シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
週が明けるとバレンタインデーも間近です。会長さんが言っていたとおり、男子の所には3年生が友チョコ保険の勧誘をしにやって来ました。男子全員が申込書に記入し、言われた金額を支払っています。ジョミー君やキース君、マツカ君も申し込みをしてホッと安心している様子。
「ジョミーったら馬鹿じゃないかしら。毎年、義理チョコあげてるのに…」
スウェナちゃんは呆れ顔。でも、お説教と反省文だなんて脅されちゃったら、誰だって不安になりますよねぇ。友チョコ保険の盛況ぶりを眺めていると、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がやって来ました。
「かみお~ん♪アルトとr、いる?」
「うん、あそこ。…何か用事?」
アルトちゃんたちの席を教えると「そるじゃぁ・ぶるぅ」はトコトコと走っていって二人に封筒を渡しています。アルトちゃんたちの顔が輝き、封筒を開けてキャーキャー言ってますけど、なんでしょうね?
「ぼく、おつかいに来たんだよ」
戻ってきた「そるじゃぁ・ぶるぅ」がエヘンと胸を張りました。
「フィシスがアルトとrに渡してきてね、ってチョコレートのリストを書いたんだ。全部ブルーのお気に入り。ブルー、いつもフィシスと一緒に買いにいくけど、今年はプレゼントして貰えるチョコもありそうだ、って喜んでた」
アルトとrが買ってくれるんだね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ顔です。私とスウェナちゃんも会長さんのお気に入りのチョコを買いましたけど、アルトちゃんたちが貰ったリストはそれとは別のものなのでしょう。えっと…どのチョコをプレゼントして貰えるのか、会長さんには分かるんでしょうか?
「んとね、チョコを買う前だったらフィシスに占ってもらえば分かるし、買った後なら心を読めば分かっちゃうよ。だけど、どっちもしないんだって。どれを貰えるのか楽しみに待つのがいいんだってさ」
うわぁ…。私たちのプレゼントを心待ちにしてくれる会長さんの気持ちは嬉しいですけど、アルトちゃんたちにリストを渡せるほどなら、好きなチョコレートは多いはず。貰い損ねたチョコが欲しくなったりしたらどうするのかな?特設売り場はバレンタインデー当日もやってますから、後から自分で買いに行くとか…?
「ブルー、お目当てのチョコはとっくに全部買っちゃったんだ」
一昨日フィシスと紙袋を持って帰ってきたよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。一昨日といえばスウェナちゃんと私がフィシスさんとチョコレートを買いに言った日です。じゃあ、あの日に街でチラッと見えた銀色の髪は会長さんの…。
きっと待ち合わせしていたのでしょう。チョコレート特設売り場でデートというのも凄いかも。
「ブルーは甘いもの、大好きだもん。じゃあ、また後でね~♪」
ピョンピョンと飛び跳ねながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」は帰っていってしまいました。アルトちゃんたちはチョコのリストを見ながら頬を紅潮させてお話し中。きっと勇んでチョコレートの買出しに行くのでしょう。会長さんの好みのチョコを教えてあげるフィシスさんの懐の深さに感動です。
放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと、ちょうどリオさんが来ていました。昨日の夜に会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が宇宙船のシャングリラ号にチョコレートを送ったらしいのです。
「係の者が確認作業を終えました。バレンタインデー用のチョコレートは当日まで厳重に倉庫に保管し、責任をもって注文主に手渡しするということです」
「ありがとう。…じゃあ、みんなによろしく伝えておいて」
「はい。では、生徒会の仕事がありますので」
失礼します、とリオさんは本物の生徒会室へ帰って行きます。それを見送ってから会長さんは奥の部屋へ行き、書類袋を持ってきました。まだお仕事があるんでしょうか?
「見るかい?…重要書類なんだけど」
「見ていいの?」
ジョミー君が首を傾げます。重要書類って何なのかな?今の話の流れからすると、シャングリラ号に関すること?
「重要っていうより機密かな。もうすぐキースたちの部活が終わるし、みんな揃ってからにした方がいいか…」
思わせぶりな会長さん。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がテーブルに焼きたてのチーズケーキを運んできます。柔道部三人組のお腹を満たすためにはピロシキが用意されていました。私たちもつまんじゃったんですが、沢山あるので無問題。早くキース君たちが来ないかな。重要書類、それまでお預けみたいですし。
「すまない、今日は稽古が長引いたんだ」
キース君を先頭に三人組が入ってきたのはいつもより十分遅れでした。
「あっ、今日はピロシキなんですね。いっただっきまーす!」
シロエ君が元気一杯でピロシキを頬張り、マツカ君も。キース君はコーヒーを1杯飲み干してからピロシキに手を伸ばしました。
「美味いな。…ん?どうしたんだ、みんな変な顔して」
さすが勘の鋭いキース君。重要書類が気になって仕方ない私たちの表情にいち早く気付いたみたいです。会長さんはテーブルの下に押し込んであった書類袋を出しました。
「ジョミーたちはこれが気になるのさ。君たちが来てから、って言ったしね。でも、まずはチーズケーキを食べようか。ぶるぅ、切り分けてくれるかな」
「うん!」
小さな手がチーズケーキを切り分け、お皿に乗せて配ってくれます。早速フォークを入れて食べ始めると、会長さんがキース君たちに。
「昨日、シャングリラにチョコを送ってきたよ。ぶるぅと二人で衛星軌道上まで一気に、ね。さっきリオがチョコは間違いなく届いているって言いに来てたし、シャングリラはまた地球を離れていく筈だ」
「…あんたの仕事は終わったんだな。じゃあ、その書類袋の中身は今度の仕事に関することか?」
キース君が言うとジョミー君がすかさず「重要書類らしいんだよ」と言いました。
「重要書類か…。シャングリラ関連にしては小さすぎるな」
「そうだね。シャングリラの格納庫に関する情報だけでも、このサイズでは収まらない。なんだと思う?」
会長さんが書類袋を両手で抱えて微笑む横で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大あくび。
「ブルー、なんだか難しそうな話だね。ぼく、船のことは分からないや」
だってお料理と掃除洗濯専門だもん、と言った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は土鍋に入って丸くなってしまいました。
「ブリッジを思い出したら頭がゴチャゴチャしてきちゃった。お昼寝するから、難しいお話が済んだら起こして」
すぐに寝息が聞こえてきます。シャングリラ号のブリッジってそんなに複雑なのでしょうか?
「ぶるぅが言っているのは計器類だよ。知識が無いと混乱する。…子供にはちょっと難しすぎるね」
これの中身も、と会長さんは書類袋を開きます。
「2歳児…じゃなかった、1歳の子供が寝ている間に見てしまおう。シャングリラの最高機密というところかな」
会長さんが中身を取り出し、1枚目をスッとテーブルの上に置きました。
「どう?…最新の情報だけど」
私たちは声も出ませんでした。会長さんは溜息をつき、重要書類とやらを指差して。
「忘れちゃったかな、ドクター・ノルディ。…あれ以来、まりぃ先生のマイブームなんだ」
テーブルの上に乗っていたのは書類ではなく水彩画でした。忘れもしないドクター・ノルディと会長さんの唇が触れ合う寸前の絵が描かれています。…会長さんったら、保健室から勝手に持ち出してきたんですか!?
「違うよ、これは原画じゃない。ぼくがコピーを取ったんだ」
「これの何処が最高機密だ!?シャングリラともまるで無関係だぞ!」
キース君が叫びましたが、会長さんはしれっとして。
「ううん、最高機密だってば。理事長の親戚とはいえ、仮にも教師と呼ばれる人がこんな絵を描いているって知れたら、場合によっては大問題だよ?学校の品位にも関わるし…。そう、シャングリラ…学園のね」
「学校の方か!!」
騙されたぜ、と毒づくキース君。会長さんはクスッと笑って2枚目の絵を出しました。
「ほら、見て。まりぃ先生、ぼくがノルディに口説かれるのを目撃してから神様が降りたらしいんだ。もう描かずにはいられないわ、って頑張ってるよ」
今度の絵は全裸で絡み合うドクター・ノルディと会長さん。教頭先生との妄想イラストも凄かったですが、あの時の比ではありません。どんな神様が降臨したのか、エロさがグンと増していました。キース君たちは頭を抱えて呻いています。
「まだまだ沢山あるんだよね。ぶるぅが寝てる間に鑑賞しないと」
次々に出される会長さんとドクター・ノルディをモチーフにした絵は、とんでもない構図ばかりでした。縛り上げた会長さんをドクター・ノルディが嬲っている絵や、蝋燭が描かれているものや…。こんなイラストをコピーしてきて見せびらかしている会長さんの神経はどうなっているんでしょう?会長さんがドクター・ノルディに食べられかけて怯えていたのはつい先日です。喉元過ぎれば平気になるのか、実はけっこう好きだったとか…?
「ノルディのヤツは大嫌いだし、こんな付き合いも御免だってば。…でも、君たちが赤くなったり青くなったりするのを見ているのはとても楽しいんだよ。まりぃ先生に感謝しなくちゃ」
凄まじい絵を並べ立てながら会長さんは上機嫌です。
「これから見せる絵は、もう神業の域に達してる。君たちもアッと驚く筈さ」
書類袋から出てきたものは…。
「「「!!!!!」」」
1枚の絵の中に人が三人。会長さんを間に挟んでドクター・ノルディと教頭先生が描かれています。服と名の付くものは欠片も無くて、絵の中の会長さんの目には涙が…。
「凄いだろ?…よく、こんなの思いついたよねぇ。これはハーレイとドクターの位置が逆になったヤツで、こっちはもっと激しいんだけど」
私たちは眩暈と頭痛を抑えて座っているだけで精一杯。会長さんが「はい、最後の1枚」と言った時には目の前が霞みそうでした。どんなシロモノが出てきたのやら…と泣きたい気持ちで見たそのイラストは。
「「「………?」」」
描かれていたのは制服を着た会長さんとスーツ姿の教頭先生。向かい合って立つ二人の手がそっと重なっていて、その手の中にリボンがかかった小さな箱。…小さいと言っても指輪の箱よりは大きいです。一昨日買ったチョコレートの箱と同じくらいのサイズでしょうか。
「…このイラストには添え書きがしてあったんだよ。バレンタインデーの二人、ってね」
ひえぇぇ!!十八禁モノの妄想イラストも凄かったですが、これも一種の妄想でした。バレンタインデーというのですから、箱の中身はチョコレート。教頭先生を見上げる形の会長さんの頬はほんのり赤く彩色されて、教頭先生の表情はとても柔らかく描かれています。思い切り『二人の世界』なそのイラストは、気恥ずかしいような、ほんのり暖かい気持ちになるような…。
「ちょっといい絵だと思うんだよね。…なんでぼくとフィシスじゃないんだろう。そっちで描いてくれていたなら、最高に幸せだったんだけどな」
それは無理だろう!!と私たちは心の中で突っ込みました。まりぃ先生の趣味のお絵描きに男女カップルは有り得ないというのは嫌と言うほど分かってるんです。
「まぁいいや。…この絵を見たら心がちょっと和まないかい?さっきまでの絵と違ってさ」
会長さんは凄まじい内容の妄想イラストを書類袋に突っ込み、バレンタインデーが題材だという絵だけをテーブルに残しました。
「ぶるぅを起こしてあげなくちゃ。難しい話は終わったしね」
子供には他言無用だよ、と釘を刺された私たちは粉々になった平常心を拾い集めて、練り上げて。寝ぼけ眼の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が土鍋の中から出てきた時には、いつもどおりの笑顔で迎えたのでした。
「ブルー、お話、終わったの?…あれ?…まりぃ先生が描いた絵だね」
バレンタインデーの妄想イラストを眺めて「そるじゃぁ・ぶるぅ」は不思議そうな顔。
「ブルーとハーレイ、何をしてるの?…お誕生日?」
「バレンタインデーなんだってさ、ぶるぅ。ぼくがハーレイにチョコを渡している所らしいよ」
「えぇっ!?…悪戯してる絵なんだ、これ…」
「「「悪戯!?」」」
私たちは思わぬ言葉にビックリ仰天。なにやら妙な雲行きです。この穏やかで暖かな絵の何処が悪戯?
「…ハーレイは甘いものが何より苦手なんだよ。言わなかったっけ?」
会長さんがクスッと笑いました。
「だからチョコを貰ったって食べられない。それを知ってて贈るのは…ぶるぅが言うとおり悪戯だよね」
でもハーレイなら喜ぶかも、と会長さんは首を捻っています。なんだか嫌な予感がするのは気のせいでしょうか…。
そしてバレンタインデーがやって来ました。会長さんが朝早くから1年A組の教室に顔を出し、女子にチョコレートを貰っています。会長さんが貰ったチョコは一緒に来ていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が袋に詰め込み、生徒会室の机の上へ瞬間移動させている模様。そう、会長さんの所在を聞きつけた学校中の女の子が次から次へと来るのでした。
スウェナちゃんと私が渡したチョコは…。
「ありがとう。このチョコレート、大好きなんだ」
やったぁ!瞬間移動用の袋じゃなくて会長さんのカバンに入れて貰えましたよ!アルトちゃんとrちゃんが渡したチョコもカバンの中へ。
「嬉しいよ、ぼくの好きなチョコを分かってくれてたなんて。何度も同じ時間を過ごすと、そういうことまで伝わるのかな。…もっともっと知って欲しいよ、ぼくのこと。もっとたくさん時間をかけて」
また行くからね、と手を握られてアルトちゃんたちは真っ赤です。フィシスさんがチョコのリストを渡したことを会長さんは知ってるくせに、知らないふりをして気障なセリフを…。シャングリラ・ジゴロ・ブルーですから当然といえば当然ですけど。
「おーい、友チョコを持ってきたぞ!!」
3年生の男子生徒が大きな箱を担いできました。ジョミー君たちが走っていって引換券とチョコを交換しています。
「凄いね」と見ている「そるじゃぁ・ぶるぅ」に私がチョコを手渡すと…。
「くれるの!?…わぁ、今年は買ってきてくれたんだぁ♪」
これは瞬間移動させちゃダメだね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はアヒルの絵入りの袋を出してチョコを大切そうに入れました。更にスウェナちゃんとアルトちゃん、rちゃんからもチョコを貰って嬉しそう。さぁ、次はジョミー君たちに義理チョコを配ってこなくっちゃあ!…大騒ぎの内にバレンタインデーの日の授業が終わり、校長先生から警告された罰則は誰にも適用されませんでした。ダントツの数のチョコを貰った会長さんは…。
「ふふ。貰ってばかりじゃ芸がないよね」
柔道部三人組も揃った「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に会長さんのクスクス笑いが。
「まりぃ先生のイラストどおりにハーレイにチョコをあげなくちゃ。一緒においで。…ぶるぅ、シールドを」
げげっ!拒否権は今回も無いようです。会長さんはリボンのかかった箱を抱えて教頭室へ向かいました。私たちは姿の見えないギャラリーとして泣く泣くお供を…。
「失礼します」
会長さんが扉をノックして入ると、教頭先生は書類から顔を上げて嬉しそうな顔。
「どうした、ブルー?…今日は一人か?」
「うん。ハーレイにこれを持ってきたんだ。ぼくの手作りチョコレート」
「チョコレート?」
あ。教頭先生、複雑な表情をしています。
「ブルー、気持ちはとても有難いんだが…バレンタインデーというのも分かっているが、私は甘いものが苦手で…」
「知ってるよ。ハーレイとは長い付き合いだものね。…でも、このチョコレートは特別なんだ。ぶるぅがメッセージ入りのチョコレートが作れるんだよ、って教えてくれて…。それを…」
手作りしたんだ、と会長さんが消え入りそうな声で言いました。
「…ハーレイに預けてあるルビーの指輪。あれのことで…ぼくから…」
「私への返事を書いてくれたのか?」
教頭先生の問いに会長さんがコクリと頷きます。
「苦手なら食べてくれなくていいから。…食べてくれないとメッセージは出てこないんだけど…仕方ないよね。ぼくの気持ちはチョコレートにも劣るんだ、っていうだけのことなんだし。…ごめん、邪魔して」
箱を抱えて帰ろうとする会長さんは悲しそうでした。教頭先生が椅子からガタンと立って。
「ブルー!…すまん、私が悪かった。そんなチョコレートだとは知らなくて…。これは今すぐ食べないとな」
「本当に?ぼく、手作りは初めてだから、ちょっと甘すぎるかもしれないんだけど…」
「かまわない。お前のメッセージが読めるんだろう?」
箱の中身はリンゴの形のチョコレートでした。大きさもリンゴくらいです。それの真ん中にメッセージ入りのカプセルを仕込んだのだ、と会長さんが告げました。メッセージに辿り着くまでにはリンゴ半分くらいの量のチョコを食べねばなりません。私たちは青ざめましたが、教頭先生はチョコに齧り付き、顔を顰めながらも根性でどんどん食べて、食べ続けて。
「…ブルー、このカプセルの中にメッセージが?」
うっかりしていたら飲んでしまいそうな小さな青いカプセルを見つけた教頭先生に、会長さんが頷きました。教頭先生がカプセルを開けて固く巻かれた紙片を取り出すと…。
「せっかくだから声に出して読んで。…ハーレイの声が好きなんだ」
甘えるような口調の会長さん。教頭先生は頬を赤くし、紙片を開きながら読み始めます。
「大好きだよ、ハーレイ。あの指輪、ぼくにくれるかな?…ハーレイと…」
「ん?」
詰まってしまった教頭先生を会長さんが促しました。
「う、うむ…。…ハーレイと…結婚したいんだ」
「そういうこと」
微笑んだ会長さんはとても綺麗で、教頭先生の目尻に涙が滲んでいます。まさか会長さん、本気で教頭先生と…?
「…ブルー…。このメッセージは本当なのか?」
「うん。大好きだよ、ハーレイ。…ハーレイと結婚したいんだ。ぼくの気が変わるようなことがあったら、ね」
「は?」
教頭先生の目が文字通り点になりました。会長さんがクスッと笑って。
「そのメッセージ、裏側に続きがあるんだよ。知らないかな、インビジブルインク。あぶり出し用の」
フッと指先に青い焔を浮かべた会長さんがメッセージを書いた紙片を炙り、教頭先生に差し出します。
「ほら、文字が浮かんできただろう?…声に出して読んでよ、もう一度。表に書いた分から裏まで続けて」
「………………」
教頭先生はガックリと床にへたり込みました。苦手なチョコレートを頑張って食べて、その甲斐あったと思ったら…まさかのどんでん返しです。
「ふふ、バレンタインデーって素敵だよね。チョコレートと告白がセットものって、最高じゃないか。そうそう、あぶり出しの文字は紙が冷えたら消えるんだ。表側のメッセージはそのままだから、記念にとっておくのもいいんじゃないかな」
クスクスクス。笑いながら教頭室を出た会長さんが私たちに語った真実は残酷でした。チョコレートは会長さんじゃなくて「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ったもの。しかも甘さは半端じゃなくて、チョコレート好きの会長さんでも一口食べたら胸焼けしそうな代物だとか。教頭先生、明日はショックと体調不良で欠勤しちゃうかもしれませんねぇ…。