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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

君と代わる日  第2話

エロドクター…いえ、ドクター・ノルディの家から逃げ帰った後、会長さんはソルジャーに散々苦情を言ったのですが、馬耳東風というヤツでした。ソルジャーはシールドを解いたことやドクターと接触したことを悪いとはちっとも思っていなくて、ただの悪戯だと笑うのです。会長さんは自分も悪戯大好きなだけに、諦めたように溜息をついて。
「ぶるぅ、お茶はそろそろ終わりにしようか。晩御飯に差し支えそうだしね」
「うん。じゃあ、残ったお菓子は…。持って帰りたい人、手を挙げて!」
一番に手を挙げたのは甘いもの好きのソルジャーでした。ソルジャーが帰ってゆく先はシャングリラ号で、船の外は敵ばかりという危険な世界。私たちのように気軽にお菓子を買いに行くわけにはいきません。そんなソルジャーがお持ち帰りを希望だったら、私たちは遠慮すべきでしょう。
「あれ?…ぼくだけ?」
「みんな遠慮しているんだよ。君に譲ってあげたいって。ぶるぅ、日持ちは大丈夫かい?」
「えっと…。作りたてだし、冷蔵庫に入れてくれれば3日は十分」
キッチンから取ってきた箱に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手際よくケーキを詰めてゆきます。ソルジャーは嬉しそうにケーキの数を数えながら。
「ぼく一人だったら3日分ほどありそうだけど、ぶるぅが待っているからね…。今日の夜食で終わりじゃないかな。
ぶるぅに箱を渡したら最後、一瞬で消えてしまうと思うよ」
えぇっ、こんなに沢山あっても!?…譲ることにしてよかったです。やがてテーブルの上が片付き、飲み物だけになったところで…。
「ブルー、さっきのデータだけども」
ソルジャーが思い出したように言い、会長さんはムッとした顔で。
「ぼくのデータがどうしたって?…ノルディの話ならお断りだからね」
「…やだなあ、何もなかったんだし、怒らなくてもいいじゃないか。悪戯だって言ってるだろう、ちょっと挨拶しただけだよ。…それより、ぼくと君との違いについて」
「………。どこか違ってた?」
目を丸くする会長さんにソルジャーが顔を近付け、耳にフッと息を吹きかけるなり、耳朶を甘く噛みました。
「「「!!!」」」
私たちもビックリですが、飛び上がらんばかりに驚いたのは会長さんで。
「ブルー!!」
噛まれた耳を両手で押さえ、肩が小さく震えています。
「ごめん、ごめん。…びっくりした?」
「き…気持ち悪いなんてもんじゃなくて!!」
「そっか。…やっぱり違うんだ」
ソルジャーは納得した様子で頷き、補聴器だという装置に覆われた自分の耳を指差して。
「ぼくと君との明らかな違いは耳だけだった。君の聴力は普通だけれど、ぼくは補聴器が無いとサイオンで補う必要がある。それ以外には特に違いは無かったんだよね」
「だからって何も噛み付かなくても…!」
「そこも違うと思うんだ。君は寒気を感じたみたいだけれど、ぼくなら逆に気持ち良くなる。耳が弱いって言っただろう?…それがノルディにバレちゃった、って」
言われてみればそんな話もありましたっけ。何処から見てもそっくりですけど、二人の違いは耳でしたか…。

それからは色々な話題に花が咲き、耳の話もエロドクターも何処かへすっかり消えてしまって。
「今夜は手巻き寿司パーティーだよ!」
元気一杯に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が宣言すると、ソルジャーは「服を借りるね」と会長さんと一緒に寝室の方へ。「服って…。なんで?」
首を傾げる私たちに「そるじゃぁ・ぶるぅ」がニコッと笑って。
「ほら、見て。ぼくの服、あっちのブルーとおんなじだよ。ここ、ここ」
はい、と差し出されたのは小さな両手。えっと…何か問題が…?
「分からない?…じゃあ、こう。こうするとブルーと同じになるんだ」
「「「手袋!?」」」
「うん。ぼくは邪魔だから普段ははめてないけど、ブルーはいつもはめてるんだって。きっとソルジャーやってるからだね。この服、防御力が抜群だもの」
耐熱性もあるんだから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は胸を張りました。
「生地は薄いし、はめたままでも食事はできるよ。さっきはブルーもはめてたでしょ?…でもね、手巻き寿司だと素手で食べた方が美味しいし!ブルー、そういう食事の時はブルーの服を借りるんだ。手袋だけ外すっていうのは落ち着かないって前に言ってた」
「…ソルジャーだから…だよね…」
ジョミー君が呟き、私たちの脳裏にソルジャーが生きている世界の情報が鮮明に蘇ります。ソルジャーは文字通りの戦士で、何かあった時は戦うために飛び出さなくてはいけないわけで…。ずっと手袋をはめたままだと知らされたことで、厳しい日常の一端を垣間見たような気がしました。
「…悪戯くらいは大目に見るか…」
キース君の言葉に揃って頷く私たち。こちらの世界に来ている間はソルジャーは戦士なんかではなく、会長さんのそっくりさんです。羽を伸ばした結果が悪戯ならば、目をつぶるべきかもしれません。ソルジャーの悪戯に巻き込まれたって命に関わるわけじゃないですけれど、ソルジャーの世界では毎日が死に繋がる危険と隣り合わせで…。
「…みんな、深刻な顔してどうしたんだい?」
「えっ!?…え、えっと…」
リビングに入ってきたのは二人の会長さんでした。ソルジャーは補聴器まで外してしまったみたいです。シャツのデザインが少し違いますから、今の質問をしたのはソルジャー…?
「当たり。ふぅん、悪戯を大目に見てくれるんだ?」
何をしようかな、と言うソルジャーの肩を会長さんがグイと引っ張って。
「ぼくがいるのを忘れちゃ困るな。…何かやらかしたら、それなりのことはするからね」
「そう?…ぼくの方が圧倒的に強いような気がするけれど。たとえばコレとか」
「!!!」
耳元に息を吹きかけられて、ウッとのけぞる会長さん。ソルジャーはクスクス笑うと会長さんの身体を上から下まで眺め回して…。
「ホント、どうしてこんなに違うんだろう。データを見ただけに余計分からなくなっちゃった。聴力の差ってそんなに大きいものなんだろうか?」
「ぼくに分かるわけないだろう!」
「ごめん、そんなに気持ち悪かったなんて、ぼくには全然分からないから」
耳を押さえる会長さんをソルジャーが楽しそうに見ています。とりあえず会長さんに悪戯している分には、私たちには対岸の火事。ダイニングに行って「そるじゃぁ・ぶるぅ」と一緒に手巻き寿司の具でも並べましょうか。

大きなテーブルに寿司飯の桶や新鮮な具が揃った景色は壮観でした。海の幸が大好きなソルジャーのために「そるじゃぁ・ぶるぅ」が魚市場まで買い付けに行ったらしいです。会長さんとソルジャーが隣り合って席につき、私たちもテーブルを囲んで両手を合わせて「いただきまーす!」。ソルジャーは馴れた手つきで具をクルッと巻いては次々と口に運びながら。
「やっぱりテラって凄いよね。こんなに沢山の貝や魚は、ぼくの世界じゃ一部の人しか口にできないと思うんだ。それに…ぼくたちのテラは一度は汚染されてしまった星だし、テラに行っても魚の種類は多くないかも」
「でも養殖はしてるんだろう?…テラの海がどうかは知らないけれど、他の星では」
会長さんが尋ねると、ソルジャーは「うん」と頷いて。
「ぼくたちの船が隠れているアルテメシアでも養殖してる。シャングリラでも養殖しているけども、種類はとても少ないし…手巻き寿司なんて絶対無理。だから此処へ来て初めて食べた。…この世界で最初に食べさせて貰った食事もお寿司だったっけ。生の魚なんて、って驚いたけど、とっても美味しかったんだ」
どうやらソルジャーはお寿司が好物らしいです。それで手巻き寿司パーティーになったんでしょう。アフタヌーンティー・パーティーといい、会長さんはドルフィン・ウェディングの記念写真やブーケの額を披露するのに気合いを入れていたようですが、ソルジャー、そんなに見たかったのかな…。
「ああ、記念写真とブーケのこと?」
またまた思考が漏れたようです。ソルジャーはお寿司を巻く手を休めないまま、微笑んで。
「興味が無かったといえば嘘になるね。ぼくたちの船にも結婚している人はいるけど、ささやかな式しか挙げられないんだ。ブルーが派手にやったと聞いたら気になるだろう?…もしかしたら、ぼくもこっちの世界で挙式できるかもしれないじゃないか」
「「「えぇぇっ!?」」」
いったい誰と、と仰天しまくる私たち。まさか…まさか会長さんを花嫁に?
「なんでブルーが出てくるのさ。ぼくが結婚するって言ったらハーレイの他にいないだろうに」
でもハーレイが渋るんだ、とソルジャーは溜息をつきました。
「ハーレイはぼくとの仲を秘密にしたいらしくてさ。長老のみんなは知っているのに、それでも隠しておきたいらしい。だから、こっちの世界でこっそり結婚しようかなぁ、って。…ハーレイには駄目って言われそうだけど。あーあ、ブルーが羨ましいな。婚約指輪も貰ったんだよね」
「あれはハーレイが思い込みで…!突き返しちゃってそのままだし…」
「買ってくれたのは事実だろう?…そんなに一途に思われてるのに、結婚どころか身体も許してないなんて…ぼくには全く理解不可能」
本当に何処が違うんだろう、と呟きながら手巻き寿司を食べていたソルジャーですが…。
「そうだ、環境が違うせいなのかも!ぼくたちの生活を取り換えてみたら、君もハーレイの想いに応えようって気になるかもしれない。…ぼくの代わりに今夜シャングリラに帰ってみる?」
「えぇっ!?」
瞳を見開く会長さん。ソルジャーはいいことを思い付いたとばかりに畳み掛けました。
「明日の夜はハーレイがぼくの機嫌を取りに来る予定なんだよね。ぼくの代わりに今夜から行って、明日の昼間はソルジャーをやって…夜はハーレイと過ごすんだ。日曜日には帰ってこれるし、いい計画だと思うけど」
「ちょっ…。ちょっと待って!ソルジャーはともかく、ハーレイって?」
「機嫌を取りに来るって言ったじゃないか。仲好くベッドで過ごすんだよ。…ぼくじゃないって気付くだろうけど、大丈夫。ハーレイは君のことをよく知ってるし、初めてだって言えばちゃんと優しく扱う筈だ」
「…………!!!」
あまりにも凄すぎるソルジャーの案に会長さんは茫然自失。けれどソルジャーはノリノリでした。
「うん、入れ替わってみるっていうのもいいね。前からちょっと考えてたんだ」
ぼくも生徒をやってみたいし、なんて面白そうに言ってますけど、そんなこと本当に出来るんですか!?

「ねえ、ブルー。ぼくと入れ替わってみないかい?…今夜なら上手くいくと思うよ。ぼくの代わりに君が帰ればいいんだからさ」
何の予定も入れていないし、とソルジャーが会長さんに笑いかけます。
「出かけてた間のことはハーレイが定時報告に来るから、それで分かる。ソルジャーとして必要な知識はぼくの記憶をコピーすればいいし、完璧だよね。きっとハーレイも明日の夜まで入れ替わってるとは気が付かないよ、君がドジさえ踏まなければ」
「……明日の夜って……」
「そう、ベッドに君を訪ねて来るまで気付かないってこと。ふふ、楽しそうだと思わないかい?…ぼくはこっちの世界でシャングリラ学園の生徒会長として休日を過ごす。みんなで遊びに行くのもいいね。君はハーレイに色々教えてもらうといいよ、どこが一番気持ちいいか…とかさ」
「要らないってば!」
会長さんが叫びました。
「そんなことなんて知りたくもないし、第一、ぼくにソルジャーなんて絶対無理だし!!」
「…………。そうなんだよね。残念だけど、君にぼくの代わりは務まらない」
分かってるよ、とソルジャーはキュッと拳を握り締めて。
「ぼくと君とはそっくりだけど、住んでる世界がまるで違う。君には人は殺せないだろ?…ぼくはそうしなきゃ生きてこられなかった」
「あ……」
会長さんがハッと口を押さえ、私たちも身体を強張らせました。ソルジャーの過去は知ってますけど、改めて言葉にされると重みがまるで違います。明るく笑っているソルジャーの姿を見慣れてしまって、いつの間にか忘れてしまっていたこと。ソルジャーは…いつも手袋を外さないというソルジャーの手は…。
「ぼくの手は人を殺したことがある。過去だけじゃなく、これからも…きっと。ミュウが発見され、救出に向かった者が上手く逃げ切れなければ…ぼくが出るしかないんだよ。ブルー、君には出来ないだろう?…ぼくの代わりに人殺しは」
「…………」
言葉を失った会長さんの肩をソルジャーがそっと叩きました。
「自分を責める必要はないさ。だって本当のことだから。…君にぼくの代わりは出来ない。ぼくもさせたいとは思わない。シャングリラを沈められたくはないからね」
「……ブルー……」
「なんて顔をしてるんだい?人には向き不向きってのがあるんだよ。君は戦いに向いてない。君にぼくの代わりをさせてる時に戦闘が起こってしまったら…ぼくが駆け付ける前にシャングリラが沈んでしまいそうだ。そんなリスクが伴う以上、入れ替われないって分かってる」
「……ごめん……」
俯いてしまった会長さん。けれどソルジャーはクスッと笑って。
「ごめんって言ってくれるんだ。…じゃあ、ソルジャーでない時のぼくと代わってみる?新しいミュウは成人検査が引き金になって発見されるケースが大半でね。それ以外のケースは滅多にないし、成人検査は昼間のもの。…つまり夜の間はかなり安全と言えるんだ。ソルジャーの出番は殆ど無い」
「………?」
「夜の間だけ入れ替わらないか、って言ってるんだよ。明日の晩はハーレイと過ごすつもりだったし、その時にでも…。君がハーレイの魅力に気付く絶好のチャンスじゃないかと思うんだけど」
ね?と艶やかな笑みを浮かべるソルジャー。
「ぼくのハーレイは素敵なんだ。淫乱ドクターなんかよりもっと熱く激しく酔わせてくれる。一度味わえば君も変わるさ。…そして君のハーレイが大いに喜ぶ。いくらヘタレでも君に本気で求められれば、応えようと努力するだろう。絵に描いたようなハッピーエンド」
「…ぼくが…君のハーレイと…?」
「うん。ぼくは気にしないし、これで君がハーレイとの愛に目覚めてくれれば嬉しいし。ねえ、入れ替わってみようよ、ブルー。ソルジャーをやれなんて言わないからさ、明日の夜だけ…ぼくと寝室を取り換えるんだ」
いいことを思い付いた、とばかりにソルジャーはとても御機嫌です。
「なぜ君がハーレイの想いに応えないのか、っていう話から環境のせいかもってことになった。でも生活は取り換えられないし…ベッドを取り換えてみたらどうだろう。ブルー、ぼくのハーレイと寝てごらんよ」
ひぇぇぇ!…私たちは完全に目が点になってしまっていました。会長さんは上手く切り抜けられるのでしょうか?それともソルジャーに言いくるめられて、あちらの世界のシャングリラ号へ…?

ソルジャーの爆弾発言で中断した手巻き寿司パーティーですが、大人の話はサッパリ分からない「そるじゃぁ・ぶるぅ」が「みんな、どうして食べないの?」と尋ねるとソルジャーが「なんでもないよ」と微笑んで食べ始め、私たちも会長さんの様子を窺いながら食事再開。会長さんは心もとない手つきでお寿司を巻いていますけど…。
「……ブルー……」
しばらくしてからソルジャーに声をかけたのはサム君でした。
「ん?…ぼくに用なのかい?君のブルーの方じゃなくて?」
「…あのさ…。ブルーと入れ替わるっていうの、ブルーに無理強いしないでくれよ。ブルー、そういう趣味は無いんだ。だからさ…逆にあんたがブルーの生活をしてみるっていうのはどうかなぁ、って。生徒をやってみたいって言ってたし」
「ふうん…。流石はブルーの恋人候補と言うべきかな。ブルーを守ってあげたいわけだ」
サム君は真っ赤になって頷いて。
「ソルジャーの役目が重いのは俺にだって分かるけど…今日みたいに時間は取れるんだろう?抜け出して来て生徒をやりたいんなら、俺、フォローする!その代わり、ブルーと無理に入れ替わるのはやめてほしいんだ」
「うーん…。だけど、それだとブルーはハーレイの気持ちをいつまで経っても…」
「いいじゃないか。その件はまた別の機会にってことで」
援護射撃に出たのはキース君。
「さっきの話を無しにするなら、あんたがブルーと入れ替わって生徒をやるのを手伝おう。まぁ、ブルーは生徒会長のくせに殆ど何もしてはいないし、一学期ももう終わりだし…入れ替わってもあまり旨味は無いが」
「ぼくがブルーの代わりに生徒を?…ブルーは閉じ込めておくのかい?」
「あんたの代わりにソルジャーとして使えない以上、そうなるな。ぶるぅの部屋か、この家に引きこもらせておけば問題ないさ。あんた、期末試験で入れ替わってみたら俺たちのクラスのヒーローになれるぜ」
女の子にもモテるしな、とキース君は親指を立ててみせました。
「ヒーロー?…なんだい、それは」
「ああ、ブルーから聞いていないのか。ブルーは成績抜群だから、試験の度に俺たちのクラスに仲間入りして、正解をサイオンで教えてくれることになっているんだ。ぶるぅの御利益だと思われているが、ぶるぅの力を借りられるヤツはブルーの他にいないだろう?」
「それで?」
興味を示したソルジャーに、私たちは1年A組が中間試験で学年1位の座に輝いたことを一所懸命に説明しました。担任のグレイブ先生が1位がお好きで、クラスメイトは期末試験でも会長さんをアテにしているということを。
「なるほどね。ぼくが期末試験とやらにブルーの代わりに出席すれば、ブルーの学生生活の美味しい部分を試食できるっていうわけか。…それはとっても面白そうだ」
「だろ?」
サム君がここぞとばかりに身を乗り出して。
「試験問題の答えはサイオンでブルーに聞いてもいいし、先にブルーの知識をコピーしといてもらってもいいし。ブルーと一晩入れ替わるよりずっと楽しいに決まってるぜ!」
「…確かに…。明日の晩ブルーと入れ替わったら、ぼくは寂しく一人寝だ。こっちのハーレイはてんでダメだし、サムも抱いてはくれないんだろう?」
「…俺!?」
耳まで真っ赤に染まったサム君はクタッと椅子の背に倒れかかりました。
「あ、おいっ、サム!?」
隣だったキース君が慌てて支え、サム君の頬をピタピタと軽く叩いてみて。
「…魂が抜けたみたいだな。ちょっと刺激が強すぎたらしい。なんといっても、あんたもブルーだ」
「同じ顔だものね。…もしかしてブルーと入れ替わって試験に出たら、こっちのハーレイにも会えるのかな?」
ソルジャーの問いに顔を見合わせる私たち。定期試験といえば終了後の打ち上げパーティーが付き物です。そのパーティーに使うお金はいつの間にやら、教頭先生のポケットマネーと決まっているんでしたっけ…。

「じゃあ、最終日ならハーレイ…いや、教頭先生に直接会えるってことか」
期末試験や打ち上げのことを全て聞き出したソルジャーは満足そうに微笑みました。
「嫌がるブルーをぼくのベッドに送り込むより、ぼくがこっちに来るのが早いね。試験を受けて、生徒気分を味わって…それからハーレイを口説きに行こう。もちろんブルーのふりをして」
「ブルー!?」
会長さんが青ざめましたが、ソルジャーはクッと喉を鳴らすと。
「不満だったら、最初に立てた予定どおりでいいんだよ。明日の夜、ぼくのベッドで寝てみるかい?…君の得意なサイオニック・ドリームがハーレイに効かないようにするのは簡単だ。ついでにベッドから逃げる方法を奪うのもね。ぼくと同じ力を持ってる君なら、ハッタリじゃないって分かるだろう?」
「…そ…それは……」
「ほら、顔色が悪くなった。ぼくのハーレイに抱かれたくなければ、ぼくが君のハーレイを口説くくらい許してくれないと。…で、ぼくは君の代わりに試験を受けてもいいのかな?全部の日はとても出られないから、最終日だけで構わないけど」
にこやかな笑みと裏腹に、えげつない脅しをかけるソルジャー。会長さんの答えは決まったようなものでした。
「分かった。期末試験の最終日に、君とぼくとが入れ替わる。…ぼくはぶるぅの部屋から出ずに、サイオンで君をサポートしよう。交友関係と試験のフォロー。それでいいかい?」
「教頭室へ打ち上げパーティーの資金を貰いに行くのと、パーティー参加も許可してほしいな。でないと明日の夜、強制的にぼくとベッドを代わって貰うよ」
「…パーティー参加もぼくの代わりに?」
「ううん、そっちは君も一緒に。同じ顔がいても目立たない所でパーティーしよう」
ソルジャーの言葉を聞いた「そるじゃぁ・ぶるぅ」がパァッと顔を輝かせました。
「ブルーが二人いても大丈夫なお店だね!任せてよ、個室の予約を入れておくから!」
「頼もしいね。ぶるぅ、君が予約係をしてるのかい?」
「うん!えっと、えっと…ブルー、何が食べたい?あのね、色々お店があるんだ」
大人の話がまるで分からなかった「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、理解できる話になったのが嬉しいらしくてグルメ談義を始めました。こうなったら私たちも話に乗るしかありません。ソルジャーの御機嫌を損ねてしまえば、会長さんはソルジャーの世界に送り込まれて、あちらの世界のキャプテンに…。手巻き寿司パーティーが終わってソルジャーが帰り支度を整えるまで、とてつもなく長い時間が流れたような気がします。
「今日は御馳走様。…期末試験でまた会おうね」
元の衣装に着替え、お土産のケーキの箱を持ったソルジャーがフッと姿を消すと、私たちは深い溜息を吐き出しました。ソルジャーときたら、ほんの数時間の間にエロドクターにちょっかいをかけに行ったり、会長さんと入れ替わろうと企んでみたり…。そんな人が期末試験の最終日に会長さんの代わりをするのです。期末試験は5日間ですし、最終日まではまだ1週間もありますが…今から神頼みして間に合うかな?どうか何事も起こりませんように…。




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