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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

ソルジャー補佐  第6話

マザー、名ばかりのソルジャー補佐です。クリスマス・イブは残業でした。シャングリラ中がクリスマス気分で盛り上がっている夜に残業と聞けばツイてないように聞こえますけど、ソルジャーのお話を伺っていたのですから構いません。徹夜騒ぎより「ソルジャーとお話」を選びたがるミュウは多いんじゃないかと思います。

パーティーがお開きになり、子供たちもサンタの来訪を心待ちにしながら眠った頃。ソルジャーはベッドに横たわりながら一年前のクリスマス・イブのことを静かに語り始められました。
「…あの日もパーティーが開かれていた。ぼくは皆と話がしたくてパーティーに出たが、かなり疲れていたらしい。乾杯のシャンパンだけで酔いが回って倒れてしまい、ハーレイとリオに迷惑をかけた。…酔っていたせいだろうか。その夜、ぼくは考えてはならないことを…ソルジャーにあるまじきことを考えていた」
赤い瞳に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が届けてよこしたツリーの光が映っています。
「もしもソルジャーでなかったら。…何にも縛られることなく、自分のためだけにサイオンを使うことが出来たらと…そう思った。そうすれば何処へでも行ける気がした。…遠い地球へも。できるはずもないことだったのに、その時、ぼくは願ったんだ。クリスマスに贈り物が貰えるのなら、一年でいい…心のままに生きてみたい、と」
小さな吐息が青の間に溶けてゆきました。
「そんな考えに囚われたまま、ぼくの意識は沈んでいった。…そしてクリスマスの朝、目を覚ましたら…ぶるぅがベッドのそばで丸くなって眠っていたんだ。ぼくにそっくりな格好をしてね」
え?…ではクリスマス生まれだという「そるじゃぁ・ぶるぅ」は…。
「多分、ぼくの願いが生み出したもの。自由に、好きに生きてみたいと…そんな思いから生まれたものだ。ぶるぅの姿がぼくに似ているのも、強いサイオンも、勝手気ままな性格も…そう考えれば納得がいく」
だから、とソルジャーはおっしゃいました。
「ぼくは「一年でいい」と願った。…もしかしたら、ぶるぅは一年だけの存在なのかも…」

一年。私の背筋に冷たいものが走りました。ソルジャーがおっしゃるように「そるじゃぁ・ぶるぅ」が一年限りの存在ならば、タイムリミットはいつなのでしょう?クリスマスの朝にいたというなら、その一年が終わるのは…。
「明日の朝、ぶるぅはいないかもしれない。今はまだ、部屋で眠っているけれど…」
そろそろキャプテンがサンタクロースの格好をしてプレゼントを届けに行かれる頃です。
「クリスマスに欲しがっていた新しい湯飲み。…ぶるぅがあれを貰って喜ぶ姿は見られないかもしれないな」
ソルジャーが湯飲みを買ってこられた時の記憶が蘇りました。「ぶるぅは貰ってくれるだろうか」とおっしゃったのは…それを受け取る「そるじゃぁ・ぶるぅ」がいないかもしれないとお思いになっておられたからで。
「ぶるぅはぼくの心を少しだけ感じることができた。ぼくにも、ぶるぅの考えていることや見ているものが手に取るように分かっていた。…ぼくの思いから生まれたものなら当然だろう?」
午前0時を回ったらしく、輝いていたツリーの明かりが深い青へと変わりました。
「もう一人の自分だと思っていた。そるじゃぁ・ぶるぅと呼んだのもぼくだ。ハーレイなんかは、ぶるぅに何かあったらぼくの身にも何か起こるのでは、と心配ばかりしていたな。…ぼくもぶるぅがいなくなったら…」
ソルジャーの瞳が悲しげに揺れて。
「…きっと…とても寂しくなる。明日の朝、ぶるぅの部屋を『視る』ことだけはしたくない」
湯飲みの包みを開けた瞬間の顔は見たいけれども、とソルジャーはおっしゃいました。でも、それを見ようとして「そるじゃぁ・ぶるぅ」がいなくなってしまったと気付くのはとても怖いから、と。

部屋に戻った私はなかなか寝付けませんでした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が何者なのかずっと気になっていましたが…ようやく謎が解けたと思ったら事態はとても深刻で。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が消えてしまったら、ソルジャーはどうなさるのでしょう。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がいなくなるかも、ということはキャプテンもご存じないようです。誕生日プレゼントの話をなさいましたし。…では、ソルジャーはずっとお一人で明日が来るのを恐れておいでに…?
「…いったいどうなっちゃうんだろう…」
「そるじゃぁ・ぶるぅ」に何度も噛まれた手をかざして呟いてみても、答えが出るはずもありません。こうしている間にも一年のタイムリミットが近づいているのか、それとも無事に1歳の誕生日の日の朝が来るのか…。ふと気が付くと朝でした。いつもよりかなり早いですけど、ソルジャーがお休みのようなら待っていればいいと言い訳をしつつ出勤です。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋を覗く勇気はありませんでした。青の間の入口に着くと…。
『もう起きている』
ソルジャーの思念が届きました。入ってゆくとソルジャーはベッドの上から青いツリーを見ておいでです。
「…ぶるぅはもう目を覚ましただろうか。去年の今頃はこの部屋でぐっすり眠っていたが…」
それは一年が経ったということ。私は答える言葉が出てこず、ソルジャーもそれ以上おっしゃらなくて。時間がやけにゆっくりと流れ、いっそ「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に行こうかと思い始めた時、エレベーターが動きました。
「…ぶるぅ?!」
ソルジャーがゆっくり身体を起こされるのと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の姿が現れたのは同時でした。

「ブルー!!」
小さな箱を抱えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が嬉しそうな顔で走ってきます。
「サンタがいっぱいプレゼントくれたよ!…ブルーが言ってたとおりだった!」
「…そうか…。よかったね、ぶるぅ」
ソルジャーは笑みを浮かべておられるだけでしたけれど、きっと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の何倍も…何十倍も嬉しく思っておいででしょう。いなくなってしまうのでは、とあんなに恐れていらしたのですから。
「欲しかったんだ、新しい湯飲み。…ここにはぼく専用の湯飲みが無いし」
そう言って「そるじゃぁ・ぶるぅ」はソルジャーがお買いになった湯飲みを小さな箱から取り出しました。どうやら青の間に置いておくための湯飲みが欲しかったみたいです。もしかして今まで以上に居座る気かも?…でもソルジャーのお部屋ですから、居座っていても住み着かれても、きっとお許しになるのでしょう。
「…ぶるぅ。今日は1歳の誕生日だね。誕生日おめでとう」
ソルジャーは消えてしまわなかった「もう一人の自分」に微笑みかけておっしゃいました。
「それから…メリー・クリスマス。誕生日のプレゼントには何がいいかな?」
「クリスマスケーキ!…そこのコタツの上がいっぱいになるほど大きなヤツ!!!」
元気と食い気たっぷりに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が叫びました。1歳になって更にパワーアップした…のでしょうか?シャングリラ中が悪戯に引っ掻き回され、カラオケが所かまわず響き渡って大変な騒ぎになりそうです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は初めてのクリスマスと誕生日を一度に迎えてご機嫌でした。
「ブルー、大人にはサンタが来ないって言ったよね。ぼく頑張る。いつかサンタの代わりに、ぼくが地球へ連れてってあげるから。…一緒に地球へ行こう、ブルー。でも今はまだ無理だから…メリー・クリスマス!」

マザー、能無しソルジャー補佐の今日の仕事はバースデーケーキの調達でした。コタツの上に辛うじて乗っかるサイズの『巨大クリスマスケーキ』。誕生日とクリスマスの区別がついていないような気がしますが、1歳では仕方ありません。前代未聞の巨大ケーキを作る羽目になった厨房の人に同情します。そして、あの巨大なクリスマスケーキを「そるじゃぁ・ぶるぅ」とソルジャーだけで食べ切れるのか、胃が痛くなるほど心配です、マザー…。




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