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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

余計なお世話・第3話

教頭先生の家にエロドクターと一緒に立て籠もってしまったらしいソルジャー。会長さんにも「そるじゃぁ・ぶるぅ」にも中の様子は分からないそうで、私たちはスーパーで買い込んだ荷物を抱えて教頭先生の家へと急ぎました。普段から鍛えている柔道部三人組が一足先に門扉を開けて玄関前に辿り着いたのですが…。
「くそっ、押しても引いてもダメだ」
キース君が玄関の扉をドンドンと叩き、シロエ君が門扉の所でインターフォンのボタンを押しまくっています。やはり会長さんが言っていたとおり、家には入れない状態でした。会長さんがポケットから合鍵を取り出し、玄関の鍵穴に差し込んでみせて。
「ほらね、鍵はかかっていないんだよ。だけど扉は開かない。もちろん瞬間移動で中へ飛び込むこともできない」
「「「………」」」
私たちを締め出した状態でソルジャーが何をしているのかは想像したくもありません。花嫁修業だなんて言ってましたし、きっとロクでもないことが…。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が放り出されてから既に1時間近く経つそうです。その間、ソルジャーは好き放題に…。
「いっそ窓でも割ってみるか?」
物騒なことを口にしたのはキース君。
「そうでもしないと中へ入るのは無理そうだぞ。あいつも窓を割られるとまでは思っていまい」
「窓か…」
会長さんが考えを巡らせています。確かに窓なら強行突破できるかも? と、突然カチャリと扉が開いて。
「おやおや。これは皆さん、お揃いで…」
出てきたのは白衣を羽織って往診用の鞄を提げたドクターでした。
「ハーレイの具合はいいようですよ。明日くらいまで安静にすれば動けるようになるでしょう。秘伝の塗り薬とやらが効きましたね」
民間療法も馬鹿にできないものがあります、と話すドクターは完全にお医者さんの顔。けれど…。
「…ブルーは?」
会長さんが玄関を覗き込み、胡乱な瞳で振り返りました。
「姿が見えないようだけど? 君もブルーに聞かされてたよね、花嫁修業に来たんだ…って。花嫁修業なら往診に来たお医者様をお見送りしなきゃいけない筈だ。ぼくはそのように教えたけれど?」
家から放り出される前に、と舌打ちをする会長さんにドクターは。
「ああ、要らないと言ったのですよ。花嫁修業中ともなると色々お忙しいでしょう? ご自分の世界にも何か用事がおありのようで、今はそちらにお戻りです」
では、と軽く会釈をするとドクターは表に停めた車の方へ。ドクター自慢の高級車です。風で白衣がフワリと靡いて、何かいい香りがしたような…? 病院特有の消毒薬などの匂いではなく、もっと自然で爽やかな…。ドクターってコロンをつけてましたっけ? 会長さんも気付いたようで。
「あれ? ノルディって香水つけていたかな? …おっと、そんなことはどうでもよかった。とにかくブルーが心配だ」
「心配って…それは逆じゃないのか?」
キース君が突っ込みを入れました。
「立て籠もっていたのはあいつなんだぞ? 絶対に何かよからぬことを…」
「だから心配してるんだってば! ブルーが何をやっていたのか、ハーレイに確認しなくっちゃ」
行くよ、と会長さんが玄関を入った所でドクターの車がエンジン音も高く去っていきます。ソルジャーは自分の世界に戻っているそうですし、今の間に教頭先生の安否を確認しなくっちゃ!

バタバタと二階に上がって寝室へ行くと、教頭先生はベッドに仰向けに寝ていました。きちんと肩まで布団を被り、膝の下には会長さんの抱き枕が挟み込まれているようです。そして漂ういい香り…。ん? この匂いって、さっきドクターがつけてたコロン?
「なんだ、どうしたんだ?」
私たちが勢いよく駆け込んだので、教頭先生は怪訝そうな顔。
「もう学校は済んだのか? 何をそんなに慌ててるんだ?」
「何をって…」
会長さんが溜息をつき、部屋をグルリと見渡すと。
「ブルーとノルディと三人で何をしてたのさ? とてもいい匂いがするようだけど」
「ああ、これか。ノルディが身体にアロマオイルを塗ってくれたんだ。アルトさんがくれた薬も塗ってるんだが、なんと言っても匂いが酷い。あれをブルーが嫌がるんでな、別の香りで薄めた方がいいだろうと」
「え…?」
「ノルディは私に対抗意識を燃やしたらしい。エステティシャンとして腕を磨けばお前に呼んで貰えるかもしれん、と色々勉強したそうだ。アロマテラピーも学んだとかで、この香りはそれの成果だな。あの悪臭を消せるオイルを選び出すとは凄いじゃないか」
教頭先生は本当に感心しているみたいです。この様子ではドクターは診察してアロマオイルを塗っていっただけで、何も悪さはしていないのでは…? けれど会長さんは引っ掛かるものがあるらしく。
「それだけかい?」
「………? 他に何かあるのか、ブルー?」
「ノルディは往診していっただけ? 他には何もしなかった?」
「他に? いや、何もないが? すぐにブルーが見送って行った。そういえばブルーが見当たらないな。買い物か?」
もう半時間ほどになると思うが、と言う教頭先生に会長さんの顔が青ざめました。
「…ちょっと待って。ブルーは君に断っていかなかったのかい? 自分の世界に用事があるから帰ってる、ってノルディは言っていたんだけれど…?」
「いや、知らん。そういう話は聞いていないが…」
教頭先生の証言によると、ソルジャーはエプロン姿でドクターを見送りに行ったそうです。それっきり戻らなかったわけですけども、相手は勝手気ままなソルジャー。花嫁修業とやらに飽きて好きに過ごしているのだろう、と教頭先生はベッドでウトウトしていたのだとか。
「ハーレイ、君はどこまでおめでたいんだい? ブルーがノルディと一緒に出掛けたかも、とかは全く思っていないんだ…?」
会長さんの鋭い指摘に教頭先生はウッと詰まって。
「そ、それは…。そんなことは…。しかし……自分の世界に行ったのだろう? だったら何も問題は…」
「今の行き先に関してはね。でも問題はそこじゃない。ノルディが往診に来てからすぐに、ぼくもぶるぅも放り出されてしまったんだ。家に入ろうとしても入れず、中の様子も分からなかった。…君の治療をしていただけならシャットアウトされなくってもいいんじゃないかと思うけど?」
「……放り出されただと?」
信じられない、と目を丸くする教頭先生は何も知らないようでした。会長さんが問い詰めた結果、エロドクターは教頭先生の寝室を出てから暫くの間、家の中に留まっていたことが明らかになり…。
「空白の時間が三十分か…」
溜息をつく会長さん。
「その間にブルーは自分の世界に用事が出来て、勝手に帰ってしまったわけだ。緊急事態ってこともあるだろうから、そっちの方はいいとして……ノルディと何をやってたのかが気になるな」
「そう?」
ユラリと空間が揺れて出現したのは噂のソルジャーその人です。会長さんの私服の上からフリルひらひらのエプロンを着けていますが、その格好で自分の世界に行ったんですか!?
「…この格好で里帰りしてちゃいけないのかい? ぼくのハーレイにはウケたけど?」
ソルジャーはクスッと笑って会長さんに向き直りました。
「お蔭様で花嫁修業は順調だよ。ハーレイもとても喜んでくれたし、ノルディに感謝しないとね」
「「ノルディ?」」
重なったのは会長さんと教頭先生の声。ソルジャーは「うん」と頷き、微笑んで。
「特別にレクチャーしてくれたんだ。ぼくは花嫁修業中だろ? 夫役のハーレイが役立たずって状態だから、そういう時の過ごし方。王道は宅配便のお兄さんだとか言っていたけど、往診に来た医者というのもアリらしい」
「「「???」」」
「分からないかな、夫が役に立たないんだよ? 花嫁修業をしているのにさ。だったら代わりが要るじゃないか。でないと欲求不満になるし」
ソルジャーが何を言っているのか私たちにはサッパリでした。ところが会長さんはピンと来るものがあったらしく。
「…ま、まさか……まさかノルディと……」
「心配しなくても大丈夫。最後まではやってないからね」
だけど十分熱くなれた、とソルジャーはウットリしています。この展開って、もしかして…? 口をパクパクとさせる会長さんにソルジャーは。
「仕上げはぼくの世界に戻ってハーレイと一緒に楽しんだんだ。ノルディはプロの店に行くとか言ってたよ。あそこで引けるのは流石だね。テクニシャンだと自負するだけのことはある」
「「「………」」」
今度こそ私たちにも分かりました。ソルジャーは会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」を締め出しておいてエロドクターと大人な遊びをしていたのです。教頭先生は耳まで真っ赤になっていますし、会長さんは顔面蒼白。直後に起こった会長さんとソルジャーの派手な口喧嘩は思い出したくもありません。エロドクターが来たばっかりに悲惨なことになっちゃいましたよ…。

その夜、会長さんは不機嫌でした。大喧嘩の末、ソルジャーがエロドクターの記憶を消去することで一応決着はついたのですけど、それでも腹に据えかねる様子。なのにソルジャーはのんびりと…。
「もういいじゃないか、ノルディの記憶は消したんだしさ。花嫁修業中のぼくと出会ったことすら覚えてないよ」
保証する、と言ってデザートのシャルロットポワールを頬張るソルジャー。
「美味しいね、これ。後でハーレイにも運んであげなきゃ」
「余計な真似はしなくていい! 花嫁修業は他にやることがあるだろう? エプロンだけが全てじゃないんだ。…ぶるぅ!」
「かみお~ん♪」
トトトト…と走って行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が抱えてきたのは裁縫箱と紅白縞のトランクスです。えっと、私たち、まだデザートの最中ですけど…。トランクスなんかテーブルに置かれても困るんですけど…。しかし会長さんは私たちをチラッと眺めて冷たい声で。
「不愉快なのはぼくも同じさ、それも君たちとはケタが違う。とにかくブルーには反省しといて貰わないと…。ブルー、そのトランクスは昼間に君が洗ったヤツだ」
「ああ、あれね。ハーレイの大事な取っておきの」
素手で優しく揉み洗い、と手つきを再現しているソルジャー。洗剤を大量に放り込んだと会長さんから聞いていますが、トランクスは少し色落ちしたようです。そのトランクスを「そるじゃぁ・ぶるぅ」が両手でパッと広げてみせて。
「えっとね、ここの縫い目が綻びてるの! ブルーが針仕事を教えてあげなさい、って。縫物、やったことはある?」
「…生憎そういう経験はないね」
「それじゃ一から教えるね! いきなり繕い物をするのは無理だし、練習からだよ」
頑張って、とソルジャーの前に積み上げられたのは端切れの山。針と糸を渡されたソルジャーが縫物の練習に悪戦苦闘するのを監視するのが私たちのお役目でした。その間に会長さんが教頭先生にシャルロットポワールを届けに行って、ついでに消灯してきたようです。
「ノルディの診断が確かだったら安静にするのも明日までかな。ハーレイもだいぶ楽になったって言っていたから、花嫁修業も明日で終わりだ」
人手は十分足りている、と会長さんは不快感を露わにしていますけど、ソルジャーを叩き出すだけの能力が無いものですから口で言うのが精一杯。そして案の定、ソルジャーは…。
「縫物の練習までさせてるくせに明日までだって? たった三日で修業が終わるわけないじゃないか!」
「君はとっくに奥義を極めてしまっているよ。ノルディを引っ張り込んで浮気気分を楽しんだだろ? 言い訳しても無駄だからね。言い出したのはノルディの方かもしれないけれど、君も良からぬことをしようと企んでいたのは確かなんだ。ぼくとぶるぅを放り出したのがその証拠さ」
「ぼくは三人で試したかっただけなんだ! 現地妻候補が揃ったんだし、三人でしないと損だよね」
「「「………」」」
三人で何をしようとしたのか、およそ見当はつきました。けれど教頭先生がギックリ腰では、それは絶対無理なのでは…と私たちは思ったのですが。
「ノルディはその道のプロだしね? やり方は工夫できたと思うよ。ギックリ腰でも口は十分使えるんだし…」
パシッと青いサイオンが走り、ソルジャーが顔を顰めました。
「いたたた…。何も攻撃しなくても!」
「調子に乗ってペラペラ喋っているからさ。万年十八歳未満お断りの団体の前でそれ以上言うと許さないよ? とにかく君の修業は明日まで! それと今夜はトランクスをきっちり繕うこと!」
分かったね、と会長さんは厳しい口調。ソルジャーは仏頂面で縫物の練習を続け、どうにか縫い目が揃ってきたのは日付が変わる頃でした。幸い、明日は土曜日ですから学校の方はお休みです。トランクスの綻びを繕い終えるのが明け方になってしまったとしても、それから眠ればいいんですよね。

翌日、私が目を覚ましたのはお昼前。ゲストルームで寝たソルジャーも、リビングで雑魚寝していた会長さんやジョミー君たちも同じです。リビングに置いた土鍋で眠った「そるじゃぁ・ぶるぅ」だけが早起きをして朝昼兼用の食事を用意し、私たちが学校帰りに頼んでおいたスーパーからの宅配品を受け取って…。
「かみお~ん♪ ご飯の用意、出来てるよ!」
元気一杯の「そるじゃぁ・ぶるぅ」は教頭先生のお世話も済ませていました。サイオンを使ってパジャマを着せ替え、ちゃんと朝食も食べさせたとか。
「あのね、ハーレイにトランクスを届けに行ったら感激してたよ。ブルーが繕ったんだよ、って言っといたから」
教頭先生はソルジャーが繕ったトランクスでも嬉しくなったみたいです。会長さんが繕ってくれる可能性はゼロなのですから、そっくりさんでもいいのでしょう。押し掛け花嫁修業中のソルジャーなんかでも役立つことがあるのですねえ…。教頭先生限定ですけど。
「それでね、さっきね、電話があって」
オムライスのお皿を配りながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言いました。
「ゼルがお見舞いに来るんだって。今日は学校、お休みだから」
「…ゼルが?」
まずいな、と会長さんが顔を曇らせます。
「ゼルはブルーを知らないんだ。…ブルー、悪いけど修業は打ち切りにしてほしい。それが嫌なら来客中はゲストルームに籠ってて。君なら気配を消せるだろう?」
「まあね。気配くらいは軽く消せるし、そっちの方にしておくよ。花嫁修業は今日いっぱいは有効なんだろ?」
昨夜の押し問答の結果、ソルジャーの花嫁修業は今日の夜までと決まっていました。教頭先生が完治するまで居座るつもりで来たソルジャーは渋々同意していましたから、打ち切りなんかは聞き入れる筈もないわけで…。会長さんはソルジャーにビシッと指を突き付けると。
「いいかい、絶対にゲストルームから出ないこと! ゼルには君の存在を知らせたくない。SD体制が皆に知れたら不安を煽るだけだからね」
「分かってる。君もソルジャーである以上は守るべきものがあるんだろうし…。君の世界と仲間を脅かすような真似はしないよ、約束する」
「じゃあ、念のためにシールドを。ゲストルームに籠ってるだけでは今一つ不安な気がするから」
「了解」
こうしてソルジャーはゲストルームに籠った上でシールドを張り、隠れることになりました。ゼル先生の来訪を知らせるチャイムが鳴った時点でソルジャーは姿を消さねばならないわけです。
「だからさ、それまでは頑張らなくっちゃいけないんだよ、花嫁修業を」
なのに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が全部済ませてしまっていた、とソルジャーはとても不満そうです。身体を拭いたり髭を剃ったり、あれこれしてみたかったらしくて…。
「そういうのは君の世界のハーレイでやればいいじゃないか」
会長さんが言いましたけど、ソルジャーはプイとそっぽを向いて。
「ぼくはハーレイの下僕じゃないし? そうでなくてもハーレイときたら、口うるさくて困ってるんだ。部屋はきちんと片付けろだの、濡れた身体でベッドの上に転がるなだの…。そういうことをしてくれるためにハーレイがいるんだと思わないかい?」
部屋の片付けに風呂上がりの世話、とソルジャーは威張り返っています。あちらのキャプテンが日頃からそういう役目をしているのなら、尽くされる立場に立ってみたいと願うのも無理はないでしょう。花嫁修業に出されるわけだ、と私たちは心の底から納得しました。けれどソルジャーは修業どころかお遊び感覚、キャプテンの夢は叶わないまま終わるのでは…?

ゼル先生のバイクがやって来たのは昼食の片付けを終えて寛いでいた所でした。音で気付いた会長さんがソルジャーに隠れるようにと目配せします。
「そうか、あれがゼル御自慢のバイクなんだ?」
大きいよね、とレースのカーテン越しに食い入るように見ているソルジャー。バイクを停めたゼル先生がフルフェイスのヘルメットを取り、会長さんはソルジャーが今日も着けているエプロンの端を引っ張って…。
「いいから隠れて! じきにチャイムが…」
ピンポーン♪ とチャイムが鳴って「そるじゃぁ・ぶるぅ」が玄関の方へと駆け出しました。
「ほら、早く!」
「分かってるってば」
じゃあね、とソルジャーがニッコリ笑った次の瞬間。
「「「!!?」」」
会長さんが真っ白でフリルひらひらのエプロン姿に大変身です。ソルジャー、やってくれましたか…。置き土産っていうヤツですか?
「違うんだな、これが」
「「「は?」」」
「せっかく修業に来たっていうのに消えろというのは酷くないかい? それにゼルにも会えるんだよ? ここで消えるのはブルーの方だと思うんだよね」
えっ、ちょっと待って。エプロンの下の私服はソルジャーが選んで着ていたもの。それじゃ消えたのはソルジャーじゃなくて会長さん!?
「お、おい…」
キース君が震える声で問い掛けました。
「あんた、もしかしてソルジャーの方か? 代わりにブルーを閉じ込めたのか?」
「閉じ込めたなんて人聞きの悪い…。ブルーはそこだよ」
ソルジャーが指差す先では会長さんが必死に何か叫んでいました。シールドの中に押し込められているようです。えっと…私たち、どうすれば?
「ブルーの姿はゼルには見えない。もちろん声も聞こえない。ぼくがブルーを演じ切っていれば問題ないと思うんだけどな。…そうそう、君たちがボロを出すとマズイから…ちょっと外出してもらおうか」
「「「えぇっ!?」」」
それが私たちの最後の悲鳴。気付いた時には会長さんもろともシールドの中に閉じ込められて手も足も出ない状況でした。そこへ「そるじゃぁ・ぶるぅ」がゼル先生を連れて戻ってきて…。
「かみお~ん♪ …あれ?」
「ご苦労様、ぶるぅ。みんなはちょっと用事があってね、ぼくと二人でお願いします…って」
ソルジャーに言われた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はシールドの中の私たちに気付きましたが、会長さんが必死に送ったサインは「言われるとおりにしろ」というもの。いつも良い子の「そるじゃぁ・ぶるぅ」はコクリと頷き、会長さんのふりをしたソルジャーに従うことに…。

「何なんじゃ、ブルー、そのエプロンは?」
ゼル先生がジロジロとソルジャーを上から下まで眺め回して。
「まさかハーレイに着ろと言われたのではあるまいな? 如何にもあいつの好みなんじゃが」
「用意してあったから着たんだけれど…。この家には色々置いてあるよね」
ソルジャーの答えは間違いではありませんでした。ゼル先生は不快そうに鼻を鳴らすと。
「だから普段から言っておるんじゃ、ハーレイの家に一人で行ってはいかん、とな。エプロンは取った方がいい。でないとハーレイが図に乗りおるぞ」
「…そうなんだ…」
素直にエプロンを外すソルジャー。今の段階では別人だとバレていないようです。私たちはハラハラしながらシールドに入れられたままでソルジャーたちに続いて二階へ上がり、教頭先生の寝室へ。
「ハーレイ、腰の様子はどうじゃ? 見舞いに来たぞ」
「ああ、かなり楽になった。ノルディの見立てでは絶対安静は今日までらしい」
「なるほどのぅ。泊まり込みで看病してくれた子たちに感謝するんじゃぞ。ブルーも頑張っておるようじゃし…」
ゼル先生は教頭先生と和やかに言葉を交わし、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお茶とお菓子を運んできます。お見舞いは至極平穏に過ぎ、ソルジャーも聞き役に徹していたので時間はアッという間に経って…。
「いかん、いかん。すっかり長居をしてしもうた。…そろそろ失礼せんといかんな」
壁の時計を見たゼル先生の言葉にソルジャーが。
「うん、ハーレイもマッサージしないといけない時間だしね」
「マッサージ?」
首を傾げるゼル先生。
「ギックリ腰はマッサージしてはいかんのじゃろう? わしはそのように覚えておるが」
「ダメらしいね。でも腰以外の筋肉をマッサージして血行を良くすると効果があるってノルディが言ったし、ハーレイ直伝のマッサージをするのもいいかと思って」
「ほほう…。そう言えばお前がハーレイをエステティシャンにしたんじゃったな。ハーレイのマッサージはなかなか気持ちのいいもんじゃて」
「そうだろう? だから今からマッサージ」
ソルジャーは手際よくアロマオイルやパウダーを並べました。
「ギックリ腰に効く秘伝の薬を塗ってるんだけど、これがまた酷い匂いでねえ…。それを消すのにアロマオイルを使うんだよ。マッサージのやり方は普段のエステとちょっと違って、ハーレイが独自に編み出したらしい」
「ほう? それはまた…。後学のために見て行こうかのう」
椅子に座り直したゼル先生。私たちはシールドの中で上を下への大騒ぎでした。教頭先生がソルジャーにマッサージを教えただなんて聞いてませんが? それに教頭先生、マッサージの話が出てから不自然に黙っているんですけど?
『そりゃハーレイは知らないさ。ついでに口も利けないように細工中。マッサージはノルディに習ったんだ』
飛び込んで来たソルジャーの思念に私たちは肝を潰しました。エロドクターに習ったマッサージ? それってまさか、私たちが締め出しを食らった時に…? では、エロドクターがいい香りをさせていたのは…。
『うん、マッサージに使ったオイルの香り。このマッサージは特別なんだ。ノルディは熱くなってくれたし、ぼくもたまらなくなっちゃって…。それであっちの世界に帰ってハーレイとベッドで楽しんだわけ』
「「「えぇっ!?」」」
外には聞こえない私たちの声を綺麗に無視して、ソルジャーは教頭先生のパジャマの前を大きく開くと…。
「最初は滑りを良くするためにパウダーを使っていくんだよ。まずは胸から、こんな風に」
両手を滑らせてゆくソルジャーの姿にゼル先生が大きく目をむき、「いかん!」と大声で怒鳴りました。
「ブルー、お前は騙されておる! それは…そのマッサージは間違っておるぞ!」
「え? やり方が違うのかい? でもハーレイはこんな風に…って」
「違うんじゃ! それはな…、それは男を気持ちよくする性感マッサージというヤツなんじゃあ!」
ゼル先生はソルジャーを教頭先生から引き離すなり、教頭先生の腰を思い切り蹴飛ばしたからたまりません。グキッと不吉な音が響いて呻き声が…。教頭先生、とんだ濡れ衣を着たものです。『せいかんマッサージ』とやらは初耳ですけど、精悍とでも書くのかな?

「ええい、ハーレイ、この痴れ者めが!」
ドスドスドス…と足音を立ててゼル先生は出てゆきました。
「ブルーを騙して性感マッサージをさせておったとは不届きな…。ギックリ腰が聞いて呆れる。いいか、病欠は明日までじゃぞ! それ以後はサボリと見做しておくよう、事務局の方に言っておく。せいぜい急いで治すんじゃな!」
捨て台詞を残してゼル先生のバイクが走り去り、私たちを捕えたシールドも解けて…。
「そうか、あのマッサージにはそういう名前があったのか…」
ノルディはそこまで言わなかった、とソルジャーが笑みを浮かべています。
「花嫁修業には必須ですよ、と言ってた理由がよく分かったよ。ちょっとした悪戯だったけれども、思わぬ収穫だったよね。で、ハーレイのギックリ腰は悪化しちゃったみたいだけども…。花嫁修業を期間延長してもいい?」
「却下!」
即座に切り捨てる会長さん。
「君のせいで悪化したんだろう? ノルディとあんないかがわしいのを練習したとは思わなかった! ノルディの記憶は消去したって言っていたけど、ゼルの記憶も消しといてもらう。でないと…」
ハーレイが気の毒すぎる、と会長さんは頭を抱えています。そりゃあ…怪しげなマッサージを会長さんに教えたとなれば教頭先生の評価が地に落ちますよね。教頭先生はゼル先生に蹴られた腰の痛みでそれどころではないようですが…。
「教頭先生、痛みますか?」
キース君が抱き枕の位置をずらして教頭先生の顔を覗き込んでいます。シロエ君はアルトちゃん秘伝の塗り薬の瓶を手にしてスタンバイ中。ソルジャーはゼル先生の記憶の消去を約束させられ、頬を膨らませて怒っていました。
「せっかく花嫁修業に来たというのに追い出すのかい? まだまだ習いたいことが沢山あるのに」
「マッサージを習えば十分だよ! 君は花嫁修業に向いてないのが良く分かった!」
所詮ままごと止まりなのだ、と会長さんも負けていません。二人の不毛な言い争いに教頭先生の蚊の鳴くような声がかぶさって…。
「それでも私はブルーを嫁に欲しいのだが…」
痛みを堪えて紡いだ言葉は二人に届きませんでした。ぎゃんぎゃんと詰り合っている会長さんとソルジャーは教頭先生のギックリ腰より我が身が優先みたいです。どちらをお嫁に貰ったとしても不幸になりそうな気がするのですが、それでもお嫁に欲しいのでしょうか? キャプテンが期待した花嫁修業もどうやら空振りに終わりそう。教頭先生、会長さんとの結婚生活を夢見ているなら腰は早めに治しましょうね~!




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