シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
球技大会の日の朝。体操服に着替えてグレイブ先生を待っていると、生徒会長さんが体操服で現れました。体操服は持っていない、と聞いていましたが…。
「買ったんだけど、やっぱり変かな?制服で応援に徹した方がいいだろうか」
「「「変じゃありません!!!」」」
切実な声で叫んだのは男子生徒、黄色い声は女子生徒です。会長さんは本気で球技大会に出場するつもりのようでした。会長さんの不思議な力のことを思うと、応援だけでも十分そうな気がするんですけどね。
「かみお~ん♪…ぼくもちゃんと来たよ!」
体操服の「そるじゃぁ・ぶるぅ」がトコトコ入ってきて、会長さんの机にちょこんと腰掛けました。A組を1位に導く助っ人が揃ったところへグレイブ先生の登場です。
「諸君、おはよう。今日の球技大会も頑張ってくれたまえ。1位を期待しているぞ。だが、ドッジボールは勉学ではないからな…頑張りはほどほどにしておくように。学年1位で十分だ。学園1位は必要ない。我がクラスが体育バカになる必要はないのだからな」
あれ?…グレイブ先生、なんだか変です。球技大会は学年1位のクラスで更に競って学園1位を決めると聞いているのに、学園1位は要らないだなんて…1位がお好きな先生の言葉とは思えません。確かに学力では1年生の私たちのクラスが学園1位は無理でしょうけど、だからといって球技大会で学園1位を取ったら『体育バカ』と認定される筈がないですよねえ?
「不審に思う者も多いようだが、球技大会で体力を使い果たして明日以降の授業に支障が出ては本末転倒。学年1位の座についたなら、後は適当に手を抜くように。早々にアウトになって内野を退くことを勧める」
なるほど。どちらかのチームの内野が0人になるまで試合が続くと聞いていますし、上級生のクラスと激しい試合をすれば消耗するのは確かです。さっさと全員アウトになってしまえば試合終了も早く、体力を温存しておけるというのがグレイブ先生の考えですか!学生の本分は勉強だという結論に私たちは素直に納得しました。
競技会場は男子はグランド、女子は体育館。午前中は学年ごとのトーナメント戦、午後は学年1位決定戦ということですが、トーナメント戦が午後にもつれ込む可能性もあると言われました。私たちA組女子は「そるじゃぁ・ぶるぅ」と一緒に体育館へ。くじ引きで決まった初戦の相手は運動部所属の生徒が多い優勝候補のD組でした。
「本当に勝てるのかしら…」
コートを前にして弱気のA組。でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ笑って準備体操をしています。
「大丈夫だよ!ぼく、逃げるのもアウトを取るのも自信があるんだ。任せてくれていいからね♪」
ホイッスルが鳴って試合開始。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は小さな身体でコートを駆け回り、飛んできたボールをキャッチしてはポイポイ投げ返しました。このボールがまた面白いように相手チームに当たるんです。見る見る内にD組の内野は空っぽに。コートをチェンジしての後半戦も結果はA組の圧勝でした。さて、次の相手は…って、まだ決着がついていないようです。
「あっちの試合、半時間くらいかかりそう。男子の方を見に行かない?」
私とスウェナちゃんは審判の先生に声をかけてからグランドの方に向かいました。ところが…。
「なんだ、女子の方も第一試合が終わったんだ?」
ジョミー君がジュース片手に座っています。キース君とマツカ君も。
「で、どうだった?女子は勝てたの?」
「うん、圧勝。そるじゃぁ・ぶるぅが頑張ったのよ」
スウェナちゃんが言うとジョミー君は拳を突き上げ、一緒に喜んでくれました。
「ぼくらの方も凄かったよ。…アウトを取ったの、殆ど会長。だけど体力が無いっていうのは本当みたい」
うんうん、とキース君たちが頷きながら指差した先は救護用のテントでした。簡易ベッドに会長さんが横たわっていて、まりぃ先生が世話をしているようです。
「次の試合まで休むそうだ。心配いらないと言ってはいたが」
キース君の言葉にホッとしながら私たちは体育館に戻り、第二試合に挑みました。もちろんアッという間に勝って「そるじゃぁ・ぶるぅ」は得意顔。この頼もしい助っ人のおかげでA組女子は見事に学年1位の栄冠を手にすることができたのでした。グランドで戦っていた男子の方も「救護テントとコートを往復」する会長さんの活躍で学年1位。全学年の1位が午前中で決定したので、午後は学年1位決定戦を残すのみですね。
昼食は今日は全員、お弁当持参。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は二人で1つの重箱でした。ジョミー君、キース君、マツカ君、スウェナちゃんと私は「そるじゃぁ・ぶるぅ」自慢のおかずが詰まった大きな重箱のお相伴に与りながらお弁当を食べていたのですが。
「…午後はどうするつもりなんだい?グレイブ先生の言葉に従うんなら、ぼくとぶるぅは抜けさせてもらうけど」
会長さんの言葉に私たちは顔を見合わせ、それで構わないと言いました。
「ふぅん…。グレイブ先生の思う壺だな」
えっ?思う壺って、いったい何が???
「やっぱり知らなかったのか。学園1位の座は長年3年生のものだったから…知らなくても無理はないけどね。学園1位の座の別名は『お礼参り』と言うんだよ」
「「「お礼参り!?」」」
私たちが叫んだ単語を聞きつけ、クラスのみんなが集まってきます。会長さんは悪戯っぽい笑みを浮かべて言いました。
「そう、お礼参り。学園1位になったクラスは全員で先生チームと対戦することができるんだ。対戦相手の先生を指名する権利は生徒にあって、先生側は内野2人と外野が1人。…生徒は制限時間一杯、アウトにならない頭を狙って攻撃する伝統になっている」
指名した先生をクラス総がかりでボコボコに!お礼参りと呼ばれるわけです。
「指名された先生は絶対に断れないが、もうひとつ。内野2人の先生の内、一人は1位を取ったクラスの担任というのが鉄則なんだ。お礼参りをされる先生に、クラス担任として身体を張ってのお詫びってこと」
「それじゃ、グレイブ先生が学園1位を取ってはいけないって言ってたのは…」
「お礼参り対策だろうね。ぼくとぶるぅが来てしまった以上、学園1位は実現可能だ」
ワッ、とクラス中が湧きました。グレイブ先生を学園公認でボコボコに出来るチャンスとあれば、やってみたくないわけがありません。やる気満々の私たちに向かって会長さんがつけた注文は…。
「君たちはグレイブを狙えれば満足なんだろう?…もう一人の内野を指名する権利をぼくにくれるかな」
もちろん否なんて有り得ません。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の力が無ければ学園1位は無理なんですから。
こうして学園1位決定戦の幕が切って落とされ、1年A組は男女揃って学園1位に輝きました。
「…諸君、私は君たちをとても誇りに思っている。だから友好的に親善試合といこうじゃないか」
「見苦しいよ、グレイブ。覚悟したまえ」
表彰式の後、グレイブ先生が言い出したのを撥ね付けたのは会長さん。
「それから、君と一緒に内野に入るのは……教頭先生でお願いしたいな」
げげっ!教頭先生って柔道十段だし、強いのでは?やってみないと分かりませんけど。外野の決定権は先生側にあるらしく、シド先生が選ばれました。シド先生はサッカー部顧問。お礼参りどころか返り討ちかも…。
「いいかい、制限時間は7分だ」
審判のブラウ先生が目を光らせる中、グランドの大きな特設コートにA組全員と会長さんが入り、外野に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が立っています。相手コートにはジャージ姿のグレイブ先生と教頭先生、外野にシド先生。
「それじゃ、お楽しみのお礼参りの時間だよ!はじめっ!」
ブラウ先生の声を合図にジャンプボール。A組がボールをゲットし、その後の試合は一方的にA組からの『お礼参り』展開でした。でも、おかしいなぁ…。教頭先生に恨みがある人はいないんじゃないかと思うんですけど、グレイブ先生を上回る勢いで教頭先生の顔や頭にボールが激突しているような…?
「ハーレイはぼくの担任だからね」
そんな声が聞こえたような気がしましたが、空耳だったかもしれません。広いコートを軽やかに駆け抜ける会長さんの勇姿にギャラリーの女子から歓声が上がり、A組の生徒は教頭先生が投げたボールの直撃を受けたアルトちゃん以外は一人もアウトになることもなく無事に試合を終えたのでした。
「楽しかったね、球技大会♪」
終礼のために戻った教室で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び跳ねています。会長さんも満足そうに机に頬杖をついていました。グレイブ先生は腫れ上がった顔を見られないよう、私たちの方に背を向けて。
「諸君、私は担任だ。試験となれば諸君と戦う。だが、球技大会は試験ではない。これは余興だ。…お礼参り…。あれこそ馬鹿騒ぎだ!」
先生の肩が震えています。でも『お礼参り』は学園公認、先生は生徒を叱れません。もしかして会長さんは、これがやりたくて球技大会に出たのかも。…「ハーレイはぼくの担任だからね」…。あの声が今もハッキリ耳に残っているんです。教頭先生、まりぃ先生に顔を冷やしてもらってらっしゃるかな?
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