シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、青の間でソルジャーにお仕えする補佐になりましたけど…憧れだったソルジャーと「青の間の雰囲気ブチ壊し」なコタツで「そるじゃぁ・ぶるぅ」が届けてきたラーメンを一緒に食べたりもしましたけれど。やはりソルジャーは手の届かない方なのだ、と思い知らされる時はあるものです。
クリスマスを間近に控えたある日、フィシス様がいらっしゃいました。いつものようにコタツにソルジャーと二人でお座りになり、手を絡めて地球を見せておられます。私は離れた所でそれを眺めているだけでした。コタツの上のミカンも湯飲みも、何もかも消えてゆくようで…ソルジャーとフィシス様の他には、誰も存在していないようで。そんな時間を過ごされた後、フィシス様がお帰りになると、ソルジャーは吐息をついてベッドに横になられました。
「…地球は遠い…」
きっとお疲れなのでしょう。夕食にはまだ早いのですが、お休みになるのならリオさんに連絡しなくては。
「…大丈夫だ…。いつもより長く見ていたから…降下していくままに地球へ降りたいと…。降り立つことは出来ないと分かっていても、弾かれてしまうまで見ていたくなる…」
フィシス様の地球を私は見たことがありません。地球へ降りてゆく映像があるとは初耳でした。
「いつも決まって同じ場所だ。…地球の中枢があるのかと思ったりもしたが、分からない…」
水をくれないか、とおっしゃったので湯飲みではなくグラスに入れてお渡ししました。ソルジャーはベッドに半身を起こされ、ゆっくりと水を喉の奥へと滑らせて。
「あの場所が何処なのか、何度も調べた。だが分かったのは…古い記録だけだ。SD体制よりも遥か昔の、まだ国境があった時代の…小さな島国の小さな島の一部分。なぜかとても懐かしく思えて、そこにあったと伝えられている踊りをシャングリラに持ち込んで広めたりもした」
あ。その踊りが、劇場支配人時代に見聞きしたシャングリラの夏の名物、阿波踊り…?
「ああ…。そして、その徳島の出身という人の名を、ぼくは確かに知っているのに…いくら調べても分からない。竹宮恵子とは誰だろう?長老たちも他のミュウも、皆、この名前を知っている。…君の記憶にもある筈だ」
竹宮恵子。その名は確かに知っています。でもソルジャーがおっしゃるとおり、誰なのか思い出せません。
「…徳島…それに竹宮恵子。…全ての答えは遠い地球にしか無いのだろうか…」
ソルジャーの瞳があまりにも悲しそうだったので、私はそっと背を向けることしかできませんでした。そこへ…。
「かみお~ん♪」
能天気かつ調子っぱずれな歌声がして「そるじゃぁ・ぶるぅ」が青の間に入ってきました。マイクは握っていないようですが、コタツ以上に「雰囲気ブチ壊し」な存在です。でもソルジャーの気分転換には最適なヤツかもしれません。私の心を知ってか知らずか「そるじゃぁ・ぶるぅ」は珍しく踊り始めました。エレベーターからベッドの方へと軽快な足取りで進んできますが、この踊りは…阿波踊り勝手連の皆さんが練習していた男踊りではありませんか。
「♪えらいやっちゃ、えらいやっちゃ、ヨイヨイヨイヨイ、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々…」
ヘタクソな歌を歌って踊りつつ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がやってきます。踊りの方は歌に似合わず見事でした。いつの間にかソルジャーの赤い瞳が「そるじゃぁ・ぶるぅ」に向けられていて、やがて静かで優しい声が…。
「ぶるぅ…。すまない、ぼくの沈んだ心が伝わったのか…」
プイッ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はそっぽを向き、踊るのをやめてベッドのそばに来ました。
「ブルーが謝ることなんかない。…謝られたって嬉しくない」
そう言うと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は横たわっておられるソルジャーのお顔をじっと見ています。
「そんなに悲しくなるんだったら、地球なんかもう見なきゃいいのに。…でなきゃサンタに頼めばいいのに」
は?…サンタ…?
「クリスマスにお願いすれば、サンタが連れてってくれるかも…。地球に」
えぇっ、サンタクロースに頼んで地球へ!?…でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」は本気で言ってるみたいです。考えてみれば、まだ生まれてから1年も経っていないと聞いたような気も…。
「…ぶるぅなら行けるかもしれないな」
ソルジャーは透き通るような笑みを浮かべて「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭をそっとお撫でになりました。
「いつか…地球へ行けたとしたら。ぼくにも見せてくれると嬉しい…。ぶるぅ、お前なら…きっと行ける」
「ブルーは?…ぼくなら行ける、って…ブルーは?」
ソルジャーは黙って首を静かに横に振られました。まさか…それまでお身体がもう持たない、と?私が思わず息を飲むのと同時に「そるじゃぁ・ぶるぅ」もビクンと震え、ソルジャーを睨むように見ていましたが…。
「ブルーが行かないなら、ぼくも行かない。…一緒でなきゃ嫌だってサンタにお願いするんだから!」
そう叫ぶなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」は青の間から走り去りました。
「…嫌われてしまったかな…。慰めに来てくれたんだろうに。サイオンは強くてもまだまだ子供だ…」
溜息をついてソルジャーは瞳を閉じられ、そのままお休みになったのでした。
マザー、補佐の肩書きを頂いていても、私は全くソルジャーのお役に立てないようです。フィシス様やリオさんの方がよほどソルジャー補佐に相応しいかと…。いっそ「そるじゃぁ・ぶるぅ」のようにサンタクロースにお願いすればいいのでしょうか?「ソルジャーのお役に立てるような能力を下さい」って。この際、神頼みも重要だという気がしてきました。ところで、マザー。サンタクロースは神様の中に含まれますか…?