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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

二学期終業式・第3話

会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が海に沈んだアルタミラの生き残りだと教えられてから一夜が明けて。朝食は卵料理にソーセージ、サラダなどが並ぶゴージャスなものでした。しっかり食べてお皿を片付けようとキッチンに行くと、昨日の食器がテーブルの上に山積みです。昨日のお鍋や朝食の用意に使ったらしいフライパンなどもそのままですし、今度こそ洗い物を…と思いましたが。
「洗わなくていいよ。お皿はテーブルの上に…って、もう一杯か」
所狭しと積み上げられた食器を眺めて会長さんが言いました。
「じゃあ、シンクの中に入れておいて。後片付けより、昨日の続き」
私たちは運んできたお皿やカップをシンクの中に重ねて入れると、リビングに移動。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が紅茶を淹れてくれ、会長さんが優雅にカップを傾けながら。
「ぼくとぶるぅが何処から来たかは話したよね。信じてくれたと思うけれども、何か聞きたいことはあるかい?」
「…つまらないことなんだが…」
口を開いたのはキース君。
「あんた、緋の衣を持ってたよな?ぶるぅと旅をしていて校長先生とかと出会って、シャングリラ学園を創ったという話と合わないような気がするが…。緋の衣は簡単に貰えるものじゃない。十年やそこらでは無理な筈だ。それとも旅をしている間に寺に住んでたことがあるのか?」
「ああ、あれね。…さすが未来の住職は言うことが違う」
会長さんはおかしそうに笑い、説明をしてくれました。
「お寺で修行をし始めたのはシャングリラ学園に入った後だよ。休学扱いにして貰って何度も何度も修行に行った。ぶるぅも連れて行ったんだ。ぼくの他に身寄りがいないから、ってね」
修行の動機は教えて貰えませんでした。アルタミラと一緒に亡くしてしまった家族や住民の供養のためか、とキース君が尋ねましたけど、「なんとなく面白そうだったから」という答えが返ってきただけです。会長さんがお寺で修行をしている間、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は小さな子供の特権で偉いお坊さんたちに甘やかされていたのだとか。
「色々な悪戯をしていたけれど、誰もぶるぅを叱らなかったな。子供っていうのは得だと思うよ。ぼくは厳しくしごかれたのに」
お蔭で緋の衣が着られる高僧になれたけどね、と会長さんが思い出話をしている最中に玄関のチャイムが鳴りました。お客様が来たみたいです。フィシスさんでしょうか?
「来た、来た。…ちょっと待っていて」
会長さんがパタパタと出て行き、ガチャ、と扉を開ける音が。そして…。
「おはよう、ブルー」
聞こえてきた声はフィシスさんの柔らかな声と違って、渋くて低い声でした。あ、あの声は…。
「「「教頭先生!?」」」
ビックリ仰天する私たちの前に会長さんと一緒に現れたのはスーツ姿の教頭先生。
「ふむ、7人か。予定通りの人数だな」
えっ、7人って?…予定通りって、何のことでしょう?
「例のお歳暮さ」
会長さんがシャツのポケットから白いチケットを取り出しました。
「はい、お手伝い券。…ハーレイ、今日は一日よろしく頼むよ」
「分かった。では、ここにサインをするように」
教頭先生が指差した欄に会長さんがサインし、教頭先生が日付と自分の名前を記入して。
「お手伝い券、確かに受け取った。古典の集中講義をしようと思うが、他の教科でも疑問点があれば言ってくれ。担当の先生と連絡を取ってフォローしよう」
ひえぇぇ!そんなの聞いてませんよう…!

リビングのソファに腰を下ろした教頭先生はカバンから分厚いファイルとノートを取り出しました。
「それでは集中講義を始める。メインの生徒はブルーでいいな?」
「あ、ちょっと待って」
会長さんが教頭先生の言葉を遮ります。私たち、何も勉強道具を持って来てませんし、その件かな?
「洗濯物が溜まってるんだ。…終業式の日から来客の用意で忙しかったし、今日も洗濯できていないし」
「そうなのか。先に洗ってきていいぞ。洗濯物を溜め込むのは気分のいいものじゃないからな」
清潔なのが一番だ、と言う教頭先生に会長さんが返した言葉は…。
「洗ってくれ、って言ってるんだよ」
「なに!?」
「だ・か・ら。…洗濯物を洗ってくれ、って。お手伝い券を渡したじゃないか」
「なんだって!?」
教頭先生は目を見開いて会長さんを見つめました。
「お手伝い券はそういう目的で発行されたものじゃないぞ。あくまで生徒の勉学のために…」
「分かってるさ、そのくらい。…チケットの注意書きにも書いてあったし」
「だったら…」
「ぼくはお手伝いをして欲しいんだよ」
赤い瞳が楽しそうにキラキラ輝いています。会長さんは教頭先生にズイと近づき、隣にストンと腰を下ろして。
「嫌だっていうなら考えがある。ぼくが襲われたとしか思えない写真をでっち上げるくらい、簡単だしね」
シャツのボタンに手をかけながら、クスッと笑う会長さん。
「みんな、ケータイを用意して。じきに決定的瞬間が撮れる」
「ブルー!!」
教頭先生は慌ててソファから立ち上がろうとしましたが…。
「ダメ」
会長さんの手がしっかりとスーツの袖を掴んでいました。
「ぼくを襲う現場を撮影されて学校に通報されるのがいいか、一日ぼくの手伝いをするか。…十、数える間に決めたまえ。いいかい?…十、九、八……」
わざとゆっくり数える会長さんに袖を掴まれたまま、教頭先生は脂汗を浮べています。
「六…五…四……三……」
「わ、分かった!…降参だ…」
カウントダウンが終わらない内に白旗を上げた教頭先生。
「お手伝い券の使い道はお前に一任することにする。洗濯をすればいいんだな?」
「そうだよ。洗濯物の場所はぶるぅに教えてもらうといい。…そうそう、その前に…その服じゃ動きにくいだろうから、これに着替えて」
いつの間にか「そるじゃぁ・ぶるぅ」がきちんと畳んだ白い割烹着を持っていました。
「ちゃんと特大サイズを用意しといた。スーツはそこのハンガーにかけていいから」
何を言われても教頭先生は逆らえません。スーツの上着を脱いで割烹着に着替え、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に案内されて廊下の方へと出てゆきます。洗濯物の量は知りませんけど、なんだか気の毒になってきました。
「いいんだよ。ハーレイにはちゃんと役得もあるし」
役得?…怪訝な顔の私たちを他所に、会長さんが声を張り上げました。
「下着は下洗いしてから洗濯機に入れてくれないと怒るからね!…白黒縞じゃなくて普通のだけど」
ひぃぃぃ!それが役得ですか!お揃いのトランクスで鼻血を出してた教頭先生に自分の下着を洗わせるなんて、会長さんの神経はいったいどうなっているんでしょう。気持ち悪いと思わないのかな…。
「平気だよ。本当に履いたヤツじゃないしね」
それはぶるぅが洗ってくれた、と笑みを浮べる会長さん。ダミーの下着を洗わせるつもりらしいです。
「いいじゃないか、シャツとかは本当にぼくが着ていたヤツなんだから。今頃、感激しながら洗っているさ」
そこへ「そるじゃぁ・ぶるぅ」がトコトコトコ…と戻ってきて。
「ねえ、ブルー…。ハーレイって洗濯好きなんだね。ぼく、下洗いは下着だけでいいよって言ってあげたのに、シャツとかも頑張って下洗いしてる」
うーん、会長さんもさることながら、教頭先生も凄いかも。大好きな人の洗濯物を丁寧に洗おうという心意気には恐れ入ります。会長さんが洗濯物を溜め込んだのは、計画的な犯行でしょうね。

「ブルー、洗濯機は回してきたぞ。洗い上がるまで古典の講義を…」
戻ってきた教頭先生の提案は即座に却下されました。
「洗濯が終わるまでに掃除を頼むよ。昨日から掃除機かけてないんだ。ゲストルームとかはいいから、リビングとダイニングと廊下をキッチリ」
なんと!昨夜スナック菓子を食べ散らかしたせいでリビングの絨毯は汚れたままになっていましたが、それも計算の内だったようです。教頭先生は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が運んできた掃除機を手にしてガーガーと掃除し始めました。私たちは邪魔にならないよう移動しながら、堪えきれずについ笑い声が…。
「ぼくが貰ったお手伝い券を持ってったのは、この為だったの?」
ジョミー君の言葉に会長さんは軽くウインクしてみせました。
「当然じゃないか。…ブラウもゼルも、全く気付いていなかったけどね」
掃除機をかけ終えた教頭先生は「そるじゃぁ・ぶるぅ」にダメ出しされながら洗濯物を干してきたようです。今度こそ、と古典のノートを開こうとすると。
「悪いけど、キッチンに洗い物が山積みになっていて…。それも片付けてくれないかな」
ひゃああ!昨日から洗い物をさせなかった真の理由が分かりました。綺麗好きな筈の「そるじゃぁ・ぶるぅ」がフライパンも洗わずにキッチンに放置していた訳も。あの大量のお皿とお鍋の山を洗って片付けるのはかなり時間がかかるでしょう。お昼前になってしまうのは確実です。
「君たちは何も手伝わなくていいからね。…ぶるぅ、そろそろお茶にしようか」
更に洗い物を増やそうとする会長さん。キッチンで孤独にお皿やお鍋を洗う教頭先生の耳には、お菓子を食べながら賑やかに騒ぐ私たちの声が届いていたと思います。それでも、やっとのことでお皿を片付け終わったらしく。
「終わったぞ、ブルー。まだ昼までには少しあるから、勉強しよう」
「…お昼はドリアが食べたいんだ。ホタテと海老のヤツがいいな」
ご飯は炊飯器に入ってるから、と会長さんが言い放ちました。
「私がドリアを作るのか?」
「他に誰がいるのさ。…たまにはぶるぅをゆっくりさせてやりたいじゃないか」
教頭先生はスゴスゴとキッチンに入って行ったのですが、すぐにリビングにやって来て。
「冷蔵庫に海老はあったがホタテは無いぞ。…海老ドリアでも構わんだろう?」
「ぼくはホタテと海老のドリアが食べたいんだよ」
会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に買い物籠を持ってこさせて、教頭先生に渡しました。
「無いんなら買ってくれば済むことだろう?…ついでに買ってもらう物あったかな、ぶるぅ?」
「えっとね…。タマネギとジャガイモがそろそろ切れそう。あと、マッシュルームと牛の薄切り。今夜はハヤシライスにしたいし」
ブルーとぼくだけだから量はそんなに要らないけどね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が差し出した買い物メモを手に、教頭先生はスーパーへ。よほど脱力しているのでしょう、割烹着のまま行っちゃいましたよ。道中やスーパーで笑われないといいんですけど…。
「気にしなくていいよ、自業自得だし。…あ、今、スーパーの入り口のガラスに映った自分の姿にビックリしてる」
クスクスクス。会長さんは教頭先生の買い物風景を眺めて楽しんでいるようです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」も同じものを見てワクワクしているみたいですから、きっと似合っていないんでしょう。

買い物から帰ってきた教頭先生は、休む暇もなくドリアを作らされました。しかも私たちや自分の分も含めて十人前。オーブンから熱々のお皿をトレーに乗せてダイニングに運ぶ教頭先生に向かって会長さんが言った言葉は…。
「ハーレイ、君が食べる場所はキッチンだからね。テーブルがちゃんとあっただろう?お手伝いさんは御主人やお客様と一緒にテーブルを囲むものではないんだよ」
そして私たちはダイニングでホタテと海老のドリアを美味しく頂き、教頭先生はキッチンのテーブルで寂しく食事。教頭先生の手作りドリアは、けっこういける味でした。一人暮らしが長いので、お料理は得意らしいんです。後片付けも教頭先生が一人でやって、私たちはのんびりおしゃべりタイム。
「…ブルー、やっと片付いたぞ。一休みさせて貰ってから、古典の授業を始めるからな」
割烹着を脱いだ教頭先生は一人掛けのソファに腰かけ、ぐったりと沈み込みました。しばらく経って聞こえてきたのは大きなイビキ。そりゃあ…あれだけ酷使されたら疲れますよねぇ。
「まだまだ。…目を覚ましたらマッサージをして貰うんだ」
「「「マッサージ!?」」」
私たちは思わず叫んでしまいました。マッサージって…教頭先生が会長さんを…?それって、とっても危ないのでは。教頭先生は会長さんが好きなのですし、マッサージをして貰うだなんて、いくらなんでもヤバすぎます。だって、会長さんの身体を触り放題…。
「大丈夫。やらせるのは足つぼマッサージだから」
それならいいか、と胸を撫で下ろした私たち。教頭先生は1時間ほどグッスリ眠って、すっきりと目を覚ましました。
「うーむ、よく寝た。疲れも取れたし、授業をするか」
「その前に…マッサージをして欲しいんだけど。最近、疲れ気味なんだよね」
「…マッサージ?」
ゴクリと唾を飲み込んだ教頭先生。ああ、やっぱり…。でも会長さんは平気な顔で。
「うん、足つぼマッサージをして欲しいんだ。素人でも大丈夫だよ、ちゃんと図解した絵があるから。ぶるぅ、持ってきて」
「了解~♪」
運ばれてきたのは両足の裏にあるツボと効能が書かれた足裏の絵でした。会長さんは裸足になって一人掛けのソファに腰かけ、教頭先生に視線を向けます。
「この絵があれば出来るだろう?…ツボを押してくれるだけで十分なんだ。ハーレイは力が強いからね」
有無を言わさぬ口調に教頭先生は絨毯に座り、言われるままに足つぼマッサージを始めたのですが…。
「あっ…」
ビクン、と会長さんの身体が反り返りました。唇から漏れた声は、少し甘くて。
「もっと…。もっとだ、ハーレイ」
手を止めた教頭先生を顎で促し、会長さんは白い素足を差し出します。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が足ツボの図解を指差し、これと、これ…と説明するのに合わせて足つぼマッサージは続きました。
「…っつ!…そ、そこ…。もっと…」
会長さんは苦痛と快感が入り混じったような悲鳴を上げて身体を反らせ、その度に教頭先生がビクッとするのが分かります。頭の中に危ない妄想が浮かんでくるのか、教頭先生の息は荒くなり、赤くなった顔にはビッシリと汗が。
「…あ、ああっ…!」
ひときわ高い会長さんの声が響き渡った次の瞬間、教頭先生は凄い勢いでリビングを飛び出して行きました。バタン!とドアが閉まる音がして「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「ハーレイ、我慢してたのかなぁ?…トイレって早めに言えばいいのに」
ちょっと我慢が違うだろう、と私たちは思いましたが、1歳児には言えません。会長さんがクスクスと笑いながら身体を起こして廊下の方を眺めました。
「…言えなかったんだろう、小さな子供じゃないからね。ふふ、少し時間がかかるかな?…足つぼマッサージをやらせたのは我ながらナイスアイデアだったよ」
教頭先生がトイレから戻ってきたのは、かなり時間が経ってからでした。心身を落ち着かせるのに苦労したものと思われます。疲れた足取りでリビングを横切り、ハンガーにかけてあったスーツを着ると…。
「すまない、ブルー。お手伝い券を受け取っておいて申し訳ないが…」
「帰りたい?」
会長さんの問いに教頭先生は素直に頷き、許しを得るとカバンを持って私たちに頭を下げました。
「諸君、まことに心苦しいのだが…職務を全うできないようだ。この埋め合わせはいずれ改めて…」
そこへ会長さんが割り込んで。
「いいよ、ハーレイ。もう存分に働いて貰ったし…お手伝い券は使い切ったことにしておいて。帰ってゆっくり休んでよね」
バイバイ、と手を振る会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に見送られて教頭先生は帰って行ったのでした。

会長さんが教頭先生を弄んでいる内に、時間は午後の3時を過ぎていて。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ってくれたホットケーキを美味しく食べてから会長さんの家とお別れです。
「今度はクリスマスパーティーだよ。また連絡するから遊びにおいで」
もう変なゲストは呼ばないから、と会長さんは微笑みました。
「クリスマスはぶるぅの誕生日なんだ。だからイブと当日と、連続パーティー。泊る用意は必須だからね」
うわぁ、なんだか素敵かも!昨日は会長さんの過去が明かされ、今日は教頭先生の登場でおかしなことになりましたけど、クリスマスは楽しく過ごせるといいなぁ…。みんなも同じ気持ちみたいです。でも、今回のお泊りは有意義なものではありました。まだ残っている沢山の謎が全部解けるのはいつなんでしょうね…?




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