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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

タフさが身上・第3話

さて、翌日は始業式。会長さんの家から揃って登校した私たちは気が気ではありませんでした。会長さんが教頭先生とデートだなんて正気でしょうか? 教頭先生がEDだという事実も大概でしたが、それがデートして治るとでも…? 全然思考が纏まらないまま放課後になって「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと…。
「かみお~ん♪ ブルーが待ってるよ!」
ニコニコ顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が迎えてくれて、テーブルの上にはリボンがかかった平たい箱。包装紙には嫌というほど見覚えが…。昨日、教頭先生にお届けに行った紅白縞が入っていたのと同じものです。サイズは小さめですけども。
「やあ。…その顔だと見当がついたようだね」
会長さんがニッコリ笑いました。
「これはいわゆる手土産ってヤツ。やっぱりデートに誘うからには手ぶらってわけにもいかないし」
「…そうか?」
首を傾げたのはキース君です。
「手土産なんぞは要らんと思うが…」
「うん、普通ならね。でもさ、ハーレイは自信喪失中だし…。デートに引っ張り出すってだけでも至難の業だと思うんだ。だから手土産。ついでにEDの特効薬も兼ねている」
「「「…???」」」
ありゃ。ただのプレゼントではないのでしょうか? EDの特効薬ってことは中身は健康食品とか? 会長さんは自信たっぷりな顔で「特効薬さ」と繰り返して。
「ぶるぅ、手形パワーの出番だよ。みんなに披露してあげて」
「オッケー!」
元気一杯に答えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」の小さな手から青いサイオンが迸りました。その光が箱を包んだかと思うと、フワリと宙に取り出されたのは紅白縞のトランクス。やっぱり中身はアレでしたか~! けれど会長さんは人差し指をチッチッと左右に振って。
「いつものヤツとは違うんだな。昨日届けたのはコットンだけど、こっちは素材がシルクでね。もちろん値段も高くなってる。…ぶるぅ、手形は見えないタイプで」
「うん、分かった! 合格ストラップと同じヤツだね」
紅白縞の前開きの辺りに赤い手形がポンっ! と押されて吸い込まれるように消えました。えっと…今のって合格手形? 前にソルジャーが押させたヤツみたいに夜の試験の合格アイテム? それなら確かにEDに効くかもしれませんけど、試験をするなら試験問題とか採点係が必須なのでは…。
「…ん? もしかして何か誤解したとか?」
会長さんが私たちをグルリと見渡して。
「トランクスに押させはしたけど、前にブルーが押させてたのと効果は全然別物だよ? ハーレイ相手に夜の試験をする気も無いし、そっちのパワーをあげる気も無い。…これは単なる合格グッズで、言い換えるなら勝負パンツだ」
「…あいつも勝負パンツだと言っていたが?」
キース君の指摘に会長さんは。
「そうだったかもね。だけど本当に違うんだってば、使い方だって全く違う。…それじゃハーレイを誘いに行くよ、明日は楽しくデートしなくちゃ」
「ちょっと待て! 俺たちも一緒に行けって言うのか?」
「当然だろ? デートもみんなで行くんだからさ、誘いに行くのも同じだってば」
さあ早く、と促された私たちは諦めるしかありませんでした。その間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がシルクだという紅白縞をきちんと畳んで瞬間移動で箱の中へと戻しています。開封しなくても中身に細工をし放題とは便利ですけど、あれを一体どうするのでしょう…?

トランクスのお届け行列ならぬ『デートのお誘い行列』は箱を抱えた会長さんを先頭にして教頭室へと向かいました。始業式の日の放課後だけに生徒は誰も残っていません。好奇の視線を浴びることなく本館に入り、会長さんが教頭室の扉をノックして…。
「失礼します」
ゾロゾロと入って行くと教頭先生は羽ペンを手にして上の空。魂が抜けているようです。
「…ハーレイ? 落ち込んでる所を悪いんだけど」
会長さんの声に教頭先生はハッと我に返って。
「ブルー!? どうした、何か用事か?」
「その様子だと諦め切れないみたいだねえ……。昨日言ったこと、後悔してる?」
「いや…。お前には幸せになって欲しいし、私ではお前に相応しくない。そう分かってはいるのだが…。すまん、吹っ切れるまでに少し時間がかかりそうだ」
溜息をつく教頭先生。そりゃそうでしょう、三百年以上も想い続けた会長さんをそう簡単に諦められるわけがありません。会長さんは「やっぱりねえ…」と呟き、教頭先生と机を挟んで向き合うと。
「そんなことじゃないかと思って、気持ちの整理を手伝いに来たんだ。…一度だけぼくとデートをしてみないかい?」
「…デート…?」
信じられない、といった表情の教頭先生に会長さんはパチンとウインクしてみせて。
「気持ちに区切りをつけるためにさ、さよならのデート。…もちろんぼく一人では付き合えないし、後ろの連中が一緒だけども…。どう? 明日、みんなでドリームワールド」
「さよならの…デート?」
「そうだよ。最初で最後のデートというのも粋だろう? ぼく一筋で頑張ってきたハーレイに感謝の気持ちをこめて、赤字覚悟の大決算。ちゃんと手土産も持って来たんだ」
はい、と会長さんは例の箱を机に置きました。
「…これは…?」
「いつもプレゼントしていた紅白縞だよ。昨日の口ぶりじゃ紅白縞を貰うのも最後になると覚悟してたようだし、お別れに一枚贈ろうかと…。コットンじゃなくてシルクなんだ。明日のデートに履いて来て」
「…そうか、最後の一枚か…」
しんみりとする教頭先生。自分から別れ話を切り出したとはいえ、未練たらたらなのでしょう。それでも贈られた箱を手に取り、押し頂いて。
「ありがとう、ブルー…。気にかけてくれて感謝する。しかし、デートなど…。お前は本当にかまわないのか? 私はお前に相応しくないと言った筈だが」
「分かってないね。さよならデートって言ったじゃないか。最後に楽しい思い出を作って、その後キッパリ別れるんだよ。それなら諦めがつくだろう?」
「…そうかもしれんが…」
「そういものだよ。明日は一日付き合って。…あ、その紅白縞を忘れないでね」
ぼくからの最後のプレゼント、と念を押した会長さんに教頭先生は「うむ」と素直に頷きました。
「最初で最後のデートだからな…。お前の望み通りにしよう。シルクか…。少し照れる気もするが」
「きっと肌触りがいいと思うよ、気持ちよく別れたい日にもってこいだ。だけどデートはデートなんだし、明日は大いに楽しまなくちゃ。待ち合わせはドリームワールドの正面ゲートの所でいいよね」
あそこが一番分かりやすい、と会長さんは待ち合わせの時間を伝えると。
「じゃあ、また明日。…他のみんなは無視していいから、たっぷりしっかり、さよならデート」
またね、と軽く手を振る会長さんを教頭先生が名残惜しそうに見詰めています。あんな調子じゃ「さよなら」どころか別れる気持ちになれないんじゃあ……と思いましたが、会長さんの狙いはED治療。教頭先生に別れ話を破棄させるためにデートだなんて言い出したんですし、効果は既に出始めてますか…?

「ふふ、成功。ハーレイはアレを履く気満々」
会長さんが満足そうに口にしたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に戻ってから。教頭室の方角を眺め、サイオンで様子を見ているようです。
「手触りの方も気に入ったらしいね。…だからと言って今後もシルクを贈るつもりはないけどさ。武骨な男はコットンで十分、シルクなんかは勿体ないよ。一度限りの贅沢品だ」
「えっと…」
ジョミー君が口を挟みました。
「あれってどういう効果があるの? それに、さよならデートって何?」
「さよならデートはただの方便。普通にデートって言ってやっても良かったんだけど、それじゃハーレイが舞い上がっちゃうから面白くない。別れ話を強調しながら誘う所に醍醐味がある。恩着せがましく誘わなくっちゃ」
デートに引っ張り出すことに意味があるのだ、と会長さんは強調しました。
「それもドリームワールド限定。他の場所では効果がない。…こう言えば手形を押させた理由が分かるかな?」
「「「???」」」
いいえ、全然? 揃って首を横に振った私たちに会長さんは苦笑して。
「勝負パンツだって言ったじゃないか。でもって行き先がドリームワールド。…あそこの名物は絶叫マシーンだ。ここまで言われてもまだ分からない?」
「…あ…」
もしかして、と声を上げたのはシロエ君。
「絶叫マシーン克服用の手形を押させていたんですか? 教頭先生、スピードが苦手でしたよね?」
「ご名答。…フォトウェディングでおびき出されて、ゼルに拉致されていただろう? ぼくに騙されたショックで天国から地獄、そこへサイドカーで爆走されたのが心の傷になったらしいよ。ぼくに近付くと酷い目に遭う…と思ったと言うか、ハーレイ自身に自覚は無いけど、身体の方はそう理解した」
だからED、と会長さんは断言しました。
「早い話が心因性だ。治療するには苦手なスピードをぼくと一緒に克服するのが一番お手軽。…ぼくに近付いても大丈夫だと身体が判断するからね。そういうわけでドリームワールド! 絶叫マシーン乗り放題!」
「で、でも…」
シロエ君が言いにくそうに。
「教頭先生が絶叫マシーンに乗りますか? 嫌だと言って逃げそうですが」
「最初で最後のデートだよ? ぼくのお願いを聞けないようでは男じゃないさ。ハーレイだって最後のデートで無様な真似はしたくないだろう。意地でも絶叫マシーンに耐えてみせる、と悲壮な決意をする筈だ。それがハーレイの自信に繋がる」
ホントは手形パワーが無ければ確実に気絶なんだけど、と会長さんはニヤリと笑って。
「でもハーレイはそんなこととは知らないし? 自分が履いてきた紅白縞が効いただなんて思いもせずに一気に自信を取り戻すのさ。そしてEDも完治する…、と」
「なるほどな…」
一理ある、とキース君が頷いています。
「教頭先生には自信を持って頂きたいし、明日のデートは文句を言わずに同行しよう。さっきみたいに意気消沈なさっている姿を見ると弟子として心が痛むからな」
「ありがとう、キース。みんなも分かってくれるよね?」
「ええ、まあ…」
シロエ君が同意し、サム君が。
「ライバルが減るのは嬉しいけども、教頭先生、気の毒だしな。いいぜ、俺も喜んで協力する」
ジョミー君や私たちも会長さんのプランを承諾しました。明日はドリームワールドの正面ゲートに集合です。教頭先生と会長さんのデートの真の目的はED治療。なんとも情けないデートですけど、教頭先生は夢にも御存知ないというのが笑えると言えば笑えるかも…?

そして、さよならデートの日。私たちがドリームワールドのゲートで待っていると教頭先生がいそいそやって来ました。デートが終わったら会長さんとお別れなのだと承知していても、逸る心は抑えられないみたいです。
「すまん、ブルー。…待たせたか?」
「平気だよ。ぼく一人ってわけじゃないしね。…で、アレは履いてきてくれたんだ?」
教頭先生の股間の辺りに視線を向ける会長さんに、教頭先生は頭を掻いて。
「お前の最後のプレゼントだしな。朝一番で風呂に入って履き換えた。…シルクはなかなかいい感じだぞ」
「そうだろうね。ハーレイにはちょっと勿体ないけど」
猫に小判、とクスクス笑う会長さん。
「おい、こら! 今のはいったいどういう意味だ!」
「分不相応って言ってるんだよ。豚に真珠とか色々言うよね」
クスクスクス…と笑いを零す会長さんを教頭先生は眩しそうに眺めています。そんな教頭先生の手を会長さんがキュッと握って。
「それじゃ早速デートしようか。ここの定番は…まずはアレかな」
会長さんが指差したのはドリームワールドの中でも一番走行距離が長いジェットコースター。スピードの方も最高なソレに教頭先生は蒼白になり、絶対無理だと反対しました。
「私はスピードに弱いんだ! お前に迷惑をかけてはいかんし、ジョミーたちと乗ってきなさい。そうだ、ぶるぅも身長制限に引っ掛かるだろう? 私がぶるぅの面倒を見よう」
「えーっ!?」
異を唱えたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ぼく、面倒なんか見てくれなくても平気だもん! それにハーレイ、デートなんでしょ? ブルーと一緒にいてあげないとダメなんだよ。ブルーがフィシスとデートしてる時はそうだもん! ブルー、フィシスを一人になんかしないもん!」
本当にそう思っているのか、会長さんに言い含められたのか。懸命に主張する「そるじゃぁ・ぶるぅ」の姿に会長さんは微笑んで…。
「ハーレイ、ぶるぅもこう言ってるよ? 小さな子供に気を遣わせちゃいけないねえ…。さあ、行こう。ぼくは絶叫マシーンが大好きなんだ。それとも…ぼくと乗るのは嫌?」
だったら他の誰かと乗るよ、と会長さんは私たちの方を振り向きました。
「ハーレイはぼくの隣は嫌らしい。仕方ない、ハーレイの横にはキースかシロエが乗りたまえ。ぼくの隣は誰にしようかな、やっぱりスウェナとかみゆがいいかな? 女の子と乗るのが王道だよね」
「お、おい…」
掠れた声の教頭先生。
「どうしても乗らないといけないのか?」
「ん? 決まってるじゃないか、デートだよ? だけど隣は嫌だって言うし、他の誰かと座ればいい。ハーレイも女の子の隣がいいのかな?」
「そ、そんなことは…! 同じ乗るならお前の隣が…」
「なんだ、だったらそう言えばいいのに」
素直じゃないね、と会長さんの腕が教頭先生の腕に回されて…。
「ぼくに恥ずかしい思いをさせたくなければ、気絶しないよう頑張って。気絶したって介抱してはあげるけどね。最初で最後のデートなんだし、ちゃんと面倒見てあげるよ」
大丈夫、と教頭先生を引っ張ってゆく会長さん。私たちもゾロゾロと続き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も乗り場までついて来ます。教頭先生は私たちの分のチケットも買ってくれ、青ざめた顔で列に並んで…やがて私たちの順番が。
「かみお~ん♪ 行ってらっしゃ~い!」
遙か下の方から「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手を振っているのが見えました。教頭先生は会長さんと並んで先頭に乗り、その後ろにキース君とシロエ君、サム君とマツカ君、スウェナちゃんと私、ジョミー君はジャンケンに負けたので五人グループで来ていた高校生の男子の一人と…。

カタン、カタン、カタン…とコースターが上ってゆきます。アルテメシアの街が一望できる地点まで上がり、そこから急降下して加速しながら上昇と下降を繰り返しつつ、ループも含めた長いコースを延々と走るわけですが…。
「教頭先生、震えてるわよ?」
スウェナちゃんが声を潜めて囁きました。
「本当にアレが効くのかしら? 効かなかったら…」
「多分、効くんじゃないのかなぁ? ぶるぅも自信満々だったし」
効くといいよね、と願っているのは誰もが同じ。教頭先生の自信回復とED完治の命運を賭けてコースターは走り出しました。絶叫マシーンは好きですけども、加速している真っ最中に他人のことまで考える余裕はありません。下って上って、宙返りして、スウェナちゃんとキャーキャー悲鳴を上げて…。
「「「…あ……」」」
スピードが落ちてきた時、私たちが見たのはドッシリと落ち着いて会長さんの隣に収まっている教頭先生。勝負パンツは効いたのです。これでED克服ですか? 教頭先生、自分に自信を取り戻せますか~?
「大丈夫だったじゃないか、ハーレイ」
会長さんが教頭先生と並んで降りて来ました。教頭先生は「うむ…」と曖昧な返事をして。
「お前の隣で無様な真似は見せられないと思ったが…。恥をかかせずに済んで良かった」
「根性を出せば苦手くらいは克服できるってことじゃないかな? 自信がついた所で次に行ってみようか」
「まだ乗るのか…?」
「当然だろ? せっかくのデートなんだし全部乗らなきゃ!」
次はアレ、と強引に引き摺って行かれながらも教頭先生は嬉しそうでした。夕方までかかって全部の絶叫マシーンを制覇して…。
「ありがとう、ブルー…。楽しかった。お前とのいい思い出が出来て、私は本当に幸せ者だ」
会長さんの両手を握って優しく微笑む教頭先生。
「いいか、お前も幸せになるんだぞ。…素晴らしい相手が現れることを祈っている」
「要らないってば、ぼくは結婚する気はないんだからさ。フィシスはぼくの女神だけれど、女神には結婚なんて俗っぽいことは似合わないし…」
「…そうなのか…? お前には幸せになって欲しいのだがな…」
「くどいよ、ハーレイ。…今日はありがとう。だけど…。さよなら、なんだね」
教頭先生を見上げる赤い瞳に、教頭先生は「そうだな」と短く答えを返して。
「お前に相応しい人を見つけてくれ。…幸せにな、ブルー…」
また学校で、と告げて教頭先生は帰ってゆきました。その背中はとても寂しげでしたが、本当にこれでいいのでしょうか? 思い切り別れ話が成立したって気がしますけど…。
「…いいんだよ、あれで」
会長さんが遠ざかってゆく教頭先生を見送りながら言いました。
「まだ自分でも気付いてないしね、EDの元凶が消え失せたことは。夜になるまで分からないままさ、今夜もハーレイを観察しよう」
明日は日曜だし泊まって行って、と会長さん。あちゃ~、またしてもこのパターンですか…。

ドリームワールドでの費用は全額教頭先生持ちでした。夕食は会長さんの奢りで中華料理を食べ、それから家に瞬間移動で送って貰って、お泊まり用の荷物を持って会長さんのマンションへ。教頭先生の観察会が始まるまではリビングで今日の思い出話に花が咲き…。
「教頭先生、スピードは平気になったわけ?」
ジョミー君が尋ねました。
「あんなにあちこち連れ回したのに平気だったよ、逆落としとかもあったのにさ。それともブルーがプレゼントしてた勝負パンツが無いと無理だとか?」
「無理だろうねえ…」
しかも期限切れ、と会長さんが応じます。
「ぼくが欲しいのはオモチャであって、それ以上は求めていないんだ。速い乗り物が苦手というのを克服されては面白くない。だから勝負パンツに押した手形は今日の夕方が有効期限」
「「「えぇっ!?」」」
期限付きとは知りませんでした。けれど会長さんは「当然だろう?」と片目を瞑って。
「ぶるぅの手形は期限付きのも無期限もある。だけど今回は期限付き。だってシルクの紅白縞だよ? 特別な品だって分かってるんだし、ハーレイが今後も勝負パンツに使わないという保証は無い。だったら期限を付けとかなくちゃ。…そしてハーレイには思い込みだけでスピードを克服できる力量は無い」
あれは根っからのヘタレだから、と嘲笑している会長さん。
「そのくせに今日のデートで自信回復したようだ。…そろそろ発情するんじゃないかな、ぼくとの甘い思い出を胸にベッドルームに行ったようだし…。ぶるぅ!」
「かみお~ん♪」
会長さんの合図で中継画面が出現しました。パジャマ姿の教頭先生がベッドの縁に腰掛けています。その手には会長さんの花嫁姿の写真があって…。
「ブルー…。お前を幸せにしてやりたかったな…。今日のお前は本当に楽しそうだった。あんな風に私の隣でいつも笑顔でいてくれたなら…」
愛していた、と繰り返していた教頭先生の声が不意に止まって。
「…これは…。もしや、やり直すことが出来るのか…?」
写真をベッドサイドのテーブルに置いた教頭先生は会長さんの抱き枕を引き寄せ、グッと両腕で抱き締めて。
「おお…! もう駄目なのかと思っていたが…。ブルー…!」
ガバッと抱き枕の上に覆い被さる教頭先生。この光景は前にも何度か目にしたことがありました。会長さんがクッと喉を鳴らして、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「もういいよ、ぶるぅ。…これ以上見ててもいつもと同じだ」
「…そうなの? ハーレイ、治ったの?」
「うん。だからもう心が泣いてないだろ?」
「あ、ホントだ! ブルー、凄いね! ノルディでも治せなかったんでしょ?」
EDって何か分からないけど…と言う「そるじゃぁ・ぶるぅ」は会長さんの手腕に感動している様子です。それは私たちも同じでした。EDが治った教頭先生、また暑苦しく会長さんにアタックし始めることでしょうけど、あのままフェードアウトされるよりかはいいですよ、きっと!

絶叫マシーンで遊び倒した疲れもあって、その夜は誰もが早々と沈没。気持ちよく爆睡していると突然チャイムが鳴り響いて…。あれは玄関のチャイムです。眠い目を擦りながら時計を見れば朝の7時ではありませんか! こんな早くからいったい誰が…?
「…うるさいなぁ…」
不機嫌そうな会長さんの声が聞こえて、玄関に向かう小さな足音がトコトコと。扉を開ける音に続いて…。
「かみお~ん♪ ブルー、お客様! ハーレイが来たよ!」
「ハーレイ!?」
会長さんの悲鳴に近い叫びに私たちの意識も瞬時に覚醒。慌てて着替えて飛び出してゆくと、会長さんが廊下に立っていました。
「…来ちゃったよ…。昨日の今日でもう来るなんて…。って言うか、どうやってウチの玄関まで!」
下のロックを開けてないのに、とブツブツ呟く会長さんの所に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び跳ねてきて。
「見て、見て、ブルー! 窓の下が凄いことになってる!」
「「「窓の下?」」」
なんのこっちゃ、と言われるままに見下ろした私たちの視界に飛び込んできたのは真紅に染まったマンションの庭。会長さんが真っ青な顔で…。
「…全部薔薇だ…。庭一面に真っ赤な薔薇って……まさか…」
「ハーレイだよ?」
凄いでしょ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「あのね、管理人さんの許可は貰ってあるって言ってるけど? それでね、ブルーにプロポーズしたくて、入口のロックを開けて貰って上がって来たって…」
「「「!!!」」」
そういえばこのマンションには仲間しか住んでいないのでした。管理人さんだって仲間です。シャングリラ号のキャプテンである教頭先生の指示が下れば入口を開けるくらいはするでしょう。それにしたって一面の薔薇って……プロポーズって、正気ですか? などと皆でパニックに陥っている内に…。
「おはよう、ブルー。返事が無いから勝手に入らせて貰ったが…」
「「「………」」」
真紅の薔薇の花束を抱えた教頭先生が立っていました。
「ブルー、幸せになってくれと言ったが、やはりお前を幸せにするのは私しかないと思ってな。…だが、さよならを言った後ではプロポーズからやり直さねば格好がつかん。…三百年分の想いをこめて庭一面の薔薇を贈ってみたが、どうだ、気に入って貰えただろうか?」
「…き、気に入るも何も……目立ち過ぎだし…」
生き恥だよ! という会長さんの叫びは無視されました。
「そう照れるな。私がお前を嫁に欲しいと言っているのは仲間内では有名だろう? このくらいしても問題はない。…改めてお前にプロポーズしよう。ブルー、いつまででも待っているから、是非とも嫁に来てほしい」
まずは花束を受け取ってくれ、と押し付けられた会長さんが目を白黒とさせながら。
「あのさ…。ハーレイ? プロポーズするのは勝手だけれど、望みが無いって分かってる? ぼくがウェディング・ドレスをオーダーしたのは前のドレスが駄目になったからで…」
「そうだったのか?」
「ブルーが駄目にしちゃったんだよ! 勝手に持ち出して、あっちのハーレイの前で着て見せて…後は想像つくだろう? だからさ、望みがあるような間柄だったらドレスを買って貰った直後に悪戯なんかは…って、うわっ!」
会長さんは教頭先生にしっかり抱き締められていました。
「ブルー…。望みがなくても愛している。私にはお前しか見えんのだ。いつか私のためにドレスを…」
「うるさーいっ!!!」
パシッ! と青いサイオンの光が走って教頭先生は弾き飛ばされ、更に瞬間移動で薔薇だらけの庭のド真ん中まで飛ばされて…。
「そこの薔薇!」
会長さんが窓から身を乗り出すと。
「全部キッチリ回収してよね、みっともないから! そして有効活用すること、ぼくがマザー農場に連絡しとく!」
香油にするとか色々と…、と毒づいて窓をピシャリと閉め切り、会長さんは「効きすぎた…」と青息吐息。
「ハーレイが元気になるといいな、とは思ったけどさ。なんでいきなりプロポーズまで突っ走るわけ? おまけに庭一面に真紅の薔薇って、どう考えても馬鹿の極みで…」
「それでこそオモチャと言えるんだろうが」
キース君が突っ込みました。
「あんたの意表を突くようなことをやってくれた方がいいんじゃないのか? たまにはオモチャの逆襲というのも面白い。…返り討ちに遭ったようだがな」
気の毒に…、と見下ろすキース君の視線の先では教頭先生がせっせと薔薇を集めていました。会長さんに贈ったつもりが「みっともない」だの「生き恥」だのと罵倒された挙句、回収させられて資源扱い。あれだけの薔薇を買おうと思えば金額も半端ではないのでしょうに…。それを指摘した私たちに、会長さんはフンと鼻を鳴らして。
「EDの治療代だと思えばいいさ。ぼくが勝負パンツを渡してデートに誘っていなかったなら、あのまま一生EDだったかもしれないんだよ? それに比べれば薔薇くらい…。そうだよね、ぶるぅ?」
「んーと…。毎日心が泣いてるよりかは治った方が断然いいよね! でも、薔薇の花、凄く沢山…」
こっちの薔薇はジャムにしようっと、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が薔薇の花束を抱えます。
「無農薬の薔薇みたい。きっと美味しいジャムが出来るよ♪」
楽しみにしててね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は無邪気な笑顔。えっと…教頭先生の想いが詰まった薔薇から作ったジャムは砂を吐くほど甘いんでしょうか? ともあれ、教頭先生は自信回復、EDも完治。これからも会長さんの良いオモチャとして壊れず、めげずに強く生きてって下さいです~!



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