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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

お祭り大好き  第2話

大学が忙しいから学園祭のメンバーから外して欲しい、と希望していたキース君。なのに肝心要の特別講座を放棄し、サボッてしまったらしいのです。単なるサボリ根性ではなく、深刻な理由があるようですが…。会長さんはそれを聞き出すまではキース君を放しそうにありません。
「なんとも暗い顔つきだねぇ…。乗り越えるのも難しそうな限界なのかい?」
「………」
「やれやれ、今度はだんまりか。まあいい、だいたい想像はつく。…キーワードは先輩。違うかな?」
「!!」
キース君の肩がビクッと震え、会長さんはクスッと小さく笑いました。
「やっぱりね。修行道場に行ってる二年生たちは、道場で寝泊まりしながら朝晩のお勤めをして、昼間は普通に大学に来る。キースはその先輩たちに会ったってわけだ」
「…それでどうしてサボリになるの?」
分からないや、とジョミー君。私たちも頷きます。会長さんはココアを一口飲んで。
「キースが前から嫌がっている道場入りの条件はツルツルの剃髪、坊主頭だ。でも二年生での修行道場は剃髪は必須条件じゃない。キースはすっかり油断したのさ。ところがどっこい、修行道場は剃髪とまでいかないだけで…女子はともかく、男子は短く刈り込まないと熱意を買って貰えないんだ。熱意が無いと断られる」
「…ええっ…」
ジョミー君が反応しました。会長さんに仏弟子認定されているせいで髪の毛の話に敏感です。
「それじゃ髪を短くしないと修行をさせて貰えないわけ?」
「うん。今のキースの髪じゃ確実にダメだ。もっと短く切らないと…。スポーツ刈りか五分刈りだね」
「「「!!!」」」
キース君が…スポーツ刈り。でなきゃ五分刈り! まるで想像がつきませんけど、キース君は修行中の先輩たちの髪が短く刈り込まれてしまっているのを見たのでしょう。毎日それを見ている内に「来年は自分も…」と恐怖感が募り、とうとう講座をサボッて単位を落とし、修行に行く日を先延ばしに…。
「キース、正直に答えたまえ」
俯いているキース君を会長さんが赤い瞳で見詰めます。
「特別講座をサボッてきたのは髪に未練があったからかい? それが悪いとは言わないよ。でも特別講座を受けないのなら、ぼくたちに合わせてくれないと」
「……すまん。ブルーの言う通りだ。俺はまだ五分刈りもスポーツ刈りも…したくなくて…それでサボリを…。メンバーから外してくれ、なんて偉そうなことを言ったくせにな」
悪かった、とキース君は頭を下げました。
「俺も今日からメンバーになる。遅れを取った分は努力するから…」
「それならいいんだ。今日から一緒に頑張ろう」
会長さんがキース君の手をガシッと握り、満面の笑みを浮かべました。
「仏の道は逃げないけれど、学園祭の練習には期限があるし…。大丈夫、モデルウォークのレッスンくらい、君ならすぐに追いつけるよ。…ぶるぅ、キースの採寸を」
「オッケ~!」
メジャーを取りに走った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が早速採寸を始めます。ジョミー君たちは仲間が増えて大喜び。
『そるじゃぁ・ぶるぅを応援する会』のファッションショーにお客さんは来るのでしょうか? 会長さんが音頭を取っている以上、閑古鳥にはならないでしょうが…どう考えてもお笑いですよねぇ…。

キース君も加えての練習は毎日続き、学園祭の日が近づいてきます。ある朝、1年A組の教室の後ろに机が増えて、会長さんが登場したと思ったらグレイブ先生が後夜祭の人気投票について話し始めました。
「…というわけだから、仮装したい者は風紀を乱さないよう気を付けてやってくれたまえ。なお、この投票は長年ブルーとフィシスの独壇場だったが、去年は大きな番狂わせが起きた。男子の一位を取ったのは諸君もよく知っているキース・アニアン。女子はフィシスのままだったがな」
今年も期待しているぞ、とニヤリと笑うグレイブ先生。が、そこで会長さんが手を上げました。
「質問!」
「…なんだ?」
「ぼくが女子でエントリーしてもかまわないかな? マンネリに飽きてきたんだよ。今年はフィシスと競いたい」
「「「えぇぇっ!?」」」
クラス中が蜂の巣をつついたような騒ぎになる中、グレイブ先生はコホンと咳払いをして。
「いいだろう。水泳大会でお前を女子に登録したのは私だ。毒を食らわば皿までとも言うし、お前は女子にしておいてやろう。フィシスの連勝記録が止まるか、お前が惨めに惨敗するか。…後夜祭が見ものだな」
楽しみにしているぞ、と高笑いしてグレイブ先生は出てゆきました。そして会長さんはその日の内に女子として登録されたようです。例によって途中から保健室に行ってしまって、終礼にも出てきませんでしたが。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
今日もみんなで練習だよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が迎えてくれます。会長さんはソファに座って淹れたての紅茶を飲んでいました。
「さあ、練習を始めようか。今日から衣装を着けてもらうよ。本番で転んだんでは意味ないし」
まずは練習用のドレスから、と会長さんが合図をすると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が奥の部屋から色とりどりのロングドレスを運んで来ました。
「貸衣装屋さんで分けて貰ったヤツなんだ。これなら汚しても大丈夫。サイズもみんなに合わせてあるし、ぶるぅの魔法でパッと華やかに変身しようか」
ほら、と会長さんが宙に取り出したのは先端に星がついた金色に輝くステッキでした。
「杖は魔法使いの必須アイテムだと思わないかい? ぶるぅがステッキを振りながらサイオンで君たちを着替えさせる。ドレスが変わる度に輝くような笑顔がほしいね」
「「「笑顔?」」」
怪訝そうな男の子たちに会長さんはニッコリ微笑みかけて。
「だって、ドレスは女の子の夢なんだよ? お姫様に変身だよ? 嬉しくなるのが当然だろう。「まあ、これが私?」と天にも昇る心地でウットリとしてくれなくちゃ。表情の特訓もしないとね」
「できるか!!」
反射的に叫んだのはキース君でしたが、会長さんにジロリと睨まれ、ハッと姿勢を正しました。
「…い、いや…。やる。いえ、やらせて頂きます!」
「けっこう。ぼくに逆らったらいつでも君の大学に電話して特別講座の単位を貰ってあげるからね。そしたら二年生の秋には五分刈り、もしくはスポーツ刈り」
この脅し文句を会長さんが口にするのは何度目でしょうか。お蔭でキース君はみんなに遅れを取ることもなく、すっかり練習に馴染んでいます。今日も軽いティータイムが終わると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が金色のステッキを振り上げて…。
「それじゃいくよ! かみお~ん♪」
キラキラと青い光が飛び散り、男の子たちは華麗なドレスに変身です。そこですかさず会長さんが。
「みんな笑って! そう、もっと嬉しそうに微笑んで…そこでクルッと全員ターン!」
えっと。それなりに絵になってますけど、ヘアスタイルと合ってないのは致命的かもしれません。そこへ「そるじゃぁ・ぶるぅ」がステッキを振り、みんなの頭にティアラや花や可愛い帽子が…。うーん、これならいけるかも!
「いいだろう?」
会長さんがスウェナちゃんと私にウインクしました。
「本番でもこんな調子でいくのさ。ドレスに合わせてリボンなんかもチョイスしてある。最初は「えっ?」と思うようなドレス姿をなんとかするのが魔法使いの醍醐味だろうと思うんだよね」
いい出来だ、と満足そうな会長さん。男の子たちはドレス捌きと表情の猛特訓をされ、練習が終わる頃にはヘトヘトでした。それでも「そるじゃぁ・ぶるぅ」が用意した焼きそばを食べながら…。
「おい、ブルー」
キース君が会長さんを眺めます。
「後夜祭でフィシスさんと競うっていうのは本気なのか?」
「ああ、あれ? 本気だよ。ぼくが女子でも薔薇をくれる子たちがいるのか気になるじゃないか。アルトさんたちは確実だろうけど、他はどうかなぁ? フィシスに惨敗するのもいいよね」
楽しそうだし、と瞳を輝かせている会長さん。またまたロクでもないことを考えてなければいいんですけど…。

『そるじゃぁ・ぶるぅを応援する会』のファッションショーは学園祭初日の午後の一番目に決まっていました。本番を明日に控えて、ついに本物のドレスを着けての練習が…。本番ではステージに一人ずつ出るので、金色のステッキが振られる度に男の子たちが一人ずつ変身してゆきます。
「へえ…。キース、お前、なかなか似合ってるぜ」
「サムもけっこういいじゃないか」
舞台の袖と決められた場所に引っ込む度にお互いのドレスを批評してますが、みんなそれなりに似合っていました。ウォーキングもサマになっていますし、女装の奇天烈さもありません。おそらく髪のリボンや花が効果を上げているのでしょう。しかし全部のドレスが披露された後、会長さんは腕組みをして…。
「ちょっと衣装に負けてるかな。やっぱりメイクをした方がいい」
「「「メイク!?」」」
男の子たちの声が裏返る中、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が奥の部屋から運んできたのは立派なメイクボックスでした。会長さんは馴れた手つきで箱を開け、ジョミー君を手招きします。
「来てごらん。…ぼくがメイクしてもいいんだけれど、自分でやるのが一番だよね」
「…やだよ! なんでお化粧までしなきゃいけないのさ!」
「じゃあ、してあげようか? 師僧の仕事からは外れるけれど、可愛い弟子のためなら…ね」
「……弟子……」
それだけは嫌だぁぁ、と絶叫するジョミー君の手首を会長さんがグッと握った次の瞬間。
「「「???」」」
男の子たちが首を傾げて、すぐに全員が青ざめて…。
「こ、これは…メイクの手順なのか!?」
「どうしてそんなのが頭の中に…!」
「まさかブルーが情報を…」
パニックに陥ったみんなを会長さんは悠然と見回し、ジョミー君をスッと指差しました。
「ぼくが知ってるメイクのテクニックを、ジョミー経由でみんなに流した。流石はタイプ・ブルーだね。ぼく単独でやるよりもずっと簡単だった。…これで全員、自分でメイクが出来るだろ?」
まずは練習、と言われた男の子たちは鏡に向かって黙々とメイクを始めます。その背に向かって会長さんが「あまり濃くしすぎないように」とか「自然な仕上げになるように」とか注文を飛ばし、気付けばドレスの華やかさに負けていない顔が揃っていました。
「うん、仕上がりはバッチリだね。明日もこの調子で頑張ろう。照明と音響は職員さんたちが引き受けてくれたし、君たちはステージに集中していてくれればいい。みゆとスウェナは打ち合わせ通り、受注係だ。ぼくは司会をさせてもらうよ」
「「「司会!?」」」
「そう、司会」
ようやく明らかになった会長さんの役どころはただの司会でした。タキシードを着るとか言ってますけど、なんだかつまらないような…。絶対ドレスだと思ってたのに…。男の子たちも何か言いたいことがありそうでしたが、口にする勇気は無いようです。スウェナちゃんと私は制服ですし、ステージ以外は地味そうですね…。

いよいよ今日は学園祭。今年は男子も仮装している人が多くて賑やかです。1年A組の教室はお化け屋敷に変わってしまって大人気でしたが、私たちは朝から「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で最後の仕上げ。衣装をチェックし、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が襞を整えたり、アイロンで皺を伸ばしたり。
「ドレスは着るまでここに置いておくから触らないでね」
最終チェックを終えたドレスを「そるじゃぁ・ぶるぅ」が奥の部屋へと運び込みます。それが終わるとみんなで早めの昼食を食べて、男の子たちはウォーミングアップに練習用のドレスでモデルウォークのおさらいをして…。
「それじゃ行こうか。そろそろ楽屋に入らないと」
会長さんが立ち上がり、私たちはファッションショーの舞台になる講堂に向かって出発しました。メイクボックスは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が抱えています。講堂の周囲には既にチラホラと人影があり、その手には会長さんがリオさんに作らせていたショーのチラシが。
「チラシと口コミだけだったけど、けっこう人が来ているね。受注します、っていうのが効いたかな」
会長さんは嬉しそうでしたが、男の子たちの表情は複雑でした。お客さんが多ければ多いほど、自分たちの生き恥を広範囲に晒してしまうのですから。楽屋入りした会長さんは黒のタキシードに着替えを済ませ、男の子たちは制服のまま。最初の変身は制服からドレスへ…というのが会長さんのコンセプトです。
「じゃあ、スウェナとみゆは客席を回ってくれるかな。はい、これが受注の申込書」
これまたリオさんに作らせたというアンケート用紙を兼ねた申込書を持って客席へ降りて行った私たちはビックリ仰天。閑古鳥どころか大勢の人が入っています。しかも生徒だけではなくて先生たちまで…!
「せっかくだからミシェルと来てみたのだよ」
最前列にグレイブ先生がミシェル先生と並んで座っていました。
「なんでも受注をしてくれるとか? ミシェル好みのドレスがあれば、ぜひとも注文したいのだが」
「…あの……受注は一名様限りの抽選で…」
「そうなんです。全部ぶるぅの手作りですから…」
「なるほど。では抽選に漏れた場合は個人的にお願いすることにしよう」
グレイブ先生は「うんうん」と勝手に頷き、二人分の申込書を受け取って一枚をミシェル先生に。これが呼び水になって申込書を欲しがる人があちこちで手を挙げ、スウェナちゃんも私も大忙しです。その間に客席は順調に埋まり、開幕前には立ち見まで出る有様でした。ジョミー君たち、可哀相かも…。それにしてもゼル先生やヒルマン先生までおいでになるとは、やっぱり見世物扱いですか?
「そるじゃぁ・ぶるぅを応援する会のファッションショーにようこそ!」
タキシード姿の会長さんが舞台に出ると、女の子たちの黄色い悲鳴が上がりました。
「今日のぶるぅは魔法使いです。女性の夢が溢れるドレスの世界に皆様をご案内いたしますので、お手持ちのアンケート用紙でドレスを採点して下さい。お名前を書いて下さった方の中から抽選で一名様にご希望のドレスをお作りさせて頂きます」
キャーッと大きな歓声が響き、みんなが名前を書き込んでいます。書いていないのは男子くらいなものでした。…そう、男子。相当な数の男子生徒がショーを見に来ているのです。ジョミー君たち、ますますもって気の毒な…。
「それではショーの始まりです!」
会長さんが舞台の袖に引っ込み、音楽が大音量で流れ出して「そるじゃぁ・ぶるぅ」が舞台の中央に登場しました。金色のステッキを持って御機嫌です。そこへ制服のジョミー君が颯爽と現れ、金色のステッキがサッと振られて…。
「「「おぉぉっ!!!」」」
ジョミー君は可憐なドレスに変身すると優雅にクルリと回ります。制服の間は「そるじゃぁ・ぶるぅ」がシールドで誤魔化していたメイクが一気に映えて効果抜群。続いてマツカ君が登場し、サム君、シロエ君、キース君…。
「ミシェル、今のドレスがいいのではないかね?」
グレイブ先生のお目に止まったドレスはキース君が着ていたスレンダーな紺色のドレスでした。大人っぽい雰囲気ながらも裾に華やかなフリルがあります。
「そうね、パーティーなんかに良さそうだわ」
微笑みながら頷くミシェル先生。この後もキース君が纏うドレスはもれなくミシェル先生とグレイブ先生のお気に入りに…。金色のステッキが振られる度に会場中が拍手喝采、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も舞台を跳ね回りながらサービスとばかりに花やキャンデーを客席に降らせて大活躍です。フィナーレはもちろんウェディング・ドレスで…。
「素敵!」
「ドレスも欲しいけど、こっちも欲しい~っ!」
花嫁姿の五人が舞台に揃った所で会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が中央に立って挨拶をすると、何故かアンコールがかかりました。ファッションショーにアンコールなんてありましたっけ? でも…舞台だからいいのかな?
「「「アンコール! アンコール!!」」」
拍手は鳴り止まず、このままでは終われそうもない雰囲気です。どうしましょう、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ったドレスは全部披露してしまったのに…。評判が良さそうだったドレスをもう一度出すってアリなんでしょうか?

アンコールを連呼するお客さんたちにジョミー君たちは舞台から引っ込むことが出来ませんでした。かといって困った顔も出来ずに笑顔でお辞儀を繰り返していますが、拍手は終わりそうになく…。と、会長さんが進み出てスッと優雅に一礼しました。たちまち客席が静かになります。
「皆様、本日は私たちのショーにお付き合い下さってありがとうございました。アンコールにお応えしまして、スペシャルなドレスを御披露させて頂きます」
え? スペシャルなドレスって? アンコール用に何か作ってあったのでしょうか。会長さんがジョミー君たちに目くばせすると、みんなは一瞬目を見開いて舞台の袖に消えました。どうやらジョミー君たちも知らない衣装があったようです。まあ…あれだけ練習してたんですから、初めてのドレスでも着こなせるとは思いますけど…。
「それでは皆様、ぶるぅの力作をじっくりとご覧下さいませ」
さっきまでの華やかな音楽とは違った、しっとりとしたスローテンポな曲が静かに流れ始めました。金色のステッキが振られ、舞台にヒラヒラと雪か花びらのようなものが舞い落ちてきます。会長さんはニッコリと笑い、舞台の袖に右手を向けて。
「さあ、本日のスペシャル・ゲスト、シャングリラ学園の教頭先生に盛大な拍手を!!」
え。なんですって!? 割れんばかりの拍手の中、教頭先生がスーツ姿で現れました。うわぁ…スペシャルなドレスって…よりにもよって教頭先生に着せるんですか! 去年の親睦ダンスパーティーで目にしたパッツンパッツンのウェディング・ドレスの悪夢再び…?
「かみお~ん♪」
金色のステッキが振られ、会場がどよめきに包まれます。た、確かに…これはスペシャルかも…。そこには教頭先生ではなく、素晴らしく背の高いゴツイ花魁が立っていました。簪が沢山ついた重そうな鬘に、見事な白塗りメイクまで。花魁独特の内八文字の足運びにしなやかな仕草、教頭先生、なりきってますよ!
「ぶるぅは和裁も得意です。この衣装もぶるぅが作りましたが、こちらの方はスペシャルですので受注の対象外とさせて頂きます。本日はありがとうございました!」
「かみお~ん♪ 注文、待ってるね!」
クルリと宙返りした「そるじゃぁ・ぶるぅ」が可愛い赤い着物に着替えて教頭先生の花魁を先導しながら舞台の袖に消えてゆきました。しゃなり、しゃなりと歩む教頭先生を見送りながら会場は拍手と笑いの渦で、会長さんが引っ込んで幕が降りてもお客さんたちは賑やかです。
「ブルーが独立すると言ってきた時は驚いたのだが、実に素晴らしいショーだった」
グレイブ先生が申込書を回収に行った私たちに微笑みかけました。
「あれだけウケれば上等だろう。…ドレスの受注もよろしく頼むと伝えてくれ。ミシェルが欲しいのはこれだそうだ」
「同じ黒髪だからかしら? キース君が着ていたドレスは全部とっても素敵だったわ」
選ぶのに迷ってしまったのよ、と褒めちぎっているミシェル先生。黒髪というならシロエ君もそうなんですが、シロエ君のは可愛いドレスが多かったせいか、大人の女性の魅力溢れるミシェル先生にはしっくりこなかったようでした。でも会場の評判は上々です。どのドレスにも多分沢山の申込みがあるんじゃないでしょうか…。

「かみお~ん♪ 大成功だったね、ファッションショー! お疲れ様~!」
講堂から「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に引き上げてくると、中華饅頭の山がありました。
「肉まんに餡まん、色々あるよ! 食堂の人に頼んで蒸しておいて貰ったんだ♪」
好きなだけ食べてね、と言われてメイクを落として制服に着替えたジョミー君たちが早速かぶりつきます。会場で回収してきた申込書の集計は会長さんがリオさんに丸投げしてしまったので、もうやることはありません。ゆっくり食べて遊んでいればいいわけですが…。
「おい。あんた、いつの間に教頭先生を巻き込んだんだ」
キース君の問いに、会長さんは悪戯っぽい笑みを浮かべました。
「いつって…最初からだけど?」
「「「最初!?」」」
「そう、最初。ぼくたちだけで劇をしようって決めた時から出演交渉してあったのさ。ハーレイには貸しがあったからねえ。…ほら、色々と差し入れをしていただろう?」
「差し入れって…。あんたが赤貧にしたんだろうが!」
どこが貸しだ、と叫ぶキース君でしたが、会長さんは意にも介さず平然と。
「それを言うならお互い様だよ。ぼくだって最初は純粋な気持ちで差し入れをしてあげたんだ。なのにラブレターなんか返してくるから、ちょっと応えてあげようかと…。それで一緒に劇に出たいかって聞いたら喜んでオッケーしたんだってば」
それは…きっと教頭先生、会長さんと同じ舞台に立ってみたかっただけなのでしょう。お稽古だって会長さんの側で出来ますし! みんなも同じことを言い、会長さんは頷いて。
「うん、そうだよ。だけど劇ではなくなっちゃったし…。でもね、ハーレイは満足してると思うんだ。花魁道中の歩き方を稽古するのに何度も家に呼んだから。…あの衣装だって、ぼくの家で着る練習をしてたのさ」
ついでにメイクの練習も、と楽しそうに笑う会長さん。教頭先生が私たちのショーに出ることは長老の先生方に会長さんが知らせに行って、シド先生やグレイブ先生たちにもアッという間に広まったそうです。…それでゼル先生やヒルマン先生が会場に来ていた理由が分かりました。野次馬です。
「…あんた、ホントに無茶苦茶やるな」
溜息をつくキース君。
「教頭先生のインパクトのお蔭で、俺たちはただのモデルになり下がったから良かったが…教頭先生は当分の間、笑い物になるんじゃないか?」
「笑い物でもいいと思うな。ハーレイが出てこなかったら君たち五人の印象だけが残ってたんだよ? ぼくの思い付きに感謝したまえ。それにハーレイには役得もあった」
「「「役得?」」」
「そう。ぼくの家に練習に来る時、エステもセットで頼んでたんだ。ぼくの身体をたっぷりマッサージするオマケ付き。食事もさせてあげてたし…食材も分けてあげてたし! 文句を言われる筋合いはないさ。花魁の仕草や歩き方まで立派に仕込んであげたんだ。いざとなったら大衆演劇で食べていけると思うけどな」
会長さんは花魁の演技をとある劇団の看板女形からサイオンでコピーしてきたそうです。でも花魁の演技だけが出来ても、お芝居の方が大根だったら役に立たないと思うのですが…。どちらかといえば宴会芸の部類に入ると思うんですが、バレエも踊れる教頭先生、今度は女形に挑戦ですか~?




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