シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
男子全員にバニーちゃんの格好をさせてコンテストだなどと恐ろしい話を始めたドクターとソルジャーは大乗り気でした。衣装を誂えるのに必要なデータはドクターの手元にあるのだそうです。シャングリラ学園特別生の健康診断の結果はドクターに届けられる決まりだとか…。
「皆さん、いずれは私の所で健康診断を受けることになるわけですから、データは早めに揃えておくのがいいのですよ。…キースのサイオン・バーストのような不測の事態も起こり得ますし」
特に今回はいいデータが…とドクターはパソコンのキーを叩いて。
「まりぃが素晴らしい仕事をしましたからね。細かいデータが入っています。これで身体にぴったりフィットするバニーちゃんの衣装が作れますよ」
「「「………」」」
まりぃ先生のデータというのは水泳大会の人魚リレーで使用するためにセクハラまがいのことをしてまでキッチリ測った男子のサイズ。それを転用されるとは…。全員の顔が青ざめる中、ドクターはニヤニヤ笑っています。
「どうです、バニーちゃんコンテストは? キースの診断結果が出てくる三日後に実施しましょうか? 皆さんお揃いでお越しでしょうし、何か賞品も用意して…」
「断る!」
遮ったのは会長さんの声でした。
「…ぼくが割り込めないと思って話をどんどん大きくしちゃって…。帰るよ、ぶるぅ!」
正気を取り戻した会長さんの決断は早く、青いサイオンが迸りかけるのをソルジャーがパシッと素早く封じてドクターの肩をポンと叩くと。
「ほら、早くしないと逃げられちゃうよ? 君には切り札があると思うんだけどな、コンテストを実施するための」
思念で密談を始めた二人でしたが、ドクターが大きく頷いて。
「なるほど、流石ソルジャーともなると状況を読むのに長けておられる。…これは最高の切り札ですよ。ブルー、あなたも文句は言えないでしょう」
「なんだって?」
不快そうな会長さんに、エロドクターは淡々と。
「私に逆らうと何が起こるかという話です。今回の健康診断の結果がキースの未来を左右するとか…。私がドクター・ストップをかければ道場とやらに入れない。この道場で修行を終えた後でなければ、住職の位を得るのに必須とされる道場入りの許可が下りないそうですね」
「どうして君がそんなことを…」
言葉に詰まる会長さん。キース君の修行に関する細かい規定をエロドクターが知っていたとは驚きです。学校側が説明したなら仕方ないとも思えるのですが、会長さんの表情からしてその可能性はなさそうで…。ドクターはソルジャーと視線を交わして得意げな笑みを浮かべました。
「先ほど教えて貰ったのですよ、こちらのブルーは色々ご存じですからね。…で、どうします? 道場入りは認められないと診断書を提出しましょうか? さっき診察した感じから言えば問題なさそうでしたけれども」
「……そんな……」
無茶な、と叫んだのはキース君でした。
「やめてくれ! ここで道場に入れなかったら俺の未来はどうなるんだ!」
「おや。まだ挽回のチャンスはあると聞きましたがねえ…。来年の春にも修行道場があるのでしょう? そちらの方でも中身は同じじゃないですか。…もっとも今回がドクター・ストップとなれば、次回も事前に健康診断が必要ですがね」
「その時も妨害するっていうのか?」
「さあ、どうでしょう?」
キース君のカルテをこれ見よがしに捲るドクター。なんとも怪しい雲行きです。でも…。確かデータを改竄すれば懲戒処分と聞いたような…?
「ノルディ」
会長さんが厳しい声音で割って入りました。
「データの改竄は認められない。故意にドクター・ストップをかければ懲戒処分だ。…ぼくの主治医の座を失いたいのか? ぼくはその方が嬉しいが」
「おや、心配して下さるのですか?」
感激です、と喜色満面のエロドクター。
「私はヘマはしませんよ。バレる心配はありませんとも、最強の味方がついてますから。…そうでしょう、ブルー?」
「もちろん」
応じたのは無論、ソルジャーでした。
「データ改竄ならお手の物さ。こっちの世界のシステムなんてチョロイものだし、書き換えたデータを元に戻すのはブルーの腕では無理だしね。…つまりノルディの要求に応じなければキースの未来が閉ざされるわけ」
さあ、どうする? と微笑むソルジャー。その隣ではエロドクターが好色そうな目でキース君たちを見ています。バニーちゃんコンテストを承諾するか、拒否してキース君の未来を閉ざすか。改めて相談するまでもなく答えは最初から決まっていました。…キース君を見捨てられるわけがないのですから。
「大変な事になっちゃった…」
会長さんが呟いたのはアルテメシア公園に近いマンションの最上階でした。エロドクターの診療所から会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の力で瞬間移動してきたのです。バニーちゃんコンテストは三日後に実施と決まってしまい、覆す術はありません。
「すまん、何もかも俺のせいなんだ」
キース君はひたすら謝り、ジョミー君たちは三日後の自分を想像したくない模様。なんと言ってもバニーちゃんです。
「…キースだけだと思ったのになあ…」
あんな格好、とジョミー君が言い、サム君が。
「だよなぁ…。俺なんかお笑い要員決定なんだぜ? まあ似合うわけないけどな」
「でもキース先輩を助けるためです。見た目の方は諦めないと」
誰がやってもお笑いです、とシロエ君。
「それに相手はドクターですよ? コンテスト当日に逃げたりしたらキース先輩のデータを改竄した上、次のチャンスの春の道場ではもっと無茶苦茶な要求をするに決まっています」
そうでした。ドクター・ストップを一度かけたら二度目も簡単、その撤回の見返りとして突き付けるモノもエスカレートするのは明らかで…。
「いいですか? 会長の時はデートなんて利子がついたんです。キース先輩みたいに人生がかかっているとなったら、いったい何を言い出すか…。バニーちゃんで手を打ちましょう」
それが一番賢明です、とシロエ君。会長さんの利子というのはエロドクターに一晩付き合わされるのを延ばし延ばしにしていた末に強制されたデートでした。私たちが派手に妨害しちゃいましたし、コンテストにはそれの恨みも混じっているかも…。
「諸悪の根源はぼくってことになるのかな?」
会長さんが深い溜息をつきました。
「最初にキースをバニーちゃんにしたのはぼくだし、ノルディがキースに悪戯したのも日頃の恨みを返すためかもしれないし…。みんなもノルディの恨みを買っているよね、ぼくのせいで」
「そんなこと!」
即座に否定したのはサム君。
「俺たちがブルーを守ってきたから仕返しにコンテストを持ち出したって? それはドクターの逆恨みだろ、ブルーに責任があるわけねえよ! なあ、みんな?」
「うん。…あの格好には責任あるかもしれないけどさ」
ドクターにヒントを与えちゃったし、とジョミー君が応じます。
「キースがさっき着せられたアレ、ブルーが用意してたんだよね? あ、ブルーってブルーのことじゃなくって、あっちの方の…。ブルーそっくりの」
「そっくりのぼくがどうしたって?」
「「「うわっ!!!」」」
いきなり現れた会長さんのそっくりさんに全員がウッと仰け反りました。ソルジャーは悠々とリビングを横切り、ソファにストンと腰掛けると。
「ノルディの伝言を伝えに来たよ。コンテストで一位を取った人にはトロフィーの授与と副賞だってさ」
「…トロフィーだと?」
機嫌の悪さを隠そうともせずソルジャーを睨むキース君。
「あんたがドクターに余計なことを吹き込んだせいで大惨事になってしまったんだぞ? 伝言どころじゃないだろうが!」
「そうかな? トロフィーはとても大事じゃないかと思うんだけど…。副賞もね。ついでに言えば、ぼくも一枚噛むことになった。誰が一位を手にするのかな?」
「「「えぇっ!?」」」
誰もがビックリ仰天でした。ソルジャーが一枚噛むってことは出場するって意味ですよね? コンテストの主催者が会長さんに惚れ込んでいるドクターなだけに、瓜二つのソルジャーが出場すれば一位は当然ソルジャーの手に…。
「…ふふ、やっぱりぼくが一位だと思う? ちなみに副賞はキースの未来。検査結果を決める権利が一位の人についてくるのさ。そしてトロフィーはノルディの人形」
「「「人形?」」」
「そう、ジルナイトの人形だよ。ブルーとぶるぅが徹夜で探してた人形だけど、今はシャングリラの青の間にある。…もちろんぼくの世界の方の」
楽しみだねえ、とソルジャーは唇に笑みを浮かべて。
「君たちが騒いでる間にぼくのシャングリラに飛ばしたんだ。元々ぼくが作ったヤツだし、ぼくが貰っても問題ないだろ? ブルーは全然使っていないし、ぼくが活用しようかと…。こっちのノルディは積極的で素敵だよね」
さっきもたっぷり口説かれちゃった、と熱い吐息を零すソルジャー。こんな人が一位を取ってドクター人形をゲットしちゃったり、キース君の未来を握ったりしたら大変なことになるのでは…? と、バンッ! とテーブルに両手をついて会長さんが立ち上がりました。
「ぼくが出る!!!」
「「「え?」」」
「そのコンテスト、ぼくが出る! ブルーを一位にさせるわけにはいかないし!」
「…なるほどね。取り消しはもう効かないよ?」
念を押すソルジャーに会長さんはキッと柳眉を吊り上げ、強い口調で。
「出ると言ったら絶対に出る! ノルディの人形もキースの未来も君なんかには渡さない!」
「了解。それじゃノルディに伝えておくよ、例の衣装をブルーの分も用意して…ってね。三日後にノルディの所で会おう」
またね、と言ったソルジャーは制服からソルジャーの正装にパッと着替えてドクターの家へ。あの服装に戻ったからには自分の世界へ帰るのでしょうが、コンテストはどうなってしまうのでしょう? ソルジャーと会長さんのトップ争いだなんて予想外ですよ~!
あれよあれよと言う間に決まってしまったコンテスト。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が徹夜明けだったということもあって、その日はソルジャーが帰った直後に解散となってしまいました。翌日はそれが悪夢でなかったことの確認で終わり、次の日はもう金曜日。コンテストが明日に迫っています。
「あと一日でバニーちゃんかぁ…」
どうなるんだろ、とジョミー君が呟き、キース君が。
「こんなことになって本当にすまん。おまけにブルーまで巻き込んじまって…。サイオニック・ドリームの恩があるのに、恩返しどころか大変なことに…」
「いいんだよ、キース」
出場はぼくが決めたんだから、と会長さんが微笑みました。
「明日のコンテストには君の未来がかかっているんだ。ぼくもエントリーしているけれど、理想は君が一位を取ること。そうすれば君が自分自身で自分の未来を決められる」
「…それはそうだが…。無理なんじゃないか? なんと言ってもアイツが出るしな」
「まあね。ブルーはノルディの扱いを心得ているし、強敵なのは間違いない。だからぼくが出場するのさ、君の未来も守れないようじゃ銀青の名が泣くだろう? …バニーちゃんの格好をした銀青なんて朋輩には絶対見せられないけど」
高僧の権威が地に落ちる、と苦笑しながらも会長さんは戦い抜く気でいるようです。会長さんがその気になればウインク一つでソルジャーを蹴落とし、見事一位を勝ち取れそう。ただ、問題はコンテストの実施方法で…。
「多分、ファッションショー形式でやるんじゃないかと思うんだけどね」
簡単だから、とは会長さんの読み。
「あの格好で診療所の待合室あたりを往復させて、ノルディが適当に採点する。見た目の評価か、立ち居振る舞いも含まれるのかは知らないけれど…どうせ好みが優先さ。ブルーがどんな手を使っても、ノルディの嗜好が入ってくればぼくには勝てる筈もない。…忌々しいけど、ノルディの好みはぼくの方」
ブルーはちょっと違うらしい、と肩を竦める会長さん。
「…なんだったかな、初々しさに欠けると言ってたかな? 恥じらいがないのが欠点らしいよ、デートした時に聞かされた。ぼくそっくりなのは評価するけど、中身が違うのは頂けない…って」
「そうかもな」
キース君が相槌を打ちました。
「確かにあいつは恥じらいがない。…ストリップだってやりかねないぞ、コンテストで」
「「「………」」」
えっと。それはちょっと遠慮したいです。コンテストなら正々堂々、バニーちゃん姿を競ってこそ。もっとも形式が分かりませんし、技術点だか芸術点だかが加算されるならストリップの披露もアリかもですが…。
「たとえブルーが脱いだとしても勝ってみせるよ、脱がずにね。…ノルディの本命はぼくなんだから、あの格好をしたってだけで高得点は間違いないんだ。恥ずかしいなんて言ってられない」
だから君たちも頑張って、と会長さんにエールを送られ、ジョミー君たちもやっと気合が入ったようです。キース君の未来のために身体を張るのも友情だ、とガッチリ手に手を重ねていますが、運命の日まで残り一日。キース君の健康診断が妙な方向に行っていること、検査を指示した先生方は全く知らないままなんでしょうね…。
そして土曜日。エロドクターが指定した時間は午後でした。私たちは会長さんのマンションで「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ってくれた豪華な昼食…ではなく、ヘルシーな美容薬膳料理。
「かみお~ん♪ もち米と雛鶏のサムゲタンだよ、美肌効果があるっていうし! ホントはハーレイのエステの方がいいんだろうけど、ブルーが呼んじゃダメだって…。なんで?」
首を傾げる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。コンテスト前に磨きをかけねば、と子供なりに考えたみたいです。けれど教頭先生のエステは今回はちょっと不向きなわけで…。
「これだけの人数がエステというのは怪しいじゃないか」
キース君が説明役を買って出ました。
「おまけにエステなんか興味無さそうな面子が揃ってるんだぜ? 教頭先生が不思議に思わないわけがない。コンテストのことがバレたら大変なんだぞ」
「えっ、どうして?」
「なんと言えばいいのかな…。ブルーが困るのは確かだな。…教頭先生がコンテストのことを知ったら、絶対、見たがるに決まってる。ブルーが出場しないんだったら興味は全く持たないだろうが、要するに、まあ…大人の世界の事情ってことだ」
「そうなんだ…。ハーレイ、いつもブルーに色々夢を見ているもんね」
納得したらしい「そるじゃぁ・ぶるぅ」はもうエステとは言いませんでした。代わりに教頭先生が出張エステ用に置いているというマッサージオイルやパックなんかをせっせと勧め始めましたが、そこまでする人がいる筈もなく…。
「行こうか、そろそろ時間だから」
会長さんの声を合図に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が力を合わせ、私たちは一気に瞬間移動。青い光に包まれて飛んだ先ではエロドクターが待っていました。
「ようこそ、時間どおりですね。それでは早速、こちらで着替えを…」
呼び出された場所は診療所でしたが、ドクターは自宅の方へと案内します。通されたのは立派な広間で、そこには紫のマントのソルジャーが…。
「やあ、来たね。コンテスト会場へようこそ。着替えはあっちに用意してあるよ」
ちゃんと名札が添えてあるから、と奥の扉を指差すソルジャー。
「あ、ぶるぅと女の子たちはここで待とうね。…さあ、早く」
「…君は?」
促すだけで動こうとしないソルジャーに向かって会長さんが尋ねました。
「いいんだよ、ぼくは。…審査員だし」
「「「審査員!?」」」
なんですか、それは? 出場者兼審査員なんてアリですか? これはとってもヤバイかもです。会長さんが頑張ったって不正をされては勝てません。キース君の未来は真っ暗かも…。ソルジャーはクスクスと笑い、エロドクターと目配せをして。
「ぼくもコンテストに一枚噛むとは言ったけれども、出場するとは言わなかったよ? 君が勝手に勘違いして勝手に出るって決めたんだろう? だから衣装を用意した。さっさと着替えて一位を目指してくれたまえ。…ねえ、ノルディ?」
「ええ、私も実に楽しみですよ。ハーレイがヘタレ直しをしたくなるほど魅惑的な姿なのでしょう? 私は妄想の世界から出てこられないハーレイなどとは違います。この目で拝んで是非とも一位を差し上げたい。…例の人形は脅威なのですが、トロフィーにしても後悔しません」
会長さんは硬直していました。ソルジャーに騙されてバニーちゃんコンテストに出場だなんて悲劇です。けれど出場しなかったなら一位はソルジャーに掻っ攫われて…って、何か変? ソルジャーは出場しないと言っていました。一位が取れるのは出場者だけじゃないのでしょうか?
「……ブルー……」
我に返ったらしい会長さんが地を這うように低い声で。
「…ぼくが着替える必要なんかは全くないと思うんだけど? 君が出ないならキースたちだけで競えばいいし、誰が一位になったとしてもキースの未来は安泰なんじゃあ…?」
「……ばれちゃったか」
「ばれましたか…」
残念です、と悔しそうな顔のエロドクター。
「…あわよくばと思っていたのですがねえ…。如何です、ブルー? 衣装は用意してあるのですし、コンテストはともかく着てみるだけでも」
「遠慮する!」
会長さんはバッサリ切り捨て、ジョミー君たちに。
「…どうやらそういうわけらしい。ブルーはコンテストに出てこないから、ぼくが出て行く必要も無い。一位は君たちで競いたまえ。あ、出来ればキースに花を持たせてやるのがいいね」
さあ早く、と背中を叩かれたジョミー君たちは奥の部屋へ入って行きました。閉まった扉が開いた時がコンテストの始まりになるのでしょうか? 会長さんはボディーガードだったサム君の代わりにスウェナちゃんと私を両脇に立たせ、しっかりと手を握っています。「両手に花だよ」と微笑んでますけど、明らかにドクター除けですよね…。
バニーちゃんになったジョミー君たちが登場したのは暫く経ってからでした。お揃いの白いウサギの耳と尻尾に黒いレオタード、蝶ネクタイ。足にはもちろんハイヒールです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋のお披露目でキース君がやった時には爆笑しちゃった姿ですけど、今の私とスウェナちゃんには笑う余裕などありません。
「ほほう…。素晴らしいではありませんか」
エロドクターがゴクリと唾を飲み込みました。
「まりぃの採寸は流石ですね。身体のラインが綺麗に出て…。さて、誰が一番美味でしょう?」
「食べられないよ? 鑑賞用って言っただろう」
釘を刺したのはソルジャーでした。
「万年十八歳未満お断りの団体様だし、食べるの厳禁。でも鑑賞だけなら問題ないからコンテスト開催といこうじゃないか」
「そうでしたね。では、皆さんにはホストとしての腕を競って頂きましょうか。そちらのテーブルに飲み物とグラスが置いてあります。審査員に如何に上手に勧めるか…。満足のゆくサービスを受けたと思った場合は胸にチップを挟みますから」
これですよ、と模造紙幣を示すドクター。
「私とブルーが審査員です。コンテストは今から一時間。チップを一番多く貰った人が勝者なのですが、苦情は一切お断りですよ。不快そうな顔や苦情はペナルティーとしてカウントします。ペナルティーは一回につきチップ一枚分ですからね」
「今のでルールは分かったよね? コンテスト開始!」
ソルジャーの号令でコンテストが始まり、会長さんは私たちと「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れて壁際の椅子に避難しました。エロドクターがやって来るのを恐れて取った行動ですが、そのドクターはソルジャーを傍らに置いてご満悦。ソルジャーの正装をしている辺りがそそられるのかもしれません。
「どうです、ブルー? キースは実に手慣れてますねえ」
「そりゃそうだろう、経験者だよ? 丸一日もホストをしたんだ、スマイルも板についてるさ」
チップをはずんであげなくちゃ、と胸元に紙幣を押し込むソルジャー。エロドクターもチップを挟み込みながら、ソルジャーに。
「…この様子ではキースの一人勝ちですね。他のウサギも可愛いのですが、全く寄って来ませんし…。ところでハーレイのヘタレ直しについてお尋ねしたい。修行を始めたというのは本当ですか?」
「まだこだわっているのかい? 仮に修行をしていたとしても、あのハーレイがブルーをモノに出来るとでも? ぼくの見立てじゃ君に大いに分があるよ。経験値が違い過ぎるから。…おっと、ありがとう、キース」
キース君が差し出したグラスを受け取ったソルジャーが再びチップ。エロドクターはキース君の尻尾を触ってみたりお尻を撫でたりしていますけど、キース君は忍の一字で耐えていました。こんな調子でコンテストは過ぎ、一位は当然キース君で…。
「キースに花を持たせすぎだよ。…いいけどね、セクハラは全員苦手ってことで」
ソルジャーが軽く溜息をついて元の服に戻ったキース君たちを見渡しました。
「でもさ、ブルーが出てたらどうなったかな? あるいはぼくが出場するとか…。こんな風にさ」
青い光がソルジャーを包み、次の瞬間、そこにいたのはバニーちゃん。白いウサギ耳に黒のレオタード、ハイヒールを履いたソルジャーは…。
「うん、思った通りぴったりだ。ブルーとサイズが同じだもんね、ありがたく貰って行くことにしよう」
「お待ち下さい! その前に撮影会のお約束が」
このウサギどもは放っておいて、とドクターが鼻の下を伸ばしています。もしかして会長さんサイズのバニーちゃん服が作られたのは…あわよくばとか聞こえましたし、最初からソルジャー用のヤツだったとか…?
「そうなんだよね」
誰の思考が零れていたのか、ドクターと一緒に立ち去りかけていたソルジャーがこちらを振り向きました。
「この服、ぼくには似合いそうにないと思っていたし、別に欲しくもなかったけどさ。…あれから色々考えたんだ。最近ちょっとマンネリ気味で…。そういう時には気分転換!」
「「「気分転換?」」」
「うん。ハーレイにサービスしようかな、って。スマイルもいいけど、まずは写真のモデルをしながらノルディにアドバイスをして貰おうかと」
ちょ、ちょっと…。写真撮影はともかくとして、キース君の健康診断は? 例のドクター人形は? 固まっている私たちの中からキース君がダッと飛び出して。
「おいっ、俺の健康診断の結果はどうなった! それとトロフィーをさっさと寄越せ!」
流石はキース君、自分の未来がかかっているだけに立ち直るのも早かったようです。ドクターとソルジャーは顔を見合わせてククッと笑うと…。
「あなたの健康診断ですか? 努力に免じて異常なしと報告しておきますとも、本当に異常は無かったですしね。それに身体も魅力的でした。…いつか万年十八歳未満を返上なさる時が来たなら、ぜひお手合わせ願いたい」
「人形だったらブルーの家の元あった場所に返しといたよ。ブルーは来年の健康診断の日まで在り処を忘れる仕組みらしいし、コッソリ借りても分からないよね。…ノルディ、その内にぼくと人形遊びをしないかい?」
ハーレイじゃノリが悪くって、と誘いをかけるソルジャーの肩をドクターがしっかり抱き寄せました。
「人形遊びとは素敵ですね。期待してお待ちしておりますよ。…では撮影に参りましょうか」
その靴で踏んで下さると嬉しいのですが、と変態じみたことを囁きながらエロドクターはソルジャーを連れて奥へと消えてゆきます。呆然と見送る私たちの沈黙をブチ破ったのはキース君でした。
「この野郎、よくも馬鹿にしてくれやがったな! 今日のコンテストと俺へのセクハラ、きっちりツケにしておいてやる! 来年のブルーの健康診断は…」
キース君がそこまで叫んだ時。
『おっと、忘れ物。君たち全員にプレゼントだってさ、ノルディから』
ソルジャーの思念と共に青い光がパァッと走り、男の子たちの頭にチョンと乗っかるウサギ耳。いえ、それだけではありません。服の方までバニーちゃんに…って、みんなの服は? 元の服は?
『ブルーの家に届けておいたよ、だけど瞬間移動は禁止。自分の足で歩いて走って、服を取り戻しに行きたまえ。他人の目には元の服を着ているように見せかけておいてあげるから』
ブルーの得意技だよね、と一方的に伝え終わると思念は途切れ、追いかけようとした会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」もシールドに阻まれ、ソルジャーとエロドクターは撮影会を始めた模様。えっと…ジョミー君にキース君、マツカ君、シロエ君、それにサム君。五人のバニーちゃんと連れ立って歩いて会長さんの家まで行けと? あ、タクシーって手もあるか…。
「うわっ、財布がないっ!」
ポケットを探った会長さんが悲鳴を上げて「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「ぼくもお財布持ってないよう…。家にサイオンが届かないんだけど、みゆとスウェナは財布、持ってる?」
「「………」」
私たちの財布も消えていました。何処へ、と聞くまでもありません。五人のバニーちゃんと一緒に会長さんの家まで歩くんですか…。なんとも泣ける光景ですけど諦めるしかないでしょう。悄然とドクターの家の門を出てきた所でソルジャーの思念が届きました。
『そういう時は歌うといいよ、気分が明るくなるからさ。キースの未来も開けたことだし、景気よく歌とスキップだよね』
そんな間抜けな行列なんて! と思いましたが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」を忘れていました。無邪気な子供は歌も大好き。「ウサギのダンス~♪」と元気に歌って跳ねてゆきます。サイオニック・ドリーム、まさか解けたりしないでしょうね? キース君の前途を祝するウサギの行列、無事にお家に着けますように…。ソルジャー、キース君たちを陥れてまで念願の衣装を手に入れたんなら、きちんとフォローをお願いします~!