忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

二学期始業式・第3話

生徒会長さんの新学期恒例行事に付き合う羽目になった私たち。なにが悲しくて紅白縞のトランクスのお届けなんかに同行しなくちゃいけないんでしょう。しかも今まで散々な目に遭わされ続けた教頭室に。
「…本当に渡して帰るだけなのかな?」
「えーっと…自分用ってヤツを見せびらかしたら終わりじゃないか?」
ジョミー君とサム君がヒソヒソ話し合い、柔道部の三人組も似たようなことを話しています。スウェナちゃんと私はお届け物の中身が中身だけに、男の子たちの会話に入る勇気はありません。会長さんは臙脂色の大きな袱紗に包んだ贈り物を持って先頭を歩き、すぐ後ろに包装紙で包んだだけの小さな包みを持った「そるじゃぁ・ぶるぅ」。どっちの中身もトランクスだなんて、誰も気付きはしないでしょう。
「放課後で人が少なくてよかったわね」
「やっぱりちょっと恥ずかしいもんね…」
スウェナちゃんと私は最後尾。放課後とはいえ始業式とホームルームしかなかったわけで、部活が休みで人が少なくても…お日様はまだまだ高いわけで。悲しいことに時間の方は正午になる少し前でした。昼日中、しかも夏の明るい日差しの下をトランクスを持って練り歩くのはかなり悲しいものがあります。たまにすれ違う人が臙脂色の袱紗包みに目を向ける度に、スウェナちゃんと私の頬はちょっぴり赤くなりました。

教頭室はとても遠いように思えたのですが、そうでもなくて…実際には5分もかからなかったと思います。会長さんが重い扉をノックし、私たちは緊張の極み。だ、大丈夫かな、本当に…。中から「どうぞ」と返事があって、会長さんは扉をガチャリと開けました。
「失礼します」
「おお、ブルーか!」
教頭先生の顔が輝きましたが、後ろに並んでいる私たちに気付くと眉間の皺がみるみる深く…。明らかに招かざる客が来たのですから、嬉しいはずがありません。会長さんの訪問は大歓迎だったみたいですけど。
「露骨に嫌そうな顔をしないで欲しいな。この子たちは特別だって知ってるだろう?」
全員が部屋に入り終わると会長さんは扉を閉めて、教頭先生の机の上に袱紗包みを置きました。
「ぼくの新学期の恒例行事を教えておいても問題ないと思ったんだよ。はい、お待ちかねのプレゼント」
「……………」
複雑な表情の教頭先生の前で袱紗をほどき、特注品の大きな熨斗袋を差し出して。
「今度はお部屋見舞いにしてみた。一学期はクーラーが壊れたりして大変だったものねえ、色々と…」
「……うう……」
全部あんたのせいだろう!と叫びたいのは教頭先生も同じだったかもしれません。でも、会長さんに御執心だという教頭先生は惚れた弱みと言うのでしょうか、眉間の皺を深くしただけで文句は言いませんでした。
「…ありがたく頂戴しておこう」
特大熨斗袋を手にして御礼の言葉を口にするあたり、本当に会長さんからのプレゼントを待っていたものと思われますが…私たちの手前、感情を抑えているようです。こんなギャラリーさえいなかったなら、大感激で満面の笑みを浮かべていたかも。気の毒なことしちゃったかなぁ…。
「もっと素直に喜んだら?…開けてくれないっていうのも傷つくんだけど」
「いや、しかし…」
「熨斗袋を開けるのは失礼だ、って言うのかい?じゃあ、ラッピングだと思って開けて」
「し、しかし……そのぅ、中身が…」
「大丈夫。みゆもスウェナも中身は知ってる」
会長さんに追い詰められる教頭先生。いつもなら嬉しいはずのプレゼントが喜べないものに変わっていそう。
「要らないんなら持って帰るよ?…でもって二度と贈ってあげない」
この言葉は効いたようでした。教頭先生は熨斗袋を開け、包装紙を外して箱を開け……現れたのは綺麗に畳まれた紅白縞のトランクス。きちんと並べられていますが、全部で5枚あるのでしょうね。
「どう?…いつもの青月印だよ」
「…すまんな…」
やっとのことで笑顔を作った教頭先生。会長さんはニッコリ笑って一歩後ろに下がり、次の瞬間。
「「「!!!!!」」」
私たち7人と教頭先生は思い切り目をむき、声にならない悲鳴を上げていたのでした。

「…どうしたのさ?」
すました顔の会長さん。足元の床に制服のズボンとベルトが落っこちていて、スラリと伸びた白い両足が惜しげもなく曝け出されてて…その上に見えているのは白と黒。
「…ブルー!!…な、なんて格好を…」
会長さんは白黒縞のトランクスを履き、平然として立っていました。そ、そりゃ…上は制服のワイシャツですけど…海で水着姿も見てますけれど、それとこれとは別物で…。ど、どうしよう…目が離せない…。
「やめなさい、ブルー!…女の子たちの前だろう!!」
「…鼻血が出そうな顔で怒鳴られたって、説得力がないんだけど」
会長さんはズイ、と教頭先生の方に踏み出しながらトランクスの裾をちょっと摘んで。
「ほら、ちゃんと青月印なんだよ?…履いた所を見てみたいって思ってたんじゃなかったっけ?」
教頭先生が引き出しからティッシュを取り出し、鼻を押さえて横を向きます。本当に鼻血が出ちゃったみたい。
「…うわぁ…。ハーレイ、純情だね」
余裕の笑みの会長さんは白黒縞のトランクスの両端を持つと、左右に引っ張って見せました。
「ほらほら、鼻血なんか出していないで見てごらん?…この柄、何か連想しない?」
「……い、いや……。何も……」
鼻血を押さえて口ごもっている教頭先生に更に見せびらかすように会長さんは白黒縞をヒラヒラさせて。
「思い当たらないんだってさ、キース。…お寺の子として言ってあげれば?」
「…あんたが言え」
キース君は素っ気なく答えましたが。
「そう?じゃ、言っちゃおうかな、君の法名。えっと…」
「うわぁぁぁ!!!や、やめろ、それだけは言うな!!!」
絶叫して会長さんの口を押さえるキース君。よほど聞かれたくない名前なのに違いありません。珍念とか、珍来とか、満珍とか…?キース君はゼイゼイと肩で息をしながら、教頭先生に向かって叫びました。
「白黒縞は不祝儀なんです!…それだけだったら問題ないと思いますけど、紅白縞とセットというのは凄くまずいと思うんですが!!」
「…そ、そうか……」
教頭先生は愕然とした顔でキース君を眺め、それから会長さんの顔を見詰めて。
「…そうだったのか…。いつもわざわざ熨斗袋に入れて奇妙な表書きを書いてくるな、とは思っていたが…全く気付いていなかった…」
ガックリと肩を落とすと、教頭先生は床にへたり込んでしまいました。
「ブルー、すまない…。お前に葬式の色を履かせていたとは…。いつ気付くかと試していたのか?…ははは……担任失格だな…」
気の毒なほど落ち込んでしまった教頭先生。えっと…えっと、私たち、どうしたらいいんでしょう?会長さんを叱るべきなのか、それとも会長さんを引っ張って帰るべきなのか…。互いに顔を見合わせていると、会長さんがクスッと小さく笑いました。
「ふふ、思ったより…お灸、効きすぎ」
それからおもむろにズボンを履いてベルトを締めると、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に言ったのです。
「ぶるぅ、その包みをこっちに持ってきて」
手渡された小さな包みをゆっくりと開け、パッと両手で広げたものは…。
「ハーレイ、ぼくは今度からこっちにするね。これも青月印だよ」
青と白の縞々トランクスを高々と掲げ、会長さんはご機嫌でした。教頭先生も立ち直ったようで、平謝りに謝りながらも嬉しそうな顔をしています。こういうのって、なんて言うんでしたっけ。…教頭先生が一方的に馬鹿にされてる上、一方的に熱を上げてるみたいですけど…バカップルって呼べばいいのかな?

「あーあ、またロクでもない目に遭っちゃった」
「まったくだ。…まさかズボンを脱ぐとは思わなかった」
教頭室から「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に戻るなり、ジョミー君たちがぼやきます。会長さんの白黒縞は予想もしない出来事でした。
「…そんなに顰蹙だったかな?みゆとスウェナはともかく、君たちなら分かるかと思ったけれど」
「何がさ?」
口を尖らせたジョミー君。キース君たちも怪訝そうな顔をしています。会長さんはクスッと笑って…。
「あれ、青月印じゃないんだよ。HURLEY製のヤツなんだけど」
「「「ハーレー!!?」」」
「うん。ハーレイじゃなくて、ハーレーなのさ。ハーレイの綴りはH・A・R・L・E・Yだろう?AじゃなくってUなんだ。アメリカ西海岸のアパレルメーカーで、ナイキのグループカンパニー。サーフパンツで有名だから、ちょっと特注してみてね」
じゃあ…じゃあ、さっきの白黒縞はトランクスじゃなくて海水パンツ!?
「そう。もう一度脱いでみせてもいいけど、今度の水泳大会で披露するっていうのもいいかな」
それだけはやめてくれ!というのが全員の心の叫びでした。だってどう見てもトランクスでしたもの。いえ、思い込みが激しすぎただけかもしれませんけど。
「それじゃ、あんたは最初から…全て計画していたんだな!?」
キース君がブチ切れそうな顔で会長さんに詰め寄りました。
「ぶるぅに持たせた包みの中身と、ズボンの下の海水パンツと…。今学期からトランクスの柄を変えるつもりで最初っから!!」
「…いい加減飽きてきてたしね。熨斗袋の表書きネタだって、その内に底を尽きそうだろう?」
御出産御祝とかじゃあんまりだし、と言われてみればそのとおりですが…いったい何年くらい紅白縞のトランクスを贈り続けてきたのでしょう。内緒、と微笑む会長さんにそれ以上は聞けませんでした。
「キースが来たし、いいチャンスだと思ったんだ。お寺の子供が指摘するんなら、それほど角も立たないし」
「………。でも、教頭先生、へこんでたぞ?」
「浮上したからいいじゃないか。これからは青白縞でお揃いだと思って幸せに浸るのは間違いないさ。鼻血を出していただろう?…ぼくがお揃いを履いているだけで、ハーレイはとても幸せなんだよ」
クスクスクス。とても楽しそうな会長さんの前に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がオムライスのお皿を置きました。そういえば、お昼をとっくに過ぎています。ケチャップでそれぞれの名前が書かれたオムライスがテーブルの上に並んで、いただきます。食べ始めてから少し経った時。
「…そうか、そういう意味だったのか…」
キース君がスプーンを置いて、会長さんが「筆ならしに」と書き散らして床に捨てていった漢文を拾い上げました。
「なになに?…風林火山がどうかした?」
スプーン片手のジョミー君。キース君はそれには構わず、会長さんの方を見て…。
「風林火山は関係ない。問題は孫子の兵法の方だ。…これを書いていたのは謎掛けだな?気付かなかった俺が馬鹿だった」
「あ!…確かに、孫子の兵法といえば…」
シロエ君が顔を上げ、キース君と同時に叫んだ言葉は。
「「敵を欺くにはまず味方から!!」」
えぇぇっ!?…それじゃ「そるじゃぁ・ぶるぅ」が教頭室に運んでいった小さな包みの中身が白黒縞のトランクスで、チラつかせるだけだと信じ込んでいた私たちは…まんまと会長さんの策略に乗せられたというわけですか!?
「そのとおり。…もし最初から知っていたなら、あそこまで驚いてくれないだろう?敵を欺くにはまず味方から。一応、ヒントは出してたんだよ」
そんなヒントで分かるくらいなら、騙されないような気がします。キース君は軽い自己嫌悪に陥り、私たちも振り回されてしまったことに気付いて茫然自失。せめて白黒縞が海水パンツと見抜けていれば、もう少し気分はマシだったかも。三百歳を超えている会長さんに、またまたやられてしまいました。…白黒縞の次は青白縞。青って英語でブルーだったかな…。




PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]