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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

分けたい幸せ・第1話

シャングリラ学園に中間試験の季節がやって来ました。私たちは慣れっこですけど、1年A組のクラスメイトには初の経験。教室の一番後ろに机が増えて会長さんが登場し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議パワーだと解説しながら全員の意識の下に試験問題の正解を流し込むというお決まりのパターンの展開です。
「なんか試験って楽勝だった?」
「いつもの抜き打ちテストの方が難しいような気がするぜ」
不思議パワーは本当に凄い、とクラスメイトは大感激。しかも満点が約束されているとあって、会長さんの机の上には「そるじゃぁ・ぶるぅ」への貢物が山盛りに。試験最終日には貢物は抱え切れない程の量になったのですが、それが一瞬の内に瞬間移動で消え失せたのでクラスメイトはまたまたビックリ。
「か、会長…。お菓子とか何処へ行ったんですか?」
「ああ、ぶるぅが貰っていったんだよ。これも不思議パワーの内の一つさ。ありがとう、って伝えてくれって」
会長さんがウインクすると感謝の拍手が沸き起こりました。最終日の試験も1年A組は絶好調! 誰もが明るい笑顔です。終礼が済むとグレイブ先生の注意も聞かずに打ち上げをしにダッシュで下校。教室に残された私たちも「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に向かって移動しながら。
「今日の打ち上げ、やっぱり焼肉?」
ジョミー君の質問に会長さんがコクリと頷いて。
「あそこのお店は美味しいしね。君たちもお気に入りだろう? この間もみんなで出掛けたし」
「うん。せっかく金券を使うんだから、あそこがいいって思ったんだよ」
金券というのはGWにシャングリラ号で貰ったヤツです。会長さんを筆頭とするソルジャー・チームと教頭先生たちの長老チームの二手に分かれて三日間争い、勝利を収めて手に入れたもの。ソルジャーの名前で発行されているのですけど、地球に戻って手続きを取れば色々な場所で使えるのでした。
「あの金券は便利だろ? 大きな声では言えないけどね」
シャングリラ号の存在自体が極秘だから、と会長さん。えっ、その名前を校内で出して大丈夫かって? もう生徒会室まで来ちゃってますから問題なし。私たちは壁の紋章に触れて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋の中へと移動しました。
「かみお~ん♪ 試験、お疲れさま!」
元気一杯の声が迎えてくれて、すぐに出てくるウェルカム・ドリンク。みんなの好みに合わせた飲み物が置かれ、それから焼き立ての手作りピザが数種類。
「やっぱりお腹が空いてるでしょ? 焼肉の前にも食べなくっちゃね」
「「「いっただっきまーす!」」」
私たちは早速食べ始め、アッと言う間にピザのお皿は綺麗に空に。その後は…。
「じゃあ、出掛けようか」
立ち上がったのは会長さん。でも行き先は焼肉店でもバス停でもなく、中庭の向こうの本館で…。これも定期試験のお約束の一つでした。ゾロゾロと本館に入り、目指すは教頭室の重厚な扉。会長さんが軽くノックして。
「失礼します」
ガチャリと扉を開けると教頭先生の穏やかな笑顔が待っています。
「来たか。今日も多めに入れておいたぞ」
教頭先生は机の引き出しを開けて立派な熨斗袋を会長さんに手渡すと。
「沢山食べてくるといい。…変な遠慮は要らないからな」
「…遠慮?」
会長さんが首を傾げました。
「遠慮したことなんてあったっけ? いつも楽しくやっているけど…」
「そうか、それなら別にいいんだ。私が好きでしていることだし、余計な気遣いは無用だぞ」
「………? 言ってる意味が分からないけど、気遣い無用は嬉しいね。じゃあ、遠慮なく貰って行くよ」
軽く手を振る会長さんに「気をつけてな」と目を細めている教頭先生。ずっと前には打ち上げパーティーの度に会長さんがあの手この手で悪戯を仕掛けて費用を毟っていたのですけど、最近は至極平和です。熨斗袋を貰ってそれでおしまい。騒動に巻き込まれずに済むというのはいいことですよね。

焼肉店で食べて騒いで、数日経つと1年A組の一番後ろに再び会長さんの机が出現。今度は「そるじゃぁ・ぶるぅ」も来ています。ということは…。
「諸君、おはよう」
靴音も高く入ってきたグレイブ先生が出席を取り、ツイと眼鏡を押し上げて。
「やはりブルーが来ているな。…諸君は全く知らないだろうが、ブルーは無類のお祭り好きだ。試験以外で来ている時はイベントがあると思っておけば間違いない」
「「「イベント?」」」
クラスメイトたちは怪訝な顔。グレイブ先生はプリントを配り始めました。
「健康診断のお知らせだ。ただし、ブルーの目当ては健康診断などではない。…その後に球技大会がある」
球技大会は来週だ、とグレイブ先生。
「我が校の球技大会はハードなのでな、健康診断は欠かせない。ブルーは球技大会に参加したくてお知らせを貰いに来ているわけだ」
「かみお~ん♪ ぼくも忘れないでね!」
ぼくだって参加するんだから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が声を張り上げ、グレイブ先生は「分かっている」と不機嫌そうに。
「ぶるぅは女子の部に参加だったな。今年も頑張るつもりだろうが、他の諸君はほどほどにしておきたまえ。私は一位が好きだと常に言っているが、球技大会についてはその限りではない」
一位にこだわる必要は無い、とグレイブ先生が言った途端に「質問です!」と手を上げたのは会長さん。
「ブルーか…。なんだ?」
「念のために確認するけど、君は一位が好きだよね? この間の中間試験もA組が学年一位を獲得したから大喜びだった筈だろう? 球技大会だって立派な競技だ。どうして一位を目指さないのかな?」
会長さんの指摘にクラスメイトがざわめいています。特別生の私たちは理由を知っているのですけど、入学して間もない1年生がそんなことを知る筈も無く…。グレイブ先生は「静粛に!」と注意してから。
「学生の本分は勉強だ。球技大会は体力を激しく消耗させる。脳味噌に栄養が回らなくなって勉学に支障が出ると困るのはクラスの諸君ではないかと思うのだが?」
なるほど、グレイブ先生、正論で真っ向勝負ですか! けれど会長さんは平然と。
「その件だったら特に問題ないだろう? ぼくとぶるぅがいるんだよ。みんなを消耗させちゃう前に簡単に勝ちを収められるし、心配無用。要らないと言っても一位は頂く。…それも学園一位の座をね」
おおっ、とどよめくクラスメイトたち。学園一位とくれば無理もないでしょう。上級生のクラス相手に勝つというのは普通だったらまず不可能です。会長さんはニッコリ笑って。
「グレイブは話す気が無いようだから、代わりにぼくが説明しよう。学園一位には副賞がある。どんな中身かは当日までに耳にすることもあるかもね。とても楽しいイベントだから期待しててよ。ついでに、ぼくとぶるぅが仲間入りをする件もよろしく」
「「「はーい!」」」
教室の主役は完全に会長さんでした。グレイブ先生は苦虫を噛み潰したような顔つきで健康診断に関する注意を行い、ブツブツと口の中で文句を言いつつ朝のホームルームを終える羽目に。学園一位の副賞が何かはその日の内に知れ渡ってしまい、誰もが球技大会に燃えています。
「学園一位を獲得したら御礼参りが出来るんだってな」
「聞いた、聞いた! クラス担任の他にもう一人、先生を指名できるって」
そう、御礼参りとは文字通りの御礼参りでした。シャングリラ学園の球技大会はドッジボールの勝ち抜き戦。学園一位になると先生チームと戦う権利が貰えるのですが、先生チームは内野が二人で外野が一人。内野に入った先生相手にボールをぶつけまくれるというのが御礼参りの名の由来です。
「会長、学園一位を取れるって言ってたもんなあ…。腕が鳴るぜ」
「俺たちだって頑張らないとな!」
自主練しようぜ、と盛り上がっている男子もいます。火付け役になった会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は朝のホームルームが終わるとサボリとばかりに消えてしまってそれっきりですけど、二人のインパクトは思い切り大。健康診断の日に登場したら貢物の山が出来上がるかも…?

こうして球技大会は開幕前から耳目を集め、健康診断も話題の的に。女子の部に入る「そるじゃぁ・ぶるぅ」が女子と一緒に健康診断を受けるというだけでもクラスメイトは興味津々だったのですが、会長さんの方は更に色々と驚きの連続だったからです。
「えっと…。会長は体操服じゃないんですか?」
男子の一人が尋ねたのは健康診断に出掛ける前。体操服で受診するよう言われていたのに、会長さんだけは病院で出てくるような水色の検査服を着ています。紐で結ぶだけのバスローブみたいな形のヤツで、いつも健康診断にはコレなのですけど、今のクラスメイトたちは初めて目にするわけでしたっけ…。
「ああ、これかい? ぼくは別枠扱いだからね、検査用の服も別枠らしいよ」
「「「別枠?」」」
「うん。このクラスの健康診断が全部終わってから呼ばれるんじゃないかな、多分、今日も」
会長さんの予言は的中しました。健康診断はまずは女子から。保健室では、まりぃ先生が待ち構えていて…。
「あらあ、ぶるぅちゃん、いらっしゃい!」
待ってたのよ、と大喜びのまりぃ先生。まりぃ先生の趣味は男子生徒へのセクハラまがいの接触です。その一方で幼児体型の「そるじゃぁ・ぶるぅ」を触りまくるのも大好きらしく、いつも持ち場を放り出しては保健室の奥へと連れ込むのでした。そこにあるのは立派なベッドとバスルームを備えた特別室。
「ぶるぅちゃん、今日もセクハラしてあげるわね」
「わーい! せくはら大好き!」
歓声を上げた「そるじゃぁ・ぶるぅ」がまりぃ先生と一緒に向かった先はベッドではなくバスルーム。まりぃ先生とお風呂に入る「そるじゃぁ・ぶるぅ」がピカピカのホカホカになって戻って来るまでベッドルームで待っているのがスウェナちゃんと私のお役目でした。え、健康診断はどうなっているのかって? それは…。
「やっぱりヒルマン先生なのねえ…」
お決まりだけど、とスウェナちゃん。まりぃ先生はセクハラ・タイムに突入する前に内線でヒルマン先生を呼び出し、健康診断の代役を頼むのです。ヒルマン先生は医師免許も持っておいでですから何の問題もありません。ただ、毎回それをやらかしていても大丈夫なのはコネ…なのかな?
「1年A組の健康診断って言うと消えちゃうものねえ、まりぃ先生…。言い訳はしてるけど、毎回毎回、生徒が気分が悪くなりました…って無理があるわよ」
それも毎回同じ生徒だ、とスウェナちゃんが溜息をついています。そう、まりぃ先生はスウェナちゃんと私と「そるじゃぁ・ぶるぅ」を気分の悪い生徒に仕立てて、付き添いが必要だからと特別室へ引っ込むのが常。しかも引き籠りは一度では済まず、お次は会長さんを特別室に連れ込んで…。
「ヒルマン先生も本当に人がいいんだから…。絶対気付いていると思うの、ホントは遊んでいるだけだ…って」
元ジャーナリスト志望のカンよ、とスウェナちゃんが保健室に続く扉を見詰めました。
「でもって、まりぃ先生が野放しなのは理事長の親戚だからよ、きっと。何をやっても許されるんだわ」
会長さんの検査服だって、とスウェナちゃんは鋭い指摘。あの検査服は会長さんの担任である教頭先生の所に届けられると聞いていますし、まりぃ先生が一枚噛んでいるのは確実でしょう。それより何より、この部屋が…。
「そうよね、まりぃ先生が作らせたのよねえ、特別室って。…着任したての保健室の先生なんかに出来ることではないわね、普通…」
コネって怖い、とスウェナちゃんと私はブルッと身体を震わせました。まりぃ先生、そんな会話になっていたとは全く知らずに「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れてバスルームから出てくると。
「はい、今日のセクハラタイムはおしまい。ぶるぅちゃん、気持ち良かったかしら?」
「うんっ!」
「先生もよ。ぷにぷにのほやほや、最高だわぁ。次は生徒会長を呼んできてね」
あの子は虚弱体質だからキッチリ健康診断をしておかないと、と言われましても…。先生、それって本当ですか? 喉まで出かかった言葉をグッと飲み込み、スウェナちゃんと私は「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れて1年A組に戻りました。健康診断はヒルマン先生の代打でサクサクと進んだらしくて受けていないのは会長さんだけ。
「ぼくの番かい? じゃあ、行ってくるよ」
戻ってくる予定は無いからね、と会長さんが出て行ってしまうと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も山のように貰った貢物を抱えて帰ってしまい、残されたクラスメイトたちはザワザワと。
「まりぃ先生、生徒会長だけは特別扱い?」
「そうらしいぜ。俺が先輩に聞いた話じゃ、保健室の奥に特別室っていうのがあってさ…」
「え、保健室の先生と生徒会長のイ・ケ・ナ・イ時間? マジで?」
あちゃ~、長年やってる間にしっかり噂になっていますよ! イケナイ時間は存在します、と暴露したくなるじゃありませんか。実態は会長さんがサイオニック・ドリームでまりぃ先生に大人の時間な夢を見せてるだけなんですけど……その間に特別室のベッドで昼寝をしているだけなんですけど、イケナイ時間には違いありません。
だって堂々とサボリですから! とはいえ、会長さん相手には言うだけ無駄かな…。

球技大会の日は1年A組、朝も早くから絶好調。私たちが登校してみると自主練習を終えたクラスメイトたちが次々にグラウンドから戻ってきます。
「あーあ、もうグラウンドは使用禁止だってよ」
「仕方ねえよ、コートの準備があるんだろ。ギリギリまで使わせてくれたんだしさ、良しとしようぜ」
学園一位を取ってやる、と燃え上がっている所へ会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がやって来ました。
「かみお~ん♪」
「やあ、おはよう。みんなホントに熱心だねえ。そんなに勝ちたい?」
「「「はいっ!」」」
「当然、御礼参りが目当てだろうね。…グレイブだろ? あれだけ派手に抜き打ちテストを繰り返していれば恨まれるか…」
自業自得、と会長さんはニヤリと笑って。
「もう一人指名出来るっていう権利なんだけど…。その権利、ぼくに譲ってくれるかな?」
あーあ、今年もこうですか…。クラスメイトたちは揃って快諾、教頭先生に御礼参りフラグが立ったわけで。朝のホームルームに現れたグレイブ先生も覚悟を決めているようです。
「諸君、おはよう。私から言うことは何も無い。…全力を尽くして戦うように」
「「「はーい!!!」」」
威勢よく返事した1年A組、グラウンドに出ての第一戦に見事に勝利。これは男子の部でしたけども、応援に行った女子生徒たちも手に汗握る名勝負でした。なにしろ相手チームは一つもアウトを取ることが出来なかったのですから! シャングリラ学園の球技大会のドッジボールは「どちらかの内野が空になるまで」戦うルールなんですけどねえ…。
「生徒会長、凄いよな!」
「おう。俺たちがカバーし切れなかった所を一人で走り回ってたもんな」
まるで分身の術だった、と感動している男子たち。それは応援していた女子の方でも同様で…。
「さっきあっちに居たと思ったら、アッと言う間に移動してるなんて…。よっぽど足が速いのよね」
「運動神経が半端じゃないのよ。でも……大丈夫かしら、ちょっと心配」
会長さんは試合が終わると救護テントに行ってしまって簡易ベッドで休憩中です。虚弱体質だと本人がアピールしていただけに、心配する女子も数多く…。でも、それ、問題ないですから! あの程度のことでダウンするほどヤワな人ではないですから! 分身の術かと見まごうほどの鮮やかなプレイは無論、サイオン。
「ブルー、今年も頑張るよねえ…」
ジョミー君が救護テントに視線を向ければ、キース君が。
「目指すは御礼参りだぜ? それにあいつは息をするようにサイオンを扱ってやがるからな…。俺たちが同じことをやろうとしたらヘトヘトだろうが、多分、全く消耗してない」
救護テントはパフォーマンスだ、というキース君の言葉を待つまでもなく、テントからシド先生が飛び出してゆくのが見えました。そして「そるじゃぁ・ぶるぅ」が羨ましそうに。
「いいなぁ…。ブルー、疲れてお腹がペコペコだからハンバーガーを食べるんだって! ぼくも試合が済んだらシドに頼みに行こうっと♪」
走り回るとお腹が減るもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。会長さんが本当に消耗したのだったらハンバーガーなどと我儘を言える余裕は無いでしょう。お使いに走って行ったシド先生の次の任務は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の注文でハンバーガーを買うことなのか、はたまた会長さんの追加注文か…。さあ、次は女子の部、一戦目!
「かみお~ん♪ 任せといてね!」
自分の前のボールだけ見てて、と胸を張っていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は小さな身体で広いコートを縦横無尽に走り抜けます。ボールを素早く受け止めては投げ、飛び上がって掴み取っては投げ…。会長さん以上に目立つ姿は相手チームには脅威だったでしょう。
「やったー!」
最後の一人をアウトにするなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」は救護テントにまっしぐら。クラスメイトは会長さんとの作戦会議だと思っていますが、ハンバーガーが欲しいだけなんですよね。シド先生、お使い、ご苦労様です…。

ハンバーガーやお菓子やケーキで英気を養いまくった会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は素晴らしい戦果を上げました。1年A組、負け知らず! 学年一位を勝ち取った後は2年、3年の一位のチームと男女別に対戦し、共に学園一位を獲得。表彰式には会長さんが代表で出て、そこで副賞の発表が。
「シャングリラ学園名物、御礼参りの時間だよ!」
ブラウ先生がマイクを握って。
「1年A組、どの先生を指名する?」
会長さんがスッと指差したのはジャージ姿の教頭先生。
「教頭先生を指名させて頂きます!」
ワッと湧き立つ全校生徒。2年生と3年生は既にパターンを知っていますし、1年生にも聞いたことのある生徒が多い筈。知らなかった生徒は生徒で、体格のいい教頭先生に御礼参りと聞いて興奮気味です。そんな中でブラウ先生が1年A組にコートに入るように指示し、先生チームもコートへと。外野はお馴染みシド先生。
「試合開始!」
ホイッスルが鳴り、会長さんが教頭先生の頭めがけて思い切りボールを投げ付けました。御礼参りではアウトを取られない頭を狙うのがお約束です。ただしミスして身体に当たっても先生チームはアウトにはならず、ひたすらコートを逃げ回るのみ。私たちのクラスの方は普通にアウトになりますが…。
「「「頑張れー!!!」」」
全校生徒の応援を受けて1年A組は先生チームにボールをボコボコ。日頃から抜き打ちテストや実力テストで恨まれているグレイブ先生にヒットした時は拍手まで起こる有様です。教頭先生は恨みを買ってはいないのですけど、会長さんが面白がって集中的に狙っているため、クラスメイトからも攻撃されて。
「試合終了!」
制限時間の終わりを告げるホイッスルが鳴った時にはグレイブ先生も教頭先生もボロボロでした。すぐに救護テントから顔を冷やすための冷却シートや氷嚢が運ばれ、スポーツドリンクも差し入れられます。そんな先生方を見物しようと生徒たちが集まり始め、私たちも野次馬根性丸出しで近付いて行ったのですが。
「…ブルーか」
教頭先生が少し腫れた頬を冷やしながら会長さんに微笑みかけたからビックリです。片想い歴三百年以上、散々な目に遭わされ続けてそれでも諦め切れなくて…。御礼参りでボコボコにされても会長さんを好きな気持ちに変わりはないというアピールの微笑みなんでしょうねえ。…しかし。
「ありがとう、ブルー」
「「「は?」」」
なんのこっちゃ、と会長さんも私たちも首を傾げて怪訝な顔。ありがとう…って、いったい何が? 御礼参りで指名してくれて感謝しているとか、そういう意味? 中身こそ凄まじい御礼参りですが、会長さんとの貴重な触れ合いタイムには違いないですし…。
「お前のお蔭で頑張れた。…本当にありがとう」
「「「???」」」
今度こそ意味がサッパリでした。会長さんはポカンと口を開け、それから「うーん…」と額を押さえて。
「ハーレイ、打ちどころでも悪かった?」
「いや。私は至って正気だが…。感謝の気持ちを伝えておきたいと思っただけだ」
気にするな、と教頭先生は穏やかな笑みを浮かべています。やはり御礼参りに指名されたことへの感謝でしょうか? 会長さんの関心が他の先生に移っちゃったら触れ合いタイムは無しですもんね。
『…教頭先生ってマゾなのかな?』
ジョミー君の思念波が届き、クスクス笑い出す私たち。
『否定し切れん部分はあるな』
同意の思念波はキース君。会長さんからも『そうだよねえ』と肯定の思念が。顔を冷やしている教頭先生には聞こえていないみたいです。私たちのサイオンの扱いもその程度には上達したわけで…。えっ、なんですって?
『違うよ、ぼくがブロックしてるんだ』
ハーレイたちに聞こえちゃったら大変だしね、と会長さんに言われて私たちはガックリと肩を落としました。サイオンはまだまだヒヨコのレベルでしたか…。先生たちと御礼参り以外で互角に渡り合えるようになるのは何年くらい先なんでしょうねえ?

こうして球技大会が幕を閉じ、翌日の朝のホームルームに登場したグレイブ先生の顔は元通り。御礼参りは「恨みっこなし」が鉄則ですから話が蒸し返されることもなく、平和な一日の始まりです。私たちはのんびり授業を受けて、学食でランチを食べて、午後の授業が済むと終礼。放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋が待ってますからワクワクです。ところが今日はいつもと違いました。
「そこの特別生、七人組!」
グレイブ先生の声でハッと前を見る私たち。な、何かマズイことでもやったでしょうか? 頭の中は今日のおやつのことで一杯になっていましたけれど、それが顔にも出てたとか…?
「何を慌てているのかな? 諸君にとっては終礼も退屈なほどワンパターンだと分かってはいるが、やはり心は此処に在らず…か。まあいい、呼ばれたことには気付いたのだから良しとしておく」
「「「………」」」
この展開はマズイです。何か重要なお知らせでも聞き逃してしまったのかな? …と、グレイブ先生が唇を笑みの形に吊り上げて。
「安心したまえ、諸君へのお知らせはこれからだ。…教頭先生から御伝言を預かっている」
「「「えっ?」」」
教頭先生からの伝言ですって? 会長さんに何か伝えることでも…? なにしろ「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋は教師は立ち入り禁止ですし…って、ええっ?
「以上だ。分かったな?」
グレイブ先生は一方的に伝言を告げると終礼を終え、さっさと立ち去ってしまいました。訊き返す暇も与えずに…です。
「な、なんだったの? あの伝言って…」
分かんないよ、とジョミー君が問えば、サム君が。
「俺にだって分かんねえよ! キース、お前は心当たりは?」
「…無い…。俺やシロエやマツカというなら分からないでもないんだが…。柔道部の方の用事だということもあるしな」
だが分からん、とキース君も頭を抱えています。教頭先生からの伝言は私たち全員宛でした。七人揃ってどうしろと? 会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」もこの伝言を聞いたのでしょうか? グレイブ先生、質問の時間を残しておいて欲しかったです~!



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