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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

二学期期末試験・第3話

修学旅行で問題を起こした同級生の処分は無事に撤回されました。まりぃ先生のおかげです。会長さんが暗躍していたことは誰も知りませんし、「理事長の温情判決」ということになっているみたい。1年生のクラス全部に活気が戻ってしばらく経ったある朝のこと。A組の教室に机が増えて会長さんの登場です。そうか、期末試験が近いんだ…。グレイブ先生が出欠を取り、5日間に渡る試験日程が発表されて。
「諸君、今回も我がクラスは学年1位をキープするように。ブルーがいる以上、必ず1位を取ってくれたまえ」
言われなくても楽勝です。会長さんは試験前日まで保健室を活用しながらA組の教室に通ってきました。試験開始後はキース君を除くA組全員と、今回も泣きついてきたサム君に百点満点の回答をコッソリ意識下に流し込んでくれ、期末試験は無事終了です。あとは恒例の打ち上げで…。

「今度も焼肉パーティーかな?」
影の生徒会室でジョミー君が言いました。寒くなったので鍋物もいいね、という声も…。
「ちゃんこ鍋はどうだろう」
提案したのはキース君。するとすかさず「そるじゃぁ・ぶるぅ」が割り込みます。
「美味しいお店、知ってるよ!ちゃんこ鍋会席コースがあって、ちゃんこも種類が色々あるんだ♪」
味噌に醤油に水炊き風に…、と説明されて私たちはすっかり乗り気。ちゃんこ鍋会席コースは2人いれば鍋の種類を選ぶことができると聞けば、これは行くしかないでしょう。いろんな種類のちゃんこを頼んで味見し合うのも楽しそうです。全種類を制覇したらしい「そるじゃぁ・ぶるぅ」のオススメは秘伝の味噌味ちゃんこだとか。
「ねぇ、ブルー。味噌味ちゃんこ、美味しいよね」
「そうだね。ぼくはしばらく行っていないし、今日の打ち上げはちゃんこにしようか」
会長さんが頷いたことで、行き先はちゃんこ鍋のお店に決定です。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を出た私たちは校門ではなく本館の方へ向かいました。本館といえば教頭室。パーティーとくれば教頭室で資金調達してから出かけるもの、と当然のように思っているのは少し厚かましすぎるでしょうか?
「かまわないさ。ハーレイは今度もちゃんとおごってくれるよ」
自信たっぷりの会長さんが教頭室の扉を叩くと、聞きなれた渋い声が返ってきました。
「どうぞ」
「こんにちは、ハーレイ」
会長さんに続いてゾロゾロ入った私たちと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に教頭先生は苦笑い。
「さっそく来たな。試験の打ち上げに行くんだろう。今日も焼肉パーティーか?」
「ううん、今度はちゃんこ鍋。ぶるぅとぼくのお気に入りの店なんだけど、ちゃんこ鍋も会席コースになると高いんだよね」
「ははは、それはそうだろう。ちゃんこ鍋だけにしておこうとは思わないのがお前らしいな」
そう言いながら教頭先生は引き出しを開け、熨斗袋を取り出して会長さんに手渡します。
「取っておきなさい。いつものことだから用意しておいた」
「ありがとう」
遠慮もせずに受け取った会長さんでしたが、表情がスッと険しくなって。熨斗袋の紅白の水引を外し、包みを開けてお金を数え始めました。1回、2回と数え直す間に顔はますます厳しくなります。なにか不都合でもあるのでしょうか?ちゃんこ鍋を食べに行くには充分な額に見えるのですが…。
「…少ない…」
会長さんの赤い瞳が教頭先生を睨み付けました。
「…中間試験の時より少ないように思うんだけど?今回は期末試験だよ。試験は2日も多かったんだ。その分、増やしてくれたというならともかく、減額って納得できないな」
「…そ…それは…」
お札を突きつけて問い質す会長さんに、教頭先生はしどろもどろです。
「…年末年始は何かと物入りなシーズンなんだ。お歳暮も贈らなければならんし、付き合いの方も色々と…」
「忘年会に新年会、ね。自分が飲みに行くお金はあっても、ぼくの為に使うお金は無いんだ?」
ボーナスも貰っているだろう、と会長さんは怒り出しました。
「前に婚約指輪を買ってくれるって言わなかったっけ。ぼくを手に入れるための出費は惜しまないくせに、手に入らないと分かったら財布の紐を締めにかかるだなんて最低だよ。惚れた相手にはとことん貢ぐのが男の甲斐性ってヤツじゃないのかい?」
「…ち、違う!そんなつもりでは…。本当に今は金が無いんだ。麻雀でかなり負けが込んだし…」
「分かった。じゃあ、ちょっとゼルの所に行ってくる」
「ゼル?」
「うん。…覚えてるよね、修学旅行最後の夜に何があったか」
会長さんが浮べた冷たい笑みは、私たちでさえ背筋が寒くなるものでした。
「ゼルが謝りに来ただろう?ぼくに騙されて誤解してた、って。…キースたちに責められたからゼルに話をしに行ったけど、あの場にいたのはハーレイとぼくと…寝ていたぶるぅ。真相は藪の中だよねぇ?…これからゼルに話してくるよ。ぼくが騙したことにしておけ、とハーレイに脅迫されたんだ、ってね」
踵を返そうとした会長さんを教頭先生が慌てて呼び止めます。
「そ、それだけはやめてくれ!…あの時でさえ胃痛になるほどネチネチと責め立てられたんだ。口封じをしていたなんて告げ口されたら、今度は何をされるか分からん」
そう言いながら財布を出して。
「…仕方ない…。これを渡したら、向こう1週間は買い置きのカップ麺しか食えないんだが、お前にやろう」
「悪いね、ハーレイ」
なけなしのお金を巻き上げた会長さんは満足そうに微笑みました。
「自分の食事はカップ麺でも、ぼくには美味しいものを沢山食べてほしいだろ?…このお金は有効に使ってあげるから安心して。…そうそう、シーフードヌードルは温めたミルクで作ると美味しいらしいよ。カレーヌードルはスプーン1杯のインスタントコーヒーでグッと旨みが増すんだってさ」
「…そうか…」
力なく頷く教頭先生。カップ麺しか無いというのは嘘じゃなかったみたいです。

それから会長さんはお金を纏めて熨斗袋に入れ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に持たせました。そして教頭先生の机に頬杖をつき、顔を見上げるようにして。
「ねぇ、ハーレイ。机と椅子と、どっちが好き?」
「…?」
首を傾げる教頭先生。私たちにも意味はサッパリ不明でした。
「机と椅子とじゃ、どっちが好きか…って聞いてるんだよ。この机と、今座っている椅子のこと」
「………。机…だろうか」
「どうして?」
「三百年以上使っているからな。たかが机だが愛着がある。椅子は何度も買い換えているし、机に比べれば馴染みが薄い」
重厚な机だと思ってましたが、アンティーク家具なら当然です。磨き込まれた木の机には思い出が詰まっているのでしょう。会長さんは頬杖をついたまま、更に重ねて。
「じゃあ、机とぼくならどっちが好き?」
「…………!」
「机?」
「…い、いや……」
お前に決まっているだろう、という簡単なセリフがなかなか言えず、やっとのことで口にした教頭先生はビッシリと汗をかいていました。
「机と椅子なら机が好きで、ぼくと机なら…ぼくなんだね?」
念押しをする会長さんに、頬を赤らめて頷く教頭先生。会長さんは「分かった」と言って身体を起こし、一歩後ろに退きます。
「大事なお金も貰ったことだし、お礼をしてから出かけるよ。…見てて」
青い光がパァッと会長さんの身体を包み、制服がフッと消え失せて…。
「「「!!!!」」」
教頭先生ばかりか私たちまで目が点です。会長さんが纏っていたのは、まりぃ先生が特注してきた白ぴちアンダーそのものでした。身体の線を惜しみなく晒し、足先も裸足。
「ふふ。どう?ハーレイ。…似合ってる?」
会長さんは教頭先生愛用の大きな机にスッと手をかけ、よじ登り…。声も出せない教頭先生の前で手を後ろにつき、足を崩して横座りに。白ぴちアンダーでやって見せるには艶かしすぎるポーズです。
「この格好が御礼だよ。ハーレイが好きな机とぼくの取り合わせ。…でも、ちょっと刺激が強すぎたかな?椅子って答えてたら、膝の上に座ってあげようと思ったんだけど」
ティッシュで鼻を押さえる教頭先生を眺めて会長さんが笑っています。
「そうだ、我慢大会しようか?…十五分間、そのまま椅子に座ってられたら…財布から出してくれたお金を全部返してあげてもいいよ。熨斗袋に入れてくれてた分は貰っておくけど。…いいかい、今から十五分だ。ぼくから視線をそらしたりしちゃダメだからね」
机に置かれた時計を指差し、会長さんは横座りから片膝を立てて見せました。あのぅ…横座りよりヤバイのでは?教頭先生をからかうように会長さんは机の上で身体を反らせたり、よじったり…と、まるで気まぐれな猫のよう。まりぃ先生の妄想イラストのモデルをした時に取らされていた妖しいポーズを次から次へと繰り出します。
「…どうしたのさ、ハーレイ?…そんな所を必死に押さえて?」
え。そんな所って…そういう所!?教頭先生の両手は机の陰で見えませんけど、多分、大事な所がとんでもないことになっているのでしょう。えっと、えっと…。あ、スウェナちゃんも真っ赤な顔。
「あと十分」
笑いを含んだ声で軽やかに告げ、また新しいポーズを決める会長さん。今度は後姿を強調ですか…。途端にガタン!と教頭先生が椅子から立って、物凄い勢いで奥の部屋へ駆け込んで行きました。
「あーあ…。たった6分でギブアップか」
呆れたように溜息をついた会長さんが机から降り、瞬時に制服に戻ります。しばらく待ってみましたけれど、教頭先生はそれっきり戻ってきませんでした。

期末試験の打ち上げパーティーは「そるじゃぁ・ぶるぅ」御推薦のちゃんこ鍋のお店です。個室でちゃんこ鍋会席コースを頼み、ちゃんこの種類はもちろん色々。ワイワイと盛り上がりながらも、教頭先生や白ぴちアンダーの話は誰もが避けていたのですが…。
「ねぇねぇ、ブルー」
とことん子供な「そるじゃぁ・ぶるぅ」が会長さんをつつきました。
「ハーレイ、いったいどうしちゃったの?…急に走って行っちゃうなんて」
「我慢大会って言っただろう?我慢できなくなったんだよ」
「…ふぅん…。何を?」
「ぼくと結婚したいって気持ち」
そうなんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は素直に納得しています。会長さんの今の言い回しといい、教頭室での出来事といい…やはり教頭先生は限界を突破しそうになって仮眠室へと飛び込んだ模様。その後、何がどうなったのかは考える気にもなれません。まったく、会長さんのやることときたら…。
「…あんた、あの服、どこから調達してきた?」
キース君が話題をそらすべく質問すると、会長さんはしごく真面目な顔で。
「まりぃ先生の家から借りた」
「借りた!?」
「ちょっとね、無断借用ってヤツ。ハーレイにも見せてあげたいじゃないか、ぼくに御執心なんだからさ」
ああぁ、また話題が教頭先生の方向へ…。
「いけないかい?…今日のスポンサーはハーレイだよ。スポンサーの話題は必須だろう」
本当か!?と私たちは心で叫びましたが、会長さんに口で勝てるわけありません。ダテに三百年以上も生きているわけじゃないんですから。
「本当はね、まりぃ先生が言ったんだ。あの服でぜひ教頭先生を誘惑してね、って」
「「「えぇぇっ!?」」」
まりぃ先生、とうとう妄想を現実のものにしたくなったようです。それって流石にマズイんじゃあ…。
「うん、まずいんじゃないかと思うよ。だってさ…ぼくとハーレイがそういう仲になってしまったら、まりぃ先生の立場が無いじゃないか」
「まりぃ先生の…立場?」
オウム返しに言うキース君。
「そう。まりぃ先生は特別室でぼくと遊ぶのが大好きだけど、ぼくの身体は1つだし…。ハーレイの仮眠室に誘われちゃったら、まりぃ先生の所に行くのはどう考えても無理だよねぇ?」
だからそう言ってあげたんだ、と会長さんは笑いました。
「まりぃ先生、青ざめちゃってさ。今の話は忘れなさいとか、あの服は処分しちゃおうかしら…とか、パニックに陥ってたけども…。でも、未練がましくクローゼットの奥にしまっているんだよ」
まりぃ先生、会長さんと過ごす甘い時間の方が趣味の世界より大切だったみたいです。教頭先生が会長さんを取ってしまったら、まりぃ先生の特別室は用済みになってしまうんですし。
「ぼくがあの服をハーレイの前で着たと知ったら、まりぃ先生、どうするだろうね?…まぁ、分からないように元の袋に戻しておいたし、絶対、気付かないだろうけれど」
でも念のために、と会長さん。
「ぶるぅ、夜中になったらさっきの服をもう一度コッソリ借りてくるから、洗って乾かしてくれるかな?…ぼくの痕跡は綺麗に消した方がいい」
「うん!任せといて。…その代わり、ブルーの分のデザートちょうだい♪」
「いいよ。…いや、それよりデザート追加で注文しちゃおう。ハーレイから沢山巻き上げたしね」
会長さんはメニューを眺め、私たちの分もデザートを追加注文しました。お腹いっぱいになるまで食べて楽しく騒いで、お支払いは教頭先生のお金。余った分は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が食材を買う足しにするそうです。
「教頭先生に返してあげないの?…カップ麺だって言ってたのに」
「返さないよ」
ジョミー君の意見は会長さんにサクッと却下されました。
「ハーレイが金欠になった理由は麻雀で負けたからなんだ。なのに年末年始は物入りだ、なんて下手な言い訳しちゃってさ。…本当にぼくが大事だったら、もっと誠意を見せないと。ぼくを怒らせた以上、カップ麺でも仕方ないね」
プライドを傷つけられたんだ、と主張している会長さん。教頭先生の片想いを踏み躙りながら何処まで行くのか、私たちにも分かりません。…教頭先生、こんなにされても会長さんが好きなんですか…?




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