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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

青の間警備員  第3話

マザー、青の間警備員の最後の仕事は「警備員」らしい任務になりました。いえ、人類側の攻撃がきたとか、そんなわけではないのですけど…。おまけに任務失敗といえば失敗ですけど、いいんです。

「おい、なんだか変な音がしないか?」
先輩と私が昼食を終え、リオさんがソルジャー・ブルー様の昼食のワゴンを厨房へ下げて行かれた後のことです。名ばかりの警備をしている先輩が声をひそめて言いました。
「ほら、あっちの…廊下の奥からジャブジャブっていうおかしな音が」
「え?」
先輩が指差した先の廊下は緩やかにカーブしています。廊下自体が薄暗いですし、カーブの向こうは見えません。でも耳を澄ましてみると確かに妙な音がするようでした。
「本当ですね。…水音みたいに聞こえますけど、あっちには誰かいましたっけ」
「いや、この時間帯は俺たちだけだ。第一、廊下に水なんか…。もしかして配管でも壊れたか?」
先輩はすぐに駆け出しました。配管は警備員の管轄じゃないですけれど、破損箇所があるなら通報です。私も急いで先輩を追い、ほとんど同時にカーブを曲がった途端、視界に入ってきたものは…。

「「そるじゃぁ・ぶるぅ!?」」
先輩の声と私の声が廊下に派手に木霊しました。そこではホースを持った「そるじゃぁ・ぶるぅ」がジャブジャブと水撒きをしていたのです。おまけになんだか凄く寒いような?
「邪魔をしないでくれたまえ」
水は撒かれた端から氷に変わり、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が来た方向は固く凍って光を反射しています。サイオンで床の温度を極端に下げ、その上へ水を撒いているようですが…ホースの端は配管やタンクには繋がれておらず、ふわふわ宙に浮かんでいました。そして何も無い空間から湧き出した水が廊下一面にジャブジャブと…。
「こんな所で何をしている!?」
先輩が怒鳴ると「そるじゃぁ・ぶるぅ」は平然とした顔で答えました。
「邪魔するな、と言ったけど?…そんな所にいると凍るよ」
ジャブジャブジャブ…。うわっ、本当に足が凍りそうです。先輩と私は慌てて後ろに飛び退きました。
「カーブの辺りまで下がりたまえ。凍らせたいのはそこまでだから」
「ちょっと待て!…この大量の水はいったい何処から」
先輩、さすが警備員です。退避しながらも詰問してます。
「青の間から分けて貰ってる。ブルーを起こしたらかわいそうだし、勝手にホースを繋いでるけど」
「こらぁ!!ソルジャーに断りもなく何をやってる!!!」
「スケートリンク」
悪びれもせずに「そるじゃぁ・ぶるぅ」は言いました。
「スケートしてみたい、って前にブルーにちゃんと言った。ブルーはダメとは言わなかったよ」

間もなくジャブジャブという水音は止まり、ホースも宙に消えました。見事に凍ってしまった廊下で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が楽しそうにスイスイ滑っています。いつの間にスケート靴を履いたんでしょうね?…って、それはともかく。
「どうしましょう、先輩…。ソルジャーの許可は出てると思っていいんでしょうか?」
「うーん…。駄目とおっしゃらなかったとはいえ、廊下をスケートリンクにするというのは…。しかもソルジャーは眠っておいでになるらしい。放っておくのがいいんだろうか?いや、しかし…」
この上は長老方のご指示を仰ぐしかない、と先輩が連絡しようとした時です。
『ぶるぅ!!!』
初めて聞く思念が凍りついた廊下に響きました。
『スケートリンクを作りたいなら展望室に行きたまえ。廊下の使用は許可できない』
「ソルジャー!」
先輩がサッと敬礼しています。これが…これがソルジャー・ブルー様の思念!勝手に想像していた以上に…素敵です、理想の王子様です。なのに思念はそこまでで途絶え、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の姿もありません。逃げてしまったのか、展望室に新しいスケートリンクを作りに行ったか…。多分、両方なんでしょうね。

マザー、凍った廊下の後始末をしたのは結局、私たちでした。警備不行き届きで始末書まで書かされ、散々です。でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」に向けられたものでもソルジャー・ブルー様の思念を聞けて感激でした。青の間警備員をやれてよかった、シャングリラに乗れてよかったと心の底から思います、マザー…。




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