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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

それからの夏  第2話

会長さんにサイオンで着替えさせられ、バニーちゃん姿になってしまったキース君。お披露目会場では必死に保っていたスマイルも今は全く出てきません。それどころか不機嫌極まりないのに、追い打ちをかけるように登場したのは空間を越えてきたソルジャーでした。
「…ぼくの注文はクリームソーダ。メロンリキュール多めでね。もちろんアイスも」
「「「………」」」
注文を受けたキース君はワナワナと震え、私たちはハラハラです。キース君が怒りのあまりバーストしたらどうするんですか~! そんな気持ちを知ってか知らずか、ソルジャーは…。
「キース、笑顔を忘れているよ。ブルーに言われていただろう? 接客業はにこやかに…って」
「余計な御世話だ! あんた、俺の姿を笑いに来たのか!?」
「…まさか。お祝いを言いに来てあげたんだってば」
「お祝いだと!?」
ブチ切れそうなキース君。頭の上ではウサギの耳が揺れてますけど、誰も笑う度胸はありませんでした。そんなことをしたら大惨事です。でもソルジャーは平然として…。
「その格好も素敵だね。…本当は女性用だって? そう思って見るとセクシーかな?」
「!!!」
この辺が、と腰のラインをツーッと撫でられ、キース君はピキンと硬直。背筋に悪寒が走ったらしく、丸い尻尾が小刻みにプルプルしています。ソルジャーの方はおかまいなしにキース君の尻尾を触りながら。
「キース、思考が零れているよ。セクハラだとか変態だとか、怒涛のように悪態が…」
「読むな!」
「零れてくるものは仕方ないじゃないか。読みたくなくても届いちゃうしね。そうだろ、ブルー?」
「…まあね…」
会長さんが苦虫を噛み潰したような顔で頷いて。
「で、君は何しに来たんだい? キースをオモチャにしに来たんなら、あまり歓迎できないけども」
「嫌だな、君までそう言うのかい? ぼくはお祝いを言いに来たっていうのに、誰も信じてくれないなんて…」
「「「………」」」
当然だろう、と皆の視線が冷たくなります。なにしろソルジャーときたら、今もキース君の尻尾を楽しげに触っているのですから。
「この尻尾、手触りがとてもいいんだよ。ついでに言うならキースが寒気を感じているのがダイレクトに伝わってくるから最高でさ」
「…それは立派なセクハラだよ…」
溜息をつく会長さん。
「もしも自分がその目に遭ったらどうするんだい? 気分がいいとは思えないけど?」
「ぼくはもれなく大歓迎」
えっ。ソルジャーはセクハラ歓迎ですか!? 仰天する私たちにソルジャーはニヤリと笑ってみせて。
「その格好をするってことは見せたい誰かがいるってことさ、ぼくの場合は。…だったら嫌がる必要もない。とりあえずハーレイあたりは喜んでくれると思うんだけど…。おっと、その前にクリームソーダ」
「………」
キース君は凄い仏頂面でキッチンへと消えていきました。飲み物係の「そるじゃぁ・ぶるぅ」も一緒です。注文の品を運び終えたらバニーちゃんはお役御免でしょうけど、ソルジャーにセクハラされちゃうだなんて気の毒というか何と言うか…。
「…注文の品だ」
スマイルとは真逆の顔でワゴンを押してきたキース君には愛想の一つもありませんでした。私たちの前に飲み物を並べ、ソルジャーの分は更に素っ気なくコトンと置いて。
「終わったぞ、ブルー。…元に戻してもらおうか」
「うーん…。スマイルが無いのが悲しいけれど、贅沢言ってる場合じゃないか」
余計な誰かが来ちゃったし、と会長さんが青いサイオンを走らせ、キース君は元の姿に戻りました。でも…。
「えっ? あれっ?」
声を上げたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。銀色の頭にウサギの耳がくっついています。キース君が装着する前は確かに着けて遊んでましたが、今回は自分でくっつけたんじゃないのかな?
「ふふ、せっかくのネタをフイにするのは悲しいからね」
微笑んだのはソルジャーでした。
「ぶるぅ、しばらく預かっといて。まずはキースをお祝いしなくちゃ」
乾杯しよう、とクリームソーダを手に取ってますけど、いったい何に乾杯すると…?
「もちろんキースの未来にだよ。サイオニック・ドリームを無事にマスターしたんだろう? えっと、元老寺って言ったよね? 元老寺の後継ぎの未来に乾杯!」
そう来ましたか! 私たちは慌てて自分のグラスやカップを取り上げ、オレンジスカッシュだのレモネードだのとちぐはぐなモノを差し上げて…。
「「「かんぱーい!!!」」」
キース君も笑顔に戻っていました。気付けを兼ねて淹れてきたらしい熱いコーヒーのカップを手にして嬉しそうです。ソルジャーのグラスとキース君のカップがカチンと触れ合い、どうやら無事に仲直り。まさかセクハラでバーストするとは思えませんけど、やっぱり平和が一番ですよね!

「…それにしても派手にやったよねえ…」
クリームソーダのアイスを口に運びながらソルジャーが会長さんを眺めました。
「ぶるぅの部屋を吹っ飛ばすとは思わなかったよ、流石のぼくも。…キースは坊主頭にされるんだと思っていたけれど? 君もずいぶん乗り気だったし」
「そりゃね…。ただのブルーの立場だったら丸坊主にするのも楽しいさ。でも銀青として考えてみると、どうしても放っておけなくて…。仏の道を志す立派な若者が髪の毛ごときで挫折しちゃったら勿体ないよ」
「だけど必須の条件だろう? それを乗り越えることが要求されているってことじゃあ…?」
「そうなんだけど、ぼくもズルした口だから。坊主頭じゃ女の子に全然モテそうにないし、それじゃ困ると思ってさ…。ぼくに比べればキースの動機は遥かにマシだ。坊主頭が似合わないから嫌だっていうだけなんだしね。悩める後輩を助けられないようじゃ銀青の名を返上しなくちゃ」
高僧失格、と会長さんは至って真面目でした。ソルジャーの方も真顔で頷き、二人はしばらくサイオン談義。吹っ飛んでしまった「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋についてもあれこれ話をしていましたが、サイオンについてはヒヨコなレベルの私たちには意味不明です。
「ああ、ごめん、ごめん。…ついつい話し込んじゃって…」
会長さんが話を切り上げてくれ、それから後は様々な話題が飛び交いました。ソルジャーはキース君がバーストしてからの一部始終をしっかり覗き見していたようで、会長さんとゼル先生の仏前結婚式にも興味津々。
「なるほど、着物でやるのが正式なんだね? どおりで君たちの衣装が浮いてた筈だ」
「建物に合ってないからね。でもさ、ぼくは白無垢は持ってないんだ」
こんなのだよ、と会長さんが思念で送ってみせた衣装は真っ白な打掛けと綿帽子。ソルジャーは「いいねえ」と絶賛しています。
「ウェディング・ドレスより清楚な感じでいいんじゃないかな? 君のハーレイが喜びそうだ」
「…なんでハーレイ?」
「君にプロポーズしてるんだろう? いつかきっと、と思っているさ」
夢を見るのは自由だよ、とソルジャーは笑みを浮かべました。
「今だって夢を見ているみたいだ。…ぶるぅの頭に乗ってるヤツで」
「「「え?」」」
私たちの視線の先には白いフワフワのウサギ耳。会長さんがキース君のバニーガールの衣装を回収した時、ソルジャーが取り置きしたものです。ネタがどうとか言ってましたが、それって教頭先生用の…?
「まあね」
クスッと笑いを零すソルジャー。
「お披露目をやってた間はどう思ってたか知らないけれど、家に帰ってから妄想しているみたいだよ。どうせならブルーで見たかったとか、キースじゃただのお笑いだとか」
「……お笑い……」
会場でのあれやこれやを思い出したのか、キース君が轟沈しています。特別生の先輩たちやグレイブ先生に記念写真を頼まれまくって人気でしたが、求められていたのは無論お笑い。お色気なんかを期待した人がいるわけもなく、撮影された写真は末永く笑い物になるわけで…。
「ぼくは準備段階からバニーガールだって知ってたけども、キースたちは知らなかったんだよねえ」
ソルジャーは会長さんに瞳を向けて「わざとかい?」と尋ねました。
「もちろん、そうさ。お披露目をするって決まった時から笑いを取ろうと目論んでたし…。キースのサイズは分かってるから準備も簡単」
「でもって話すと逃げられるから内緒ってわけか。キース以外の子たちに言っても喋っちゃうかもしれないし…。結果としてバニーガールは大成功で、君も満足してるけど……ハーレイの妄想の方はどうするのかな?」
「そこまで考えてなかったし!」
会長さんはキッパリ言い切りました。キース君がやったからこそバニーガールはウケたのです。お披露目会場に来たお客様だって笑って笑って笑い転げて、キース君のクールなイメージからは程遠いスマイルとサービスに大満足でお帰りでした。まさかお色気を求める人が現れようとは誰が想像するでしょうか?
「…本当に考えていなかったのかい?」
呆れたような口調のソルジャー。表情の方も怪訝そうです。
「だってハーレイも見るんだよ? いくらキースがやってたとはいえ、同じ衣装を君が着たら…って考えちゃうのは惚れているなら当然じゃないか。それとも思いもよらなかったと…?」
「思ってないっ! 思っていたらやらないよ。…ハーレイの妄想はキリがないから」
「…ハーレイもホントに気の毒にねえ…」
ソルジャーは溜息をつきました。
「こんなのに惚れて人生を棒に振ってるだなんて、可哀想としか言いようがない。この調子じゃ間違ってもバニーガールになってくれそうもないし」
「やるわけないだろ!!」
赤い瞳を燃え上がらせる会長さんにソルジャーは肩を竦めてみせて。
「…やれやれ…。ぶるぅ、その耳を貸してくれるかい?」
「これ?」
手渡されたウサギ耳をソルジャーが着けたからたまりません。私たちは揃って吹き出し、ソルジャーもクスクス笑いながら。
「ぼくがやってもお笑いだよね? でもハーレイにはどう見えるだろう? あの服を借りて着て帰ったら、ぼくのハーレイも喜ぶのかなぁ?」
「「「………」」」
私たちは答えられませんでした。あちらのキャプテンの趣味は分かりませんし、そもそもバニーガールというもの自体、女性がやるからお色気たっぷりになるわけで…。
「…うーん、やっぱりぼくには向いてないかな? ぼくがあの格好でホストをしたら、ハーレイはガチガチに緊張しそうだ。何か裏があるんじゃないか…って脂汗まで流しそうでさ。根っからヘタレで尽くす方だし、立場がてんで逆だよね、うん」
向いてない、とソルジャーは結論づけたようです。ウサギの耳は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭に返され、更に別室へと片付けられて、ようやく平和が戻って来ました。教頭先生は妄想たくましくしてるかもですけど、ソルジャーですらやる気が無いのに会長さんのバニーガールなんてどう考えても無理ですってば…。

押しかけて来たソルジャーは夕食も食べて帰る気でした。今夜はマツカ君の別荘行きのプランを練ろうと思っていたのに、また先送りになるんでしょうか? キッチンの方から美味しそうな匂いが漂ってきます。今夜は地鶏のパプリカ焼きだと聞きましたっけ。
「かみお~ん♪ 御飯、できたよ!」
ダイニングに来てね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が顔を覗かせ、みんなでゾロゾロ移動すると。
「…今年も海に行くんだよね?」
ソルジャーの不意打ちにウッカリ頷く私たち。もしかしてソルジャー、狙ってました…?
「それってマツカの別荘だよね、去年と同じで?」
畳み掛けるように問い掛けられるとどうしようもなく、マツカ君が代表で。
「ええ、そうです。…もしかして今年も一緒においでになるんですか?」
「君たちさえ良ければそうしたいねえ…。ぶるぅも退屈しているし」
シャングリラの方も至って平穏、とソルジャーはウインクしてみせました。
「ハーレイにはちゃんと言って来たんだ、休暇を取ってもかまわないか…って。もちろん賛成してくれたよ。ぼくたち、今は円満だから。…マンネリの日々もいいものだよね」
「そこまで!」
アヤシイ方向に行きそうな話を遮ったのは会長さん。
「ついて来るならそれでもいいけど、マツカ、別荘の方はどうだい? また二人ほど増えちゃうけれど…」
「かまいませんよ? 皆さんにはいつもお世話になっていますし、両親もぼくに友達が大勢できて本当に喜んでいますから。…じゃあ人数は去年と同じで手配しますね」
あとは日程をどうしましょう、とマツカ君がカレンダーを眺めた時。
「人数、今年は一人多めで」
「「「は?」」」
「一人多めで、って言ったんだよ」
お皿の地鶏を切り分けながらソルジャーがニッコリ笑いました。
「ハーレイ、暇にしてるんだろう? せっかくだから連れて行こうよ、だって素潜り名人なんだし」
「えっ…」
絶句している会長さん。教頭先生が素潜り名人なことがソルジャーにバレているのは当然でしたが……人魚泳法のコーチだったソルジャーが知らない筈はないのでしたが……でも連れてってどうすると?
「素潜りっていうのは海とかでやるのが本当だろう? その腕前をぜひ見てみたい。ついでに古式泳法とやらの達人らしいね、キースたちは習ったみたいじゃないか」
あちゃ~…。一昨年の海の別荘のことを誰かが思い出したらしいです。そうなってくるとストリーキングがバレるのも時間の問題?
「…ストリーキング…? なんだい、それは?」
ソルジャーの視線が私たちをグルリと見渡しました。誰の思考が零れ落ちたのか分かりませんが、あんな事件をどう言えば…?
「えっとね、裸で走ったんだよ」
説明したのは無邪気な声。小さな子供な「そるじゃぁ・ぶるぅ」がエヘンと胸を張っています。
「ハーレイが履いてた海水パンツをブルーがサイオンで脱がせちゃったんだ。ぼくね、それを海の中で拾って頑張って持って帰ったけれど…ブルーが燃やしちゃったんだよね」
「…そういうこと」
会長さんの答えにソルジャーは「へえ?」と身を乗り出して。
「それでストリーキングかい? ハーレイも案外、思い切ったことをするんだねえ…」
「違うよ、パレオが消えちゃったんだよ!」
ブルーが悪戯しちゃったから、と全てをバラした「そるじゃぁ・ぶるぅ」。教頭先生がパレオ姿で走った光景が私たちの脳裏に蘇りました。ショッキング・ピンクの地色に真っ赤な大輪のハイビスカスがプリントされた派手なパレオで別荘へ向けて走っていたのに、玄関先でパレオが消滅。私たちが見たのはナマお尻ですが、出迎えていた執事さんたちは…。
「…あのハーレイがストリーキング…。そうか、思い出の別荘なのか」
そんな話は初耳だよ、とソルジャーは私たちの記憶を思念で受け取って笑っています。
「じゃあ、去年ハーレイを呼びつけたりして悪かったかな? エステを受けられて満足したけど、ハーレイは恥ずかしかったのかも…。それでぼくのハーレイと喜んで替わってくれたとか? …ん? それじゃ、ぼくのハーレイはストリーキングをやらかした人と思われて…?」
ソルジャーがプッと吹き出しました。
「そうか、ぼくのハーレイがストリーキングねえ…。本人が聞いたら憤死しそうだ。シャングリラじゃ絶対できっこないし、やるだけの度胸も無いだろうけど…ハーレイズだってやったことだし、ストリーキングも素敵かな?」
「却下!」
会長さんが即座に切り捨て、マツカ君に。
「人数は去年と同じでいいよ、ハーレイなんかを連れて行ったら惨事になるのは目に見えている」
「待ってよ、ぼくはハーレイと行きたいんだ!」
素潜りも古式泳法も絶対見たい、とソルジャーは譲らず、挙句の果てに…。
「…分かった。じゃあ、ぼくは今年は別行動で。ハーレイが来ないんじゃ楽しくないし、もっと楽しい方に行く」
「「「は?」」」
「ノルディも別荘を持ってるらしいね。そっちに行ったら大歓迎してもらえそうだ。夜も色々楽しめそうだし、地球の海だって満喫できるし…。それじゃ、今日はこれで」
「ブルー!!!」
姿を消そうとしたソルジャーを会長さんのサイオンが引き止め、青い光が飛び散って…。
「なにさ? 何かマズイことでも?」
思い切り不機嫌そうなソルジャーに会長さんは肩で息をしながら。
「…ノルディだけは……頼むからノルディだけは放っておいて。調子に乗られたらシャレにならない。ハーレイの方がよっぽどマシだ」
「そうこなくっちゃ」
満足そうに頷くソルジャー。会長さんが乗せられたような気がしないでもないですけれど、ソルジャーだったらエロドクターに言い寄りそうなのも事実です。今年の海の別荘ライフはなんだか大荒れしそうな予感。でも…エロドクターが出てくるよりかは大荒れの方がいいですよねえ? 荒れない可能性もあるわけですし!

夕食が済むとリビングに移って別荘行きの計画が始まりました。マツカ君は携帯片手に執事さんにテキパキと指示をしています。キース君が「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を吹っ飛ばしたせいで経過観察やら禁足令やら、行動制限がかかりまくった私たち。その間、執事さんは別荘をいつでも使えるようにしてくれていたのですから有難いです。
「じゃあ、明日はとりあえず家に帰って、明後日から…でいいんですよね?」
マツカ君が確認するように言いました。
「それでいいよ。みんな長いこと家に帰っていないからね」
たまには顔を見せなくちゃ、と会長さん。
「明後日からはブルーと…ぶるぅも増えるから覚悟が要るし、明日は英気を養っといて」
「覚悟だって? その言い方、物凄く引っ掛かるけど?」
不服そうなソルジャーに会長さんはバッサリと。
「日頃の行いが行いだけに信用されてないってことさ。悔しかったら大人しくしてみせるんだね。別荘ライフを波風立てずに乗り切れたなら、誰も何にも言わなくなるよ」
「…人のことなんか言えないくせに…」
「それはどうかな? この子たちだって君の方をより警戒してると思うけど?」
「違うよね?」
私たちは答えに詰まりました。ソルジャーといえばトラブルメーカー、常に騒ぎが付き物ですけど、会長さんも大概です。現にソルジャーが出てくるまでは会長さんに振り回されていたわけで…。ソルジャーが来ない時でも騒ぎになることが多いんですし、迂闊に応じない方が吉っぽいです。
「ほら、君も信用されてない」
勝ち誇ったような顔のソルジャーと面白くなさそうな会長さん。どっちもどっちということでしょうか? と、マツカ君が携帯を持っておずおずと…。
「…あのぅ…。教頭先生には連絡しなくていいんですか? 明後日からって勝手に決めてもいいんですか?」
「あ。…やっぱり訊かないとマズイかな?」
「君が行くんだし、喜んで来ると思うけど…訊いといた方がいいのかな?」
えっと。会長さんもソルジャーも、教頭先生の意見は無視でしたか! そうじゃないかなとは思ってましたが、綺麗サッパリ忘れてましたか~! 二人は顔を見合わせてから同時に頷き、青いサイオンを迸らせて…。
「「「!!!」」」
リビングに突然現れたのはパジャマの教頭先生でした。腕にしっかり抱えているのは会長さんの抱き枕です。
「な、なんだ? 私に何か用か…?」
そう言ってから腕の中の抱き枕に気付いた教頭先生、真っ赤になってアタフタと…。
「いや、あの……その……アレだ、これは寝そべってテレビを見るのに便利なヤツで…。そのぅ、誓って疾しいことは!」
「だろうね、今は宵の口だし」
夜が更けた後は知りたくもないし聞きたくもない、と会長さん。
「…ところで、ハーレイ。ぼくたちは明後日からマツカの家の別荘の方に行くんだけどさ。…そう、去年と同じ海の別荘。ブルーとぶるぅも行きたいんだって」
「………それが?」
どうしたんだ、と教頭先生は不審そうです。
「でね、ブルーがハーレイも一緒でなきゃ嫌だと言うんだよ。…来てくれるかな?」
「なんで私が出てくるんだ? それにあそこの別荘は…」
黙ってしまった教頭先生、なんだかバツが悪そうでした。去年はエステティシャンとして呼ばれただけにプロらしく落ち着いていましたけれど、ただの滞在客としてだと思う所があるのでしょう。一昨年のストリーキング事件を忘れた筈がないのですから。
「…もしもハーレイが来てくれないと、困ったことになるんだけれど…」
「困るだと? それはお前が困るのか?」
瞳を伏せる会長さんに、教頭先生は一気に心配そうな顔。会長さんは深い吐息をついてソルジャーの方を眺めました。
「ハーレイが来ないんだったら面白くないってブルーが言うんだ。…面白くない所に行くより、もっと楽しい所に行く、って」
「…楽しい所? そういえば山にも別荘があるとか聞いていたな」
「違うよ、ブルーが別行動をするんだよ。ノルディが持ってる別荘に行って海と夜とを楽しむってさ」
「なんだと!?」
教頭先生の逞しい腕が抱き枕にグッと食い込んで。
「けしからん! どうしてノルディの名前が出るのだ!」
「…テクニシャンだし、気前もいいし」
しれっと言ってのけたソルジャーの言葉に教頭先生は真っ青になり、しばらく声も出ませんでしたが…。
「そ、それだけは…ノルディの別荘にお出かけになるのだけはお止めになった方が…」
「おや、何故だい?」
「後でブルーが困るのです! ノルディは前からブルーを狙っていますから…あなたの方で味を占めたらもう絶対に諦めないかと…」
「分かってるじゃないか。だったらぼくと来てくれるよね? 海の別荘。そしたらノルディの方は止めるよ」
ソルジャーの瞳に射すくめられて教頭先生は震え上がりました。人魚ショーやらハーレイズやら、散々な目に遭わされただけに、別荘ライフが平穏無事に終わる保証はありません。でも、断ればソルジャーは即、エロドクターの別荘行き。そっちの方が後々までかなり尾を引きそうで…。
「………。承知しました」
抱き枕ごと拳を握る教頭先生。
「ですから、ノルディには関わらないようにお願いしたく…!」
「そんなに危ない男じゃないと思うけどね? ブルーの趣味に合わないだけで…。まあいいや、君が来てくれるなら十分だよ。出発は明後日に決まってる。詳しいことは…と…」
「かみお~ん♪ 任せといて!」
思念でパパッと伝えちゃうもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が張り切っています。何も知らないお子様だけに別荘ライフを誰よりも楽しみにしているのかも…。教頭先生は伝えられた日程や集合場所を会長さんに確認してから、ソルジャーに連れられて姿を消しました。ソルジャーは教頭先生を家まで送り届けて、その足で自分の世界に帰るようです。
「…おい、大丈夫なのか? あの面子で…」
キース君の問いに会長さんが。
「分からない…。何も起こらないと思いたいけど、ぼくにもまるで分からないんだ」
「だよねえ…」
分かったら誰も苦労しないよ、とジョミー君が嘆いています。海の別荘には明後日から一週間の滞在ですけど、ソルジャーと「ぶるぅ」は大人しく過ごしてくれるのでしょうか? 無理やりゲストに引っ張り込まれた教頭先生、何もされずに済むのでしょうか? 心配は山と積まれてますけど、海に流れてくれますかねえ…?




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