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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

アルトちゃんレポート・その7

 ワルツの音楽が始まると血の気が引くのが分かった。
 先生方がまず踊り始める。
 軽やかなステップ。
 中でも目を引くのが教頭先生とまりぃ先生のペアだ。
 全体を見ていてもいつの間にか二人に目が吸い寄せられてしまう。
「まりぃ先生、秘密特訓してたって話だけど、どうなんだろう?」
「特訓?」
 パスカル先輩の話にセルジュ君とボナール先輩がズズと近寄る。
「特訓の成果があれなんじゃないのか?」
「そう思ったんだけど、この前保健室で会った印象から、違うような気がして」
 確かに頷ける。
 ううん、でも、バトンタッチしてくれるのまりぃ先生だし。って…あぁ、とにかく踊らなくちゃならないのをうっかり思い出しちゃった。
「大丈夫。アルト」
 一気に不安になったのを感じたのか、最初にパスカル先輩と踊るrちゃんが励ましてくれた。
「倒れたら、あたしも一緒に倒れるから!」
 心強い。すごく。
「あ、じゃあ僕も一緒に」
 セルジュ君も。
「セルジュ、そういう時は黙って立ち上がらせるのが紳士だ」
「ああ、そうか。そうだよね」
 パスカル先輩の言葉も最もだけど。
 ……ふと見れば、私の四人前、最前列に立っている生徒会長が肩越しにこちらをみて笑ってる…ような気がした。
 面白がられてるよね、絶対。

 曲が終わり今度は生徒の番。
 心臓が口から飛び出るってこういうことを言うんだと実感していると、セルジュ君が手を差し出してきた。
「大丈夫だから」
 うん、と答えて歩き出したけど、気がついたら隣に生徒会長がいた。
「え?」
 え、え、え?
 記憶が…どうしちゃったんだろ?
 今はrちゃんが光沢のあるシャンパンベージュのふわりとしたドレスを揺らして、夢見心地で生徒会長と踊っている。
「リードが格別上手いからな。伊達に三百年生徒会長をやってないってことか。ほんとかどうかは分からないが」
 ボナール先輩が踊りながら教えてくれる。
 うん、ほんとに素敵にrちゃん踊ってる。
 録画お願いします!ってクラスメイトに頼んでいたけど、正解だよ。
 ああ、そうしたら、私だって何とかなるかもしれない!
 なんて思ってたらパートナーチェンジの時間。
 ひ~っ
 rちゃんは綺麗にお辞儀して次のパートナーへ。
 私は…緊張してお辞儀も出来ずに焦って言葉で「ありがとうございました」ってボナール先輩に言って差し出された手を取った。
「本番に強いタイプ?」
 ブンブンと首を振る。
 ああ、全然ワルツに合ってない…。
「2点には思えなかったけど」
「い、今から実感するかと」
「楽しみだな」
 そう言って卒倒しそうな微笑を浮かべてる。
 もしかして転ぶのを期待してるのかもしれない。
「うん。アクシデント歓迎」
「え?」
 私、今喋った?
「足、逆」
「えっ?」
「また、逆」
 そう言われても何とかなっているのはやっぱりリードがいいからかな?
 チラとボナール先輩を見れば頷いてる。
 俺が相手だったら派手に転んでるな。
 クルリと回転して近づいたときそう囁かれた。
 ……やっぱり。
 すみませんっ
 心の中で謝ると、
「転んでみるのも楽しいけど」
 今度の微笑は……何だか恐い。
 背筋がゾゾゾっとしてきた。
 視線でまりぃ先生を捜して目で訴える。
(代わって! もう代わって下さい!)
 私一人が倒れるならまだしも、生徒会長まで倒れたら、私、明日から針のむしろになりそうだし。
 何とかもちこたえている間に終わりにしたい。
 そんな思いが通じたのか、まりぃ先生が滑るように優雅に歩み寄ってきてくれた。
「あ、ありがとうございましたっ!」
 振り切るようにまりぃ先生とチェンジ。
 あぁ、まりぃ先生と知り合っておけてよかった。
 だって二つ返事で交代をOKしてくれたんだもん。
 ドレス姿だから会場の端の一般生徒のいない場所から見る。
 副会長と踊っていた時とは雰囲気の違うワルツに会場は一段と沸く。
 ボナール先輩ってば、もう少し早くパートナーチェンジして欲しかったな、なんて思ってそう。
 まりぃ先生、首筋からの線がとっても綺麗で女子だってうっとりしちゃう。
 あんなに素敵に踊れたらいいな。
 そうしたらあんなに恐い思いしなくて済んだのに。
 でもアクシデント歓迎なんて、変わった生徒会長だな。あんまり歓迎されるべきものじゃないよね、アクシデントって。
 なんて思いながらを見る。
 rちゃんはクラスメイトのキース君とかジョミー君と踊り、何だかとっても楽しそう。会話してるみたいだから、あとでどんなこと喋っていたか聞いてみようっと。

 そしてパートナーが元に戻ってワルツは終了。
 これでダンスパーティーも終わりかと思ったら、教頭先生が中央に、そしてまりぃ先生が登場。
 ワルツ用のふわりとしたドレスに手をかけると、一瞬で変身したかのように、身体にぴったりしたフラメンコ風のドレスに替わった。
 流れてきたのはタンゴ。
 キリキリと男と女の闘いのようなダンスが繰り広げられる。
「大人の踊りよね」
 いつの間にか戻ってきたrちゃんが呟くと私は大きく頷いた。
「格好いい!」
「あんな風に踊れたら素敵よね」
「うん」
「なぁに言ってるんだ、2点が」
 うっ……それ…辛い……。
「まずワルツで合格点がとれてからだな」
 それって何年後のことだろう?
 一生無理かも?
 ちょっと気が遠くなっているうちにタンゴも終わり、先生方がフロアに出てきてご挨拶。
 私も呼ばれたけれど途中棄権だったからフロアには出なかった。
 そして教頭先生がパーティー終了の言葉を口にした時、
「かみお~ん♪…パーティー最後の贈り物だよ!」
 クラッカーの音。
 青い閃光。
 続いたのはあの背筋がゾゾゾとする生徒会長の声だった。
「……ぶるぅ……」



 その後のことは……他の人に聞いて。
 一生忘れられないダンスパーティーになったことは間違いなくて。
 でもそのお陰で私の2点ダンスも皆の記憶から消去されたみたい。
 それだけは「ぶるぅ」にありがとうって言いたいな。




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