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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

かるた大会・第3話

水中かるた大会の後、シャングリラ学園は『白鳥の湖』の話でもちきりでした。王子役のグレイブ先生とオデット姫の教頭先生、二人の踊りと息の合ったリフトは語り草です。グレイブ先生たちが本当にバレエの知識を脳髄に叩き込まれたことを知っているのは、先生方と私たちの仲間だけ。でも最近のグレイブ先生、実はちょっぴりノリが良かったり…。
「諸君、おはよう」
ガラリと扉を開けて入ってきた先生に今日も誰かが叫びます。
「いよっ、ジークフリート王子!」
グレイブ先生はタンッ!とその場でポーズを決めて、ニヤリと唇の端を上げました。
「おはよう。…今日も私は絶好調だが、諸君はどうかな?」
元気でーす!とみんなが答え、朝のホームルームの始まりですが…。
「来週、我が学園の入試がある。諸君も去年は受験生だった。下見に来ている者をチラホラ見かける時期だが、学園の品位を落とさないよう、言動に注意してくれたまえ。入試期間は休校になり、部活も休みだ。不要不急の登校は控え、家や寮で勉学に勤しむように」
そっか、受験シーズンなんですね。去年は色々ありましたっけ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に迷い込んで特待生と勘違いしたり、入試に落ちて会長さんに『パンドラの箱』を売ってもらったり…。感慨に耽っている間にグレイブ先生は姿を消して、入れ替わりに会長さんがやって来ました。アルトちゃんとrちゃんに声をかけ、小さな包みをを渡しています。
「はい、これ。…1年前のぼくからプレゼント」
「「1年前?」」
アルトちゃんたちは怪訝な顔。会長さんはクスッと笑って「開けてみて」と言いました。包みの中から出てきたものはパワーストーンのストラップのように見えますが…。
「シャングリラ学園の受験シーズン名物、試験に落ちない風水お守り。本当に効果があるんだよ。分かりやすいように風水って言ってるけれど、ぶるぅの力が入ってるんだ。だからね、これを持っていればどんな試験も大丈夫」
ん?試験って…会長さんのサイオンで1年A組はいつでも無敵。そんなもの必要ないのでは?アルトちゃんたちもそう言っています。
「うん、そうだね…今は必要ないね。でも来年はクラスがどうなるか分からないし、クラスが違えば助けてあげられないだろう?もちろん同じクラスなら嬉しいけれど。だから来年のために持ってきたんだ。このお守りは受験シーズンしか売らないしね」
「売り物なんですか?」
rちゃんが尋ねました。そういえば受験に来た時、売りに来ていた覚えがあります。今から思えば売り子はフィシスさんでした。
「生徒会の資金稼ぎにしてる。売値は…」
会長さんが囁いた値段にアルトちゃんたちはビックリ仰天。一ヶ月分の授業料です。
「そ、そんな高いもの、いただけません!…だって…だって…」
「いいんだ、原価は大したものじゃないんだよ。…それよりも去年、君たちに売りつけずに済んだことが嬉しくて。受験生向けに売り出す分は入学試験にしか効かないんだ。そういう仕様になっている。そんな期間限定モノを凄い値段で売りつけていたら、ぼくは自分が許せなかったと思うんだよね。…大切な人には本物をあげたいじゃないか」
そう言って会長さんはアルトちゃんたちの手にストラップをしっかり握らせました。
「もしも1年前に戻れるんなら、君たちに本物のお守りをプレゼントしたいんだ。だから、今ここにいるのは1年前のぼくだと思って、このお守りを受け取って?…これから先の試験もずっと君たちを守ってあげられるように」
「…いいんですか…?」
「うん。このストラップは、ぶるぅの力。…クリスマスにあげた指輪は何の力もないけれど…君たちを守ってあげたいというぼくの気持ちが詰まってるんだ。あの指輪をいつも嵌めていてくれて嬉しいよ」
ひゃああ!学校ではアクセサリーは禁止です。会長さんがアルトちゃんたちの指輪をいつも見ているということは…今も変わらず寮のお部屋に通っているに違いありません。そして今度はストラップ。「1年前のぼくから」だなんて気障なセリフはシャングリラ・ジゴロ・ブルーならではです。アルトちゃんたちは感激しながらストラップを握り締め、何度もお礼を言っていました。

その日の放課後、いつものように「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと、テーブルの上に天然石の丸いビーズが入った小さなお皿が。お部屋の主の「そるじゃぁ・ぶるぅ」は小さな手で丸いビーズを持ってストラップ作りに励んでいました。
「かみお~ん♪今日のオヤツはスフレだよ。休憩がてら作っちゃおうっと」
作りかけのストラップを1つ仕上げて「そるじゃぁ・ぶるぅ」はスフレ作りを始めます。オーブンに入れて焼き上がりを待つ間に、壁を通り抜けて入ってきたのは会長さん。
「やあ、ぶるぅ。ストラップ作りはどんな具合?」
「ん~とね…。今日、持って帰って夜なべをしたら仕上がると思う。ブルーの方は?」
「クーラーボックスは注文してきた。今年は沢山売れるといいね。…後は試験問題だけど、どうしよう?みんなも連れて行くべきかな」
えっと。クーラーボックスというのは私が買った『パンドラの箱』のことですね。試験問題は…会長さんに「午後の試験問題を買わないか」と持ちかけられたアレでしょうか?受験シーズンは生徒会も色々大変みたい。スフレが焼きあがる頃、部活が終わったキース君たちがやって来ました。
「わーい、タイミングぴったりだぁ!スフレはしぼむと美味しくないし」
キースたちの部活の様子も見てたんだよ、と自慢しながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出来立てスフレを運んできます。熱々のをスプーンで食べながら、去年の受験の話になって…。
「私、この部屋に迷い込んじゃった。ぶるぅがアイスを食べてたっけ」
「うん。ぼく、みゆが来てたの知ってるよ。遊んでくれるかと思ったけれど、帰っちゃったね」
「だって…。すごく立派なお部屋だったし、特待生かお金持ちの子の専用室だと思っちゃって…叱られそうで」
あはは、と皆が笑いました。今じゃすっかり溜まり場と化してるお部屋ですけど、最初は謎の部屋だったんです。
「そういえば俺も来たんだっけ。…迷い込んだんじゃなくて探し回ったけど」
サム君がそう言ってから慌てて口を塞ぎました。
「ん?どうしたんだい、変な顔して」
会長さんが覗き込みますが、サム君は首を左右に振るばかり。何事なのかと思っていたら、ジョミー君が両手をポンと打ち合わせて。
「思い出した!…サムったら、ぶるぅを見つけて殴ったんだよ」
「「「えぇっ!?」」」
柔道部三人組が叫びました。サム君が「そるじゃぁ・ぶるぅ」を殴った話は、合格発表の日に耳に挟んだような微かな記憶が…。
「すまん!…俺、あの時は試験のことで頭が一杯だったんだ!」
一度も謝っていなかったっけ、とサム君が土下座しています。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコと笑い、「気にしてないよ」と答えました。柔道部三人組はまるで話が分かっていません。サム君は頭を掻き掻き、事情を説明し始めました。
「あのさ…。入試の前に噂を聞いたんだ。不思議な力を持つマスコットがいて、そいつに試験前に頭を噛んでもらうと、追試にも赤点にもならない…って。だから必死に探したよ。やっとの思いで探し当てたら、こいつだろ?噛み付くどころか、お茶とお菓子を出してきたんだ。それじゃ噛み付いてもらえないじゃないか。困ってしまって、つい、思い切り…」
殴ったのだ、と白状しながらサム君はまた土下座です。
「それで噛み付いてもらえたのか?」
キース君が尋ね、サム君は。
「おう、バッチリ!…おかげで一発合格だった」
今年のヤツらも噛んでもらえばいいのにな、と言ったサム君は「そるじゃぁ・ぶるぅ」にアドバイス。
「俺みたいなヤツ、今年も来るかもしれないぜ。お茶なんか出していないでガブリといけよ」
「えっ、お客様に噛み付くの?…そんなことしたって意味無いよ。サムの時はビックリしたから噛んじゃったけど」
「お前が頭をガブリとやったら試験に落ちなくなるんだろ。みんな藁にも縋りたいんだ」
サム君が力説した時、会長さんが吹き出しました。
「その噂、全面的に間違ってるよ。ぶるぅが噛んでも何も起こりはしないんだ。噂の元はこの学校の生徒じゃなかったのかもしれないね。試験に効くのはぶるぅの手形なんだから」
「えっ!?」
ポカンと口を開けるサム君。会長さんはクックッと笑い続けています。
「ぶるぅの赤い手形を押して貰えば0点のテストも満点だけど、それ以外の試験に役立つ力は…このストラップだけなんだ。ただの天然石のビーズに見えるだろ?でも、ビーズにはぶるぅが手形を押している。これを持って試験に臨めば、答案用紙に赤い手形の力が移って満点扱いになる仕掛けなのさ」
作りたての天然石のストラップ。この石の中に赤い手形の不思議パワーが…。
「そんなわけだから、ぶるぅの力で合格できるのはストラップを買った受験生だけ。手形はぶるぅの右手から出る。噛み付いたって手形の力は発動しないよ。…つまり頭を噛まれたサムは噛まれ損だね」
「それじゃ、俺って自力で合格?」
「そういうこと。もっと自信を持ちたまえ」
会長さんはストラップを手に取って軽く揺らします。
「このストラップは期間限定、期限付き。ぶるぅの手形を答案用紙の枚数と面接の分しか押してないんだ。それ以後の試験はフォローできない。…やろうと思えば卒業までに行われるテスト全ての回数分の手形を押すことが可能だけどね」
あ。今朝、アルトちゃんとrちゃんが貰っていたのはそのバージョン!まさに特別製だったんです。会長さんはアルトちゃんとrちゃんのために特製ストラップを作ったのか、と思うと二人が羨ましいような…。『パンドラの箱』を買わされた私とは大違いです。会長さんは私の視線に気付いて微笑みました。
「そうそう、ぶるぅの力で合格する方法はもう1つだけあるんだよ。みゆが持っているパンドラの箱。…ぶるぅとの文通用になってるけれど、元々は補欠合格用のアイテムなんだ。この箱の中にぶるぅが入れる注文メモを全てこなした人の書類に、ぶるぅが手形を押しに行く。すると補欠で合格できる」
「そうだったんだ…」
やっと仕組みが分かりました。書類に手形を押してもらう為に、注文をこなす必要があったんです。そりゃあ…たったの二千円という破格の値段で手形の力を手に入れるなら、それを押す「そるじゃぁ・ぶるぅ」に気に入られるしかありませんよね。最後は男湯にまで行きましたっけ。
「みゆ、頑張ってくれたよね♪」
ニコニコ顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。今年も沢山のパンドラの箱に注文メモを入れるのでしょう。

そんな調子でワイワイ騒いで盛り上がっていると、会長さんが時計を眺めて立ち上がりました。
「そろそろいいかな。試験問題を手に入れに行くから、みんなも一緒についておいで。ぶるぅ、シールドを」
えっ、シールド?…私たち、極秘でお供するんですか?
「ぼく一人しか行けないんだ。…試験問題を貰うんだよ?他人がいたら絶対に渡してくれないだろう。でも、せっかくだからギャラリーが欲しい」
「「「ギャラリー!?」」」
この単語が出るとロクなことにはなりません。でも拒否権は無いようで…気付けば私たちはシールドの中。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に連れられ、向かった先はやはり本館でした。教頭室の扉を会長さんがノックもせずに開けて素早く滑り込みます。私たちも大急ぎ。
「やあ、ハーレイ。とっても稽古熱心だね」
「ブルー!?」
教頭先生は窓枠に手をかけて片足を上げているところでした。これってバレエのバーレッスンでは?
「ブルー、入る前にはノックしてくれ」
慌てた様子で足を下ろした教頭先生。
「いいじゃないか。…バレエの練習してただなんて、面白いもの見ちゃったな」
「誰のせいだと思ってるんだ。白鳥の湖を踊らされてから、身体がどうも落ち着かん。仕事で長時間座っていると、無性にこれがやりたくなって…」
「バレエは身体にいいらしいよ。ストレッチ代わりになりそうだね、それ。…ぼくがプレゼントしたレオタードとかバレエシューズは使ってくれてる?」
「あんなものが着られるか!」
「…そう。残念」
会長さんはクスッと笑って教頭先生のそばに近づきました。
「実はバレエはどうでもいいんだ。ぼくが来たのは大事なこと。…入試の試験問題を貰いたくって」
「……今年もか?」
「うん。いつものようにお礼はするよ。ハーレイが嫌でなかったら」
「……………」
試験問題の横流し。そんな大それたことを頼もうという会長さんは凄いですけど、どうやら恒例行事のようです。教頭先生は複雑な顔をしていましたが、しばらくして「分かった」と短く答えました。
「ありがとう、ハーレイ。お礼はもちろん先払いだよね?…一緒に来て」
会長さんは教頭先生の腕に自分の腕を絡ませ、仮眠室へと入って行きます。そして自分から大きなベッドに上り、真ん中あたりにストンと座ると、教頭先生を手招きしました。
「ほら、早く。…年に1回だけなんだから」
げっ。仮眠室のベッドの上で、年に1回だけ…何をすると?っていうか、2歳児…もとい自称1歳児をシールド要員で連れてきておいて、この展開は何事ですか!?ジョミー君たちもパニック寸前。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は何も分からない子供ですから、平然としていますけど。
「…ハーレイ。お礼が要らないんなら、問題はタダでもらっていくよ?」
会長さんに急き立てられて、教頭先生は頬を染めてベッドに上がりました。そして会長さんに近づき、ゴロンと横に…って、会長さんの膝枕?
「ふふ。…もう顔が真っ赤になってる。動かないで」
会長さんの右手の中にフッと現れたものは竹製の『耳かき』でした。白いフワフワの毛がくっついたそれで始めたのは当然、耳掃除です。くすぐったそうな顔の教頭先生の耳を会長さんは馴れた様子で掃除し、反対側も。耳掃除を終えた会長さんの手から耳かきが消え失せましたが、教頭先生は膝枕でまだ目を閉じています。
「…ブルー…。今年もこれだけか?」
「うん。膝枕で耳掃除という約束だものね、昔から」
「…そうか。無理強いをするつもりは無いが…」
ヘタレで名高い教頭先生、今日はいつもと違うようです。膝枕をして貰って目を閉じていると気分が大きくなるのでしょうか?
「今年こそは、と秘かに思っていたんだがな。お前が1つのクラスに在籍し続けることなんて無かったし…心境に変化が起こったのかと」
「それで積極的だったわけ?婚約指輪まで買っちゃってさ。…読み違えているよ、ハーレイ。ぼくは何にも変わっちゃいない。楽しい仲間が沢山増えて嬉しかったのは本当だけど」
「やはり気持ちは変わらない…か。私がどんなに想っていても」
「痛い目に遭いたくないからね」
会長さんは小さく笑って教頭先生の頭をどけるとベッドから滑り降りました。
「ハーレイ、練習したこと無いだろ?…どんな目に遭わされるかと思うと、怖くて相手できないよ。まだノルディの方がマシかもしれない。…ノルディなんか大嫌いだけど」
ハーレイのことは大好きだよ、と微笑む会長さんをベッドから降りた教頭先生は一度だけ強く抱きしめ、仮眠室から教頭室へ。そして金庫の鍵を開けると試験問題のコピーを取り出し、会長さんに渡したのでした。
「これで全部だ。…いつかこういう取引じゃなくて…」
「ぼくと一緒に過ごしたい?…だったら努力してみればいい。ぼくを陥落させたいならね」
じゃあ問題は貰っていくよ、と会長さんは綺麗な笑みを浮べて教頭室を出て行きました。シールドの中の「そるじゃぁ・ぶるぅ」と私たちを引き連れて。

「耳掃除で試験問題漏洩か…」
キース君が気の抜けた声で呟きます。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に戻った会長さんは試験問題をせっせとコピーしていました。これとストラップの売り上げが生徒会の主な資金源。もっとも正規の資金ではなく裏金というヤツですが。パンドラの箱は値が安いので、重視されてはいないそうです。
「ハーレイがヘタレな間は耳掃除でいけるから楽勝なんだよ。ぼくは永遠のヘタレを希望」
コピーしながら言う会長さんに良心の呵責は無さそうでした。そして入学試験当日も会長さんはリオさんとフィシスさんを助手に試験問題のコピーやストラップを売り、合格発表の日はパンドラの箱を売り捌いて。
「ふふ、今年の売り上げもなかなかだったよ」
影の生徒会室で通帳に並んだ数字を眺め、会長さんは御機嫌です。このお金は宇宙クジラことシャングリラ号の乗組員の福利厚生に充てるんだ、なんて言ってますけど、真相はいったいどうなんでしょうね?




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