シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、青の間警備員は静かで平和な職場です。青の間にお住まいなのはミュウの尊敬を一身に集めるソルジャー・ブルー様お一人ですし、人も滅多に出入りしません。リオさんが側近らしいということが分かって、ちょっとビックリしています。今日もリオさんが台車を押してやって来ました。普段はお食事のワゴンですけど、たまには台車も要るのでしょう。乗っかっているのは大きな土鍋。えっ、土鍋?台車に土鍋の取り合わせって…!?
『こんにちは』
リオさんが挨拶してくれましたが、私の視線は台車の上に釘付けでした。見慣れた土鍋に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が入っています。なんで「そるじゃぁ・ぶるぅ」が『ぶるぅ鍋』状態でこんな所に?
『ソルジャーの所へ行くんです。本当は起きてるんですけれど、どうも歩くのが面倒らしくて』
思念が聞こえたらしく「そるじゃぁ・ぶるぅ」は薄目を開けてリオさん、私、先輩の順に眺めると、また丸くなってしまいました。歩くのが面倒で寝床代わりの土鍋ごと移動…って、ちょっと見ない間に更に図太くなったようです。
「ソルジャーが『ぶるぅ鍋』を御覧になりたいってわけではないんですね?」
『いえ、この姿には興味をお持ちでしたし、お喜びになると思います』
やった!ソルジャー・ブルー様が『ぶるぅ鍋』に興味を示して下さるなんて。思いついたのは私ですから、「発案者は私だとなにとぞ宜しく!」と選挙のように連呼したくなってしまいます。つい思念も漏れる勢いで…。
『分かりました、ソルジャーにお伝えしておきます。考えた方は青の間の警備をしています、と』
「えっ、いいんですか!?」
『ええ。ソルジャーがどうなさるかは分かりませんけど』
それはそうでしょうね。贈り物すらお受けにならないソルジャー・ブルー様に『ぶるぅ鍋』ごときでアピールしたって、お礼のメッセージカードはおろか、お姿を拝見することもできないでしょうし。それにしても『ぶるぅ鍋』が目的でないなら、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は何をするために青の間へ…?
そこへキャプテンが早足で歩いてこられました。抱えてらっしゃるのは土鍋の蓋ではなくて卓上コンロ。
「遅くなってすまない。なかなか見つからなかったのだ」
『普段、使うことがないですからね』
すみません、話が全く見えないんですが…。その時、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が目を開けました。
「遅い、ハーレイ。…お昼に間に合わせようと急いだのに」
「すまん。ソルジャーをお待たせしただろうか」
「…ブルーは気にしてないと思うけどね…」
ごそごそ、と丸まりながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」は不機嫌そうです。
「ぼくは気にする。材料と鍋だけ並べたてたって、コンロが無いと『ちゃんこ鍋』が始められない」
えっ。青の間に『ちゃんこ鍋』を一式、送ったんですか!!
「行こう、ハーレイ。ブルーが待ってる」
土鍋に入ったまま「そるじゃぁ・ぶるぅ」は青の間に消えていきました。あの偉そうな態度からして、鍋奉行に違いありません。何人前の材料を送ったのか知りませんけど、今日の青の間は賑やかそうです。
マザー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が用意した『ちゃんこ鍋』がどんなものだったかは結局分かりませんでした。ただ、しばらく後にフィシス様が「ソルジャーに呼ばれた」とおいでになった時、美味しそうな匂いがしたのは確かです。あれは味噌味じゃないかと思うのですが…。ああ、青の間で『ちゃんこ鍋』。…『ぶるぅ鍋』の発案者として宴に加えて欲しかった…というのは過ぎた望みというものですね。匂いだけでも、ごっつぁんです。