シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
会長さんの健康診断の付き添いに行った私たち。夜は会長さんの家で夕食を御馳走になって、お泊りという予定でした。エロドクター…いえ、ドクター・ノルディの魔手から会長さんを守り通して全て終わったと思っていたら、サム君の爆弾発言が。会長さんが寝室に引き上げた後も、私たちはダイニングから動けないまま。
「ねぇねぇ、寝ないんだったらリビングに行く?」
ホットプレートを片付けながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言いました。
「お皿はぼくが洗っとくから、ゆっくりしてて。みんなお話したそうな顔に見えるもん」
「えっ、でも…」
片付けなくちゃ、と立ち上がった私たちを「そるじゃぁ・ぶるぅ」はリビングに連れて行き、飲み物とお菓子を用意してくれて。
「ブルーは寝ちゃったみたいだけれど、ここなら騒いでも大丈夫。徹夜だってオッケーだよ」
キッチンに消えていく後姿を見送ってから、最初に口を開いたのはジョミー君でした。
「…なんだか信じられないんだけど…。サム、本当にブルーのこと…?」
「おう!絶対ダメだと思ってたのに、俺ってラッキー♪」
相好を崩すサム君に、スウェナちゃんが溜息をつきます。
「そういえば…サムって美人に弱いのよねぇ、昔っから。いつも振られっぱなしだけども」
「小学校の時からそうだったね…」
ジョミー君が相槌を打ち、スウェナちゃんと二人でサム君の失恋回数を数え始めました。惚れっぽいわけではないようですが、美人の女の子相手に玉砕経験多数の模様。キース君がクックッと笑いながら。
「じゃあ、今回が記念すべき初の告白成功ってことか。…あいにく女じゃないようだがな」
「…俺さ…。ブルーには初対面で失恋してるんだ」
「「「は!?」」」
サム君の思いがけない言葉に私たちはビックリ仰天。初対面で失恋って、なに?
「去年、受験に来た時にさ…。ブルーがいるのを見かけたんだよ。男の制服だったけど、凄く綺麗な顔だったから男装の女の子だと思っちゃって…ボーッと見とれてたら声をかけられて」
「うんうん」
「試験問題を買わないか、って言われても男だって気付かなかったんだ。ハスキーな声だけどちょっといいな、と思った途端に、ぼくは生徒会長だ…って。その瞬間にアッサリ失恋」
「…男だったって分かったんですね…」
シロエ君が頷き、それから怪訝そうに首を傾げて。
「でも今は男でもいいってことなんでしょう?…いったいいつから気が変わって…?」
「んーと…。いつだろう?」
ポテトチップスをポイッと口に放り込んでサム君は記憶を遡っているようです。
「…一発で失恋してからも、綺麗だなーって見てはいたんだ。あんな美人っていないしさ…。ウェディング・ドレスなんか着られちゃったら反則だよな。やっぱ、あれが決定打だったかなー…」
ホワイトデーに教頭室で見たウェディング・ドレスで惚れ直したんだ、とサム君は頬を染めました。
「でもさ、見てるだけで満足してたんだぜ?…好きだって言っても聞いてくれるわけないし、高嶺の花っていうのかな…。手が届かなくて当然だって思ってたのに、つい、勢いで言っちまった。魔が差した、ってぇの?」
「それでオッケーして貰ったんだから、棚ボタじゃないか」
キース君がサム君の頭を軽く小突いて。
「あいつ、ああ見えて頑固だからな。おまけに根っからの女好きだ。恐らく遊び感覚だろうが、公認だって言ってもらった以上、頑張れよ。…俺は別に偏見なんか持っちゃいないし」
「ぼくも!…ぼくも応援する!」
ジョミー君が勢いよく言い、私たちも心からエールを送りました。サム君には幸せになって欲しいですもんね。あ、でも…ひょっとして会長さん、サム君をからかっているのでは…?
「大丈夫だよ」
ヒョイ、と現れた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が人数分のホットミルクを載せたお盆を持ってニッコリと。
「ブルー、からかってなんかいないよ。ぼく、ブルーの気持ちは分かるんだ」
だから安心してね、と太鼓判を押してホットミルクを配る「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「もう遅いから、ぼく、先に寝るよ。お部屋に帰るんだったら、ここの電灯とエアコンは消しといてね」
おやすみ、と手を振って「そるじゃぁ・ぶるぅ」は会長さんの寝室に置かれた土鍋に寝に行ってしまいました。
会長さんとサム君。えっと…これからどうなるんでしょう。会長さんは公認だなんて言って乗り気でしたけど、付き合うとなると今までとはちょっと変わってきますよね…。
「なあ。ブルーって、何処へ誘ったら喜ぶと思う?」
ひゃああ!サム君、早速デートの算段ですか!?キース君も「気が早いな」と苦笑しています。
「だってさ。善は急げって言うじゃないか。ブルーの気が変わらない内にちょっとでも点数稼がないと」
「…なるほど。じゃあ、アドバイスしてやろう。…背伸びはやめとけ」
大真面目な顔のキース君。
「あいつ、ダテに三百年以上生きちゃいないし、女扱いの上手さからしてかなり場数を踏んでると見た。その辺で仕入れた情報とかで安易なデートコースを組んだら負けだな」
「……だよな……」
サム君はズーンと落ち込み、「どうしよう?」と私たちにアイデアを求めてきました。会長さんが喜びそうなデートスポットにデートコース。そんなものを考え出すには、みんな経験値が足りなさすぎです。
「そもそも、誰か、デートしたことある人いるの?」
ジョミー君の問いに全員が首を横に振り、サム君が「えっ」と声を詰まらせ…。
「も、もしかして…俺が…。俺が、トップバッター?…参考例なし?」
「…残念ながらそのようだ」
キース君が気の毒そうに告げ、私たちは同情の目でサム君を見るしかありませんでした。そもそも特別生になったばかりで、実年齢では2年生になりたて、というのが私たちです。2年生になった元の同級生を当たればデート経験者はいる筈ですが(修学旅行の時に不純異性交遊で停学になった人もいたことですし)、それでも所詮は子供のデート。三百歳を超えている会長さんに太刀打ちできるレベルなわけがないでしょう。
「お、俺…。もしかして凄い間抜けとか…?…舞い上がってたけど、デートもできないろくでなしとか…?」
「落ち着け、サム。最初からそんなに飛ばさなくてもいいと思うぞ」
「でも、キース!…ブルーの気が変わったらおしまいなんだぜ?うっかり女の子とデートに行かれて、そっちの方が楽しかった…って思われてしまったら終わりじゃねえかよ!」
「うっ…。そ、それは…。それは確かにそうだが…」
会長さんがサム君を放って女の子とデート、というのは如何にもありそうな展開でした。フィシスさんがいますし、アルトちゃんやrちゃんだって…。おまけにシャングリラ・ジゴロ・ブルーなんです。
「…やっぱダメかも…。ブルー、俺には無理って知っててオッケーだなんて言ったのかも…。俺が勝手に挫折したんなら、からかったことにはならないもんな…」
テーブルに突っ伏してしまうサム君。励まそうにも誰も何にも思い付かなくて、空気が重たくなってゆきます。うわ言のように「もうダメだ…」と繰り返すサム君でしたが、不意にリビングのドアが開いて。
「まだ起きてたのかい?」
パジャマ姿の会長さんが顔を覗かせ、一瞬の内に全てを把握したらしく。
「なんだ、デートコースで悩んでたんだ?…そんなの、もっと先でいいのに」
クスクス笑いながら入ってくると、サム君の手を取りました。サム君の頬がみるみる真っ赤に染まります。
「ふふ、顔が赤いよ?…手を握ったくらいで赤くなってちゃ、恥ずかしくてデートできないじゃないか。どうせならエスコートして欲しいしね。…サムが馴れるまでデートはお預け。デートの締め括りってキスするものだろ?」
サム君は耳まで赤くなり、私たちも口をパクパクさせるだけ。…えっと、えっと。会長さんは本気で言っているんでしょうか…?
「…信じられないって顔してるね。付き合うって言ったからには、キスくらい当然だと思うけど?…それ以上のことはちょっとダメだな。…今のところは」
でも付き合ってみたら変わるかもね、とウインクして。
「ハーレイは三百年以上も片想いしてきて、あの状態。サムは出会ってから1年ちょっとで此処まで来たんだし、焦らなくてもいいと思うよ。…分かったんなら寝た方がいい。もう3時をとっくに過ぎているから」
おやすみ、とサム君の手を軽く握って会長さんは去ってゆきました。見送るサム君の表情は幸せそのもの。
「…もしかして、惚気を聞かされたわけ…?」
ジョミー君が呟き、シロエ君が。
「そういうことだと思いますけど…」
「よかったな、サム。…くそっ、さっさと見捨てて寝ればよかったぜ!」
キース君の言葉は私たちの総意でした。あれこれ悩んで心配したのに、結局、最後はお惚気で…。本当に起きてて損した気分。さっさと寝ちゃうに限りますよ、うん。
翌日はかなり遅めの朝御飯。パンにサラダに卵料理に…と、いつもどおりの光景ですが、サム君の隣に会長さんが座っているのが気になります。二人が並んで座っていることは今までにも普通にありましたけど、公認だなんて言われてしまうと、どうしても意識しちゃいますよね。
「…ちょっと気が早いかもしれないけれど」
会長さんの声に私たちは思わずドッキリ。今度は何を言い出すのでしょう?
「次の金曜日って空いてるかな?」
「「「は?」」」
「…健康診断の結果を聞きに行くんだよ。また付いて来て欲しいんだけど…」
「「「えぇぇっ!?」」」
あのドクターの家へもう一度!?…でもドクターの危険さは分かっていますし、断るなんて出来ません。夕方6時の予約ですから、またまたお泊り決定です。サム君、なんだか嬉しそう。昼食を食べ、おやつを食べて会長さんの家を出るまで、サム君はニコニコしていました。帰り際に会長さんに手を握られて真っ赤になって、キース君たちにからかわれながらバス停へ。…この分ではデートはいつのことやら。月曜日に登校するとサム君はやたらソワソワです。
「今日はブルーは来ないと思うよ」
ジョミー君がおかしそうに笑って「去年もずっとそうだったから」と。
「行事がある日しか来ないんだ。来る日は教室の一番後ろに机が一つ増えるんだよ」
「…そうなのか…」
見るからにガッカリしているサム君でしたが、クラスメイトは気付きません。放課後になるとサム君は一目散に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行って会長さんの隣に座り、もうそれだけで幸せそう。そんな日が続いて、アッという間に約束していた金曜日。私たちは先週と同じようにお泊り用の荷物を持って登校し、夕方、タクシーに分乗してドクター・ノルディの家へ。
「…サム…」
扉の前で会長さんがサム君の腕にギュッと両手でしがみ付きます。今日の付き添いのメインに指名されたのはサム君でした。キース君たちは万一の時に実力行使をするボディーガードで、サム君は会長さんにピタリと付き添う係。会長さんに縋り付かれても赤くならないほど、気合を入れたサム君が扉を開けると…。
「お待ちしておりましたよ、ブルー」
待ち構えていたドクターが不快そうにサム君を眺めました。
「なんですか、彼は?…ブルー、いったい何の真似です」
「無粋だね。見て分からない?」
ねえ?と身体を寄せる会長さんにサム君が微かに頬を染めます。ドクターはニヤリと笑って、サム君を値踏みするようにジロジロと…。
「なるほど…恋人というわけですか。この前はそうは見えませんでしたが」
「君が色々やらかしたせいで自分の気持ちに気付いたらしい。…あの夜に告白されたんだ」
「ほほう…。それであなたが受け入れた、と?…信じられませんね。ほんの子供じゃありませんか。あなたを満足させるには私のような大人でないと…」
ドクターがズイと近づき、会長さんの顎を捉えて顔を近づけた次の瞬間。
「…っつうっ!!」
パシッと鋭い音が響いてドクターが後ずさりました。サム君と会長さんを薄紅色の光が包み込んでいます。あの光は…サイオン…?
「シールドですか…。ヒヨコが何処で覚えたやら…」
「「「シールド!?」」」
今度は私たちが驚く番。ドクターの口ぶりからして、あのシールドはサム君が…?
「お友達もご存じなかったようですね。それだけ必死ということでしょうが…。そんなにブルーが大切ですか?」
「決まってるじゃねえか!」
私たちにはやり方も分からないシールドを展開したまま、サム君はドクターを睨みました。
「だからブルーに二度と触るな!…さっさと健康診断の結果を言えよ」
「やれやれ…。この間は野蛮極まりない連中が無礼を働き、今日はヒヨコがタメ口とは。…ソルジャー、あなたはどんな教育をしてらっしゃるのですか?」
「あいにく、ぼくは教師じゃない」
プイと横を向く会長さん。ドクターは大げさな溜息をつき、私たちを診察室へ案内すると会長さんを椅子に座らせました。その横にサム君がピタリと立って、薄紅色のシールドが会長さんを包んでいます。
「健康診断の結果ですが…。血圧と心電図に問題があった以外は正常でした。心電図は…安静にしていた筈なのに、かなり乱れが…」
「あんたのセクハラのせいだろうが!!」
すかさず叫んだのはキース君。
「あれだけ触りまくられていて、正常な数値が出るもんか!…24時間のホルダー心電図ってヤツで測り直せ」
「…これはこれは。手厳しいことで」
舌打ちをしたドクターは会長さんのカルテを見直し、異常無しだと告げました。
「次はまた1年後でいいでしょう。今度こそ、是非お一人で…。あの約束もありますしね」
「………!!」
会長さんが以前キスマークを付けられた辺りを押さえ、サム君が拳をグッと握って。
「俺、来年も来るからな!…ブルーは俺が絶対守る!」
「ふむ。…勇ましいことですね。…しかし、それはあなたの意思ですか?…本当に?…胸に手を当てて、よく考えてごらんなさい。…なんといってもタイプ・レッドだ」
「「「タイプ・レッド!?」」」
叫んだ私たちをサラッと無視して、ドクターは待合室に続く扉を開けました。
「タクシーを呼びますから、お帰りなさい。…ブルー、続きはあなたにお任せしますよ。タイプ・レッドがどういうものか、あなたのナイトにしっかり説明することですね」
「…………」
会長さんは俯き加減にサム君の腕に縋って立ち上がります。サム君のシールドは徐々に薄れてきていました。
「…サム、もういいよ。…もう大丈夫。大丈夫だから…」
穏やかな会長さんの声で薄紅色の光が消えて、サム君は会長さんと並んで待合室のソファに腰掛けます。
「ブルー…。俺、ちゃんとあんたを守れたよな…?」
「うん。疲れただろう?シールドなんて教えてないのに、よく頑張ったね。…ありがとう…」
会長さんがサム君の額の汗をそっと拭って微笑みました。タクシーにも二人並んで乗り込む姿をドクターが苦々しげに見ています。1年後まで来なくていいと思うとせいせいしますが、タイプ・レッドって何なのでしょう…?
会長さんの家に着くと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が夕食を用意してくれました。
「今日は中華料理だよ!北京ダックにフカヒレスープ、色々あるから沢山食べてね!」
次々と運ばれてくる大きなお皿。サム君は隣に座った会長さんにせっせと料理を取り分けています。
「ブルー、もう少し入れようか?…あ、マツカ、そっちの皿も回してくれよ」
甲斐甲斐しく世話を焼くサム君でしたが、会長さんが突然ポツリと。
「…サム、聞かなくていいのかい?…タイプ・レッドってどういう意味か…って」
「え?…ああ、エロドクターが言ってたヤツか。サイオンの色のことだろう?…シールドが張れるなんてビックリしたなあ。触らせてたまるか、と思ってたけど」
「サイオンは意思の力だからね。サムの思いが強かったのさ。だけど…その思いは本物じゃない」
「………?」
キョトンとしているサム君をじっと見つめて、会長さんは。
「タイプ・レッド…。赤い色のサイオンを持つ人間には、サイオンを増幅させる力がある。だから影響を受けやすい。他人の強い思いに触れると、取り込まれてしまう場合もあって…今のサムはその状態。そのせいでぼくを好きだと思ってる。…ノルディは百戦錬磨なだけに、見破っちゃったみたいだね」
「俺の…意思じゃないっていうのか…?」
問い返すサム君の声が震えています。会長さんが小さく頷き、サム君は縋るような目で。
「…嘘だろ…?そんなの、嘘だろ?…あんたのこと、ずっと…ずっと見てたし、綺麗だなって思ってた。やっと…やっと好きだって言えて、これからなのに…。なあ、嘘だって言ってくれよ!」
「…本当なんだ…。サム、本当のことなんだよ…」
そう言って会長さんはサム君の手をそっと握ると、両手で包み込みました。
「サムの心は真っ直ぐだから、傷付けたりはしたくない。…黙っておこうと思ってたんだ。でも、ノルディが指摘しちゃった以上、本当のことを言わなきゃね。…覚えてるかい?…ぼくがハーレイにトランクスを届けに行った日のこと。あの時、逃げようとしたハーレイがサムとジョミーを突き飛ばして…」
あっ、と息を飲む私たち。二人が尻餅をついたのを覚えています。強い思いに触れると取り込まれることがあるというタイプ・レッド。サム君は教頭先生とぶつかって…。
「…じゃあ…俺があんたを好きだって思う気持ちは、教頭先生から貰ったのかよ…?」
「うん…。ごめん、サム。こんな結果になるんだったら、最初に言ってしまえばよかった。ぼくには分かっていたんだから。…サムが取り込んだハーレイの想いは、ぼくが消す」
会長さんの両手が青いサイオンの光に包まれ、サム君が目を見開いて。
「け、消すって…。そしたら俺は?…あんたを好きな俺の気持ちはどうなるんだ…?」
「…そんなもの、最初から無かったんだよ。ぼくと付き合ってたのは思春期にありがちな気の迷い」
「気の迷い…?嫌だ、そんなの!…俺は確かにあんたが好きで、初めて会った時から一目惚れで…!」
「思い込んでるだけなんだよ。ごめんね、サム…。大丈夫、元のサムに戻るだけだから」
何か言おうとしたサム君を青い光が広がって包み、身体が崩れ落ちてゆくのを会長さんのサイオンがゆっくりと床に下ろします。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が眠ってしまったサム君の顔を覗き込んで。
「…サム、ブルーのこと好きじゃなかったの?…ブルー、サムのこと嫌いだったの?」
「ううん…。恋人ごっこは楽しかったよ。サムが優しいのを知ってるからかな…。好きだって告白されても嫌な気持ちはしなかったんだ」
だけど終わってしまったね、と会長さんはサム君の上に屈み、額にキスを落としました。
「おやすみ、サム。…デートし損ねたから、お別れのキス」
「…タイプ・レッドか…」
キース君が溜息をつき、シロエ君とマツカ君を呼んで、サム君を寝室へ運びます。3人が戻ってくるのを待って夕食が再開されましたけど、会長さんは沈みがち。「そるじゃぁ・ぶるぅ」自慢の小籠包が運ばれてきたのに寝室に行ってしまいました。
「…ブルー、サムのこと好きだったのかな…」
ジョミー君が呟き、キース君が「さぁな」と小籠包を頬張りながら。
「あれだけチヤホヤされていたんだ、悪い気はしてなかっただろうさ。…でもショックなのはそっちじゃなくて、サムの心を操るような結果になった事だと思うぜ。気分のいいものじゃないだろうし…」
この1週間、サム君は会長さんをとても大事にしていました。会長さんがいるだけで幸せでたまらない、という顔をして、いつも一生懸命で。…タイプ・レッドの特性から生まれ、それゆえに消えてしまった恋を、サム君は忘れてしまっても…私たちは忘れないでしょう。
翌朝、ダイニングに行くと会長さんの隣にサム君の姿がありました。他愛ない話をしながら朝食を摂る二人を見ると、ついつい錯覚してしてしまいますが…もうカップルではないんです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が会長さんのカップに紅茶を注いで…。
「ブルー、砂糖は?」
サム君がシュガーポットを手にしました。
「2つだっけ?…まだ、自信なくてさ。ダメだよなぁ…。これじゃ恋人失格かも」
「「「えっ!?」」」
「当然だろ?…好みを覚えるのって基本だぜ」
目を丸くする私たちの前でサム君は会長さんのカップに砂糖を入れてニコニコ顔。会長さんの赤い瞳が揺れ、声が震えて。
「…サム…。どうして恋人だなんて…。ハーレイの想いは全て消し去ったのに」
「ハーレイ?…ああ、教頭先生がどうかしたのか?」
サム君は会長さんが教頭先生の想いを消した事件を全く知りませんでした。タイプ・レッドに関する話は覚えているのに、その後のことは記憶に無くて…おまけに会長さんとの関係が終わったなんてまるで思っちゃいないのです。だって会長さんを好きな気持ちはそのままですから。
「そうか…。ハーレイの想いが引き金になってしまったのか」
会長さんがクスッと笑ってサム君の肩にもたれかかると、サム君は真っ赤になって大慌て。
「ブルー!?…なんだよ、いったいどうしたんだよ?」
「…なんでもない。サムが変わらなかったのが嬉しいだけ」
「……?…まぁ、いいか…」
一目惚れしてから1年以上もサム君が温めていた恋は本物でした。タイプ・レッドでなかったら目覚めなかった恋心ですが、いつか実る日が来るのでしょうか?会長さんが相手なだけに、実るどころか花も咲かずに蕾のままかもしれません。…でも、とりあえず公認カップル再びです。サム君、幸せになれるかな?
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