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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

修学旅行・第2話

電車の乗降練習を経て、修学旅行の日がやって来ました。荷物を持って学校に集合し、バスで駅まで行って無事に電車に乗り込んで…。放課後に続けた練習の成果はバッチリ現れ、電車は定刻どおりに発車です。あとはナスカに着くまで座っていれば問題なし。A組に加えてもらった「そるじゃぁ・ぶるぅ」は会長さんの隣の席でした。昼食に配られた駅弁を広げ、美味しそうに食べています。
「ブルー、修学旅行って何をするの?」
「…学校によって違うけど…シャングリラ学園では親睦旅行みたいなものかな」
特にテーマがあるわけじゃないし、と会長さん。事前に予定表を提出したりすることもなかったせいで、行き当たりばったりの旅をしようとしている生徒もかなり多いようです。私たちのグループもそうだったり…。班行動という制約が無いので、自由に行動できる昼間はC組のサム君とシロエ君も合流してくる筈でした。駅弁を食べ終えて少し経った頃、ナスカの駅に到着です。練習どおり整然と下車して、クラスごとにバスでホテルへ。
「諸君、今日から4日間、ここに連泊だ。節度ある行動を期待しているぞ」
ホテルでは原則、二人一部屋。グレイブ先生に部屋の鍵を貰ったら後は夕食まで自由行動。私はスウェナちゃんと二人部屋、ジョミー君とキース君はマツカ君も加えて三人部屋。他にも三人部屋の生徒が何人かいます。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はもちろん一緒のお部屋でした。部屋に荷物を置いた後はサム君たちとロビーで待ち合わせして、総勢9人でホテルを出ようとすると…。
「あ、あのぅ…」
A組では見かけない女の子が2人、会長さんを呼び止めました。
「これから外出されるんですか?」
「うん。…君たちも一緒に行きたいんなら歓迎するよ」
ああぁ。早速ナンパですか!まぁ人数が増えても会長さんがフォローするなら問題ないし、と思いましたが女の子たちは首を振って。
「それは…申し訳ないですし。あの、これ。…よかったら食べて下さい」
昨日頑張って作ったというクッキーの小さな包みを渡して2人は走り去りました。会長さんは2人が見えなくなるまで手を振っています。2人とも振り返る勇気はないと知りつつ見送るところは流石としか…。
「これが修学旅行の醍醐味だったりするんだよね」
そう言った会長さんはホテル近辺の名所を幾つか見て回る間に何人もの女の子から差し入れを貰って微笑んでいます。学校では目立つので渡しにくいと思っている子が、チャンスとばかりに来るようでした。
「美味しいよ。食べる?」
女の子たちの手作りお菓子は会長さんだけでは食べ切れないので私たちも分けて貰いましたが…いいんでしょうか、食べちゃっても。だって貰ったのは会長さんで…。
「構わないさ。全員の顔と貰ったお菓子の味は完璧に記憶してるし、修学旅行が終わったらちゃんとお返しをするんだからね」
メッセージカードも添えるんだよ、と楽しそうな会長さん。『シャングリラ・ジゴロ・ブルー』のハートを掴むのは、なかなかどうして大変そうです。

ホテルに戻るとお風呂と夕食。温泉を引いた大浴場もありました。スウェナちゃんと出掛けてみると露天風呂もあり、綺麗な川と優美な山が目の前です。昼間みんなで散歩していた立派な橋も遠くに見えていい感じ。お風呂の後はジャージに着替えて大広間で夕食の時間でした。ワイワイ賑やかな食事が済むと消灯時間まで自由ですけど、ホテルの外へは出られません。
「ジョミーたちの部屋が一番広いよ」
会長さんの一言で、私たちのグループはジョミー君たちの部屋へ押しかけることになりました。確かに三人部屋だけあって広さにグンと余裕があります。ソファやベッドに適当に陣取り、持参したお菓子を食べたりしながら話していると…。
「あれ?…それ、なに?」
ベッドに座っていたジョミー君が会長さんに目を留めました。会長さんは窓際の椅子に座ってメモのようなものを眺めています。そばの床では「そるじゃぁ・ぶるぅ」が眠そうに丸くなっていて可愛いかも。
「…気になるかい?」
ひい、ふう、みい…とメモを数えながら会長さんが言い、私たちが頷くと…。
「部屋番号」
「「「は?」」」
部屋番号って、部屋の番号?そんなもの見て面白いかな?
「楽しいよ。全部、女の子の部屋の番号なんだ」
「なんだと!?」
キース君が険しい目をして会長さんを睨んでいます。
「そんなもの、何処で調達してきた?…先生の部屋じゃないだろうな」
「人聞きの悪いことを口にしないでくれたまえ。ぼくが貰ったものなんだからね、よかったら遊びに来て下さい…って」
えっと。…スウェナちゃんと私もジョミー君たちの部屋に来てるんですし、会長さんをお部屋に誘う女の子がいても特に不思議はないですよね。っていうか、遊びに行ってあげればいいのに…。
「これは消灯後のお誘いだよ?」
「「「ええぇっ!?」」」
消灯時間後に出歩くのは禁止だと警告されています。見つかったら廊下で1時間正座の刑だと聞きました。
「ね?…だから気軽に出掛けるわけにはいかなくて…。それを承知で部屋番号を渡しに来る子が何を考えているかくらいは、君たちだって分かるだろう」
ひえええ!もしかして、そのメモは会長さんと間違いをやらかしたい子が持ってきたというわけですか!?
「…そういうこと。この時間なら私一人ですから、とか添え書きがしてあるんだよ。これも修学旅行の醍醐味だね。
1年生の修学旅行だから、普段より数は少ないけども」
「…あ、あんた、まさか…」
キース君の震える声に、会長さんはニコッと笑って。
「行かないよ。今年は自粛」
「こ、今年は…って…」
「だって。今年はぶるぅがいるからね」
丸くなっている「そるじゃぁ・ぶるぅ」は既に半分寝ています。本当に抑止力が期待できるというのでしょうか?…っていうか、今年は自粛ってことは、過去は散々あちこちの部屋を渡り歩いて過ごしたとか…?
「ご想像にお任せするよ。…ところで、そろそろ消灯時間かな?」
時計を見ると確かに消灯時間が近づいていました。それぞれの部屋の扉の前で点呼を待たないといけません。ジョミー君たちの部屋を片付け、「そるじゃぁ・ぶるぅ」を抱っこした会長さんがみんなの顔を見渡して。
「おやすみ。それじゃ、また」
「「「おやすみなさーい!!!」」」
私たちは割り当ての部屋に戻って、先生方が点呼に回ってきた後、扉を閉めて消灯です。賑やかだったホテルの中はすぐに静かになりました。

「…全然眠くならないわね…」
フットライトだけが灯った部屋でスウェナちゃんが呟きます。旅で興奮しているらしく、一向に眠気が訪れません。退屈しのぎにケータイでも…と思っても、点呼の時に回収されてしまって朝まで戻ってこないんです。メールで連絡を取り合って間違いを起こされてはたまらない、という先生方の意向でしょう。
「灯りをつけてもいけないだなんて、厳しすぎ」
「外から窓ガラスをチェックしてるから灯りをつけたらすぐに分かる、って言ってたものね…」
昼間は自由行動させてるくせに、妙な所で厳しいです。テレビも消灯時間後は禁止。こっちの方も電源を入れたらフロントに筒抜けになると言われました。暗い中でひたすら耐えるというのも不毛ですから、話すくらいしかないわけですが…。
『退屈してるみたいだね』
不意に聞こえたのは会長さんの声でした。頭の中に直接呼びかける、あの声です。
『みんな眠れないようだし、付き合ってよ。…みゆとスウェナはパジャマかい?だったら、上に浴衣でも着て』
え、浴衣?…スウェナちゃんと私は「聞こえた?」と互いに確認してからベッドを出ました。浴衣はクローゼットの中。暗いのにも目が馴れてきたのでフットライトの灯りで十分動き回れます。パジャマの上から浴衣を着込み、しばらくすると…また声が。
『飛ぶよ。急に明るくなるから気をつけて』
パアッと青い光がはじけて、眩しい灯りが目に刺さりました。思わず目を閉じ、何度か瞬きをして見回してみるとジョミー君たちが同じことをしています。みんな揃っているようですが、此処はいったい何処なんでしょう?真っ白だった視界が落ち着いてくると、だだっ広い部屋にいるのが分かりました。壁際に洗面台がズラッと並び、反対側には脱衣籠が入った棚が並んでいます。確か夕方、こんな景色を見たような…。
「脱衣場だよ、男湯の」
「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」
「シッ、声が高い。…シールドしてるから落ち着いて」
浴衣姿の会長さんが悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていました。
「君たちの姿は見えないようになっている。声も外へは聞こえないから安心したまえ」
「な、な、…なんで男湯?」
ジョミー君が言うと会長さんはクスッと笑って脱衣場の隅っこを指差します。
「ほら。あそこに特大のゴマフアザラシ」
そこには明らかに着ぐるみと分かるゴマフアザラシが潜み、カメラを隠し持っているようでした。
「中身はまりぃ先生なんだ。君たちと違ってシールドは無い。まさに決死の覚悟だろうけど、本当に来るとは恐れ入ったな」
「…あんた、いったい何をする気だ。…ぶるぅはどうした!?」
キース君の言葉に会長さんはクスッと小さく笑いました。
「ぶるぅは部屋で寝ているよ。この程度の距離と人数だったら、ぼく一人でも簡単に飛べる。…まりぃ先生にはぼくが手紙を書いたんだ。夢の混浴シーンを撮りませんか、って」
「「「混浴!?」」」
「うん」
会長さんが浴衣をバサッと脱ぎ捨て、現れたのは青月印…ではなくてハーレー製の白黒縞の海水パンツ。それだけを着けた会長さんは備え付けの白いタオルを腰に巻きつけ、「どう?」と首を傾げます。
「何も着てないように見えるかな?」
とんでもない質問でしたが、私たちは素直に頷きました。スウェナちゃんと私の顔はとっくに真っ赤になっています。男湯に来てしまったと知った段階から既に赤かったかも…。
「今、ハーレイが一人で入っているんだよ。何時に入るのか知っていたから、まりぃ先生に教えておいたんだ。じゃ、からかいに行ってくるね。あ、露天風呂の方に移ったみたいだ」
「ちょっと待て!」
キース君が腕を掴もうとしましたが…。
「残念。今からコンタクト不可」
会長さんの声が遠くなり、私たちはシールドの中で動きが取れなくなりました。代わりにゴマフアザラシのまりぃ先生が会長さんに気付いてカメラを向けます。会長さんはまりぃ先生に軽く手を振り、浴室へ続くガラス戸を開けて湯煙の中へ。その後ろからゴマフアザラシがモゾモゾと匍匐前進を…。まりぃ先生、根性です。
「…どうなると思う?」
「考えたくない…」
そんな短い会話の後は重い沈黙が落ちてきました。どのくらい時間が経ったでしょうか、まりぃ先生が閉めていった浴室の扉がガラッと開き、飛び出してきたのは教頭先生。凄い勢いで脱衣場を横切り、洗面台に置かれたティッシュを鼻に詰めると…濡れた身体を拭きもしないで浴衣を纏い、逃げるように走り去ったのです。スリッパも履き忘れていったみたいですけど、会長さんはいったい何を…。
「まりぃ先生、いいのが撮れた?」
「いやねぇ、いつから私の趣味を知ってたの?…いけない子ね」
海水パンツの会長さんと着ぐるみを抱えたまりぃ先生が連れ立って浴室から出てきました。ゴマフアザラシの着ぐるみの中にはカメラが入っているのでしょう。会長さんは男湯を出てゆくまりぃ先生を「じゃあね」と笑顔で見送り、私たちの方にやって来ました。
「ふふ。…混浴露天風呂、楽しかったよ。まりぃ先生の視点から見た映像を見せてあげようか?」
要りません!と悲鳴を上げる私たちに会長さんは「残念」と呟き、備え付けのバスタオルで身体を拭いて浴衣を羽織り、スッと両手を差し出して。
「退屈しのぎになったかな?…おやすみ、明日も楽しく観光しようね」
青い光に包み込まれて、気付くと元の部屋でした。スウェナちゃんと私はパジャマだけの姿に戻ってベッドにもぐり込み、さっき見てきた事件について話している内にウトウトと…。その夜の夢は露天風呂で寛いでいる教頭先生にそっと忍び寄る会長さん。肩を叩いて驚かせてから、白い手足を見せ付けるようにゆったり伸ばし、触れるか触れないかくらいの距離を保って露天風呂の中を行ったり来たり。最後は艶やかな笑みを浮べて、両腕を教頭先生の逞しい首に…。
「…スウェナちゃん…。夢、見た?」
翌朝、こわごわ尋ねてみるとスウェナちゃんはコクリと頷きました。朝食で会ったジョミー君たちも「変な夢を見なかった?」と声を潜めて囁きます。会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」と並んで座って涼しい顔をしていますけど、昨夜の夢は会長さんに一方的に流し込まれた『まりぃ先生が見ていたもの』でしかありません。…修学旅行、残り3泊。私たち、無事に帰れるでしょうか…?




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