シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
青の間の天蓋つきのベッドがよく見える場所で私たち7人は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が張ったシールドの中に立っていました。ここにいれば姿も見えず声も漏れないというわけです。会長さんはソルジャーの衣装でベッドに腰掛け、スロープを下った先の入口の方を見ていて、やがてそこから人影が…。
「お呼びでしたか、ソルジャー」
渋い声がして、近づいてくるのは教頭先生。いえ、マントつきの衣装ですからキャプテンと呼ぶべきでしょうか。
「こんな時間に御用というのは…?」
「…普通に話してくれればいい。ああ、この格好だからいけないのか」
会長さんが立ち上がって両耳を覆う記憶装置を外し、全身が青い光に包まれて…ソルジャーの衣装はシャングリラ学園の制服のシャツとズボンに変わっていました。
「これなら問題ないだろう?今のぼくはソルジャーじゃない。ただのブルーだ」
「…ソルジャー…?」
「ブルーだってば。ハーレイに用があるのはソルジャーじゃなくて、ぼくなんだよ」
そう言って会長さんは教頭先生を手招きします。怪訝な顔で近づく教頭先生との距離が縮まり、手が届くほどになった時。
「グレイブの結婚式を覚えているかい?…ミシェルが投げたブーケを持っていたぼくを、じっと見つめていたようだけど」
「…あ、ああ…。まさかソルジャー…いや、お前の所に行くとは思わなかったからな」
キャプテンの姿ではありましたけど、教頭先生はいつもの口調に戻りました。会長さんが少し不満そうに。
「それだけ?…ぼくが花嫁のブーケを持っていたのに、それだけしか考えていなかったわけ?婚約指輪を預けてあると思っていたのは記憶違いだったのかな」
「…ブルー…?」
「花嫁のブーケを貰った人が次の花嫁だっていうじゃないか。そのつもりでぼくを見ていたのかと思ったのにさ。…違うんだったら行っていいよ。それなら別に用は無いから」
さあ帰って、とスロープの先を指差す会長さん。教頭先生は困惑した様子で立っています。
「だ・か・ら。…ぼくを花嫁にしたかったわけじゃないんだろ?だったら呼んだ意味が無いんだ。ハーレイがぼくを要らないんなら」
会長さんは教頭先生にプイッと背中を向けて。
「…ブーケを貰っちゃったせいなのかな…。あれから、食わず嫌いはよくないかな…って考えるようになったんだ。でもハーレイにその気が無いなら仕方ないね。…こんな遅くに呼び出してごめん。明日は早いんだし、帰ってくれれば…」
「ブルー…。まさか、お前は…」
教頭先生が何かを言いかけ、でも言えなくて口ごもってしまったところへ会長さんが向き直りました。
「…ぼくに言わせるつもりなんだ…?抱いてくれ、って」
「…………!!」
息を飲んだ教頭先生の首に会長さんが腕を回します。
「嫌なら部屋に帰ればいい。そうでないなら…」
ぼくにキスして、と囁くような声が聞こえて、教頭先生が会長さんを抱き込むように…。
「や、やばいよ、これ!」
ジョミー君が焦っています。教頭先生は会長さんをベッドに横たわらせて何度目かのキスを交わしていました。いくら会長さんが悪戯好きでも、これは本当に危ないかも…。ヘタレの筈の教頭先生が本気モードに入っているのは誰の目から見ても明らかでした。
「ぶるぅ、俺たちをここから出せ。すぐに止めないとマジでやばい」
キース君が言う間にも大きな手が会長さんのシャツのボタンを外していって、さらけ出された白い喉元に教頭先生の唇が…。しかし「そるじゃぁ・ぶるぅ」はシールドを解かず、「大丈夫」と笑っているではありませんか!
「ブルーからちゃんと聞いてるよ。ほら、こんなのも貰ってるし」
ね?と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出してきたのは、まりぃ先生の妄想イラストのコピーでした。
「ぼく、これを参考に動くんだ。こっちの絵みたいなことになったら土鍋を持って…って、そろそろかな?」
教頭先生が会長さんの鎖骨の辺りに口付けています。
「じゃあ、行ってくるね。シールドはきちんと張っておくから、おしゃべりしてても平気だよ。絵は覚えちゃったし、みんなで見てて」
キース君の手に妄想イラストを数枚押し付け、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は何処からか取り出した土鍋を担いでベッドの方へと行ってしまいました。よっこらしょ、と土鍋をベッドの傍らに置くとゴトンと重たい音がします。
「………?」
教頭先生がハッと身を起こし、「そるじゃぁ・ぶるぅ」と土鍋の存在に気付きましたが…。
「…ハーレイ。どうかした…?」
胸元をはだけられた会長さんが問い掛けます。
「い、いや…。そこに、ぶるぅが…」
「ああ。…なんだ、ぶるぅか。続けて、ハーレイ」
「…し、しかし…」
「怖い夢でも見て寝に来たんだろ。…気にしないで。ぼくだけを見てて」
会長さんの腕が教頭先生の背中に回され、大きな身体を自分の上に引き寄せて…。ん?この状況は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が残していった妄想イラストの1つにそっくりです。土鍋に入ろうとしていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」がベッドにトコトコ近づいていって、会長さんたちのすぐそばに頬杖をつきました。
「何してるの?」
無邪気な声にビクッと教頭先生の身体が震え、声がした方を窺って。
「ぶるぅ!?」
「…気にしないでって言った筈だよ、ハーレイ。…このまま続けて」
会長さんは顔を引き攣らせている教頭先生を甘えるような声で促します。
「ペットだと思えばいいじゃないか。それともペットの視線があると落ち着かないってタイプかな?…それじゃ気分が盛り上がるように、ぼくが脱がせてあげようか?」
会長さんの白い手が教頭先生の襟元に伸ばされるのを「そるじゃぁ・ぶるぅ」がニコニコ笑顔で見ていました。意味が全く分かっていない子供ならではの表情です。
「…ハーレイ?…そんな顔してどうしたのさ」
固まったままの教頭先生の眉間の皺を会長さんの指がツーッとなぞって。
「完全に手がお留守だよ。…ここまでぼくを煽っておいて…。ああ、もしかして焦らしてる?もっと…って言わないとダメなのかな。じゃあ、もっと。…もっと続けて…?」
赤い瞳が誘うように揺れ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」をしきりに気にする教頭先生の唇に軽く口付けて。
「…欲しいんだ、ハーレイ…。ぶるぅなんかより、ぼくだけを見てよ」
「……うう……」
教頭先生の額に脂汗が浮かび、会長さんをじっと見つめて…でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」を無視することが出来ず、視線を向けると無垢な瞳と目が合って。興味津々で見学している小さな子供がよっぽど脅威だったのでしょう。
「…す、すまない、ブルー…」
絞り出すように言った教頭先生は会長さんから離れようとします。
「どうしたのさ、ハーレイ。…もう一度ぼくに言わせるつもり?…抱いてよ、このまま。もう離さない」
「…………!!」
スルリと回された会長さんの両腕に捕らえられ、引き寄せられかけた教頭先生が声にならない叫びを上げて身体を離し、逃げるようにベッドを降りると、凄い勢いでスロープを下って走っていって…。
「甲斐性なし!…ハーレイの馬鹿、役立たず!」
身体を起こした会長さんが罵る声が木霊する中、教頭先生は後をも見ずに青の間を飛び出して行ったのでした。残されたのはシールドを解かれた私たち7人と「そるじゃぁ・ぶるぅ」、そして土鍋と妄想イラスト。会長さんは余裕の笑みを浮べて銀色の髪をかき上げました。
「…ふふ、本気になってもヘタレだったね、ハーレイったら」
シャツのボタンを留めてゆく会長さんの白い胸には赤い痕が幾つか付けられています。
「もっと沢山からかうつもりで参考資料を用意したのに、アッと言う間に逃げてっちゃった。つまらないったらありゃしない。…ねぇ、ぶるぅ?」
「うん。…ブルー、裸にされなかったね。ぼく、1回しか訊けなかった。何してるの?って」
「シャツを脱がせ終わるまでの間に5回くらいは言ってもらう予定だったよねえ…」
二人の会話に私たちは頭を抱え、キース君が拳を握り締めて。
「あ、あんたっていうヤツは…!俺たちは十八歳未満の団体なんだぞ。よくもとんでもないことを…」
「そう?ぶるぅは何も気にしてないよ。…とんでもない、って言ってる君たちの方が心が穢れてるんだと思うな」
「なんだと?だったら俺も言わせてもらおう。あそこまでされて平気だってことは、あんた、ノルディから逃げる必要なんか無いだろう?…ノルディを見かけることがあったら、あんたの家まで連れてってやる」
「…それは勘弁して欲しいな。ハーレイだから平気なんだよ。ぶるぅがじっと見ている前じゃ何もできっこないんだからさ。これがノルディだと、そうはいかない。…何度も言っているだろう?ぼくはそっちの趣味は無いんだ。ノルディを案内してきたりしたら、君を生贄にしてさっさと逃げるよ」
「!!!」
顔面蒼白になったキース君。会長さんはおかしそうに笑い、サイオンを集めた手でシャツの皺を綺麗に伸ばしてゆきます。
「ハーレイの積年の思いがどれほどのものか試してみたけど、てんでヘタクソだね、何もかも。…自覚が無いのが痛々しい。煽られるどころか白けるだけだよ。口直しをしなきゃ収まらないな」
「「「口直し!?」」」
目を見開いた私たちに向かって、会長さんは軽くウインクしました。
「ぼくの女神に会いに行くだけさ。キスマークも上書きしてもらわなきゃ」
げげっ。キスマークの上書きって…。真っ赤になった私たちでしたが、会長さんは微笑んだだけ。
「そうそう、君たちを部屋へ送らないとね。もう遅いから瞬間移動で」
青い光が私たちを包み、フワッと身体が浮き上がって。
「それじゃ、おやすみ。…いい夢を」
浮遊感が消えると、そこは部屋の前の廊下でした。ギャラリーをさせられた疲労感がドッと押し寄せ、私たちは「おやすみなさい」の挨拶もそこそこに割り当てられた部屋の中へ。シャングリラでの最後の夜はシャワーを浴びるのが精一杯で、スウェナちゃんと話す気力も無いままベッドに倒れて終わりました。
2泊3日の進路相談会を締め括るのは二十光年を一気に飛び越えるワープと、近づいてくる青い地球。大気圏に入ったシャングリラから降りるシャトルに乗り込んだのはブラウ先生と私たち7人組だけでした。会長さんやフィシスさんたちは別の便で戻ってくるのだそうです。青い空に浮かぶシャングリラの周囲を一周してから元の空港に降下し、マイクロバスでシャングリラ学園前へ戻って解散。ブラウ先生が笑顔で手を振って…。
「明日には通知が行くからね。特別生としての就学許可書と、入学式の案内状だ」
入学式の案内状。私たちはシャングリラ学園の校門と建物を眺めて互いに頷き合いました。入学式はもうすぐです。1年前と同じように学校の門をくぐって入学式の会場へ。思えば1年前のあの日から全てが始まったんでしたっけ。会長さんのメッセージを聞いて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行って…私たち7人グループが出来て。
「もうすぐだよね、入学式」
ジョミー君が嬉しそうに言い、キース君が頷いて。
「ああ。俺の大学の入学式は別の日だから、俺も来る。受講相談会に用は無いしな。俺が取る講義は決まってるんだし」
寺を継ぐなら選り好みはしていられないんだ、とキース君は笑いました。きっと難しい講義が沢山待っているのでしょう。でも天才のキース君なら大丈夫。時間が空いたらシャングリラ学園に必ず顔を出すそうです。
「出席日数を問われなくても、俺のプライドが許さないんだ。欠席大王だなんて呼ばれてたまるか」
俺は学年トップでなきゃな、と力説するとシロエ君が。
「ぼくだって負けませんからね。今年こそ、先輩から1本取ってみせます」
「頑張れよ!」
サム君がシロエ君の肩をバンバンと叩き、「負けるんじゃないぜ」とキース君の背中を叩きます。
「おいおい、どっちの味方なんだ?」
キース君の呆れた顔にサム君はニッコリ笑って答えました。
「いいじゃないかよ、どっちだって。…俺たち、みんな友達だろ?」
「そうだね。みんな友達だもんね」
ジョミー君が輝くような笑顔で応じ、私たちは入学式での再会を固く約束してから、それぞれの家に帰ったのでした。シャングリラ学園の特別生として1年生を続けることを家族に報告するために。
そして2度目の入学式の日。また袖を通せるとは思わなかったシャングリラ学園の制服を着て、私たち7人は校門の前に集合しました。新入生たちがパパやママと一緒に次々と門をくぐってゆきます。去年は一人で来たのは私だけでしたけど、今年はジョミー君たちも一人で参加。とりあえず記念写真を撮ろう、とシャッターを押してくれそうな人を捜していると。
「あっ!…みんなどうしたの?」
声をかけてきたのはアルトちゃんとrちゃんでした。そっか、在校生も来ますものね。不思議そうに見ている二人にキース君が。
「すまん。謝恩会までして貰ったんだが、また入学することになったんだ。俺たち全員、1年生だ」
「それって、もしかして特別生?」
「ああ。…みんなに会ったら謝らなきゃな。せっかく送り出してくれたのに」
そうそう、と私たちが声を揃えると、アルトちゃんたちは笑い出しました。
「大丈夫だって!もしかしたらそうじゃないかな、って言われてたもの、みんなの間で」
「うん。どんな制度かは分からないけど、1年で卒業してった人が特別生っていうものになって学校に残ることがあるのは知ってたの。みんなで色々調べたから」
それで入学式に来たんだね、とアルトちゃんたちは頷き、rちゃんが記念写真のシャッターを押してくれました。お礼を言って入学式の会場へ向かおうとすると。
「…あのね。もしかしたら、また同じクラスになるかも」
アルトちゃんたちは「私たちも1年生だし」と恥ずかしそうに笑っています。
「えっ、なんで!?…テストは満点だったのに」
疑問をぶつけるジョミー君。スウェナちゃんと私は肘で突っつき合い、思念波を使ってコッソリと…。
『もしかして会長さんのせい?』
『とうとう学校にバレちゃったとか?』
退学まではいかないまでも留年になってしまったとか…、と秘かにやり取りしている所へアルトちゃんたちが。
「私たちにも分からないの。でも、もう一度1年生なんだって」
「卒業してないし、入学式の案内は来てないんだけど…クラス発表があるから出るようにって言われちゃって」
だから一番後ろで見るつもりだ、と二人は去ってゆきました。グレイブ先生のクラスの生徒が成績が悪くて留年なんて有り得ません。私たちは額を寄せ合い、悩んだ挙句に会長さんのせいだという結論に達しました。そういう理由ならアルトちゃんたちが自ら語るわけがないですし…いかにもありそうな話ですし。
「教頭先生の次はアルトとrか…」
キース君が溜息をつき、私たちもシャングリラ号での事件を思い返して深い溜息。あそこまでやった会長さんなら、アルトちゃんたちに良からぬことをしでかすくらい平気でしょう。夢を見せるだけだと言ってましたが、どこまで信じていいものやら…。
「そろそろ会場に入りませんか?」
マツカ君が腕時計を見て言いました。
「もうすぐ始まる時間ですよ」
会場の外に人影は殆どありません。私たちは急いで講堂に入り、並んで座ったのでした。壇上には先生方の姿が。ゼル先生にブラウ先生に…。シャングリラ号のことは夢だったのかも、と思えてきます。機関長と航海長をしている二人をブリッジで何度も見かけたのに。でも何よりも信じられないのは、やはり教頭先生でした。スーツ姿で入学式の司会をしている人が、シャングリラ号を指揮するキャプテンだなんて。
校歌に続いて校長先生の挨拶が済むと、男の先生が二人掛かりで大きな土鍋を運んできました。蓋が取られて現れたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。学園のマスコットで幸運を招くと紹介されて、御利益に与る三本締め。その後は来賓の挨拶が続き、退屈でウトウトしてきた時。
『目を覚ませ、仲間たち』
響いたのは会長さんの思念波でした。そういえば入学式でメッセージを送って仲間を捜すと聞きましたっけ。私たちが去年この声に導かれて集まったように、今年も誰か来るのでしょうか。仲間が増えても「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ行っていいのか、私たちはお役御免になるのか…。なんだかちょっと不安です。式が終わるとクラス発表。廊下に張られた名簿を見ると…。
「「「えぇぇっ!?」」」
私たちは思わず叫びました。7人ともA組に名前があります。去年はサム君とシロエ君が別だったのに、みんな揃って1年A組。
「ブラック・リストってヤツでしょうか…」
シロエ君が小声で呟き、キース君が。
「まとめて監視しようってか?…上等だ。この分では今年もアイツが来るぜ」
「…来るだろうね…」
ジョミー君が相槌を打ち、私たちは会長さんの顔を思い浮かべて苦笑い。まさか校内で教頭先生を誘惑しようとはしないでしょうが…って、前言撤回。教頭室は無法地帯に近い状態でしたっけ。特別生はなかなか気苦労が多そうです。1年A組の教室に行くと、アルトちゃんとrちゃんがいて。
「本当に同じクラスになっちゃった…」
二人から「よろしくね」と微笑みかけられ、私たちは思わず思念波で会話。
『どうなってんだ、このクラスって?』
『きっとブラック・リストですよ』
『『『そんなぁ~!!!』』』
そこへ教室の扉がガラリと開き、カツカツカツ…と靴音も高く現れたのは新婚のグレイブ先生でした。
「諸君、入学おめでとう。私が担任のグレイブ・マードックだ。グレイブ先生と呼んでくれたまえ」
ひえぇぇ!まさかここまで因縁のクラスになるなんて…。
『やかましい!』
それは初めて聞いたグレイブ先生の思念。
『諸君の担任を押し付けられた私の身にもなってみたまえ。泣きたいのは私の方なのだぞ!』
えっ、と周囲を見回しましたが、思念波の対象は当然私たち7人だけ。
「私の担当は数学だ。挨拶代わりに実力テストをさせて貰おう。これを前から順に後ろへ」
悲鳴が上がり、数学の問題用紙が回ってきました。そういえば去年の入学式でも実力テストをされましたっけ。ど、どうしよう…。会長さんの手助けに慣れてしまって、実力でテストに挑むことなんか忘れてたのに。ああ、アルトちゃんたちみたいに「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手形パワーを詰めたストラップがあれば…。でなきゃ「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手形を押しに来てくれるとか!
「…1年A組って、ここだよね?」
カラリと教室の扉が開いて、女の子たちの黄色い悲鳴が上がりました。銀色の髪に赤い瞳、スラリとした細身の超絶美形の会長さんが微笑みながら立っています。
「遅れちゃった。…ああ、今から実力テストなんだ?ぼくの名はブルー。この学園の生徒会長だけど、今年は1年A組に混ぜて貰おうと思ってね。…グレイブ、ぼくの机が無いからちょっと借りるよ」
教卓の椅子に腰を下ろした会長さん。実力テストがどうなったかは…言うまでもないと思います。
入学初日のホームルームを終えたグレイブ先生が出て行った後、会長さんは質問攻め。みんな会長さんの力は知りませんから、単なる興味や好奇心です。生徒会長が1年生のクラスに混ざろうだなんて、誰が聞いても不思議ですもの。騒ぎが落ち着き、クラスメイトが帰った後で会長さんが。
「それじゃ行こうか、ぶるぅの部屋へ。今日は入学祝いのケーキを焼くって張り切ってたよ」
やったぁ!今日も「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ行けます。お役御免でなくて良かったぁ…。みんなで生徒会室へ行くと、扉の前にアルトちゃんとrちゃんが。
「あ、あの…。入学式の時に声が聞こえたような気がして…」
「生徒会室の前で待ってるように、って…」
「「「えぇぇっ!?」」」」
驚いていると会長さんが生徒会室の扉をカチャリと開いて。
「アルトさんとrさん。…ようこそ、影の生徒会室へ。おいで、ぶるぅの部屋を紹介しよう」
私たちはキョトンとしているアルトちゃんたちを連れ、壁の紋章に触れて奥に入ります。
「かみお~ん♪待ってたよ!今日はお客様が二人だね!」
出迎えてくれた「そるじゃぁ・ぶるぅ」がイチゴをたっぷり使った大きなケーキをテーブルの上に運んできました。アルトちゃんとrちゃん…。お客様って、どういう意味?仲間とはまた違うのかな…?
『アルトさんたちは少し時間がかかりそうなんだ』
会長さんの思念が聞こえましたが、アルトちゃんたちは無反応。
『まりぃ先生と同じで因子を持ってはいるんだけれど…君たちのようにいかなくて。だから留年させてみた。ぶるぅの部屋に自分の力で入れるようにならないと。まりぃ先生もアルトさんたちも、因子が目覚めるまで気長に待つよ。夢でお付き合いしながらね』
クスクスクス。楽しそうに笑う会長さんはシャングリラ・ジゴロ・ブルーの顔でした。
「それじゃ今日はゲストも交えて賑やかにいこう。新しい年度に乾杯!」
「「「かんぱーい!!!」」」
フレッシュジュースのグラスをカチンと合わせて、楽しい宴の始まりです。謝恩会の日のブラウ先生の言葉がフッと頭を掠めました。「あんたたちは学校が合ってるのかもしれないねぇ」って。楽しみにしているよ、と言ってましたけど、学校に残るのを期待してくれていたのかな?グレイブ先生、ゼル先生…みんな素敵な先生ばかり。ヘタレな教頭先生だって、生徒には優しい先生で…そしてシャングリラ号のキャプテンで。
『みんな、学校に残ってくれてありがとう。新しい特別生を歓迎するよ』
会長さんから届いた思念に私たちは大きく頷きました。シャングリラ学園1年、特別生。私たちの新しい学校生活は、今、始まったばかりです。シャングリラ学園がいつまでも変わりませんように。宇宙船シャングリラ号が箱舟になる日が来ませんように。きっと…きっと、大丈夫。シャングリラ学園、万歳!
※ここまで読んで下さった方、お疲れ様でした!
実は「番外編」へと続くんですよね、このお話は…。キース君が副住職になるまで。
あまつさえ、遥か未来の世界で「完結」したとか、しないとか。
一度は完結したんですけど、何故だか、今も絶賛連載中です。
番外編の目次はこちら→番外編タイトル一覧