シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、出向中の整備士補佐です。今日はキャプテンに「書類の整理を手伝ってくれ」と言われました。まともな仕事は久しぶりとあって、喜んでついて行ったのですが…あれ?この先にあるのはおなじみの…。
「入るぞ、ぶるぅ」
目的地は例の部屋でした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が窓の外を眺めて奇妙なことを呟いています。
「…スキーって美味しいのかな?」
「それは食べられないと思うが」
キャプテンは部屋をひととおり眺め回して、私に「入れ」とおっしゃいました。もしかしてここで書類整理を?…噛まれることはないのでしょうか。救急箱は持っていません。
「ぶるぅを熊手で掻こうとしてから今日で2日目。そうだったな?」
「あ、はい。…嫌われていると思うんですけど」
そう言っていると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が振り向いて私を見つめ、プイと横を向いて部屋の奥にある土鍋にもぐりこみました。ごそごそごそ、と身体を丸めてどうやら眠るつもりのようです。土鍋の下には保温用らしきホットカーペットが敷かれてますから、きっと適温なのでしょう。
「嫌うというより警戒している。子供だからすぐに忘れるだろうが、覚えている間にと思ってな。…今ならぶるぅは君が部屋の中で何をしようと手出しはしない。さあ、急いで仕事を済ませよう」
書類整理とは、なんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が書き散らかしたメモ帳の発掘作業でした。およそ「お片付け」とは無縁に見える棚のあちこちに色も形もサイズもバラバラのメモ帳が突っ込まれているのです。『王家の紋章』のコミック全巻も乱雑に突っ込まれていましたが。
「キャプテン、これって日記じゃないんですか?…そんなものを勝手に引っ張り出しては…」
「ぶるぅの依頼だ、心配ない。食べ歩き日記をつけるのはいいが、自分でまとめられないのだ。だからメモ帳がたまってくると「まとめてくれ」と泣きついてくる。今度まとめたら4冊目だな」
「…ショップ調査の成果をまとめるんですか?ミシュランみたいなものでしょうか」
「手っ取り早く言えばそうなる」
メモ帳を発掘し終えたキャプテンは「中を調べて日付の順に並べるように」とおっしゃいました。欠けているものは無いようです。眠っている「そるじゃぁ・ぶるぅ」を起こさないよう、私たちはそっと部屋を出ました。
「助手がいてくれて助かった。いつもは私一人だからな、ぶるぅも邪魔をしてくるし…」
なかなか仕事がはかどらないのだ、とキャプテンは溜息をつかれました。もしかして私、「そるじゃぁ・ぶるぅ除け」の蚊取り線香扱いでした?いえ、お役に立てたならいいんですけど。手帳のまとめ作業も手伝うものだと思っていたら、お部屋に運んだ所で任務終了。まとめ作業はキャプテンがお一人でなさるそうです、しかも手書きで。
「文字を書いていると落ち着くのだ。日誌も手書きだからだろうか、ブラウには古いと笑われている」
いえいえ、とってもいいご趣味です。机の上にはなんと羽ペン。…しかし「そるじゃぁ・ぶるぅ」の食べ歩き日記をまとめて何にするんでしょう?シャングリラ内で出版しても「外の世界に行けない」ミュウには無意味です。
「まとめは手書きで1冊限り。そして目的は献本だ」
「献本?」
「ソルジャーの所にお届けする。それがぶるぅの頼みでもあるし、ソルジャーも楽しみにしておられるようだ」
えぇぇぇ!?…ぶるぅの食べ歩き三昧日記をソルジャー・ブルー様が…?発掘作業中に見た限りでは、かなり幼稚な日記でしたが。たとえば、こんな感じ。
『行列のできるラーメン屋。店主はハゲでゼルにそっくり。ニンニク多めの豚骨がうまい』
マザー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の食べ歩き日記、ソルジャー・ブルー様が何を思ってお読みになるのか分かりません。それを届けたがる「そるじゃぁ・ぶるぅ」の心理も謎です。青の間への『贈り物』の件もありますし、まさか「人類側の食べ物をこっそり味わう」仲間同士じゃない…ですよね…?