シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
私たちのA組が学年1位を取れなかったら恐ろしいことになるという中間試験。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の赤い手形で満点を乱発してもらう他に…「生徒会長さんがA組の生徒になって中間試験を受ける」なんていう奥の手があるそうですが、それってどういう意味なんでしょう?
「文字通りさ。ぼくが君たちのクラスの生徒になるってこと」
「それって、会長さんが1年A組に編入するって意味ですか?」
「うん。変かな?」
変かな、って…。会長さんは3年生なのに、どうやって1年A組に?さっぱり意味が分からず、ジョミー君たちと騒いでいると部活を終えたキース君たちがやって来ました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がシフォンケーキを配る間に会長さんが騒ぎの原因を簡単に説明して。
「キースなら知っているんじゃないかな?…ぼくのクラスは何組だろうね」
ふふ、と笑った会長さんをキース君は大真面目な顔で見つめています。
「…言っていいのか?どうやら皆は知らないようだが」
「構わないよ。そろそろ知ってもいい時期だし」
キース君はスゥッと息を吸い込み、私たちの方に向き直りました。
「…会長はどこのクラスにも属してないんだ。3年生だと言われているが、どのクラスにも籍が無い。…三百年以上も在籍してる、と言われて以来、俺が独自に調べた結果だ」
「「「えぇぇぇっ!??」」」
私たちはビックリ仰天です。会長さんは…どのクラスにも属していない?言われてみれば何組なのか、聞いたことは一度もありませんでした。3年生とだけ思っていたんですけど…。
「キースが言ったことは本当だよ。ぼくには決まったクラスは無い。授業も試験も気が向いたら受けたりするけどね…そういう時は何処かのクラスに適当に入れてもらうのさ」
「な…なんで…」
「三百年も学校にいると授業に出ても退屈だし、テストだって楽勝だし。…ぼくなら全科目、満点を取れる。そのぼくが君たちのクラスに入って中間試験を受けると、クラス全員に正解を教えることができるんだよ。前に『心の声』を聞いたことがあるだろう?あの要領でクラスのみんなの頭の中に問題の答えを直接、流す。…もちろん頭痛や耳鳴りを起こさないよう、意識の下にこっそり流し込むんだけどね」
「じゃ、じゃあ…会長さんが来て下さったらA組は?」
「ぶるぅの手形を使わなくても、全員、百点満点だ。皆が自分で書いた答案が全て正解なんだから」
ゴクリ。…私たちの喉が鳴りました。そして次の瞬間、キース君を除くA組の生徒…ジョミー君、マツカ君、スウェナちゃんと私は、会長さんにA組で試験を受けてくれるよう、土下座してしまっていたのでした。
翌日の朝、登校するとA組の一番後ろに机が1つ増えていて…。
「おはよう。今日から中間試験までお世話になるよ」
にこやかな笑顔の会長さんが入ってきて増えた机に着席するなり、クラス中が大騒ぎになりました。女の子は頬を真っ赤に染めて会長さんを見つめています。そして始業のチャイムと共に現れたグレイブ先生は…。
「諸君、おはよ…ぅ?!…なんだ、ブルー!なぜ、お前が私のクラスにいる!?」
「心外だな。学年1位を誇りたいんじゃなかったのかい、グレイブ?」
わぁ…。先生にタメ口ですよ!でも先生は怒る代わりに眉間に皺を寄せただけでした。
「…来てしまったものは仕方ない、か…。いいか、その代わり!必ずこのA組が学年1位だ!」
「分かっているよ。早く行きたまえ、1時間目は数学じゃないだろう?」
「ああ、残念ながらそうだったな!…お前こそ居眠りしないよう努力することだ」
カッカッカッ…と靴音を響かせてグレイブ先生は出て行き、1時間目はエラ先生の歴史の授業。私は会長さんが気になって何度か後ろを向いてみましたが、教科書とノートこそ広げてあるものの、頬杖をついて前を見ているだけみたいです。テストは楽勝とおっしゃってましたし、何もしなくてもいいんでしょうね。そうこうする間に午前中の授業が終わって昼休み。私たちはいつものようにサム君たちと合流し、会長さんも一緒に8人で食堂に行きました。
「食堂のランチも久しぶりだな。いつもはぶるぅが作ってくれるからね」
ランチセットを食べている会長さんはとても楽しそうです。
「ぶるぅって…。もしかして会長さんはぶるぅのお部屋で一緒に暮らしてるんですか?」
「だいたい当たっているかな、それで。中間試験が終わるまで、ぶるぅは一人で昼ご飯なんだ。きっと今頃、とんでもない量のおかずを作っていると思うよ」
どうやら「そるじゃぁ・ぶるぅ」は放っておくと凄い量を食べてしまうみたいです。そういえばバケツプリンを食べてたことがありましたっけ。ワイワイと賑やかな昼休みの後は、教頭先生の古典の授業。ところが授業が始まってしばらく経った時、後ろでガタン!という音が響きました。
「ブルーっ!!?」
教頭先生の叫び声で振り返ってみると会長さんが床に倒れています。貧血?それとも何かの発作?教頭先生が駆け寄って脈を取っておられますが、大丈夫でしょうか?教室中がザワザワする中、アルトちゃんとrちゃんが立ち上がって教頭先生の所へ行きました。
「保健室へ行った方がいいと思います」
「私とrちゃんで責任を持って保健室まで送りますから」
あ、そうか…。こんな時には保健室!でも教頭先生は会長さんを抱え起こして。
「早退した方がいいだろう。今、リオかフィシスを呼びにやるから」
「…保健室でいいよ、ハーレイ」
教頭先生を呼び捨てにした会長さんが弱々しい笑みを浮かべました。
「…アルトさんとrさん…だったね。すまないけど、保健室まで連れて行ってくれるかな?」
「「はいっ!!」」
アルトちゃんとrちゃんは会長さんを両脇から支えるようにして教室をゆっくりと出てゆきます。女の子たちの羨望の溜息が聞こえ、教頭先生は複雑な顔をしておいでですが…保健室なら心配することないですよね。アルトちゃんたちが戻ってくるのを待って授業再開。そして会長さんは終礼の時間になっても教室に戻ってきませんでした。
「…サボリってことないと思うんだけど」
グレイブ先生が終礼を終えて出て行った後、口を開いたのはジョミー君です。
「本当に具合悪そうだったものね。…見に行った方がいいと思うわ」
「ぼくもそう思いますけど…行きますか?試験前で部活はお休みですし」
「そうだな、とりあえず行ってみるか。とっくにトンズラしてしまっているかもしれないが」
スウェナちゃん、マツカ君、キース君たちも意見がまとまり、私たちは5人で保健室へ行ってみました。ところが保健室の扉には『おでかけ中』の札が下がっていて「御用の人は保健体育のヒルマン先生の所へ行ってね(はぁと)」と書かれた紙が貼られています。まりぃ先生、いないのかな?…じゃあ、会長さんはとっくに帰ってしまったとか?
「教室にカバンを残したままでトンズラか。確かに似合いの展開ではある」
そう言ったのはキース君。保健室のドアノブに手をかけて回してみたのはジョミー君。
「あれ?…ここ、鍵はかかってないみたい。もしかしたら奥で寝てるかも…」
ゾロゾロと入ってみた保健室の中に人影はなく、ベッドも全部空っぽです。やっぱり会長さんはコッソリ早退?
「…いや、待て。ここにドアがある。まだ新しいもののようだが…この向こうから人の気配が…」
キース君が指差したのは、最近改装したばかりのように見える新品の扉でした。物音ひとつしませんけれど、人の気配を感じるなんて…さすが柔道一直線。神経が研ぎ澄まされているんですね。
「開けてみようと思うが、いいか?…まりぃ先生に叱られた時はみんなで連帯責任ってことで」
私たちは一斉に頷き、キース君が扉を開いてみると。
「「「!!!?」」」
「……見られちゃったか……」
大きなベッドの縁に座っていた会長さんが銀の髪をけだるそうにかき上げました。学生服は床に放り出されていて、纏っているのはバスローブ。白い足はもちろん裸足です。
「ま、ま、……まりぃ先生は!?」
パニクッっているジョミー君の叫びに、会長さんは艶っぽい笑みを浮かべて。
「…ほら、あそこ」
視線の先には立派なソファがあり、まりぃ先生がそこに寝ていました。もしかして、もしかしなくても…まりぃ先生もバスローブしか着ていないのでは…。
「ぼくのために作った特別室だと言っていたよ。とても寝心地のいいベッドなんだ」
クスクスクス。会長さんはコロンとベッドに転がり、くしゃくしゃのシーツを身体に巻きつけて私たちを見上げました。ど、どうしましょう…。とんでもない所に来ちゃったかも!??