シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、操舵士補佐の職場は研修はおろかマニュアルすらも目にしないまま終了でした。一度だけシドさんの後ろで見学させて貰いましたが、面舵と取り舵の意味も分かっていなくて恥の上塗りをしただけです。ブラウ航海長から「キャプテンの胃痛を軽くする」という任務を頂かなければ「居候」で終わったことと思います。
「ぶるぅのマイブームがケーキになったらしいじゃないか」
キャプテンへの差し入れを終えて戻ると、ブラウ航海長がおっしゃいました。
「はい。今もケーキの箱を抱えて御機嫌で帰ってきましたけれど」
「で、ハーレイは?」
「「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋です。「一緒に食べよう」と強引に中へ引っ張り込まれて…」
「あはは、そりゃいい。ハーレイはどんな顔してた?」
「難しそうなお顔でしたが…会議の予定でもおありでしたか?」
キャプテンのお顔を思い返して、スケジュールを調べておけばよかったと思ったのですが。
「安心しな、ハーレイの予定は空いてるよ。難しそうな顔をしたのは…甘いものが死ぬほど嫌いだからさ」
「えぇっ!?じゃあ、お断りになればいいのに。…どう見てもチョコレートケーキの箱でしたよ」
「そこで断れないのがハーレイの甘いところだね。甘いものは嫌いなくせに甘いんだから」
ブラウ航海長、なんだかとっても楽しそうです。
「ところで、あんたケーキは好きなのかい?」
「はいっ!」
私は元気一杯、答えました。ケーキはもともと大好きですし、ホールで10個はいけるクチです。
「ホールで10個とは凄いもんだ。じゃあ今度ハーレイがぶるぅにケーキを勧められたら、平らげるのを手伝ってやっとくれ。ぶるぅの機嫌は悪くなるかもしれないけどね」
航海長のご命令を受けた私はキャプテンからの連絡が入り次第「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に行くことになりました。そして呼ばれた時、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はとっても不快そうでしたが…元・調理師見習いの腕を生かしてチーズケーキを綺麗に三等分すると機嫌はすぐに直ったようです。
「…切っても崩れないものだったんだ…」
すごく感心されたのですけど、今までのケーキは全部崩れたというのでしょうか?よほど不器用なんですね。一方、キャプテンはチーズケーキを仇のように睨んでいらっしゃいます。
「ぶるぅ…。やはり食べなくてはいけないか?」
「気に入らないというのかい、ハーレイ。ぼくがせっかく買ってきたのに」
「うっ…。ありがたく頂戴する…」
キャプテン、お手が震えています。それに卒倒されそうなお顔!…私は行動を起こしました。
「もらったーっ!!」
キャプテンの分のケーキにフォークを突き刺し、お皿をひったくるようにして自分の口へ。あ。これ、美味しい。「キャプテンを苦手なモノからお救いする」という任務も忘れる美味しさでした。ご馳走様です、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。もちろん自分の分のケーキもしっかりすっかり…。
「…これからは毎回、きみが一緒に来るのかい?」
空になったお皿を前に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が憮然とした顔で言いました。逆にキャプテンはとても嬉しそうです。
「はい、ブラウ航海長のご命令ですし!」
「つまらないな」
え。
「…ハーレイの困った顔が見られないんじゃつまらない。もうブルーの分しか買ってやらない!」
あ、やっぱりケーキも青の間に…って、「そるじゃぁ・ぶるぅ」…案の定、キャプテン苛めていたんですね。私たちは部屋から追い出され、『おでかけ』の札がかかりました。今度の行き先はきっと悪戯…。
マザー、「キャプテンの胃痛を軽くする」任務は無事こなせたと思います。チーズケーキは役得でした。それにしてもキャプテンに一切お土産を持ってこなかった「そるじゃぁ・ぶるぅ」が、マイブームがケーキになった途端に「一緒に食べよう」と無理強いするとは酷いです。キャプテンになついているのかと思ったのですが…。