シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、今日の任務は寒かったです。雪景色は心ときめきますが「過ぎたるは及ばざるが如し」でした。この季節、雪遊びしたい子供たちのために展望室に人工雪が降ります。デートスポットとしても人気だそうです。
「展望室で吹雪発生!…休憩中の男性4人が取り残された。救助班、至急、救助に向かえ!」
ブリッジの指示で出動すると、ドアを開けるなり凄い吹雪に見舞われました。防寒用の上着と手袋、ゴム長靴という装備は甘かったらしく、雪はたっぷり降り積もっていて背の高さを優に超えています。
「動揺するな、降雪装置が壊れただけだ!…早くしないと中のヤツらが凍死するぞ!」
リーダーの号令で突入したものの雪に足を取られ、視界は吹雪でホワイトアウト。人が取り残されているという臨時の東屋は全く見えませんでした。そんな中、ヘタクソながらも楽しそうな歌声が…。
「ゆ~きやこんこん、あ~られやこんこん♪」
「…くそっ、やっぱり「そるじゃぁ・ぶるぅ」か!」
リーダーがキッと声の方を睨んだ瞬間、救助班の心は団結しました。集めたサイオンの一撃をぶつけ、手ごたえありと思う間もなく…ドカン!飛んできた巨大な雪玉の下敷きに。必死の思いで這い出した時は雪は止んでいて、展望室の奥の一角に人の姿が見えました。取り残された4人でしたが、なんだかミノムシみたいです。
「遅くなってすまん!…助けに来たぞ!」
リーダーの声で振り返った4人は絵本で読んだ『日本昔話』の登場人物そのものでした。頭上に菅笠、体に蓑。履いているのは「かんじき」でしょうか?しかも全身、雪まみれです。
「おお、手伝ってくれるのか!!…あと一息で完成なんだ」
は?…救助を待っていた筈の4人は寒そうでもなく、その上、妙に嬉しそうです。寒さで真っ赤な手に子供用のスコップを握り、せっせと「かまくら」を製作中。猛吹雪の中、ずっと作業をしてたのでしょうか。
「…これが出来たら雪だるま10個」
そう語る熱い口調と瞳は明らかに…どこかへトリップしていました。化かされたに違いありません。日本昔話の狸ではなく、悪戯好きの「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。かんじきと蓑笠姿も犯人の趣味と思われます。
「かまくら作って、雪だるま10個。全部できたら甘酒飲んで、かまくらの中で餅を焼くんだ~!!!」
子供のようにはしゃぐ4人は正気に戻らず、リーダーの「ノルマを果たせばきっと暗示が解けるだろう」との言葉を励みに救助班一同、かまくら作りをいたしました。それと雪だるま10個です。
寒い寒い、と震えながらも「かまくら」と雪だるま10個が完成した時、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が現れました。両手で大きな餅網を抱え、サイオンで宙に浮かせた火鉢と大量の餅、湯気が立っている甘酒の鍋を伴って。凍えかけていた私たちには地獄で仏の姿でしたが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はプイッと横を向いたのです。
「…呼んでない」
え。
「…かまくらには4人しか呼んでない。その他のヤツは中に入るな~っ!!!」
バシッ!…凄まじいサイオンに救助班は吹き飛ばされて、廊下に叩き出されました。展望室に戻ろうとしてもシールドが張られ、中に入ることはできません。「かみお~ん♪」の歌声と拍手の音が聞こえます。甘酒と餅で盛り上がっている4人の救出は断念せざるを得ませんでした。…助けても感謝されないでしょうし。ブリッジの判断も同じでした。
マザー、今日の救助作戦は失敗です。展望室から出てきた4人は化かされた記憶を失くしていた上、「ソルジャー・ブルーと酒盛りをする夢を見た」とあちこちで語りまくっていました。雪の上に捨てられていた「かんじき」と蓑笠は何処から来たのか分からないままヒルマン教授が「古民具のコレクションに」と引き取っていかれ、私たち救助班一同は…甘酒と餅の接待の代わりにどうやら風邪を貰ったようです。マスク姿ですみません、マザー…。