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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

グルメの最先端

 今年もシャングリラにクリスマスシーズンがやって来た。
 公園には大きなクリスマスツリーで、夜には輝くイルミネーション。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はワクワク眺めて、もうドキドキで…。
(今年のプレゼントは何をお願いしようかな?)
 何がいいかな、と夢見るけれども、去年のプレゼントはもう忘れていた。
 毎日、毎日、悪戯三昧、それが「そるじゃぁ・ぶるぅ」の楽しみ。悪戯でなければグルメ三昧、アルテメシアの街に降りては食べまくり。
 ただでも長いのが「子供の一日」。
 永遠の子供な「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、子供のまんまで年を取らない。お蔭で一日は長いまんまで、それを使って悪戯とグルメの日々だから…。
(去年は何を貰ったんだっけ?)
 ちょっと考えて、「覚えてないや」と考えるのを放棄した。そういうキャラではないものだから。考え事に向いているなら、とうの昔に悪戯小僧は卒業だろう。
 けれど、覚えていることもある。「サンタクロースには、お願いできないものもある」と。
(…地球に連れてってはくれないし…)
 サンタクロースの橇に一緒に乗って行けたら、地球の座標が分かるのに。
 大好きなブルーを、シャングリラで地球に連れて行けるのに。
(座標設定、ぼくには分かんないけれど…)
 それに「行って来た」地球の座標も、自分じゃ計算なんか出来ない。行って戻ったら、ハーレイとかに頼み込むことになるのだろう。「こう行って、こうで、こうだった」と道を説明して。
(ここでワープで、ワープアウトしたら、右とか左に行くだとか…)
 そんなアバウトな言い方をしても、ピンと来るのがプロというもの。任せて安心、地球の座標は計算可能で、それが分かれば入力して座標設定で…。
(長距離ワープで、ちゃんと地球まで行けそうなのに…)
 サンタクロースの橇には乗せて貰えなかった。地球の座標は今も分からないまま。



(お願いする方法、あればいいのに…)
 そうは思っても、無い名案。
 シャングリラの名物、クリスマスシーズンになったら出てくる「お願いツリー」を眺めても…。
(吊るすカードに書きたいものって…)
 まだ無いよね、と考える。
 最高のプレゼントを頼みたいけれど、思い付かないと「書けない」お願い。
 クリスマスに欲しいプレゼントをカードに書いて、「お願いツリー」に吊るしておいたら、サンタクロースに届くらしい。…子供の場合は。
(大人だったら、係が集めて…)
 プレゼントを届けてくれるんだよね、と「お願いツリー」は頼もしい存在。横に置かれた「何を書いてもいい」、お願い用のカードの山も。
(頼めないものもあるけれど…)
 でも、とドキドキ、やっぱりワクワク。今年は何を頼もうかな、と。
 去年のお願いは忘れたけれども、きっと素敵なプレゼントだった筈だから。
(こんな所で考えてるより…)
 まずは行動、そうすればアイデアも湧いて来る。ただ、如何せん、悲しいことに…。
(クリスマスツリーと、お願いツリーが出ちゃったら…)
 生き甲斐とも言える悪戯の方は、暫しお休み。
 サンタクロースに、「いい子なんです」とアピールしないと駄目だから。
(悪い子だったら、クリスマスの朝に靴下の中を覗いても…)
 入っているのは鞭だけらしい。悪い子のお尻をぶつための鞭。
 それは嫌だし、このシーズンは出来ない悪戯。仕方ないからグルメ三昧、そっちに走ることになる。今年もグルメで、食べまくりながら待つクリスマス・イブ。
 アルテメシアの街に降りては、あちこちの店に入りまくりで。



 とにかく今年もグルメなんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はヒョイとシャングリラを飛び出した。アルテメシアの街に向かって、得意の瞬間移動でポンと。
(何を食べようかな?)
 お小遣いはブルーが沢山くれるし、何を食べてもお金に困ることはない。豪華なコースを端から攻めても、高級な店をハシゴしても。
 けれど、この秋からハマッているのが「皿うどん」。パリパリの麺に、あんかけにした具がたっぷり。食べている間に熱々の「あん」が麺にいい感じにしみ込んで…。
(パリッと、しっとり…)
 美味しいよね、と唾をゴックン。
 そろそろ本格的に冬だし、例年だったら鍋やラーメンに走るけれども…。
(一日、一度は皿うどんだもーん!)
 今日は此処だ、と弾む足取りで入って行った。すっかり馴染みの店の一つに。
「らっしゃい!」
「皿うどん、五つお願いしまぁーす!」
 切れないように運んで来てね、と「通」な注文。大食いだからバクバク食べるけれども、皿うどんの命は「パリッと、しっとり」。一度に五つも持って来られたら…。
(最後のお皿は、食べる頃には、しんなりしちゃって…)
 麺が美味しくないんだもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は良く分かっていた。店の方でも心得たもので、順に運んで来てくれて…。
(やっぱり最高!)
 皿うどんはパリッと、しっとりなんだよ、と食べに食べまくって、五皿目に辿り着く頃に…。
(あれ?)
 あんな所に張り紙がある、と気が付いた。レジの直ぐ横に。



(アルバイト募集中…)
 年末年始、と書かれた紙。「急募!」の文字も。
(えーっと…?)
 皿うどんの店は年末年始に流行るのだろうか?
 よく分からない、と首を捻って、「御馳走様」と食べ終えてから、レジの所で指差した。
「アルバイトって…。なんで、年末年始?」
「ああ、これかい? 今年は皿うどんがブームらしくてねえ…」
 年越し蕎麦より皿うどんらしいよ、と店のオジサンが教えてくれた。「そういうお客さんが多いようだから、アルバイトを募集してるんだ」と。
 年越し蕎麦の代わりに皿うどん、お正月にも皿うどん。そんなブームが来ているらしい。
(ぼくは秋から食べていたから…)
 どうやらブームの最先端。グルメ冥利に尽きるというもの、御機嫌で店を後にした。
 「ぼくって、見る目があったんだ!」と、皿うどんブーム到来にホクホクしながら。そうとなったら、次に入るのも…。
(皿うどん!!!)
 此処に決めた、と飛び込んだ店にも、やっぱり張り紙。「アルバイト募集中」で、年末年始で、おまけに「急募!」。
(ぼくって、凄い…!)
 グルメ三昧が長いけれども、これほどのブームの先駆けとなれば鼻高々。アルテメシアの皿うどんの店なら、端から顔が利くのだから。
 その日は一日、端から回った。皿うどんの店を、あっちも、こっちも。



 美味しかった、と戻った夜のシャングリラ。
(お腹一杯…)
 ちょっと運動、と公園に行けば、クリスマスツリーが輝いている。小さめのお願いツリーの方もライトアップで、葉っぱやカードがキラキラと。
(サンタさんに何をお願いしようかなあ…)
 皿うどんは自分で買えるものね、と思った所で閃いたこと。
(そうだ、アルバイト!)
 いきなり流行った皿うどんの店は、アルバイト募集中だった。忙しくなりそうな年末年始に備えて、何処の店にも「急募!」の文字。
(あれって、子供のアルバイトも…)
 出来たかどうかは知らないけれども、「とても忙しい人」なら心当たりがある。
 只今ブームの皿うどんではなくて、ずっと昔から「忙しい人」。それもクリスマスに。
(……サンタさん……)
 広い宇宙を、たった一日で回るサンタクロース。トナカイの橇で、一人きりで。
(ずうっと昔は、地球だけ回れば良かったけれど…)
 今では宇宙の全てが対象。育英都市がありさえすれば。
(テラフォーミングが進んでいったら、育英都市も増えるしね?)
 きっとサンタクロースは、目の回るような忙しさ。あっちへこっちへ走り回って。
 なにしろ人類の住む都市ばかりか…。
(いくらアルテメシアの上空にあるって言っても…)
 シャングリラにまでやって来るのだし、もう本当に忙しいのに違いない。そういう状態にいる人のことを、ヒルマンは確か…。
(猫の手も借りたいって言うんだっけ…?)
 シャングリラに猫はいないけれども、「役に立たない」ことなら分かる。猫の手なんか。
 それに比べたら、自分の方が、きっとよっぽど…。
(役に立つよね?)
 それだ、とウキウキ、お願いツリーに吊るすカードを手に取った。「今年はコレ!」と。



 カードにお願い事を書いたら、吊るすだけ。「ぼくって、とっても頭がいい!」と自画自賛で。
 「これで地球まで行けるもんね」と御機嫌で。
 そしてピョンピョン、スキップしながら立ち去ったけれど…。
「…ソルジャー。今年のぶるぅの願い事ですが…」
 ご存じでしょうか、とキャプテン・ハーレイが青の間を訪れた。それから何日も経たない内に。
 青の間の主のソルジャー・ブルーは、炬燵に入ったスタイルのままで頷いた。
「知っているよ。…それで、君はミカンより、塩煎餅だっけね」
 どうぞ、と菓子鉢が差し出され、「頂きます」と炬燵に入ったハーレイ。塩煎餅を手に、ほうじ茶なんかも啜るけれども、今の問題は其処ではなくて。
「ぶるぅは、アルバイトを希望しておりますが…」
 それもサンタクロースのです、とハーレイが眉間に寄せた皺。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお願いツリーに吊るしたカードには、こう書かれていた。
 「来年は、ぼくをアルバイトに雇って下さい」。
 子供らしい字で、デカデカと。漢字なんかは欠片もなくて。
「そのようだね…。皿うどんの店で火が点いたようだ」
「は? 皿うどんですか?」
 なんでまた、とハーレイはブームに乗り遅れていた。シャングリラから出ないキャプテンなのだし、当然と言ったら当然だけれど。
「…人類のニュースにも目を通したまえ。今は皿うどんがブームなんだよ」
 年越し蕎麦も、新年もソレで行くらしい、とソルジャー・ブルーは流石の知識。ついでに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が見ていた、「アルバイト募集」の張り紙のことも知っていた。
 それのせいで思い付いたらしい、とアイデア源を。
「なんと…。しかし、あのようなことを頼まれましても…」
 サンタクロースは私ですが、とハーレイは自分の顔を指差す。「あんな、とんでもないアルバイトなどは要りません」と、「本物のサンタクロースも断るでしょう」とも。
「それはまあ…。そうなるだろうと思うんだけどね…」
 でも、本人が納得しないと駄目だろう、とソルジャー・ブルーは可笑しそうで…。



 その夜、グルメ三昧から戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、大好きなブルーに呼び出された。
 「直ぐにおいで」と思念で、青の間まで。
「かみお~ん♪ 呼んだ?」
 おやつくれるの、と瞬間移動で飛び込んで行って、クルクル回って着地をしたら…。
「お饅頭ならあるけどね?」
「わぁーい!」
 いっただっきまーす! と蕎麦饅頭にガブリと齧り付き、パクパク、モグモグ。もっと、もっとと包み紙を剥いでは頬張っていると…。
「ぶるぅ、サンタクロースにアルバイトを申し込みたいんだって?」
 ブルーが訊くから、「うんっ!」と元気に頷いた。
「サンタさんは、とっても忙しいんでしょ? クリスマスには!」
「そう思うけど…。アルバイトをして、どうするんだい?」
「アルバイトだったら、地球に行けるの! お手伝いしに!」
 プレゼントの用意から手伝えるもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は胸を張った。とても多忙なサンタクロースは、きっとアルバイトが欲しい筈。
(でも、サンタさんがアルバイトを募集したくても…)
 皿うどんの店みたいに、張り紙をする場所が何処にも無い。広い宇宙を探しても。
 だから欲しくても雇えないのがアルバイト。
 名乗り出たなら、きっと来年は採用される筈だから。
「なるほどね…。サンタクロースも喜びそうだとは思うけど…」
 無理じゃないかな、とブルーが言うから、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキョトンとして。
「なんで? アルバイトするのは来年だよ?」
 来年のクリスマス前に、シャングリラに来て、連れてってくれれば間に合うよ、と自慢の説を披露した。雇われるのは来年なのだし、問題なんかは無さそうだから。
「それはそうかもしれないけれど…。でも、ぶるぅ…」
 ぶるぅは何処の学校を卒業したのかな、というブルーの質問。「今、通っている学校は?」と。



「えっ、学校…?」
 行ってないけど、と答えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
 ヒルマンが教える教室にさえも行かない始末で、人類の世界にしかない学校の方は更に無縁で。
 その学校が、アルバイトするのと何か関係があるのだろうか…?
「やっぱり、ぶるぅは知らなかったんだね。…アルバイトは子供も出来るけど…」
 通っている学校が無いと駄目だよ、とブルーは言った。
 学校が出してくれるアルバイトの許可証、それを渡さないと店では雇って貰えない仕組み。皿うどんの店のアルバイトもそうだし、何処の店でも同じこと。
 だから、もちろん、サンタクロースも…。
「アルバイトの許可証を、持っていないと駄目なの?」
 目が真ん丸になった「そるじゃぁ・ぶるぅ」。学校に行っていない以上は、許可証なんかは貰えないから。
「多分、サンタクロースもそうだよ。それに、ぶるぅはまだ小さいし…」
 学校の許可も下りないだろうね、とブルーはフウと溜息をついた。「いいアイデアだし、サンタクロースも喜びそうだけど、ぶるぅには無理だ」と。
「そんな…。それじゃ、アルバイトは出来ないの?」
「無理だと思うよ。サンタクロースが困らないように、お願い事を変えた方がいい」
 皿うどんを山ほど頼んでもいいし、お菓子を山ほど注文してもいいね、とブルーがくれたアドバイス。そのアドバイスは嬉しいけれども、せっかく浮かんだアイデアの方は…。
(…サンタさん、雇ってくれないんだ…)
 地球でアルバイトは無理みたい、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の夢は今年も砕けた。
 正確に言うなら来年の夢で、来年のクリスマス前に「地球でアルバイトをする」ことで…。
(…地球の座標が手に入るのに…)
 駄目なんだ、とガッカリしたって無理なものは無理。
 アルバイトのためだけに学校に行っても、小さすぎるから許可証は貰えないのだから。



 かくして、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお願い事は書き換えられた。
 それは平凡で、無難なものに。
 「来年もグルメブームの最先端を走れますように」という、可愛いものに。
「ソルジャー、あれも如何なものかと思われますが…」
 私にはとても無理ですよ、とハーレイが愚痴る青の間の炬燵。塩煎餅を齧りながら。
「無理だろうねえ、皿うどんのブームが来ていたことも知らないようでは…」
 あの願い事はとても叶えられないサンタクロースだ、とソルジャー・ブルーはクックッと笑う。それは可笑しそうに、楽しそうに。
「笑い事ではありませんが…!」
「いいんだよ。どうせ、ぶるぅは直ぐに忘れるから」
 来年のグルメブームなんかより、目先のプレゼントだからね、という意見は正しい。何処も全く間違っていないし、ハーレイの方も納得で…。
「では、クリスマス・イブは、普通にプレゼントでよろしいのですか?」
「それ以外に何があるんだい? 君がサンタクロースを務めてくれれば充分だよ」
 ぶるぅには何を贈ろうかな、と思案しているソルジャー・ブルー。「皿うどんかな?」などと。
「皿うどんですか…。あれは、出来立てが命なのでは?」
 麺がパリッと、しっとりでは…、とハーレイも知識を仕入れたらしい皿うどん。「麺がすっかり湿ってからでは、駄目だそうですが」と。
「君も勉強したようだね。うん、パリッと、しっとりが美味しいんだよ」
 こんな具合に…、とブルーが何処かに思念を飛ばして…。
「そ、ソルジャー!?」
 炬燵の上にホカッと出て来た皿うどん。熱々の湯気を立てているのが、二皿も。
「ぶるぅだよ。ちょうど、皿うどんの店にいたものだから…」
 出前をお願いしてみたよ、とブルーが勧める皿うどん。「君も本物を知りたまえ」と、割り箸なんかも添えてあるのを。
「はっ、はい! お相伴させて頂きます!」
 ソルジャーとキャプテンは割り箸をパキンと割って、皿うどんを早速食べ始めた。あんかけの具がたっぷりと乗って、パリッと、しっとり、そういう麺が美味しいのを。
 食べ終えた後には、ソルジャー・ブルーが空のお皿にお金を入れて、瞬間移動で店に返して。



 そんなこんなで「そるじゃぁ・ぶるぅ」はグルメ三昧、皿うどん三昧の日々。
 やがてクリスマス・イブがやって来て…。
(…今夜はサンタさんが来てくれるんだよ…!)
 来年もグルメブームの最先端を突っ走れますように、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がワクワク吊るした靴下。「グルメブームの最先端」なんぞが、靴下に入るわけもないのに。
 いったい何を期待しているのか、もう本当に小さな子供の行動は謎。
「ハーレイ、ぶるぅは眠ったようだから…」
 よろしく頼むよ、とソルジャー・ブルーがハーレイに渡したプレゼントの包み。
「ソルジャー、これは?」
「皿うどんは流石にどうかと思うし、ぶるぅ専用のマイ箸だよ」
 ちゃんと名前も入れて貰った、というのがマイ箸セット。その日の気分で選べるようにと、重さや長さや、材質色々。もちろん色も、細工の方も。
「はあ…。マイ箸セットですか…」
「グルメブームの最先端を行くんだったら、必需品だと思うけれどね?」
 来年も言っているようだったら、銀のカトラリーでも贈ろうかな、とソルジャー・ブルーは至極真面目な顔。「極めるんなら、ぼくも力を貸さないとね?」と。
「マイ箸セットの次は、銀のカトラリーだと仰いますか!?」
 銀は高価だと聞いておりますが、とハーレイは目を剥いているのだけれど。
「いけないかい? このシャングリラの維持費なんかは、誰が稼いでいるのかな?」
 とんでもない額になるんだけどね、とソルジャー・ブルーは涼しい顔。
「そ、それは…。ソルジャーが当てて下さる、宝くじが主な現金収入で…!」
「分かっているなら、それでいい。ぶるぅに銀のカトラリーくらいは…」
 プレゼントしたっていいだろう、とソルジャー・ブルーは太っ腹だった。もっとも、既にマイ箸の時点で「べらぼうな」値段らしいのだけれど。
(今どき貴重な象牙の箸も、グルメには欠かせないからね?)
 銀の箸も要るし、金の箸だって必要なんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」には甘いのがブルー。
 なんと言っても「もう一人の自分」と思うくらいに溺愛中。
 ずっと前から、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が青の間に現れてスヤスヤ寝ていた、あのクリスマスの朝の出会いから、ずっと。



 「ソルジャーは、ぶるぅに甘くていらっしゃる」と、ハーレイは首を振り振り、青の間を出た。
 今年もこれからサンタクロースで、キャプテンの部屋で着替えから。
 トレードマークの白い髭をつけ、赤いサンタクロースの服を着込んで、プレゼントを入れる白い大きな袋の中に…。
(これがエラからで、こっちがブラウで…)
 ゼルにヒルマン、と詰めてゆくのがプレゼント。毎年恒例、こういう流れ。
(…私のが、これで…)
 そしてソルジャーからのマイ箸セット、と順に詰め込み、他にも色々。
 悪戯小僧な「そるじゃぁ・ぶるぅ」を恐れる傍ら、シャングリラの面子も「可愛い」と思いもするものだから。「プレゼントを貰った」と喜ぶ顔は可愛いから、と匿名で色々届いたりもする。
(年々、数が増えてゆくのは、人望なのか…?)
 あいつに人望があるだろうか、と考えてみて、「ソルジャーの方だな」と結論付けた。
 船の誰もが敬愛しているソルジャー・ブルー。そのソルジャーが可愛がっているわけなのだし、悪戯小僧でも人気だろう、と。
(ぶるぅに付け届けをする方が…)
 ソルジャー相手にするよりも敷居が低いからな、と納得中。本当にそうかは、ともかくとして。
 日頃、悪戯されまくりだから、ハーレイがつける点数は辛め。激辛と言ってもいいくらいに。
(さて、行くとするか…)
 これも仕事だ、と袋を担いで、夜の通路を歩いてゆく。
 出会った仲間に「お疲れ様です」と労われながら、サンタクロースのコスプレで。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に着いたら、そうっと扉を開けて入って…。
(よしよし、今年は罠などは無いな)
 エライ目に遭った年もあるし、とホッとしながら、マイ箸セットを大きな靴下に押し込んだ。これがメインのプレゼントだから、当然のこと。
(他のは、こっちに…)
 並べておくか、と絵になるように飾るハーレイ。
 なんだかんだで、彼もやっぱり「甘かった」。つける点数は激辛とはいえ、ベッドで寝ている「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、可愛い子供の姿だから。



 こうしてクリスマス・イブの夜は更け、次の日の朝がやって来て…。
「クリスマスだあ!」
 サンタさん、来てくれたかな、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は飛び起きた。靴下を見れば、其処から覗いたプレゼント。綺麗な紙でラッピングされて、素敵なリボンがかかったものが。
 それに床にも包みが山ほど、どれから開けようか迷うけれども…。
(やっぱり、靴下に入ったヤツだよね?)
 悪い子だったら、鞭が入るのが靴下だもの、と靴下の中のを引っ張り出した。
 中身は何かとドキドキワクワク、リボンをほどいて、包装紙を勢いよく引っぺがして…。
「わあっ…!!」
 パカッと開けた箱の中には、お箸が幾つも。
 どれにも「そるじゃぁ・ぶるぅ」と名前が刻まれ、立派な「マイ箸」。
 それに、グルメだから分かる。並みの箸ではないことが。象牙や金は分からなくても、漆や象嵌の細工なんかもサッパリでも。
(凄いお箸が、全部ぼくので…)
 もう早速に使わなくてはいけないだろう。今がブームの皿うどんの店で、これを端から。
 年末年始は皿うどん三昧、年越し蕎麦もアルテメシアで食べてみるのもオツかもしれない。
(シャングリラでブルーと食べるのもいいけど…)
 いやいや、此処は出掛けて出前もいい。
 一番美味しい店で頼んで、青の間までヒョイと瞬間移動をさせて…。
(ブルーと一緒に、皿うどんで年越し…)
 それもいいよね、と広がる夢。
 マイ箸がこんなに沢山あったら、来年もきっと、この皿うどんブームみたいに…。
(最先端を突っ走れるもーん!)
 何が流行っても、最先端を行きたいもの。グルメを極めて、「通」と呼ばれて。
 皿うどんの店ではまさしく「通」だし、ブームの前から「通」で通っていたのだから。



(皿うどん、食べに行かなくちゃ…!)
 朝が一番早いお店は何処だっけ、と他のプレゼントを開けるのも忘れかかっていたら…。
『ぶるぅ? 何か忘れていないかい?』
 皿うどんのお店もいいけれど…、と大好きなブルーの思念が届いて、我に返った。
「あっ、いけない! サンタさんのプレゼント、他にも一杯…」
 これも、こっちも…、と端から開けては大歓声。
 ハーレイたちから贈られたものも、船の仲間が贈ったものも。どれもサンタクロースからだと、信じて疑いもしないのだけれど。
『ぶるぅ、プレゼントもいいけれど…。クリスマスは何の日だったっけ?』
「え? えっと…。サンタさんがプレゼントをくれる日で…」
『それはクリスマス・イブだろう? クリスマスは…?』
 ぼくは前に、ぶるぅを貰った気がするけどね、というブルーの声で気が付いた。
 大好きなブルーと初めて出会った日は…。
「そっか、今日は、ぼくの誕生日!」
『やっと思い出したみたいだね? ケーキも用意したんだけれど…』
 皿うどんの方がいいのかな、とブルーの思念が笑っている。
 「公園に特大のケーキを運ぶそうだよ」と、「でも、皿うどんの方がいいかな?」と。
「ううん、ケーキの方がいい!」
 でもね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は青の間に瞬間移動した。
 マイ箸セットをしっかり握って、「これを貰ったよ!」と報告するために。
「見て、見て、ブルー! 来年もグルメブームの最先端を突っ走れそう!」
「良かったね、ぶるぅ。お願いをちゃんと聞いて貰えて」
 いつかは地球にも行けるかもね、とブルーに頭を撫でて貰って、もう御機嫌。そのブルーと一緒に青の間を出て、公園まで二人で出掛けて行ったら…。



「「「ハッピーバースデー、そるじゃぁ・ぶるぅ!!!」」」
 パアン! と幾つものクラッカーが弾けて、厨房のスタッフたちが特大のケーキを運んで来た。
 まるでお神輿を担ぐみたいに、何人もで大きな台の上に乗せて。
「わあっ、ケーキだ!」
「ぶるぅが一人で食べていいんだよ、マイ箸ではちょっと無理そうだけどね」
「んとんと…。お箸でも、食べられるかも!」
 どのお箸で食べればいいのかな、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は悩み始めて、その間にも賑やかにパーティーの支度が整ってゆく。
 クリスマスは毎年、こうだから。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」の誕生日を祝う行事は、船に定着しつつあるから。
「ソルジャー、皿うどんも用意させておりますので…」
 アルテメシアの本場の味には敵いませんが、と笑顔のキャプテン・ハーレイ。
 「ソルジャーに本物を御馳走になりましたから、私も勉強いたしました」と。
 アルテメシアに派遣している潜入班員たちから情報ゲットで、厨房のスタッフたちが毎日研究。それを端からキャプテンが試食、「ここが違う」とダメ出しをして。
「ぶるぅ、皿うどんも出て来るよ。お箸はそっちで使うといい」
「うん、ブルーにも貸してあげるね。お箸、一杯あるんだもの!」
 お誕生日だあ! と飛び跳ねている「そるじゃぁ・ぶるぅ」。マイ箸セットの箱を抱えて。
 それは嬉しそうにあっちへピョンピョン、こっちへピョンピョン、弾ける笑顔で。
 悪戯小僧な「そるじゃぁ・ぶるぅ」、本日をもって満十歳。
 ケーキをお箸で食べたがるくらいの永遠の子供で、中身はまだまだ十歳には届かないけれど。
 ハッピーバースデー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。十歳のお誕生日、おめでとう!




          グルメの最先端・了

※「そるじゃぁ・ぶるぅ」お誕生日記念創作、読んで下さってありがとうございます。
 悪戯小僧な「ぶるぅ」との出会いは、2007年の11月の末でした。
 葵アルト様のクリスマス企画用のペットで、その愛らしさに射貫かれたハート。
 期間限定BBSに「ぶるぅ」のお話をせっせと投稿、それが管理人の初創作。

 気付けば9年経っていました、今や「最後の」現役アニテラ書き…なのかも。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」に出会わなかったら、ROM専で終わっていたんでしょうに。

 創作人生の原点になった、悪戯小僧の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
 年に一回、お誕生日は祝ってあげなきゃ駄目ですよね。
 クリスマス企画の中で「満1歳」を迎えましたから、今年で10歳になるんです。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」、10歳のお誕生日、おめでとう!

※過去のお誕生日創作は、下のバナーからどうぞです。
 お誕生日とは無関係ですけど、ブルー生存EDなんかもあるようです(笑)
 ←悪戯小僧な「ぶるぅ」のお話は、こちらからv












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