シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、青の間にソルジャー補佐として出勤する身になりました。副船長の就任挨拶で初めてソルジャーにお会いしたような私が大役を頂いた理由は「ミュウらしからぬ図太い神経」らしいです。夢見る乙女のつもりでしたが、何処で道を踏み誤ったのでしょう。でも、そのお蔭でソルジャー補佐になれたのですし、まぁ…いいかな、と。
非の打ち所のないミュウの長、ソルジャーはベッドで眠ってらっしゃらない時はコタツに座って過ごされます。『ソルジャー・ブルー様ファンクラブ』の会員さん達が御覧になったら、ショックのあまりサイオン・バーストを起こしかねない光景かも。今日もコタツの上には山盛りのミカンとソルジャー専用の湯飲み、そしてオヤツの塩煎餅が…。
「…君は味噌とトンコツ、どっちが好きだい?」
「は?」
いきなりソルジャーに問われた私は、キャプテンにお借りした少女マンガ『エロイカより愛をこめて』を閉じました。サボッていたわけではありません。「自分一人がコタツに座る」のはソルジャーのお気に召さないらしく、たまにリオさんも座っていきます。私は特に用の無い時はコタツで本を読むことにしていました。
「味噌とトンコツ、どっちが好きかと聞いたんだが」
「…どちらかといえば味噌でしょうか」
「分かった」
そうおっしゃってから10分くらい経った頃。コタツの上に突然ラーメン鉢が2個、現れました。中身は出来立ての味噌ラーメンとトンコツラーメン。レンゲと割り箸も添えてあります。もしかしてこれは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が?
「食べたまえ。味噌は君の分だ」
ソルジャーはトンコツラーメンを前に馴れた手つきで割り箸を割っていらっしゃいます。
「ぶるぅが送ると言ってきたから、君の分も送ってもらった。一人で食べてもつまらないだろう」
「えっ、でも…私、お弁当が届きますし」
「リオは来ないよ」
青の間に出勤中の私の食事はお弁当。リオさんがソルジャーのお食事と一緒に届けて下さっています。
「ぶるぅが何か送ってくるのは分かっていたから、今日の昼食は断っておいた。…君の分もね」
ソルジャーは予知もお出来になるのでしたっけ?…「そるじゃぁ・ぶるぅ」お気に入りらしいラーメン店の味噌ラーメンはとても美味しいものでした。
空になったラーメン鉢とレンゲを洗って戻ってくると、ソルジャーが何処からかお金を取り出して鉢にお入れになりました。次の瞬間、鉢とレンゲはフッと消え失せ、お店に返却されたようです。
「本当に出前だったんですね…」
「器ごと送ってきた時はちゃんと支払うようにしている。…それ以外の時は、ぶるぅが払っている筈だ」
「お金を持っていたんですか!?」
「当然だろう。無銭飲食や万引きを覚えたのではたまらない。毎月、お小遣いを取りに来るよう言ってある」
以前、キャプテンにはぐらかされた「そるじゃぁ・ぶるぅ」の買い物の謎はアッサリと解けてしまいました。ソルジャーがお金を与えておられるのでは、一般のミュウには教えられなくて当然です。では、ソルジャーのお金の出処は?…通信士補佐の頃に耳にした「宝くじ」ではないでしょうね?
「…ぼくが買って当てた宝くじの一部を貰って使っている。ぶるぅが来るまでは使うことなどなかったのだが」
ソルジャーはおかしそうにお笑いになりました。
「ぶるぅと言えば…カードを用意しておかなければ。明日は劇場で新曲発表会だと張り切っていた。さっきのラーメンは『発表会の応援をよろしく』とアピールするための出前なんだよ」
えっ、劇場で新曲発表会?…劇場支配人だった時にキャプテンと出かけたアレでしょうか。「応援よろしく」とアピールがあったからには、明日はソルジャーがお出かけに?
「いや、ぼくは劇場には出かけられない。…行ってやりたいが、滅多にここから出ないぼくが…ぶるぅの応援のために出かけたりしたら、シャングリラの皆の気持ちはどうなると思う?」
そうでした。ソルジャーはお身体が弱っておられるのを隠すためなのか、青の間からお出になりません。でも…シャングリラの皆さんの気持ちの前に、ソルジャーご自身のお気持ちはどうなるのですか?
「…ぼくの個人的な感情はいい。ソルジャーとは…そういうものだ」
ふと寂しそうな笑みを見たと思ったのは気のせいでしょうか。ソルジャーはすぐに明るいお顔に戻られました。
「ぶるぅに渡してもらう花束の用意をハーレイに頼んできてくれたまえ。その間にカードを書いておくから」
ブリッジでキャプテンに伝言をお伝えして戻ると、ちょうどカードを封筒に入れておられるところでした。花束とカードの取り合わせには覚えがあります。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の新曲発表会の時、私が手渡した花束にカードが添えてありましたっけ。キャプテンは「長老全員で演じる架空の人物」からの贈り物だとおっしゃいましたが…。
「紫の薔薇が50本と、カード。ぼくが本当の贈り主だと、ぶるぅはちゃんと気付いているよ。自分で渡してやりたいけれど、それはできないことだから…ハーレイたちに頼んだんだ」
そう言って見せて下さった封筒には『紫のバラの人より』という綺麗な文字が書かれていました。
マザー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の新曲発表会にはキャプテンが出席なさったようです。当日、紫の薔薇の花束を抱えてカードを取りにこられましたから。ソルジャーは「今日は早めに眠る」とお休みになられましたが、青の間のベッドで横たわりながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」を『視て』おられたのでは…という気がします。そんなソルジャーが『ガラスの仮面』をお読みになったことがあるのか、知りたいと思うのは罪でしょうか…。