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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

卒業旅行・第2話

ソレイド八十八ヶ所、お遍路の旅…ではなく『キース君のお遍路を見守る旅』は、会長さんのマンションに近いアルテメシア公園の駐車場から始まりました。マツカ君が用意してくれたのは豪華な小型サロンバス。2人掛けのシートが8つとテーブルを三方から囲める4人掛けのシートが3つあります。冷蔵庫やお湯を沸かせるポットもついてて、テレビにカラオケセットもあって…。小さなシャンデリアもついた内装に感激しながら、運転手さんに荷物を積んでもらって乗り込んで…行き先はまず元老寺です。
「いいよなぁ、このゆったりシート」
サム君が2人掛けシートに1人で座ってグーンと大きく伸びをしました。
「ソレイドに着いたらキースはバスを降りるんだから、全部で8人になるんだろ?毎日楽々2人掛けのシートに1人で座れるって勘定だよな!」
私たち7人組と会長さんに「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ソレイドまでは9人ですけど、その後は1人減るんです。マツカ君の執事さんが手配してくれたバスは人数にバッチリ合っていました。さすがにプロの執事さんは気配りが行き届いていますよねえ。…バスは郊外へと走っていって、山沿いの元老寺の山門前で停車です。あれ?キース君がいない。山門から乗ってくるんだと聞いていましたが…。
「キースなら本堂で待ってるよ」
会長さんが立ち上がり、バスから降りるようにと言いました。
「昨夜、電話を貰ったんだ。キースのお父さんがぼくたちに会いたがってるから、って」
え。キース君のパパが…アドス和尚さんが私たちに?お餞別でもくれるのでしょうか。お菓子だといいな、と思いつつ本堂に入っていくと、荘厳な仏像や飾りの前の畳敷きの場所にキース君とアドス和尚が座っていました。二人とも墨染めの衣です。
「いらっしゃい。この度はせがれの修行の旅を皆さんで見守って下さるそうで…。いやあ、実に有難いことです。こんなに大勢のお友達や、位の高い方に御一緒して頂けるとは、せがれは本当に幸せ者で」
「………………」
満面の笑みのアドス和尚の隣で、キース君は仏頂面でした。アドス和尚は私たちを信じて手放しで喜んでますけど、キース君は知ってますものねぇ…言いだしっぺの緋の衣の人の正体を。
「これ、キース。お前からもきちんとお礼を言わんか!」
「…お世話になります…」
「それだけでは誠意が通じんわい!!」
キース君の背中を押してお辞儀させようとするアドス和尚を会長さんが止めました。
「いいんです。ぼくたちは卒業旅行を兼ねてるんですし」
「おお、そのように聞いております。卒業旅行に八十八ヶ所巡礼の旅とは素晴らしい。…しかも、あなた様は御卒業なさるわけでもないのに、大勢を引率されるとか。さすがに位の高いお方ともなると違いますな。せがれを宜しくお願いします」

アドス和尚はペコペコと会長さんに頭を下げて、脇の机に載せてあった本のようなものを私たち全員に配ってくれました。錦の表紙にタイトルが書かれた白い部分がありますけれど、『納経帳』って、いったい何…?中を開くとページは白紙。正確には白紙の隅っこにお寺の名前らしきものが小さく書いてあるだけです。
「せがれが世話になるお礼です。ほんの気持ちですが、卒業旅行の記念にどうぞ」
ニコニコと笑うアドス和尚。なんですか、この変なタイトルの白紙の本は!?
「お若い方はご存じないでしょうな。それは納経帳と言いまして…まあ、御朱印帳のようなもんです。八十八ヶ所を回られるなら持って行かれた方がよろしい。お寺でお参りをなさったら、納経所という所でそれをお出しなさい。お寺の御朱印を頂けますから、いい記念品になりますよ」
一種のスタンプラリーですな、とアドス和尚は笑いました。
「いや、僧籍の身でスタンプラリーなんぞと罰当たりなことを言ってはいかんのですが、お若い方にはスタンプラリーと申し上げた方が馴染みやすいかと思いましてな。それから、もう1つ…。これをお持ちになりませんと」
渡されたものは白いお札の束でした。お坊さんの絵と『奉納八十八ヶ所霊場巡拝』『同行二人』の文字がモノクロで印刷されています。よく見ると日付と住所氏名を書き込むようになってるみたい…。ただのお札じゃないようです。
みんな、お札の束を手にして怪訝な顔。
「それは納め札と言いましてな」
アドス和尚が解説をしてくれました。
「お寺にお参りなさる時には、その札を1枚ずつ納めるようになっとるのです。専用の箱が置いてありますから、そこへお入れになるといい。お参りに行かれた日付と住所氏名を書くのが正式ですが、なあに、日付なんぞは年月さえ合っておれば日の部分は吉日でかまいません。それから…」
ここが重要ですぞ、とアドス和尚は声を潜めて。
「住所は最後まできちんと書かずに町名までで止めて下さいよ。アルテメシア、とだけお書きになってもよろしい。番地まで書いてしまうと恐ろしいことになるのです」
えっ、恐ろしいことって…何が起こると!?
「お寺には良からぬ輩が訪れることもございましてな。納め札の箱から中身を持ち去り、住所氏名を元に個人情報を入手する。…そうなりますと、皆さんの御宅に墓地や墓石のダイレクトメールが嫌と言うほど届くことに…」
げげっ。それは嫌すぎます。住所はアルテメシアまでで止めておかないと…。っていうか、なんでこんなお札まで持っていかないとダメなんですか~!!
「そうそう、あとはお経の本ですが…偉い方が御一緒ですし、こちらはコピーでよろしいでしょう」
般若心経が書かれた紙を1人1枚ずつ貰ってしまい、なんだか頭痛がしてきました。もしかしなくても八十八のお寺を回るのには般若心経が必須ですか?
「ああ、お経は特にお唱えになる必要は…。まあ、寺によっては唱えてこないと御朱印を押さないとゴネる所もありますのでな、その時はこれが役に立ちます」
ひぇぇぇ!…そんなお寺に出くわした時は会長さんに代表で唱えてもらえばいいですよね?なんといっても本職ですし、言いだしっぺの物好きですし!…そんなこんなで妙なアイテムを入手し、私たちはキース君を連れてマイクロバスに戻ることに。が、庫裏に入ったキース君が出てくると…。
「うわぁ…。マジかよ、その格好…」
サム君が言うのも無理ありません。キース君は托鉢をするお坊さんのように網代笠を頭にかぶり、手には『同行二人』と書かれた白木の杖を持っていました。で、背中には…墨染めの衣にはまるでミスマッチのバックパック。色が黒いのが救いと言えば救いでしょうか。そして首から托鉢用の黒い布袋を提げ、袋には白抜きで『元老寺』の文字。
うーん、キース君の本気は分かりますけど、そんな格好で一緒にバスに乗るんですかぁ?

私たちを乗せたサロンバスは高速道路をひたすら走って、ソレイドへ。途中のサービスエリアで昼ご飯を食べようと食堂に入り、みんな好きなものを注文します。私は軽めにピラフでしたが、ジョミー君たちは豚カツ定食や焼肉定食を頼みました。キース君は早くも精進モードに入っているのか、きつねうどん定食。全員の注文が揃った所で…。
「「「いただきまーす!!!」」」
一斉に食べ始めた横でブツブツブツ…と低い声が。キース君がきつねうどん定食に向かって合掌しています。
「…一滴の水にも天地の恵みを感じ、一粒の米にも万民の労苦を思い…」
はぁ!?ど、どうしたんですか、キース君!?
「ありがたくいただきます」
深々と頭を下げてから、キース君は割り箸を割って食べ始めました。い、今の呪文っていったい何事?
「じきじさほう、って言うんだよ」
会長さんがカレーライスを食べる手を止め、キース君を見て笑っています。
「食事の作法って書くんだけどね、八十八ヶ所を回るお遍路さんが食事の前に唱える言葉。まだソレイドにも着いてないのに恐れ入ったな」
「ひょっとして、ぼくたちも唱えなくっちゃいけないの?」
憐れな声を上げたのはジョミー君。会長さんは「まさか」と即答しました。
「キースは遍路旅かもしれないけれど、ぼくたちはスタンプラリーだよ。食事の度にあんなの唱えるなんて面倒じゃないか」
これが高僧のセリフでしょうか?…でもスタンプラリーどころか物見遊山気分で出てきた私たちですし、これくらいでちょうどいいのかも。食事の後はバスの中で食べるお菓子を買い込み、目指すはソレイド八十八ヶ所。午後のおやつの時間になる頃、やっと最初のお寺に到着です。
「ここが一番最初のお寺ですか…」
シロエ君が『一番霊場』と書かれた山門を眺めている横でキース君は山門に一礼しています。
「世話になったな、マツカ。おかげでソレイドまで無事に辿り着けた」
バスに乗せてもらったお礼を言って、バックパックを背負ったキース君が境内に入っていきました。ここから先はキース君は徒歩、私たちはバス移動。あんまり距離が開いてしまうと見守る意味が無くなるから、という会長さんの鶴の一声で、お互いにメールで連絡を取り合うことになっています。私たちはキース君から離れすぎない場所に宿泊しながら見物する…というわけですね。

「行っちゃった…」
ジョミー君が墨染めの衣に網代笠のキース君の後姿に呟きました。白木の杖をついて行きましたけど、これから3週間もかかる道のりをキース君は歩きとおせるでしょうか?じっと見送っていると会長さんが。
「スニーカーに履き替えるつもりのようだし、大丈夫だよ」
「「「スニーカー?」」」
お坊さんの衣にスニーカー。バックパック以上のミスマッチでは?
「履き慣れてない草履じゃ無理だ。3週間も歩くんだから」
ふぅん、と私たちは境内の奥を覗き込みます。キース君はまだ戻ってきません。きっと真面目にお経を上げているのでしょう。そうこうする内にキース君が杖をつきながら出てきました。
「なんだ?…お前たち、まだ居たのか」
「ご挨拶だね。心配だから待っててあげたんじゃないか」
会長さんが言うのをサラッと無視して、キース君は門前の空き地に腰を下ろすとバックパックからスニーカーを取り出します。うわぁ、会長さんが言ってたとおり!本当に履き替えるんだ…。
「それじゃ、俺はもう行くぞ。今日中に宿坊のある寺まで辿り着かないと」
キース君は地図を片手に、さっさと行ってしまいました。墨染めの後姿がすっかり見えなくなったのを見届けてから、会長さんがニッコリ笑って。
「ぼくらもスタンプラリーを始めよう。バスに戻って納経帳を持ってこなきゃね」
「納め札は…?」
シロエ君の言葉を聞くまで、納め札のことは忘却の彼方。アドス和尚に貰ったものの、まだ日付も名前も書いていません。今から書かないとダメなんでしょうか?
「白紙でも別にいいと思うよ」
会長さんの言葉を聞いて「よし、白紙だ!」と思ったのですが。
「…でも、あれって裏側にお願い事を書いてもいいんだよね。心願成就とか、無病息災とか」
「お願い事…。縁結びでもいいのかしら?」
スウェナちゃんが尋ねると、会長さんは「女の子のお願い事の定番だね」と微笑んで…。
「特に相手がいないんだったら良縁祈願、誰かいるなら具体的に書くのもいいかな」
「…分かったわ。良縁祈願ね」
そう言ったスウェナちゃんはバスに戻るなり納め札を書き始めました。日付と住所氏名を書いて、サッと裏返してサラサラと何か書き込んでいます。良縁祈願だけではないみたい。お願い事…。これは私も書かなきゃ損かも!ふと気がつくと、みんな真剣に納め札の裏にお願い事を書いているではありませんか。恐るべし、ソレイド八十八ヶ所。来てしまったら最後、お参りせずにはいられないのかもしれません。

納め札を書き終え、納経帳を手にしてバスを降りようとすると、会長さんが「ちょっと待って」と呼び止めました。
自分のボストンバッグを開けて取り出したのは掛軸みたいな巻物です。
「これを持ってって欲しいんだ。1人1本」
「「「え?」」」
訝しむ私たちに巻物を持たせた会長さんが言い出したことは…。
「御朱印を押して貰うための掛軸なんだよ。八十八ヶ所の御朱印を全て集めるのは大変だから値打ちがある。これを表装して、有名なお坊さんに箱書きを…掛軸の箱にお墨付きとかを書いてもらうことなんだけど…その箱書きをつけて貰えば更に高値がつくんだよね」
「…もしかして…売るんですか?」
掛軸を持ったシロエ君の問いに、会長さんは「決まってるじゃないか」と答えます。
「ぼくの知り合いには名の知れた高僧が多いんだ。箱書きくらい菓子折だけで頼めるよ。チャンスはしっかり掴まないと」
「自分で持っていけよ、掛軸くらい。でなきゃ、ぶるぅに持たせるとか」
サム君が口を尖らせると。
「出来るんだったらそうするさ。…でも、1人で何本も持って行くのは反則なんだ。納経帳と掛軸を1つずつでないと、販売目的だと警戒される」
「…売るつもりのくせに…」
ジョミー君がボソリと言いましたけど、会長さんは聞こえないふり。
「掛軸の分の御朱印代はぼくが出すから、今日から八十八ヶ所分の御朱印集めをよろしく頼むよ。はい、ここの分」
御朱印代まで手渡されたら断れません。こうして私たちは高僧にあるまじき行為の片棒を担がされることになったのでした。納経帳と掛軸を抱え、納め札を持ってバスを降りると山門前で記念撮影。それから本堂へ行き、備え付けの箱に納め札を入れ、お経も上げずに納経所と書かれた建物へ。
「お願いします」
会長さんが納経帳と掛軸を差し出し、御朱印代を支払っています。なるほど、こういうものなのか…と納得した私たちも納経帳と掛軸に御朱印を押して貰いました。スタンプラリーの始まりです。バスに戻って次のお寺へ向かう途中で休憩していたキース君を追い越すと…。
「あっ、バナナ食べてる!」
食べ物に目ざとい「そるじゃぁ・ぶるぅ」の大きな声が。キース君はベンチに座ってバナナを食べていましたけれど、途中で買ってきたんでしょうか?キース君、わざわざ買うほどバナナ大好きでしたっけ…?
「お接待か…」
面白い、と会長さんが振り返って後ろを見ています。
「これは使えるかもしれないな。…えっと…冷蔵庫に何かあったっけ?」
キース君の姿が遠ざかる中、会長さんは冷蔵庫を開けてジュースの入ったペットボトルを取り出しました。1リットル入りの大きなヤツです。
「よし。これをキースにプレゼントしよう。…あ、この辺に駐車場ってありそうかな」
運転手さんが「次のお寺はまだ先ですよ」と言いましたけど、会長さんは「構わないから」と道路沿いの駐車場にバスを止めさせてしまいました。キース君が通りかかるまで此処で待つんだと言っています。
「君たちはバスで待っていたまえ。キースが来たら、ぼくが行く」
やがて墨染めの衣に網代笠のキース君が歩いてくると、会長さんはペットボトルを持ってバスから降りて…。路上で顔を合わせたキース君と会長さんは押し問答をしているようです。が、キース君が渋々ペットボトルを受け取り、会長さんに白いお札を手渡しました。そして二人はお辞儀を交わし、キース君は重たいペットボトルを持て余すように再び歩き始めます。いったい何があったんでしょう?
「ふふ、善行を積むっていいことだよね」
バスに戻った会長さんは満足そうに頷きました。
「お遍路さんに施しをするのを、お接待って言うんだよ。お接待のお礼は納め札だ。ほら、ここにキースの名前が」
お礼の札だから願い事は書いてないけど、と見せびらかします。
「さっきのバナナもお接待で貰ったものだったのさ。次のお寺が宿坊だけど、まだかなりあるし…1リットルのペットボトルは重いだろうねぇ。でも、お接待の品物を捨てるなんてこと、高僧を目指すキースには出来っこない。頑張って飲むか、重さに耐えるか…。どっちにしてもキツイと思うよ」
「…あれって炭酸入りでしたよね…」
心配そうな声のマツカ君。そっか、炭酸入りだったんだ…。それじゃ普通のジュースに比べて飲むのに苦労しますよね。会長さんったらそれを承知で重たいペットボトルを無理矢理に…。どおりで押し問答になってたわけです。会長さんはバスを出させて、キース君を追い抜きながら。
「せっかく八十八ヶ所の旅に来たんだし、一日一善を心がけよう。頑張っているキースに1日1回お接待だ」
ひえぇぇ!これから毎日、キース君に余計な荷物を持たせることにしたみたい。こんな高僧に見込まれるなんて、キース君のお遍路の旅は厳しいものになりそうです。

それからの日々は私たちはバスで楽々スタンプラリー、キース君は黙々と歩く修行の旅。マツカ君が執事さんと連絡を取って手配してくれるホテルや旅館に宿泊しながら、道を外れて観光したり食べ歩いたりと私たちは旅を満喫していました。キース君の方は宿坊や安宿に泊まり、時には托鉢なんかもしながら雪や雨の日も一日も休まず、ひたすら次のお寺へと…。
「キースは今日も宿坊なんだね」
温泉が自慢の旅館で豪華な夕食を楽しんでいると、ジョミー君のケータイにキース君からの連絡メールが。今夜の宿にやっと辿り着いたみたいです。会長さんが大量のミカンが詰まった袋をお接待に持っていかなかったら、もっと早い時間に着けたでしょうに。しかも今日の宿だという宿坊はかなり古びたものでした。私たちは一足お先にスタンプ…いえ、御朱印を貰ってきたので知っています。
「あそこ、エアコン無さそうだったぜ」
サム君の指摘に私たちは身震いしました。今日は寒の戻りで雪模様。こんな寒い日に陽が落ちてからエアコン無しの宿坊だなんて、私たちには耐えられません。そんな会話を交わしていると会長さんが。
「それでこそ修行の遍路旅なのさ。君たちも何処かで宿坊に泊まってみるかい?夜と朝に勤行があるから、お寺ライフを楽しめるよ」
結構です!と声を揃えて断り、翌日からもホテルに旅館に…。長旅ですけど、マツカ君の家の執事さんが手配してくれる宿はいつも快適で、クリーニングも気軽に頼めて着替えの心配も要りません。バスはもちろんゆったりシート。スタンプラリーも順調に進み、会長さんに頼まれた掛軸の御朱印も次々に埋まっていきます。お経を上げないと御朱印を押してやらない、と言われたお寺では会長さんが代表で般若心経を。
「明日で八十八ヶ所目に辿り着けそうだね」
会長さんがそう言ったのは出発してから二十一日目の夜でした。来る日も来る日も会長さんから傍迷惑なお接待を貰いながらも、キース君は予定よりも一日だけの遅れでゴールインしようとしています。
「正直、あそこまで頑張るとは思わなかったよ。途中でぼくたちのバスに乗り込んでくるかと期待してたのに」
八十八ヶ所目のお寺でキース君の到着を待ち、みんな揃って最後の御朱印を貰いに行こう、と会長さんは言いました。キース君は今夜はお遍路さん専用の宿に泊まっているとメールを寄越しています。明日は朝早くから歩き始めて、お昼前には最後のお寺に着けそうだ、って。そして翌日、八十八ヶ所目のお寺の駐車場にバスを止めさせ、道路を見ていた私たちの前に墨染めの衣のキース君が杖をつきながら姿を見せたのでした。
「「「キース!!!」」」
ジョミー君たちが駆け寄っていき、ちょっとやつれたキース君を囲んで山門の方にやって来ます。会長さんも今日はお接待をしようとはせず、先頭に立って本堂へ。私たちはキース君が万感の思いを込めて唱える般若心経を聞き、お願い事を書いた最後の納め札もきちんと箱に入れて納経帳の最後のページに御朱印を押して貰いました。もちろん預かっている会長さんの掛軸の方にも御朱印を…。

私たちの卒業旅行はソレイド八十八ヶ所を回るスタンプラリー。最後のお寺でキース君も一緒に記念撮影をして、みんなでバスに乗り込んで…3週間と1日の旅はもうすぐ終わりです。アルテメシアに戻って家に帰ったら、ゆっくり休んでまた会おう、と会長さんが言いました。シャングリラ学園の春休みが始まってシャングリラ号が迎えに来るまで、まだ何日か残っています。卒業旅行の思い出話で盛り上がる余裕はありそうですよ!




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