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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

二千日目の悪戯小僧


祝・ぶるぅ生後2000日!



 ドキドキ、ワクワク、ドッキンドッキン。
 胸の鼓動と共に気分も高まる。ミュウたちの船、シャングリラに住む悪戯小僧の「そるじゃぁ・ぶるぅ」、只今5歳と6ヶ月。期待に輝く瞳の先にはモニターがあった。
「6月15日、そるじゃぁ・ぶるぅ、生後1999日…っと」
 もうすぐだもんね、とモニターに並んだ数字を眺める。それは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が生まれて間もなく、大好きなブルーが取り付けてくれたモニターだった。
 生まれたと言うか、ブルーの部屋にヒョコッと出現したと言うべきか。5年6ヶ月前のクリスマスの朝、ブルーのベッドの傍らで目覚めた時より前の記憶は無いから、その日が誕生日ということになった。それ以来「そるじゃぁ・ぶるぅ」が生きて来た日数を示しているのがモニターの数字だ。
「明日には2000になるんだもん! プレゼント、何が貰えるかなぁ?」
 すっごく楽しみ、とゼロが三つ並ぶであろう明日を夢見る。ブルーはきっとお祝いをしてくれるだろう。誕生日よりも特別な何かを貰えることは確実で…。
「1000日目の時は乾杯して食事したもんね。もうすぐ2000日だよ、って言いに行ったら、ブルー、とっても喜んでたし! 何かくれる? って聞いたら、考えておくって言ってくれたし!」
 ブルーは約束守るもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はモニターを見詰め、プレゼントに胸を高鳴らせる。特大のケーキか、土鍋グッズか。それともブルーが用意してくれた思いがけないサプライズか。
「2000日記念のリサイタルもいいよね、劇場を貸し切って思いっ切り!」
 歌って踊ってお祝いだぁ! と飛び跳ねてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」は自分の歌がシャングリラの住人たちにとって迷惑以外の何物でもないことを未だに悟っていなかった。ついでに悪戯の方も一向に止む気配は無い。
 2000日近くも歌と悪戯に悩まされて来たミュウたちにしてみれば、お祝いどころではないのだが…。そこに思いが及ぶようなら「そるじゃぁ・ぶるぅ」はとっくの昔に良い子になっているだろう。
 生後1999日目の悪戯小僧は相変わらずで、その日もシャングリラのあちこちで悲鳴と怒号が響き渡った。静かだったのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」がショップ調査とグルメ三昧のためにアタラクシアの街へ降りていた間だけのこと。
 船内の様子を常に把握しているソルジャー・ブルーは青の間から全てを見通し、深い溜息を吐き出した。
「…明日で2000日なのは確かだけどね…。ぶるぅ、ぼくは考えておくって言ったんだよ? お前がいてくれるのは嬉しいけれど、褒められることが無いんじゃねえ…」
 プレゼントどころじゃないんだけどな、と呟くブルーの嘆きは、悪戯小僧の耳には届いていなかった。ブルーの心にはお構いなしに悪戯しまくり、噛みまくり。それでプレゼントを貰う気なのだから厚かましいとしか言いようがないが、そこが「そるじゃぁ・ぶるぅ」ならでは。
「お前は永遠に子供なんだ、ってフィシスの占いに出ていたからには仕方ないけど…。少しは成長して欲しいとも思ってしまうのは我儘かな?」
 2000日になろうというのにこれではねえ…、と零すブルーの思念の先では「そるじゃぁ・ぶるぅ」がキャプテンの腕に噛み付いていた。厨房で試食と称して鍋からガツガツ食べていたのを止められたのが原因らしい。鍋の中身は殆ど食べ尽くされてしまった後で、シャングリラの食堂の夕食メニューは今日も一品減りそうである…。
 

 悪戯小僧が待ち焦がれていた2000日目の6月16日。
 早起きをしてモニターを見に行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は歓声を上げた。
『そるじゃぁ・ぶるぅ、生後:2000日』の文字がモニターに燦然と輝いている。ついに来たのだ、待っていた日が。
 1000日の二倍、2000日。1000日目でもブルーは乾杯してくれた。その倍となればお祝いも二倍、それとも二乗とやらで四倍だろうか?
 ドキドキ、ワクワク、ドッキン、ドッキン。
 早くブルーが起きないかな、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は胸を躍らせる。流石に身体の弱いブルーを叩き起こしてまで祝ってくれとは言えないし…。
「んーと、んーと…。まだ寝てるよね? ブルー、朝御飯だって遅いんだもんね」
 まだかなぁ? と思念で青の間を探り、部屋の主が眠っていることを知ってガッカリしたが、待っている間に食事を兼ねて朝の悪戯をしてくればいいのだと思い直す。
「うん、ぼくだってお腹減ってるもん! 育ち盛りで食べ盛りだもん!」
 沢山食べなきゃいけないもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は食堂に突撃して行った。まずは目についた料理から。スープにオムレツ、ソーセージ。それにサラダにベーコンエッグに…。
「うわぁ、盗られた!」
「そっちに行ったぞ、早く捕まえろ!」
「いや、キャプテンだ、誰かキャプテンを呼んでこいーっ!」
 上を下への大騒ぎになった食堂の中を縦横無尽に駆け抜けた後は厨房だ。朝からガッツリ食べたいクルーのために大鍋で煮ているシチューの匂いが食欲をそそる。
「かみお~ん♪ 一番に味見してあげるね!」
「うわぁぁっ、来るなぁーっ!」
 おたまを振り上げて鍋を守ろうとする調理員の頭にヒョイと飛び乗り、ピョンとジャンプして熱々の鍋を抱え込み…。火傷なんてものはタイプ・ブルーのサイオンがあれば大丈夫。鍋つかみが無くてもバッチリだ。
「いっただっきまぁ~す!」
 ガツガツ、ゴックン、ズルズルズル。
 食事マナーなんか知らないとばかりに音をたてまくってシチューを啜る「そるじゃぁ・ぶるぅ」を止められる猛者はいなかった。
 ミュウたちの船、シャングリラ。朝も早くから今日のメニューが一品減ったのは間違いない…。
 

 食堂を急襲し、胃袋を満たした「そるじゃぁ・ぶるぅ」は自室に戻ると土鍋に入って一休み。お気に入りの土鍋は寝心地も良く、極楽気分でぐっすり眠って目が覚めてみると時計の針は午前十時を指していた。
「ブルー、起きたかな? もう起きてるよね、行ってこようっと!」
 プレゼントが待っているんだもん、とワクワクしながら青の間にテレポートした「そるじゃぁ・ぶるぅ」を出迎えたのは…。
「おはよう、ぶるぅ。2000日目の記念日、おめでとう」
 横になっている日も多いブルーがベッドの脇に姿勢よく立ち、柔らかな笑みを浮かべている。体調がいいという証拠だ。ブルーが大好きな「そるじゃぁ・ぶるぅ」にとって、それはとっても嬉しいことだが、でも、しかし…。
「…えっと……。なぁに、その服?」
 ブルーが纏うのは見慣れたソルジャーの衣装ではなかった。似たようなモノを挙げるとすれば、初詣の季節にたまに見かける着物とかいうヤツだろうか? それとシャングリラの夏の名物、阿波踊りの時に出て来る浴衣だ。
「ん? これはね、ぼくの大事な物なんだけど…。前にヒルマンが色違いのを着ていた筈だよ、お前のお葬式をやった時だ」
「…お葬式?」
 なんだったっけ、と記憶を遡ってみれば確かにそういう事件があった。お餅を喉に詰まらせてしまい、仮死状態になっている間に仮通夜をされ、危うく土鍋に納棺されそうになった葬式騒ぎ。数珠を握って念仏を唱え続けていたヒルマンの服は緑色をした着物もどきで、大きな四角い布も着けていたような…。
「思い出したかい? これは法衣という名前で、お坊さんの服。四角いのが袈裟。…ヒルマンの服は緑だけれど、ぼくは最高の位を持っているから緋色の服を着られるんだよ。今日はお前の特別な日だし、久しぶりに引っ張り出してみたんだ」
「…んーと、んーと…。ぼく、2000日目になったんだよ? なんでお葬式?」
 祝って貰えると思っていたのに、お葬式とは何事だろう? 日頃の行いを微塵も悪いと思っていない「そるじゃぁ・ぶるぅ」は困惑したが、ブルーはニッコリ微笑むと。
「お葬式なんかやらないよ。2000日目のお目出度い日だし、大事な節目だ。お前を弟子にしてあげようと思ってね」
「弟子?」
「そう、ぼくの大切な直弟子だよ。出家と言っても、ぶるぅは子供だから分からないかな? 今日からお坊さんにしてあげる。ちゃんと名前も考えたんだ」
 ほらね、とブルーが広げた紙には達筆な毛筆で『小青』の文字が書かれていた。
「ぼくのお坊さんとしての名前は、ぎんしょう。銀に青って書くんだよ。そこから一字と、ぶるぅは小さいから小という字だ。読み方は『しょうしょう』なんだけど…。素敵な名前だと思わないかい?」
 ぼくからの特別なプレゼント、とブルーは誇らしげに紙を掲げて見せる。
「緋色の衣のお坊さんはね、滅多な事では弟子を取らない。これ以上のプレゼントは何処を探しても見つからないと思うんだけどな」
「…2000日目のプレゼントって、それ?」
「勿論さ。そして、お坊さんの名前を貰うためには出家が必要」
 心構えをきちんとね、と語るブルーは優しい笑みを湛えていたが、何がどうしてこうなったのか「そるじゃぁ・ぶるぅ」には分からない。大好きなブルーから名前を貰えるのは嬉しいけれど、お坊さんだの出家だのって、いったい何をするのだろう…?
 

「出家というのは、お坊さんになること。出家するには、剃度式をしないとね」
 いつの間にやらブルーの手には錦の袋が握られていた。中に剃刀が入っているのだ、と丁寧に説明してくれる。
「髪の毛を剃って丸坊主にするのが正式だけど、そんな頭は嫌だろう? だから形だけ。ぼくがこれを頭に当てたら、南無阿弥陀仏と唱えるんだよ」
「…なむあみだぶつ…?」
「うん、南無阿弥陀仏が一番大切。でも、まずは誓いを立ててから。…でないと剃度式は出来ないんだ」
 ブルーの赤い瞳が「そるじゃぁ・ぶるぅ」の瞳を真っ直ぐ覗き込んだ。
「日課念仏、2000回。一日にお念仏を必ず2000回は唱えます、ってね」
「えぇっ!?」
「とても簡単なことだと思うよ、お念仏を唱えるだけだから。『かみほー♪』の節で歌ってもいいし、悪戯しながら唱えてもいい。…これを約束してくれないと、名前のプレゼントは無理なんだ」
 せっかくの2000日目のお祝いだけど、と聞かされて「そるじゃぁ・ぶるぅ」は涙目になった。そんなこと、無理に決まってる。大好きなブルーの名前とセットの名前は欲しいけれども、お念仏なんて…。
 よりにもよって2000回。来る日も来る日も2000回では、悪戯だって消し飛びそうだ。
 それなのにブルーは剃刀が入った袋を手にして微笑みかける。
「ぶるぅ、約束は簡単だよ? 誓いますか、とぼくが訊いたら「誓います」って答えるだけさ」
「無理! 2000回なんて絶対、無理!」
 出来ないもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は泣き出した。『小青』はちょっとカッコイイかな、と思ったけれど、もう名前なんか貰えなくてもかまわない。ブルーが好きなのとお念仏とはキッパリすっぱり別次元。
 2000日目の記念プレゼントは無しでいいや、と半ばヤケクソで泣きじゃくっていると…。
「だろうね、無理だろうとは思っていたんだ」
 お灸をすえてみただけさ、とブルーが袂からハンカチを取り出し、溢れる涙を拭ってくれた。
「毎日々々悪戯三昧、食堂のメニューも食べ散らかして…。2000日目になるというのに少しもマシにならないのでは、ぼくだって脅してみたくなる。ぼくとセットの名前の話は冗談だよ」
「…え?」
「どうしても欲しいと言うならあげてもいいけど、お念仏も出家も要らないさ。その代わり、たまに托鉢するんだね」
「たくはつ?」
 聞いたこともない単語に目を丸くした「そるじゃぁ・ぶるぅ」の前にブルーがテレポートさせてきたのは新品の土鍋。寝床サイズの特大鍋だ。
「はい、これが2000日目の記念のプレゼントだよ。前から特注してあったんだ」
「わぁい、土鍋だぁ! ありがとう、ブルー!」
「ただの土鍋じゃないのさ、それは。蓋を取ってごらん」
「………???」
 蓋を開けてみた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は躍り上がって喜んだ。
 土鍋の中には一回り小さな二つ目の土鍋。ひょっとして、と二つ目の蓋を開ければ三つ目の土鍋。一番小さな一人鍋サイズの土鍋になるまで、合計五個もの土鍋が入れ子になったスペシャルな土鍋のセットではないか。
「凄い、凄いや! 一度にお鍋が五つも出来るよ、醤油味とか味噌味とか!」
 キムチ鍋も美味しいしトマト鍋も…、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭の中で鍋料理への夢が膨らんでゆく。五種類の鍋をズラリと並べて食べ放題なんて、最高だ。ブルーのプレゼントはやっぱり凄い。名前なんかよりずっと素敵で、心ときめくモノなのだから。
 

 大感激で五つの土鍋を眺め続ける「そるじゃぁ・ぶるぅ」。その耳にブルーの声が届いた。
「ぶるぅ、名前はどうするんだい?」
「えっ、土鍋もらったから名前はいいよ?」
 要らないもん、と御機嫌で五つ分の鍋のスープと具材をあれこれ考えていると…。
「その土鍋。時々は食堂に持って行くといい。お願いします、とね」
 それが托鉢というものなんだ、とブルーは穏やかに微笑みながら教えてくれた。
「お前の胃袋の空き具合に見合った土鍋を選んで、厨房で頭を下げるんだ。托鉢に来ました、お願いします…って。土鍋一杯に入れてくれるか、おたま一杯かは分からないけど、気持ちよく食べ物をくれる筈だよ」
 そうすれば騒ぎも起こらないよね、とブルーの瞳が笑っている。
「托鉢なんて嘘だろう、と言われた時には「小青の名前を貰っています」と答えるのさ。ぼくが銀青だっていうのは有名だから、お弟子さんとして扱ってくれる」
「…えっと…。大きな土鍋を持って行ったら沢山もらえる?」
「そこは運だね。お前の好物を貰えるかどうかも分からない。…托鉢というのはそういうものだし、貰ってしまったものは断れない。だけど、たまには頑張ってごらん。お前も我慢することを覚えないと」
 2000日目になったんだろう、と大好きなブルーに頭を撫でられ、少しやる気が出て来た気がする。
 ブルーから一文字貰った名前と、スペシャルな土鍋。両方揃えば托鉢だってチャレンジする価値があるのかも…。まずは一番大きな土鍋で挑戦だ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は新品の土鍋を抱え上げた。
「じゃあ、行ってきまぁーす!」
 お昼御飯のメニューは何かなぁ? とワクワクしながら飛び出して行った悪戯小僧。
 食堂の入口に着いた時には「托鉢でーす!」と元気一杯、胸を張って厨房に向かったのだが…。
 

「こらぁっ、何をする!」
「だって、足りないもん! お鍋、こんなに大きいんだもん!」
 2000日目のお祝いの日だし、小青って名前も貰ったもん、と大鍋の中でグツグツ煮えていたブイヤベースをドボドボドボ…と超特大の土鍋に空ける「そるじゃぁ・ぶるぅ」は何も変わっていなかった。
 いや、托鉢という大義名分を手に入れた分、パワーアップしたと言うべきか。ブルーが纏ってみせた緋色の衣と『小青』の命名は、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の盗み食いを封じるどころか裏目に出た。
 ガツガツ、ズルズル、ゴックン、ゴックン。
 シャングリラの食堂の今日のメニューはまたまた一品減りそうだ。落胆したブルーが小青の名前を没収したという噂の真偽は定かではないが、五つセットのスペシャル土鍋は記念プレゼントとして贈呈されたままらしい。
 小さなブルーな「そるじゃぁ・ぶるぅ」、本日で生後2000日。
 悪戯小僧がブルーを連れて青く輝く地球に着くのは、遙か未来の物語である。


        二千日目の悪戯小僧・了
 

※「そるじゃぁ・ぶるぅ」生後2000日お祝い企画にお越し下さって有難うございます。
  生後2000日目になるのは6月17日になる直前ですので、16日の朝一番だと
 『ぶるぅのお部屋』での表示は「生後1999日」なんですが…。
 6月16日の間に生後2000日を迎えますから、6月16日が記念日です。

 2007年クリスマス企画の終盤に1歳になった「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
 クリスマス企画に出現した時、既に生後330日くらいだったと思います。
 ですから「生後2000日」は330日ほどサバを読んでいる勘定。
 5歳児だけに大目に見てあげて下さいv
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」、生後2000日、おめでとう!
 
 ちなみに作中に出て来るお葬式ネタは『ぶるぅの一番長い日』。
 ブルーと一緒に青い地球に行くお話は『赤い瞳 青い星』。
 生後1000日の記念に書いたのは『幻の夜』ですv 


     2012年6月16日(アニテラ11話『ナスカの子』放映より5周年)

シャングリラ学園生徒会室←作者を一発殴りたい方はこちらからどうぞ。
『シャングリラ学園生徒会室』直通です。
殴る、蹴る、苦情などなど、どの日の記事からでも受け付けまっすv

祝・ぶるぅ、生後2000日!




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