シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
思いがけないティータイムを終えるとカップやマドレーヌの籠は綺麗に消え失せてしまいました。厨房へ返したんだ、と会長さんがベッドに腰かけて微笑みます。シャングリラには大きな食堂もあるようでした。ブラウ先生がベッドの横に立ち、私たちは床に座ったままで進路相談会の再開です。最初の発言はブラウ先生。
「さて、あんたたちの今後だけどね。ソルジャーは各自の意思に任せる、と仰せなんだ。…進学するも良し、就職してみるも良し。シャングリラ学園のコネを使えば今からでも十分間に合うよ。もちろん浪人して受験してみたり、自分で就職先を探すのもオッケーだ。…ただ、お薦めの進路ってヤツがあってさ。あんたたち、また1年生をやらないかい?」
「「「は!?」」」
「シャングリラ学園の特別生として1年生にならないか、って言ってるんだよ。そうだね、ソルジャー?」
「うん」
会長さんが頷いて。
「話したことがあるだろう?学校に残ることも可能だ、って。もちろん学費は一切要らない。君たちは年を取らなくなってしまったんだし、急いで社会に出るよりその方がいいとぼくは思う。何年か経って自信がついてから他の道に行きたくなったら、その時にまた考えればいいんだしね。…そうそう、キース。君も在籍しないかい?」
「俺が!?…もう入学式の日も決まっているし、学費だってとっくに納めたんだ」
お坊さんの勉強が出来る大学への進学が決定しているキース君。シャングリラ学園に在籍するのは無理なのでは…?
「いいんだってば。在籍する、と言ってくれれば1年生に籍を置いておく。学校の空き時間とか講義の無い日にフラッと来ればいいんだよ。特別生は出席日数は問われないから。…知らないかな、1年B組の欠席大王。ジルベールって名前の男の子だけど」
「「「あっ!!」」」
私たちは思わず声を上げました。滅多に登校して来ない絶滅危惧種と噂の高い美少年がB組にいると聞いています。会ったことは無いですけれど、確か名前がジルベール…。
「彼は特別生なんだ。同じB組のセルジュって子と同期でね。セルジュは真面目に登校するのに、ジルベールの方は出てこないことで有名で。…そう、二人ともぼくたちの仲間なのさ。特別生はシャングリラ学園に何人もいる。フィシスもリオも特別生だ。だから君たちも特別生になって1年生をやらないか、ってこと」
シャングリラ学園で1年生をもう一度…。そういえば前に会長さんが言ってましたっけ。1年生を百年くらいやってみれば…とかいう怪しいことを。百年やるかどうかはともかく、もう一度という提案は私には魅力的でした。進学も就職もピンときませんし、なによりシャングリラ学園で過ごした1年間はとても素敵なものだったのです。また1年生をやりたいです、と言おうとした時、マツカ君が。
「あの…。学校に残らないか、っていうお話は嬉しいですし、そうしたいです。でも…ぼくの将来って、どうなりますか?父の事業を継いでいかないと会社の人たちが困るでしょうし…。父はお前の人生だから好きにしろ、って言いましたけど」
「…お父さんの仕事を継ぎたい、か…。本当に強くなったね、マツカ」
柔道部に入ったおかげかな、と会長さん。入学したての頃、スタンガンや催涙スプレーを持ち歩いていたマツカ君はいつの間にか責任感の強い人間に成長していました。私と同い年なのに、ちゃんと将来のことを考えて…。
「シャングリラ学園にいても会社経営の勉強と両立するのは可能だよ。…というより、むしろそうした方がいい。君は年を取らない人間だ。普通の人の何倍もの年月を老けないままで社長稼業を続けていこうと思うんだったら、まずノウハウを学びたまえ。校長先生がいい先例だ。三百年以上も校長をやっている話は知られているけど、誰も化け物だなんて言わないだろう?」
「…あ…。そうですね…。会長さんの言うとおりです…」
そこまで考えていませんでした、とマツカ君は素直に言って。
「じゃあ、ぼく、学校に残らせて頂きます。えっと…手続きとかはよく分かりませんけど、お願いします」
「了解。マツカは在籍、と。ブラウ、よろしく頼むよ」
会長さんが宙に書類とペンを取り出し、ブラウ先生に手渡します。
「よーし、進路決定第一号だね。…他のみんなはどうするんだい?」
サラサラと何か記入しながらブラウ先生が尋ねました。えっと、えっと…。よーし、私も思い切って!
「「「残ります!!!」」」
えっ、と見回すとジョミー君、サム君、スウェナちゃんが一斉に手を挙げていたのでした。
「…シロエは?」
会長さんが黙り込んでいるシロエ君に水を向けます。シロエ君には柔道の他に特に目標は無かったような…。
「キース先輩次第です。ぼく、先輩に負けたくないっていう一心でシャングリラ学園に入学したのに、あっさり卒業になってしまって…。おまけに先輩はお坊さんになるって言いますし。これじゃ勝負にならないですよ。もしも先輩が残るというなら残って勝負をつけたいですし、進学するっていうんだったら…どうしようかな?」
「…俺を基準にしやがって…」
フゥ、とキース君が溜息をつきました。
「仕方ないな。トリで進路を決めたかったが、話が進まないのは好かん。…俺も残らせてもらうことにする。何百年も寺を守るとなると、知っておきたいことも沢山あるしな。新しい学校と二足の草鞋でろくに登校しないかもしれんが、また1年生をやることにするさ。…教頭先生の柔道の指導にも未練があるし」
「やったあ!じゃあ、また先輩と技を競えますね」
シロエ君の顔がパッと輝いて。
「ぼくも学校に残ります。…いえ、残らせて下さい!!」
「分かった」
会長さんがニッコリ笑い、ブラウ先生が記入した書類を受け取って確認してからサインをします。
「それじゃ君たち全員、シャングリラ学園の特別生として1年生になることを認めよう。…これで進路相談会はおしまい。後はシャングリラで宇宙の旅を楽しみたまえ」
お腹が空いただろうし食堂へ…、と言われてやっと気がつきました。朝ご飯の後、口にしたのはさっきのマドレーヌと紅茶だけ。みんなのお腹がグーッと鳴って、進路相談会は笑い声と共に無事に終了したのでした。
ソルジャーの衣装を着けた会長さんが私たちを連れて食堂に入っていくと、聞き覚えのある大きな声が。
「ブルー!…みんな、こっち、こっち!!」
公園が見える窓際の席で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手を振っています。まさかシャングリラに来ていただなんて!ブラウ先生はブリッジに行ってしまいましたから、ここにいるのは会長さんと私たち7人グループだけ。食事の時間から外れているので他の人の姿もありません。「そるじゃぁ・ぶるぅ」に呼ばれるままにテーブルに座りましたけど…。えっと、食事ってどうするのかな?
「基本はセルフサービスだよ」
会長さんが教えてくれました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が全員分の水のグラスをお盆に載せてきて配ってくれます。
セルフサービスなら食事を取りに行かないとダメですよね。「そるじゃぁ・ぶるぅ」に運ばせるのは悪いですし。
「…基本は、って言っただろう?」
立ち上がりかけた私たちを会長さんが引き止めて。
「時間外だし、シャングリラでの初めての食事でもあるし…今回だけは特別なんだ。ほらね」
白い調理服の男の人がワゴンを押してやって来ました。テーブルの上に並べられたのは煮込みハンバーグにスープにサラダに…。
「全部ぶるぅが作ったんだよ。食材もちゃんと持ち込んで。ね、ぶるぅ?」
「うん!…シャングリラの食堂でお料理するの、久しぶりだから楽しかったぁ♪」
お代わりもあるよ、と言われて食べ始めると、いつもどおりとても美味しくて…。でも夕食からは他の乗組員の人たちと同じ日替わり定食になるそうです。それは会長さんの意向でした。
「やろうと思えば別メニューにも出来るんだけどね。せっかく来たんだし、シャングリラの食事を体験するのもいいだろう?味気ないものじゃないから大丈夫」
船の中では自給自足が原則なんだ、と農園などが存在することを聞かされビックリ仰天。家畜なんかも飼育されていて、船自体が1つの小さな世界なのです。
「名前負けしたんじゃ情けないと思って頑張ったんだ。シャングリラの名前どおりの、ぼくたちの理想郷になるように。…前に言ったとおり、今のところ出番は無さそうだけど」
そうでした。シャングリラ号は箱舟として建造されたと聞きましたっけ。でもサイオンに目覚めたわりに、今までと比べて何の変化もないような…。ジョミー君たちに尋ねてみると同じ意見が返ってきました。私たちってサイオンの才能が無いんでしょうか?
「違うよ。それが普通なんだ。思念波もサイオンも日常生活では全く必要が無い。…意識して初めて使える、っていうのが理想かな。君たちはもうそのレベル。今は要らないと自分で判断しているわけさ」
なるほど。じゃあ、普通の人と変わらない生活が出来るんですね。年を取らないということを除けば、あまり問題は無さそうです。シャングリラ号に来るまでは、かなり気がかりだったんですけど。
「あまり心配しないことだね。力は徐々に伸びることもあるし、その時はちゃんとフォローするから。…3人目のタイプ・ブルーがどんな風に成長するのか楽しみだな」
「「「タイプ・ブルー!?」」」
私たちは思わず叫んでいました。3人目のタイプ・ブルーって、いったい誰!?
「…ジョミーだよ」
「「「えぇぇぇっ!?」」」
ジョミー君も含めた全員が驚愕に目を見開きましたが、会長さんはクスッと笑って。
「ジョミーは間違いなくタイプ・ブルーだ。…でも力がどこまで伸びてゆくのか、その時期がいつかは分からない。もしかしたら百年くらいは今のままかもしれないね」
「…そうなんだ…」
残念、と呟くジョミー君。会長さんみたいに瞬間移動とかを自在にしたかったらしいのですが、こればっかりは仕方ないですよねぇ。
食堂を出た私たちは会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に案内されてシャングリラ号の見学に出かけました。展望室からは無数の星が見えます。ここが地球から二十光年も離れているだなんて…。不意にキース君が会長さんに。
「あちこち見て回って思ったんだが、あんたの部屋…。青の間と言ったな?あれはいったい何なんだ。他にああいう部屋は無かった。あんたは一人であそこを使って何をしている?」
「別に何も…。ぼくはあそこに居ればいいんだ。ただそれだけ。…でも、留守にしてても問題はない」
会長さんはキース君の勘の鋭さを褒め、青の間が持つ意味を教えてくれました。
「あの部屋は、ぼくのサイオンを増幅させる。多少消耗していたとしても、あそこにいればシャングリラ全体にシールドをかけるくらいのことは出来るんだ。シャングリラと仲間たちを守るソルジャーに…戦士としてのぼくに必要な部屋が青の間なのさ」
シャングリラと同じで戦士の出番も無いんだけどね、と会長さんはウインクして。
「ぼくの部屋には招待したから、フィシスの部屋に案内しよう。…前に言っただろう?フィシスの部屋はぜひ見てほしい、って」
えっ。その言葉は確かに覚えています。でもフィシスさんのお部屋がシャングリラに?…アルテメシアの会長さんのお家のゲストルームの1つじゃなくて?
「アルテメシアの家にはフィシス専用の部屋なんか無いよ。…ぼくの寝室がちゃんとあるのに、別の部屋を用意してどうするのさ」
「「「!!!」」」
し、寝室…。今、寝室って言いましたか?フィシスさんが会長さんの寝室に…って、それじゃやっぱり会長さんとフィシスさんは…。
「フィシスはぼくの女神なんだ。女神にはそばにいて欲しいものだろ?」
しれっと言った会長さんは呆然とする私たちを展望室から連れ出し、エレベーターや通路を使って別の区画へ。青の間と同じくらいの大きな扉を抜けた先には大理石でしつらえられた立派な部屋がありました。印象的な階段と、プラネタリウムの投影機。相当に広い空間です。そして階段を滑るように下りてきたのは…。
「ようこそ、ソルジャー」
フィシスさんが薄紫のドレス姿で微笑んでいます。ドレスの裾は床に届く丈で、袖の端も床に届きそう。まるで本物の女神様みたい…。みんなも同じことを考えているのが分かりました。これがサイオンの力なのかな?
「…女神みたいに見えるって?」
会長さんがニッコリ笑ってフィシスさんの手を取りました。
「当然じゃないか。ソルジャーの隣に立つのに相応しい服をデザインするよう頼んだ時に、ぼくが注文をつけたんだ。女神らしく見える服にしてくれ…って。ほらね、こうして並ぶと映える衣装だと思わないかい?」
えっと…。要するに、会長さんの衣装と引き立て合うようデザインしたってわけですか。徹底した溺愛ぶりですけれど、この部屋もそういう意図で造られた部屋なんでしょうか?
「ここは最初からあったんだよ。青の間と同じでシャングリラが出来た時からね。…プラネタリウムがあるから天体の間と呼ばれてきた。フィシスに出会って、青の間に負けない部屋をあげたくて…思いついたのが此処だったんだ」
フィシスも気に入ってくれたしね、と会長さんが言うとフィシスさんが頷きます。
「…とても静かで落ち着くのです。…ブルー……いえ、ソルジャーがこの部屋を下さるとおっしゃった時は驚きましたけれど」
今ではシャングリラに来るのが楽しみに思えるほど大好きな場所になりました、とフィシスさん。会長さんもフィシスさんもシャングリラには滅多に来ないらしいのですが、数少ない滞在期間のためだけにこんなお部屋を贈るだなんて凄すぎます。青の間と釣り合うものを…という考えで選ぶあたりが流石というか、なんというか。ドレスのデザインといい、天体の間といい、フィシスさんは会長さんにとって何処までも特別な人なんですね…。
フィシスさんのお部屋でお茶を御馳走になり、それから居住区に連れて行ってもらって、部屋で休憩。会長さんは私たちが迷わないようシャングリラの全体図をサイオンを使って一瞬で教え、「そるじゃぁ・ぶるぅ」と一緒に青の間に帰ってしまいました。2泊3日の進路相談会はまだ1日目ですが、進路が決まるとすることもなくて…。夕食を食堂で食べてしまった後は暇に任せて7人で艦内の散歩です。
「暇だよねえ…」
ジョミー君が言い、誰かの部屋でトランプでも…という話に。でも、トランプなんかありましたっけ?進路相談会にはおよそ不要なアイテムです。案の定、誰もトランプは持っていませんでした。仕方なくジョミー君とサム君の部屋で雑談をしている内に少しずつ眠くなってきて。朝から驚きの連続ばかりで目が冴え返っていましたけれど、シャングリラでの時計が午前0時過ぎともなれば疲れが出てきて瞼も重くなってきます。おやすみなさい、と部屋に戻ってシャワーを浴びて、ベッドに入って朝までグッスリ…。
「うーん、よく寝たぁ…」
起き上がって伸びをしているところへジョミー君たちが起きた気配が届きました。きっとこれもサイオンです。身支度をしてスウェナちゃんと他の部屋のチャイムを鳴らし、みんな揃って食堂へ。朝は定食ではなくバイキングでした。お揃いの制服を着た人たちがあちこちで談笑しています。その人たちがいなくなるまで食堂で粘り、またまた暇に任せて艦内見学。ブリッジを覗いたり、展望室から宇宙を見たり…。そしてお昼の定食を食べ、食堂で粘った後はまた艦内の見学です。
「結局、歩き回ってただけだったよな」
サム君が夜の定食を頬張りながら公園の方を眺めました。
「シャングリラの中で行ける所は全部見たけど、なんか不毛な一日だったぜ。こんなに暇だと分かっていたら、ゲームとか持って来たのになぁ…」
それは私たちも同意見でした。シャングリラの中はすっかり覚えましたが、もっと有意義に時間を使いたかったという気がします。ソルジャーである会長さんは仕方ないとして、「そるじゃぁ・ぶるぅ」ならちょっとくらい遊びに来てくれたって…。
『ふぅん、そんなに暇だったんだ?』
不意に会長さんの思念が聞こえました。
『シャングリラを知って欲しかったから、あえて何も言わずに覚えるまで見学させたんだけど…。悪かったかな』
そっか、無駄に時間を潰したわけではなかったんですね。それならいいか、と私たちが顔を見合わせて苦笑した時。
『退屈させてしまったようだし、今夜はお詫びにトランプ大会。後で青の間へ遊びにおいで』
お誘いの言葉を断る理由はありません。よーし、今夜は遊べそうですよ!
夕食を終えて部屋でしばらく休憩してから青の間に行くと、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が待っていました。
「かみお~ん♪昼間は放っておいてごめんね。ブルーがそうしろって言ったんだ」
「ごめん、ごめん。…でもシャングリラには馴染めただろう?君たちのための船でもあるし、しっかり見ておいて欲しかったんだ。次に乗れるのはいつか分からないしね」
そう言いながら会長さんがトランプを取り出し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がシャッフルします。まずは定番のババ抜きから。…サイオンに目覚めたとはいえ、会長さんに「サイオンによる覗き見禁止」と厳命されると今までと何も変わりません。ババ抜きの次は大富豪。大貧民とも言いましたっけ。盛り上がる中、キース君が会長さんをまじまじと見て。
「…あんた、なんで生徒会長なんかをやってるんだ?…ソルジャーは俺たちの長なんだろう。教頭先生たちより上の立場にいる筈なのに、教え子だなんて変じゃないか」
「いいんだってば。…ぼくが望んだことだから」
会長さんがスッとカードを出すと、「パス!」という悲鳴が響きます。
「ぼくは確かにソルジャーだ。タイプ・ブルーで、皆を守るだけの力があるから、自然とそういうことになった。でも、長の責任は重いんだよ。ぼくたちの未来も何もかも…一人で背負っていくなんてこと、いくらタイプ・ブルーであっても酷なことだと思わないかい?」
みんなが次々にパスしてしまい、会長さんは新しいカードを1枚出しました。
「だから条件を出したんだ。…もしも普通の人間たちから迫害されるような時が来たなら、ぼくは文字通りソルジャーとして…戦士として皆を全力で守る。その代わり、それまでは長の務めを皆で分担して欲しい、って。ハーレイたちは分かってくれたよ。それどころか自分たちが教師になって、ぼくを生徒にしてくれた。シャングリラ学園が存在する限り、ぼくは生徒として先生たちに守られる側。生徒会長をしてはいるけど、長の立場にはいないんだ」
だからノルディに狙われたりもするんだけどね、と会長さんは笑いました。トランプ大会は延々と続き、ド貧民になってしまった「そるじゃぁ・ぶるぅ」が拗ねちゃったりもしましたが…。
「あ、もうこんな時間なのか」
会長さんが声を上げたのは日付が変わる少し前。夢中になって時間が経つのを忘れていました。明日はシャングリラで地球に戻る日。ちょうどゲームもキリのいい所になっていましたし、そろそろ部屋に帰らなきゃ…。カードを箱に入れ、会長さんに手渡すと。
「ありがとう。トランプ大会、楽しかったよ。…ところで、この後なんだけど。もうすぐお客様が来る。…ぼくはギャラリーが欲しいんだよね」
「「「えぇぇっ!?」」」
ギャラリーって…ギャラリーって、なに!?会長さんがこの単語を口にした場合、ろくなことにはなりません。もしかしてトランプ大会に誘われたのは罠でしたか?
「暇つぶしをさせてあげたんだから拒否権は無いよ。ぶるぅ、シールドを」
「かみお~ん!!」
雄叫びと共に張られるシールド。青の間の天蓋つきベッドのすぐそばで『見えないギャラリー』にされてしまった私たちの悲鳴は誰にも聞こえませんでした。もうすぐ来るというお客様。誰なのか言われなくても分かったような気がします。なんで地球から二十光年も離れた所に来てまでギャラリーをやらなきゃダメなんですか~!
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