シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
生徒会長さんのお蔭でゲットできた金の狸をグレイブ先生に提出し、私たちは宿題免除になりました。アルトちゃんとrちゃんも金の狸と銀の狸をそれぞれ提出しています。クラスメイトの羨望の視線が突き刺さる中、終礼をして一学期にサヨウナラ。夏休みですよ!ワッと飛び出していく人たちと入れ違いに入ってきたのは会長さん。真っすぐアルトちゃんとrちゃんの席に近づき、ポケットから手帳を取り出しました。
「夏休みは家に帰るんだろう?よかったら住所を書いてほしいな」
えぇぇっ!?…お守り袋は実家に帰省中でも有効ですか!?アルトちゃんたちも同じことを思ったらしく、頬を赤らめてモジモジしています。
「あ、違う、違う。家にまで押しかけるつもりはないよ。長い休みだし、葉書でも出そうかと思ってね。綺麗な絵葉書が見つかったら」
なぁんだ…。アルトちゃんたちはホッとした顔で嬉しそうに住所を書き始めました。これでいいですか、と差し出された手帳を眺めた会長さんは…。
「いい所に住んでいるんだね。ちょっと旅心をくすぐられるな。…前言撤回。行ってもいい?」
アルトちゃんたちは真っ赤になりつつ、観光案内をすると答えています。
「観光案内も嬉しいけれど。…旅の醍醐味はアバンチュールだと思わないかい?」
わわわっ!会長さんは完全にナンパモードでした。あの様子では本当にアルトちゃんたちの帰省先まで押しかけちゃうかも…。放っとくしかないですけど。私とスウェナちゃんとジョミー君は、アルトちゃんたちと話し込んでいる会長さんを残して「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋へ行きました。キース君とマツカ君は柔道部。トランクス騒動の後だけに、どんな顔をして教頭先生に会うのか、ちょっと見てみたい気もしますよね。
「かみお~ん♪もうサムが来てるよ」
生徒会室の壁を抜けると、サム君がソファに座っていました。
「よう。お先に食べてるぜ」
サム君の前にはチョコレートパフェ。私たちの分も「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手際よく作ってくれましたけど、テーブルの上の特大パフェは…どう見ても「そるじゃぁ・ぶるぅ」のです。溶けないように氷をたっぷり入れたバケツの中に、フルーツポンチ用とおぼしき巨大な器が…。
「どうせならお腹いっぱい食べたいもんね♪」
おたまで豪快に掬い取ったパフェを頬張りながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」は御満悦。あ、夏休みってことは、もしかして…「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製オヤツや超絶美形の会長さんとしばらくお別れなんでしょうか?
「ぼくのお部屋は夏休み中も開いてるよ。だからブルーにも多分会えると思うけど」
旅行に行ったりしてなければね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。アルトちゃんたちをナンパしていた会長さんを思い返すと、なんだか複雑な気分です。アルトちゃんとrちゃん…会長さんの好みのタイプなのかな?
「ぼくの好みがどうしたって?」
会長さんが壁を抜けて現れ、私はアイスクリームを喉に詰めそうになりました。咳き込んでいる間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が会長さんのパフェを作ってアイスティーと一緒に渡します。
「ありがとう、ぶるぅ。チョコレートパフェもいいけど、他のパフェも魅力的だよねぇ。せっかくの夏休みだし、いろんなパフェを味わいたいな。旅先で食べる御当地アイスも捨て難い」
うーん…。これは例え話というものでしょうか?夏休みだからナンパしまくって、アルトちゃんとrちゃんの帰省先でもひと夏の恋を語ってくると?…私は会長さんの瞳を見詰めましたが、答えは返ってきませんでした。パフェを食べ終え、いつものように皆でワイワイ話していると部活を終えたキース君たちもやって来て。
「一学期の打ち上げパーティーしたいな」
ジョミー君の提案で出かけることになりました。もちろん「そるじゃぁ・ぶるぅ」も一緒。
「君たち、パーティーもいいけど、その前に教頭先生に狸のお礼を言わなくっちゃね」
あ。それはすっかり忘れていました。誤解して変態扱いしちゃった上に、狸を強奪したんでしたっけ。お礼なんか一言も言っていません。学校を出る前にお礼を言わなきゃ、失礼にあたるというものです。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れ、会長さんについて教頭室に向かいました。
「あれ?…ドアが開けっ放しだ。教頭先生、いないのかな?」
ジョミー君が言うとおり、廊下の奥にある教頭室の重い扉が全開です。
「出かけるなら施錠しているさ。何か事情があるんだろう」
そう言った会長さんに皆の視線が突き刺さりました。心の声は「あんたのせいだ!」で一致してたと思います。濡れ衣を着せられた教頭先生、今日は扉を開け放っておきたい気分なのでしょう。扉を全開にした状態で後ろめたい行為に及ぶ物好きはいませんから。…教頭室に近づいていくと…。
「暑っ!」
開け放たれた戸口から温風…いえ、熱風が吹き出してきていました。夏だとはいえ、これは暑すぎです。何事?と覗き込んだ私たちは既にウチワが欲しい気分でした。その部屋の中で教頭先生が涼しい顔をし、スーツ姿で書き物をしています。
「…なんだ?またお前たちか」
私たちに気付いた先生は苦笑いをして、クーラーが故障したのだと言いました。
「で、今度は何の用事で来たんだ?」
「「「狸、ありがとうございました!!!」」」
「なんだ、そんなことか。明日から長い夏休みだが、あんまり羽目を外さんようにな」
声を揃えて頭を下げると、先生はにこやかに笑っています。さすがは柔道十段の武道家、根に持つタイプじゃないんですね。よかった、よかった。それにしても暑いお部屋です。立ってるだけで汗が噴き出してきそう。
「ハーレイ、この暑いのにスーツなんか着てよく平気だね。ワイシャツ1枚のぼくでも辛いよ。…何か秘密兵器でもあるのかな?それとも鍛え方が違うとか?」
会長さんが教頭先生の机に近づき、机の下を覗き込んで。
「あっ、本当に秘密兵器だ!」
私たちの頭の中に、会長さんが見ているものがダイレクトに送り込まれてきました。教頭先生はズボンを膝までまくり上げ、裸足の足と脛を大きなバケツに張った水の中に突っ込んでいたのです。
「なるほど、威厳を保つバケツ…か。これが無くなっても平気かい?…よいしょ、と」
頭の中から画像が消えて、会長さんが机の下に潜り込もうとしています。
「あっ、こら!バケツを持っていくヤツがあるか!!」
ガッターン!会長さんを止めようとした教頭先生がバランスを崩して椅子から落っこち、宙を泳いだ手が会長さんのワイシャツを掴んだと思うと………ビリビリッと布を引き裂く音が。
「ジョミー!!!!!」
会長さんの声と、ジョミー君のケータイカメラのシャッター音が殆ど同時に響きました。ケータイカメラが激写したのは床に尻餅をついた会長さんと…会長さんを押し倒すようにのしかかっている教頭先生。会長さんのワイシャツは襟元からベルトで隠れる部分まで無残に裂けて、白いお肌が露出しています。裂けたシャツの端を握っているのは教頭先生のゴツい手で…。
「あ…。ぼ、…ぼ、ぼく…」
ジョミー君がケータイを構えた右手を呆然と見ていました。自分でも何をしたのか分かっていない、という感じです。
「すまない、ジョミー……君を選んで…」
教頭先生の身体の下から這い出した会長さんが胸元をかき合わせ、ジョミー君の隣に立って。
「君の立ち位置が一番良かったんだ。…とんでもない写真を撮影させて、心からすまなく思っている…」
え。じゃ、ジョミー君が自発的にシャッターを切ったわけではなくて、会長さんがジョミー君を操ったと…?
「ジョミー、ちょっと貸してくれるかな」
ケータイを受け取った会長さんは画像データを満足そうに眺め、倒れたバケツから広がった水溜りの真ん中にへたり込んでいる教頭先生に見せびらかすようにかざしました。
「この写真、誰に送ろうか?…校長先生?それとも警察?…ああ、ジョミーのアドレス帳に載ってる人に一斉送信するのもいいねえ」
「ブルー!!!」
悲痛な声の教頭先生。会長さんが私たちに写真を見せてくれましたけど、これはどう見ても…教頭先生が会長さんを襲う瞬間を捉えたとしか…。
「ねぇ、ハーレイ」
ケータイをジョミー君に返した会長さんは、教頭先生の横にしゃがみ込んで甘ったるい声を出しました。こ、このパターンは…ついこの間も教頭室で…。
「ぼくたち、一学期の打ち上げパーティーに行くんだよ。中華料理なんかいいかなぁ、って」
「…ちゅ、中華料理……」
「そう。ぶるぅが美味しいお店を見つけたんだけど、夜はコースしかなくて高くって…」
会長さんが言い終わる前に教頭先生は財布を取り出し、その後は…。
「ありがとう。足りなかったらツケにしてきていいんだよね?」
苦りきった顔で頷く教頭先生。会長さんはジョミー君からケータイを受け取り、パパッと操作して微笑みました。
「はい、消去完了。そうそう、クーラーはもうすぐ直ると思うよ、ハーレイ」
じゃあね、と出てゆく会長さんに続く私たち。背後でカチッと音がして涼しい風が吹き始めたのは、廊下へ踏み出した時でした。
一学期最後の夜は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が開拓してきた中華料理の高級店。一番高いコースを頼み、個室のテーブルを囲んで大騒ぎです。
「…ひとつ聞きたい。教頭室のクーラーを故障させたのは、あんたなのか?」
「決まってるじゃないか」
キース君の質問に会長さんは悪びれもせずに答えました。
「熱風が吹き出すように細工し、電源を切ることもできないようにしておいたんだ。…ハーレイがスーツのままだったのは誤算だったけど」
「誤算って…」
「上半身は脱ぐと思っていたんだけどな。そしたらもっと凄い写真が…。まぁいいか、結果は似たようなことになったんだしね」
クスクスクス。笑い声を漏らす会長さんの向かいでジョミー君が思い出したようにケータイを取り出し、少し弄っていましたが…。
「なんだよ、これ!添付写真削除って…こんな写メなんか送った覚えは…」
「ぼくが送った」
会長さんが即答しました。
「添付写真はさっき消したアレ。…送信先はハーレイの学校専用のパソコンアドレス」
「…あ、あんた……」
キース君が会長さんを指差してワナワナと震え、誰もが心で叫んだ言葉は「あんたは鬼や!」の一言でした。お仕事でメーラーを立ち上げた教頭先生、倒れなければいいんですけど。っていうか、教頭先生、あの画像が他の所にも送信されているんじゃないか、と震え上がるような気がするんですけど~!
「構わないさ」
クスクスと会長さんが笑っています。
「震え上がらせておけばいい。…それに、もしかしたら自宅のパソコン用の壁紙に加工するかもしれないよ?なにしろぼくに御執心だからね」
唇をペロリと舐めた会長さんはゾッとするほど綺麗でした。打ち上げパーティーは賑やかにお開きになり、教頭先生に貰ったお金で支払って…残りは夏休み用にとっておくことに。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は中華饅頭のテイクアウトを頼んでいました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の家って、あのお部屋の他にもあるのかな。そして会長さんが住んでる家は…いったい何処にあるのでしょうね?夏休み中に御招待とかしてくれないかな…。