シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
再び連れて行かれた、まりぃ先生のお絵描き部屋。昼食の前に会長さんが身に着けた夜着はセクシー系が大半でした。目のやり場に困るデザインのも色々あったんですけど「メインディッシュはこれから」ってことは、更にとんでもない夜着が登場するに違いありません。
「…あんた、本気で着るつもりなのか?」
キース君が声を潜めました。まりぃ先生は服を取りに出かけています。
「あんたの力なら、着たと思い込ませて逃げることくらい簡単だろう?…頼む、逃げると言ってくれ」
「そうだよ。その手が使えるんなら逃げちゃおうよ」
ぼくたちだって見ていたくないし、とジョミー君。会長さんの艶姿そのものは耐えられないわけでもなさそうですが、前に見せられた凄まじい絵を思い出してしまうみたいです。ごめんなさい…スウェナちゃんと私が書類袋を持ち込まなければ…。サム君とマツカ君も逃げる意見に賛成でした。シロエ君は会長さんの腕を掴んで直訴です。
「絶対、とんでもないことになりますよ。逃げましょう!」
「…うーん…。ぼくとしては着てみたいんだけど」
「「「なんで!?」」」
「だって。ちょっと面白そうだから」
会長さんが悪戯っ子のような顔で微笑んだのと、まりぃ先生が入ってきたのは同時でした。
「あらあら、ずいぶん楽しそうね。何かいいことあったのかしら?」
「みんな逃げたくなったんだってさ。それを説得してる最中」
「んまぁ…。いけない子たちだわね。ブルー君を見捨てて逃げ帰るつもり?」
万事休す。私たちはスゴスゴと部屋の隅っこに行き、諦め切って座りました。何も分かっていない「そるじゃぁ・ぶるぅ」だけが会長さんの隣ではしゃいでいます。
「ねぇねぇ、今度はどんな服かな?まりぃ先生、いっぱい服を持ってるんだね♪」
「ぶるぅも貸してもらうかい?」
「んーと…。サイズが合わないと思う」
1歳児の目には着せ替えごっこにしか見えないのでしょう。私たちもそれくらい広い心で受け入れられたら、何の問題もないんですけど。まりぃ先生はおかしそうに笑い、会長さんに青い袋を手渡しました。
「着てほしいのはこれなのよ。ウチのお店の商品じゃなくて、1点ものの特注品なの。着替え終わったら戻ってきてね、窓から逃げて行ったりせずに」
お願いを聞いてあげたでしょ、と言われた会長さんは着替えのために出てゆきました。待っている間、まりぃ先生は私たちに腐女子談義を熱く語って聞かせます。
「だから、教頭先生は攻めに決まっているというわけよ。…ブルー君にはシド先生なんかもお似合いかもね。もちろん、受けはブルー君。分かるかしら、めくるめく禁断の世界」
分かりたくなんかありません!という心の叫びを声にすることはできませんでした。まりぃ先生のご機嫌を損ねたら、せっかくの苦労が水の泡です。私たちのせいで停学や退学の危機に陥った同級生を救うためには、グッと堪えていなくては…。幸か不幸か、会長さんはモデル稼業を楽しんでいるようですし。
「着替え、できたよ」
扉が開いて会長さんが顔を覗かせました。
「驚いたな、サイズぴったりだ」
「「「!!???」」」
会長さんが纏っていたのは鼻血ものの夜着ではなくて、細い身体をピッタリと包み込む白い服。手足は殆ど覆われていて、手首から先と足の先しか見えません。これって、もしかしてレオタードですか!?
「うふ、学園祭の時の仮装を見ていて閃いたのよ。白ぴちアンダーってところかしら。サイズは健康診断の時に測ってるからピッタリフィットで当然でしょ?」
まりぃ先生は、会長さんと対の仮装をしていたキース君が後夜祭でドレスに着替えるところを目撃していたらしいのです。
「アンダーウェアがとても素敵だったの。身体の線が綺麗に出てて、ブルー君のアンダー姿もぜひ見たい!って思ったのに…機会がないまま終わっちゃって。あれこれ妄想している内に、この服を思いついたってわけ♪」
肌が白いから黒よりも白がエロくていいでしょ、と力説されても困ります。キース君は「セクハラ教師に身体の線をバッチリ見られた」ことと「妄想ウェアを生み出す引き金を引いてしまった」ことのダブルショックで打ちのめされている模様。白ぴちアンダーには上着の飾りとよく似た模様が付いていましたが、パッと見には「何も着ていない」ように見える色合いでした。目の毒というのはこのことかも。
「このこだわりが分かるかしら?…ブルー君の肌の色に合わせてあるのよ」
色の扱いなら任せてちょうだい、と、まりぃ先生は大得意。会長さんもノリノリです。
「どんなポーズがいいのかな?…いくらでもリクエストに応じるよ」
「嬉しいわぁ!センセ、感激して涙が出ちゃう。じゃあ、早速…」
白ぴちアンダーは下手な夜着より刺激的なシロモノでした。まりぃ先生がメインディッシュと呼んでいたのも納得です。会長さんは求められるままに様々なポーズを取っていますが、まりぃ先生の頭の中には会長さんと密着している教頭先生の姿がしっかり浮かんでいるのでしょう。腐女子談義を聞いてしまった今となっては、言われなくても容易に想像できてしまったり…。
「はい、お疲れ様」
まりぃ先生が鉛筆を置き、やっと終わったかと思ったら。
「最後の1枚を描きたいんだけど、少しハードになるのよね。…休憩を挟んだ方がいいかしら?」
「休憩無しで構わないよ。家に帰って休んだ方がリラックスできるし、早く終わりにしてほしいな」
なんと、まだもう1枚描くようです。しかもハードって、いったい何が?
「ブルー君がOKだったら問題ないわね。それじゃ一気に済ませちゃいましょ」
まりぃ先生は「小道具を取ってくるから」と部屋を出て行き、戻ってきた時には赤い紐を持っていました。赤い…紐…。まさか…まさか、あの紐は…。
「今度は誰かにお手伝いをして貰わなきゃ。そうねぇ…誰にしましょうか」
端から順に私たちを見つめる視線が何往復かして、ピタリと止まり。
「…キース君。あなたが一番いい感じだわ」
「えっ?」
「だ・か・ら。…ブルー君と絡んだら絵になりそうっていう意味よ。さっきの話、もう忘れちゃった?絵になる二人ってポイント高いの♪」
ひぇぇぇ!キース君は禁断の世界を夢見る腐女子好みのルックスだったみたいです。
「そんな隅っこに隠れてないで、こっちに出てきて紐を持って。さあ、早く」
グズグズしてると理事長の家に電話をかけてしまうわよ、と脅しをかけられ、前に進み出たキース君。深紅の紐を受け取らされたその後は…。
「えっと。…ブルー君を後ろ手に縛ってくれるかしら?」
「えぇっ!?」
「いいから、いいから。…ね?構わないでしょ、ブルー君」
「うん。別にキースを恨んだりしないし、縛っていいよ。手だけじゃなくて、もっと…だよね、まりぃ先生?」
「もっちろんよ♪」
まりぃ先生と会長さんは顔を見合わせてクスクス笑っていますけれども、白ぴちアンダーの会長さんを縛り上げるなんて悪い冗談としか思えません。キース君は目を白黒させて、震える声で。
「…無理です!お、俺には…そんな恐ろしいこと…」
「恐ろしいだなんて、酷いわ、酷いわ!まりぃ、傷ついちゃう。理事長に泣きついちゃおうかな~っと」
「キース、やるだけやってごらんよ。感情をコントロールするのは得意だろう?…任務だと思って縛ればいい」
会長さんに激励されて紐を握り直したキース君。やっとのことで会長さんを後ろ手に縛ったのですが、まりぃ先生は更に要求をエスカレートさせてゆきます。
「ああっ、ダメダメ、そうじゃなくて!…そっちから紐を後ろに回して…。ああぁ、全然ダメじゃない!」
会長さんの身体を縛り上げるよう指図されても、天才肌のキース君は紐に関しては不器用でした。ちっとも先に進まない状況の中、繰り出された次のコマンドは…。
「マツカ君、お手伝いしてあげて。あなた、手先が器用そうだし」
「ぼくですか!?」
「そうよ。…あなたとキース君の共同作業っていうのも、絵心をくすぐられるのよね」
マツカ君はズーンと落ち込み、キース君が呻きます。この二人も腐女子フィルターを通して見るとセットものとして成り立つのかも。
「ほらほら、急がないと理事長の家に電話するわよ」
非情な脅しにマツカ君がキース君を手伝い、まりぃ先生の好みどおりに会長さんを縛ろうと悪戦苦闘。よっぽど難しいのでしょうか、全然進展しないようです。
「まだかい?…だいぶ疲れてきたんだけれど」
後ろ手に縛られた会長さんが溜息をつき、キース君とマツカ君が平謝りに謝りながら紅紐と格闘しています。まりぃ先生は妥協を許さず、初志貫徹に燃えていました。もっと助っ人を出すように言われたらどうしましょう?…私たちが青ざめていると…。
「ぶるぅ」
会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」を呼び、何かコソコソと耳打ちを。
「かみお~ん!!!」
次の瞬間、雄叫びと共に紅紐が宙をクルクルと舞い、会長さんはアッという間に見事に縛り上げられたのでした。
「…どうかな?…まりぃ先生、イメージどおり…?」
白ぴちアンダーの上から紅紐で縛られ、床に横たわった会長さんの赤い瞳が揺れています。
「最高よぉ!ぶるぅちゃん、なんていい子なの!」
まりぃ先生は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頬にチュッとキスをし、大喜びでスケッチブックを広げました。会長さんの妖艶な姿を描き留めながら完璧に腐女子モードです。私たちの存在なんて、きっと石ころ以下だったでしょう。だって、西日が差し込む頃にハッと気付いて言ったんですもの。「あら、あなたたち、まだいたの」って。
紅紐から解放された会長さんは意外に元気そうでした。まりぃ先生の家を出た後、私たち全員を瞬間移動で自分の家へ連れて行ってくれ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手作りお菓子を食べながら。
「うーん…。流石に肩が凝ったかな。ぶるぅ、ちょっとマッサージしてくれるかい?」
「うん!ぼく、きつく縛りすぎちゃったのかなぁ…」
「いいんだよ。まりぃ先生のイメージどおりにやってくれたんだから」
会長さんの説明によると「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、まりぃ先生の心を読んで紐の結び方を知ったのだとか。
「他にも色々な結び方が頭の中に入っていたよ。まりぃ先生、物知りなんだね」
マッサージしながらニコニコ笑う1歳児。無駄な知識を仕入れてしまって可哀相な気もしますけど…まりぃ先生の無理な注文をさっさと片付けるためには仕方なかったのかもしれません。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、ふとマッサージの手を止めて…。
「ねぇ、ブルー。…まりぃ先生って強盗もするの?」
「「「強盗!?」」」
ぶっ飛んだ問いに私たちはビックリ仰天。あの家に凶器ってありましたっけ?
「えっと、えっとね…そうじゃなくて。人を縛る方法が役に立つ時ってあるのかな、って考えたけど…強盗の他にもあったっけ?…あ、泥棒も縛るかなぁ…」
まりぃ先生が強盗に泥棒。私たちの頭の中を駆け巡ったのは「目出し帽に出刃包丁」とか「頬かむりに唐草模様の風呂敷」という珍妙な格好で高笑いする姿でした。鮮明な映像をみんなで共有してしまったのは会長さんの力のせいでしょうか?床を叩いて笑い転げて、紅紐の記憶も消し飛びそう。
「まりぃ先生は強盗じゃないよ。泥棒でもないと思うけど…ちょっと特殊な人かもね」
会長さんはクスクスと笑い、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭を撫でました。
「でも、ちゃんと理事長に話をつけてくれたし、いい人なのは間違いないさ」
「…交換条件を出されたじゃないか」
不満そうな声のキース君。
「あんなことになるんだったら、ぶるぅの手形に頼った方が良かったような気がするぞ。なんで俺まで…」
「ご愁傷様。予想通りの人選だったし、その辺はちょっと残念かな」
「「「予想通り!?」」」
私たちは血相を変えて会長さんに詰め寄ります。予想通りってことは、ああなるってことを知っていて…?
「うん。まりぃ先生が白いアンダーを発注したのも、受け取ったのも知っていたんだ。ぼくに着せるチャンスが無いって嘆いてたのもね。…だから飛び込んでみたんだよ」
非日常な体験が出来て楽しかった、と会長さんは微笑みました。
「ぶるぅの手形は便利だけども、ぼくたちの出る幕がない。救出劇をやろうというなら、他人に頼らず自分たちの力でなんとかしたいと思わないかい?」
停学中や退学の危機の同級生を、身体を張って助けた会長さん。けれど本当にそうでしょうか。正攻法だとか言ってましたけど、まりぃ先生の家へ出かけて白ぴちアンダーを着てみたかっただけなのかも…。紅紐事件も予測していたみたいですから、実に迷惑な話です。人を巻き込むのが大好きな会長さんにまたやられた…、と溜息をつく私たち。今日の記憶はきっと消してはもらえないでしょうね。