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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

二学期中間試験・第2話

明日から中間試験です。会長さんのおかげで全員満点間違いなしのA組は今日も緊張感に欠けていました。もちろん私ものんびりまったり、注意散漫。休み時間にスウェナちゃんとおしゃべりしながら廊下を歩いていると…。
「あっ、ごめん!」
ドンッ、と突き当たられて転んだ私の右足首に痛みが走り、知らない男の子がペコペコ謝っています。
「大丈夫かい?…先輩が試験のヤマを教えてくれるって聞いて、急いでて…。立てる?」
平気です、と答えると男の子はもう一度謝ってから慌てて走り去りました。中間試験を実力で受けるというのは大変みたい。男の子の後姿を見送ってから立ち上がろうとした私でしたが、いたたた…。足首、捻ったかな?スウェナちゃんが手を貸してくれましたけど、これは…かなり痛いかも…。
「保健室に行った方がいいわ」
「…でも、すぐに授業が始まるし…」
「待ってて。ジョミーたちに伝言、頼んでくるから」
A組の教室に向かったスウェナちゃんはすぐに帰ってきました。一緒にいるのは会長さんです。会長さんも保健室に行こうとしているところでしょうか。
「行かないよ。明日から試験だし、今日は最後まで授業に出るつもり」
そう言って会長さんはスッとしゃがむと、私の右足首に触れました。
「捻挫だね。…動かないで、じっとしていて」
フワッと暖かいものが足首を包み込み、痛みが嘘のように引いてゆきます。会長さんの力はケガの治療にも有効ですか!
「これでいい。でも、念のために保健室に行っておいで。…スウェナ、保健室まで付き添ってあげて」
「了解!…みゆ、肩を貸すからゆっくり静かに歩いてね」
「行ってらっしゃい。エラ先生にはちゃんと言っておくから」
授業開始の鐘が鳴ったので会長さんは教室の方へ。私はスウェナちゃんの肩につかまって保健室へと歩き出しました。足首は全然痛みませんけど、ついさっきまで猛烈に痛かったのは事実です。湿布を貼ってもらうくらいはしておいた方がいいんでしょうね。

時間をかけて慎重に歩き、やっと辿り着いた保健室。スウェナちゃんが扉をノックしました。
「はぁ~い、どなた?」
「1年A組のスウェナです。みゆちゃんが捻挫しちゃったみたいで…」
カチャ、とスウェナちゃんが扉を開けると、机に向かって何かしていたまりぃ先生が慌てた様子で振り向いて。
「あ、はいはい…捻挫したのね。ちょっと待ってて」
スケッチブックらしきものを棚に乗せてから、まりぃ先生は机の横の椅子を引き寄せます。
「じゃ、ここに座ってくれるかしら。…捻挫したのはどっちの足?」
「右足です。…今は痛みはないんですけど」
「そうねぇ…特に腫れてはいないようね。だけど一応、湿布しといた方がいいと思うわ」
まりぃ先生は湿布と包帯を出し、手際よく手当てをしてくれました。お礼を言って立ち上がろうとした時です。
「キュッ、キュッ。…キュッ!?」
奇妙な鳴き声のような音が聞こえて、机の上にポテッと落ちてきたのはとても小さなゴマフアザラシ。
「あらら、いないと思っていたら…。この子、ちびゴマちゃんって言うのよ」
可愛いペットを紹介された私たち。ちびゴマちゃんを撫でてみようと差し出した手を直撃したのは、大きなスケッチブックでした。ちびゴマちゃんに当たらなくってよかったです。
「ごめんなさぁ~い!…ちびゴマちゃんを庇ってくれたのね」
「キュッ、キュッ、キュッ!」
ちびゴマちゃんも懸命にお礼を言っているみたい。よかったね、とスウェナちゃんと顔を見合わせ、落ちてきたスケッチブックを何の気なしに眺めると…。あれ?もしかしてこれ、会長さん?…開いていたページに鉛筆で描かれていたのは会長さんの肖像でした。うわぁ、とっても綺麗に描けてる…。
「まりぃ先生、絵も描くんですか?」
スウェナちゃんが尋ねると、まりぃ先生は「ヘタクソだけど」と答えます。ううん、下手だなんてとんでもない!
「他のページも見ていいですか?」
好奇心旺盛なスウェナちゃんは返事を待たずにスケッチブックをめくりましたが…。
「!!?」
「なになに?…何かいいモノあった?」
スウェナちゃんに続いて覗き込んだ私はその場に凍りつきました。ど、どうしよう…。これっていったい何?
「…あ~あ、いけない子猫ちゃんね。十八歳未満お断りの絵も入ってるのよ」
そこに鉛筆で描かれていたのは会長さんの…一糸纏わぬ上半身。それだけならまだいいんですけど、同じページに教頭先生が描かれています。柔道十段の逞しい腕が会長さんの身体を引き寄せ、二人の唇は今にも触れそうなほどに近づいていて…。その構図はどこから見てもキス寸前にしか見えません。えっと、えっと…。
「見ちゃったわね」
まりぃ先生は悪びれもせず、スケッチブックをめくりました。
「趣味で描き溜めているんだけれど、ついでに他のも見てってみる?これなんか自信作なのよ」
え。そこには横たわる会長さんの姿が描いてあります。裸身を紐で縛り上げられ、手足の自由を奪われて。…私たちはあまりのことに絶句したまま、カチンコチンに硬直中。まりぃ先生はウフンと微笑み、通勤用の大きなバッグを持ってきました。
「…勤務中だと鉛筆描きしかできないのよねえ。さすがに保健室で絵の具や筆を広げるわけにはいかないでしょう?…だから学校では湧き上がったイメージをスケッチブックにぶつけるの。で、これは!という絵ができた時には、家で頑張って仕上げるんだけど…。どお?こっちはカラーバージョン」
書類ケースから引っ張り出されたのは、真っ赤な紐で縛り上げられた会長さんの全身像。背景代わりに描き込まれた黒い蝶の絵が妖しい雰囲気を醸し出しています。まりぃ先生は得意そうな顔で彩色された絵を次々に披露し始めました。会長さんと教頭先生のキスシーンとか、二人が半裸で絡み合う絵とか…。
「どうかしら?…二人とも、こんな絵はあまり趣味じゃない?」
怪しげな絵をチラつかせながら、まりぃ先生は楽しそうです。
「同好の士が欲しいんだけど、大っぴらに募集できるものでもないし。もしも分かってもらえるんなら、一緒におしゃべりしましょうよ。…生徒会長、素敵でしょ?あんな綺麗な男の子には逞しい男も似合うのよねえ」
ほら、と差し出されたのは教頭先生に机の上で貪り食われる会長さんの絵。十八歳未満お断りの世界をドカンと見せられ、スウェナちゃんと私は真っ赤になってヘタヘタと座り込みました。まりぃ先生の危ない趣味の話は会長さんから聞いてましたが、ここまで妄想が凄かったなんて…。なんだか眩暈がしてきたみたい。スウェナちゃんも額を押さえて目を閉じています。
「…うーん、ちょっと刺激が強すぎたかしら?二人とも横になった方がいいわね」
確かに教室に戻る気力はもうありません。私たちは保健室のベッドに寝かされ、額に冷却シートを貼られました。そのまま眠ってしまったらしく、気がつくともう放課後で。ベッドの横に私たちのカバンが置かれ、まりぃ先生がスポーツドリンクのペットボトルを渡してくれます。
「お友達と生徒会長がカバンを届けに来て心配してたわ。いつものお部屋に来られるかなぁ、って言ってたけれど、行けそうかしら?」
私たちはスポーツドリンクを一気飲みして、ゆっくりとベッドを降りてみて。…うん、大丈夫みたいです。これなら「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行けそう!まりぃ先生の趣味の話は美味しいオヤツを食べて忘れてしまいましょう。それでもきちんとお礼を言って保健室を出ようとすると…。
「あ、待って。これ、あなたたちが寝てる間に作ったの」
まりぃ先生が書類袋を2つ持ってきました。はい、と1つずつ渡されましたが、診断書にしては分厚いような…。
「うふ。中身は特選カラーコピー集よ。自信作のコピーを二十枚セットでプレゼント。十八歳未満お断りのも入ってるから、気に入ったらいつでも遊びに来てね。禁断の世界について先生と熱く語りましょ♪」
げげっ!なんてモノを、と思いましたが、断れる雰囲気じゃありません。私たちは書類袋をカバンに押し込み、保健室を後にしました。うーん、この書類袋、どう処分したらいいんでしょう?…燃やす以外に無さそうですけど、学校の焼却炉というのは危険すぎます。とりあえず家のベッドの下に隠して、パパとママが出かけてる日に庭でこっそり燃やそうかな…。

スウェナちゃんと私は顔を洗って気分を切り替え、書類袋のことは棚上げにして「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に行きました。みんなに「心配かけてごめんね」と謝ると、「捻挫で保健室に出かけて付き添いごと貧血で倒れるなんて…」と笑われましたが、本当のことは言えません。笑いたい人は笑わせておけばいいんです。
「かみお~ん♪二人とも、待ってたよ!今日のおやつはブラウニー。アルトが教えてくれたバナナ入りのヤツなんだ」
あらら。アルトちゃんのレシピとは驚きです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はブラウニーをお皿に乗せてフォークを添えると、欠伸をして目を擦りました。なんだかとっても眠そうですが…。
「ごめんね、さっきから凄く眠くって。みゆたちが来るまでは…って我慢してたけど、ちょっとだけ昼寝してもいい?」
私たちが頷くと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は部屋の端に置かれた土鍋に入ってクルンと丸くなり、すぐに寝息が聞こえてきます。眠いのに待っててくれただなんて。バナナ入りブラウニーを食べながら、心で「遅くなってごめんね」と呟いていると。
「…遅くなった原因を見せてほしいな」
会長さんが意味ありげな微笑を浮かべてスウェナちゃんと私を見つめていました。
「まりぃ先生に貰った書類袋の処分で悩んでる内に遅くなった。…そうだろう?そして処分はまだしていない。さあ、書類を出して、ぼくたちに見せて」
うひゃああ!書類って…もしかしなくてもアレですか?まりぃ先生の特選カラーコピー集!?あんなモノ、出せるわけありません。中身は確かめていませんけれど、十八歳未満お断りの絵も入ってるって言ってましたし、そうでなくても会長さんのとんでもない絵がてんこ盛りで…。
「大丈夫、ぶるぅは眠らせた。これからは大人の時間だよ。…って、君たちは大人じゃなかったか」
クスクスクス。会長さんがおかしそうに笑い、キース君の目が鋭くなります。
「三百年以上も生きてるあんたから見れば、俺たちはヒヨコどころか卵だろうな。大人じゃない、と改めて言われると腹が立つ」
「そう?…じゃ、遠慮なく重要書類を披露しよう。みゆ、スウェナ。…書類を出して」
私たちがためらっていると、ジョミー君が私のカバンを勝手に開けてしまいました。
「書類袋って、これのことかな?」
引っ張り出された書類袋を見て会長さんが頷くと、サム君がスウェナちゃんのカバンの中から同じものを取り出します。会長さんは二つの書類袋を受け取って満足そうに眺め、テーブルの上を片付けて。
「いいかい、順番に出すからね。見やすいようにテーブルの両端に1枚ずつ置くよ。…はい、これが最初の1枚」
「「「!!!!!」」」
みんなの目が点になったのが分かりました。それは縛り上げられた会長さんの絵。赤い紐と黒い蝶に見覚えがあります。会長さんは平然として次の絵をテーブルの両端に。今度は会長さんと教頭先生のキスシーンでしたが、こんなシロモノをみんなに披露できる会長さんの神経は鋼鉄製に違いありません。絵の内容はどんどんエスカレートしていき、マツカ君が青ざめてソファに突っ伏しました。サム君は目を覆っていますし、シロエ君は口を押さえています。ジョミー君は目の焦点が合ってないみたい…。
「…これでラスト。まりぃ先生、よっぽど仲間が欲しかったんだね。みゆとスウェナも、こういう趣味の世界を齧ってみる?」
一番最後に取り出された絵は、妄想が爆発していました。スウェナちゃんと私は頭を抱え、会長さんの顔を見ることもできません。だって…だって、描かれているのは会長さんと教頭先生のとんでもない絵で…。そんな中、掠れた声を絞り出したのはキース君。
「…あんた、恥じらいっていうのはないのか…。全部あんたの絵なんだぞ?」
「三百年以上も生きているとね、案外平気になるものなんだ」
会長さんはクスクスと笑い、テーブルの上に広げていた絵を書類袋に片付けながら。
「ぼくは人生経験豊富なんだよ。お寺で修行していた時に、そっちの道で有名な人に布団部屋に連れ込まれそうになっちゃったこともあったしね」
ひえええ!そっちの道って…布団部屋って…。
「そうそう、その人、ちょっとキースに似てたっけ。…キースが三十歳くらいになったら、あんな感じになるんじゃないかな」
キース君がソファに沈みました。これで男の子は全員討ち死にです。スウェナちゃんと私がなんとか正気を保っているのは、一度見た絵が混ざっていたのと、書類袋を持ち込んでしまった責任感かな?

「ふふ。やっぱり女の子の方が強いものだね」
全部の絵を書類袋に戻して、会長さんが微笑みました。
「まりぃ先生の絵は保健室でこっそり見てるけれども、こういうのって楽しいのかな?」
スウェナちゃんと私は首を横に振るのが精一杯です。まりぃ先生には悪いですけど、この趣味はついていけません。
「そうか…。じゃあ、この書類袋は必要ないんだ」
会長さんはニッコリと笑い、「貰ってもいい?」と尋ねます。もともと処分に困っていたものですし、渡りに船…と一度は頷きかけたのですが。もしかして、もしかしなくても…会長さんにこれを渡したら、今より凄いことになるかも…。そのことに気付いた瞬間、私は凄い速さで飛び出し、会長さんから書類袋を奪い返してキッチンへ。そして2つの書類袋の中身をシンクに突っ込み、栓をして…醤油が入った一升瓶の蓋を開けると、黒い液体をドボドボと注いだのでした。ついでにストックの瓶の封も切り、一升分の醤油を一気に…。
「あーあ…。やっちゃった」
醤油の海にドップリ沈んだ二十枚セットのコピー2組。会長さんは溜息をつき、シンクの中を見下ろしました。
「…ハーレイにプレゼントしたかったけど、台無しだな。仕方ない、今回は諦めよう」
やっぱり!醤油漬けにして良かった…と思いましたけど、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が目を覚ましたら醤油もストックも無くなっている、と空の瓶を振り回して騒ぐでしょうか?
「当然だね。ぶるぅが目を覚ます前に買っておかないと大変だよ」
会長さんに言われた私は醤油の買出しに出かけようとしましたが。
「待ちたまえ。…右足を捻挫したんだろう?そんな足で…第一、女の子に一升瓶の醤油を2本も持たせるなんて、とんでもない。ここは男子の出番だね」
やがてジョミー君やキース君たち、男子全員が醤油の買出しに出かけていきました。買出しに行ったら、醤油漬けになった絵に関する記憶の『忘れたい部分』を消去して貰えるというのですから行きたくない筈がありません。たった2本の醤油を買うのに5人というのは多すぎますけど。ところで、スウェナちゃんと私の記憶は…?
「君たちはそのまま覚えていればいいだろう。まりぃ先生が喜ぶよ」
せっかく勧誘されたんだしね、と会長さん。…私たちの記憶はやっぱり消しては…貰えないんですか?




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