シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
花たちの異分子
(今日はこっちに…)
行ってみようかな、と歩き始めたブルー。学校からの帰りに、いつものバス停で降りて。
たまには普段と違った道から帰るのもいいよね、と住宅街の中を歩いていたら…。
(あれっ?)
夾竹桃だ、と目を丸くした。道沿いの家の庭に、ひときわ鮮やかなピンク。真夏の空が似合いの色。今の季節には咲かない花。
見間違いかと思ったけれども、本当に夾竹桃だった。花も葉っぱも、夾竹桃そのもの。
(狂い咲き…)
夏と間違えて咲いちゃったのかな、と見詰めた夾竹桃。ブルーの背よりも大きな木。家の庭には他にも夾竹桃があるのに、花が咲いているのは一本だけ。
(他の木は咲いていないなら…)
変わった種類の夾竹桃ではないのだろう。何故か一本だけ、花の季節に出遅れて咲いた。今頃の季節に満開になって。
(別の道から帰って良かった…!)
ちょっと得をしたような気分にもなる。珍しいものに出会えたから。
温室でもないのに、季節外れのピンク色の花。他所の庭では、とうの昔に散った後。此処の庭の他の夾竹桃と同じに、夏の終わりに。
(ふふっ…)
いいもの見付けた、と眺めて満足。花は好きだし、今の季節には見られない花は、なおのこと。植物園なら季節外れの花も咲くけれど、普通の場所で出会えるなんて、ツイている。
御機嫌でたっぷり花を楽しみ、足取りも軽く家に帰った。「いいものを見たよ」と、弾む心で。
制服を脱いで、おやつを食べに行ったダイニングで母にも話した。
「夾竹桃が咲いていたよ」と、「ママも見に行くなら、この家だから」と。
「あらまあ…。運が良かったのねえ」
ママも見に行ってみるわ、明日、お買い物に行くついでに。
「やっぱり見たくなっちゃうでしょ? ホントに綺麗だったんだよ!」
今が満開。綺麗な間に行ってあげてね、せっかく素敵に咲いてるんだから…!
母にも勧めた「真夏の花」。季節外れの夾竹桃は、一人占めしてはもったいない。母に話せば、近所の人にも伝わるだろう。
(知ってる人は、とっくに見に行ってるかもしれないけれど…)
母が知らないなら、この辺りではまだ情報が回っていない。きっと明日には、見物人が増えて、夾竹桃も喜びそう。満開の花を見て貰えて。
あの家の人も、きっと嬉しくなるに違いない。自分たちだけで見ているよりも、花のお裾分け。
ホントにいいものを見付けちゃった、と上機嫌で二階の部屋に戻って、勉強机の前に座った。
今の季節は花が咲かない夾竹桃。とうに咲き終わって、緑の葉っぱばかりになって。
けれど、あの木は今が見頃で花が一番映える時期。
(季節外れでも、綺麗なものは綺麗だもんね?)
狂い咲きしちゃった花だって、と思った途端に気が付いた。その言葉が持っている意味に。何の気なしに繰り返していた、花の咲き方。
(狂い咲き…)
そう呼ぶほどだし、「尋常ではない咲き方」の意味。季節外れの、変な咲き方をした花のこと。今の季節に咲いた夾竹桃やら、冬の最中に花をつけている桜やら。
(…狂い咲きって、花の異分子?)
仲間外れの夾竹桃。
普通だったら夏に咲くのに、今頃の季節に咲いているなんて、夾竹桃の中の異分子。
最初から季節外れに花をつけるよう、改良された品種だったら、何の問題も無いのだけれど…。
(だけど、あの木は違うよね…)
夾竹桃は他にもあったし、あの木だけが違う季節に花を咲かせた。他の木たちが葉だけをつけている中で、鮮やかなピンクの色を纏って。
(一本だけ、違っているなんて…)
まるでミュウのよう。
今の時代のミュウとは違って、遠く遥かな時の彼方で生まれたミュウ。
前の自分が生きた時代に、SD体制が敷かれた世界で。
ミュウも人間だったというのに、異分子だからと忌み嫌われた。サイオンを持っていたせいで。…人類には無かった能力のせいで。
嫌われ、排除されたミュウ。見付かれば端から殺されていって。
その場で処分されずに済んでも、実験動物として扱われた。檻に入れられ、過酷な実験をされて奪われた命。人間扱いされることなく。
それが「異分子」だったミュウたちの末路。すると、さっきの夾竹桃も…。
(うんと綺麗に咲いていたのに…)
夾竹桃の仲間の中では、嫌われたりもするのだろうか?
あの庭にあった、他の夾竹桃たちに。「あれは変だ」と、「今頃、咲いているなんて」と。
声も掛けては貰えないまま、仲間外れの夾竹桃。異分子だからと、そっぽを向かれて。
(どんな花でも…)
狂い咲きは異分子なのかもしれない。
遠い昔のミュウたちのように、仲間たちから忌み嫌われて。
サイオンは持っていないけれども、代わりに季節外れに咲く花。他の仲間とは違った能力、別の季節に「花を咲かせる」力。
「普通ではない」と花を毟り取られたり、根こそぎ切り倒されてしまっても、仕方ないとか。
他の仲間が嫌うのだったら、花も、存在も抹殺されて。
(植物は自分で動けないから…)
そんなことにはならないだけで、動けたとしたら、滅ぼされるのが狂い咲きした植物たち。
仲間外れにされた挙句に、「異分子だから」と処分されて。
花を毟られ、二度と花など咲かないようにと、根元から切られて、それでおしまい。
(…そうなのかも…)
植物は自分で動けはしないし、滅ぼされないというだけのことで、本当は嫌われる狂い咲き。
「今頃、咲いた」と仲間外れで、口さえも利いて貰えない世界なのかもしれない。
人の目には綺麗に映っても。
珍しいから、と写真を撮る人たちが大勢いても。
(…植物の世界では、変なんだものね?)
狂い咲きした植物は。
帰り道に出会った、今が満開の夾竹桃も、雪の季節に花を咲かせる桜でも。
植物の世界では異分子だろう、狂い咲きの花。仲間たちとは違った季節に咲かせる花。
(狂い咲きって、植物のミュウ…?)
仲間たちから嫌われちゃうの、と考えていたら聞こえたチャイム。仕事帰りのハーレイが訪ねて来てくれたから、テーブルを挟んで向かい合わせで話してみた。
「あのね、帰りに夾竹桃を見たよ。花が一杯咲いてる木」
今が満開で、とても綺麗なピンク色の花…。夏の夾竹桃と少しも変わらない色で。
「ほほう…。今の季節に夾竹桃とは、何処の温室だ?」
この家の近所にあるんだろうが、変わった趣味だな。夾竹桃を温室で育ててるなんて。
夾竹桃が好きな人なのかもな、とハーレイは勘違いをした。狂い咲きとは思いもしないで。
そう考えるのが普通だろうし、ますます「狂い咲き」が異分子に思える。人間さえもが、変だと眺める現象。季節外れに咲いている花。
「温室じゃなくて、外なんだってば。狂い咲きだよ」
普通の庭にあった夾竹桃でね、一本だけが今が満開…。他の木には花が咲いてないのに。
「そりゃ珍しいものを見たなあ…。綺麗だったろ?」
季節外れでも満開だったら、とハーレイも褒める方へと行った。「夾竹桃は華やかだしな」と、「夏の青空にも負けないピンク色だから」と。
「うん。とても綺麗で、いいものを見付けたと思ったんだけど…」
ママにも話して、ツイてると思っていたんだけれど…。
おやつの後に部屋で考えていたら、「狂い咲き」っていう言葉が引っ掛かったんだよ。
咲いてる季節が普通じゃないから、そういう呼び方になるんでしょ?
変な花だ、って思われてるから「狂い咲き」。
それって「変だ」っていう意味なんだし、花の世界の異分子みたいなものだから…。
狂い咲きをしている花って、なんだかミュウに似てるよね、って…。
今の時代のミュウじゃなくって、前のぼくたちが生きてた頃のミュウたち。
異分子なんだ、って忌み嫌われてて、見付かったら処分されちゃって…。
狂い咲きの花もそうじゃないかな、同じ仲間の目から見たなら。
「あれは変だ」って嫌われちゃって、そっぽを向かれて、ミュウみたいに処分されるのかも…。
植物は自分で動けないから、そんなことにはならないだけで。
狂い咲きの花は嫌われ者かも、とハーレイに説明した考え。「植物の世界では異分子かも」と。
「もしも植物が動けるんなら、花を毟られちゃうだとか…。根こそぎ切られちゃうだとか」
人類がミュウを端から殺したみたいに、花の世界から抹殺しちゃった方がいい、って…。
「なるほどなあ…。そういう考えになっちまったんだな、狂い咲きの花から」
狂い咲きってヤツは、植物の世界じゃ嫌われ者かもしれない、と。
植物が自分で動けたとしたら、狂い咲きしたヤツは仲間に滅ぼされるかも、と思うわけだな?
前の俺たちが滅ぼされそうになっていたのと同じで…、とハーレイも分かってくれた考え。狂い咲きした花たちは全て、異分子扱いされるのでは、と。
「ぼくはそう思ったんだけど…。ハーレイはどう?」
やっぱり異分子なんだと思う?
人間の目には綺麗で珍しくっても、同じ仲間の植物からしたら、嫌われ者になっちゃうのかな?
「さてなあ…。植物の世界じゃ、特に気にしちゃいないんじゃないか?」
人間みたいに戦争なんかはしないで、ずっと昔から、平和に生きて来たのが植物だしな。
それに、どちらかと言えば、同情して貰えそうなんだが…。狂い咲きしている時なんかは。
同じ仲間の植物からな、とハーレイが言うから首を傾げた。どうして同情されるのだろう、と。
「なんで同情?」
変なヤツだ、って嫌うんだったら分かるけれども、同情するって…。どうしてなの?
「狂い咲きというヤツの仕組みのせいだ。…そうなっちまう原因だな」
気温がおかしくなった時にも、狂い咲きすることは多いんだが…。そういう時は仲間も多い。
他の木たちも狂い咲きしてて、一本だけではなくなるんだ。全部が狂い咲きではなくても。
しかし、一本だけが狂い咲きなら、木が傷んでいるってことも少なくない。虫に食われて弱っているとか、病気になっているとかな。
そういう理由が無かったとしても、狂い咲きしたら木は傷んでしまう。季節じゃないのに、花を咲かせるエネルギーを使ったわけだから。
木が傷んでの狂い咲きにしても、これから傷んじまう方でも、植物にとっては大変なことだ。
とても負担が大きいからな、と教えて貰った狂い咲きのこと。
季節外れに花を咲かせた時には、植物は既に弱っているか、花を咲かせたことで弱ってゆくか。植物が受ける負担は大きく、弱った身体が更に弱るか、これから弱ってゆくことになるか。
知らなかった、と目を瞬かせた「狂い咲き」。珍しいものに出会えて良かった、と夾竹桃の花を眺めたけれども、あの木は弱っていたのだろうか?
「じゃあ、ぼくが見た夾竹桃も…。木が弱ってたの?」
そんな風には見えなかったけど、幹の中に虫がいるだとか…。何か病気にかかってるとか…?
「弱ってるとは限らないがな。何かのはずみで、花を咲かせる仕組みが狂ったのかもしれん」
だが、狂い咲きをしたのは確かだ。しかも満開の花となったら、相当なエネルギーだから…。
その木は弱っちまうだろう。…木そのものは弱らなくても、花を咲かせる力の方は。
来年の夏には花が咲かないとか、咲いても少しだけになるってこともある。他の木にはドッサリ咲いているのに、その木だけ花が少ないとかな。
狂い咲きというのは、そうしたモンだ、とハーレイはフウと溜息をついた。人間の目には珍しく映る現象だけども、その舞台裏は厳しいものだ、と。
「そうなんだ…。あの木、来年は花が咲かないか、花が少なくなっちゃうか…」
せっかく綺麗に咲いたのに…。今の季節には珍しいよね、って得をした気分だったのに…。
あの木が弱ってしまうだなんて、と木があった家の方に目を遣る。この部屋の窓から、あの家の庭は見えないけれど。
「お前だって、可哀相だと思うだろ? 弱っちまうと聞いたなら」
だから植物の仲間同士でも、同じことだな。
嫌うよりかは、同情の方になるだろう。狂い咲きする理由ってヤツを知っているんだから。
弱った仲間や、これから弱りそうな仲間を嫌ったりはしない。
狂い咲きした木は、異分子じゃなくて、病人みたいなものだしな?
前の俺たちが生きてた時代の人類だって、ミュウには酷いことをしてたが、人類同士じゃ、全く事情が違ったろうが。
俺が嫌いなキースの野郎も、友達のサムの病院にせっせと通っていた。…あんなヤツでもな。
キースでさえもそうだったんだぞ、他の人類も病人には優しかっただろう。ミュウの子供を処分していた、ユニバーサルのヤツらにしたって、病気の人には親切だった筈だと思うぞ。
もちろん、怪我で不自由している人にも親切に。荷物を持つとか、席を譲るとか。
狂い咲きした植物だって、植物の世界じゃ、そんな具合に親切にして貰えるだろう。
しかしだ…。
狂い咲きを忌み嫌うヤツがいるとしたなら、人間だよな、とハーレイが言うから驚いた。
嫌うだなんて、とても信じられない。
帰り道に出会った、季節外れの夾竹桃は綺麗だったのに。母に話したら、母も見に行くつもり。母から話を聞いた人たちも、早速、出掛けてゆきそうなのに。
「嫌うって…。仲間の植物たちじゃなくって、人間が忌み嫌うだなんて、どうして嫌うの?」
綺麗なんだし、珍しい季節に花が見られるんだし…。いいことずくめだと思うけど?
木の持ち主の人は「弱ってしまう」ってショックだろうけど、それと嫌うのとは違うよね?
あの夾竹桃が咲いてた家の人だって、頑張って世話をするんだと思うよ。
咲いちゃったものは仕方ないから、弱らないように肥料を沢山あげたりもして。
来年は駄目でも、次の年にはまた綺麗な花を咲かせるように…、とあの庭の持ち主の心を思う。きっと大切に世話してやって、木が弱らないよう、あれこれと手を尽くすだろうから。
「持ち主の人は頑張るだろうな。弱っちまってても、元気を取り戻してくれるように」
もちろん、嫌うわけがない。自分の家の庭にある木が嫌いなヤツなんか、いやしないぞ。
人間が狂い咲きを嫌うと言うのは、狂い咲きという言葉の通りだ。…ずっと昔の話なんだが。
まだ狂い咲きの仕組みさえ分かっていなかった時代。人間が地球しか知らなかった頃だな。
その花が咲く季節じゃないのに、花が咲いたりするもんだから…。
不吉なことだと思われたりした。今じゃ喜ばれる、冬の桜も。
「ええっ!?」
冬の桜って、とても人気が高いじゃない。冬にも花が咲く、冬桜まであるくらいだよ?
あれは毎年花が咲くから、狂い咲きとは違うけど…。
でも、本物の桜が狂い咲きしたら、みんなとっても喜ぶじゃない…!
新聞にだって写真が載るよ、と直ぐに頭に浮かんだ写真。寒い季節に桜が咲いたら、新聞を飾るものだから。「此処で見られます」と地図などもつけて。
「今の時代はそうなんだが…。昔のことだと言っただろ?」
季節外れの花は気味悪がられたらしい。天変地異の前触れだとか、不吉なことと結び付けてな。
特に嫌われた花が桜だ。
ずっと昔は、桜の季節は疫病が流行ると思われていた。花鎮めの祭りがあったくらいに、疫病を恐れていたんだし…。その桜が季節外れに咲いたら、怖いだろうが。
遠い昔は、桜の花の頃に疫病が流行る年が多かったという。桜の花が散ると、疫病の神も一緒に舞い散るのだと恐れた人々。それを防ぐのが花鎮めの祭り。
春に祭りで疫病を封じておいたというのに、季節外れの桜が咲いたらどうなるか。疫病が流行る前兆だ、と誰もが恐れおののいた。冬の桜を愛でる代わりに、「なんと恐ろしい花なのだ」と。
「…桜、そういう花だったんだ…」
昔の人たちもお花見してたし、冬の桜は珍しいから、うんと喜びそうなのに…。
違ったんだね、お祭りの用意もしていないのに咲いちゃった、って怖がられたんだ…。
今だと見に行く人も沢山いるのに、と価値観の違いに驚くばかり。冬の桜は本当に人気で、冬に花が咲く品種を選んで植えている人も少なくないから。
「所違えば品変わる、っていうヤツかもなあ…。場所とは違って、時代なんだが」
似たような例じゃ、竹の花だってそうだ。
竹の花は滅多に咲かない上に、咲いた後には竹がすっかり枯れちまうから…。
そいつが咲いたら、不吉なことの前兆なんだと言われてた。実際の所は、竹は自分の都合で花を咲かせていたのにな?
そろそろ花を咲かせる頃だ、と何十年に一度とかの開花期がやって来る度に。
季節外れの桜にしたって、竹の花にしたって、悪いことは何もしちゃいないんだが…。
ただ咲いたというだけのことで…、とハーレイが浮かべた苦笑い。「人間ってヤツは勝手だな」などと、「人間が一番偉いわけでもないのになあ…」と。
「…狂い咲きの桜も、竹の花が咲くのも、どう捉えるかは人間の都合で決まっちゃったんだ…」
気味の悪い花が咲いたから、って嫌っていたのが昔の人で、今だと珍しくて大人気。
おんなじ花でも、それを見る人の考え方で変わってくるなんて…。
狂い咲きの花、ホントにミュウとおんなじだね。…前のぼくたちが生きてた頃の。
異分子だから処分すべきだ、って端から殺されちゃったけど…。滅ぼさないと、ってメギドまで二回も持ち出してたけど、あれは間違い。
ミュウは進化の必然だったし、滅ぼす方が間違いだったのに。
滅ぼしたりないで、人類はミュウと手を取り合わなきゃいけなかったのに…。
「まったくだ。…もっとも、前の俺たちにだって、それは分かっていなかったんだが…」
異分子なんだ、と迫害されてりゃ、そういうモンだと思っちまうよな。…ミュウの方でも。
前のハーレイたちも驚いたという、キースがスウェナ・ダールトンに託したメッセージ。
全宇宙帯域で流されたメッセージの中で、キースは「ミュウは進化の必然だった」と明言した。それをユグドラシルの一室で見るまで、ハーレイたちでさえ夢にも思っていなかった。
追われ続けたミュウが「異分子ではなかった」とは。
人類の進化の次の段階、それが「ミュウ」という新しい人種だったとは。
「あれは本当に驚いたんだ」と苦笑しながら、ハーレイは「そういえば…」と顎に手を当てた。
「人間の解釈次第だと言えば、文字通り、そういう花もあったっけなあ…」
不吉なんだか、めでたい印の吉兆なんだか、意見が分かれちまった花。
その花が咲いた当時でさえも、どう受け取るのか、人によって違ってしまった花が。
「意見が分かれたって…。その花も狂い咲きしたの?」
それとも竹の花と同じで、滅多に咲かない花だったとか…?
どっちの花、と興味津々。昔の人たちの考え方は、今と全く違うから。
春になったら桜を愛でていたのに、その一方で恐れていた人々。花見の宴を催す傍ら、花鎮めの祭りを行ったほど。同じ桜の花だというのに、愛でたり、それを怖がったり。
そんな人々の意見が分かれた花とは、いったいどんな花なのだろう…?
「狂い咲きではなかったな。咲いた季節は普通だったから」
それに滅多に咲かない花でもない。毎年、季節になれば山ほど咲いた筈だぞ。そいつが生えてる場所に行ったら。
ただ、咲き方の方が問題になった。
蓮の花だったが、双頭蓮と呼ばれるヤツでだな…。
「双頭蓮…?」
「名前の通りの蓮の花だ。一つの茎に二つの花をつけている蓮」
茎が途中で分かれるんじゃなくて、天辺に蕾が二つ生まれて、二つとも咲く。頭が二つあるってことで、双頭蓮という名前になるんだな。
蓮池があれば、たまにヒョッコリ現れるそうだ。
今は幸せを呼ぶと言われて、皆が見に行くほどなんだがなあ…。
うんと昔は嫌われたんだ。
縁起が良くない、と歴史にまで書き残されたくらいに。…しかしだな…。
今じゃすっかり幸せの花になっちまった、とハーレイは笑う。同じ双頭蓮なのに。
その辺りは狂い咲きや冬の桜と同じだけれども、双頭蓮は当時に意見が分かれていたという。
凶兆なのだと考えた人と、吉兆だと捉えていた人とに。
「飛鳥時代は知っているだろう? 歴史じゃお馴染みの時代だからな」
古典の方だと、それほど中身は無いんだが…。せいぜい万葉集くらいってトコで。
お前たちに授業で教えられるものは…、とハーレイが嘆く飛鳥時代。まだ日本では、物語などは書かれていなかった。古典の授業で扱えるものは、万葉集に編まれた歌くらい。
その飛鳥時代、都が置かれた飛鳥に剣池と呼ばれる池があった。
池には沢山の蓮が茂って、其処に現れた双頭蓮。一つの茎に二つの花をつけた蓮。
日本書紀に書かれた最初の記録は、舒明天皇の時。
なんとも不思議な蓮の花だから、恐れる人もいたのだけれども、何も起こりはしなかった。天変地異も、戦争なども。
それでも珍しい花だったからこそ、日本書紀にも書かれたのだろう。当時の人が後世に残そうと思わなければ、記録は残らず、忘れ去られた筈だから。
次に双頭蓮が現れたのが、女帝だった皇極天皇の時代。やはり前と同じ剣池で。
時の権力者だった蘇我氏の長は、双頭蓮が出現したのを、自分に都合よく解釈した。
世にも珍しい蓮の花だし、「蘇我氏が栄える吉兆だ」と。
せっかくだからと、その花の絵を絵師に描かせた。それも高価な金泥を使って、贅沢に。
出来上がった絵は、大仏があった寺に奉納して、「これで蘇我氏はますます栄える」と上機嫌。吉兆の蓮が咲いただけでも素晴らしいのに、その絵を奉納したのだから。
けれど、それから丁度、一年が経った時。
乙巳の変で、蘇我氏は滅びてしまったという。双頭蓮の絵を描かせた長の息子の入鹿は殺され、長の蝦夷は館に火を放った。全ては炎の中に飲まれて、蝦夷の命も其処で潰えた。
「…なんだか怖いね…」
たったの一年で、全部滅びてしまったなんて。…まるで蓮の花に呪われたみたい…。
「そうだろう?」
蘇我氏が滅びる前兆だったか、そうじゃないかは分からないがな。…ただの花だけに。
とはいえ、当時の人間にすれば、不吉としか思えなかっただろう。あんな不吉な花を喜ぶから、余計に酷いことになった、と。
立派な絵まで描かせたんだからな、と軽く両手を広げたハーレイ。「軽はずみだと思われても、仕方あるまい」と。
「昔の人間は、不吉なことが起こりそうだと考えた時は、大人しくしたものなんだが…」
家に引きこもって外へ出ないとか、神仏に助けを祈るだとか。
そうする代わりに、怪しげな蓮の絵まで描かせていたわけだから…。自業自得だ、と考える人も多かったろうな。「あれさえ描かせて奉納しなけりゃ、無事だったものを」と。
そういう話があったお蔭で、双頭蓮を嫌う人間が多かったのに…。
いつの間にやら、双頭蓮と言えば、縁起のいい花になっちまってた。咲いたと聞いたら、大勢の人が一目見ようと押し掛けるほどに。
昔の人には凶兆だった花だというのに、後の時代だと吉兆なんだな。
その辺りのことは、狂い咲きした冬の桜なんかも、似たようなものだと言えるんだが…。
双頭蓮の場合は、咲いた当時に意見が分かれていたのがなあ…。
あれは不吉な花なのでは、と思う連中と、「吉兆なんだ」と思った蘇我氏の方と、真っ二つに。
「…ホントは凶兆だったのに?」
だってそうでしょ、蘇我氏は滅びちゃったんだから。
不吉な花なんて、本当は存在しないんだけど…。その蓮の花も、今、咲いていたら、幸せを呼ぶ花が咲いてるから、って見に行く人がドッサリだけど…。
でも、その頃だと、大真面目に信じていたんだよね?
季節外れの桜の花は不吉だとか…。狂い咲きした花や、変な形で咲いてる花も良くないとか。
そんな時代なら、双頭蓮も凶兆ってことになるんでしょ?
蘇我氏が滅びてしまう予兆で、それを知らせるために咲いていたんだ、って…。
なのに勘違いをしたんだよね、と確認した。蘇我氏が滅びる凶事の前兆、それが双頭の蓮の花。
けれど蘇我氏の長は、吉兆だと捉えたから。絵まで描かせて、大仏に奉納したのだから。
「そうなるな。…権力者ってヤツには、ありがちなんだが」
自分が一番偉いと思っているから、世の中のことは、全部自分のためにあるんだ。
皆が「不吉だ」と恐れていたって、自分が「素晴らしい」と思っちまえば、不吉なことも吉兆になってしまうってな。権力者の頭の中でだけ。
だから蘇我氏も、不吉な蓮が咲いているのに大喜びして、絵まで奉納しちまった、と。
昔からよくある話だよな、とハーレイは頭を振っている。「この手の話は多いんだ」と。
大きな権力を手にした者は、何も恐れはしないから。何もかも自分の意のままに出来て、不吉なことさえ覆せると思うほどだから。
「だがなあ…。前の俺たちを滅ぼそうとしていた、グランド・マザーの場合は、だ…」
ミュウを吉兆とは思ってくれずに、せっせと殺していただけだったが。
人類の中から出て来た異分子、邪魔なものだと考えるだけで。
グランド・マザーは人間じゃなくて機械だったが、権力者には違いない。驕った考えってヤツを持っていたなら、ミュウも吉兆になりそうだがなあ…。
「妙な連中が現れたようだが、上手く使えばきっと世の中の役に立つ」とでも考えて。
自分なら使いこなせる筈だ、と役立てる方法をあれこれ検討してみたりもして。
人類が何度も「ミュウは不吉です」と進言しようが、「いや、吉兆だ」の一点張りでな。
しかし、そうなりはしなかった。…ミュウはSD体制の時代の中では、殲滅すべき生き物だ。
最初からそうプログラムされていたから、グランド・マザーに他の考え方は無い。
ミュウ因子の排除が不可能だっただけで、生まれて来たミュウは皆殺しにするのが仕事だから。
グランド・マザーが、ああいう機械でさえなかったら…。
権力者ってヤツには珍しくない、自分に都合のいい解釈をするタイプだったらなあ…。
ミュウも吉兆になれていたかもしれないのに、と残念そうな顔のハーレイ。
時の権力者が一つ間違えれば、凶兆でさえも吉兆になる。不吉なように思える花でも、双頭蓮の出現を蘇我氏が喜んだように、それは素晴らしい吉兆に。
それと同じで異分子のミュウも、考え方次第で吉兆になれた。グランド・マザーが「吉兆だ」と判断していたら。
人類たちが何と唱えても、聞く耳を持たなかったなら。
「…ミュウが吉兆になっちゃうんだ?」
人類から見たら気味が悪くて、サイオンを持った異分子でも。
とても不吉で、早い間に処分しなくちゃ、って誰もが思って、そう言っていても…?
「グランド・マザーが、自分勝手な思考の持ち主ならな」
きちんとプログラムされた機械ではなくて、ミュウについての思考を一から始めていたら。
ついでに、デカイ権力を握ったヤツらが陥りがちな、自分中心な世界を描いていたとすればな。
前の俺たちは吉兆になり損ねたか、とハーレイは腕組みをした。「本当は吉兆だったのに」と。
「正真正銘の吉兆だったぞ、見た目は如何にも不吉そうでも」
今の世の中ってヤツを見てみろ、それが証明されてるじゃないか。ミュウが吉兆だったこと。
ミュウの時代がやって来たお蔭で、今じゃすっかり平和な世界になったってな。宇宙の何処にも戦争は無いし、武器も兵器も作られちゃいない。軍も無ければ、戦艦も無いし…。
おまけに地球まで青く蘇って、俺たちがこうして住んでいられる。前の俺が辿り着いた時には、何も棲めない星だったのに…。毒の海と砂漠が広がっているだけだったのにな?
その地球の姿を元に戻したのは、結局の所はミュウなんだぞ?
キースの野郎が関わってはいても、ジョミーがいなけりゃ、青い地球には戻っていない。それを思うと、ミュウは吉兆だったんだがなあ…。
どんなに人類に嫌われていても…、とハーレイが言いたくなるのも分かる。
遠い昔には、季節外れの桜や狂い咲きの花たちは嫌われたのだけれども、今では喜ばれる存在。珍しい花が咲いているから、と新聞に写真が載ったりもして。
前の自分たちも、それと似たようなものだったろう。
サイオンという、人類には無い特殊な能力を持った人間。だから「異分子」だと忌み嫌われて、端から処分されていた。「生かしておいても、ろくなことはない」と。
けれど、本当は「進化の必然」。
ミュウの時代がやって来ないと、人間は先へ進めなかった。平和な時代も、青く蘇った地球も、人類の時代からミュウの時代へ移ったからこそ、此処にあるもの。
それに気付かず、グランド・マザーは「ミュウの殲滅」を続けさせた。そうすることは、歴史に逆らうことなのに。…けして上手くは運ばないのに。
もっとも、追われ続けたミュウの方でも、まるで気付いていなかったけれど。
自分たちは「異分子」なのだと思い込んだままで、懸命にもがき続けていた。異分子を排除するマザー・システムから、なんとか逃れようとして。
そのシステムを変えるためにと、地球を目指して。
(グランド・マザーが、勘違いをしてくれてたら…)
ミュウは吉兆になれただろうか?
人類の指導者が何と言おうと、滅ぼされない道を歩んで行けたのだろうか…?
遥かな昔に、蘇我氏の長が犯した勘違い。不吉の前兆だった双頭蓮を、吉兆と思い込んだこと。わざわざ立派な絵まで描かせて、奉納させたという思い上がり。
世間の人々は、その蓮の花を恐れていたのに。「不吉なことが起こらねばいいが」と、怖そうに眺めていたのだろうに。
それと同じにグランド・マザーも、ミュウの存在を読み誤っていたならば。自分の治世に現れたミュウを、吉兆なのだと思い込んで保護していたのなら…。
(前のぼくたちは、アルタミラで星ごと滅ぼされずに…)
生きて、どういう道を歩んだか。人類はミュウを嫌うわけだし、やはり戦いになっていたのか。人類との戦いが始まったならば、目指すべき場所は…。
(やっぱり地球になるんだよね…?)
人類の指導者が誰であろうと、その後ろにはグランド・マザーがいる。それを倒してしまわない限り、ミュウの時代は手に入らない。…いつまで経っても異分子のままで。
(グランド・マザーが、「ミュウを滅ぼせ」って言っていなくても…)
人類がそう考えるのなら、人類の世界を変えるしかない。地球に行き着き、グランド・マザーを破壊して。…SD体制を根幹から覆して。
そうなった時は、グランド・マザーは蘇我氏と同じ。自分だけが「吉兆なのだ」と信じ続けた、不吉なものに滅ぼされるから。
人類たちが「あれは不吉だ」と唱え続けた、ミュウが滅びを呼び込むのだから。
そうなると、つまり…。
「えっと、ハーレイ…。前のぼくたち、本当は吉兆だったけど…」
グランド・マザーにとっては、吉兆だろうと、不吉だろうと、結果は全く同じじゃない。
吉兆だから、って保護されていても、人類がミュウを見る目は違うよ?
サイオンを持っているっていうだけで気味が悪くて、やっぱり忌み嫌うんだろうから…。
そういう世界を変えるためには、地球まで行って、グランド・マザーを倒すしか…。
どっちにしたって、グランド・マザーはミュウに滅ぼされてしまって、おしまい。
だから、グランド・マザーがミュウをせっせと排除してても、保護していても、最後は同じ。
グランド・マザーにはミュウは凶兆なんだよ、どう転がっても。
「吉兆なんだ」って喜ぶ方でも、前のぼくたちにやったみたいに、排除しようとする方でもね。
どっちに転んでも不吉だったよ、とクスッと笑った。グランド・マザーにしてみれば、ミュウは不吉な存在だから。
蘇我氏が不吉な双頭蓮を喜んだように、「吉兆」として捉えていても。
実際の歴史がそうだったように、「異分子」として徹底的に排除していた方でも。
「そう思わない? 最後はミュウに壊されちゃうんだよ、グランド・マザーは」
吉兆だから、って保護していたって、異分子として排除し続けたって。
最後は同じで、ホントに蘇我氏の蓮みたい…。グランド・マザーは勘違いをしてくれなくって、ミュウは保護されなかったけれど…。嫌われ続けただけだったけどね。
「なるほどなあ…。どう転んだとしても、最後は同じになっちまうのか…」
ミュウって種族は、地球や宇宙には吉兆だったが、グランド・マザーには凶兆だった、と。
たとえ吉兆だと喜んでいても、蘇我氏みたいに滅びちまっておしまいなんだな…?
「うん。本当に双頭の蓮とおんなじだよね。…前のぼくたち」
捉える人の心次第で決まっちゃうんだよ、吉兆なのか、凶兆なのか。
グランド・マザーは機械だったから、人間とは全く違うけど…。とても驕った思考を持ってて、ミュウの殲滅をプログラムされてなかったら、ミュウを保護していたかもね。
さっきハーレイが言ってたみたいに、自分に都合よく考えちゃって。
吉兆のミュウを保護した可能性はあるよね、と可笑しくなる。機械がそういう思考をしたなら、歴史の流れが変わっていたかもしれないから。最後は同じ結末になっても、途中の道が。
「あったのかもなあ、そういう道も…」
実際には有り得なかった道だが、そいつはプログラムのせいだ。
グランド・マザーが、「ミュウを発見したら処分しろ」という命令を一切、組み込まれないで、自由に思考していたら…。
権力ってヤツに酔っちまっていたら、ミュウの保護だって充分、有り得た。
人類が何と言っていようと、「自分なら上手く使いこなせる筈だ」と思い込んで。
そうやってミュウを放っておいたら、牙を剥かれるというわけだな。
人類がミュウを忌み嫌うせいで、ミュウの堪忍袋の緒が切れちまって。
「こんな世界が悪いんだ」とSD体制を倒しにかかって、グランド・マザーも倒されるのか…。
役に立ちそうだと保護した筈の、ミュウに足元を掬われちまって、マザー・システムごと。
それも面白かったかもしれん、とハーレイは感慨深そうな顔。「別の道か」と。
「前の俺たちは、その道を歩めはしなかったが…。捉えるヤツの心次第なんだな」
ミュウが不吉か、そうでないかは。…吉兆には違いなかったんだが。
そうか、前の俺たちは双頭の蓮だったのか…。剣池には咲いちゃいないが、蘇我氏の代わりに、グランド・マザーを滅ぼしちまった蓮の花。
「どうだろう? 狂い咲きだって、不吉なんだと思われていたって言うんだから…」
双頭蓮じゃなくって、ぼくが見たような、狂い咲きしてる夾竹桃かもしれないよ?
それとも冬の桜の花かな…、と言ったのだけれど。
「桜とかも悪くないんだが…。俺としてはだ、双頭の蓮の方が好みだな」
そっちがいい、とハーレイは双頭の蓮の方。どの花だろうと、捉え方次第で、不吉なものにも、喜ばれる花にも変わるのに。
「…なんで双頭の蓮がいいって言うの?」
蘇我氏を滅ぼしちゃった花だよ、縁起の悪さが他の花より凄くない…?
今は、おめでたい花みたいだけど、あんな話を聞かされちゃったら、他の花の方が…。
「どう捉えるかは心次第だと、お前、自分で言ったじゃないか。そいつを忘れてくれるなよ?」
双頭蓮をよく考えてみろ。一つの茎に二つの花だぞ、其処がいいんだ。
お前と二人で一本の茎なら、前の俺たちにはピッタリじゃないか。
生まれた時期こそ違ってはいたが、出会ってから後は、ずっと二人一緒に生きていたんだから。
お前がメギドに行っちまうまでは…、とハーレイに言われて気が付いた。確かに双頭蓮の花は、前の自分たちの姿に良く似合う。一つの茎に二つの花をつける蓮なら。
「そうだね、ああいう花だったよね…。前のぼくたち」
本当は花じゃなかったけれども、花だとしたなら、それだと思う。双頭の蓮…。
今度も一緒に生きていけるよ、今度こそ、絶対に離れないで。
ぼくはメギドに行ったりしないし、本当に、うんと幸せ一杯に…。
「一つの茎に二つの花か…。いつまでも離れないカップルの蓮というわけだな」
そういったことを考えた人が、幸せの花にしたかもなあ…。双頭蓮を。幸せを運んで来てくれる花だと、仲のいいカップルなんかになぞらえて。
「きっとそうだよ、花のカップルだもの」
最初から一つの茎に生まれて、二つ一緒に咲くんだものね。
いつか本物の双頭蓮を見てみたいな、と強請ってみた。
滅多に咲かない花だけれども、何処かで咲いたら見に行きたい、と。
「蓮の花が咲く場所、色々あるでしょ? その内に何処かで咲く筈だから…」
ハーレイと二人で出掛けられるようになってから咲いたら、見に行きたいな…。
前のぼくたちみたいな花を。
「よしきた、俺の車で行こうじゃないか。双頭蓮を見にドライブだな」
前の俺たちだけじゃなくてだ、今の俺たちにも似合いの花を。
一本の茎に二つの花だし、本当にお前と俺みたいに一緒の花だからなあ、離れずに咲いて。
俺が蓮の花に見えるかどうかはともかくとして…、とハーレイは困り顔だけど。
「大丈夫! ぼくと一緒に咲いてるんなら、ハーレイだって蓮の花に見える筈だから!」
だから約束、双頭蓮を見に連れて行ってね。…いつか咲いたら。
咲いたっていうニュースが出たら…、と指切りをして約束した。「見に行こうね」と。
珍しいという双頭蓮。何年かに一度、咲くか咲かないかも分からない花。
それが咲いたら、いつかハーレイと二人で見に行こう。それが咲いている蓮池まで。
狂い咲きの花も、双頭の蓮も、まるで異分子だったミュウのようでも、今の時代は幸せの花。
ミュウが本当は吉兆だったように、その花たちも今は喜ばれる。
「珍しいから」と写真を撮られて、ニュースにもなって。
誰も不吉だと嫌わない花を、ハーレイと二人、いつか仲良く眺めにゆこう。
一つの茎に二つの花の双頭蓮。生まれた時から、同じ茎で育った二つの花を。
「ぼくとハーレイみたいだよね」と、しっかりと手を繋ぎながら。
「いつまでも二人、一緒だものね」と、握り合った手にキュッと力をこめたりもして…。
花たちの異分子・了
※ブルーが出会った季節外れの夾竹桃の花。違う季節に咲いているだけに、異分子かも。
前の生の頃のミュウも、異分子でしたけど、実の所は進化の必然。吉兆と考えてもいい存在。
ハレブル別館、長いこと書き続けて来ましたが、pixiv に置いている、アニテラ創作。
ここ数ヶ月、全く読まれなくなりました。
アニテラの時代は終わったようだ、と思いますので、年度末で、終了にするつもりです。
最終回などは書きません。来年3月まで、今の調子で続けてゆきます。
それ以降、どうするのかは、pixiv の動き次第でしょうか。
まだ読む人が残っているなら、ごくごく短い「その後の二人」を書くかもしれません。
おバカなシャングリラ学園生徒会室の方は、来年も今まで通りです。
他の二つのサイトについては、続けられる間は、書き続けると思います。
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行ってみようかな、と歩き始めたブルー。学校からの帰りに、いつものバス停で降りて。
たまには普段と違った道から帰るのもいいよね、と住宅街の中を歩いていたら…。
(あれっ?)
夾竹桃だ、と目を丸くした。道沿いの家の庭に、ひときわ鮮やかなピンク。真夏の空が似合いの色。今の季節には咲かない花。
見間違いかと思ったけれども、本当に夾竹桃だった。花も葉っぱも、夾竹桃そのもの。
(狂い咲き…)
夏と間違えて咲いちゃったのかな、と見詰めた夾竹桃。ブルーの背よりも大きな木。家の庭には他にも夾竹桃があるのに、花が咲いているのは一本だけ。
(他の木は咲いていないなら…)
変わった種類の夾竹桃ではないのだろう。何故か一本だけ、花の季節に出遅れて咲いた。今頃の季節に満開になって。
(別の道から帰って良かった…!)
ちょっと得をしたような気分にもなる。珍しいものに出会えたから。
温室でもないのに、季節外れのピンク色の花。他所の庭では、とうの昔に散った後。此処の庭の他の夾竹桃と同じに、夏の終わりに。
(ふふっ…)
いいもの見付けた、と眺めて満足。花は好きだし、今の季節には見られない花は、なおのこと。植物園なら季節外れの花も咲くけれど、普通の場所で出会えるなんて、ツイている。
御機嫌でたっぷり花を楽しみ、足取りも軽く家に帰った。「いいものを見たよ」と、弾む心で。
制服を脱いで、おやつを食べに行ったダイニングで母にも話した。
「夾竹桃が咲いていたよ」と、「ママも見に行くなら、この家だから」と。
「あらまあ…。運が良かったのねえ」
ママも見に行ってみるわ、明日、お買い物に行くついでに。
「やっぱり見たくなっちゃうでしょ? ホントに綺麗だったんだよ!」
今が満開。綺麗な間に行ってあげてね、せっかく素敵に咲いてるんだから…!
母にも勧めた「真夏の花」。季節外れの夾竹桃は、一人占めしてはもったいない。母に話せば、近所の人にも伝わるだろう。
(知ってる人は、とっくに見に行ってるかもしれないけれど…)
母が知らないなら、この辺りではまだ情報が回っていない。きっと明日には、見物人が増えて、夾竹桃も喜びそう。満開の花を見て貰えて。
あの家の人も、きっと嬉しくなるに違いない。自分たちだけで見ているよりも、花のお裾分け。
ホントにいいものを見付けちゃった、と上機嫌で二階の部屋に戻って、勉強机の前に座った。
今の季節は花が咲かない夾竹桃。とうに咲き終わって、緑の葉っぱばかりになって。
けれど、あの木は今が見頃で花が一番映える時期。
(季節外れでも、綺麗なものは綺麗だもんね?)
狂い咲きしちゃった花だって、と思った途端に気が付いた。その言葉が持っている意味に。何の気なしに繰り返していた、花の咲き方。
(狂い咲き…)
そう呼ぶほどだし、「尋常ではない咲き方」の意味。季節外れの、変な咲き方をした花のこと。今の季節に咲いた夾竹桃やら、冬の最中に花をつけている桜やら。
(…狂い咲きって、花の異分子?)
仲間外れの夾竹桃。
普通だったら夏に咲くのに、今頃の季節に咲いているなんて、夾竹桃の中の異分子。
最初から季節外れに花をつけるよう、改良された品種だったら、何の問題も無いのだけれど…。
(だけど、あの木は違うよね…)
夾竹桃は他にもあったし、あの木だけが違う季節に花を咲かせた。他の木たちが葉だけをつけている中で、鮮やかなピンクの色を纏って。
(一本だけ、違っているなんて…)
まるでミュウのよう。
今の時代のミュウとは違って、遠く遥かな時の彼方で生まれたミュウ。
前の自分が生きた時代に、SD体制が敷かれた世界で。
ミュウも人間だったというのに、異分子だからと忌み嫌われた。サイオンを持っていたせいで。…人類には無かった能力のせいで。
嫌われ、排除されたミュウ。見付かれば端から殺されていって。
その場で処分されずに済んでも、実験動物として扱われた。檻に入れられ、過酷な実験をされて奪われた命。人間扱いされることなく。
それが「異分子」だったミュウたちの末路。すると、さっきの夾竹桃も…。
(うんと綺麗に咲いていたのに…)
夾竹桃の仲間の中では、嫌われたりもするのだろうか?
あの庭にあった、他の夾竹桃たちに。「あれは変だ」と、「今頃、咲いているなんて」と。
声も掛けては貰えないまま、仲間外れの夾竹桃。異分子だからと、そっぽを向かれて。
(どんな花でも…)
狂い咲きは異分子なのかもしれない。
遠い昔のミュウたちのように、仲間たちから忌み嫌われて。
サイオンは持っていないけれども、代わりに季節外れに咲く花。他の仲間とは違った能力、別の季節に「花を咲かせる」力。
「普通ではない」と花を毟り取られたり、根こそぎ切り倒されてしまっても、仕方ないとか。
他の仲間が嫌うのだったら、花も、存在も抹殺されて。
(植物は自分で動けないから…)
そんなことにはならないだけで、動けたとしたら、滅ぼされるのが狂い咲きした植物たち。
仲間外れにされた挙句に、「異分子だから」と処分されて。
花を毟られ、二度と花など咲かないようにと、根元から切られて、それでおしまい。
(…そうなのかも…)
植物は自分で動けはしないし、滅ぼされないというだけのことで、本当は嫌われる狂い咲き。
「今頃、咲いた」と仲間外れで、口さえも利いて貰えない世界なのかもしれない。
人の目には綺麗に映っても。
珍しいから、と写真を撮る人たちが大勢いても。
(…植物の世界では、変なんだものね?)
狂い咲きした植物は。
帰り道に出会った、今が満開の夾竹桃も、雪の季節に花を咲かせる桜でも。
植物の世界では異分子だろう、狂い咲きの花。仲間たちとは違った季節に咲かせる花。
(狂い咲きって、植物のミュウ…?)
仲間たちから嫌われちゃうの、と考えていたら聞こえたチャイム。仕事帰りのハーレイが訪ねて来てくれたから、テーブルを挟んで向かい合わせで話してみた。
「あのね、帰りに夾竹桃を見たよ。花が一杯咲いてる木」
今が満開で、とても綺麗なピンク色の花…。夏の夾竹桃と少しも変わらない色で。
「ほほう…。今の季節に夾竹桃とは、何処の温室だ?」
この家の近所にあるんだろうが、変わった趣味だな。夾竹桃を温室で育ててるなんて。
夾竹桃が好きな人なのかもな、とハーレイは勘違いをした。狂い咲きとは思いもしないで。
そう考えるのが普通だろうし、ますます「狂い咲き」が異分子に思える。人間さえもが、変だと眺める現象。季節外れに咲いている花。
「温室じゃなくて、外なんだってば。狂い咲きだよ」
普通の庭にあった夾竹桃でね、一本だけが今が満開…。他の木には花が咲いてないのに。
「そりゃ珍しいものを見たなあ…。綺麗だったろ?」
季節外れでも満開だったら、とハーレイも褒める方へと行った。「夾竹桃は華やかだしな」と、「夏の青空にも負けないピンク色だから」と。
「うん。とても綺麗で、いいものを見付けたと思ったんだけど…」
ママにも話して、ツイてると思っていたんだけれど…。
おやつの後に部屋で考えていたら、「狂い咲き」っていう言葉が引っ掛かったんだよ。
咲いてる季節が普通じゃないから、そういう呼び方になるんでしょ?
変な花だ、って思われてるから「狂い咲き」。
それって「変だ」っていう意味なんだし、花の世界の異分子みたいなものだから…。
狂い咲きをしている花って、なんだかミュウに似てるよね、って…。
今の時代のミュウじゃなくって、前のぼくたちが生きてた頃のミュウたち。
異分子なんだ、って忌み嫌われてて、見付かったら処分されちゃって…。
狂い咲きの花もそうじゃないかな、同じ仲間の目から見たなら。
「あれは変だ」って嫌われちゃって、そっぽを向かれて、ミュウみたいに処分されるのかも…。
植物は自分で動けないから、そんなことにはならないだけで。
狂い咲きの花は嫌われ者かも、とハーレイに説明した考え。「植物の世界では異分子かも」と。
「もしも植物が動けるんなら、花を毟られちゃうだとか…。根こそぎ切られちゃうだとか」
人類がミュウを端から殺したみたいに、花の世界から抹殺しちゃった方がいい、って…。
「なるほどなあ…。そういう考えになっちまったんだな、狂い咲きの花から」
狂い咲きってヤツは、植物の世界じゃ嫌われ者かもしれない、と。
植物が自分で動けたとしたら、狂い咲きしたヤツは仲間に滅ぼされるかも、と思うわけだな?
前の俺たちが滅ぼされそうになっていたのと同じで…、とハーレイも分かってくれた考え。狂い咲きした花たちは全て、異分子扱いされるのでは、と。
「ぼくはそう思ったんだけど…。ハーレイはどう?」
やっぱり異分子なんだと思う?
人間の目には綺麗で珍しくっても、同じ仲間の植物からしたら、嫌われ者になっちゃうのかな?
「さてなあ…。植物の世界じゃ、特に気にしちゃいないんじゃないか?」
人間みたいに戦争なんかはしないで、ずっと昔から、平和に生きて来たのが植物だしな。
それに、どちらかと言えば、同情して貰えそうなんだが…。狂い咲きしている時なんかは。
同じ仲間の植物からな、とハーレイが言うから首を傾げた。どうして同情されるのだろう、と。
「なんで同情?」
変なヤツだ、って嫌うんだったら分かるけれども、同情するって…。どうしてなの?
「狂い咲きというヤツの仕組みのせいだ。…そうなっちまう原因だな」
気温がおかしくなった時にも、狂い咲きすることは多いんだが…。そういう時は仲間も多い。
他の木たちも狂い咲きしてて、一本だけではなくなるんだ。全部が狂い咲きではなくても。
しかし、一本だけが狂い咲きなら、木が傷んでいるってことも少なくない。虫に食われて弱っているとか、病気になっているとかな。
そういう理由が無かったとしても、狂い咲きしたら木は傷んでしまう。季節じゃないのに、花を咲かせるエネルギーを使ったわけだから。
木が傷んでの狂い咲きにしても、これから傷んじまう方でも、植物にとっては大変なことだ。
とても負担が大きいからな、と教えて貰った狂い咲きのこと。
季節外れに花を咲かせた時には、植物は既に弱っているか、花を咲かせたことで弱ってゆくか。植物が受ける負担は大きく、弱った身体が更に弱るか、これから弱ってゆくことになるか。
知らなかった、と目を瞬かせた「狂い咲き」。珍しいものに出会えて良かった、と夾竹桃の花を眺めたけれども、あの木は弱っていたのだろうか?
「じゃあ、ぼくが見た夾竹桃も…。木が弱ってたの?」
そんな風には見えなかったけど、幹の中に虫がいるだとか…。何か病気にかかってるとか…?
「弱ってるとは限らないがな。何かのはずみで、花を咲かせる仕組みが狂ったのかもしれん」
だが、狂い咲きをしたのは確かだ。しかも満開の花となったら、相当なエネルギーだから…。
その木は弱っちまうだろう。…木そのものは弱らなくても、花を咲かせる力の方は。
来年の夏には花が咲かないとか、咲いても少しだけになるってこともある。他の木にはドッサリ咲いているのに、その木だけ花が少ないとかな。
狂い咲きというのは、そうしたモンだ、とハーレイはフウと溜息をついた。人間の目には珍しく映る現象だけども、その舞台裏は厳しいものだ、と。
「そうなんだ…。あの木、来年は花が咲かないか、花が少なくなっちゃうか…」
せっかく綺麗に咲いたのに…。今の季節には珍しいよね、って得をした気分だったのに…。
あの木が弱ってしまうだなんて、と木があった家の方に目を遣る。この部屋の窓から、あの家の庭は見えないけれど。
「お前だって、可哀相だと思うだろ? 弱っちまうと聞いたなら」
だから植物の仲間同士でも、同じことだな。
嫌うよりかは、同情の方になるだろう。狂い咲きする理由ってヤツを知っているんだから。
弱った仲間や、これから弱りそうな仲間を嫌ったりはしない。
狂い咲きした木は、異分子じゃなくて、病人みたいなものだしな?
前の俺たちが生きてた時代の人類だって、ミュウには酷いことをしてたが、人類同士じゃ、全く事情が違ったろうが。
俺が嫌いなキースの野郎も、友達のサムの病院にせっせと通っていた。…あんなヤツでもな。
キースでさえもそうだったんだぞ、他の人類も病人には優しかっただろう。ミュウの子供を処分していた、ユニバーサルのヤツらにしたって、病気の人には親切だった筈だと思うぞ。
もちろん、怪我で不自由している人にも親切に。荷物を持つとか、席を譲るとか。
狂い咲きした植物だって、植物の世界じゃ、そんな具合に親切にして貰えるだろう。
しかしだ…。
狂い咲きを忌み嫌うヤツがいるとしたなら、人間だよな、とハーレイが言うから驚いた。
嫌うだなんて、とても信じられない。
帰り道に出会った、季節外れの夾竹桃は綺麗だったのに。母に話したら、母も見に行くつもり。母から話を聞いた人たちも、早速、出掛けてゆきそうなのに。
「嫌うって…。仲間の植物たちじゃなくって、人間が忌み嫌うだなんて、どうして嫌うの?」
綺麗なんだし、珍しい季節に花が見られるんだし…。いいことずくめだと思うけど?
木の持ち主の人は「弱ってしまう」ってショックだろうけど、それと嫌うのとは違うよね?
あの夾竹桃が咲いてた家の人だって、頑張って世話をするんだと思うよ。
咲いちゃったものは仕方ないから、弱らないように肥料を沢山あげたりもして。
来年は駄目でも、次の年にはまた綺麗な花を咲かせるように…、とあの庭の持ち主の心を思う。きっと大切に世話してやって、木が弱らないよう、あれこれと手を尽くすだろうから。
「持ち主の人は頑張るだろうな。弱っちまってても、元気を取り戻してくれるように」
もちろん、嫌うわけがない。自分の家の庭にある木が嫌いなヤツなんか、いやしないぞ。
人間が狂い咲きを嫌うと言うのは、狂い咲きという言葉の通りだ。…ずっと昔の話なんだが。
まだ狂い咲きの仕組みさえ分かっていなかった時代。人間が地球しか知らなかった頃だな。
その花が咲く季節じゃないのに、花が咲いたりするもんだから…。
不吉なことだと思われたりした。今じゃ喜ばれる、冬の桜も。
「ええっ!?」
冬の桜って、とても人気が高いじゃない。冬にも花が咲く、冬桜まであるくらいだよ?
あれは毎年花が咲くから、狂い咲きとは違うけど…。
でも、本物の桜が狂い咲きしたら、みんなとっても喜ぶじゃない…!
新聞にだって写真が載るよ、と直ぐに頭に浮かんだ写真。寒い季節に桜が咲いたら、新聞を飾るものだから。「此処で見られます」と地図などもつけて。
「今の時代はそうなんだが…。昔のことだと言っただろ?」
季節外れの花は気味悪がられたらしい。天変地異の前触れだとか、不吉なことと結び付けてな。
特に嫌われた花が桜だ。
ずっと昔は、桜の季節は疫病が流行ると思われていた。花鎮めの祭りがあったくらいに、疫病を恐れていたんだし…。その桜が季節外れに咲いたら、怖いだろうが。
遠い昔は、桜の花の頃に疫病が流行る年が多かったという。桜の花が散ると、疫病の神も一緒に舞い散るのだと恐れた人々。それを防ぐのが花鎮めの祭り。
春に祭りで疫病を封じておいたというのに、季節外れの桜が咲いたらどうなるか。疫病が流行る前兆だ、と誰もが恐れおののいた。冬の桜を愛でる代わりに、「なんと恐ろしい花なのだ」と。
「…桜、そういう花だったんだ…」
昔の人たちもお花見してたし、冬の桜は珍しいから、うんと喜びそうなのに…。
違ったんだね、お祭りの用意もしていないのに咲いちゃった、って怖がられたんだ…。
今だと見に行く人も沢山いるのに、と価値観の違いに驚くばかり。冬の桜は本当に人気で、冬に花が咲く品種を選んで植えている人も少なくないから。
「所違えば品変わる、っていうヤツかもなあ…。場所とは違って、時代なんだが」
似たような例じゃ、竹の花だってそうだ。
竹の花は滅多に咲かない上に、咲いた後には竹がすっかり枯れちまうから…。
そいつが咲いたら、不吉なことの前兆なんだと言われてた。実際の所は、竹は自分の都合で花を咲かせていたのにな?
そろそろ花を咲かせる頃だ、と何十年に一度とかの開花期がやって来る度に。
季節外れの桜にしたって、竹の花にしたって、悪いことは何もしちゃいないんだが…。
ただ咲いたというだけのことで…、とハーレイが浮かべた苦笑い。「人間ってヤツは勝手だな」などと、「人間が一番偉いわけでもないのになあ…」と。
「…狂い咲きの桜も、竹の花が咲くのも、どう捉えるかは人間の都合で決まっちゃったんだ…」
気味の悪い花が咲いたから、って嫌っていたのが昔の人で、今だと珍しくて大人気。
おんなじ花でも、それを見る人の考え方で変わってくるなんて…。
狂い咲きの花、ホントにミュウとおんなじだね。…前のぼくたちが生きてた頃の。
異分子だから処分すべきだ、って端から殺されちゃったけど…。滅ぼさないと、ってメギドまで二回も持ち出してたけど、あれは間違い。
ミュウは進化の必然だったし、滅ぼす方が間違いだったのに。
滅ぼしたりないで、人類はミュウと手を取り合わなきゃいけなかったのに…。
「まったくだ。…もっとも、前の俺たちにだって、それは分かっていなかったんだが…」
異分子なんだ、と迫害されてりゃ、そういうモンだと思っちまうよな。…ミュウの方でも。
前のハーレイたちも驚いたという、キースがスウェナ・ダールトンに託したメッセージ。
全宇宙帯域で流されたメッセージの中で、キースは「ミュウは進化の必然だった」と明言した。それをユグドラシルの一室で見るまで、ハーレイたちでさえ夢にも思っていなかった。
追われ続けたミュウが「異分子ではなかった」とは。
人類の進化の次の段階、それが「ミュウ」という新しい人種だったとは。
「あれは本当に驚いたんだ」と苦笑しながら、ハーレイは「そういえば…」と顎に手を当てた。
「人間の解釈次第だと言えば、文字通り、そういう花もあったっけなあ…」
不吉なんだか、めでたい印の吉兆なんだか、意見が分かれちまった花。
その花が咲いた当時でさえも、どう受け取るのか、人によって違ってしまった花が。
「意見が分かれたって…。その花も狂い咲きしたの?」
それとも竹の花と同じで、滅多に咲かない花だったとか…?
どっちの花、と興味津々。昔の人たちの考え方は、今と全く違うから。
春になったら桜を愛でていたのに、その一方で恐れていた人々。花見の宴を催す傍ら、花鎮めの祭りを行ったほど。同じ桜の花だというのに、愛でたり、それを怖がったり。
そんな人々の意見が分かれた花とは、いったいどんな花なのだろう…?
「狂い咲きではなかったな。咲いた季節は普通だったから」
それに滅多に咲かない花でもない。毎年、季節になれば山ほど咲いた筈だぞ。そいつが生えてる場所に行ったら。
ただ、咲き方の方が問題になった。
蓮の花だったが、双頭蓮と呼ばれるヤツでだな…。
「双頭蓮…?」
「名前の通りの蓮の花だ。一つの茎に二つの花をつけている蓮」
茎が途中で分かれるんじゃなくて、天辺に蕾が二つ生まれて、二つとも咲く。頭が二つあるってことで、双頭蓮という名前になるんだな。
蓮池があれば、たまにヒョッコリ現れるそうだ。
今は幸せを呼ぶと言われて、皆が見に行くほどなんだがなあ…。
うんと昔は嫌われたんだ。
縁起が良くない、と歴史にまで書き残されたくらいに。…しかしだな…。
今じゃすっかり幸せの花になっちまった、とハーレイは笑う。同じ双頭蓮なのに。
その辺りは狂い咲きや冬の桜と同じだけれども、双頭蓮は当時に意見が分かれていたという。
凶兆なのだと考えた人と、吉兆だと捉えていた人とに。
「飛鳥時代は知っているだろう? 歴史じゃお馴染みの時代だからな」
古典の方だと、それほど中身は無いんだが…。せいぜい万葉集くらいってトコで。
お前たちに授業で教えられるものは…、とハーレイが嘆く飛鳥時代。まだ日本では、物語などは書かれていなかった。古典の授業で扱えるものは、万葉集に編まれた歌くらい。
その飛鳥時代、都が置かれた飛鳥に剣池と呼ばれる池があった。
池には沢山の蓮が茂って、其処に現れた双頭蓮。一つの茎に二つの花をつけた蓮。
日本書紀に書かれた最初の記録は、舒明天皇の時。
なんとも不思議な蓮の花だから、恐れる人もいたのだけれども、何も起こりはしなかった。天変地異も、戦争なども。
それでも珍しい花だったからこそ、日本書紀にも書かれたのだろう。当時の人が後世に残そうと思わなければ、記録は残らず、忘れ去られた筈だから。
次に双頭蓮が現れたのが、女帝だった皇極天皇の時代。やはり前と同じ剣池で。
時の権力者だった蘇我氏の長は、双頭蓮が出現したのを、自分に都合よく解釈した。
世にも珍しい蓮の花だし、「蘇我氏が栄える吉兆だ」と。
せっかくだからと、その花の絵を絵師に描かせた。それも高価な金泥を使って、贅沢に。
出来上がった絵は、大仏があった寺に奉納して、「これで蘇我氏はますます栄える」と上機嫌。吉兆の蓮が咲いただけでも素晴らしいのに、その絵を奉納したのだから。
けれど、それから丁度、一年が経った時。
乙巳の変で、蘇我氏は滅びてしまったという。双頭蓮の絵を描かせた長の息子の入鹿は殺され、長の蝦夷は館に火を放った。全ては炎の中に飲まれて、蝦夷の命も其処で潰えた。
「…なんだか怖いね…」
たったの一年で、全部滅びてしまったなんて。…まるで蓮の花に呪われたみたい…。
「そうだろう?」
蘇我氏が滅びる前兆だったか、そうじゃないかは分からないがな。…ただの花だけに。
とはいえ、当時の人間にすれば、不吉としか思えなかっただろう。あんな不吉な花を喜ぶから、余計に酷いことになった、と。
立派な絵まで描かせたんだからな、と軽く両手を広げたハーレイ。「軽はずみだと思われても、仕方あるまい」と。
「昔の人間は、不吉なことが起こりそうだと考えた時は、大人しくしたものなんだが…」
家に引きこもって外へ出ないとか、神仏に助けを祈るだとか。
そうする代わりに、怪しげな蓮の絵まで描かせていたわけだから…。自業自得だ、と考える人も多かったろうな。「あれさえ描かせて奉納しなけりゃ、無事だったものを」と。
そういう話があったお蔭で、双頭蓮を嫌う人間が多かったのに…。
いつの間にやら、双頭蓮と言えば、縁起のいい花になっちまってた。咲いたと聞いたら、大勢の人が一目見ようと押し掛けるほどに。
昔の人には凶兆だった花だというのに、後の時代だと吉兆なんだな。
その辺りのことは、狂い咲きした冬の桜なんかも、似たようなものだと言えるんだが…。
双頭蓮の場合は、咲いた当時に意見が分かれていたのがなあ…。
あれは不吉な花なのでは、と思う連中と、「吉兆なんだ」と思った蘇我氏の方と、真っ二つに。
「…ホントは凶兆だったのに?」
だってそうでしょ、蘇我氏は滅びちゃったんだから。
不吉な花なんて、本当は存在しないんだけど…。その蓮の花も、今、咲いていたら、幸せを呼ぶ花が咲いてるから、って見に行く人がドッサリだけど…。
でも、その頃だと、大真面目に信じていたんだよね?
季節外れの桜の花は不吉だとか…。狂い咲きした花や、変な形で咲いてる花も良くないとか。
そんな時代なら、双頭蓮も凶兆ってことになるんでしょ?
蘇我氏が滅びてしまう予兆で、それを知らせるために咲いていたんだ、って…。
なのに勘違いをしたんだよね、と確認した。蘇我氏が滅びる凶事の前兆、それが双頭の蓮の花。
けれど蘇我氏の長は、吉兆だと捉えたから。絵まで描かせて、大仏に奉納したのだから。
「そうなるな。…権力者ってヤツには、ありがちなんだが」
自分が一番偉いと思っているから、世の中のことは、全部自分のためにあるんだ。
皆が「不吉だ」と恐れていたって、自分が「素晴らしい」と思っちまえば、不吉なことも吉兆になってしまうってな。権力者の頭の中でだけ。
だから蘇我氏も、不吉な蓮が咲いているのに大喜びして、絵まで奉納しちまった、と。
昔からよくある話だよな、とハーレイは頭を振っている。「この手の話は多いんだ」と。
大きな権力を手にした者は、何も恐れはしないから。何もかも自分の意のままに出来て、不吉なことさえ覆せると思うほどだから。
「だがなあ…。前の俺たちを滅ぼそうとしていた、グランド・マザーの場合は、だ…」
ミュウを吉兆とは思ってくれずに、せっせと殺していただけだったが。
人類の中から出て来た異分子、邪魔なものだと考えるだけで。
グランド・マザーは人間じゃなくて機械だったが、権力者には違いない。驕った考えってヤツを持っていたなら、ミュウも吉兆になりそうだがなあ…。
「妙な連中が現れたようだが、上手く使えばきっと世の中の役に立つ」とでも考えて。
自分なら使いこなせる筈だ、と役立てる方法をあれこれ検討してみたりもして。
人類が何度も「ミュウは不吉です」と進言しようが、「いや、吉兆だ」の一点張りでな。
しかし、そうなりはしなかった。…ミュウはSD体制の時代の中では、殲滅すべき生き物だ。
最初からそうプログラムされていたから、グランド・マザーに他の考え方は無い。
ミュウ因子の排除が不可能だっただけで、生まれて来たミュウは皆殺しにするのが仕事だから。
グランド・マザーが、ああいう機械でさえなかったら…。
権力者ってヤツには珍しくない、自分に都合のいい解釈をするタイプだったらなあ…。
ミュウも吉兆になれていたかもしれないのに、と残念そうな顔のハーレイ。
時の権力者が一つ間違えれば、凶兆でさえも吉兆になる。不吉なように思える花でも、双頭蓮の出現を蘇我氏が喜んだように、それは素晴らしい吉兆に。
それと同じで異分子のミュウも、考え方次第で吉兆になれた。グランド・マザーが「吉兆だ」と判断していたら。
人類たちが何と唱えても、聞く耳を持たなかったなら。
「…ミュウが吉兆になっちゃうんだ?」
人類から見たら気味が悪くて、サイオンを持った異分子でも。
とても不吉で、早い間に処分しなくちゃ、って誰もが思って、そう言っていても…?
「グランド・マザーが、自分勝手な思考の持ち主ならな」
きちんとプログラムされた機械ではなくて、ミュウについての思考を一から始めていたら。
ついでに、デカイ権力を握ったヤツらが陥りがちな、自分中心な世界を描いていたとすればな。
前の俺たちは吉兆になり損ねたか、とハーレイは腕組みをした。「本当は吉兆だったのに」と。
「正真正銘の吉兆だったぞ、見た目は如何にも不吉そうでも」
今の世の中ってヤツを見てみろ、それが証明されてるじゃないか。ミュウが吉兆だったこと。
ミュウの時代がやって来たお蔭で、今じゃすっかり平和な世界になったってな。宇宙の何処にも戦争は無いし、武器も兵器も作られちゃいない。軍も無ければ、戦艦も無いし…。
おまけに地球まで青く蘇って、俺たちがこうして住んでいられる。前の俺が辿り着いた時には、何も棲めない星だったのに…。毒の海と砂漠が広がっているだけだったのにな?
その地球の姿を元に戻したのは、結局の所はミュウなんだぞ?
キースの野郎が関わってはいても、ジョミーがいなけりゃ、青い地球には戻っていない。それを思うと、ミュウは吉兆だったんだがなあ…。
どんなに人類に嫌われていても…、とハーレイが言いたくなるのも分かる。
遠い昔には、季節外れの桜や狂い咲きの花たちは嫌われたのだけれども、今では喜ばれる存在。珍しい花が咲いているから、と新聞に写真が載ったりもして。
前の自分たちも、それと似たようなものだったろう。
サイオンという、人類には無い特殊な能力を持った人間。だから「異分子」だと忌み嫌われて、端から処分されていた。「生かしておいても、ろくなことはない」と。
けれど、本当は「進化の必然」。
ミュウの時代がやって来ないと、人間は先へ進めなかった。平和な時代も、青く蘇った地球も、人類の時代からミュウの時代へ移ったからこそ、此処にあるもの。
それに気付かず、グランド・マザーは「ミュウの殲滅」を続けさせた。そうすることは、歴史に逆らうことなのに。…けして上手くは運ばないのに。
もっとも、追われ続けたミュウの方でも、まるで気付いていなかったけれど。
自分たちは「異分子」なのだと思い込んだままで、懸命にもがき続けていた。異分子を排除するマザー・システムから、なんとか逃れようとして。
そのシステムを変えるためにと、地球を目指して。
(グランド・マザーが、勘違いをしてくれてたら…)
ミュウは吉兆になれただろうか?
人類の指導者が何と言おうと、滅ぼされない道を歩んで行けたのだろうか…?
遥かな昔に、蘇我氏の長が犯した勘違い。不吉の前兆だった双頭蓮を、吉兆と思い込んだこと。わざわざ立派な絵まで描かせて、奉納させたという思い上がり。
世間の人々は、その蓮の花を恐れていたのに。「不吉なことが起こらねばいいが」と、怖そうに眺めていたのだろうに。
それと同じにグランド・マザーも、ミュウの存在を読み誤っていたならば。自分の治世に現れたミュウを、吉兆なのだと思い込んで保護していたのなら…。
(前のぼくたちは、アルタミラで星ごと滅ぼされずに…)
生きて、どういう道を歩んだか。人類はミュウを嫌うわけだし、やはり戦いになっていたのか。人類との戦いが始まったならば、目指すべき場所は…。
(やっぱり地球になるんだよね…?)
人類の指導者が誰であろうと、その後ろにはグランド・マザーがいる。それを倒してしまわない限り、ミュウの時代は手に入らない。…いつまで経っても異分子のままで。
(グランド・マザーが、「ミュウを滅ぼせ」って言っていなくても…)
人類がそう考えるのなら、人類の世界を変えるしかない。地球に行き着き、グランド・マザーを破壊して。…SD体制を根幹から覆して。
そうなった時は、グランド・マザーは蘇我氏と同じ。自分だけが「吉兆なのだ」と信じ続けた、不吉なものに滅ぼされるから。
人類たちが「あれは不吉だ」と唱え続けた、ミュウが滅びを呼び込むのだから。
そうなると、つまり…。
「えっと、ハーレイ…。前のぼくたち、本当は吉兆だったけど…」
グランド・マザーにとっては、吉兆だろうと、不吉だろうと、結果は全く同じじゃない。
吉兆だから、って保護されていても、人類がミュウを見る目は違うよ?
サイオンを持っているっていうだけで気味が悪くて、やっぱり忌み嫌うんだろうから…。
そういう世界を変えるためには、地球まで行って、グランド・マザーを倒すしか…。
どっちにしたって、グランド・マザーはミュウに滅ぼされてしまって、おしまい。
だから、グランド・マザーがミュウをせっせと排除してても、保護していても、最後は同じ。
グランド・マザーにはミュウは凶兆なんだよ、どう転がっても。
「吉兆なんだ」って喜ぶ方でも、前のぼくたちにやったみたいに、排除しようとする方でもね。
どっちに転んでも不吉だったよ、とクスッと笑った。グランド・マザーにしてみれば、ミュウは不吉な存在だから。
蘇我氏が不吉な双頭蓮を喜んだように、「吉兆」として捉えていても。
実際の歴史がそうだったように、「異分子」として徹底的に排除していた方でも。
「そう思わない? 最後はミュウに壊されちゃうんだよ、グランド・マザーは」
吉兆だから、って保護していたって、異分子として排除し続けたって。
最後は同じで、ホントに蘇我氏の蓮みたい…。グランド・マザーは勘違いをしてくれなくって、ミュウは保護されなかったけれど…。嫌われ続けただけだったけどね。
「なるほどなあ…。どう転んだとしても、最後は同じになっちまうのか…」
ミュウって種族は、地球や宇宙には吉兆だったが、グランド・マザーには凶兆だった、と。
たとえ吉兆だと喜んでいても、蘇我氏みたいに滅びちまっておしまいなんだな…?
「うん。本当に双頭の蓮とおんなじだよね。…前のぼくたち」
捉える人の心次第で決まっちゃうんだよ、吉兆なのか、凶兆なのか。
グランド・マザーは機械だったから、人間とは全く違うけど…。とても驕った思考を持ってて、ミュウの殲滅をプログラムされてなかったら、ミュウを保護していたかもね。
さっきハーレイが言ってたみたいに、自分に都合よく考えちゃって。
吉兆のミュウを保護した可能性はあるよね、と可笑しくなる。機械がそういう思考をしたなら、歴史の流れが変わっていたかもしれないから。最後は同じ結末になっても、途中の道が。
「あったのかもなあ、そういう道も…」
実際には有り得なかった道だが、そいつはプログラムのせいだ。
グランド・マザーが、「ミュウを発見したら処分しろ」という命令を一切、組み込まれないで、自由に思考していたら…。
権力ってヤツに酔っちまっていたら、ミュウの保護だって充分、有り得た。
人類が何と言っていようと、「自分なら上手く使いこなせる筈だ」と思い込んで。
そうやってミュウを放っておいたら、牙を剥かれるというわけだな。
人類がミュウを忌み嫌うせいで、ミュウの堪忍袋の緒が切れちまって。
「こんな世界が悪いんだ」とSD体制を倒しにかかって、グランド・マザーも倒されるのか…。
役に立ちそうだと保護した筈の、ミュウに足元を掬われちまって、マザー・システムごと。
それも面白かったかもしれん、とハーレイは感慨深そうな顔。「別の道か」と。
「前の俺たちは、その道を歩めはしなかったが…。捉えるヤツの心次第なんだな」
ミュウが不吉か、そうでないかは。…吉兆には違いなかったんだが。
そうか、前の俺たちは双頭の蓮だったのか…。剣池には咲いちゃいないが、蘇我氏の代わりに、グランド・マザーを滅ぼしちまった蓮の花。
「どうだろう? 狂い咲きだって、不吉なんだと思われていたって言うんだから…」
双頭蓮じゃなくって、ぼくが見たような、狂い咲きしてる夾竹桃かもしれないよ?
それとも冬の桜の花かな…、と言ったのだけれど。
「桜とかも悪くないんだが…。俺としてはだ、双頭の蓮の方が好みだな」
そっちがいい、とハーレイは双頭の蓮の方。どの花だろうと、捉え方次第で、不吉なものにも、喜ばれる花にも変わるのに。
「…なんで双頭の蓮がいいって言うの?」
蘇我氏を滅ぼしちゃった花だよ、縁起の悪さが他の花より凄くない…?
今は、おめでたい花みたいだけど、あんな話を聞かされちゃったら、他の花の方が…。
「どう捉えるかは心次第だと、お前、自分で言ったじゃないか。そいつを忘れてくれるなよ?」
双頭蓮をよく考えてみろ。一つの茎に二つの花だぞ、其処がいいんだ。
お前と二人で一本の茎なら、前の俺たちにはピッタリじゃないか。
生まれた時期こそ違ってはいたが、出会ってから後は、ずっと二人一緒に生きていたんだから。
お前がメギドに行っちまうまでは…、とハーレイに言われて気が付いた。確かに双頭蓮の花は、前の自分たちの姿に良く似合う。一つの茎に二つの花をつける蓮なら。
「そうだね、ああいう花だったよね…。前のぼくたち」
本当は花じゃなかったけれども、花だとしたなら、それだと思う。双頭の蓮…。
今度も一緒に生きていけるよ、今度こそ、絶対に離れないで。
ぼくはメギドに行ったりしないし、本当に、うんと幸せ一杯に…。
「一つの茎に二つの花か…。いつまでも離れないカップルの蓮というわけだな」
そういったことを考えた人が、幸せの花にしたかもなあ…。双頭蓮を。幸せを運んで来てくれる花だと、仲のいいカップルなんかになぞらえて。
「きっとそうだよ、花のカップルだもの」
最初から一つの茎に生まれて、二つ一緒に咲くんだものね。
いつか本物の双頭蓮を見てみたいな、と強請ってみた。
滅多に咲かない花だけれども、何処かで咲いたら見に行きたい、と。
「蓮の花が咲く場所、色々あるでしょ? その内に何処かで咲く筈だから…」
ハーレイと二人で出掛けられるようになってから咲いたら、見に行きたいな…。
前のぼくたちみたいな花を。
「よしきた、俺の車で行こうじゃないか。双頭蓮を見にドライブだな」
前の俺たちだけじゃなくてだ、今の俺たちにも似合いの花を。
一本の茎に二つの花だし、本当にお前と俺みたいに一緒の花だからなあ、離れずに咲いて。
俺が蓮の花に見えるかどうかはともかくとして…、とハーレイは困り顔だけど。
「大丈夫! ぼくと一緒に咲いてるんなら、ハーレイだって蓮の花に見える筈だから!」
だから約束、双頭蓮を見に連れて行ってね。…いつか咲いたら。
咲いたっていうニュースが出たら…、と指切りをして約束した。「見に行こうね」と。
珍しいという双頭蓮。何年かに一度、咲くか咲かないかも分からない花。
それが咲いたら、いつかハーレイと二人で見に行こう。それが咲いている蓮池まで。
狂い咲きの花も、双頭の蓮も、まるで異分子だったミュウのようでも、今の時代は幸せの花。
ミュウが本当は吉兆だったように、その花たちも今は喜ばれる。
「珍しいから」と写真を撮られて、ニュースにもなって。
誰も不吉だと嫌わない花を、ハーレイと二人、いつか仲良く眺めにゆこう。
一つの茎に二つの花の双頭蓮。生まれた時から、同じ茎で育った二つの花を。
「ぼくとハーレイみたいだよね」と、しっかりと手を繋ぎながら。
「いつまでも二人、一緒だものね」と、握り合った手にキュッと力をこめたりもして…。
花たちの異分子・了
※ブルーが出会った季節外れの夾竹桃の花。違う季節に咲いているだけに、異分子かも。
前の生の頃のミュウも、異分子でしたけど、実の所は進化の必然。吉兆と考えてもいい存在。
ハレブル別館、長いこと書き続けて来ましたが、pixiv に置いている、アニテラ創作。
ここ数ヶ月、全く読まれなくなりました。
アニテラの時代は終わったようだ、と思いますので、年度末で、終了にするつもりです。
最終回などは書きません。来年3月まで、今の調子で続けてゆきます。
それ以降、どうするのかは、pixiv の動き次第でしょうか。
まだ読む人が残っているなら、ごくごく短い「その後の二人」を書くかもしれません。
おバカなシャングリラ学園生徒会室の方は、来年も今まで通りです。
他の二つのサイトについては、続けられる間は、書き続けると思います。
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