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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

三学期期末試験・第3話

賑やかだったバレンタインデーが終わると期末試験がもうすぐです。1年A組の教室の一番後ろに机が増えて会長さんがやって来ましたが…。
「ぼくが君たちを助けてあげられるのは今回が最後。2年生ではクラス替えもあるし、ぼくが2年生のクラスに参加するとも限らないし…。次の試験からは自力で頑張ってもらうしかないんだけれど、今回から実力で勝負したいって子がいるんなら手を挙げて」
教室がシンと静まり返りました。会長さんに頼って学年1位を独占してきたA組ですけど、2年生に上がる時にはクラス替えがあるんです。会長さんが来てくれないクラスの生徒になってしまったら、努力しないと満点を取ることはできません。みんな心の底では薄々分かっていたのでしょう。でも、今回はまだ助けて欲しいですよね。手を挙げる人はいませんでした。
「分かった。じゃあ、今度もみんなで満点を取ろう。グレイブ先生の名誉のために」
「「「お願いします!!!」」」
一斉に叫ぶA組一同。2年生になった時のことは進級してから悩めばいい、と全員の顔に書いてあります。その中でアルトちゃんとrちゃんだけがストラップを手にして眺めていました。会長さんがプレゼントした「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手形パワーが詰まったストラップ。卒業までの全ての試験を満点にするというアイテムです。アルトちゃんたちは2年生になるわけですけれど、私たちは…。ううん、卒業式はまだ先ですし、今はまだ…。
『それでいい』
会長さんの思念が届きました。
『まだ普通の生徒でいればいいんだよ。何も心配しなくていいから』
ジョミー君たちにも同じメッセージが届いたみたい。キース君、マツカ君、スウェナちゃん。みんな一緒に卒業しようね、と目配せしあって小さな合図。あ、教室の扉が開いてグレイブ先生の登場です。
「諸君、おはよう。期末試験がもう目前だ。我がA組は今度も1位を取ってくれると思っていいかね?」
「「「はい!!!」」」
元気のいい返事にグレイブ先生は満足そう。
「それでこそ私の自慢の生徒たちだ。ブルー、お前には色々な目に遭わされてきたが、1位の件では感謝している。今回も皆をよろしく頼む」
会長さんが頷き、クラスのみんなは大歓声。それから期末試験までの数日間、会長さんは殆どの時間を保健室で過ごしました。まりぃ先生、会長さんと「あ~んなことや、こ~んなこと」に明け暮れていても、妄想イラストをせっせと描いているのでしょうね。そして五日間の期末試験が始まり、アッという間に終わってしまって。
「やったぁ、晴れて自由の身だぜ!!」
男の子たちが歓声を上げ、女の子たちはパチパチと拍手。終礼に現れたグレイブ先生は「あんまり羽目を外さないように」と注意しただけで、いつもよりずっとにこやかでした。

「終わっちゃったね…」
ジョミー君がポツリと呟きます。影の生徒会室こと「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に集まった私たち7人組は、クラスメイトのみんなのように遊びに飛び出す気になれません。『卒業』という二文字が現実のものとして迫ってきているのですから。
「…俺、実は面接を受けたんだ」
キース君が言い、私たちは息を飲みました。面接って…もしかして、卒業を見越しての就職試験?
「すげえや、キース!俺、先のことなんか考えてなかった…」
サム君が感嘆の声を上げ、シロエ君も。
「やっぱりさすが先輩ですよね。…先輩から1本取ってやる、なんて言ってましたけど…ぼくなんか、まだまだダメみたいです。進路を決めなくちゃいけないだなんて、全然気付きませんでした」
ぼくも、私も…と言い合っていると、割って入ったのは会長さん。
「落ち着いて。みんながウッカリしてたんじゃないよ。進路のことで悩まないよう、ぼくが意識の一部をブロックしてた。君たちは普通の人間とは違う時間を生きるんだから、うかつに就職や進学を決めてしまうと大変だしね。…でもキースにはそれが通用しなかったんだ。よっぽど意思が強いらしい」
そっか、それならいいんです。一瞬、焦ってしまいましたよ。卒業のことばかり考えていて、その先まで頭が回ってなかったんですから。会長さんの口ぶりだと、心配しなくていいみたい。そういえば学校に残ってもいいって聞きましたっけ。
「…キース、就職するんですか?」
マツカ君が尋ねると…。
「いや、俺は進学希望なんだ」
「「「進学!?」」」
私たちはビックリ仰天です。キース君は無遅刻無欠席。いつの間に受験したんでしょう?ひょっとしてシャングリラ学園の入試でお休みだった間のことかな…。
「先輩、入試シーズンはずっと登校してたじゃないですか。うちの学校の入試で休みの時には上の学校の入試なんか無かった筈ですよ。…田舎の三流校の試験日程は知りませんけど、そんな所には行かないでしょう?」
シロエ君が首を傾げます。キース君は「確かにな」と苦笑い。
「…俺は試験は免除なんだ。面接だけで決まる枠がある。面接は土曜だったから休まずに済んだ」
「それって柔道のスポーツ推薦?」
好奇心一杯のジョミー君。なるほど、スポーツ推薦だったら試験免除もアリですよねぇ。
「残念ながら柔道じゃない。…俺は宗門校の推薦入学枠を使ったんだ」
「「「しゅうもんこう!?」」」
初めて耳にする単語でした。宗門校って、いったい何?
「…キースの家と同じ宗派のお寺が経営している学校だよ」
会長さんがクスクスと笑いながら教えてくれました。
「キースは元老寺の跡取りだろう?…宗門校にはお寺の跡継ぎを優先的に入学させてくれる枠があるのさ」
「じゃあ、キース…お前、本気で坊主になるのかよ?」
サム君に聞かれたキース君は「そのつもりだ」と答えました。
「面接といっても形だけだし、じきに入学許可が出る。緋の衣に早く辿り着くには宗門校が早道なんだ」
へえ…。会長さんの緋色の衣がキース君の進路を決めたんですね。キース君は進学するとして、私たちはどうすればいいんでしょう?宇宙クジラと同じ名前の学校からは何の音沙汰もありませんが…。
「進路のことは卒業してからでいいんだよ」
そう言って会長さんがソファから立ち上がりました。
「期末試験も終わったことだし、打ち上げに行こう。ぶるぅ、予約してくれたんだよね?」
「うん!…いつもの焼肉のお店。ちゃんと個室を頼んでおいたよ」
「やったぁ!」
ジョミー君の明るい声が響いて、私たちも気分が上向きに。打ち上げパーティーはいつも楽しいですし、きっと気持ちもスッキリしますよ!

「そるじゃぁ・ぶるぅ」御用達の高級焼肉店に出かける前に会長さんが向かった先は、お決まりの教頭室でした。重厚な扉をノックして「失礼します」と入っていくと、教頭先生は心得たように机の引き出しから熨斗袋を…。
「ブルー、今度は多めに入れておいたぞ。今年度最後の試験だったし、好きなだけ食べてくるといい」
足りなかったらツケにしてくるように、と気前よく言う教頭先生。ところが会長さんは熨斗袋を受け取ろうとせず、柔らかな笑みを浮べました。
「ありがとう、ハーレイ。…でも、今日はハーレイも一緒にどうかと思って。…よければ…だけど」
もうすぐみんな正式に仲間になるんだから、と会長さんは続けます。
「この子たちがハーレイのことを教頭先生と呼ぶのは、これが最後かもしれないんだよ?キャプテンって呼ぶことになったら自然と距離が開くよね…。そうなる前に、もう一度みんなで遊びたくって。マツカの別荘の時みたいに」
「…そうか…。確かに最後になるかもしれないな…」
教頭先生は「分かった」と頷き、テキパキと仕事を済ませて教頭室に鍵をかけました。それから事務局に行って帰宅すると告げ、私たちとタクシーに分乗して「そるじゃぁ・ぶるぅ」が予約したお店へ。畳敷きの個室で焼肉を食べ始めると雰囲気はすっかり和やかに…。
「そうか、キースは坊主になるのか」
キース君の進路を聞いた教頭先生は意外そうです。
「柔道を極めるのかと思っていたが、そっちの方はどうするんだ。オリンピックを狙っていたんじゃないのか?」
「それはシロエです。俺はオリンピックまでは思っていませんでしたし、この先、年を取らないんだったらオリンピックなんて夢じゃないですか。…ああいう世界は厳しそうです」
言われてみれば、年を取らないスポーツ選手って反則かも。いつまでも体力が落ちないんですし、練習を積めば積むほど上達するのは当然ですもの。けれど教頭先生は…。
「いや、あと数年なら誤魔化せるぞ?その間にオリンピックが開催されるし、出たいのならば指導しよう。教え子が出場するのは嬉しいしな」
「本当ですか!?…あ、でも…俺、別の学校に行くわけですし…」
「その辺の所は何とでもなるぞ?なんといってもシャングリラ学園だからな」
わっはっは、と教頭先生が笑いました。他の学校に行っても部活に来ていいだなんて、太っ腹な学校です。卒業しても生徒のままでいられたり…何でもありだな、なんて思っていると。
「失礼いたします」
女性の店員さんが御銚子とお猪口を持ってきました。えっ、お酒なんか誰が注文を?教頭先生は「今日は飲まない」って最初に言ってましたし、ひょっとして「そるじゃぁ・ぶるぅ」でしょうか。前にチューハイを勝手に注文して飲んで、寝ちゃったことがありましたっけ。
「酒は注文してないぞ。…隣と間違えたんじゃないのか?」
教頭先生が言うと、店員さんが。
「お隣のお部屋の方の御注文です。こちらにおいでのハーレイ先生にお届けしてくれ、とおっしゃいましたが」
「私にか?…なんという人だ?」
「後で御挨拶に伺うから、お気になさらず…とのことでした。お名前もお伝えしなくていい、とおっしゃっています」
「ふむ…」
誰だろう、と首を傾げる教頭先生の前にお銚子とお猪口を置いて店員さんは出て行ってしまいます。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお銚子を見て残念そうに。
「ぼく、チューハイがよかったなぁ…」
「こら!教師が一緒の時に飲酒するのはやめてくれ。…私の指導力が問われるんだぞ」
警察が来たらどうするんだ、と教頭先生。確かにとんでもないことになりそうです。本当の年が分かれば問題ないのかもしれませんけど、見た目は小さな子供ですもの。教頭先生は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手が届かない所へお銚子を置き、また「誰だろう?」と呟きます。会長さんがお猪口を取って。
「きっとハーレイの知り合いだよ。教師生活、長いもんねえ」
年寄りだし、とクスクス笑ってお銚子に手を伸ばそうとするのを教頭先生が止めました。
「ブルー、お前は飲まなくていい!警察が来たらマズイんだぞ」
「うん、ハーレイの立場がね…って、ケチ!」
教頭先生がお銚子の中身を空になったお皿に流してしまうのを見て会長さんは不満そう。そんなやり取りもありましたけど、焼肉パーティーは順調に進み、美味しいお肉を沢山食べてお腹いっぱい。でもデザートは別腹です。みんなが好みのシャーベットやフルーツなどを頼んで食べ始めた時、個室の扉がスッと開いて…。
「こんばんは」
お銚子を持って入ってきたのは、いつかのドクター・ノルディでした。

「「ノルディ!?」」
教頭先生と会長さんの声が重なり、会長さんは逃げ腰です。ドクターはニヤリと笑って扉を閉めると、丁寧な口調で挨拶しました。
「今日は医者同士で来てたんですがね…。偶然、隣の部屋になりまして。先程お銚子をお届けさせて頂きましたが、うちの方はこれから二次会に行くということなので、御挨拶に上がりました」
「そうなのか。…それは御丁寧に」
早く帰れ、と教頭先生の目が言っています。先日の騒ぎは忘れていない、ということでしょう。会長さんを食べようとしたドクターをかなり恨んでいそうです。ところがドクターは帰るどころか、ズカズカと部屋に入り込んできて会長さんの肩に手を回しました。
「飲みませんか、ブルー?…いけるクチでしょう」
「…君のお酒は飲みたくないね」
プイ、と顔をそむける会長さん。ドクターはチッと舌打ちをして。
「相変わらず気が強いことで。…だが、そこも気に入っているのですよ。隣の部屋にいても、あなたがいるのは分かりました。…そのくらい、あなたに惹かれているというわけですが…無視するのですか?」
嫌そうにしている会長さんを捕まえたままのドクターの手を教頭先生が引き剥がしました。
「いい加減にしないか、ノルディ。…二次会に行くのだろう?」
「行きませんよ。あちらの方は断りました」
せっかくブルーを見つけたんですから、とドクターは不敵に笑っています。会長さんに気付いた理由はお店の人が出入りする時にたまたま前を通りかかって、中の声が聞こえたからなのだとか。
「こんなに大勢で騒いでいても、ブルーの声だけは間違えませんね。…私好みの声なんです。この間は逃げられてしまいましたが、いつか私の思いのままに鳴かせてみたいと思っていますよ」
ひゃああ!な、鳴かせるって…きっとロクでもない意味ですよね?会長さんの顔がサーッと青ざめましたもの。教頭先生が不快そうな声で。
「…ブルーが嫌がっているようだが?ここに居られては迷惑だ」
「おや。いいんですか、そんなことをおっしゃって。…先日ブルーを見逃した時、確かに言った筈ですよ。お楽しみはまた次の機会に…と。今夜はチャンスだと思いましたが」
条件はクリア済みですからね、とドクターの視線は会長さんを舐めるよう。あれってチャラになったんじゃなかったんですか!?会長さんは身体を震わせ、縋るような目で教頭先生を見ています。この面子の中でドクターに対抗できそうなのは教頭先生しかありません。「そるじゃぁ・ぶるぅ」に至っては全く意味が分かっていなくてニコニコしているだけなんです。
「…ハーレイ…」
助けてくれ、とは言えないらしい会長さん。そりゃあ日頃あれだけ悪戯してれば、都合のいいお願いなんかできません。でも教頭先生には会長さんの気持ちが十分通じていたようです。
「ノルディ。…ブルーに手出しは許さん。今夜がチャンスだとか言っていたな。ならば私を酔い潰してみろ」
「なんですって?」
「今夜のブルーの保護者は私だ。もしも私を酔い潰せたら、後のことは好きにしろ。…もっとも、ブルーにはこの子たちもついているから、酒が入ったお前の手から逃げ出すくらいは出来ると思うぞ」
「…いいでしょう。受けて立ちますとも」
ドクターが頷き、教頭先生はお店の人にお銚子をどんどん持って来るよう言いました。私たちはハラハラしながら見ているばかり。会長さんはドクターから一番離れた部屋の隅っこに退避しています。
「だ、大丈夫かな…」
ジョミー君が小声で言うと、キース君が。
「みんな、今の間に家に連絡した方がいいぞ。今夜は遅くなります、って」
「そ、そうだね。…遅くなりそうだよね」
私たちは少し相談してから、会長さんの家に来ているという嘘のメールを家に送っておきました。教頭先生とドクターの飲み比べに付き合って焼肉店にいるなんてこと、正直に書くのはマズイですものね。

「ブルーは貰って帰りますよ。あなたさえ潰れてしまえば、後は思いのままですからね」
ドクターがお銚子を傾けながら会長さんをチラチラ眺めています。
「あなたと違って私は腕に覚えがありますし…。キスだけでブルーを酔わせるくらい簡単です。とろんとなってしまったブルーを私の家に連れて帰って…。ふふふ、今夜は楽しい夜になりそうですよ」
「そうはさせん。…私は酒には自信がある」
教頭先生はそう言っただけで黙々とお酒を飲み続けます。同じペースで飲むドクターはどんどん饒舌になり、伏字でしか書けないようなセリフを連発しまくって会長さんを怯えさせていたかと思うと、突然バタリと倒れ伏して。
「ぐおーーーっっっ!!」
凄いイビキが響きました。天然パーマの頭を「そるじゃぁ・ぶるぅ」がツンツンつつき、髪の毛を引っ張りましたが何の反応もありません。教頭先生はホーッと大きな溜息をつき、赤らんだ顔をおしぼりで拭いました。
「ふぅ…。なんとか勝てたようだな…。誰か、店の人を呼んでくれ」
男の店員さんが二人がかりで寝ているドクターを抱え、教頭先生がタクシーの手配を頼んでいます。ドクターの家へ運ぶようですが、あんな状態で家に入れるでしょうか?外で寝ちゃったら凍死しますし、私たちが心配そうに見送っていると…。
「大丈夫だ。ノルディの家には使用人がいるからな」
あれでも一応金持ちだから、と教頭先生が教えてくれました。
「ブルー、これで今夜は安心だろう?…ノルディには…気をつけるんだぞ…」
フラッと教頭先生の身体が揺れて。
「…ははは…。いかんな、さすがに飲みすぎたようだ…」
少し横にならせてくれ、と畳に仰向けになった教頭先生はすぐにイビキをかき始めます。えっと…もうかなり遅いんですけど、私たち、これからどうしたら…。
「ぼくが起こすよ」
会長さんがスッと教頭先生の上にかがみ込み、ゆっくりと唇を重ねました。
「「「!!!!!」」」
私たちの声にならない悲鳴が響く中、教頭先生の瞼がピクンと震え、会長さんが離れます。
「……ん……うん……」
教頭先生は何回か瞬きをして目を開けました。会長さんがニコッと笑って。
「サイオンを注ぎ込んだんだ。人工呼吸の要領だよ。これで酔いは醒める。…本当は手を触れるだけでいいんだけれど、ハーレイは頑張ってくれたから…お礼のキス。ついでにキスした証拠のオマケ」
「「「オマケ?」」」
それって何!?と思った次の瞬間、起き上がろうとした教頭先生の目が見開かれ、口をモゴモゴ動かしています。どうやら口の中が一杯みたい。
「ふふ、ニンニクの素揚げを丸ごと。…調理場から瞬間移動させてきたのを口移し。どう、ハーレイ?美味しいだろう」
ぼくがキスした証拠だよ、と得意げに言う会長さん。でも酔っ払って爆睡していた教頭先生にキスの記憶があるわけなくて、口の中にニンニクの素揚げがゴロンと入っているだけで。やっと起き上がってニンニクをもぐもぐと頬張りながら、教頭先生は複雑な顔をしていました。本当に会長さんがキスをしたのか、ニンニクを放り込まれただけなのか…分からないんじゃ無理ないですよね。
「せっかくキスしてあげたのに…ぼくを信じてくれないんだ?」
会長さんがクスッと笑って教頭先生の額に手を触れて。
「…はい、これがジョミーの見ていたもの。これがキースで、これが…」
教頭先生の顔がみるみる真っ赤になって、鼻からツーッと赤い筋が。私たちの記憶を注ぎ込まれて、キスシーンをいろんな角度から再現されてしまったのでしょう。おしぼりで鼻を押さえる教頭先生の口の中にはまだニンニクが残っていました。会長さんが「はい、ティッシュ。鼻に詰めないと帰れないよね」とポケットティッシュを手渡します。
「ありがとう、ハーレイ…身体を張って助けてくれて。キスは本当にお礼なんだよ」
意識がある時にしてあげようとは思わないけど、と付け加えてから。
「…ふふ、ニンニクの素揚げ、忘れられない食べ物になった?まさか初めてのキスってことはないよね」
クスクスクス。会長さんは耳まで赤くなった教頭先生にウインクしながら、私たちに声をかけました。
「ごめん、すっかり遅くなっちゃったね。お店を出たら、ぼくとぶるぅで家の前まで瞬間移動で送るから。…とんだ打ち上げパーティーだったな」
ノルディさえ乱入しなければ…と文句を言いつつ、会長さんは楽しそうです。本当に喉元過ぎれば熱さ忘れる、の典型みたい。ドクターを見て青ざめたくせに、そのドクターがいなくなったら教頭先生をいつもどおりにからかって…とうとうキスまでしちゃいましたよ、ニンニク味の!
「じゃあ、帰ろうか。ハーレイ、お会計はよろしく頼むね」
両方の鼻にティッシュを詰めた教頭先生を部屋に残して、私たちはお店の外に出ました。夜空から風花が舞い落ちてきます。その奥へ、と言われて路地に入ると会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が瞬間移動でスウェナちゃんを一番に送り、私は二番目。青い光に包まれた…と思ったら家の前でした。まだ午前様にはなっていません。パパ、ママ、遅くなっちゃってごめんなさ~い!




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