そのようだ。いや、しかし…信じられん」
「捨てられるのが嫌なようだな」
「それこそが生きているという証のようだ。だが……本当に?」
試しにとブルーが石を撫でれば、照れたようにほんのりピンク色になった。
「………奇っ怪な感じが…」
率直な感想をハーレイが言うと、不快感を表すかのように石は倍の重さになった。
「面白い」
ブルーは微笑し口付ければ、今度は真っ赤になった。
「……ブルー」
「なんだか、ペットみたいだ。ほら、ハーレイもキスしてみて」
差し出されてそっと唇で触れれば、一瞬の間を置いてほんのり赤くなった。
「もっと愛情込めるといいんじゃないか?」
「私がそうするのはブルーだけだ」
きっぱりと言えばブルーは赤くならず、花のような微笑を浮かべた。
「じゃ、そうして」
石を手にしたままハーレイの背に腕を回せば、幾十もの口付けが落ちてきた。
甘い吐息が途切れ途切れに漏れ始めれば、石はブルーの手から落ちてしまった。
その石をハーレイのいない日は抱き締めて眠り、甘い話を聞かせていれば日ごとに大きくなり、抱えるほどにまで成長した。
もはや危険という意識はなく、愛情を注ぐべきものになっていた。
たまにハーレイが抱けば、仕方なさそうに大人しくしていると、ブルーは評した。
その石が実は卵で、中から悪戯小僧が生まれてくるのは、次のクリスマスのことになる。