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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

それぞれの愛  第3話

バラエティー豊かな…と言えば聞こえはいいですが、どう見てもセクシーすぎる女性用下着が詰まった箱。ソルジャーからのプレゼントの箱が机の上に置かれているのを教頭先生は呆然と眺めていました。贈り主のソルジャーは箱の中身を次々に取り出し「どうだい?」と得意げに見せびらかします。
「ぼくたちの世界じゃ、そう簡単に買い出しになんか行けないからね。楽しかったよ、あれこれ選んで買うのはさ。…あれ? じゃあハーレイはどうやって手に入れていたんだろう? ぼくに贈ってくれたヤツ…」
船から出ない筈なんだけど、とソルジャーは首を傾げました。あちらのキャプテンは船を預かる責任者なので常にシャングリラにいるのだそうです。
「もしかしたら救出部隊に頼んだのかな? それとも服飾部の連中に特注したとか…?」
恥ずかしいヤツ、とソルジャーは舌打ちしたのですが。
「つまり愛されてるってことだろ?」
会長さんが突っ込みました。
「誰かに買ってきてくれって頼み込むのも、作ってくれって頼むのも…とても度胸が要ると思うよ。どう考えても普通に使う代物じゃないし」
「甘い!」
すかさず返すソルジャー。
「ハーレイはね、ぼくとの仲がバレバレなことを知らないんだ。長老たちも他の仲間も大抵知ってることなんだけど…バレていないと思い込んでる。だから買い物をお願いするのも、特注品を発注するのも大したことではない筈だよ。…仲間の誰かが欲しがっている…ってキャプテンの立場で言うだけだから」
「「「は?」」」
声を上げたのは全員でした。なんでキャプテンという要職にある人が仲間の代理で下着の注文? それは欲しいと思ってる人が直接言うべきことなのでは…? ソルジャーはクッと笑って教頭先生を眺めました。顔を真っ赤にした教頭先生は今も硬直しています。
「…こっちのハーレイはどういう仕事をやっているのか知らないけどさ。ぼくの世界のキャプテンはとても多忙なんだよ。シャングリラに関する様々な事案がハーレイの所に持ち込まれる。船の航行に関することから、果てはトイレの改修工事の企画まで。…救出部隊の最高責任者もハーレイだ。でね、救出部隊が出る時には…」
余裕があればシャングリラの中では調達できない品物などを入手するのだ、とソルジャーは教えてくれました。救出部隊の任務はサイオンに目覚めた子供や目覚めそうな子供の救出ですが、調査のために潜入している場合も多いそうです。潜入中は普通の人間に紛れているので買い物なども出来るのだとか。
「そういう折に買ってもらう物を取りまとめるのもハーレイの仕事。仲間たちもそれを知っているから、たまに陳情があるらしい。どうしても欲しい品物がある…ってね。下着もそういうヤツの一つだとしらを切るのは簡単なのさ、物品入手の報告を受けるのもハーレイだから。…御苦労と言って受け取ってしまえば終わりなんだよ」
服飾部に特注するのも同じ理由で楽勝なのだ、と語るソルジャー。
「要するに度胸は全く必要ない。…あれはぼくへの愛じゃなくって単なるスケベ心だね」
「「「………」」」
「で、ハーレイ? 君はぼくのことをどう思う…? スケベ心でもいいんだけどさ」
教頭先生をチラリと見遣ってソルジャーは笑みを浮かべました。
「この下着を買うのは苦労したよ。ほら、ぼくはお金を持ってないだろ? ブルーに買ってもらうしかないのに、ブルーは凄く嫌がるし…。どうしてもダメならノルディに頼む、って言ってやっとオッケーしてもらった」
そりゃそうだろう、と溜息をつく私たち。あんな下着を買うと言われた会長さんがお金を出すわけないのです。しかも教頭先生にプレゼントするためとあっては頑なに拒絶しそうなのですが、エロドクターの名を持ち出されたら逆らえないのも無理はなく…。ソルジャーときたら、家出中のくせにどこまで強気に出るんだか。おまけに教頭先生で遊ぶ気満々。
「どうだい、どれが気に入った? 君のブルーは絶対に履いてくれないだろうね。でも、ぼくは別だ。正直に言ってごらんよ、履いて見せてあげるからさ」
遠慮せずに、とソルジャーは制服の襟元に手をかけます。ひぃぃっ、この場でストリップですか~!?

「ブルー!!!」
会長さんの怒鳴り声が響き、ソルジャーの手が止まりました。
「いい加減にしないと叩き出すからね! この子たちの前でストリップなんか許さないよ!」
「…ストリップ? 心外だな…。ちゃんと下着は着けるんだから、水着みたいなものじゃないか」
ねぇ? と私たちを見回すソルジャー。教頭先生は相も変わらず硬直中です。
「ぼくの水着は夏休みに披露してるんだよ? ちょっとデザインが変わるだけさ。じゃ、そういうことで」
「ブルーっ!!」
「気にしない、気にしない。…それとも君が履きたいのかい? だったら君に譲るけど」
「………!!」
真っ青になって首を横に振る会長さん。ソルジャーはクスッと笑って制服の上着をゆっくりと脱ぎ始めたのですが…。
「ま、待って下さい!」
叫んだのは教頭先生でした。
「…私はそんなつもりでは…。そんなことをなさったら、あなたの世界のキャプテンに何とお詫びをすればいいのか…」
顔を赤らめながらも懸命に説得にかかる教頭先生。けれどソルジャーは鼻で笑って。
「家出中だって言ったじゃないか。ぼくの希望は浮気なんだ。…ぼくのハーレイがショックを受けてくれれば本望さ。君もまんざらでもなさそうだし…。やっぱり身体は正直だよね」
ソルジャーの視線の先は追うまでもなく分かりました。教頭先生が私たちに背中を向けたからです。
「こ、これは……た、単なる生理的現象で…」
「…そう?」
「そうです!」
「残念。…いい機会だと思ったんだけど、出直した方が良さそうだね」
大袈裟な溜息をつくと、ソルジャーは制服の上着をきちんと直して襟元までピッタリ留めました。
「今日のところはこれで帰るよ。…話を強引に進め過ぎても何かとこじれる元になるから」
「…は?」
不審そうな顔で振り向く教頭先生。ソルジャーはニッコリ微笑んで…。
「そこの下着の話だよ。…ぼくはそれを着けた姿を是非とも君に見てもらいたい。今の遣り取り、全部ぶるぅに中継させて、ぼくのハーレイに見せていたんだ。ハーレイは凄く焦っていたよ、ぼくが本気で脱ぐんじゃないか…って。でも浮気にはまだまだ足りない。仕切り直しに期待している」
また来るから、とソルジャーはウインクしてみせました。
「じゃあ、今回は失礼するよ。…その下着、大事に預かっておいて。夜のお供には…物足りないかな、ぼくが使ったヤツじゃないしね。御希望とあれば履いてあげても…」
「い、いえ…」
結構です、と言った教頭先生が鼻をティッシュで押さえます。どうやら鼻血の危機らしいですが…。
「ティッシュなんかより下着の方が柔らかくて具合がいいんじゃないかな? ぼくの姿を思い浮かべて下着で鼻を覆うといいよ。鼻血の痕が目立たないのは黒いヤツだと思うんだけど」
「…………」
ソルジャーの余計な言葉で教頭先生の鼻の血管は呆気なく切れてしまいました。必死にティッシュを詰める姿は何回見ても間抜けです。つい見てしまう私たちを会長さんが追い立てて…。
「帰るよ、ブルーの気が変わらない内に! ほらほら、さっさと部屋から出るっ!」
「そうだってさ。またね、ハーレイ」
親しげに手を振るソルジャーの腕を会長さんが引っ張ります。教頭先生は両方の鼻にティッシュを詰めて机の横に立っていました。机の上には紅白縞のトランクスの箱と、ソルジャーが贈ったとんでもない箱。教頭先生、御迷惑かけてすみません~!

教頭室から「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に戻った会長さんは、シールドを解いたソルジャーを睨み付けました。
「仕切り直しってどういう意味さ? プレゼントしてからかうだけだって言ってたじゃないか!」
「…言ったかなぁ?」
忘れちゃったよ、とソファに座って大きく伸びをするソルジャー。会長さんはソルジャーを睨んだままで続けます。
「確かに言った! なのにストリップまでしようとするし、仕切り直しだなんて言い出すし…。いったい君は何を考えているんだか…」
「浮気するんだって言ってるじゃないか。君も記憶力が落ちたのかい? …ソルジャーのくせに」
「落ちてないっ!!」
柳眉を吊り上げる会長さんに、ソルジャーはすっかり冷めた『午後の紅茶』が入った湯飲みを差し出しました。
「これでも飲んで落ち着きたまえ。…気に入らない? ぶるぅ、悪いけど飲み物を…」
「かみお~ん♪」
キッチンに駆けていった「そるじゃぁ・ぶるぅ」が人数分のココアのカップを運んできます。何種類ものクッキーが盛られたお皿も。ソルジャーは私たちをソファに座らせ、得々として浮気計画を語り始めました。
「…とにかく、ぼくはハーレイに思い切り反省して貰いたいんだ。ヘタをしたらぼくを永遠に失うかも…と思わせてみたい。下着を着けてみせるくらいじゃ生ぬるいね。きちんと浮気しなくっちゃ」
「「「………」」」
私たちは答えられませんでした。きわどい下着を贈られただけで鼻血を出すような教頭先生。童貞疑惑も晴れていませんし、そんなヘタレな教頭先生とどうやって浮気するんでしょう? 絶望的だと思うんですけど…。
「君たちが考えていることは正しいよ。こっちのハーレイはとことんヘタレで浮気は望めそうもない。でも、浮気じゃなくて本気だったらどうなると思う…?」
「「「本気!?」」」
なんですか、それは? 会長さんも驚いて赤い瞳を見開いています。ソルジャーはクスクスと笑い、クッキーを齧ってココアを飲んで。
「…浮気だと思っているからハーレイは動けないんだよね。ぼくの世界のハーレイに遠慮しちゃって何も出来ない。だけど浮気じゃなかったら…? 結婚話をちらつかせたらどうなるかな?」
「…け、結婚って…」
会長さんの声が上ずり、ソルジャーは赤い瞳を煌めかせて。
「君のハーレイが夢を見ている結婚だよ。君の代わりにぼくが結婚するってこと。婚約指輪もあるみたいだし、問題ないと思うんだけど。…結婚を前提としたお付き合いなら、きっとハーレイも大胆になるさ。そうそう、夏休み明けには結婚話を回避するために君に婚約を頼んでたっけね、ハーレイは」
「…う……。で、でも…」
結婚なんて、と会長さんは渋い顔です。
「嘘だとバレるに決まってるよ。…変にハーレイを刺激しないで欲しいんだけど…。ぼくの記憶力を証明するために言わせてもらえば、ハーレイがあの指輪をぼくに贈ろうとして持って来たのは一年前の今日だったんだ。…正確には今日の日付じゃなくて、三学期の初日って意味だけれどさ」
「へえ…。一周年ってことなんだ。それはいいや」
記念日だよね、とソルジャーはとても嬉しそうです。
「君のハーレイが婚約指輪を用意してから今日で一年だとは思わなかったよ。その記念すべき日に、ぼくが結婚を申し出る。うん、最高のシチュエーションだ。よし、決めた。…今夜ハーレイに告白しよう」
「「「えぇっ!?」」」
驚愕する私たちにソルジャーは悪戯っぽく微笑んで。
「君たちも何が起こるか知りたいだろう? 家に連絡しておきたまえ、今夜は遅くなります…ってね」
「ブルー!!!」
会長さんの叫びをソルジャーはサラッと無視しました。
「十八歳未満お断りの件は覚えているから安心して。そして君たちはギャラリーってヤツだ。ブルーに何度もやられているって聞いてるよ。ハーレイからは見えない形でぼくと一緒にくればいい。…どうかな?」
どうかな、って言われても…。ソルジャーに私たちを逃がす気がないのは明白でした。頼みの綱の会長さんは苦虫を噛み潰したような顔をしています。
「…ごめん。ぼくとブルーの力に差は全く無い筈なんだけど……経験値が違いすぎるんだ。ブルーが君たちを引っ張っていくと決めた以上は逆らえない。ぶるぅの力を借りても無理だ。…本当にごめん」
深々と頭を下げられてしまい、私たちの退路は断たれました。こうなったら仕方ありません。何が起こるのか分かりませんけど、今夜は『見えないギャラリー』です。それぞれの家にメールや電話で連絡しつつ、私たちは泣きそうな気分でした。ソルジャーが教頭先生に…浮気するために告白ですって? もしも大人の時間に突入したら、私たち、無事に帰れるでしょうか…。

夕食は会長さんのマンションで「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製パエリア。急に押しかけてしまったというのに手抜きしないのは流石です。食べている間はすっかりしっかり状況を忘れていたのですが…。
「後片付けも済んだようだし、そろそろ行こうか」
ソルジャーが立ち上がり、借り物の会長さんのセーターからソルジャーの正装に着替えました。何故ソルジャーの服を…? と皆が疑問に思った所へ。
「この姿でないと説得力に欠けるんだ。…ぶるぅ、ギャラリーのみんなにシールドを張ってくれるかな? ぼくが張ってもいいんだけれど、ハーレイといい雰囲気になったら集中力が切れるかも…」
「オッケー!」
大人の話が理解不能な「そるじゃぁ・ぶるぅ」は無邪気な笑顔で答えました。ソルジャーは会長さんの方に視線を向けて。
「…君はどうする? シールドで姿を消すのもいいし、ぼくと一緒に来てもいいけど」
「一緒に行く! いざとなったら身体を張って止めないと…。ハーレイが君と深い仲になるのは困るんだ!」
「身体を張って…か。ぼくと途中で入れ替わる気かい? 深い仲になるのは自分でないと嫌だってこと?」
「違う!! ハーレイが味を占めたら困るって言っているんだってば!」
それだけは嫌だ、と叫ぶ会長さんにソルジャーが「分かってるよ」と答えた次の瞬間。青い光がパアッと走って、私たちの身体が浮き上がりました。瞬間移動させられた先は…。
「ブルー!?」
リビングのソファに寝そべっていた教頭先生がガバッと身体を起こします。
「それにブルーまで…。どうなさいました?」
見えないギャラリーの私たちには気付かないまま、教頭先生は会長さんとソルジャーに歩み寄りました。ソルジャーが普段からは考えられない真剣な顔で。
「…昼間はごめん。どうしても君に謝っておきたくて…」
「あ、ああ…。あのことでしたらお気になさらず。ブルーも何かと仕掛けてきますから、馴れていますよ」
教頭先生はソルジャーの服装を見て穏やかな笑みを浮かべました。
「家出中だと伺ったので少し心配していたのですが…。お帰りになるようですね。お気をつけて」
また会いましょう、と差し出された手をソルジャーは両手でギュッと握って。
「…違うんだ、ハーレイ。帰るつもりで来たんじゃない。…この服は……君と真面目に話をしたいと思ったから…。遊びに来ているブルーではなくて、ソルジャーとして」
「……ソルジャーとして……?」
「うん」
怪訝そうな顔の教頭先生を見上げて、ソルジャーは深く頷きました。
「…君も知っているだろう? ぼくの世界がどんな所か。ぼくのハーレイは何度もぼくに逃げろと言った。君たちが暮らすこの世界に行って幸せに…と。ぼくが家出したのはそのことで喧嘩になったからだ。ぼくがいなくても平気なのか、と言ったらハーレイは平気だと言った。…ぼくがいなくても平気だなんて酷いよね」
「…それで家出を…? ですが、キャプテンはあなたを大切に思うあまりに手放そうとしておられるのでは…」
コロッと騙された教頭先生はソルジャーとキャプテンの仲を元に戻そうと試みましたが、ソルジャーは綺麗に聞き流して。
「いいんだ、ハーレイ。…それでね、ぼくも考えた。こっちの世界で生きていくことが出来るのか…って。ぼくはハーレイなしでは生きられない。だから離れることも出来ない…。そう思ってた。そしたらブルーから聞いたんだ。…君がブルーにプロポーズしてから今日で一年になるんだって?」
「え、ええ…。お恥ずかしい話ですが」
ご存じのとおり振られたんです、と苦笑している教頭先生。その手を握るソルジャーの手にグッと力が籠もりました。
「…ハーレイ。…ぼくじゃ…駄目かな?」
「は?」
眼を見開いた教頭先生をソルジャーの赤い瞳がじっと見詰めて。
「その…。ブルーの代わりに、ぼくを貰ってくれないかな…って。君が結婚してくれるんなら、ぼくはこっちの世界で生きる。ハーレイが側にいてくれるんなら寂しくないと思うんだ。…だから…ぼくを貰ってほしい」
「…ブルー…?」
思いがけない言葉に戸惑っている教頭先生の背中にソルジャーは両腕を回しました。
「ぼくはソルジャーである自分を捨てる。…君が結婚してくれるんなら、ぼくの世界には帰らない…!」
「……ブルー……」
教頭先生の頭の中は混乱しているようでした。ソルジャーに結婚話を持ちかけられても、教頭先生が愛しているのは会長さんです。けれどソルジャーを拒絶するのは死の危険と隣り合わせな世界へ追い返すのと同じこと。そしてソルジャーが平和な世界で暮らせるように結婚すれば、会長さんと瓜二つの身体が手に入るわけで…。
「…やっぱり駄目かな? 君はブルーしか愛せない…?」
「い、いえ…。そのぅ、あまりにも……急な話なものですから…」
口ごもっている教頭先生。ソルジャーはスッと教頭先生の身体から離れ、クスッと小さく笑ってみせて。
「ふふ、ぼくの命がどうこう…っていうのは反則だよね。その件は横へ置いといて…本当にブルーでなくちゃ駄目なのかい? ぼくなら君を存分に楽しませることができるんだけど…。こんな風に」
ソルジャーの肩からマントがバサリと落ちました。さっきまでとは全く違った挑発的な表情です。
「「「!!!」」」
私たちが仰天している間ににソルジャーは銀色の飾りがついた上着を脱ぎ捨て、ブーツを脱いで手袋を捨てて…。
「どう、ハーレイ? 君が見たかった姿だろう…?」
アンダーウェアまで脱いでしまったソルジャーが身に着けているのは、教頭室で見せびらかしていた真っ白なフリルひらひらの下着だけ。愛用品とは思えませんし、わざわざ履いたに決まっています。教頭先生の鼻から赤い筋がツーッと流れましたが、ソルジャーは妖艶に微笑んで。
「ハーレイ、試しに抱いてごらんよ。気に入ったなら結婚しよう。…結婚を決めるかどうかのお試しだから遠慮は無用さ。…ぼくのハーレイも文句は言わない」
「………」
呆然としている教頭先生。ですが視線はしっかり釘付けです。
「…ねえ、欲しくてたまらないんだろう? 自分に正直におなりよ、ハーレイ」
ソルジャーが教頭先生の胸に身体を預けた時。
「ブルー!!!」
絶叫と共に青い光が迸りました。げげっ、教頭先生がもう一人!? いえ、あの服装は…キャプテンの制服とあの補聴器は…。ひええ、ソルジャーの世界のキャプテン登場!?

突然飛び込んできたキャプテンはソルジャーを教頭先生の胸から引き剥がし、落ちていたマントを拾って着せかけるとガバッとその場に平伏して…。
「ブルー、申し訳ありませんでした! 今後は心を尽くして頑張りますから、このような真似は…」
「我慢の限界…というわけか。いいだろう、許すことにする」
身体をマントで覆ったソルジャーがソファに腰掛け、傲然と言い放ちます。
「お前が限界に来たら送ってよこせ、とぶるぅに言ったが、乱入するのが早すぎだ。まだまだこれからだったのに」
「…そ、そんなことを言われましても…。このままいったら大変なことに…」
「だからお前はヘタレなんだ! もう少しくらい待てないのか!」
腹が立つ、とソルジャーはキャプテンを睨みました。
「ぼくの楽しみを台無しにして…。まだ一枚しか試してないのに」
は? まだ一枚って…もしかして? ソルジャーは勢いよくソファから立ち上がって。
「せっかく買った下着だよ? 履いてみたいと思うじゃないか! こっちのハーレイにも見せつけたいし、お前の限界も試したかった。どれを履いた時に飛び込んでくるか、ぼくは楽しみにしてたんだ。…でも、来てしまったものは仕方ない。中継じゃなくて直に見るんだな」 
不穏な笑みを浮かべるソルジャー。
「…今から順に履き替えていく。だが、これはこっちのハーレイに贈ったもので、お前のためのものじゃない。…お前はそこで黙って見ていろ、どんな格好をしたとしてもだ!」
ソルジャーはバッとマントを投げ捨て、フリルひらひらの下着一枚で仁王立ちになりました。その足元に現れたのは教頭先生にプレゼントした下着詰め合わせセットの箱。よいしょ、と屈み込んだソルジャーはヒョウ柄の下着と紫のTバックとを手に持って…。
「さてと、どっちにしようかな? ブルー、君はどっちが似合うと思う?」
「どっちも却下だ! さっさと服を…」
「選べないって言うんだね? だったら紫にしてみよう。マントの色とお揃いだ」
勝手に決めてしまったソルジャーはTバックを広げて箱の中に置き、おもむろに白いフリルに手をかけます。ま、まさかサイオンで一瞬で履き替えるんじゃなくて、手作業で…? ひぃぃっ、ソルジャー、それ以上は…! と、転がるように走り出たのはキャプテンでした。
「ブルー!!」
勢い余って足がもつれたらしく、ドスンと重い音が響いてソルジャーはキャプテンの下敷きに。
「何するのさ!」
罵倒しまくるソルジャーでしたが、キャプテンは華奢な身体を抱え込んで…。
「…ブルー、これ以上はもう耐えられません。あなたは遊び感覚でしょうが、私にとっては拷問です。…ましてや私そっくりとはいえ、他の男に嫁ぐだなどと……冗談だとは分かっていても、この身が裂かれそうでした」
「………それで?」
不機嫌そうなソルジャーですけど、赤い瞳は怒っていません。キャプテンは更に続けました。
「お願いです。私にもう一度チャンスを下さい。…今度こそ満足して頂けるよう、休暇の残りは全力で…」
「…ぼくが感じる場所を覚えられもしないお前がか?」
「……それは…あなたに酔って溺れてしまって、それどころではなかったからです!」
ソルジャーの喉がクッと音を立て、おかしそうに笑い始めて、キャプテンの髪をクシャリと撫でて。
「よくできました。…最初からそうだと言えばいいのに、誤魔化したから怒ったんだよ。ヘタレなことはバレてるんだから隠さなくても良かったのにさ。…帰ろう、ハーレイ。ぼくの服を拾ってくれるかい?」
キャプテンが拾い集めた服をソルジャーは丁寧に身に着け、最後にマントをバサリと羽織って。
「家出は終わりだ。…後はよろしく」
フッとソルジャーとキャプテンの姿が消え失せ、残ったのは人騒がせな下着の箱。フリルひらひらの白いヤツだけはソルジャーが着けて帰ったようですが…。ポカンとしている教頭先生の前で会長さんが箱に両手を突っ込み、ヒョウ柄と紫のTバックを取り出すとヒラヒラと振って見せました。
「残念だったね、この二枚。…もうちょっとで履いて貰えたのにさ」
「い、いや…」
教頭先生は鼻にティッシュを詰めた姿で耳まで真っ赤に染まっています。
「そう? まあ、次の機会が絶対に無いとは言い切れないし、大事に取っておくといい。それにサイズはぼくと同じだ。箱一杯の下着をベッドに並べて妄想するのもいいと思うよ。紅白縞より役に立つだろ? じゃあね、おやすみ、ハーレイ、いい夢を」
パアッと青い光が溢れて、浮遊感から抜け出た時には会長さんのマンションで…。私たちはソルジャーとキャプテンの痴話喧嘩の巻き添えにされたみたいです。誰もがガックリ脱力中。元気がいいのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」だけでした。
「ね、ね、ブルー。あのね、これ、ブルーからプレゼントだって。…さっき、ぶるぅが送ってきたんだ」
「…ぶるぅから?」
何だろう、と箱を受け取る会長さん。箱のサイズはトランクスが入っていた箱に似ています。私たちが覗き込む中、リボンをほどいて箱を開いた会長さんは…。
「ぶるぅ、ゴミの日に出しといて! ブルーの趣味がよく分かった!!」
ヒラリと床にメッセージカードが落ちました。そこにはソルジャーが書いた綺麗な文字が…。
『青月印も良かったけれど、君にはシャングリラ印が似合うと思う。夜着と下着とセットでどうぞ』
えっ、どんなのが入ってたかって? 会長さんは広げることすらしませんでしたし、デザインの方は分かりません。会長さんの瞳の色によく似合いそうなワインレッドだったのは確かですけど、細かい部分は思い出したら負けでしょう。…ゴミに出すより教頭先生の家に送ってリサイクル……なんていうのは反則ですよね。教頭先生、闇鍋とソルジャーの下着姿と、どちらがお好みに合いましたか…?



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