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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

水泳大会・第2話

今日はいよいよ水泳大会。シャングリラ学園自慢の屋内プールは五十メートルで幅は二十メートル。8コースに区切ることができます。水着に着替えて、まずは簡単な開会式と準備体操。先生方は水着の上に何か羽織っていたり、ジャージだったり。校長先生は挨拶だけで校長室に帰ってしまい、ジャージ姿の教頭先生が現場の最高責任者です。
「諸君、今日は頑張ってくれたまえ。競技に出る者も応援する者も、節度を持って臨むように」
はーい、と元気な返事が響いて、一番最初は自由時間。泳ぎたい人は泳いで、そうでない人は水遊びやプールサイドでおしゃべり三昧。一応、クラスごとの応援場所が決まっています。1年A組はクジ引きで飛び込み台に近い所が当たりました。会長さんが細工してくれたのかもしれません。会長さんは心配していた白黒縞の海水パンツ姿ではなく、ちゃんと学校指定の水着でした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は驚いたことに学校指定のスクール水着。
「ブルーが注文してくれたんだ」
ちっちゃなサイズのスクール水着に1年A組のゼッケンをつけて「そるじゃぁ・ぶるぅ」は得意顔です。海水パンツも可愛かったですが、スクール水着も似合ってるかも。そうこうする内にシド先生が自由時間終了のホイッスルを吹き、ブラウ先生がマイクを握りました。
「それじゃ、競技を始めるよ!午前中は男女別のクラス対抗リレーと、女子が対象の勝ち抜き戦だ。男子の勝ち抜き戦は午後。競技の合間には自由時間もたっぷり取るから、存分にプールを楽しんどくれ!」
わぁっ、と歓声が上がります。クラス対抗リレーは男子も女子も1年生ではもちろんA組が1位。キース君とジョミー君が頑張った男子はともかく、女子は実力では最下位に近かったんですけども…アンカーで泳いだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」が先を行くクラスをゴボウ抜き。バタ足メインの上、小さい身体の何処にあれだけのエネルギーがあるのやら。
「わーい、いっちばーん♪」
一番最初にゴールインした「そるじゃぁ・ぶるぅ」は息も切らしていませんでした。男子のアンカーだった会長さんも綺麗なフォームでアッという間にゴールイン。でも、上がるなり「疲れた」とまりぃ先生の待つ救護スペースに行っちゃうのはどうかと思われます。自由時間を挟んだ後は、女子の勝ち抜き戦ですが…。
「いいかい、学年ごとに1戦ずつだ」
ブラウ先生が説明を始めました。
「そこから上位の2クラスを選んで、総合1位の決定戦をするからね。種目は『水中おはじき拾い』。いや、『おはじき集め』と言った方が正しいかねぇ?…自力で泳いでいっちゃうし」
はぁ?泳ぐ『おはじき』って、いったい何?ザワザワし始めた会場に向かってブラウ先生がピンポン玉のようなものを掲げます。右手に赤で左手に黒。あのピンポン玉、ヒレみたいなものがついてるみたい…。
「どうだい、ちょっとフグ提灯に似てるだろう?…機械仕掛けの金魚だよ。水に入れれば泳ぎ回るし、センサーがついてて本物の金魚みたいに逃げるんだ。みんなにはこれを集めてもらう。一番沢山集めたクラスが1番になる、というわけさ」
先生方が赤と黒のピンポン玉を詰めたバケツを持ってきて、プールに中身を空けました。大きなプールの中はたちまち金魚すくいのお店みたいに…なってしまうわけがありません。何百匹と放したんでしょうけど、プールは大きく、機械仕掛けの金魚のサイズはピンポン玉。これじゃ捕まえるのは大変そうです。
「まずは1年生からいくよ!さあ、みんなプールに入った、入った」
1年の女子全員がプールの中に入ってみても、ピンポン玉の金魚は余裕たっぷりに泳いでいました。試合開始のホイッスルが鳴り、私たちは捕まえた金魚を入れるための籠を肩から下げてプールの中で悪戦苦闘。たかが機械仕掛けの金魚で、フグ提灯みたいな姿のくせに…なんて憎たらしいのでしょう。捕まえた、と両手で掴みかかったらツイッとすり抜けて逃げてしまいます。やっとのことで短い尻尾を摘んで1匹、籠に入れるのが精一杯。
「あっ、アルトちゃん!捕まえた?」
「ううん、全然ダメ…」
偶然ぶつかりそうになったアルトちゃんに尋ねていると、ザバッと水しぶきが上がって「そるじゃぁ・ぶるぅ」が水面から顔を出しました。
「金魚、全然とれてないね。じゃあ、ぼくの籠と取り替えて?」
差し出された籠は赤と黒のフグ提灯で一杯です。私の籠と自分の籠を取替えっこした「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニッコリ笑って、また水中へ。潜って何処へ行くのかしら、と見ている間にまた戻ってきて、今度はアルトちゃんにフグ提灯の詰まった籠を渡しました。
「スウェナとrの籠はとっくに取り替えてきたんだよ。他にもA組の人を見つけたら取り替えるようにしてるんだけど、ほとんど取り替えちゃったかなぁ?」
言い終えるなりトプン、と潜った「そるじゃぁ・ぶるぅ」。これは任せて安心かも…。案の定、A組は1年の部で見事に1位。2年、3年の競技が終わった後の総合1位決定戦でもダントツの1位だったのでした。

『水中おはじき拾い』が終了した後、フグ提灯な金魚は回収されてプールはすっかり元通り。午前の部がこれでおしまいなので、お弁当タイムの始まりです。私たちはプールサイドから離れた壁際にいつもの7人グループで集まり、そこに会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も加わってお弁当を広げ、賑やかに…。
「水中おはじき大会だなんて想像もしてなかったよ。変な種目があるんだなぁ」
ジョミー君が「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製お弁当の美味しい卵焼きを頬張りながら言いました。
「柔道部の先輩が言ってたんだが、男子は度胸試しらしいぞ」
「え?…度胸試しって、なに?」
「知らん。中身は教えて貰えなかった」
キース君が言うとマツカ君とシロエ君も頷きました。
「…当日になれば分かる、って言われたんです」
「びびって逃げるんじゃないぞ、とも言いましたよね?柔道部員の恥だから、って」
「おいおい、度胸試しってなんだよ!あんたは知ってるんだろう?」
サム君が会長さんに詰め寄りましたが、会長さんは微笑んだだけ。
「じきに分かるんだからいいじゃないか。…あ、そういえば…サムはA組じゃなかったっけ」
顎に人差し指を当てて首を傾げる会長さん。
「A組でないとまずいのか?」
「…会長さんがいるか、いないかで何かが変わってくるんでしょうか?」
クラスがC組のサム君とシロエ君は顔を見合わせ、不安そうです。
「まあ…結果は確実に変わるよね。ぼくはA組を1位にするために来てるんだから」
そんな話をしている間に昼休みが終わり、私たちは再びクラス別に分かれてプールサイドへ。プールにはコースロープが張られています。男子は競泳とかなのかな?あ、ブラウ先生がマイクを持って出てきました。
「さあ、午後の部の始まりだ。男子のクラス対抗リレーだよ。決勝戦は各学年で1位のクラスから5人ずつ出て競技する。そして今年の素敵なゲストを紹介しよう。ジョーズでお馴染み、ホオジロザメだ!」
えぇぇっ!?…凄い騒ぎになった会場の中に「そるじゃぁ・ぶるぅ」よりも大きなサメを担いだシド先生たちが入ってきました。体長1メートルを軽く超えているサメですけれど、あれってもちろんオモチャですよね?1匹、2匹…とプールに放されたサメがグルグル泳いでいます。すごく良くできたロボットだなぁ…、と思ったのですが。
「サメは全部で8匹だよ。淡水と塩素に慣らしてあるから元気一杯だと思っておくれ。ケガしちゃ困るし、歯の先はちゃんと削ってあるんだけどねぇ…。サメだからさ、噛み付くのだけはどうにもならない。リレー中、サメ避け人員を各クラスに一人ずつ認めよう。あとは頑張って泳いでおくれ」
ひゃあああ、本物のサメですか!阿鼻叫喚のプールサイドで会長さんは悠然と。
「ぶるぅ、今年はサメだってさ。去年はシビレエイで、その前が電気ウナギだっけか?…ぶるぅはどれがマシだと思う?」
「えっとね…イルカに似てるから、サメがいいかな。電気でビリビリするのはヤだし」
「度胸試しって、こういう意味!?」
ジョミー君が泣きそうな顔で叫ぶと、会長さんはニッコリ笑って頷きました。
「そうだよ、ジョミー。ほら、1年生が呼ばれてる。早くコースに行かなくちゃ。…サメ対策はぼくに任せて、君たちはリレーを頑張りたまえ」
青ざめた1年生男子がコース前に並びましたが、誰一人プールに入りません。シド先生がホイッスル片手に「1年生は全クラス棄権か?」と聞いた途端に、飛び込んだのは会長さん。A組に割り当てられたコースのロープに寄りかかりながら、軽く右手を上げました。
「ジョミー、君が1番に泳ぐんだ。ぼくが全力でサポートする。他の子は…大丈夫だと確信したらジョミーの後に続きたまえ」
「ええっ、ぼく!?」
「うん。ほら、ぐずぐずしてるとサメが来るよ?…シド先生、合図をお願いします」
分かった、とシド先生がホイッスルを吹き、ジョミー君はもうヤケクソ。ザッパーン!とプールに飛び込み、泳ぎ始めたジョミー君を追いかけるように会長さんが泳ぎ始めて…そこへサメが集まってきたのですが。なんと会長さんはサメの鼻っ面をパシッと叩き、追い払ってしまったのでした。会長さんはジョミー君を護衛して泳ぎ、サメが近づいてくるとパシパシ叩いて…無事にプールを往復したジョミー君は次の子にバトンタッチです。
「おや、A組の一人勝ちかい?」
ブラウ先生に笑われ、他のクラスもコースを泳ぎ始めましたけれど…。
「噛まれたーっ!!!」
サメ対策用にと飛び込んだ子たちがすぐ逃げ出すので、他のクラスのリレーは何度も中断し続け、会長さんにガードされたA組のアンカーがゴールインしても…他のクラスの生徒は三分の一もコースに出てはいませんでした。A組、余裕の1位です。会長さんは「沢山泳いで疲れたから」と、まりぃ先生が待つ救護所へ。ああ、もうお昼寝していますよ…。

そんな調子で2年、3年のリレーも終わり、残るはいよいよ決勝戦。A組からはジョミー君、キース君の他に泳ぎの得意な生徒が3人選ばれました。会長さんは今度もサメ避け要員としてコースにスタンバイしています。2年、3年チームも出揃って…シド先生のホイッスル。1年A組は今度もぶっちぎりの速さでした。なんといっても叩くだけでサメを撃退できる会長さんがいるんですもの。他の学年は泳いでいる人がサメに噛まれないよう、ガードするのが精一杯です。
「…いいなぁ、ブルー。…楽しそうだなぁ…」
競技を見ていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が羨ましそうに呟きました。そういえば水族館のイルカショーではしゃいでましたっけ。サイズ小さめのホオジロザメがイルカみたいに見えるのでしょう。8匹のサメはグルグル、グルグルと泳いでいる人を取り巻いています。あ、キース君が飛び込みました。アンカーですから、キース君がコースを往復したらA組の勝利は確実です。…って、そこで飛び出したのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「かみお~ん!!!」
ダッ、とプールサイドを蹴ってジャンプした「そるじゃぁ・ぶるぅ」は一番近くにいたサメの背中に飛び乗りました。いきなり襲われる形になったサメはパニックを起こし、他のサメを巻き込んでプールの中をメチャメチャに泳ぎ始めます。リレーコースを泳ぐ生徒は目に入らないようでした。その機に乗じて2年、3年のアンカーが飛び込み、猛然とキース君を追い上げて…ターン。
「あ、あ…。キース君、追いつかれちゃう!」
「あいつら、二人とも水泳部だぜ!」
キース君はコース半ばで追いつかれました。もうダメだ、と思った時です。いつの間にかキース君のそばに近づいていた会長さんがキース君の右手にタッチし、そのままスーッと潜っていって…浮かび上がったのはゴールのすぐそば。シド先生がゴールインのホイッスルを鳴らした時点で2年生と3年生は、会長さんから2メートル近く離れていました。
「やったぁ、1位!1位だよ!!」
「生徒会長さん、かっこいいーっ!!」
A組のみんなが大騒ぎする中、会長さんはプールから上がって救護所へ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は楽しそうに8匹のサメで遊んでいましたが、競技終了ということでサメは回収。専用シートで簀巻きにされて運ばれていくサメを名残惜しそうに見ている「そるじゃぁ・ぶるぅ」はちょっぴり寂しそうでした。サメを担いだ教頭先生と何か話していましたけれど、やがてガックリと肩を落として。
「…水族館に返しちゃうんだって…」
そう言いながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」はA組の場所に戻ってきました。
「プールに置いといてくれればいいのに。そしたら毎日遊べるのに…」
「ダメよ、プールが使えなくなるわ。…サメなんかいたら誰も泳げないし」
スウェナちゃんが窘め、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も仕方なさそうな顔をしていますけど…サメがプールに居残っていても泳げそうな人が一人だけいます。まりぃ先生に団扇であおいでもらって昼寝している会長さん。サメをパシパシ叩いてましたが、本当だったら手も触れないでサメを撃退できるのでは…。えっと、なんでしたっけ…タイプ・ブルー?…そう、タイプ・ブルーだとかいう会長さんなら…。
『早すぎる』
頭の中で声が響いて、私は周りを見回しました。今の声って…会長さん?
『そうだよ。…でもタイプ・ブルーのことは、今は忘れて』
昼寝していた会長さんが起き上がってこっちを見ています。離れているのに赤い瞳に吸い込まれそう…。ふと気がつくとプールのコースロープが片付けられてしまっていました。水泳大会、もう終わりかな?ちなみにサメの削られた歯は、新しい歯がすぐに生えてくるので心配しなくていいそうです。




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