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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

修学旅行・第3話

会長さんに見せられた夢の記憶が鮮やかに残る修学旅行2日目の朝。朝食を終えてホテルを出るなり、私たちは会長さんを責めたてようとしましたが…。
「ブルーが夜中にお風呂に行っちゃいけないの?」
無邪気に尋ねたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「露天風呂に入ってくるって言ってたよ。ハーレイが先に入っていたらしいけど」
そうだよね、と言われて会長さんは頷きました。
「ぶるぅは寝てると言ったじゃないか!嘘だったのか!?」
キース君の叫びに「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「半分寝てた」と答えます。会長さんが露天風呂で教頭先生をからかったことは理解できていないようでした。
「ぼく、ハーレイってよく分からないや。ブルーと結婚したがってるくせに、なんでブルーから逃げるのかな?」
「…子供は分からなくてもいいと思うぞ…」
キース君が溜息をついて小さな頭をポンポンと叩き、露天風呂事件の苦情は言い出しにくい状況に。その間に会長さんが今日の予定を決めてしまって、トロッコ列車に乗ることになりました。景色のいい峡谷に沿って列車は川の上流へ。終点の街で名物のお蕎麦を食べ、小さなお城を見学してから帰りは船で川下りです。二十人も乗れば一杯になる小さな船で下っていくと、たまに急流があったりもして「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大喜び。トロッコ列車も気に入ったみたいでしたし、今日のコースは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に合わせたのかな?
「ねぇねぇ、また船に乗りたいな。今度はもっと大きなのがいい!」
ホテルに帰る途中で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言い出しました。もっと大きな船…ですか?私たちが悩んでいると、会長さんがいとも簡単に。
「じゃあ、明日は足を伸ばして湖の方に行ってみようか。隣の町に大きな湖があるんだよ。遊覧船に乗れば一日遊べる」
遊覧船のお昼はビュッフェ形式で食べ放題だよ、と聞けば反対する理由はありません。そういうわけで翌日の予定も決まり、ホテルに帰ってお風呂に夕食。夜はまたまたジョミー君たちの部屋に集まって騒ぎ、消灯時間になりました。

「…今夜は何もないといいわね」
「まさか二日続けて教頭先生をからかったりは…」
スウェナちゃんとベッドの中で話していると、突然ドアのチャイムが鳴って。わ、私たち、何かやったでしょうか?こんな時間にチャイムを押すのは先生以外にありません。呼び出されて廊下で1時間正座の刑が待っているとか?
「電気つけてないわよね」
「テレビもつけてないよねぇ…」
コソコソと話していると、またピンポーン、とチャイムの音。待たせると心象が悪くなるかも、と急いでドアを開けたのですが…。
「「アルトちゃん!?」」
「ごめん。中に入れて」
立っていたのはパジャマ姿のアルトちゃん。先生が来たら大変です。私たちは慌ててアルトちゃんを呼び込み、ドアをしっかり閉めました。
「どうしたの?こんな時間に。先生に見つかったら廊下で正座よ」
スウェナちゃんが言うとアルトちゃんは。
「絶対に見つからないから大丈夫、って…ぶるぅが…。ぶるぅに送ってもらったの」
「「ぶるぅ!?」」
「うん。…今、お部屋には生徒会長さんが…」
フットライトしか点けてないのでアルトちゃんの顔色は分かりませんが、もじもじしている様子と『生徒会長』という単語から大まかなことは理解できます。アルトちゃんはrちゃんと同室でした。
「まさか、お守り使ったの!?」
スウェナちゃんが叫ぶと、アルトちゃんは「ううん」と首を左右に振ります。
「晩御飯の前に会長さんが部屋に来て…今夜遊びに行っていいかな、って。もちろんです、ってrちゃんと返事をしたら、遊びに来るのは消灯時間の後だけど…って」
「じゃ、じゃあ…rちゃんは…」
アルトちゃんはコクンと頷き、お守りを初めて使ったのはrちゃんの方だったから、今日もrちゃんを優先したのだと言いました。優先ってことは、もしかして…次があったりするんですか!?
「生徒会長さん、明日の晩もお部屋に来るって言ったから…」
続きは聞き取れませんでしたけど、明日はアルトちゃんの番なのでしょう。スウェナちゃんと私は心の中で「会長さんの大嘘つき!」と叫んでいました。「ぶるぅがいるから今年は自粛」と言ってたくせに、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に片棒担がせてしまってますよ…。でも、起こってしまったことは仕方ありません。アルトちゃんは私たちの部屋に泊まって、翌朝、迎えに来た「そるじゃぁ・ぶるぅ」に連れられて帰っていきました。
「みゆ、どう思う?」
「…うーん…。みんなには言えないよね」
こうして会長さんとrちゃんの逢瀬は闇から闇へ。私たちは涼しい顔の会長さんや「そるじゃぁ・ぶるぅ」と湖に行って大きな遊覧船に乗り、豪華なビュッフェと雄大な景色を楽しんで…3日目の夜も更けてゆきます。そして再び鳴らされるチャイム。今度はrちゃんでした。会長さん、全然自粛していませんし!…でも、まぁ…アルトちゃんとrちゃんなら元々お守りを貰っている仲なんだから、部屋番号を渡した人の所を渡り歩いているよりマシかも…。

rちゃんを泊めた夜が明けるとナスカ滞在最後の日です。明日には電車に乗って帰るわけですし、丸々一日遊んでいられるのも今日でおしまい。修学旅行のエキスパートの会長さんにナスカ名所を案内してもらって、お土産も色々買い込んで…。名物のトマト羊羹とかトマトゼリーは重すぎるので宅配便にしてしまいました。
「トマトパンも美味しかったよね」
「なら、山ほど背負って帰ってみるか?」
ジョミー君とキース君が話している横で、スウェナちゃんと私が眺めていたのは綺麗な青い色をしたスプーンとカップ。ナスカ特産の石を削って作るらしいのですが、ちょっと高すぎて手が出ません。でも…欲しいなぁ…。トマト羊羹とかを沢山買わなかったらスプーンくらいは買えたのに…。
「スプーンだったら買ってあげるよ」
会長さんの声で振り向くと、優しく微笑みかけられて。
「ぼくはお土産はフィシスの分しか買っていないし、お小遣いには余裕があるんだ。気に入ったデザインのを1本ずつ買ってあげるから、選ぶといい」
えぇっ!?本当にいいんですか?…「本当だよ」と言った会長さんは石と細工の目利きもしてくれ、スウェナちゃんと私はとても素敵な青いスプーンを手に入れました。その後で会長さんが青い石のペンダントを2つ、レジに持って行ってプレゼント用の包装を頼んでいたのは、見なかったことにしておきましょう。乙女はプレゼントというものに弱いんですし、私たちだって乙女ですもの。
「えへへ、いいもの貰っちゃった♪」
スウェナちゃんと私がスプーンの包みを自慢していると、男の子たちは不満そう。
「畜生、ホントにツボを心得てやがる」
サム君が言えば、マツカ君が。
「…みゆさんとスウェナさんまで毒牙にかけるつもりでしょうか…」
「あいつらも一応、女だからな」
そう言ったキース君の脇腹にスウェナちゃんの肘鉄が決まりました。
「ちょ、スウェナ…。やりすぎだって!」
「なによ、ジョミーだって似たようなこと考えたでしょ!!」
そりゃ、私たちなんて会長さんからもジョミー君たちからも女扱いされてませんが、プライドってヤツはあるんです。スウェナちゃんみたいにガツンと一発やればよかったかな…キース君を。こんな馬鹿騒ぎをしたりしながら、修学旅行4日目は和やかに暮れ、ホテルに帰ってお風呂に入り、夕食前にスウェナちゃんとロビーにいた時でした。
「あ、アルトちゃんとrちゃんだ」
今朝まで交代で私たちの部屋に泊まっていった二人が自販機のジュースを買いに来ています。声をかけようかな、と思っていたら現れたのは会長さん。手にはしっかり昼間に買ったペンダントの包みを持っていました。やっぱりアルトちゃんたちへのプレゼントだったみたいです。頬を染めている二人を眺めて私たちは額を押さえ、どちらからともなく「あと一晩」「あと一晩」と呪文のように唱えたのでした。

修学旅行最後の夜もジョミー君たちの部屋で騒いで、この4日間で遊び疲れた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は早々に丸まって沈没です。つついてみて爆睡中なのを確かめたキース君が会長さんをジロッと睨み、ドスの効いた声で言いました。
「初日の夜は派手にやってくれたが、正式な謝罪を聞いていないぞ。あんな夢まで見せやがって!」
「別にいいじゃないか。ハーレイから苦情は来てないよ?」
会長さんは悪びれもせず、「君たちも退屈してたじゃないか」と切り返します。確かに退屈してましたけど、あんなサプライズは誰も望んでいなかったわけで…。
「分かったよ。…じゃあ、この次は手加減するから大目に見といてくれないかな?」
「次なんぞ要らん!」
キース君が叫び、私たちは揃って頷きました。次が来るくらいなら謝罪なんかは要りません。
「そう?それじゃ、お言葉に甘えて謝罪は無しで」
旗色も悪いようだし退散するよ、と会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」を抱え上げて帰ってしまいました。男の子たちより2晩多く会長さんの被害を蒙っていた私たちですが、スプーンのプレゼントを貰ったおかげで今はすっかり許せる気持ち。消灯時間まで楽しく遊んで「おやすみなさい」と解散です。
「…さすがに今夜は誰も来ないわよね…」
「ぶるぅも寝てたし、大丈夫。どっちにしたって、あと一晩!」
「そうよね、今夜で終わりだものね」
できれば何事もありませんように、とお祈りしながらいつの間にか眠ってしまいました。どのくらい経った頃でしょうか。
『起きて。面白いものを見せるから』
頭の中に声が響いて、スウェナちゃんと私が目を覚ますと。
『みゆとスウェナはまたパジャマかな?…だったら浴衣を上に着て』
会長さんの声であることを認識するまで少し時間がかかりました。ぐっすり眠っていたんですから。…そのせいで私たちは警戒もせず言われるままに浴衣を着込み、青い光に包まれて…。
「ようこそ、ぼくとぶるぅの部屋へ」
えぇっ!?会長さんが浴衣姿で立っています。そして周りには寝ぼけ眼のジョミー君たちが同じように連れて来られていました。部屋はフットライトしか点いていなくて暗いのですが、目が馴れた頃にキース君が。
「こんな所に呼び出すなんて…今度は何を企んでいる?」
「ふふ。もうすぐハーレイが来るはずなんだ」
げげっ!教頭先生を部屋に呼んだだなんて、これはとんでもないことに…。
「大丈夫。心配しなくても、ぼくもみんなと一緒にシールドの中」
「なんだと!?」
かくれんぼでもする気なのか、とキース君が詰め寄った所でドアがカチャリと開きました。
「シッ!…来たよ」
慌てて息を潜める私たち。部屋の隅っこに固まっていると、開いたドアから人影がスルリと部屋に入って、扉が閉じて。よく見えませんが、本当に教頭先生でしょうか?
「うん。…そのまま静かにしてて」
会長さんの囁き声に重なるように聞こえてきたのは教頭先生の声でした。
「…ブルー…。私だ。寝たふりか?」

「「「!!!!!」」」
出た!と叫びそうになるのをグッと堪えた私たち。教頭先生は部屋を横切り、窓に近い方のベッドに歩み寄ります。
「手紙をくれたから来てみたが…。またからかわれているのだろうか。…それでも来ずにはいられなかった」
えっと。あのベッドに会長さんが眠っていると思い込んでいるのかな?
「ぶるぅを寝かせてあるんだよ。枕の上に髪だけ見えている筈だ」
「…悪辣だな…」
呆れた声のキース君。「そるじゃぁ・ぶるぅ」と会長さんの髪は見た目には同じ銀髪です。と、いうことは…教頭先生が忍んで来た今、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が危ないのでは!?
「心配いらない。ハーレイに渡した手紙にはこう書いておいたんだ。ぼくを口説き落とせたら、一晩一緒に過ごしてもいい…と。ぶるぅは君たちの部屋に泊らせるから二人きりだよ、って」
なんとも用意周到です。教頭先生はそうとも知らず、会長さんを口説き始めました。部屋が暗いせいで気恥ずかしさが減るのでしょうか、ヘタレだなんて思えません。熱っぽく三百年以上に渡る想いの丈をぶつけていますが、相手は爆睡モードの「そるじゃぁ・ぶるぅ」。馬の耳に念仏というヤツですけれど、いいか、本人が幸せならば。
「ブルー、これでもまだ足りないか?…どう言えばお前の心に私の気持ちが届くのだろうか…」
教頭先生が切々と訴えながら銀色の髪に手を伸ばします。私たちがアッと息を飲み、緊張が走った次の瞬間。
「ぐおーーーっっっ!!」
物凄いイビキと共に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が寝返りを打ち、毛布をバサッと蹴飛ばしました。
「…うっ…」
教頭先生が替え玉と知ってのけぞったのと、部屋の明かりがパッと灯ったのは殆ど同時。
「残念でした。…でも、熱い想いはしっかり聞かせてもらったよ」
シールドから出たらしい会長さんが教頭先生に歩み寄ります。照明が点いたのは間違いなく会長さんの仕業でしょう。教頭先生は会長さんしか見てませんから、私たちはまだシールドの中で、見えていないということですね。
「せっかくだから、少しだけ…ぼくに触れさせてあげようか?ぶるぅの意識は落としてあるし、二人きりなのと変わらないよ」
会長さんは空いた方のベッドに腰掛け、浴衣の襟元をはだけました。
「…勇気があるなら触ってみる?…ぼくをその気にさせられたなら、寝てあげたっていいんだけども」
ひゃああ!私たちは真っ赤になってしまいましたが、教頭先生はそれ以上。ヘタレ度ゲージが一気に上がって十割増しくらいになっていそうです。誘うように胸元に手を差し入れる会長さんから目を離せないくせに、距離は少しも縮まらなくて…。
「ねぇ、ハーレイ…。さっき話してくれたのは嘘?…ぼくの家で抱き上げてくれたのも冗談だった?」
「……それは……」
「行動で示してくれなきゃ分からないよ?言葉だけでは伝わらない」
会長さんが浴衣を肩から少し滑らせ、真っ白な肌が覗きます。教頭先生の喉がゴクリと鳴って、ヘタレの虫をねじ伏せたのが分かりました。柔道十段の逞しい教頭先生の腕で押し倒されたら、いくら会長さんでも危ないかも…。でも、シールドの中の私たちでは会長さんを助けられません。誰か…誰か、助けに来てーっ!!

心の叫びが天に届いたか、扉がバンッ!と開きました。
「誰じゃ、電気を点けとるヤツは!!」
C組の担任のゼル先生が青筋を浮べて立っています。が、すかさず駆け出した会長さんがゼル先生にしがみつき、泣きそうな声で…。
「助けて!…ハーレイが…、ハーレイが無理矢理…」
「なんじゃと!?」
ゼル先生は扉を閉めて部屋に入ると、浴衣がはだけた会長さんを眺め、それから教頭先生をじっと眺めて。
「ハーレイ…いや、教頭!これはいったいどういうことじゃ!!」
「…い、いや……それは……」
「ブルーの寝込みを襲ったのか!?…修学旅行には何度も同行したが、教師が生徒を襲うなどという不祥事はこれが初めてじゃ!校長に報告しなくてはならん。…教頭といえども場合によっては…」
クビになるってことでしょうか?私たちはサーッと青ざめましたが、会長さんがゼル先生に訴えます。
「…待って…。校長先生には報告しないで。被害者は誰か、ってことになったら、ぼくも学校に居づらくなるし、誰にも言わずに黙っていて」
「…むむぅ……」
ゼル先生は腕組みをして難しい顔をしていましたが、やがて結論が出たらしく。
「分かった。…ブルーの言うとおり、表沙汰にしない方が良さそうじゃ。しかし、こやつは許し難い。日を改めて個人的にみっちり焼きを入れておいてやる。ブルー、怖かったろうが、ハーレイはお前の担任じゃ。変えるとなると先生方に事情を話さねばならん。…我慢してもらうしか無いが、困った時はわしが相談に乗ってやるから遠慮しないで来るんじゃぞ」
そしてゼル先生は教頭先生の言い訳も聞かず、腕を引っ張って廊下へと消えて行ったのでした。後に残された私たちは再び灯りが消された部屋でシールドを解かれ、会長さんの極悪ぶりをなじったものの。
「いいじゃないか。表沙汰にはならないんだから懲戒免職になることもないし、減棒にだってならないし。…知っているのはゼルだけっていうのが最高だよ。ゼルは頑固で口うるさいから、ハーレイ、さぞかし大変だろうねぇ」
それじゃおやすみ、と言われて青い光が閃くと…私たちは自分の部屋に戻っていました。日付はとっくに変わっています。うーん、今夜は目が冴えちゃって眠れないかも…。

心配したわりに最後の夜は熟睡できたようでした。朝食の後、ホテル近辺を散策してからバスに乗り込み、駅では練習しまくった整列乗車で電車に乗って…修学旅行もそろそろ終わり。また駅弁が配られてきて「そるじゃぁ・ぶるぅ」がはしゃいでいます。昨夜聞かされた教頭先生の熱い告白は全く知らずに寝てたんでしょうね。教頭先生の方はいつもどおりの落ち着きぶりで、ゼル先生も普段と変わりませんが…修学旅行が無事に終ったら何が起こるのか想像するのも怖いです。個人的にみっちりと…焼き。教頭先生、どうか御無事で…。




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