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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

終業式・第2話

生徒会長さんの目の前でズボンを下ろそうとしている教頭先生。信じられない光景を目にして、私たちは固まってしまいました。いつも冷静なキース君ですら、口をパクパクさせています。
「…ち、違う、誤解だ!!」
教頭先生が叫びましたが、この状況でそう言われても信じる人がいるでしょうか?それに教頭先生は戸棚の奥に会長さんのウェディング・ドレス姿の等身大写真を隠し持っていた過去があるのです。もしかしなくても教頭先生、割り当て分の狸をねだりに行った会長さんに…交換条件としてとんでもないことをさせようと?…それを察知した会長さんが助けを求めて私たちを…?
「………失礼します!」
一番最初に我に返ったキース君が教頭先生の右腕を掴み、続いてシロエ君とマツカ君が左腕と足を封じました。教頭先生はズボンが少しずり下がったまま、身動きが取れない状態です。見ちゃいけないと思うのですが、赤と白の縞々トランクスの方についつい目線が行ってしまうのはスウェナちゃんも同じみたい。
「…カッコ悪いね、ハーレイ。弟子に押さえ込まれた気分はどうだい?」
会長さんがソファからゆっくり立ち上がり、キース君たちに微笑みかけました。
「ありがとう、みんな。…助かったよ」
「ち、違う!だから誤解だと…!」
「…その格好で五階も六階もないと思うな」
柔道部の三人に取り押さえられた教頭先生に会長さんの冷たい視線が向けられます。
「驚いちゃったよ、狸を分けて下さいってお願いしたらズボンを脱ごうとするんだからね。…ぼくは自分を安売りするつもりはないんだけれど」
ひゃあああ!やっぱりそういうことですか!キース君たちの腕にギリッと力が籠められました。柔道部でお世話になっている先生といえども、容赦する気はないようです。
「…校長室に連行するか?それとも校長先生を呼ぶか?」
キース君が尋ねました。
「ち、違うんだ、信じてくれ!!…ブルー、人が来る前にみんなの誤解を…」
「…言い訳の前に、狸」
会長さんが教頭先生の顔を見つめ、右手をスッと差し出して。
「持ってないとは言わせないよ、学校中の狸の分布図。金の狸と銀の狸の在り処を書いた地図を渡すか、現物をぼくたちに引き渡すか。金なら七個、銀なら三十五個が必要なんだけど」
「に…人数分の狸か…」
「そう。狸の件が落着したら、いくらでも言い訳を聞かせて貰おう」
教頭先生は顔にびっしり汗を浮かべて、動けないまま答えました。
「…内ポケットだ。上着の内ポケットに入った地図に、金と銀の狸が置かれた場所が…」
「ありがとう」
地図を抜き取った会長さんが狸の隠し場所をジョミー君とサム君に伝え、二人はダッシュで回収に。ジョミー君たちが金の狸を七個集めて戻ってくるまで、教頭先生はズボンを上げることも出来ずに拘束されたままでした。

「間に合ったぁ!…やったよ、金の狸が全部で七個!!」
制限時間の午後3時まで残り十分余りという時、ジョミー君とサム君が両手に金の狸を握って教頭室に駆け込んで来ました。これで私たち七人は全員、夏休みの宿題免除です。プリントもドリルも自由研究も、何もやらずに遊び三昧の夏休み!天才の筈のキース君とシロエ君も悪くない気分のようでした。強制されて勉強するのは二人とも好きじゃないんです。
「良かったね、みんな。ハーレイ、ぼくからもお礼を言うよ」
「…ブルー…。礼なんかより、他に言うべきことがあるだろう」
縞々トランクスの教頭先生が眉間の皺を深くしました。
「あ、そうそう。そうだっけね」
会長さんはニコッと笑い、縞々トランクスを指差して…。
「…見てごらん。恥ずかしいだろう?後ろ前に履いてるんだよ、ハーレイったら」
「「「後ろ前!?」」」
思いも寄らないことを聞かされ、私たち七人はビックリ仰天。
「うん、後ろ前。これじゃトイレで困るだろうね」
「…本当だ…」
屈み込んだジョミー君が縞々トランクスを見つめています。スウェナちゃんと私は好奇心に負けてチラッと眺め、すぐに視線を逸らしました。
「前あきが無いや。トイレに行けないことはないけど…」
「かなり格好悪いと思うよ。他の人が入ってきたら、とても間抜けに見えるだろうし」
クスクスクス。会長さんに笑われ、ジョミー君やキース君たちにも笑われ、教頭先生の顔は真っ赤です。
「気付いたから注意してあげたんだ。で、履き直すように言ったんだけど…ね」
「あんた、まさか…」
キース君の顔がヒクッと引き攣りました。
「そう、その『まさか』さ。君たちが飛び込んで来たのは、ハーレイが履き直そうとしていたところ」
あちゃ~!じゃあ、誤解だという教頭先生の叫びの方が真実だったということですか。キース君たちは慌てて教頭先生の手足を放し、床に土下座してしまいました。
「も、申し訳ありません!…大変失礼いたしました!」
「…いい、いい。…君たちが謝る必要はない」
教頭先生は自由になった手でズボンを引き上げ、ベルトを締めてからキース君たちの手を取って順に立ち上がらせていきます。
「朝練の後、シャワーを浴びた時に間違えて履いてしまったようだ。ブルーに指摘されなかったら、そのまま気付いていなかったろう。後で奥の部屋で履き直す。…それにしても、ブルー…。女の子まで呼び込まなくてもいいだろうに」
「この程度で卒倒するような子たちじゃないよ。誤解されたとおりのコトをしている最中だった、というならともかく」
さ、最中!?…想像してボンッ!と赤くなったのはスウェナちゃんと私だけではありませんでした。
「じゃあ、金の狸は貰っていくよ。ありがとう、ハーレイ」
クルリと踵を返した会長さんを私たちは慌てて追いかけます。廊下へ出てから振り返ってみると、教頭先生は椅子に沈み込んで顔にハンカチを載せていました。もう少ししたら冷却シートがおでこに貼られているのかも…。

「…さっきの後ろ前の話だけどな」
会長さんと別れ、大切な金の狸を1個ずつ持って教室に戻っていく途中の廊下で口を開いたのはキース君。
「あの落ち着いたハーレイ先生が、間違えるとは思えない。いや、百歩譲って本当に間違えていたんだとしても、狸目当てで行った会長がトランクスなんか見ると思うか?いくら能力があったって」
言われてみれば確かに変です。ポケットの中身とかならともかく、トランクスに用はありません。
「そうだよねえ。じゃあ、もしかして…教頭先生は会長に…」
「ハメられたんだ、と俺は思うぞ。あいつの力なら地図くらい手も触れずに盗み出せるんじゃないか?狸の在り処も簡単に探し当てられそうだ。なのに、わざわざ教頭室に…。そして起こったのがあの騒ぎだ」
「焼肉パーティーの時も陥れてましたっけね」
シロエ君が顎に人差し指を当て、ヒュウと口笛を吹きました。
「トランクスは会長が後ろ前に入れ替えてしまった、とか?…そのくらいのことは出来そうですよ」
「恐らくそれが真相だろう。教頭先生に申し訳ないことをしてしまった…」
「いいって、いいって!…多分、そんなに気にしてないさ。悪巧みしたのは会長なんだし」
ジョミー君がお気楽に言い、私たちはそれもそうか、と納得しました。それに教頭先生だって、会長さんのウェディング・ドレス姿の等身大写真を戸棚に隠していたんですから…疑われても仕方ないかも。とにかく今は金の狸を提出するのが最優先です。宿題免除、バンザーイ!




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