シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、教育者補佐の最後の仕事も「そるじゃぁ・ぶるぅ」の教育でした。「悪戯したら罰を下す」が長老会の決定でしたが、悪戯は「ウガイ手洗い」や「噛む」と違って明確なカウントが難しいので「仏の顔も3度まで」の例外ということになりました。悪戯を全くしない日もありますし(そんな日は外でグルメ三昧)。
「いいかね、悪戯は警告しても逆効果だ。一回で思い知らせる必要がある。一度かぎりの真剣勝負だ」
「分かりました。じゃあ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」を追跡する必要がありますね」
「そうなるな。…もちろん船の外までは追わなくていいが」
ヒルマン教授に3枚目のお札を貰って「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に直行。ちょうど『おでかけ』の札をドアに下げようとしているところでした。いい悪戯を思いついたらしく、楽しそうにスキップしていきます。廊下を右へ曲がって…あれ?今、ここにいたはずなのに…?と、思う間もなく何かに足が引っかかり…ドスン!思い切り転んでしまいました。
「いたたたた…」
うめきながら起き上がると「そるじゃぁ・ぶるぅ」がケタケタ笑っています。私は廊下に張られた紐に引っかかってしまったのでした。なんという不覚。しかし…しかし、これは大チャンスですよ!?自分でも信じれない速さで飛び起き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」めがけて突進。そしてタックル!
「今日は悪戯注意の日!」
床に転がった「そるじゃぁ・ぶるぅ」の背中に『南無阿弥陀仏』のお札をビシっと貼り付けました。
「けじめ、つけさせていただきます。…月にかわっておしおきよ!!!」
決まった!…「そるじゃぁ・ぶるぅ」はアラベスクのポーズで廊下の彫像と化しました。脳内にはソルジャー・ブルー様のお説教の思念がダイレクトに送られているのでしょう。そこへ…。
「あっ、キャプテン!?」
『おでかけ』の札の前においでとばかり思っていたキャプテンがこっちへ走ってらっしゃいました。
「物音がしたので来てみたのだが…なんだ、これは?」
ポーズを決めたまま動かない「そるじゃぁ・ぶるぅ」をまじまじと見つめ、更にチョンチョンと突っついてみて。
「あの札を使ったらこうなるとは…。なんとも間抜けな姿だな」
「15分間、このままです。…お札は最後の1枚ですし、この格好も見納めですが」
「面白いものを見てしまった。今はソルジャーのお説教中か…。ぶるぅが懲りるのも無理はない」
「キャプテン、このポーズには何かの意味があるんでしょうか?…これってバレエのアラベスクですよね。もしかして、ソルジャーはバレエがお好きですか?」
ソルジャー・ブルー様、と人前では言えませんから、今回はソルジャーとお呼びしてみました。えへ。
「いや、そんな話は聞かないが…。もちろん知識はご存知の筈だし、ぶるぅはいつも丸まってばかりいるから、この機会に少しでも姿勢よく…というお気持ちではないだろうか」
「なるほど、姿勢よく…ですか。バレエ・エクササイズみたいなものなのかも」
キャプテンとお話している間に15分はアッという間に経ちました。そして硬直とお説教から解放された「そるじゃぁ・ぶるぅ」はヘタヘタと床に座りこみましたが…。
「…見たな、ハーレイ…」
恨みがましい声がしました。
「…面白い、と思っていただろう。…ぼくが酷い目に遭っていたのに…」
お説教を食らったはずの「そるじゃぁ・ぶるぅ」は全然懲りていませんでした。っていうか、これは個人的報復で悪戯じゃないのかもしれませんけど、キャプテンを睨んでこう言ったのです。
「身体中が痛くてとても立てない。ハーレイ、ぼくを部屋へ運んでくれたまえ」
その後のキャプテンは災難でした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は痛い、痛いと大騒ぎ。挙句の果てに「自分でお風呂に入れないから入れてくれ」とまで増長しました。そういえば「キャプテンと一緒にお風呂に入りたい」あまり「痒い」を連発しているヤツです。キャプテン、そんなの放っておけば…。
「仕方ないな」
え。
「当分の間、悪戯しないと約束するなら入れてやる」
えぇぇ、キャプテン、それじゃお札を使った意味が無いんですけど~!!でもキャプテンは結局「そるじゃぁ・ぶるぅ」に甘いんです。一緒にお風呂に入るから、とおっしゃるキャプテンを残して私はヒルマン教授に御報告に…行くわけがありません。そっと引き返し、バスルームの扉の方へそろそろと…。だって気になるじゃありませんか!お風呂。
「…もっと…」
シャワーの音に混じって「そるじゃぁ・ぶるぅ」の声が微かに聞こえてきました。
「…もっと…。もっと下だ、ハーレイ…」
あ。このシチュエーションは、もしかしなくても禁断の女性向一直線!戻ってきた甲斐がありました。…どおりで「一緒にお風呂」にこだわる筈です、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。中が覗けるといいんだけども、と探索しようとした時です。
「いい加減にしないか、ぶるぅ!…もうマッサージは十分だろう。あとは自分で揉んでおけ!!」
「お~ん…」
「嫌なら好きなだけ茹だっていろ。私はブリッジに戻るからな!」
ひゃあ!キャプテンが来る前に逃げなければ~!!私は大慌てで部屋を飛び出しました。
マザー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」教育プロジェクト第三弾は効果のほどが疑問です。悪戯はダメだと叱られた直後にキャプテンに甘え…いえ、迷惑をかけていたことから推測するに、「悪戯をする」というのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の本能というか天性というか…。とにかく「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「迷惑行為」は切り離せない関係にあると思われます。ソルジャー・ブルー様のお説教も私の努力も、今回ばかりは無駄だった…ような…?