シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、出向になった能無し機関士補佐の最後の仕事は当然「そるじゃぁ・ぶるぅ番」でした。扉に『おでかけ』の札を下げていそいそ出かける「そるじゃぁ・ぶるぅ」を見送るのも待つのも慣れましたが…「外に出かけることもある」と聞かされてからは好奇心でドキドキワクワク。悪戯なのかショップ調査か、あれこれ想像しているだけで時間はすぐに経ちました。でもキャプテンだと心配でそうはいかないのでしょうね。
「お聞きしたいことがあるのですが」
ある日、スーパーの袋を提げて戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」を出迎えた後、私はキャプテンに尋ねました。
「今日は唐揚げを持って帰りましたけど、レジは通ってきたんでしょうか」
「レジ?」
「はい。ちゃんとお金を払っているのか、前から気になっていたんです」
「万引きではないか、と言いたいのだな。…気になるのは分かるが、答えられない」
キャプテンは真面目な顔でおっしゃいました。
「ぶるぅはスーパーの袋を持っていたのだろう?袋はレジでくれるものだと思えばいい」
残念。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお金を持っているかどうかは教えて貰えませんでした。考えてみればシャングリラで通貨は必要ないので私も無一文で暮らしています。ここで「お金」を持っているのは覚醒したミュウの救出などで潜入する部隊くらいでしょうか。もし個人的に「お金」を持っている人がいるなら、それは特別な人ということに…。
「キャプテン。…キャプテンはお金を持ってらっしゃるのですか」
「質問を変えたか。…長老は皆、所持しているが」
あ、やっぱり。
「ぶるぅに小遣いを与えていると思っているな」
キャプテンは先回りをしておっしゃいました。
「我々の所持金は万一の時のための備蓄だ。ぶるぅの買い食いに出費などできん」
キャプテンの言葉が本当かどうか分からないまま、日は過ぎて…「そるじゃぁ・ぶるぅ」のマイブームは蕎麦から中華饅頭に移ったようです。もしかすると今は中華饅頭が青の間に送られているのかもしれません。さて、機関士補佐も今日で最後。『おでかけ』の札の前に座るのも最後ですね。キャプテンがまた胃を悪くなさらなければいいけれど…と思っていると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が袋を提げて帰ってきました。それは小籠包が美味しい店ので…。
「なぜ分かった」
え。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がジト目で私を睨んでいました。
「小籠包となぜ分かった?」
「え、え、…ちが…。そこは小籠包が美味しかったな、って思っただけで!」
「それならいい」
プイッ、と顔をそむけて「そるじゃぁ・ぶるぅ」は部屋に入っていきました。噛まれるかと思うほどのジト目でしたが、あれ?あそこのお店に小籠包のテイクアウトは無かった筈です。冷めると美味しくなくなりますし、持ち帰りは中華饅頭のみ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は小籠包を食べてきたのでしょう。でもジト目で見るほどのことですか?
「…そういうわけで怖かったです」
出向終了の挨拶をしにキャプテンのお部屋に伺った私は小籠包の件を報告しました。ゼル機関長には先に挨拶を済ませてあります。役立たずがいなくなってせいせいする、と言われましたが。
「心を読まれたと思ったのだろう。…ぶるぅの心が読めるのはソルジャーだけだと言われている。それを君に読まれたとなれば、ぶるぅにとっては大問題だ」
「でも、いつも色々考えてますよ?このカップアイスは何味だとか、ここの中華饅頭は特大だとか」
「テイクアウト不可の小籠包だと言ったな。今日、青の間にそれが出現した」
「えっ」
「蒸したての小籠包が井籠ごと届いたとソルジャーが苦笑しておられた。井籠は返しておかれたそうだが」
「そ、それじゃ「そるじゃぁ・ぶるぅ」は…」
「ソルジャーに小籠包を送ったことを知られたのかと焦ったのだな。内緒の贈り物のつもりのようだし」
マザー、最後に怖い思いをしましたが機関士補佐は無事終わりました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお金を払うのか払わないのか、分からなかったのが残念です。もし払わずにいるんだとしたら…青の間への贈り物も人類からの強奪品?あ、でも。ソルジャー・ブルー様が器をお店に返却する時、中に代金を入れておられたりして…。ミュウの船に出前をしたとは、お店も夢にも思わないでしょうね。