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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

二学期中間試験・第3話

三日間に渡る中間試験が始まりました。試験期間中は放課後の居残りは禁止。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋にたむろするわけにはいきません。ちょっと顔を出してお菓子を食べて、すぐ下校です。そんな試験の初日のこと。私たちが帰ろうとすると、マツカ君が「ちょっと会長さんに用があるので」と言いました。待っていようと思ったのですが、会長さんは。
「とても大事な話なんだ。…あまり聞かれたくないんだけれど」
マツカ君も真剣な顔で頷いています。何なんだろう、と首を傾げつつ私たちは影の生徒会室を後にしました。マツカ君は翌日も一人だけ後に残って会長さんとお話です。そして三日目、試験終了。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に勢揃いした私たちは試験の打ち上げパーティーに行こう、ということになって…。
「やっぱり焼肉が盛り上がるよね」
ジョミー君の提案に皆が頷き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も一緒に一学期と同じ高級焼肉店で食べまくることに決定です。そして会長さんが先頭に立って影の生徒会室を出たと思ったら、校門ではなく教頭室のある本館へ向かわされました。またまた嫌な予感がします。焼肉パーティーに使うお金をねだりに…というかカツアゲするために教頭先生の財布の中身を狙っているに違いありません。

教頭室の扉を会長さんがノックし、返事を待ってガチャリと開けて。
「こんにちは、ハーレイ」
「ブルーか。…今日で試験はおしまいだったな。今日はこれから打ち上げか?」
教頭先生は穏やかな笑みを浮かべて机の引き出しを開け、紅白の水引がかかった熨斗袋を取り出して言いました。
「持って行きなさい。私の気持ちだ」
なんと!熨斗袋の中身はかなり入っていそうです。教頭先生、先制攻撃に出ましたか…。私たちはホッと胸を撫で下ろし、会長さんは遠慮もせずに熨斗袋に手を伸ばします。
「ありがとう。…もうお祝いをくれるんだ?まだジョミーたちにも話してないのに、早耳だね」
「は?」
教頭先生は怪訝な顔。私たちも顔を見合わせました。会長さんが言っているのは試験終了のお祝いなのか、学年1位のお祝いなのか。でも、私たちにも話してない…って、いったいどういう意味でしょう?会長さんはクスッと笑って熨斗袋の表書きを眺めながら。
「なんだ、ただのお祝いだったのか。ちょっと残念」
「残念って…。祝うようなことがあったのか?…私は何も聞いていないが」
何かで賞でも取ったのか、と教頭先生。会長さんはニッコリ笑って「違うよ」と首を振りました。
「もうちょっと先になってから言おうと思ってたけど、このまま帰ったら何のことかと気になるだろうし…。実は、ぼく…婚約することになったんだ」
「「「婚約!!?」」」
教頭先生と私たちの声が重なりました。会長さんが婚約だなんて寝耳に水の話です。
「こ、婚約って……誰と…」
うろたえている教頭先生。私たちが縋るような目で見る中、会長さんはカバンを開けて。
「えっと…写真は持ってきたんだ。みんなには今日、発表しようと思ってたから」
台紙つきの大きめの写真が、教頭先生の机の上に置かれました。表紙があるので中は全く見えません。
「せっかくだからハーレイに最初に見てもらおうかな。なんといっても担任だものね」
「…いいのか…?」
教頭先生の指が震えています。会長さんに御執心なだけに、複雑な気分なのでしょう。本来なら祝うべきなのですけど、婚約ってことは結婚しちゃって、教頭先生の手の届かない所に行ってしまうってことなんですから。
「遠慮しないで見てくれていいよ。とても素敵な人なんだ」
あ。ひょっとしてフィシスさんの写真かな?ついに入籍を決意したとか、そういうこともありそうです。表紙をめくる教頭先生の手許に私たちの視線が集まりました。うん、フィシスさんしかないですよね!しかも台紙つきの立派な写真。振袖かな?ドレスかな?…パラリ、と表紙がめくられ、内表紙の薄紙がめくられて…。
「「「!!!!!」」」
私たちは思い切りのけぞりました。現れたのは華やかな衣装に包まれたフィシスさんの姿ではなく、仕立ての良いスーツを着たロマンスグレーの渋い『おじさま』。
「どう?…みんな覚えているだろう。ハーレイも一度会っているよね」
写真の主はマツカ君を「ぼっちゃま」と呼んでいた執事さんでした。会長さんはマツカ君を見つめて嬉しそうに。
「マツカがぼくたちのキューピッドなんだ。別荘に呼んで貰わなかったら、ぼくたち、出会っていないものね」
「…いえ…。大したことはしてないです…」
控えめに答えるマツカ君の頬はほんのり赤くなっています。そりゃ…自分の家の執事さんと会長さんが婚約となると、やっぱり照れてしまいますよねえ。この間から二人だけで話してたのは、こういう理由だったんですか!
「…ブルー…」
ようやく我に返った教頭先生が青ざめた顔で言いました。
「この写真、私には男に見えるのだが」
「男だよ?…マツカの別荘で会っただろう。とても素敵な紳士なんだ」
「…マツカの家の執事だということは分かる。だが、婚約者の写真だと言わなかったか?」
「言ったけど。…婚約者が男じゃいけないのかい?」
え。言われてみれば、雰囲気に飲まれてすっかり失念してましたけど…会長さんは男の人で、婚約するという執事さんだって男性で。これって物凄く変なのでは?…もしかしなくても、まりぃ先生が趣味で描いてる妄想イラストの世界です。
教頭先生は額に汗を滲ませ、グッと拳を握り締めて。
「…ブルー、どっちが言い出したんだ。婚約だなんて、そんなこと…」
「プロポーズされたのは、つい最近。でも夏休みから付き合ってたよ?…ぼくに一目惚れしたんだってさ。ずっと独身だったんだけど、やっと見つけた理想のタイプなんだって」
ひえええ!…私たちはマツカ君に「本当?」と尋ねましたが、「本当です」と返されてしまい。会長さんが執事さんと近日中に婚約するのは、どうやら間違いないようです。

教頭先生は頭を抱え、かなり長いこと唸っていました。私たちも顔を見合わせるだけで、まるで言葉が出てきません。「そるじゃぁ・ぶるぅ」だけがニコニコとして会長さんの隣に立っています。きっと会長さんが結婚したら一緒について行くのでしょう。とてつもなく長く感じる時間が過ぎて、口を開いたのは教頭先生。
「…ブルー、学校はどうするつもりだ」
「卒業するよ」
会長さんはいとも簡単に答え、私たち7人を見渡しました。
「ぼくの後を継いでくれそうな仲間も沢山見つけたし。…三百年と何年だっけ?長い間、ぼくの担任でいてくれてありがとう。とっても楽しかったよ、ハーレイ」
「…本気なのか…」
「うん。婚約はするけど、結婚するのは卒業してから…って決めたんだ。だから三月までは学校にいる。卒業となると忙しくなるし、色々手伝ってくれるよね?」
会長さんは幸せそうに微笑んでいます。まりぃ先生の妄想イラストの世界であっても、会長さんがそれでいいなら祝福するしかありません。けれど教頭先生は…。
「本当に分かっているのか、ブルー?結婚しても同じ時間は生きられないぞ。…いつかお前が置いていかれる」
そうでした。会長さんは三百年以上生きていますし、教頭先生も同じくらい生きてきたみたい。でも、マツカ君の家の執事さんは…多分、普通に年を重ねてきた人で。教頭先生の言葉からして、会長さんより先に寿命が尽きてしまうのは確実です。そしたら会長さんは…こんな言い方するのかどうかは知りませんけど、未亡人として残されて…。
「…分かってる。でも、その時はその時だから。ぶるぅもいるし、一人ぼっちになるわけじゃない」
「だが…。どうして今になって結婚なんだ。学校が嫌になったのか?」
「…そういうわけじゃないけれど…。ぼくを必要だって言ってくれたのは、あの人が初めてだったんだよ。そんなこと言われたことが無かった。とても嬉しくなったんだ。…必ず幸せにするから、って」
のろけ話を聞かされた私たちの頬が赤くなりましたが、そのすぐ後に起こったことは…。
「ブルー!!」
教頭先生が会長さんの肩を両手で捕まえ、赤い瞳を覗き込みます。
「お前が必要だと…そう言われて嬉しかったから結婚するのか?…置いていかれると分かっていても?」
無言で頷いた会長さんを、教頭先生が抱きすくめました。
「ダメだ。…ブルー、行くんじゃない。必要だと言って欲しいのならば、私が何度でも言ってやる。三百年以上、ずっと見てきた。私にはお前が必要なんだ」
「……ハーレイ…?」
「行くな、ブルー。卒業したいならしてもいいから、ずっと私のそばにいてくれ」
ひゃああ!これってプロポーズですよね?執事さんの次は教頭先生!?…いえ、教頭先生の方が遥か昔から会長さんに御執心なわけですが…。呆然とする私たちを他所に、会長さんが抱きすくめられたまま小さな声で言いました。
「…じゃあ…ぼくと結婚してくれる?…それなら婚約の話、断ったっていいんだけれど…」
「もちろんだ」
教頭先生は会長さんをギュッと抱き締め、私たちを完全に忘れ去って。
「一緒に婚約指輪を買いに行こう。お前が卒業したらすぐに式を挙げて、ずっと二人で暮らすんだ」
「…本当に?」
「ああ。嘘なんてつくものか。三百年以上、お前だけを見てきたんだから」
二人の世界に入ってしまった教頭先生が会長さんを上向かせ、キスをしようとしています。まりぃ先生の妄想世界が今まさに実現しようとした…その瞬間。
「はい、そこまで」
会長さんの明るい声がしたかと思うと、教頭先生の腕からスルリと抜け出し、執事さんの写真を手に取って。
「マツカ、この写真、返しておくよ。色々と無理を言って悪かったね」
「いえ…。ぼく、ちゃんとお役に立てたんでしょうか?」
「もちろん。…みんな見事に引っかかったし」
クスクスクス。会長さんは悪戯っぽい笑みを浮かべて教頭先生を見つめました。
「ハーレイ、コロッと騙されたね。婚約なんて嘘に決まってるだろ?…でも、プロポーズしてくれてありがとう。頑張ればちゃんと言えるじゃないか、口説き文句」
「……………」
唖然としている教頭先生に更に追い討ちをかけるように。
「そうそう、ぼくが本当に結婚するなら相手はフィシスか、他の女の子だ。男と結婚なんて選択肢だけは絶対に無いから覚えておいて」
教頭先生はガックリと床に膝をつき、前のめりに倒れてしまったのでした。

それから私たちは教頭先生がくれた熨斗袋を持って焼肉店へ。美味しい焼肉で盛り上がる中、さっきの写真が回されてきます。ロマンスグレーの執事さんが写った台紙つき写真。
「結局、これってマツカが用意したわけ?」
ジョミー君が尋ねると、マツカ君が微笑んで頷きました。
「ええ、会長さんに頼まれたんです。…一昨日の朝、放課後に一人で残ってくれるようにと声をかけられて…皆さんが帰った後で、この計画を知らされて。昨日の放課後は写真を届けて、今日の打ち合わせをしていました」
マツカ君だけが居残った陰には恐ろしい陰謀があったのです。会長さんは教頭先生が打ち上げパーティー対策の熨斗袋を用意したことを見越していたか、婚約ネタで陥れた末にパーティー費用を脅し取ろうと企んだか…。どっちにしても教頭先生は弄ばれる運命だったというわけで。
「…あんた、どこまで教頭先生を苛めるつもりだ」
キース君の問いに会長さんは艶やかに微笑んで答えました。
「苛め甲斐がなくなる日まで」
焼肉パーティーはまだまだこれから。教頭先生、今日も遠慮なくご馳走になっておきますね~!




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